第128話 リゲル 1
聖騎士会
コールソン・オール 聖騎士会、会長
ヴィーヴィー・ガーグ 聖騎士会、副会長
ロイヤルフラッシュ 英雄五傑、聖騎士長
ニルヴァー・ローリス 聖騎士会、副聖騎士長
ルドラ・サリュー 聖騎士会、1番隊の隊長
クワイエット・モンタナ 聖騎士会、1番隊副隊長
リゲル・ホルン 聖騎士会、1番隊
ジキット・ローレンス 聖騎士会、1番隊
バッハ・フォルテア 聖騎士会、1番隊
シューベル・ジュイン 聖騎士会、1番隊
トーマス・スタン 聖騎士会、1番隊
カイ・ラーズ 聖騎士会、1番隊
・・・・・・・・・・・
リゲルとクワイエットはアカツキ達と別れた後、グリンピア北地区にある多目的施設に向かった
小雪がちらつき、白い息を吐きながら向かう建物は2階建て
ここでは街の集会やイベント会場としてよく使われる施設であり、夜は1階会議室を聖騎士会が貸しきっている
二人は建物の入口で見張る一人の男を見つけると、リゲルが声をかけた
『ジキットか、監視なんていらねぇだろ…怪しまれるぞ』
大きめのドアの前で立つ男の名はジキット
彼はリゲルとクワイエットからもその強さを認められている男であり、二人より1つ年下である
聖騎士の格好をした彼は苦笑いを顔に浮かべると、頭を掻きながら答えた
『お疲れ様です。ですがルドラ隊長が二人が来るまで待ってろと』
『怒ってる?』
リゲルは彼に聞いた
『相当』とジキットは答えると、クワイエットは溜め息を漏らした
『でも勝手に動いたのあっちなんだけどなぁ』
『まぁクワイエット副隊長とリゲルさんには当たらないと思いますよ。多分』
ジキットは『入りましょう』と告げ、クワイエットとリゲルは建物内に入る
二人が案内された会議室には大きな丸いテーブルがあり、それを囲むようにして椅子が配置されている
天井に埋め込まれた魔石からは適度な光が放たれ、部屋を明るく照らす
その場にいたのは聖騎士でも精鋭と呼ばれる1番隊全て
ルドラ・サリュー 聖騎士会、1番隊の隊長
クワイエット・モンタナ 聖騎士会、1番隊副隊長
リゲル・ホルン 聖騎士会、1番隊
ジキット・ローレンス 聖騎士会、1番隊
バッハ・フォルテア 聖騎士会、1番隊
シューベル・ジュイン 聖騎士会、1番隊
トーマス・スタン 聖騎士会、1番隊
カイ・ラーズ 聖騎士会、1番隊
以上がマグナ国でも戦いに特化した者が集まると言われる聖騎士会の1番隊メンバーであり、リゲルとクワイエットが来たとこで揃ったのだ
部屋に入った途端、全員の視線を二人は感じた
特にルドラ隊長の目だけは痛く刺さるなと思いながらも二人はジキットと共に空いている席に座る
何故集まったか
グリンピアを襲った魔物の群れの元凶である獣王ヴィンメイの足取り調査である
ロイヤルフラッシュ聖騎士長の指示により、くまなく調査するように言われたのだ
『遅いぞ』
ルドラは目を細め、席に座るリゲルとクワイエットに向かって低い口調で言い放つ
しかし、二人は抵抗を見せずに『すいません』と一言
(怒ってるなぁ)
クワイエットはチラチラとルドラ隊長に目を向けると、リゲルに視線を移す
彼は悪びれる様子もなく、腕を組んで深く椅子にもたれかかった
緊張感のないリゲルにルドラ隊長は溜め息を漏らすと、本題を口にした
『任務だ。北の森から押し寄せた魔物の群れのリーダー各がいるとロイヤルフラッシュ聖騎士長から聞いた』
(知ってるよ)
リゲルはそう思いながらもルドラの話を淡々と聞く
やることは北の森で起きた魔物の群れのリーダー各が現れたであろう場所まで向かい、その足取りを追うこと
勿論、内容の中ではグリンピアにいたリゲルとクワイエットが遭遇した為、そこまで二人が案内すること
そこからは調査隊と共にどこに逃げたかの調査であった
まだ森にいるのかいないか、最低でもそこまで調べる必要がある
『調査団は明日に合流、もしターゲットがいたとしても戦闘は避けろとロイヤルフラッシュ聖騎士長から言われている』
ルドラがそこまで説明すると、腕を組んでから溜め息を漏らす
とある二人を除いては誰もが険しい顔をしており、その任務の重要さを理解していた
1番隊全ての動員は滅多な事がない限り無いからだ
『獅子の化け物ですか』
トーマスが独り言のように囁く
しかし、それに反応する者は誰もいない
ある程度の情報はロイヤルフラッシュ聖騎士長から聞いているため、感情的な討論を誰もするつもりが無いからだ
それだけじゃない、この場の空気が重い
トーマスはそれに気づくと、やってしまったかと思いながら視線を下に向けた
『どんな戦いをするかは既に聞いている。だが俺達の目的は戦う事じゃないのを忘れるな』
ルドラが頬杖をつき、目を細めながら口を開く
全員がそれに頷くと、クワイエットは話を変えた
『2日間、ですよね』
『そうだ、森の中での野宿となるが慣れているだろう?』
『えぇまあ』
ルドラの問いにクワイエットは軽く答える
リゲルはその間、重たい空気に居心地の悪さを覚える
何故こんなに空気が重いのかと
(ピリピリ感があるが、俺達のせいか?)
彼は考えた
この空気を出しているのは明らかにルドラ小隊長であり、誰もがそれを感じて私語に近い言葉を口にに出来ない
以前、アカツキ捕獲という身勝手な作戦の補助をしなかったからなのかと思うと、彼は溜息しか出ない
(ロイヤルフラッシュさんにこってり絞られたか?)
そう思いながらも彼は静かな場が嫌で口を開く
リゲル
『ここの街にあるバラ焼き専門店が美味いって話ですよ』
彼は偶然にもアカツキ達が今日行く予定の店を口にする
アカツキが今日行くとも知らずにだ
しかし、周りは少し気まずそうな顔をリゲルに向けた
1人だけは違う、ルドラだけは彼を呆れた目で見ていたのだ
ルドラ1番隊隊長
『リゲル、今は会議中だぞ』
リゲル
『でも空気悪くてなんだか呼吸しずらくないです?』
カイ
『話し合いが終わるまで私語は慎めリゲル』
カイと言う男はリゲルを睨み、注意する
この場の殆どがリゲルやクワイエットより年上であり、30代が多い
20代と言えばクワイエットにリゲル、そしてジキットとバッハだけだ
(面倒くさい世代)
リゲルはそう思いながらも面倒くさそうな顔を浮かべた
それが癇に障ったカイは顔をしかめたまま、テーブルを叩いて言い放つ
カイ
『緊張感が足りんぞ!いつものピクニックだと思っているのか!』
シューベル
『誰のおかげで1番隊に入れたと思ってる貴様』
リゲル
『誰かのおかげだから何です?あんたらよりも職務を全うしていると思いますがね…極秘任務での逃亡、誰が残って最後まで任務を遂行したと?』
彼は挑発的に答えた
アカツキ捕獲の任務はここにいる者たち全員が知っており、参加していたのだ
しかし、ゾンネが怖くて逃げた
そんな事実を突き付けられ、一部の聖騎士はリゲルを強く睨む
ルドラ1番隊隊長
『よせリゲル』
リゲル
『あなたは怒らないんですか?』
ルドラ1番隊隊長
『…あれは俺の勝手な判断だ。そして勝手に苛立ちを見せているのも俺だ、詫びよう』
(お?)
肩の力を抜くルドラにリゲルは少し驚く
意外と素直だからだ
チクチク言われると思っていたのに、案外彼は反省しているのだろうかとリゲルは僅かに考える
カイ
『くっ!…ルドラ殿に推薦されてなければ貴様な今頃ここにはいないのだぞ』
ルドラ1番隊隊長
『よせカイ、吹き飛ばされたいか?』
ルドラは凍てついた目で席から立ち上がり、カイを見つめた
リゲルとクワイエットは昔から聖騎士にいたルドラの推薦で聖騎士となれている
一般的な厳しい審査などを省き、裏入学と言われても仕方がない方法でだ
それを妬む者もいれば。羨む者もいる
ジキット
『ですが遂行出来たのは凄いですね…ロイヤルフラッシュ聖騎士長もなにやら満足そうな顔をしていましたし。』
バッハ
『クワイエット副隊長とリゲルのコンビは流石ですね』
クワイエット
『僕はリゲルよりじゃじゃ馬じゃないよ?』
バッハ
『あはは…わかってます』
ルドラ1番隊隊長
『まぁ空気を変えよう、本当に過去の獣族が蘇ったのか?ロイヤルフラッシュ聖騎士長からの話では獣王ヴィンメイという化け物が国を脅かす可能性があるからその足取りを追うという調査なのだが…』
シューベルン
『見間違いじゃないでしょうか?死んだ者が蘇るなど』
シューベルンは半ば笑いながら口にする
だがクワイエットは咳ばらいをして皆の会話を止めると、話し始めたのだ
クワイエット副隊長
『とても強いよ?元五傑が相手でも駄目だったんだから』
ジキット
『グリンピアには鋼鉄鬼女クローディア殿がいると聞いてますが』
クワイエット副隊長
『冒険者ギルド運営委員会の副会長、そしてこの街のギルドマスターをしているよ』
バッハ
『あまり口外をするなとは言われてましたが、全盛期より衰退したという考えは駄目でしょうか?』
カイ
『所詮は女だろう、強いのかどうかもわからん初代だ』
シューベルン
『世界騎士イグニスはまぁわかるが、他は怪しいぞ』
クワイエット副隊長
『予想で判断とは聖騎士もその程度なの?』
クワイエットは剣を抜き、肩に担いだ
目はつまらなそうな者を見る目でその場の者を見回し、口を閉じさせた
リゲル
『あの女、マジで強いっすよ。』
クワイエット副隊長
『獣王ヴィンメイに勝てなかったのは相性の悪さ、打撃耐性が非常に高いから彼女は勝ち筋を見いだせなかったんだ』
ルドラ1番隊隊長
『ロイヤルフラッシュ聖騎士長が相手ならどうだ?リゲル』
リゲル
『行動パターンを理解した上で戦うってならもしかしたら…ですよ』
ルドラ1番隊隊長
『ということは調査で発見し、我々が一斉にかかっていってはどのような結果になるか』
リゲル
『大半が死ぬ前に尻尾巻いて逃げますね、俺とクワイエットはそんな事しないですけど』
彼は周りを見てそう答えた
またカイやシューベルンが額に青筋を浮かべて拳を握り締めて怒りを抑えているのがリゲルの目にもハッキリと映る
ルドラ1番隊隊長
『俺も逃げないぞ』
ルドラ
『そこは信用してますよ、あなた本当にどんな相手にも果敢に向かっていきますよね』
ルドラは『そうか』と軽く微笑んだ
隊長の顔がほころんだと知った一部は目を開いて驚くが、その理由は誰も知らない
クワイエット副隊長
『調査で発見しても直接的な戦闘は避けるべきですルドラさん』
ルドラ1番隊隊長
『勿論だ、少し行動パターンを見たいという衝動はあるがな』
リゲル
『少しくらいならいいとは思いますよ、俺達は実際に戦ってみたといっても、どう伝えていいか本当難しいっすよ』
ルドラ1番隊隊長
『なぜだリゲル』
リゲル
『本当に脳みそ筋肉みたいな思考なんですよ?自身の身体能力の高さだけでごり押しするんですからね?それなら楽だと思うじゃないですか』
ルドラ1番隊隊長
『確かに思う、皆も思うだろう?』
ルドラの問いかけに、皆は頷く
しかし、リゲルはそれは違うと否定を口にする
リゲル
『遭遇すればわかりますよマジ、あんな思考で強い奴が歴史上でいたんだなって笑いたくなるくらい強いですから』
ジキット
『できれば出会いたくはないですがね』
カイ
『まぁ飽くまで調査だ、北の森の海抜の低い場所を探すしかあるまい』
ルドラ1番隊隊長
『そうなるだろう。トーマスとジキットはキャンプキットを背負え、リゲルとバッハで交互に交代しながらだ』
『『『『はい』』』』
ルドラ1番隊隊長
『調査団の護衛はいらないとの事だ。シューベルンとカイは隊の後方。俺とクワイエットは先頭だ。宿はこの建物の隣を貸し切っている、朝は5時半朝食の7時出発だ。遅れるなよ』
全員が返事をすると、ルドラは立ち上がり、『会議じゃない会議は終わりだ。各自問題を起こさず自由に動け』と言って先に部屋を出ていった
『息が軽い』
バッハが小声で囁き、肩の力を抜く
全員が一息つき、リラックスさせていた
リゲルとクワイエットが席を立つと、カイは『クワイエット副隊長、どこへ?』と首を傾げて尋ねた
クワイエットは少し悩んだ様子を見せると、『ご飯』と答えてからリゲルと共にドアに歩いていく
そんな二人の背中をカイとシューベルンは目を細めて見ていた
自身より年下が副隊長というのが気に入らないからだ
(ガキの癖に副隊長とは)
だがそれを口にすることは出来ない
現にクワイエットは強いからだ、カイやシューベルンでも勝てなかったからこそ副隊長へとなった
リゲルも彼らよりも強く、副隊長になるだけの力はあってもクワイエットには勝てなかった
リゲルには弱点があったからだ
クワイエットは誰よりもそれを知っている
多目的施設を出た二人は建物を眺めながらどこで夜食を食べるか悩んだ
『クワイエット、お前なに食べたい気分?』
『僕は肉かなぁ』
『まさかバラ焼きか?』
『駄目?森に入れば不味い携帯食だよ?今食べないでいつ食べるのさ』
(こいつは飯に生きる野郎だな)
リゲルは頭を掻きながらも辺りを見回し、彼の求めるバラ焼き専門店がどこにあるのかを道行く人に聞こうと考えた
『ひったくりだぁ!』
そんな声が聞こえると同時に二人の顔色は変わる
声が聞こえた通りに走っていくと、丁度奥から慌ただしく走ってくる男が目に止まった
腕には立派な革の鞄を抱えており、やけに後ろを気にしている
その理由は追いかける男と冒険者風の防具をした男が1人
あれもさっきの声を聞いて男を捕らえようと正義感が働いたのだろう
『どけどけぇ!』
切羽詰まった声で叫ぶ男はリゲルとクワイエットを見ていた
彼ら二人に向かって言い放たれた言葉だ
(逃げ場もないのに…よくやるよ)
リゲルは呆れた顔を浮かべたまま、クワイエットと共に前に歩き出す
ひったくり犯は道を上げない二人に驚きを浮かべたが
それでも止まる気配はない
今日、グリンピアで1番不幸な男はこのひったくり犯だろう
目の前には逆立ちしても勝てることも逃げ切る事も不可能な男二人
不幸な男だけがその事実を知らない
『運動になるかねぇ』
『ならないね』
リゲルの問いにクワイエットは苦笑いを顔に浮かべて答えた
武器を使わずして制圧できる二人はそのまま歩き、男が近づいてきたら一気に畳み掛ける筈だった
しかし、今日このひったくり犯はグリンピアで1番不幸な男だ
その意味はリゲルとクワイエットにもわからなかった
何かが二人の背後から前に駆け抜けた
それは警備兵の格好をした者
だがただの警備兵じゃないことだけは確かだった
両手に握る短めの鉄鞭に見覚えがあった
『何本残るかな?』
その警備兵はひったくり犯に一気に詰め寄ると、左手の鉄鞭で口元をぶっ叩いた
『ぎゅっ!』
ひったくり犯の口から血や無数の歯が宙を舞い、可笑しな回転をしたまま地面に叩きつけられると、その場でのたうち回る
あまりの激痛に言葉にならず、体をくねらせながらも涙を浮かべる光景を二人は驚いた顔で見た
(なっ…)
僅かにゾッと何かを感じたリゲルは地面でのたうち回る男を見下ろす警備兵に視線を向けた
明らかに見たことがある男、彼はひったくり犯の目の前でしゃがみこみ、痛がる男を観察しているようにも見えた
『悪い事をすると倍以上の苦痛を味わうよ?わかるかな』
男は微笑みながらそう告げた
ひったくり犯は目を大きく開き、口を両手で抑えながらその言葉に反応する余裕すらないほどにガクガクと体を震わせながら彼を見つめた
『おいお前』
リゲルは腕を組んだまま、話しかけた
そもそも彼と接触すること事態、間違いかもしれない
背を向けてしゃがみ込んだ男に近づこうとするリゲルだが、これ以上は近づいたらいけないという彼には気づかない警告が体から発せられ、前に出した足を無意識に止める
『残念だなぁ』
男は背を向けたまま言い放つと、ゆっくり振り返る
聖騎士の2人は確信した。この男はイディオットのティアという女魔法使いの兄であると
シグレ・ヴァレンタイン。歳は1月の初めの誕生日を迎えると、22歳になる
対するリゲルとクワイエットは23歳、こう見えてもシグレより歳は上
年下には絶対に負けない、リゲルはそんな思いがある
だが目の前にいる男にはその思いが半ば薄れそうになってしまう
シグレは地面で倒れて苦しむひったくり犯の顔を足で押さえつけると、先ほどの言葉の続きを口にする
『君たちも問題を起こしてくれたら。妹の無念を晴らせるのになぁ』
『リゲル、犯罪者予備軍だよこのセリフ』
クワイエットが引きつった笑みを浮かべ、リゲルに言う
確かにな、と彼も思う所はある
数秒の静寂の中で周りの人々は彼らの様子を心配した眼差しで見つめており、その中央にいる3人の空気は重い
その様子を見ている冒険者数名は動くこともままならないほど怯えた顔を浮かべ、とある事を考えた
どちらが蛇か、どちらがカエルかではない
どちらも蛇だ、要は蛇を食う蛇はどっちなのかと
リゲルとクワイエットは冒険者ランクBとしてグリンピアでも一瞬でその名を轟かした
しかし、この場に矛盾という言葉に似た何かが生まれていることに無意識に冒険者は気づく
グリンピア最強の喧嘩師とグリンピア最強の聖騎士冒険者
己の感情に忠実な獣と使命を全うする獣
最悪な暴力と誠実な暴力
どちらが上なのだろうか
(この人、慣れてるなぁ)
クワイエットはシグレの様子を見て瞬時に感じた
対人戦は聖騎士の専売特許でもあり、血反吐を吐くくらい鍛錬してきた自負はある
警備兵という協会も街の人間を守るため、対人戦という訓練はしているから弱いわけじゃない
だがそんな協会よりも自分たちはもっと訓練しているという自信はある
そうであっても、目の前の男を前にして堂々と自信があるとは口に出して言えない何かを聖騎士2人は感じていたのだ
(不良の成り上がりか)
リゲルはそう思いながらも溜息を漏らし、両手を上げて口を開く
『お~怖い怖い、争う気はねぇよ』
『残念だなぁ…まぁこっちも仕事中だしね』
シグレはそう告げると、足で押さえつけているひったくり犯の足を掴み、引きずりながらその場を去ろうとする
ふと彼が何かを思い出したかのように振り返ると、リゲルとクワイエットに向けて満面の笑みを浮かべて言い放った
『次、妹を虐めたら止まる気はないよ?』
『興味ねぇよお兄さん』
『こっちは興味あるんだよなぁ、まぁいいか』
シグレはひったくり犯を引きずり、去っていった
『なんちゅう殺気だすんだよティアっつぅ女の兄はよ、そう思うだろクワイエット』
『あれ凄いね。こんな田舎街にもあんなのいるんだ』
『俺達はパゴラ村出身だぞ?それ以上に栄えてるこの街にいても可笑しくはないだろ』
『まぁそうだよね。…てかお腹空いたよリゲル』
『そうだな、よし!バラ焼きでも食うか!金もがっぽり儲けたしよ』
クワイエットは満面の笑みを浮かべ、頷いた
こうして彼らはグリンピアにあるバラ焼き専門店に向かって歩き出す
気づけば冬である。彼らは僅かに積もる雪を横目にお目当てのバラ焼き専門店まで辿り着くことが出来た
しかし、そこで思わぬ者を見てしまう
『早く入ろうぜ!』
『ティアマト、焦るな…肉は逃げない』
『だが時間は消える』
ティデオットのティアマトとアカツキがバラ焼き専門店の前で楽しそうに会話しているのだ
2人だけではない、チーム全員がそこにはいた
(マジかよ)
リゲルの考えとは裏腹にクワイエットは違った
『アカツキ君達だね、やっぱ美味しいんだよここ!』
『パス』
『少なからず言うと思ったなぁ』
クワイエットは予想はしていたらしい
そっぽ向くリゲルに対し、溜息を漏らす
『なんでいつもあいつらとタイミング合うんだよ』
『そういう運命?』
『ちょ…やめろ、てかあの猫どこいった』
2人はそう会話を交えながらも遠目で店に入る彼らイディオットを眺めた
『ニャハン?』
『『わっ!?』』
2人は驚いた
リリディのパートナーであるギルハルドが真横にいたのだ
自然と武器を素早く抜いて構えるリゲルだが、ギルハルドは仁王立ちのまま首を傾げる
警戒している様子はないと悟ったリゲルは剣を鞘に納め、『あっちいけ』と言うとギルハルドは鳴いてからその場からパッと消えた
『もう入り口にいる』
消えた瞬間、リリディの後ろからついていくギルハルドの姿がそこにある
とんでもない猫だなと2人は思いつつも、顔を見合わせた
どう考えてもリゲルは行きたくないような様子をしているクワイエットは内心、今日は肉は諦めたほうがいいかなと思い始める
他にも美味しい店があるからだ
『どうするリゲル?』
『そうだな…ん?』
リゲルは可笑しな光景を目にする
バラ焼き専門店の隣の建物の陰から見たことがある上官が気難しそうな顔を浮かべ、イディオットが入っていったバラ焼き専門店の入口を見ていた
ルドラ1番隊隊長である
(あの人もここに来たのかよ…あっ)
彼はルドラと目があった
互いに目を大きく開いて数秒程固まると、ルドラが肩を落としたまま2人に近づいてきたのだ
(まさか同じくち?)
そう思いながらリゲルは上官を待っていると、目の前まで来たルドラ1番隊隊長は苦笑いを浮かべてから口を開いた
『どうやら今日は入れそうにはないな…』
『でしょうね、俺も嫌です』
初めて同じ気分である上官に悪い気がしないリゲルは以前の事は忘れようと切り替え、溜息を漏らす
『バラ焼きではないが、もっと良い店を知ってるぞ?来るなら今回は奢るが』
リゲルとクワイエットは驚く
どういう風の吹き回しなんだと疑いたくなるほどにだ
何か企んでいるのでは?という思いが僅かに浮かぶが、それは彼の口で直ぐに消えた
『今回だけだぞ…』
『リゲル!行こう!』
飯に釣られるクワイエットはなんの躊躇いもなく目を輝かせた
(本当に飯になるとこいつ…まぁいいか)
ルドラの顔を見ると、気難しい顔のままだ
ここで断るともっと面倒になると思ったリゲルは仕方なく上官の誘いに乗ることにした
『肉食いたいっすよルドラさん』
『そうか』
そこでルドラの顔がほころんだ
2人はルドラの後ろをついていきながらもどこに向かっているかと尋ねると、予想以上に良い店のようであった
『カルビという焼肉専門店だ。極上のカルビもあるぞ?』
『うわぁぁぁぁぁ!』
クワイエットが喜ぶ
彼が大袈裟すぎるという点もあるが、リゲルも内心少し驚いていたのだ
滞在する街の情報はあらかた調べ上げていたため、その店の事も知っている
かなり高い店であり、上質な肉を食べることが出来る高級肉料理店だったのだ
『クワイエットいれば数秒で財布破産しますよ?』
リゲルはルドラにそう告げる
『大丈夫だ。俺を誰だと思ってる』
(金はあるのか…)
自信が満ち溢れる上官の顔を見て彼はそう悟る
『今は金の使い道が無くてな、昔は色々使っていたんだが』
思いつめたような顔を浮かべるルドラにリゲルは首を傾げたが、面倒臭いと思って話しかける事を止めてしまう
こうして3人は目的のカルビという店に足を踏み入れることとなる
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