第177話 幻界編 17
外に出ると驚くぐらいに静かだ
カサカサという不気味な音すらしない
だからこそ足音に気をつけて歩いても俺達の足音は僅かに響く
隣にいるティアの吐息ですら聞こえるくらいだ
きっと俺はかなり集中している筈
武器を構えながら進んでいるとロイヤルフラッシュ聖騎士長が止まれの合図を出す
彼は目を細め、回りの廃屋を確認したのちに進む指示を出した
クー、と可愛い腹の音
全員が歩みを止め、視線が一斉にリリディに向けられた
申し訳なさそうな表情だが仕方がない
みんな空腹だからな
リリディの足元にはギルハルドが並んで歩いており、賢いからこそ鳴くことはしない
『!?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は驚いた顔を浮かべ、正面に見えてきた大きな教会を指差す
あれが地下を抜ける出口となる建物だ
まだあまり朽ちた様子はなく、洞窟全体を覆う程の大きさだ
クローディアさんが険しい顔で頷くと、ロイヤルフラッシュ聖騎士長も頷き、前に進み始める
教会の扉は細長い大きい
石柱が左右に立てられ、その上には朽ちた銅像
なんの像だったのかはわからない
大きな扉を押して静かに入ると、驚くほどに明るい
高い天井からは光を放つ魔石が設置されたシャンデリア、まだ光が生きている
どこから魔力を供給しているかはわからないが、扉の先がいきなり聖堂とは驚きだ
『馬鹿な…』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が囁く
聖堂に住まうケルベロスがいないからだ
1番奥には登り階段が見えるが、15メートルあるケルベロスが通れるとは思えない
『警戒せよ』
聖騎士カイが小声で部下に指示を出すと、俺たちも辺りを見回しながら前を歩く
ここにも足枷のついた骸骨が点々と散らばってるが、どれもバラバラに近い
リゲル
『完全にいねぇぞ』
クローディア
『可笑しいわ、本当にいない』
ティアマト
『寿命で死んだか?』
アネット
『なら死体残るでしょ…』
デスペルの話は嘘か?いやしかしジェスタードさんが残した記録魔石にはちゃんとケルベロスはいる事実を話している
リュウグウ
『どういう事だ』
『ニャハ?』
リリディ
『いない、らしいです』
ドミニク
『ラッキー?』
カイ
『油断するな』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『進むぞ。もし現れたら直ぐに戦闘だ』
ゲイル
『いない方が嫌な予感しかしないな』
こうして何事もなく階段まで辿り着けると思っていたがそうでもなかった
ある位置まで歩くと、全員を囲むように地面から銀色に輝く魔方陣が現れた
あまりの出来事に体が固まってしまう
その行動が命取りになるとはな
『何これ!』
魔方陣から出ようとしても見えない壁に邪魔されていて抜け出せない
罠にまんまとハメられた様だ
クローディアさんが『転移魔法!』と叫ぶと同時に俺は必死の思いでティアの腕を掴む
何故ここにそのような装置があるのか
このままでは全員がバラバラになる
そうなれば帰れる可能性が限りなくゼロに近くなるだろう
せめてティアだけでもと手を掴んだはいい
次に起きるは強制転移、
眩い光に俺達は包まれた瞬間、直ぐに別の光景が目の前に広がった
俺は見知らぬ場所に驚愕を浮かべる
どこかの貴族様の館の中の様だが、かなり朽ちているな
『アカツキ君、大丈夫?』
『ティア!無事か』
『平気だよ』
俺はホッと胸を撫で下ろす
彼女だけでも何とかしようと思っての行動だったが
それは良い意味で無駄だった
リュウグウ
『変態が』
アカツキ
『え!?』
リリディ
『あれ?偶然な面子』
ティアマト
『イディオット勢揃いか』
チームで飛ばされたのか…
となるとますますわからない
何故こんな偶然が起きたのか。勿論ギルハルドもいる
それに対し、ティアは『意図的に誰かが私達に転移魔法を放って切り離したとかの線に近いかも』と言い放つ
ありえない、そんなの聞いたことがない
長い廊下にいる俺達は窓から外を眺めた
とても大きい館だとわかる、外は真っ暗で奥まであまり見えないのが悔やまれる
『シレンを与えル』
『『!?』』
またあの声が廊下に響き渡る
誰の声かなど考えなくても薄々気づいているさ
これは幻界の主の声なんだろ?きっとそうだ
アカツキ
『試練…』
リュウグウ
『多分だが、他の奴等も…』
リリディ
『何の試練なのか、どのみち進むしかないですね』
ティア
『そだね。』
するとティアマトが険しい顔を浮かべながら廊下の先に視線を向けた
天井に点々と設置された証明魔石、殆どが砕けていたが比較的綺麗な魔石はまだ僅かな光を放ち、廊下を照らす
ギィ、と不気味な音が暗闇の方から聞こえてくるがティアマトはそれに気付いていたのだろう
お化け屋敷のような雰囲気が苦手なティアは俺の後ろに隠れて顔を出す
ティアマト
『リリディ、今は冗談無しだ』
リリディ
『わかってますよ。』
アカツキ
『後ろからも…だと』
ティア
『不味いね』
アカツキ
『ティア、リュウグウ、俺たちは後ろだ』
微弱な風が廊下を流れ、不気味な風音を鳴らす
本当にお化け屋敷みたいだ、てかお化け屋敷の方がマシだ
『ゲェ…ゲェ…』
ティアマト
『きっも』
彼らの前に現れた見たこともない魔物
全身が紫色の鱗、人型で身長は二メートル近い
風船のように膨らんだ頭部には至るところにギョロ目、そして大きな口だ
人間のように5本指、見た目から判断すると攻撃方法はあの大きな口だな
特殊な頭部をゆらゆら揺らしながら現れた魔物の名は幼い頃に父さんに読んでもらった本の魔物にかなり似ている
バザック
夜更かしすると風船のように膨らんだ頭部を揺らしながら大きな口で子供を食べるといった子供を寝かしつける時の本を俺は思い出す
本での鳴き声もゲェゲェだったな
となると弱点は…
アカツキ
『槍が有効かもしれない』
リュウグウ
『適当か?』
アカツキ
『多分ってだけだ、こっちも来たぞ!』
『ゲェ!ゲェ!』
左右に1体ずつ、挟み撃ちだ
その魔物は足を止めた瞬間にジグザグに屈折した軌道を描いて駆け出してきた
速度は十分、グランドパンサーより速いな
『頭に代謝が行き届いてないらしいな!』
リュウグウはバザックに視線を向けたまま言い放つ
奴の動きを見極め、彼女は俺やティアと共に走り出すと噛みつきを避け、首に槍を突き刺す
『ゲバ!』
『ほい!』
隙を見てティアのドロップキック
バザックは倒れまいと耐えるが、その間に俺が首を切り飛ばした
人数で攻めればなんとかなると知ると僅かに安心するよ
しかし、バザックの首は地面に落ちずに浮いたまま
普通なら死んでいる
だがきっとこいつは頭部を破壊しないと死なないタイプの様だ
『ゲバァ!』
大きな口を開き、俺に噛みつこうと襲いかかる
残念ながらその前に真横からリュウグウに頭部を槍で貫かれてしまい、地面に落ちると魔石が顔を出した
『さすがリュウグウちゃん』
『気持ち悪い魔物め』
『ゲバァ!』
まだ奥にいる、暗くて見えないが複数いるようだ
ティアマト達の方も大丈夫らしく、頭部を真っ二つにされたバザックがリリディの横に倒れている
リリディ
『隠れますよ』
アカツキ
『みんな行くぞ』
ティアマト達がいた廊下の先に向かって音を立てないように早歩きで距離を離すと、適当な部屋に入って身を潜めた
選んだ部屋は荒れ果てた倉庫だ
地面には埃が溜まり、歩けば足跡がつくほどだ
衣類が部屋の奥に散乱し、掃除用具と思われる物が転がっている
リリディ
『ゴホッ!』
リュウグウ
『バカメガネ』
リリディは口を押さえる
埃は苦手だとここは耐え難いのだろう、リリディは少し辛そうだ
『ゲバ』
『ゲバ』
2体か
足を引きずって歩く音がドアの前を通過して奥に向かうのを聞いて俺はホッと胸を撫で下ろす
あれがこの館内にウヨウヨいると思うと相手してられない
リリディが辛そうだし部屋を出てから廊下を見渡す
まだ気配感知も使えないのでかなり辛いが、進むしかないようだ
リュウグウ
『試練、か』
アカツキ
『何の試練をさせる気なんだ』
リリディ
『予想が出来ませんね、ティアさんわかります?』
ティア
『情報が少なくて難しいけど、何をすれば試練が終わりなのかな』
アカツキ
『答えを見つけないとな』
ここは2階、近くの階段の壁には律儀に2Fと小さく書かれており
5階まであることに俺達は気付く
ならば上に行こうかと提案をしてみた所、階段上の踊り場から顔を出したバザックが急にこちらに跳びかかってくる
ティアマトは直ぐに動くと、バザックの噛みつきよりも先に斧を振って頭部に食い込ませた
『ゲバハッ!?』
『終わりだ!』
ティアマトの背後からリュウグウが飛び出し、小さな右目に槍を突き刺して貫通だ
それによってバザックはその場で力尽きた
俺とティアは戦いの最中に背後を気にしていたが新手は来ない
バザックの魔石を回収しようと魔石が出るのを少し待つと、なにやら光っている
『ニャハン』
『運が良いですね、なんのスキルでしょうか』
リリディは魔石を拾いあげ、皆と共に階段を登りながら調べると驚くべき技スキルだった
デビルクロー、両手に魔力を纏わせてから悪魔の手に変化させて対象を引き裂くというスキルだ
どうみてもティアマトっぽいと思い、彼にスキルを渡す
かなり嬉しそうな顔をしてくれたが、できれば全員で生還したい
3階に登りきり前に先頭のリリディは廊下の先に何かを見てしまったらしく、かなり驚きを見せながら俺達をしゃがませる
何がいるのだろうと思いながらも俺はティアと共に階段から顔を出すと、固まってしまう
『グゥルルル』
鳥肌が一瞬で立ったよ
廊下の奥が殆ど見えないくらい大きな魔物
栗毛の熊に見えるが頭部には蜘蛛の様に目が沢山ついている
爪がかなり長く、熊のくせに尻尾が蜥蜴の様に長く生えていた
『Bはある』
ティアマトが囁いた
だがそれが不味かったのだ
『グルァ!?』
かなり耳が良いらしい
おぞましい姿の熊がこちらに顔を向けて唸り声を上げる
それだけで全身に寒気が襲い掛かった
ランクなんて考えるだけでも馬鹿馬鹿しい、こいつはかなり強い
4足歩行で大きな唸り声を上げ、戦う気満々だ
その咆哮によって下の階からも何かが近づく足音が聞こえてくる
逃げ場はない、戦うしかない
俺は意を決して立ち上がると刀を構えながら走りだした
仲間に何をするかなど説明しなくても全員はわかっている
戦うしか道はない
廊下は1つ、あの熊の後ろしかない
背後は階段だが逃げれたとしても、この熊から逃れるなんでできそうにない
『俺達馬鹿は!』
『『『剣より強い!』』』
声が揃った時には全員が駆け出していた
それによって廊下の奥にいる熊のこちらに向かって走りだす
『ティアマト!一発いけぇ!』
『おおおおおおおおお!!』
俺は叫んだ
ティアマトは声を荒げ、自身の足元に僅かに見える影を廊下の先に延ばすと、そこから彼は切り札ともいえる技を繰り出した
『ディザスターハンドォォォ!』
影から伸びるは悪魔のような腕、それは大きく、力強く拳を握ると熊を殴らんと腕を伸ばす
『ガァァァァァッァア!』
『おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
ティアマトの怒号の後にディザスターハンドは熊と激突する
大きな炸裂音が鳴り響くが俺達の足は止まらない
それよりも熊はティアマトの特殊技であるディザスターハンドを体当たりで受け止めている事に動揺を隠せない
互いに拮抗し合う力、ティアマトは拳を握りながら魔力が途切れぬように踏ん張っている
しかし長くはもたなかった
『グラァァァ!』
ティアマトのディザスターハンドに打ち勝った
だがその時すでに俺達は熊の目の前、攻撃の準備は整っていた
『シュツルム!』
『ラビットファイアー!』
リリディとティアの同時攻撃だ
攻撃速度はティアが上、彼女の熱光線5つが熊の体に命中すると部分的に燃え始める
火を恐れぬ熊は気にせず再び走りだそうとするがそれは無理だ
リリディのシュツルムが熊の顔面に直撃して爆発を起こす
爆風や粉塵で俺達は足を止めずに跳躍し、飛び掛かる
黒煙の中で視界はゼロに近いがあっちも同じさ
『!?』
目の前に熊の爪が襲い掛かる
慌てて刀を前に出して防ぐが力を殺しきるのはまず不可能
俺は凄い勢いで吹き飛ばされ、黒煙の中から飛び出すと床を転がる
『鬼突き!』
『グルァァ!』
リュウグウの声が聞こえたと同時に熊が悲鳴を上げる
何が起きているのか、俺は素早く立ち上がると黒煙は吹き飛び視界があらわとなる
彼女の槍が熊の大きな右目に突き刺さっていたんだ
肝心のリュウグウは手を放してしまって俺の近くに吹き飛んでくるが、体を回転させて地面に着地だ
『デルタバルカン!』
ティアが熊の目の前、彼女は両腕を伸ばすと直ぐに白い魔法陣が三角を描くように展開され、それは光速回転と共に白い弾をもの凄い勢いで連射し始める
轟音と共に飛び出した攻撃は熊に取ってもかなり酷なようだ
前に歩くことが出来ずに両腕でガードし、何とか耐えている感じに近い
ダメージが入っているとなると俺達でも倒せる、しかし強すぎる
『ギロチン!』
『アンコク!』
ティアマトが斧を振り下ろすと、斬撃が熊の頭上から落ちていき、顔の側面を斬り裂いた
命中率がまだ低いだろうが熊はギロチンに戸惑いを見せる
でもいいんだ、ティアマトはリリディに攻撃のメインを託すためにそうしたんだ
リリディの頭上に現れた黒い剣は熊に一直線に飛んでいくと、胸部に深々と突き刺さった
僅かに悲鳴を上げるが、態勢を立て直すのが早い
『グルァ!』
両手で床を強く叩く熊によって衝撃波が起きる
身を退くし、ティアも魔法を止めて吹き飛ばされまいと堪える
(やばっ!)
背後の階段からバザックが続々と登ってくる
どうしようかと迷っていると、頼もし仲間が動き出す
『シャハハー!』
ギルハルドだ
彼は登ってくるバザックをもの凄いスピードを生かして次々と頭部を斬り裂いていく
どうやら先ほどの鳴き声は『後ろはやるよ』的な意味だろう
後ろの不安はもうない、あとは俺達で目の前にいる化け物を倒すだけだ
『アカツキ君!』
『大丈夫だ!』
『私の槍!抜いてこい!』
リュウグウの凄い命令が飛ぶ
まだ彼女の槍は熊の目に突き刺さったままだが…
なんと熊は目に突き刺さった槍を抜くとこちらに投げてきたのだ
もの凄い剛速球、しかしリュウグウは僅かに笑みを浮かべるとティアマトに視線を向ける
『おう』
軽い返事
彼は飛んできた槍を掴んで止めるとそのままリュウグウに渡す
格好つけたつもりだろうが、掴んで手の平からは血が流れて痛みを堪えているのがわかる
俺は仲間と共に僅かに後ろに下がる熊に歩み寄る
ダメージは与えたはずだが、かなり平気そうだ
目を貫いたのにな…ちょっと残念だ
唸り声を上げる熊
しかしどうも落ち着きがない、それがなんなのかわからないが…
『立ち上がりたくても狭いんだね』
『全力を出せないということだな』
ティアとリュウグウが口を開いた
なるほどな、4足歩行のままでは実力を発揮できないという事か
ならば勝機はある
背後は大丈夫だ
ギルハルドが遊び半分でバザックをものともせず階段踊り場でどんどん倒しているからな
だが1匹だけだと心苦しいと思ってか、リリディはパートナーの加勢に向かう
となると俺とティアマト、ティアにリュウグウ
これであいつを倒さなければならない
アカツキ
『ティアマト、あと一発さっきのとっておき頼む』
ティアマト
『おうよ、任せたぞお前ら』
ティア
『任せて』
リュウグウ
『放つ前に私が当てやすくしてやる熊』
ティアマト
『ありがてぇ、しかしよ…この熊は昔本で見たことあるなぁ。トロイ…熊の様な目をした熊、光を嫌うってな』
トロイ…か
どうみてもAランクありそうな力を発している、だが幸運にも廊下の天井の高さがあるから立ち上がることが出来ないから実力を出せないからこそ俺達は諦めることはない
普通に戦えばきっと死闘になるかもしれない
だがこの戦いはならない、こいつは頭が俺と同じで弱い
自身が得意とする場所に居なかったこいつのせいだ
『断罪!』
俺は仲間と共に走りだすと刀を振る
トロイと距離はまだあるが関係ない!
振った斬撃がトロイの目の前に現れるが、奴は腕を前に出して防ぐ
その間、リュウグウが槍を回転させてから槍を前に突きだして細長い光線を飛ばす
彼女の持つ槍花閃という槍スキル、それは好戦の軌道上に桜の花びらを残す美しい技
その技はトロイの腕を貫通し、狼狽えさせた
だが予想外にもたじろぎは一瞬、その後直ぐにこちらに走りだす姿に俺は心の中で舌打ちをしてしまう
でも計画通りにいかない時はある、こういった強い魔物相手ならな
こっちも馬鹿だけど、経験はそれなりに積んだつもりさ
今起きている状況にみんなが反応して臨機応変に動いてくれるんだ
だから走りだせる
『ディザスターハンド!』
1日2発が限界だと以前言っていたが、これが最後だ
ティアマトは影を伸ばし、巨大な悪魔の腕を召喚するとトロイを殴る
2発目も拮抗すると思いきや、リュウグウが2発目の槍花閃をトロイの後ろ足めがけて撃ち放って貫通させたことによって奴はバランスを崩してディザスターハンドにより吹き飛んだ
それでもかなりの重量だからこそ倒れたに等しい距離、でもそれでいい
彼女がいるからな
『ティア!』
彼女は既に準備していた
ホーリーランペイジという彼女の切り札と言われる魔法スキルさ
自身の力を爆発的に上げ、背中に生える天使の様な翼で飛翔効果を持つことが出来る
彼女の手のサバイバルナイフは魔力によって白い剣と化し、翼を広げて飛び込んでいく
僅か数秒しか効果が持続しない諸刃の剣に近い技だが、これで良い
光が苦手ならばこの技はあいつにとって脅威に等しい
『ガァァァァァァ!』
起き上がるトロイは飛び込んでくるティアに視線を向けると、口に魔力を溜め始める
それはまるでブレスを吐くと言わんばかりの行動に近い
されるまえに倒すしかない
ティアマトは力が付き、膝をつくと『決めろ!』と叫ぶ
俺は体に力が入る
ここで決めてほしいと願っているからだ
『終わりっ!』
ティアは大声を上げ、白い剣を盛大に振る
それはトロイの体を深々と斬り裂き、赤い血を噴出させた
深刻なダメージを負った通りは悲鳴を上げながら攻撃を中断したことによって口の中で何かが暴発、そしてティアは爆風でこちらに吹き飛ばされながら技の効果が切れる
俺は慌てて彼女を受け止め、大丈夫かと声をかけると親指を立てて笑みを浮かべてくれたよ
『グロロ…フロォ!』
リュウグウ
『なっ!?』
ティアマト
『マジか!』
トロイ、お前まだ動くというのか…
かなり深く斬られたのに怒りを浮かべてヨロヨロと立ち上がる様子に俺は驚きを隠せない
『早くしてください!こちらはもう!』
『ニャハハー』
体力は有限
いかにギルハルドが強くても体力という懸念がある
後ろも不味い、ここで技を温存とか考えてられない
ここの時間経過は予想以上に早い、まだ1日の時間が経過してないと信じて撃ってみるか
俺はよろめくトロイが襲い掛かる姿勢になった瞬間に刀を鞘に強く納めて叫んだ
『開闢!』
体感では半日、しかしいつも予想より倍の時間が経過していたのは気づいていたよ
ならば使えるんだ、テラ・トーヴァ
鞘から瘴気が噴き出すと、そこから現れるは鬼の仮面をした武将姿のテラ・トーヴァ
前よりも少し見た目が違うのは何故だ…腰から垂れる黒いマントの先が僅かに熱を帯びたように赤く染まっている
『ジャズト24時間!奇跡だ兄弟』
『やれテラ!』
『うるせぇ!』
テラ・トーヴァはそう返事をしながらも突っ込んでくるトロイめがけて熱を帯びた刀を大きく振る
致命的だと思えるほどに深く斬り裂かれたトロイは断末魔すら上げる事をせずに走ったまま地面を滑って倒れていく
燃え盛る大きな体から発せられた熱に俺達は熱くて後ろに下がると、リュウグウは小さくガッツポーズだ
『ゴロロ…ロ』
アカツキ
『後ろだ!』
ティア
『あんま力でないけどリュウグウちゃん行こう』
リュウグウ
『そうだな!馬鹿メガネ今行くぞ!熊を倒したぞ!』
リリディ
『どっちの熊ですか!?』
ティアマト
『お前ぇあとで殴る』
『ニャハハー!』
冗談言えるくらい気持ちが楽になってくれたか
しっかし…よく倒せたな、正直わかんなかったよ
『まだ燃えてら…』
『ティアマト、立てるか』
『大丈夫だが…どこかで一休みしてぇ』
『そうだな…ん?』
『お?』
燃え盛るトロイの体から発光した魔石が顔を出すとこちらに転がってくる
少し熱いけども触れない事もない
なんのスキルかと思ってティアマトと共に調べてみたが…・
『おい…マジかよ!?』
『こんなスキル…誰が』
予想外過ぎる技スキルに俺はこれ以上言葉が出ない
だがしかし、テラ・トーヴァは消える瞬間にその答えを俺に言い放つ
『ティアお嬢ちゃんだ。そのプロト・フレアはお前らが受けてりゃ即死だったぞ…』
火属性スキル最強と言われるフレアと同格と言われるプロトフレア
まさかトロイが持っているとは驚きだぞ…夢ではないのか
俺は魔石を掴み、『ティア!直ぐに吸収しろ!』と叫んで投げ渡した
受け取るティアは一瞬だけ笑いたくなるほどの変な顔をするくらい驚いた顔をしてスキルを確認したけども、直ぐにいつもの可愛いティアだ
『後ろは倒すだけ無駄!リリディ君!上がって突風で火を消して!』
『わかりました!』
こうして俺達はその場から脱出すると、バザックから逃げる為に廊下を走って隠れる場所を探した
みんなはどうしているのだろうか
聖騎士達やエーデルハイド、父さんにクローディアさん
リゲルとクワイエットさんも心配だ
無事に生きていてほしい
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