第50話 働かないと生きていけない

馬を連れて来たのは少し不味かったかな

まぁしかし、連れて来たのは仕方がない


ミヤビの北の森だが、防壁の鉄扉の先に目的の森があるのだ

そこは以前も聞いていたが湖など水源が豊富な地帯であり、魔物の数も結構いる


俺とティアは馬を連れて防壁の前に辿り着くと馬を降り、解放されている大きな扉に歩き出す

警備兵が2人、そこで冒険者が数人ほどたむろしていたが、気にせず馬を連れて扉を通ろうとする


すると、警備兵が通り過ぎようとする俺達に声をかけて来た


『君ら2人か?』


『そうですが』


『一応冒険者カードを確認してもいいかな?』


どうやらしっかりと仕事をしているらしい

俺とティアは懐からカードを取り出し、魔力をカードに流して光らせる

すると警備兵は頷き、口を開く


『ふむ、良し』


『2人とは苦労しそうだが頑張れよ、無理する前に逃げることも必要だ…恥ずべきことではない』


悪い人たちでは無さそうだ

というか黒い小袖の警備兵とは意外と格好いいんだな、しかも腰には刀と親近感だ

被り物は菅笠という藁で作られた変わった帽子だけど、欲しいなぁ…

手に十手という珍しい武器、あれは売っているのか聞いてみると、売ってないようだ


ティア

『それどうやって使うんですか?』


警備兵A

『ということは他国の冒険者かなお嬢ちゃん?』


ティア

『私達エドの伝統ある文化を見たくてマグナ国から来たんです』


警備兵A

『良い国だろう?』


ティア

『私の国より天ぷら美味しかったです!』


警備兵B

『嬉しい事いうじゃないか、なら十手の使い方を見せて上げよう…君、俺に刀を振り下ろしてみてくれ』


アカツキ

『俺ですか?』


警備兵B

『適当に振り下ろすだけでいいよ』


ちょっと嫌な予感を感じつつ、俺は刀を構えた

警備兵はニコニコしながら十手を前で構えている


そんな彼に適度な速さで刀で攻撃すると、警備兵は素早く鉤のかえしで俺の刀を受け止めると挟み込んだまま斜め下に引っ張り、俺はバランスを崩す

その隙に彼は懐に潜り込み、デコピンしてきたのだ


警備兵B

『これは相手の武器を受け止めれるんだ、大剣は流石に無理だけど片手剣なら受け止めれる強度はあるし、相手の攻撃の威力をさっきみたいに斜めに流してバランスを崩してカウンターに転ずることも可能なんだ、そして突くと痛い』


なるほど、小振りだと少々馬鹿にしていたが、実戦で見せつけられるとますます凄い武器なんだなと実感できた


ティア

『十手って高いんですか?』


警備兵A

『一般には売られてないけど、金貨30枚が最低価格だよ』


アカツキ

『高い…小振りなのに』


警備兵B

『高いからこそ安全を買えるんだよ、自身の身を守る防具や武器はケチったら一番駄目だからね』


確かにそれは納得だ、否定できない

命を守るために金をかけるのは常識的だ、俺も今の防具をそのうち新しくしたいな

警備兵の人は俺達の馬を気にしている様だ、彼らにどうしたのか聞いてみるとそれは意外な答えとなって帰って来た


警備兵A

『良い馬だ、目を見ればわかる』


警備兵B

『しかも赤い馬となると気性が荒い馬の筈、手懐けるのは難しい馬だぞ?ここまで大人しいとはな』


アカツキ

『そんな凄い馬なんですか?』


警備兵A

『知らないで乗ってたのかい?まぁ大人しい理由はお嬢ちゃんだな』


馬がティアを気に入っている、ティアの顔にスリスリしているのだ


警備兵B

『赤騎馬(セキバ)って言われる馬さ、上級騎士でも手懐けるのは苦労しているんだからこれを見れるのは面白い』


警備兵2人は口元に笑みを浮かべながらティアにじゃれている馬を見ていた

いいなぁ…


《兄弟、昨夜頑張ればあれ以上が出来たぞ?》


言うな…やめろ


俺はティアと共に馬を連れ、森の中に入っていく

入る前から魔物の気配は感じており、それは直ぐに現れた

深い森、というよりは日差しとか地面を照らしやすいスカスカな森と言った方がわかりやすいだろうか

遠くの森はここら周辺の森の様に視界が良いとは思えないけどね


『ギャ!』


『ギャギャ!』


ゴブリン2体だが、俺は周りを警戒しながら目の前の魔物をティアに任せる事にした

だがしかし、ティアがゴブリンと相対する前に馬が勢いよく飛び出した


ティア

『あっ!ブルトンちゃん!』


アカツキ

『何それ!?』


ティア

『馬の名前だよ』


いつ付けた?

いやそれどろこじゃない、俺は馬を追いかけようとするが早くて無理

というか馬はゴブリン2体を突進して吹き飛ばしたのだ

明らかに恐れていない、普通の馬ならば多少威嚇したり怯えた様子を見せる


だがこの馬は警備兵の言った通りの気性の荒さを僅かに見せたのだ

一撃でゴブリンはやられてしまい、体から魔石を出すとティアが馬を呼び戻し、褒める


『偉い!強い!ブルトンちゃん!』


なにがブルゥ、だよ

俺は寂しく魔石を回収し、奥に進む

格闘猿やゴブリンそしてハイゴブリンと見たことある魔物を倒しながらも直径50メートルほどの湖を発見すると、そこに初めて見る魔物がいたのだ


灰色に赤い水玉模様のヤモリが水を飲んでいたんだ

大きいヤモリだが、サイズは1mいかないくらいかな

あれはゲコという魔物ランクEの魔物だ、初めてで興奮しそうだよ


遠巻きに見ている俺達に気付いたゲコはこちらに気付くと変な声で威嚇し始める


『シュー!』


『シュー!』


アカツキ

『なんちゅう声だよ』


ティア

『可愛い』


《おいおいお嬢ちゃん本気かよ…》


テラ・トーヴァもティアの言葉に驚愕を浮かべる


アカツキ

『警備兵の話だと尻尾の攻撃、口から弱い酸を吐く、噛みつきの3種の攻撃らしいから気を付けて戦うぞ』


ティア

『オッケー!ブルドンちゃん見ててね』


ブルドン

『ブルゥ』


くそぅ…


俺は1匹に狙いを定め、刀を構えながら近付く

目を細くさせ、ゲコは真っすぐ突っ込んでくると口を大きく開いて酸の球を吐いて来た

刀で斬っても意味は無い、避けるしかこれは無いだろうと即座に悟り、僅かに体をずらして避けた


そのまま襲い掛かるゲコは飛び込みながら噛みつこうとしてくる

魔物のランクからしてみれば深い意味のある攻撃はないだろうな

俺はそのまま刀を口に突き刺し、地面に落とした


『えいっ!』


ティアの声に顔を向けると、彼女は腹ばいになったゲコの腹にサバイバルナイフを刺してトドメを刺している

意外と速いな…


《こいつはあんな気をつけなくてもいい、単調だからな》


『なるほど、ちなみにスキルは?』


《気配感知》


ああなるほど

魔石を回収し、小休憩しながらティアは馬小屋から買った牧草の入った布袋を馬の荷物から取り出し、食べさせる

結構俺から見てもあの馬はティアをかなり気に入っている気がする


なんだか悔しいのは何故だろうか、それを理解したくもない

昼を食うにはまだ早い、あと2時間くらい余裕がありそうだ


遠くで他の冒険者達が通り過ぎるのが見える、こちらには気づいていないようだが8人と多いな

2組の冒険者が合流したのだろう


俺は馬の荷物から水筒を取り出し、水を少量飲んでからバッグに戻すと口を開いた


『気配だが気付いているか?』


『大丈夫、茂みの奥ね』


『敵が来るまで待つか』


『そうしよっか、後ろにも1体いるからそれは私がブルトンちゃんと見るから安心してねアカツキ君』


『あ、はい』


俺は茂みに顔を向ける、まだ近くではないのだがゲコよりも僅かに強いか

まぁハッキリ気が読み取れるわけでは無いので外れる時はある

気づけば雲の隙間から太陽が顔を出し始め、少し明るくなってきた


魔物さえいなければピクニックとかしたいと思いたくなるほどの綺麗な森なんだけどな


『コルルル』


コロール2体が茂みの奥から聞こえる声でわかる

俺は近づいてくる魔物対し、先制攻撃と言わんばかりに刀を突きだして居合突を放ち、真空の突が茂みの中に飛んでいくとコロールの鈍い声が聞こえた


《兄弟、わかってんな?》


『わかってる、当たったけども遠すぎて威力が殆ど消えてら』


俺は苦笑いを浮かべて答えた

遠ければ遠いほど威力が落ちる技だし仕方がないよね

怒り散らして現れる2体のコロールのうち、1体の肩部から血が流れていた

プンスカと怒りながら錆びた片手剣をブンブン振り回し、俺に迫る


ティアとブルトン君は俺の後ろで別の気配の警戒、となればここは俺の出番だ


『光速斬!』


迫られる前に俺はその場から素早く突っ込み、コロールの脇腹を斬り裂いた


『ゴルル!?』


苦痛を浮かべながら振り向くコロールに向かって続けざまに刀を振って首を深く斬る

その隙に別のコロールが真横から片手剣を突き出してくるので体をずらして避けると、そのまま懐に潜り込みながら刀を胸部の急所に突き刺してから蹴って吹き飛ばす


対して吹き飛ばないか、小太りだもんな


『コロロ…』


首を斬られて血を流すコロールは武器を離し、両手で血を止めようと藻掻く

もう1体は心臓を一刺しなのでそのまま地面に倒れていく


俺もそれなりにできるようになったと実感するには十分だろう


『お前だけだ』


俺はそう告げると、刀を横殴りに振って胴体を斬り裂いて倒した

魔石がコロールの体から出てくると俺は回収し、ティアに視線を向けた


すでにあっちの魔物も森から姿を現したようだ

これは少し大きい、黒っぽい体のトカゲだが直ぐに棘巻蜥蜴だとわかった

首周りには鋭い棘がエリマキトカゲのようになっており、奴はそれを広げて大きく見せてくる


目は鋭くて舌は長い、全長1メートル半といったところ


『シュー!』


『お前もかい』


勝手に口が開く


『私に任せて!』


ティアは元気良く言い放つ

俺としては無理をさせたくないが、二人だけとなるとそうもいってられん

何かあれば助太刀しよう


ティアはサバイバルナイフを構えながら静かに近付く

棘巻トカゲはまだ威嚇し、僅かに後退りするが、奴は途端にティアに向けて蛇行しながら襲いかかる


『…』


ティアは冷静にその動きを見極め

飛びかかってくる棘巻トカゲを避けながらショックを唱え、雷弾を飛ばして命中させると、奴はピリッと体を反応させた


一撃で麻痺しなかったか、しかしあと1発だとわかる

だが、そんなことしなくても大丈夫だ

ティアは棘巻トカゲが一瞬だけ体の自由が効かない隙を使い、目の前に迫ると、両手でサバイバルナイフを握りしめて突き出した


『シェ!』


『あっ!』


棘巻トカゲは刺される瞬間、体の正面に小さめの縦を魔力で発生させた

ティアの攻撃は盾に防がれると同時に盾も壊れる

だが一度身を退くには便利な技だ


棘巻トカゲは直ぐに首を大きく振って棘を1本飛ばした


『わっ!』


ティアは驚きはするものの、避けつつそのまま距離を積めると懐に潜り込み、サバイバルナイフを頭部に突き刺して倒す


棘を飛ばすとはな…

首を振って棘を飛ばすとは驚いた


『よし!』


ティアはガッツポーズし、棘巻トカゲから出てきた魔石を拾うと、ニコニコしながら俺に近寄ってきた


『意外といけた!』


『よくやった、少し休憩したらもうすこし進もう』


ティアは満足そうに湖のそばに腰をおろす

すると馬も彼女の隣に座った


《兄弟、これからどうするかわかってんな?》


『わかってる、強くなりつつ仲間の合流を待つ』


《来ると思ってんのか?あいつら》


『利口な奴は来ない、だけど…あいつらは来る』


《そうかい…棘巻トカゲの気配だ、俺達が歩いて来た方向》


俺はテラ・トーヴァに言われ、刀を担いだまま入って来た道に体を向けた

数十秒後にはティアも気配感知でわかった様であり、俺が見つめる方向に視線を移す

現れたのは棘巻トカゲ、取り巻きは無しだったのでこいつは俺が対処し、最後に開闢で倒してスキルを会得したのだ


シールドという魔法スキルだ

これは勿論ティアの自衛に使うのが一番良いだろうし、俺は斬撃の威力を上げるために斬撃強化スキルが欲しい

それは明日だな


ティアが棘巻トカゲの魔石からスキルを吸収すると、ニコニコしながらステータスを見せてくる


・・・・・・・


ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

安眠  【Le1】

気配感知【Le3】

麻痺耐性【Le1】

スピード強化【Le2】


☆技スキル


☆魔法スキル

火・ラビットファイアー【Le3】

雷・ショック【Le2】

木・スリープ【Le2】

風・ケア  【Le1】

無・シールド【Le1】New


称号

パナ・プレイヤー


☆称号スキル

デバフ強化 【Le1】

自然治癒  【Le1】

スピード強化【Le1】


・・・・・・・・・・




この後、小休憩を終えた俺達は依頼書の魔物を探し、適度に他の魔物を倒しながら森の中を散策した


ゴブリンキングは力と耐久力がそれなりに高いのだが、俺の高速斬に反応は出来ず、そしてティアのショックの蓄積で麻痺すると、俺は飛び込みながら奴の胸部を突き刺して倒した

ゴブリン種が多いイメージだ、湖の近くだと確かに爬虫類種と出会える


2回目の小休憩、馬に乗せた荷物は結構膨らんでいる

魔物の遭遇率が高いから沢山魔石が取れました!!!

俺達は夕方になる前に戻る事にし、馬に荷物を乗せ、ティアと歩いて森を歩いて進む


『こんな豊作初めてだよアカツキ君』


『俺も驚いてるよ、いくらになるんだ…まさかエド国は単価低いとかないよな』


『多少の誤差はあってもこの量は凄いと思う』


本当はまだいけそうだった、だが俺達は魔力が心配になる前に終わろうとしたんだ

帰りも考えないと強敵に遭遇した際、十分に戦えないからな


『ヒヒン!』


『ブルドンちゃん荷物ありがとね』


馬の顔をヨシヨシするティア

それを横目に、俺は辺りを見回してみた

黒い雲が遠くに見える


またずぶ濡れは御免だ

ティアも早く帰りたいらしく、空を気にし始めた

まぁ早く帰りたい時に邪魔は入る


俺達の前にハイゴブリン2体が脇道からひょっこり姿を現した

棍棒を担ぎながら敵意をこちらに向けている

ティアはいつでもラビットファイアーを撃てる準備をしていると


本当の邪魔者が現れたのだ

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