第51話 情報収集は大事であります

『真空斬!』


どこかで聞いた事がある声が近くで聞こえてきた


するとハイゴブリンの背後から斬擊の真空が1体の首を撥ね飛ばし、倒れていく


『ゴブ!?』


ハイゴブリンが慌てて振り向くと、そいつは既に近くまで迫っていた

片手剣を手に、振り向いたハイゴブリンの胸部に剣を突き刺した男はガーランドという冒険者だ


会いたくない奴だ


2体目も倒し終えると、ガーランドの後ろから仲間が3人歩いて近付いてきている

彼らも魔物を倒して稼ぐ冒険者なのだから、森の中で遭遇してもなんら不思議は無い


『ダルいな』


俺は溜め息混じりに、そう囁いた

今、このタイミングで逃げるにしても帰り道を塞がれた状態だ


きっと俺の顔は今、正直な顔色を浮かべていることだろう

ガーランドはこちらの顔を覗き込むように見ると、口を開いた


『邪魔なんだが?』


ん?俺達に興味があるようには見えない言葉だ

一応ティアと共に馬を動かして道を開けてみると、彼らは森の中に入っていったのだ

時間的にそろそろ帰らないと駄目な筈だが…彼らはまだ稼ぐ気でいるのだろう

それなら邪魔しないで道を譲るのが一番だ


俺達は横切るガーランド達を見ていると、彼は再びこっちを見きながら口を開いた


『雑魚が』


流石にカッチンと来るが、我慢だ

勝ち誇る様な顔で視線を逸らすのもこれまた凄い

ゼルディムより質が悪い


なんであいつよりもマシだと思えるのかはわからないがな


ティア

『凄い人だね』


アカツキ

『確かに』


『ヒヒン』


ティア

『ブルドン、我慢偉い』


『ヒヒンッ』


俺達はそのままミヤビの街へ向かう為、荷物を正面に背負って馬に乗って駆け抜けた

馬を進めていると、森を出ようとする冒険者を何人も追い抜いた


冒険者ギルドに辿り着くと、すぐ横の馬付け馬にいる警備兵に銅貨5枚を渡してからティアと共にギルドの中に入った

赤い絨毯を抜け、重たい荷物を背負って受付まで持っていくと、俺は依頼書と同時に荷物から魔石を全て乗せたのだが


受付嬢の反応は予想外だった


受付嬢

『これ2人で倒したんですか?』


アカツキ

『え?そうですけど』


受付嬢

『流石Cランクの冒険者ですね、今まとめますので少し待っていてください』


はて?ティアと顔を合わせて首を傾げる

まぁいつもより魔物は倒したけど…

合計14体はやっぱり多かったかなぁ


Cは遭遇しなかったがDは結構倒したな

キングゴブリン2体、棘巻トカゲ3頭、ソード・マンティス1匹

グランドパンサーが4頭と予想外な豊作でした!!!


冒険者

『2人で森行ったのかい兄ちゃん』


ふと後ろで順番待ちしていた冒険者チームの1人に声をかけられた


アカツキ

『お金稼ぎたくてDばかり狙って倒していたので…』


冒険者

『体力あるなぁ、お嬢ちゃんと2人でそれだけ倒したって事は結構名のあるチームかい?』


アカツキ

『いえ、全然です』


冒険者

『そう硬くなるなよ、俺はトッカータっつぅんだ、よろしくな!』


彼は自身の胸を叩いて自己紹介してきたので、自然と俺とティアをしなければならない雰囲気となったのだ

一応ティアと俺のステータスは見せることは出来ない、まぁ基本は冒険者同士あまりステータスを見せ合うって行為は仲が良くないとしない


トッカータ

『俺達はミヤビでCランクの冒険者チームしてるんだ、チーム名はエアフォルド』


アカツキ

『僕もチームですが、マグナ国からちょっとした旅行で2人で来ているだけなんです』


トッカータ

『彼女とチョメチョメデートだな、わかるよ…うんうん』


やめてくれ、ティアが何ともいえない顔をしている

彼の仲間は3人いる


片手剣士のイビルイ

槍士の女性のローズマリー、彼女はトッカータの奥さんらしいよ!!

魔法使いの女性はクルミナっていう低身長のロリ顔だ、ティアよりも僅かに小さい


受付嬢

『お待たせしました、金貨7枚に銀貨1枚、銅貨3枚で~す』


結構お高い

ティアが凄いニコニコしているけども理由としてはあれだな

当分のつなぎとしては安心できる報酬だからである

贅沢しなければ金欠になる事は無い筈だし問題ない


トッカータ

『2人でよくやるなぁ』


クルミナ

『結構魔物探すのに疲れるのに…』


アカツキ

『ティアが気配感知3だから意外と探しやすいんだ』


トッカータ

『マジか、高いな』


ティア

『高いんですか?』


トッカータ

『気配感知3は高いよ、なるほどね…それだと魔物探しも捗るってこったぁな』


エアフォルドの皆さんはウンウンと頷きながら納得を浮かべていた

確かに俺とティアの感知範囲は違う、ティアの感知で殆ど行動を決めていたからである

やはり効率を求める為にも気配感知の高さは重要なのだな


気配感知がないと適当に森を歩くだけになるってことだ



受付嬢

『凄いですね』


アカツキ

『でも僕達の街にはもっと強い人いますから』


受付嬢

『羅生門にも聞かせたい言葉ですね』


アカツキ

『ガーランドのいるチームですか』


受付嬢

『面倒臭い子供ですよ?』


子供?俺と同い年くらいだと思うが…

どうやらまだDランクだというのにもうすぐCランク冒険者だから威張り散らしているらしい

この街には4チームしかいない、一応彼らも実力はあるらしいのだが…


アカツキ

『どんな人なんです?あれ』


受付嬢

『画の強い男ですね、あとは自分より弱いと思った奴には威張るくせに強い人の前では凄い大人しいんですよ』


わかりやすい性格だ

きっと俺達が自分より格下だと感じたから気安く声をかけてきたんだな…

できれば関わりたくないよホント


トッカータ

『まぁ多分あいつら君らがCランクって知らない筈さ、知ってれば何も言わないさ』


アカツキ

『それなら面倒臭くなったらカードを掲げてみます』


俺の言葉に受付嬢はクスクスと笑っている

ずっとここに居てもトッカータさん達に失礼かな、道を譲り

俺とティアはギルドの外に出ると馬のブルドンの元に向かい、警備兵にお礼をいってからティアと共に馬に乗る


まだ明るい、17時を過ぎたころだけど…

続々と森から帰って来た冒険者がギルドの中に入る様子を横に見ているのもちょっと楽しい

疲れ果てている人、まだ元気な人、それに軽傷を負って痛そうにする人など様々だ

落ち込んでいる人は気になるけどな


ティア

『稼いだね…』


アカツキ

『そうだな、明日も頑張るか』


ティア

『うん』


何故だろう、彼女は少し嬉しそうにしている

気になるんだけども聞く勇気が無い

いつも通り俺の後ろに乗って服を掴んでいるんだけどもいつもと感じが違うな


《兄弟、後ろ》


俺はテラ・トーヴァに声をかけられ、振り向くと共に声をかけられた


トッカータ

『お~い!俺だ~!』


トッカータさんだ

彼と共にエアフォルドの全員がいる

小走りにこちらに近寄って来た彼らは少し息が上がっているが何か用なのかと首を傾げていると、夜食を招待された


一緒に食べないかな、的な感じだ

だがしかし、俺達は宿屋の飯がある事を告げると彼らは今日はそこに泊まると即座に決定したのだ

俺とティアは一度馬から降りで会話しながらその場所へ向かう


レトロという宿の場所を告げると彼らは驚きの表情を浮かべ、口を開き始める


トッカータ

『やっぱ強くて稼ぐ冒険者なんだね』


アカツキ

『あそこ名のある宿なんですか?』


ローズマリー

『冒険者で泊まる人はそうそういないわね、』


イビルイ

『2人でもあんだけ稼ぐのかぁ、凄いなぁ』


俺達は適度なDランクを稼いているだけだ、過剰評価ですよそれ

Cランクの魔物となるとティアと2人じゃ倒せるかわからない魔物が多い

トロールとは戦えたけども、それはスピードスキルがあったおかげである


こうして彼らと共にレトロの宿屋に向かい、トッカータさん達はフロントで受付を済ます

やっぱり夫婦のトッカータさんとローズマリーさんはダブルの部屋、他の2人はシングルだ

勿論馬のブルドンは近くの馬小屋で預けている


番台員

『お食事は19時ですのでよろしくお願いしますね』


アカツキ

『わかりました』


そこで俺は明日分の宿泊費を支払うことにした

こうして一度各々が部屋に向かい、荷物を置くとロビーにある休憩スペース、まぁ椅子が沢山置いているエリアと言えばいいのかな

そこにて皆と座り、軽い会話が始まったよ


トッカータ

『まぁガーランドはもう泊まってないらしいから大丈夫だ、多分見栄はってここに1泊したんだろうな』


アカツキ

『彼何者ですか?』


イビルイ

『親が小金持ちだから不自由なく育ったのは良いことなんだけど…』


何やらイビルイさんは苦笑いしている

俺はふと予想を口にしようとしたら、ティアがそれを言い放った


ティア

『我が儘に育ったんですか?』


ローズマリー

『まぁそんな感じね。だから普通の人を格下だと認識したままねじ曲がった性格になっちゃったの』


アカツキ

『問題は起きてないんですか?』


ローズマリー

『暴言だけね、一応は武器の扱いも家に顧問を呼んで習うくらいだなら片手剣の扱いは上手いわよ』


口だけ動くなら害はないに等しい

しかし剣の訓練をしていたとは羨ましい限りだ


トッカータさん達からエド国の魔物事情で何か知っておかないといけないことは無いのかを聞いてみると、それはローズマリーさんが答えた


ローズマリー

『ミヤビはいないわよ、でもエド国地下には闘獣が住み着いてるから遭遇しても無視して退くくらいかな』


ティア

『マグナで金欲のアヴァロンはいましたがエドにも闘獣がいるんですね』


ローズマリー

『いるわよ?でもマグナの金欲会いたいわ、だってスキル獲得率上昇やレベル上昇率が当分飛躍的に上がるんだもん、うちの闘獣なんて…ねぇ?』


ローズマリーさんは仲間達に視線を向けた

すると皆は苦笑いだ


アカツキ

『どんな闘獣です?』


トッカータ

『土駆龍である眠欲のモグラント、近づけば当分は夜ちゃんと寝れるぞ?』


安眠効果の魔物かよ

それはそれでありがたい気がする

やはりエドに闘獣がいるんだな、眠夜のモグラントも人を意味も無く襲うことは無いらしく、あろうことか飯をねだるらしい


干し肉よこせ、だってさ


宿員

『有料サービスのドリンクはいかがです?1杯銅貨3枚です』


休憩スペースにいる俺達に宿員が近付くとそう告げる

多分気を効かせてくれたのかな?

まだ話が続くようならどうですか的な感じに俺は捉える


宿員が渡してきたメニュー表を全員で眺め、各々が飲みたいものを注目すると、宿員はニコニコしながら一礼し、嬉しそうに去っていく


アカツキ

『ここの冒険者ギルドには僕ら余所者が知らなそうな決まりはありますか?』


トッカータ

『ないから安心してくれ、平和なもんさ…マグナ国みたいに協会同士が嫌悪する事もないからね、アカツキ君は大変じゃないのかい?』


アカツキ

『まぁ、色々ありますけど』


トッカータ

『最近流れてきた話しだとそっちの聖騎士がギルド冒険者運営委員会に喧嘩売ったらしいじゃないか、おまけに警備兵会も動いたとか』


アカツキ

『まぁ大変ってことです、こっちはそういった話しは無いんですか?』


トッカータ

『そうだなぁ…、侍騎士会は普通だし冒険者運営委員会も普通さ、各々が無駄に関与せずのんびりと職務を全うしてる感じだな』


アカツキ

『やっぱうちの国は協会同士仲が悪いんですね』


ローズマリー

『10年前に起きたマグナ国とガンテア共和国との抗争での起きた事件のせいよねきっと』


俺はガンテア共和国とマグナ国が小競り合いをしたという話は昔聞いたことがある

しかし、その中で何が起きたかは詳しくは知ってはいないのだ

結果的にガンテア共和国から以前奪われていた領土を奪い返す為に小競り合いであり、それはマグナ国の勝利で返還されたのだ


その内容に何かがあるとローズマリーさんは口にしたのだ

タイミングよく宿員がドリンクを全員分持ってくる、俺は冷たいお茶

一口飲んで喉を潤してから俺は聞いてみる事にした


アカツキ

『それは初耳です』


ローズマリー

『裏切りがマグナ国であったらしいのよ、詳しくはわからないけど…それのせいで当時の英雄五傑は小競り合いが終わってから内部分裂したって話』


ティア

『英雄五傑って私たちはロイヤルフラッシュ聖騎士長しか知らないんですが、他に知ってますか?』


トッカータ

『俺の親父がエド国の文官だったから聞いたことあるぜ?』


黒豹騎士ロイヤルフラッシュ

人間恐慌アクマ

道化傀儡グリモワルド・グレゴール

その3人は覚えているとトッカータは口にしていた。


だがしかし、残り2人だけは名前すら流れて来ていないというのである

5傑の中でも群を抜いて強いのは仮面を被った黒い騎士、それはとてつもなく強く、目の前の全ての敵を容易く薙ぎ倒す程だという生存者の情報しか残っていない

見た者は死ぬと言われている事から、死神と名付けられた


もう一人は若いらしい女性だという話しかトッカータは聞いてないらしい

俺とティアと変わりない歳の女性が英雄五傑に10年前にいたのは凄いビックリさ


待てよ…クローディアさんの言葉の名前が1人出ていない

ロイヤルフラッシュ聖騎士長と相対した時に彼女は口にしたんだ


・・・・・・・・


『そんなんだから守れなかったのよ、なんでアクマとハイムヴェルトが去ったのかあんたには一生わからないわ孤独の5傑さん』


・・・・・・・・


何を守れなかったのかは知らない、しかしハイムヴェルトが誰なのかを彼らに聞いてみるがトッカータさん達は知らないらしい、同じ名前の知り合いは知ってるけど


まさかな…


だが英雄五傑のうちの3人は知れた、それはいい事だ


今何しているのかは多分聞いてもそこまでは知らない筈

俺はこの話をここで終わらせた


アカツキ

『今日のご飯は何ですか?』


俺は休憩スペースの椅子に座ったまま、フロントの番台でお茶を飲んで寛いでいる宿員に聞いてみると、答えは笑顔と共に帰ってくる


宿員

『今日は天ぷらそばです、サイドメニューには赤貝の味噌汁に辛口キュウリの漬物、そして豆腐サラダに鮭オニギリ1つです。銅貨3枚追加すればオプションでお茶漬けと茶碗蒸しが追加できますのでご検討ください』


聞いているだけでヨダレが出る

宿員後ろの壁の時計は18時半だ


トッカータ

『なんだか興奮するぜ、久しぶりに別の宿なんだからな』


ローズマリー

『明日は帰りますからね?』


トッカータ

『わかってるさ、まぁ一度解散してから19時に宴会場で会おうぜ』


彼らはそう告げると一足先に部屋に戻っていった


《結構良い情報持ってたな兄弟》


アカツキ

『そうだよな、あとはハイムヴェルトって誰だ?まさかだけども…』


俺はティアに顔を向けた

知人にそんな名前の者がいるからである、でも彼女は別人とは思っていないらしい

少し険しい顔のままのティアは頬杖をついて口を開いた


ティア

『ハイムヴェルト・リスタルト、リリディ君のお爺ちゃんの名前だよね?確かコスタリカに長い間滞在してから8年前くらいに戻って来たでしょ?』


アカツキ

『まさか…ティアお前』


ティア

『アカツキ君も昔一度だけ学生時代にリリディ君から聞いたでしょ?リリディ君のお爺さんは元魔法騎士副団長ハイムヴェルト・リスタルト、魔法騎士会の中でロイヤルフラッシュ聖騎士を一度負かした人がいるって話は多分…彼、そして私達がエドを出る際にマグナ国の宿のマスターが話した知り合いもきっとリリディ君のお爺さんと繋がる気がする』




学生時代にリリディは虐められていた、その時のゼルディムはリリディのお爺さんが魔法騎士会から蹴られて帰って来た事がきっかけでそうなっていた

リリディもお爺さんの話は滅多な事が無い限りしない、昔の学生時代の話を薄っすらとしか覚えていなかったがティアはちゃんと覚えていたか…


本当にリリディのお爺さんなのか?名前が似ている…では無いのか?

情報が混濁していてまったくわからない


リリディのお爺さんは何故帰って来たのか

それはきっとリリディ本人が知っている筈だが彼は話さないと思う

ローズマリーさんが口にした10年前の小競り合いの中での事件が全てを大きく変えたのだろうな

リリディのお爺さんもそれに巻き込まれ、身を退く羽目となったんだ


そしてマグナ国ではロイヤルフラッシュ聖騎士しか英雄五傑が残ってはいない


《となると、英雄五傑の中に裏切りってだいたい把握できんだろ?》


アカツキ

『ロイヤルフラッシュ聖騎士が追っているのは俺のスキルだけじゃない、鳥の仮面の黒騎士も聖騎士は追ってるけど…。テラ・トーヴァは五傑の裏切りはだいたい予想できるだろ?とか言ってるぞ』


ティア

『今までの話からだと、多分あれが裏切った元英雄五傑ね…テラちゃんは何て言ってるのアカツキ君』


《俺もそうだと思うぜお嬢ちゃん》


アカツキ

『同じ考えだってよ』


ティアは小さくガッツポーズをした

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