第234話 13 安心する手
グリンピアに帰る道中、やはりダンカートの街に足を踏み組むと素通りは出来ない
クリスハートの実家である男爵の屋敷に向かうと、父のリクゼンと長男のキャリヴァンは留守にしていたが、母親のエミが1日くらい止まって生きなさいと娘に微笑みかけたのだ
辿り着いたのは夜の7時
クリジェスタとエーデルハイド御一行はクリスハートの母親のエミ、そして妹のクリスを交えての夜食となった
食堂の入口にはメイドが2人待機しており、騎士がエミとクリスに1人ずつ背後に立っていた
贅沢な料理にクワイエットがガツガツと食べる最中、アネットはルーミアと海老の刺身を初めて見て何やら話し出す
アネット
『やばい、これ醤油つけるとバリ最強』
ルーミア
『大袈裟じゃない?』
アネット
『試してみてって!』
ルーミアは半信半疑で海老を醤油で食べる
彼女の目は輝き、ニヘラと笑いだす
リゲル
『海老か』
シエラ
『嫌い?』
リゲル
『いや俺は大丈夫だが…ロリはミニトマト避けてるのはなんでだ?』
嫌いだからである
大きなトマトはまだ食べれるが、ミニは駄目だと彼女は豪語し始めた
クワイエットはそんな話をしているシエラに見向きもせず、ひたすら口に大量の料理を詰め込んでいく
食べるという時間では彼は自分の世界に入ってしまうのでみんなあまり話しかけない
そして彼自身、周りをあまり意識しないという変な傾向がある
クリスハート
『クリス、あなたもミニトマト避けましたね?』
クリス
『えぇ?気のせいですねぇ』
クリスハート
『…』
彼女は目を細めて妹を見つめるが、肝心の妹は視線を逸らして羊の肉の入ったスープを口に運び始めた
母であるエミが『好き嫌いは身長が伸びませんよ?』というとクリスだけじゃなく、シエラまでもギョッとした顔を浮かべる
この2人の共通点、それは身長が低いことだ
揃って146センチという悲しい現実を前に2人は何故か顔を見合わせ、渋々ミニトマトを食べ始める
皆がお腹いっぱいになると、バニラアイスが全員に振る舞われる
貴重なアイスというデザートにエーデルハイドの女性陣は幸せそうな顔でスプーンを手に目を輝かせ、クリスハートはそれを苦笑いを浮かべて見ていた
彼女は貴族なので幼い頃に沢山食べていた、だから慣れているのだ
普通アイスはあまり一般的に流通しておらず、シャーベットでしかアイスは提供されない店は多い
クワイエット
『それにしてもさ、リゲルの称号凄いよね』
シエラ
『化け物』
リゲル
『人に使うスキルじゃねぇな、撃った瞬間に肉片飛び散るだろうしよ』
アネット
(どんなスキルなのよ)
ルーミア
(絶対確殺マンやね)
リゲル
『ルシエラ、足の怪我は大丈夫か?』
彼はふとクリスハートの足の心配を口にした
いきなりの事で彼女はワッと驚くと、顔を赤くして視線を逸らす
その様子を、彼女の母であるエミは絶対に見逃さない
エミ
(あれは…昔私も体験したメスの顔…)
母は思った、やはりあの男が娘の意中
であれば逃がしてたまるかと強く願った
公爵家と繋がりがあり、そして聖騎士にも顔が利く
貴族じゃないにしても、リゲルはこの家に帰しきれぬ恩恵を与えている
無下に出来るはずがないのだ
貴族会に参入出来たのは彼のおかげだからだ
クリス
(お姉様、この前よりもメス…)
リゲル
『おいどうした?』
エミ
『娘の右足首の捻挫はもう少しでかかりつけの医者が来るのでご安心を、結果は騎士にご報告させます』
リゲル
『わかりました』
エミ
(アハト・アハトですか。称号の最終地点に行けた人を初めて目の前にしました)
それにステータスも拝見していた彼女は険しい顔を浮かべ、頬杖をつく
クワイエットも同じく極の地点に辿り着けば確実に国は見過ごす筈がない
いや、すでにいつ知れ渡っても可笑しくはない2人組だと彼女は悟る
人間が知らない称号、アハト・アハト
人が無関心になる筈がないのだ
クリス
『ねぇリゲルさん。お姉様より私の方がなんでもして上げれるよ』
色気を使いだす妹にクリスハートは慌てて妹の頭を叩く
母はそれを見て笑い、家の安定を微笑ましく思う
こうして部屋に戻った各冒険者
移動疲れて女性陣は部屋に籠ってしまったのでリゲルはクワイエットと共にギルドに顔を出す事にした
屋敷から15分と意外と近い距離の為、苦労は無い
だがギルドの中に入ると冒険者は飲み食いしている十数人程度しかいなかった
その中に街一番であるマジック・ナイトの全員がいたが、2人は目すら合わせずに辺りを見回す
横にある飲食店を見つけカウンター席に座ると、一緒にサイダーという炭酸ジュースを注文する
グリンピアにはまだ流通してないが、ここにはサイダーがある
実は2人共これが大好きなのだ
リゲル
『久しぶりじゃね?』
クワイエット
『本当だよね。僕らの街にあればいいのにさ』
リゲル
『だよなぁ、勿体ねぇ』
こんな話をしていると、絡んでくる者はいる
直ぐ後ろの丸テーブル席にいた冒険者5人は彼らの会話を耳にし、酒を片手に2人に話しかけたのだ
『んだぁお前ら、田舎街から来たのか』
リゲル
(あ、めんど)
クワイエット
『そうだね、サイダー無くてさ』
ここは田舎人が来る場所じゃねぇぞ、と男の仲間が笑いながら口を開く
2人は酔っ払いの勢いだろうと感じたので刺激するような言葉はしないように心がける
だが酒が入っていると人は判断力が著しく低下し、しつこさを増すのが道理だ
『何しに来たかはわからねぇがお土産買って帰んな』
うざ絡み、リゲルは溜息を漏らすが一切顔を向けない
クワイエットは苦笑いを浮かべて話を無理やり切り、サイダーをリゲルと乾杯して飲み始めた
のどを潤す冷たさに炭酸の絶妙なバチバチした感覚に2人は一気に飲み干し、『御代わり』とマスターに告げる
するとそこで受付嬢がギルド職員と慌ただしい様子を見せ、ロビーに響き渡るように大きな声で冒険者に緊急連絡を告げたのだ
『調査隊による報告です!南の森にガルフィオンが現れたそうですので緊急依頼参加可能な方は受付まで集まってください!』
これはロビーに残る冒険者は驚いた
ランクBの狼種の魔物であり、これは以前クリジェスタとエーデルハイドが倒した事もある魔物だ
全長10メートル、綺麗な青い毛並みの大きな狼
背中から尾まで伸びる白い毛は周りの青い体毛より僅かに長く、そして頭部は2つの角が生えている
両前足の爪は鋭く、人間など軽く引き裂けることが出来る
リゲル達に絡んだ冒険者達でさえガルフィオンという名に驚き、酒を飲みながら口を開く
『Bだぞ?マジック・ナイトと同列チーム3組いなきゃあんなの無理だぜ』
『ワンチャンあれだ、田舎者を囮に噛みつかれている隙に四方を囲んで袋叩きしかないかもな』
クワイエット
(好き勝手言わないでよぉ…)
冒険者達がどよめく最中、立ち上がったのはマジック・ナイトだけだった
運悪く、今この場には他にCランクのチームがいなかったのだ
ここには十組以上もCランクのチームがいる、しかし今回はタイミングが悪かったのだ
マジックナイトという女性だけの冒険者チーム
ナナ・ルワンダ 剣士
ミコ・サルーシャ 槍
ルーシー・マルタ 魔法使い
マリー・タッタランド 魔法使い
ナナ
『ちょっと!あんたら酒飲んでないで手伝ってよ』
『酒飲んでたら食われるだけだ、悪いな』
ミコ
『ナナ、仕方ないよ…』
ナナ
『どうしよう…ガルフィオンは初めてだし』
マリー
『かなり素早い狼だね、私とルーシーはちょっと苦手な魔物』
ルーシー
『頭がいいから魔法使いを狙うっての聞いたことある。でも避けるだけならなんとか』
彼女達は悩んでいた
今から同ランクのチームを呼ぶべきか。急ぐべきか
街の顔でもある彼女達は深く考え込んでいると、クワイエットが椅子を回転させて彼女達に助言を口にした
『発光弾使ってもガルフィオンは効かないから気を付けてね?あとブレスショットは触れると小規模な爆発が起きるから大袈裟に避けないと一発であの世だからもっと注意』
ルーシー
『!?』
彼女達はクワイエットとリゲルがギルドに入ってきたのを見ていなかった
いると気づくと、ナナは彼らに急ぎ足で駆け寄った
薄々何を言われるか気づいてしまったリゲルはクワイエットに視線を向けるが、その目は異常に細い
クワイエット
(あはは…でも知らない振り出来ないしなぁ…)
ナナ
『お願いします。協力してくれませんか?』
マリー
『お願いしますルシエラ様の婚約者様』
リゲル
『ぶふぉっ!?』
リゲルは飲んでいたサイダーを拭いてしまう
これには周りの冒険者も驚かざるを得ない
クワイエットですら呆気に取られるほどに強いパワーワードだったからだ
リゲル
『ゴホッ…ゴホッ!お前それだけが言った』
マリー
『キャリヴァンさんが』
クワイエット
(策士キャリヴァン)
リゲル
(あいつあったらしめる)
クリスハートの弟のキャリヴァンに上手く言われていたことをリゲルは知る
いつか殺す、そういう目標を胸に彼は溜息を漏らして彼女達に口を開いたのだ
リゲル
『魔法使い、スピード強化3あればいける…あるか』
マリー
『私はありますがルーシーが』
マスターウィザードである彼女が無い事にクリジェスタは驚く
普通持っておけ、2人はそう言いたくなった
冒険者
『猫の手じゃなくて田舎の手も借りるほど焦る事かマジナイちゃん』
冒険者
『Cを集めるしかないんじゃねぇか?』
ナナ
『でも…』
リゲル
『一応聞くぞ女、ブラッククズリ相手にピンで倒せる野郎を5人以上いりゃガルフィオンは倒せる、だがブラッククズリの攻撃を避けれない奴らが言った所で死にに行くだけだ。B舐めんな?数でなんとかなるとかゴブリンみてぇな思想はやめろ』
彼は嫌がらせで言ったわけではない、事実を述べただけだ
間違えば死という取り返しのつかない失敗が付きまとう冒険者だからこそリゲルは棘のある言葉と睨みを見せる
実際、ナナとミコしかブラッククズリの攻撃を全て避けれない
他の同ランクを集めたとしてもいるかどうかさえ怪しい
CとBの壁は大きいのだ
冒険者
『お前マジック・ナイトに何説教垂れてんだ?』
冒険者
『こっちの問題だ、数で押すのが道理だろ』
クワイエット
『だから死亡者が出るんだよ。適切な人間を適切な数を集めて向かうのが基本だけど』
彼はわざとらしくロビー内に響き渡る声で言い放った
その声は受付奥で作業している数名のギルド職員も聞いており、一番奥にいる立派な机に座るギルドマスターらしき者にも聞こえていただろう、彼の顔が少し険しい
赤髪の中年の男、40代後半といってもいいだろう
机の横には鉄鞭が立てかけられており、冒険者の服装に近い
クワイエットはカウンター席から彼を見つめたが、ギルドマスターらしき者は僅かに微笑むと視線を外し、再び書類整理に勤しんだ
クワイエット
(あれはわかってる…あえて言わないのか)
するとギルドマスターらしき者は書類を見回しながら口を開いたのだ
『君らにこの権に関して委託する、報酬は金貨40枚でどうだ?』
受付嬢
『サイパンさん!』
サイパン
『俺が責任を取る、出来るだろう?リゲル君にクワイエット君』
名前を知っていたことに驚きはしない
2人はお代わりのサイダーを飲み干すと、席を立って受付に歩き出した
するとサイパンというギルドマスターは椅子から立ち上がり、腕を組んで2人を真剣な眼差しを送る
リゲル
『知ってんのかよ。だから黙ってたか?』
サイパン
『いや、それもあるが残念な事にここの冒険者諸君は講習会に意欲を見出せないらしくてな。クワイエット君が言っていた適切な対処、適材適所の講習を受ける冒険者はまだいない』
クワイエット
『命を買える講習会なのに』
サイパン
『私はここの冒険者は生きるも死ぬも自己責任の意思が強いと判断したまでだ。』
リゲル
『まぁそれは理解するけどよ、なんで知ってる?』
サイパン
『ギルドの人間で君らを知らぬ者はマグナ国内にはおらんと思うのだがな?唯一2人だけで冒険者ランクAに登り詰めたクリジェスタ。他のチームでも4人組が最低人数なのにお前らは2人…君たちはマグナ国でもSに匹敵しているのではと囁かれているのだよ』
これにはロビー内の冒険者が口を開けて驚いた
2人に絡んだ冒険者は不味い人間に絡んだと知り、小さくなっていく
サイパン
『元聖騎士の1番隊、その中でもエリート中のエリートと呼ばれた2人…。冒険者で知らぬ者こそ田舎者であろうな』
2人に絡んだ冒険者達は更に小さくなる
途端に周りでは驚きの声が上がり始めた
『あのクリジェスタかよ…国内の最強各とか言われてんだろ?今Sなんて五傑の閻魔騎士ブリーナクんとこと風花水月ミランダだけだろ』
『あれと同格とか化け物だろ…2人でガルフィオン楽勝じゃねぇか』
リゲル
『おい女、ちゃんと講習受けるってんならついてってやる…。講習会は命を買う場だ、知識が自身を生かすってのを知れ』
彼は強く言い放つと、彼女達は直ぐに頭を縦に振った
こうして彼らはマジック・ナイトの4人と共に南の森に向かう事となったのだ
真っ暗な森の中、雪は無く多少肌寒いだけ
完全に春が来る兆しが見え隠れしている季節の中をクリジェスタは彼女達を先導して歩く
リゲルが発光魔石を左手に辺りを照らして進むと、アンデット種であるゾンビナイトやゴーストが茂みの奥から姿を現す
だがそれらは全てマジック・ナイトに任せ、自分たちは常に遠くの気配まで意識を集中しながら予期せぬ事態に備えた
ナナ
『あの…ガルフィオンって初めてなのですが』
クワイエット
『ブラッククズリがもう少しすばしっこくなって巨大で尚且つ魔法スキル放つ、ステータスが総合的に高くないと死ぬよ』
リゲル
『魔法を放つ時は発動が僅かに遅い、そんときゃ全力で飛び退け…じゃねぇと肉体バラバラだぞ』
マリー
『きっつ』
クリジェスタの二人は鞭を打つ勢いで彼女達を指導しながら森を進む
一方その頃、ダンカート家の屋敷で右足の怪我を見てもらったクリスハートが母親のエミに呼ばれ、中庭に来ていた
騎士二人を連れ、クリスハートは松葉杖をついている
何故私を読んだのだろうと考えが、まとまらないクリスハートは空を眺める母に聞こうとしたのだが、そのまえに聞かれたのだ
『貴方は自由です。真面目ですが嫌なことは全力で嫌がる…育てるのが一番大変でした』
『あはは…、はい』
『男が苦手な性格も婚約の話からでしょうが、その心配もリゲル君を見ていると安心します』
『なんでリゲルさんですか…』
『貴方はあの人の手を握ることに抵抗はないのですか』
そう言われると、何故か恥ずかしくなるクリスハート
答えは顔に書いてあると言わんばかりに母親は微笑む
『あの人は見た感じは素直さはありません、偏屈そうな人ですが…』
(流石お母様)
『貴方はあの人の良い所を誰よりも知ってしまったから好きになったのでしょう?』
そうかもしれない
確かに素直ではない、だがそれを相殺するほとの心を彼は持っていた
仲間を守る意思の強さ、面倒見の良さ
だから彼は後輩に好かれやすい
それはクリスハートじゃなくとも近くにいる者ならば理解している事
しかしクリスハートはそこよりも嬉しかった事があった
自身のためにならば命を投げ捨てる意思、大事にしてもらえた特別な存在という感覚に彼女は気が付けは彼を好きになっていたのだ
いつもの恥じらいはない
整理がつけば心地よく感じた彼女は空を眺めながら微笑む
あなたを好きになって良かった、と
本人の前で言える勇気はまだない、しかし
二人は共に気づいている
お互いがお互いをどう思っているかを
『ああいうタイプは尻に敷かれます。貴方を裏切る事はしないでしょう』
『だと思います』
『大事にされてると思ったなら大事にしなさい、でも無理をしていると思ったときは全力で止めなさい、リミッターが外れた者は早死にしてしまいます。貴方次第です』
母親のエミは騎士を連れて屋敷に入っていく
取り残されたクリスハートは寝るには丁度良い時間だが、まだ帰らぬ二人が気になって中庭のベンチに座って待つ事を選んだ
(どうせなんかに巻き込まれたんですね)
その通りだった
彼女はウトウトしながらも待っていたが、気づけばベンチで寝てしまった
ハッと目が覚め、今何時だろうと焦りを見せてると隣から声が聞こえてくる
『起きたか』
『わっ!』
リゲルだった
腕を組んで彼女の隣に座っていたのだ
起こせば良いのにとクリスハートが話しても、リゲルは困惑する
『中に入るぞ、夜更かしは治りが遅い』
『そうですよね』
立ち上がるリゲル
クリスハートは無意識に彼の手を握ってしまう
だが彼は動揺しない
彼女は立ち上がると、パゴラ村での出来事をもう1度感じたいがために彼に近づいた
うつむき、静かに彼の胸元に頭をつける
それだけで彼女はわかるのだ
ここが落ち着く、と
『どうした?体調悪いのか?』
『いえ、違います』
『そうか』
彼は少し考え、一息つくとクリスハートを抱き寄せた
これには彼女も心臓が破裂しそうになる思いになったが、リゲルは『悪くない』と口を開く
互いにそのままの姿勢で数分も離れない
だが変化があったのはリゲルだった
抱きついてると眠くなる、彼はそう言ってクリスハートと離れると屋敷に視線を向けた
『起きてたら治るもんも治らねぇ、行くぞ』
『そうですね』
クリスハートはこれが恋なのかと知る
リゲルはこれが安心なのかと知る
彼女の自室に送る屋敷の中、リゲルは物珍しそうに辺りを見渡しながら歩いていると、隣を歩くクリスハートが口を開く
『グリンピアに帰れますね』
『まぁな、予定より早い段階で帰れたからゆっくりできる』
『多分もうイディオットは…』
『やつらは出発してる筈だ、あいつらはあいつらでなんとかする』
『そうですね』
『まぁ帰ってきたらしごいてやるか』
『その前に学園の仕事が忙しいのでは?』
『あぁ忘れてた』
彼は苦笑いを浮かべる
以前よりも多く笑うようになった様子にクリスハートは僅かに微笑む
彼女を部屋に送り届けると、部屋の前には騎士が1人待機している
彼は2人に気づくと僅かに頭を下げるが、きっとそれはクリスハートに対しての姿勢だ
騎士
『お疲れ様です』
クリスハート
『お疲れ様です。私はもう大丈夫なので控えに戻っても問題ありません』
騎士
『しかし…』
リゲル
(敵意無し…か)
彼は一足先にその場から立ち去る為、歩き出す
騎士とクリスハートは廊下を歩く彼を見えなくなるまで見守る
(…)
彼女は右手を胸元まで上げ、その手を見つめる
握られていると不思議な安心感を与えるあの手の感触が僅かに残っており、彼女はそれを感じていた
『ルシエラ様、ご失礼ながら聞いてもよろしいですか』
『なんでしょう』
『あれが今有名な2人組のクリジェスタのリゲル・ホルンですか』
彼は一度リゲル達がここに来た時は非番であり、休暇を取っていたので顔を合わせていない
今日が初顔合わせだったのだ
ダンカート家に仕えて10年の手練れた30半ばの騎士は溜息を漏らすと、静かに話し始める
『隅々まで見られているかのような視線に僅かに緊張しました。流石聖騎士の上位騎士と納得できますが…あれが貴方様の想い人とは』
クリスハートは恥じらいもなく、騎士に微笑むと堂々と答えた
『普段は無駄にツンツンしてますが、世界で一番信頼できる人です。』
奏でるは人の世。握るは誰の手 終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます