第22話 グランドパンサーのスキル会得作戦

俺達はⅮランク魔物であるグランドパンサーのスキルを会得するため、冒険者ギルドに集まった

昼食としてトンプソン爺さんの屋台でおにぎりを1つ買おうとしたが今日は不在であり

屋台は空になっている


『残念だがロビーの軽食屋でカツサンド1つ買うか』


ティアマトが別の案を口にするがそれしかないだろう

リリディは案外この屋台のおにぎりは好きらしいので残念そうである


ロビーに向かい、依頼板を他の冒険者達と共ににらめっこしながら選ぶとグランドパンサー1体の討伐の他にゴブリン討伐とハイゴブリン討伐の2枚の依頼書があったのでそれを手にし、3枚の依頼書を持って受付に向かうとそこにはいつもの受付嬢アンナさんじゃなく、クローディアさんが受付をしていた


『えぇ・・』


『なぁにアカツキ君、不満?』


『それはないですけどもアンナさんは?』


『有給です、うちでは有休消化を義務付けているのよ?真っ白でしょ?私の綺麗な肌見たいに』


『判子お願いします』


『乗ってこないわねぇ、わかったわよ』


クロディアさんは呆れ顔で依頼書に判子を押し、俺達に渡すと両手を受付に乗せて話してきた


『グランドパンサーは俊敏よ、翻弄されないで冷静に対応すれば今の貴方達でも普通に倒せるわ』


『頑張ります』


仲間を引き連れて真っすぐ森に向かうと海抜が低い、森の奥にある崖付近まで現れた魔物を倒しながら進んでいく


それまでにスキル付きの魔石が出ればいいなと僅かな期待を胸にしていたが、易々とそれは起きない

木々の根が地面を這う場所を歩いているが転びそうになる、近道だから通るけども逆に疲れそう


『ここら辺に来てから魔物も全然現れないね』


ティアが辺りを見回しながら口を開いた、高い木が周りに沢山生えており、太陽の日差しは僅かしか入らないので薄暗い、そのせいで地面は多少ジメっとしているのだ


『こういう時はなんかの縄張りって相場は決まってらぁ!油断してるといつ襲われるかわかんねぇ、石橋を叩いて渡ろうぜ』


よく注意して進もうって事だな

俺達は音に周りの音に意識を向け、ティアマトを先頭にして周りを見回して歩く

そのせいで歩くスピードはかなり遅くなったが、そのおかげで俺達は奥の木の根の下に穴を掘って寝ているグランドパンサーを見つけたのだ、1m半ほどの全長は入る程の穴のすっぽりおさまり、スヤスヤ寝ていたのだが寝込みは好都合過ぎる


リリディをティアはニコニコしながら俺に顔を向けるのでここは開幕ブッパの開闢が可能だと思い、刀を触ろうとしたのだがそれは出来なくなる


『ブシュン!!!』


ティアマト、盛大なくしゃみ


『グルッ!?!?』


そのせいで寝ているグランドパンサーが起きてしまい、直ぐに俺達を見ると穴から出てきて牙を剥き出しにし、敵意をあらわにする


『石橋を・・・叩いて壊して渡る』


ティアがボソッと囁く、せっかくのチャンスだったがティアマトは苦笑いしながら軽く頭を下げている


『グルァァァァァ!』


『来るぞ!』


俺はグランドパンサーが鳴くと口を開き、ティアマトと共に走り出した

後方からはティアとリリディが追従しているが何かあれば彼らのサポートに頼るしかない



『!?』


俺とティアマトは驚いた、グランドパンサーという大型犬の様な魔物はジグザグに不規則な動きを見せつけながら俺達に襲い掛かって来たのだ、そのせいでどう来るかを予測できず、僅かに狼狽えていると直ぐに斜め方向からグランドパンサーが勢いよく飛び込んで来た


『うわっ!』


俺は刀を上に向けたまま深くしゃがみ、間一髪避けれたが奇跡的に刃を立てていた刀にグランドパンサーが僅かに振れ、腹部が浅く斬れたんだ

距離を取って着地したグランドパンサーは腹部を舐めると再び唸り声を上げ、四方を縦横無尽を駆けまわる


『速いですねこれ』


リリディが少し驚くがⅮランクに似合わぬスピードを持っているのはわかる

俺達はそれを目で追い、一度足を止めたグランドパンサーに刀を鋭く突いて居合突きを放つが俺の真空の突きは奴に当たる前に避けられ、そのままリリディに飛び込んでいく


『くっ!』


果敢にもスタッフを振って応戦する彼だが振り出した攻撃は飛び込んでくるグランドパンサーに当たると逆に弾かれ、リリディは尻もちをついてしまったのだ


『ラビットファイアー!』


着地をする前にティアは火の弾5つを放ち、グランドパンサーに当たると命中し、当たった部分が燃えるが、グランドパンサーは直ぐに素早く周りを走るとその火を消し止めたのだ


『翻弄されてんな、どうするよぉ!』


『待とう!攻撃しようと突っかかっても俺達はあいつより遅い!来るのを待つしかない』


『私もそれが良いと思う、追いつけない速度はあっちから来るのを待つ方が良いと思う』


ティアも同意見だ、皆は背中合わせで動き回るグランドパンサーに意識を向け、集中した


『気合入れるぞ、俺達は!』


『『『剣より強い!』』』


『グルァァァァ!』


ありがとうグランドパンサー、しかし奴は地面を走る事を止め、四方の木々を自慢の脚力を使って蹴って移動し始めたのだ

その光景に流石に驚くしかない、まるで飛んでいるように見えるからである


『ランクⅮのトップらしいな、だが』


ティアマトが言い放つと、言葉の続きを俺が口にする


『見えない程じゃない』


木を脚力だけで蹴って別の木に移動していたグランドパンサーはティアに襲い掛かると彼女は後方に倒れながらそれを避け、俺とティアマトはグランドパンサーが通過する前に側面を同時に切り裂いた


宙に舞っている時は避けれないだろ?それが攻撃チャンスだ


僅かに奴が『キャン!』と情けない声を上げると倒れたままのティアは腕を伸ばし、素早くショックを放つとそれは見事に命中してグランドパンサーがビリビリと感電して麻痺したのだ


その隙に俺は刀を力強く納刀しながら開闢と叫ぶと鞘から瘴気を噴出し、その中から黒騎士が勢いよくグランドパンサーの体を深く斬り裂き吹き飛ばす


木の強く叩きつけられたグランドパンサーはそのまま地面に倒れると息絶え、発光した魔石を体から出した


俺はガッツポーズし、喜ぶを表すと皆も嬉しそうな表情を見せる

長い戦いでは無いのに息が上がる、目で追う時に息を殺して見ていたのであまり呼吸してなかった様だ


『とんでもなく素早い野郎だ、ほらアカツキ』


俺はティアマトに急かされ、グランドパンサーの体から出て来た発光する魔石に近付いて手を伸ばす

確かに動体視力強化のスキルだとわかるよ

俺はそれを握りしめると光を体に吸収し、魔石を回収する


『面倒な魔物ですね、あれに慣れれば先も楽に進めそうですけどね』


『そうだね、リリディ君のフルスイングをあの質量の体で弾くのも凄いよね』


『いきなりでも結構本気で振ったんですけどね』


ティアと話すリリディは苦笑いして見せていた


『ティアは怪我無いか?倒れたけど』


『大丈夫だとアカツキ君、わざと倒れただけだから』


『それならいいが』


『依頼書の3枚はこれで終わりだしあとは街に帰りながら魔物倒していこ』


『だな』


俺達はそのまま森を出るように進み、川辺を沿うようにして進む

丁度昼時にグランドパンサーと戦ったため、昼食はまだだが川辺付近は見晴らしが良いのでここらでカツサンドを食べることし、川の近くに座って休み始める


川の上にはまたエレメンタル・アクアがフワフワと浮遊しながら辺りを徘徊しているが無視だ


『平和な魔物ですね』


『エレメンタル種でも温厚らしいなあれ』


リリディとティアマトが川でウロウロするエレメンタル・アクアを見て話すとティアが答えた


『本当に温厚だからね、持ってるスキルもアクアショットだし痛い水滴が当たる程度だから誰も欲しがらないからかも』


それなら狙われる必要もないだろう

俺達はエレメンタル・アクアがウロチョロするのを見ながら昼食を食べるという変わった事をし、完食すると勝手にエレメンタル・アクアに別れを告げてその場を後にした


帰るだけの道、皆の足取りは軽く、リリディなんて川の中の魚を眺めながら歩いている


俺も空を飛ぶ鳥を見て歩くが魔物の気配など感じない、あるなら魔物感知スキルのレベルが高いリリディがアクションを起こしているからだ


だから緩やかに歩く事が出来ている

奥から気配がしたリリディは指をパチンと鳴らし、それを俺達に伝える


直ぐに彼が向いている方角、すなわち俺達の帰る方向に意識を向けて武器を構えるとゴブリンやハイゴブリンが走ってきたのだ


既にこいつらは一定数倒したから用は無いがおまけで稼ぐのも良い


『やるか!』


『そうなるな、ティアマト頼むぞ』


『おうよ!…んあ?』


彼に声をかけ、任せようとしたが魔物の様子が可笑しい

俺達を見て襲ってくるような顔つきじゃなく、何かに怯えて走っているのだ

奴らは俺達なんて見向きもせず、横を必死で走り抜けて森の中に去っていくのを見て俺達は嫌な予感がしたのだ


『不味いぞ、一旦この場から離…』


皆にそう言いながら振り返ると、リリディだけは違う顔をしていた

口を半開きで酷く体を震わせ、『駄目だ…』と僅かに口元を動かして囁いていたのだ


『おいリリディ、とうとう脳が可笑し…』


その瞬間、俺達全員が彼が感じていた気配に気づいた

物凄い気であり、それは俺達が感じた事のない気配に近い、将軍猪などに遭遇した時にはみんな気配感知がなかったが、今の俺達ならあの猪の気配も感じれる


だがしかし、どうみても将軍猪が放てるような気配ではないことは確かだ

皆体を小さくし、震える


どうしていいかも判断がままならない俺達はただただその気配がする方向に顔を向けたまま立ち尽くしているとそれは向こうから堂々とやって来たのだ

それは2足歩行の人型の羊、身長は3m程と大きく、頭部側面の角は1回転して斜め上を向いている


目は鋭くて赤い、あの目を見ただけで俺は今にも気絶しそうになるが何とか意識を保っていることを自分で褒めたい

茶色の体毛には部分的に黒い毛も混じり、両手は3本の爪が鋭く伸びているのだが右腕のみに金色のブレスレットや高価そうなリングを沢山はめている


腰には薄汚れたマントをつけているが僅かに地面についているから先端が酷く汚れていた


あの気配を感じているだけで息が苦しい、酷い金縛りで動けない

逃げなければならないのに俺達は脳と体が分断されたかのように体の自由を奪われているのだ

視線だけを動かし、仲間を見ても俺と同じ反応を見せているだけだ

ティアなんて半分泣いてる


現れた不気味な人型の羊は体の周りに生き物の様に動く瘴気を纏ったまま、ジリジリと俺達に近付いて来た


《不味いねぇ兄弟》


『あ…テラ・トーヴァ…』


《ははは!まぁ今のお前らには絶対に無理な相手だぜ兄弟!あいつはAランクの中でも闘獣と称された3体の中の1体、金欲のアヴァロン…龍にも負けない光る物が大好きな羊ちゃんだ》


『ど…す‥ば』


《おいおいしっかりしてくれよ、これに立ち向かえるほどに強くならないとゼペットなんか戦えないぜ?まぁ俺がここまで焦ってないのを疑問に思えよ、まぁ無理か》


開闢スキルであるテラ・トーヴァが話しているうちに金欲のアヴァロンは俺達の前で止まり、顔を覗き込み始める

リリディは見つめられた瞬間に白目を剥いてバタリと倒れてしまうが気絶したのだろう

それが普通だ

他は体に力を入れて耐えているが、この状況では生きることを諦めるほかに手段はあるのか?


気配感知でわかる実力差は何回挑んだって戯れる程度で殺される未来しかない

こいつの強さの底が見えなさすぎる


『人間カ、興味はナイ…シカシ』


老いを感じさせる静かな声をアヴァロンが発する、それを聞いただけで額からドッと汗が噴き出ると彼は顔を持ち上げ、俺達を無視して歩いていきながら言い放ったのだ


『強い人間ハ別ダ、ここにはイナイ、マダ』


彼にとって俺達4人は手を出すまでもない虫以下だと言うことか

悔しいと思わない、助かったと安心が大きい

あの気配が遠くにいくと俺達はその場に座り込み、大きく何度も呼吸をした。かなり息苦しさを感じてたし呼吸を忘れてたのだ


『ティア、大丈夫か』


『うん、あれ…なに』


『何なんだよ…あの…化け物ぉ』


『テラ・トーヴァが金欲のアヴァロンと言ってたが魔物ランクAの中でも上位である闘獣(トウギュウ)だとさ』


『なるほど…な、生き延びたことがこんなに幸せに感じるとはなぁ』


『ティアマト、平気か?』


『目でもやられたかアカツキ、平気に見えるわきゃねぇだろ…リリディ見てみろ、俺もあと少しでこうなりかけたぜ』


リリディは仰向けで白目を剥いて気絶している

俺は体を必死に動かして彼を起こす、リリディは慌てた顔のまま上体を起こすと

スタッフを構えるがその必要などない


『リリディ君、大丈夫だよ?』


『なっ!?…さっきの化け物は』


『行ったぜ?どうやら俺達は眼中無しだとさ』


ティアマトが答えるとリリディは一息ついてその場に座り込んだ

俺もかなり今の一瞬で疲れてしまった、それはティアマトやティアも同じだろう


『あれがなんでここにいるんだ』


『偶然にしてもだ、これ報告しないと駄目じゃねぇか?』


『僕もそう思いますよ、あの桁外れな威圧を放つ魔物は街を半壊させるのも容易いでしょうね』


『私もクローディアさんに言った方が良いと思う』


誰もが報告が必要というが、それ以外考えられない

俺達はそのまま真っすぐ帰り、冒険者ギルドに向かった

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