第49話 資金稼ぎしないと…

俺とティアは数日かけてエド国まで辿り着き、ミヤビという国まで辿り着いた

途中で偶然にもオズボーンさんに出会い、おすすめの宿を教えてもらい、そこにいる



シングルが満室で無かったのがあれだけど…

ティアと共に部屋に向かい、俺は布団という床に敷く変わったタイプのベッドを見つめていた


明らかに枕が近い、くっついとる!


《何考えてる?兄弟》


『馬鹿言うな、何も考えてない』


狼狽えながらも枕を離し、一件落着だ

丁度ティアも戻ってきたのでそろそろ夜食の時間だし行くことにした


しかし彼女はいい湯の名残を感じながも布団にゴロンと横になる


『温泉凄かった』


『こっちは筋肉ゴリゴリマッチョ警備兵に囲まれて大変だったぞ』


『楽しそう』


『怖かった』


彼女は笑っている

本当に旅行気分、逃亡中なのだがな

しかし、今だけはいいだろう


一応周りに気を配りながら動くとするか

床は畳、まぁ和室という始めてみる部屋のタイプなのだが意外と匂いがいい


そもそもこの床の畳、滑りやすい


『ティア、時間だぞ』


『そだね、行こっか』


こうしてティアが立ち上がろうとすると布団に足を引っ掻けてしまい、バランスを崩す


俺は直ぐに手を伸ばして彼女の腕を掴んで支えようとしたんだけど、ティアと共に畳に滑って転んでしまった


布団の上だし大丈夫だ

うつ伏せの俺はなんか気持ちいいくらい柔らかい何かを触っている気がして顔を持ち上げる


俺は目が飛び出るくらい驚いた

ティアの胸!掴んどる!やはり意外と大きい!


驚き過ぎてそのあとどうしていいかわからない俺は固まるばかり


肝心の彼女は顔を真っ赤にすると、何故か強く目を閉じた


なんで閉じた?


『お客様、夜食の時間です』


ノックと共にドアの向こうから声が聞こえる


そんな気遣いは今は必要なかったぞ…宿員!


俺とティアは光の速さで立ち上がり、ドアを開ける

呼びに来た宿員に連れられて食堂に向かった


そこも凄いんだ

広い和室、宴会場というらしいが変わった名前の食堂だな

ここは座って料理を楽しむ様だ


壁には桜や鯉が描かれており、襖の色は金だ

案外凄い宿なのかもしれんぞここ


先ほど風呂場にいた警備兵達もいるが、酒を飲んで静かに料理を食べている

んで風呂を出たときに遭遇した男もいた


奴は冒険者だな

男女2人ずつのチームだ


『手前が空いてますのでごゆっくりどうぞ』


宿員の言葉で手前の座布団に座り、小さなテーブルの上にある料理をティアと共に眺めた


天丼じゃないか!

シジミの味噌汁!漬物二種にお茶だ

本当に金貨1枚の宿なのか?


『流石に凄くて反応出来ないよアカツキ君』


『俺も無理そうだ、天丼が食えるのか?』


隣の客

『ここからの冒険者じゃないね君ら、魚介類は安いよ?国産だし近場で取れるからね』


単純な理由を隣の人が教えてくれた

とりあえず食べるか


『『いただきます』』


手を会わせてから食べ始める

米が美味しい、というか味噌汁も何味噌なんだろうか

知らない味だった


隣の人に聞くと、赤味噌だと答えた

マグナと違う味噌があるなんて初めて知ったよ


『お茶も美味しいよアカツキ君』


『この宿にしてよかったな、てかどうする?ここに拠点を動くか?』


『ここがいい』


『まぁ金貨1枚稼ぐのは楽勝だし大丈夫だろう、明日は北の森に向かう、ギルドによってからだな』


『朝8時にギルド行きの馬車が近くの馬車停留所で出るって温泉で話してた人が言ってたよ』


『朝食は適当に買って食べよう、ギルド内にあるはずだ』


『そうしよっか』


うむ、色々予定が出来ると余裕が更に生まれる

だがしかし!和食料理?なんていうのだろうか…美味い

天ぷらのこのキノコ?何だろう…それにこのかき揚げが最高だ

しかしメインは海老の天ぷらか?いや違う、セロリも中々だ


というか漬物で小皿に入っているこれはなんだ…


『それピリ辛メンマだよ』


『美味しいな、美味い米に合う』


『現地食材だから安いんだね、私達の国じゃ高いのに』


当たり前な話さ、現地食材は安い

しかしその食材を別の街に運ぶと人件費や輸送費等がかさばり、割高となって地方で売られる

そんな詳しい説明は別に今必要では無いだろうが


???

『まぁまぁの味だ』



『そんなこと言わず食べようぜリーダー』


失礼な事を言っているのは誰だと思いながら顔を向ける

風呂場で出会った男の冒険者だったよ。空気が読めない奴だなと思いながらも俺達はその会話をスルーする


ああいうのは下手に何か言うと面倒だから無視に限る

男女2人ずつの冒険者チーム、同業者は気になるが彼らと関わるメリットも無い


こうして美味しい夜食を食べ終わると、2人で部屋に戻る

少し興奮冷めやらないのは先ほどの夜食が満足度が高かったのと、この部屋のエド国らしさに他国に来た実感がかなり感じているからである


ティアは布団に入らず、その上から仰向けて寛いでいる

かなり心地よさそうな様子を横にある座布団に座って観察しているんだけど

彼女は俺の視線に気づくとハッとした表情を見せてから直ぐに俺に背を向けて横になる


だって仰向けでいれば薄い浴衣だと胸の膨らみが…



床畳みもさほど硬くない

というか横になって見ると意外といける硬さだ


《明日はちゃんと食わせろよ?》


『わかった』


『テラちゃん?』


『そうだよ、ティアは今ステータスどんなだ?』


『私はね~』


彼女は笑顔で起き上がるとステータスを見せてくれた



・・・・・・・


ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

安眠  【Le1】

気配感知【Le3】

麻痺耐性【Le1】

スピード強化【Le2】up↑


☆技スキル


☆魔法スキル

火・ラビットファイアー【Le3】

雷・ショック【Le2】

木・スリープ【Le2】

風・ケア  【Le1】


称号

パナ・プレイヤー


☆称号スキル

デバフ強化 【Le1】

自然治癒  【Le1】

スピード強化【Le1】


・・・・・・


スピード強化は称号の追加もあって合計3もある

となるとCランクの魔物ともやりあえるスピードを持っているという事だ、凄い


ティアは嬉しそうに自分のステータスを見ている

彼女の攻撃魔表も十分補助ではなく、ダメージとして使う事が出来るし状態異常魔法もD以下には一発だ


『Cランクになってこのステータスかぁ』


『不満か?』


『十分だよ、でもこれ以上にみんな強くならないと駄目なんだね』


『そういうことになるな』


俺は小さなちゃぶ台の上のランタンの灯りで蝋燭に火をつけ、それからランタンを消した

蝋燭の方が灯りも程よいんだよなぁ

10分程度で消えるし


自然とティアも寝る時間だと察し、布団に潜り込む

俺はそのまま畳の上、ここでも全然心地よい


『まだ凄い音だね』


天井から雨音が凄い聞こえ、壊れるんじゃないかとヒヤヒヤするよ

天窓もある、しかし…雨で何も見えない


『だがさっきよりはマシになったな』


『そうだよね、これなら明日の朝には止みそう』


明日は止むとテラ・トーヴァが言うんだから間違いは無い

というか布団が小さい、普通の宿屋のベットはダブルだとその分ベットもわりかし大きい

布団は変わらず布団、まるで抱き合って寝ろと言わんばかりの小ささ、明らかに1人用だ


だからティアに譲るしかない

枕だけあれば大丈夫、そうして天井を見上げたまま寝ようとするとティアが口を開いた


『本当に大丈夫?』


『何が?』


彼女に顔を向けると凄い挙動不審だ

主語が無い、何が大丈夫かもわからない

でも聞くのも怖い、俺にとって有意義な言葉かもしれないがそれは時に過酷なものかもしれない

彼女のモジモシを見ればだいたい察するよ、だって昔から知ってるんだからな


『畳、痛くない?』


『平気平気、ティアだって布団1人で寝た方が安心するだろ』


《お前はウンチだ、兄弟》


五月蠅い

お前が邪魔なんだよぉぉぉぉぉぉ!!

俺がそう心で念じると、なんとテラ・トーヴァがそれを読み解いたのだ


《安心しろ、虫の交尾見て俺は何とも思わないさ》


『交尾!?』


俺はふと口に出してしまう。

それは不味かった、ティアが凄い顔で俺を見ているからだ


『違うんだティア、テラ・トーヴァが交尾がどうたらこうたらとか』


『あばばばばばば』


いかん、ティアが動揺して顔を赤くしている

流石に俺も可笑しな言葉を口走ってしまった事を後悔してしまっている

でも僅かに男としてのこの後の期待があることは隠すことは出来ない


それを後押しするのは勇気だろう

俺にはまだない!わからないからだ、どうすればいいのだと心の中で叫ぶ


《お前ならいけるって!》


反応したら駄目だ、深呼吸だ…

蝋燭の灯りが揺れる、それに映るティアは恥ずかしそうにこちらを見ている

そんな顔されたらこっちも変に気まずい


目を合わせるのも億劫になった俺は天井を見上げ、両手を組んで冷静になろうとしていると

ティアがとんでもない事を凄い早口で言い放ったのだ


『私は別に嫌じゃなしアカツキ君がそうしたいのなら私は別にそうなっても私は別に嫌いにならないしアカツキ君なら別にいいと思ってるから大丈夫だと思うけども初めてだからちょっと不安だけどもアカツキ君なら安心できると思う』


俺の心は悟りを開きそうだ、チラミで彼女を見ると力強く目を閉じてプルプルしているが

顔が爆発しそうなくらい真っ赤だ、本当に爆発しないよな?


そして高速な早口でも俺はその全てを聞くことが出来たのには驚く

自身に都合の良い言葉だったからかなぁ






んで、その意味に対して俺はどうすればいい?

俺の男レベルが1だとして、いきなり5に開花してもいいという事か?

いや俺は何を言っている?自分でも意味がわからん

ティアは良いと言っていると解釈してもいいならば、俺は突き進むしかないのか

俺のスピードはレベル3、いやそれは今関係ない!!


『ティア』


俺は静かに口を開きながら、ぎこちなく彼女に顔を向けた

そしてティアの顔を見て俺はぎこちない作り笑いを浮かべる事となる


『スヤー』


そこで安眠発動ですか…ティアさん

悲しいやらなんなんやら、少し悔しい

新しい世界を開拓できることは男の夢ではあるが



チャンスがあるって知っただけで満足しよう

ティアは少し俺を信頼している様だ…初めてかぁ…そっかぁ

今俺達はどんな状況にいるか忘れてしまう程の事態ではあったが、悪くはない


そのまま俺も寝静まるとティアに起こされた


『おはよアカツキ君』


良い目覚めだ、彼女は少し恥ずかしそうにしているが

それは聞かないのが彼女のためでもあるな



その後、部屋を出ると一応もう1泊することを宿員に告げ、フロントの番台で金貨1枚を渡した、明日も泊まる事を告げ、なけなしの資金を渡そうとすると番台員が『夜で結構ですよ』と気を使ってくれた


オズボーンさんの知り合いだからと続け様に安く泊まるのも悪い


それはオズボーンさんに迷惑をかける場合がある、印象が悪くなる時はあるからな


雨は止んでいる

流石テラ・トーヴァ予報士だな、頼りになる


こうして宿を出てから近くの馬小屋で馬を返してもらい、俺達は案内板を見ながらミヤビの冒険者ギルドに馬を走らせる


辿り着くまでは10分もかかった、馬で向かってだぞ?

ギルドの近くに馬を待機させるゾーンがある、しかも警備兵2人付きだから安心だ。


そこに馬を置いてギルド内に入る、内装はやっぱり俺達のグリンピアと変わりはない


外から見れば3階建ての変わった見た目だが、屋内となるとギルドの規定で定められた感じになっているらしい


赤い絨毯を歩き、受付に向かう

左右の丸テーブルには勿論多くの冒険者がおり、依頼板の前には沢山の冒険者が何を受注するかで悩んでいた。


俺は素早く人波を抜け、依頼板の前に行くと気になった依頼書を3枚手にしてから人並みの外で待つティアの元に向かった


『キングゴブリン1体の討伐、コロール3体、棘巻トカゲ2匹の討伐だね』


『あとは追加で現れた魔物を相手に追加報酬を狙おう』


『うん!』


彼女もやる気だ

俺はティアと共に受付に向かい、依頼書を受付嬢に渡し、冒険者カードを提示する。


すると受付嬢は多少驚いた様子を見せてから綺麗な笑顔で口を開いた


『遠征に来た冒険者でしたか』


『エドの伝統的な街並みを見たくて長期旅行のついでに冒険者として活動しようと思いまして』


『いいと思いますよ~、しかも2人でCランクとはなかなか水準高いですね』


『そうなんですか?』


『このミヤビには4チームしかいませんので、一応ここのギルドのボス的チームはグランダールってチームです』


この街のギルドの冒険者でもボス的存在はいるか…

グリンピアでは勿論エーデルハイドだけども、どこにでもやっぱいるんだね


『今そのチームはいるんですか?』


『今日は見ませんね、休暇かと思いますよ~』



なるほど

ニコニコしながら受付嬢が判子を押している間、近くの冒険者に顔を向けてみると、男性冒険者の中に刀を武器にする者がそれなりにいる。


俺の街じゃ殆どいないからちょっと親近感が沸く、勝手な感情だけどな

受付嬢は力強く依頼書3枚に判子を押すと笑みを浮かべて俺に渡してくる


『お気をつけて、北の森迄は気持ち遠いですが、その分魔物のランクも満足いくと思います』


稼げますよと言わんばかりの言い方だ

俺はいい知らせだと感じ、微笑みながらお礼を言ってからティアと共に外に出ると俺達の馬をジロジロ見ている不審な冒険者がいる


『はぁ…』


ティアが溜め息を漏らす

俺もそうしたいよ、あれは宿屋で見た冒険者四人だった

俺でもわかる、何か言われるだろうと


『ティア、絡まれなきゃいいな』


『無理じゃないかなぁ』


否定できん

俺とティアは彼らの前を通過し、見張っている警備兵にチップとして銅貨5枚を渡した


『わかる若者だな』


彼は微笑みながらそう口にした

ティアと共に馬に乗り、北の森に向かおうとした途端

やっぱり話し掛けられた


『おい、お前…金貨5枚で馬を売れ』


『金貨5枚で買えると思ってるのか?』


俺は思わず口にしてしまう

馬鹿にしすぎだからだ、安くても金貨80枚はするんだぞ?

駿馬なら100枚いくぞ…なんだこいつ


俺の返答が気にくわないらしく、ハッキリ聞こえるくらい舌打ちをしてきた


『俺は羅生門のリーダーのガーランドだ、名乗らなくて良いぞ、二人チームなどたかが知れている』


絡まれたぁ…まぁ予想はしていた

だが何故そこまで自信に満ち溢れ、見下す態度なのかわからない

他の者は口を開きはしないが、話さなくても予想つくから大丈夫そうだ


ティア

『ゼルディム君の方が芯があるよね』


アカツキ

『だよな、あいつの下位互換か』


ヒソヒソと彼女と話していると、ガーランドは腕を組んで勝手に話し始めた


ガーランド

『俺達は魔物ランクCを2体倒せばランクCの冒険者となる、この街じゃ4チームしかいない…わかるか?』


アカツキ

『わからない』


ガーランド

『馬鹿に教えてやろう、強い者の言うことは聞いておけ、俺が認めてるんだ、馬をだがな』


アカツキ

『良い馬って評価は嬉しいよ、急いでるからまた今度で頼む』


ガーランド

『あっ!おい待て!』


俺は馬を走らせた

話していても沼化しそうだったし無理やり終わらせるのが利口だと感じたんだ。

何言っても駄目そうだもん


後ろで掴まるティアはクスクス笑い、話しかけてきた


『優しいんだねアカツキ君』


『なんでだ?』


『私達Cって言わなかったしさ』


『過剰評価だよ、あの類いは俺達がCっていっても可笑しな事を言う筈だ…。面(ツラ)の皮厚そうだったし』


『私も思った、あのチームとあまり会いたくはないかな』


彼女もあまり関わりたくないようだ

俺はそのまま馬に乗って北の森に向かったのだった

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