第176話 幻界編 16

カイ・ラーズ      聖騎士会、1番隊の隊長

ジキット・ローレンス  聖騎士会、1番隊副隊長

バッハ・フォルテア   聖騎士会、1番隊

シューベルン・ジュイン 聖騎士会、1番隊

トーマス・スタン    聖騎士会、1番隊

ドミニク・ヴェイン   聖騎士会、1番隊

アメリー・カルッセル  聖騎士会、1番隊

バルエル・コールソン  聖騎士会、1番隊






『迷路ですね』


『ニャハーン』


シエラさんが展開した光を放つ球体を便りに俺達は進む

リリディはボソッと呟いたが、それに聖騎士ドミニクが反応を見せた


『その猫、ヒドィンハルトでしょう?なんで戦わないんだ』


『ニャンハ』


『頼るなと言ってます』


リリディの解読した猫語に悩ましい顔を浮かべたドミニク

しかしそんなやり取りをしていると洞窟の奥から新しい魔物が2体も現れた


『キモッ…』


あのティアが珍しい言葉を口にした

確かにあれはキモい


全身が包帯で巻かれ、隙間から触手が伸びる

目は頭部に不規則な場所に点々とあるようだが、ギョロギョロして気持ち悪い


ロイヤルフラッシュ

『知らん魔物だ』


アネット

『クネクネしながら近づいてくる』


ルーミア

『知らないうちは近づきたくないね』


ティア

『撃っていいかな』


ロイヤルフラッシュ

『かまわん』


ティアは即座に腕を伸ばし、赤い魔法陣から熱光線を5つ同時に放った

予想外にも魔物は避ける様子を見せずに熱光線を受けてしまい、燃え盛る


キチキチと不気味な音をたてたまま悶える時に奴等はゾッとする行動をとった


なんと包帯の隙間から伸びる多数の触手を硬質化し、針の用に数メートルまで伸ばしたのだ

近づけば串刺しだったと思うと遠くからの攻撃をして正解だ


リュウグウ

『やばいな』


アメリー

『あれが攻撃か』


ジキット

『気づかないままだと確実に死ぬ技だな』


バッハ

『だが死んだようだ』


力無く倒れる不気味な魔物、その体から飛び出す魔石をリゲルが拾うと『命名トゲゾウ』と告げて笑みを浮かべた


少し釈然としない名だが、名前に議論を飛ばす時間はない


アカツキ

『ここにはアンノウンがい……』


『っ!?』


『っ!?』


言おうとしたらこれだ

自身の聴覚麻痺によって各自が背中合わせ

天井があるため、頭上を気にする必要はあまりない


無音のまま俺は明かりの届かない場所から飛んでくるアンノウンを断罪で斬って落とし、数秒で音が戻る

全員無事だけど1番遭遇したくない魔物だ


ティア

『あれの相手疲れるね』


アカツキ

『かなり神経質になるからな』


クリスハート

『私は大嫌いです』


彼女は長い髪を食われたからだろう

やたらと髪を気にしている

不満そんな顔を浮かべるクリスハートさんをリゲルはチラチラと見ていたが『別に変わらないだろ』と軽く言い放ってしまう


それがちょっとした引き金になるとは驚きだ


クリスハート

『髪は女性の命です!』


リゲル

『死んでねぇだろ』


クリスハート

『本当にあなたは…』


リゲル

『何勝手に呆れた顔してんだよ。』


ゲイル

『話はあとだ』


慎重に進んでいくと、そこには洞窟なのに村があった

広大な空間に点々と建てられた家そしてレールやトロッコ

まるて鉱石でも採掘しているかのような場所に見える


村の中に入り、建物を眺めるけどかなり古いから今にも崩れても可笑しくない

各所にかなり古い照明魔石が埋め込まれた小さな石柱、それはまだ生きており、魔力を流すと光を放つ


口を開く者はいない

いつ魔物が襲いかかってくるかわからないからだ

リゲルがいつにも増して真剣なのは僅かな気配や物音を感じようとしているからかもしれない


カタン、と近くの廃墟から物音がすると全員が素早く音のする方に体を向けて武器を向ける

しかし姿を現すのは目が額にもある黒いネズミだ


それは俺達に気付くと、焦った様子で逃げていく


アメリー

『ここは一体』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『地下の採掘場か、村があるとは驚きだが……』


クローディア

『奴隷の村かもよ』


彼女はそう言いながら何かを拾う

それは足枷であり、かなり錆び付いている

俺は何かにつまづいて転びそうになると、ティアが支えてくれた


(情けない…)


『大丈夫?アカツキ君』


『大丈夫だ、何につまづい…』


足枷だ、しかも至るところに誇りまみれで散乱していたのだ

それだけならまだしも、とんでもない物まである


カイ

『仏が残っているのか…』


ジキット

『骨のまま朽ちてないのは何でなんですか』


カイ

『知らん。不気味な…場所だ』


うつ伏せで倒れる骸骨が複数見える

建物の壁に腰を下ろしている骸骨もだ

ここで暮らしていた人か?奴隷なのか?


リュウグウ

『何にやられた』


シエラ

『それ怖い』


クリスハート

『何が起きたの…』


リゲル

『わからねぇが…安全とは言えねぇな』


ロイヤルフラッシュ

『何かに囲まれたようだぞ』


カサカサと不気味な音が四方から聞こえてきたぞ

ちょっとおっかないが、どうやらここをこのような姿に変えたであろう生物がいるようだ


ゲイル

『身構えろ、この音は聞き覚えあるぞ』


クローディア

『えぇ忘れはしないわ!悪魔虫(アクマチュウ)よ!』


ロイヤルフラッシュ

『なんだそれは!?』


『ピーー!』


ロイヤルフラッシュ

『なっ!?』


それは崩れそうな廃墟の壊れた窓から飛びかかってきた

全員がその姿に恐怖するが、特に女性なんて顔がヤバイ

生理的に絶対受け付けないのだろうとわかるよ


茶色いゴキブリ、全長1メートルはある

口はクワガタの角のように鋭い顎があり、両前足はカマキリのような鎌

不気味な羽音を立てて飛んでくる姿は鳥肌が立つ


ティア

『やぁぁぁぁぁぁ!』


アネット

『ばぁぁぁぁぁ!』


クローディア

『ひ…』


リゲル

『気絶しようとすんな!わんさかいるぞ!』


途端に現れたおぞましい数のゴキブ…悪魔虫

戦うしか生きる術はない

最初の1匹目を聖騎士シューベルが斬り倒すと、クローディアさんは『頭を破壊するか燃やさないと動き続けるわ!』と叫んだ


ならばそうするしかない

リリディはすかさずシュツルムを放つために腕を伸ばし、襲いかかる悪魔虫に向かってスキルを撃つと数匹まとめて爆発に巻き込む


俺は飛んでくる悪魔虫の鎌を刀で弾き返し、素早く両断

力はこっちが上なら数だけの問題だ


クワイエット

『やばいねぇ!これ倒しながらどこかに隠れないと体力持たない!』


ゲイル

『こいつのスキルは動体視力スキルだ!落としやすい!』


ロイヤルフラッシュ

『欲しいが考えてられん!倒しながら避難できる場所を探すぞ!最後尾クローディア頼む!』


クローディア

『先頭でちゃんと道こじ開けなさいよ馬鹿豹!』


ロイヤルフラッシュ

『わかっとるわ!』


アカツキ

『みんな遅れるな!』


『ニャハーン!』


お前が返事するのか

しかし物凄い数の悪魔虫だ。

レベルは推定Dだが、数でくると厄介過ぎる


アネット

『ラッキー!』


先頭で倒した悪魔虫の魔石が光っていたらしく、アネットさんはそれを拾うとスキルを吸収しながら飛び込んでくる悪魔虫を真っ二つに斬り倒していく


ティアは意地でも触れたくないのか、ラビットファイアーの連発だ

温存する判断が出来てないのだろうが、俺が抑えろと言っても『ヤダ!』と即座に返される


リゲル

『母さんは笑いながらゴキブリを握り潰してたなぁ』


クリスハート 

『それ本当にお母さんですか!?』


リゲル

『どういう意味だよっ!揉むぞこら』


クリスハート

『破廉恥!』


クワイエット

『リゲル後ろ!』


リゲル

『くっ!おらぁ!』


間一髪、リゲルは振り向き様に剣を振って悪魔虫を両断

ルーミアさんは双剣を使って確実に首を切り飛ばしながら魔法を放つシエラさんを守る


すると村の奥にまだあまり損傷がない会議所のような2階建ての建物が見えてきた

ロイヤルフラッシュ聖騎士長は『あそこ!あそこ!』と焦りからか似合わぬ口調で皆に知らせる


転ぶリリディを起き上がらせ、必死の思いで建物の中に逃げ込むと大きな扉を父さんが素早く閉めた


ティアマトや一部の聖騎士は長椅子や机といった家具を扉の前に組み上げて開かないように必死になってくれている

その間、俺は建物内にも魔物がいないか警戒するが…


ティア

『聖堂?』


ロイヤルフラッシュ

『にしては小さい、この村の会議所だろう』


大きな円卓がある部屋だ、結構朽ち果てているけどもまだ使えそうだな…使う気はないがな

奥にドア、あそこから2階に通じる道がある筈だ


クワイエット

『おさえて!手伝って!』


『!?』


扉が不味い

ティアマトやクワイエットそしてロイヤルフラッシュ聖騎士長が扉を押して中に入れまいと頑張っている

全員で扉が開かないように限界まで家具を組み上げていくと同時に外の音も静かになっていく


諦めたのだろうか、そうであってほしい


ドミニク

『ロイヤルフラッシュ聖騎士長、円卓の奥に魔石が』


ロイヤルフラッシュ

『む!』


確かに魔石が乗っている

きっとロイヤルフラッシュさんは俺と同じ予想をしてるに違いない

彼は無言で魔石を回収すると、それを全員の前で魔力を流して起動させる


どうやら予想的中のようだ


『ここは奴隷が住んでいた村、カサカサと不気味な虫から逃げてきたのデスネ』


ロイヤルフラッシュ 

『こいつめ…』


クローディア

『落ち着きなさい、これはれっきとした記録魔石だから声は届かないわ』


『休みたいならドアの先の廊下に地下の階段がアリマス。シェルターのようになってマスので休むことを提案シマス』


アカツキ

『なんとかなりそうだ』


『シカシ、食料は諦めマショ。悪魔虫の血は毒デスし他の魔物はおりません』


クワイエット

『残念』 


『聖堂まで500メートル、私は悪魔虫を大勢引き寄せて錯乱させて突破シマシタガ…普通に戦うと面倒デスヨ?そこを抜ければ唯一幻界の森であなた方が口に入れることが出来る虹リンゴという木が沢山生えた森に辿り着きます、ガンバデッス』


なんとも軽い感じでいってくれるな

それにはロイヤルフラッシュ聖騎士長やクローディアさんが深い溜息だ

ここにいる全ての人間での総力戦をせざるを得ない


ティア

『地下に行こうか』


彼女の言葉で皆が動き出す

その時に誰かのお腹が鳴ったが、リリディが笑顔だから彼だ

しかし、彼のネタなのかわからない様子に誰もツッコむことはない


廊下の先の階段は強固な扉が閉じていたが、ドアについているハンドルを回すと直ぐに開く

厚さ30センチはあるドアとは驚きだ、なんでこんな部屋があるのだろうか

中は朽ちたソファーが壁際に3つほど、広さは15畳だがこの人数では狭く感じる


『我儘はいえないな』


リゲルはそう告げると地面に横たわる

もう寝ますと言わんばかりに静かになると、クワイエットさんも横になる


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『夜の23時か…時間の感覚が麻痺ってしまうとはな』


ゲイル

『可笑しな場所だ』


カイ

『明日はどのようにするのですか?』


クローディア

『犬畜生の討伐でしょ。死ぬ気で戦かわないと死ぬわよ』


ケロベロス

吐く息に触れれば皮膚が鎖、咆哮は耐性無効の恐怖状態

目を合わせている時に睨まれると体が一定時間麻痺

とんでもない魔物であることに変わりは無いが、推定ランクAで間違いはない


リュウグウ

『やるしかないな』


リリディ

『倒してリンゴを食べましょう』


アメリー

『本当にお腹空いた…』


ドミニク

『明日までの辛抱だな』


皆がその場で横になる

体を休める場所が本当に見つかって良かったよ

最悪の場合、寝ずに聖堂に挑む羽目になる

食糧よりも今は体力の回復が優先だが、食べなければ回復も糞もない


でも寝るしかない

ここまで切羽詰まった状況になったのは初めてかもしれない

いつ死ぬかもわからないのにみんなよく正気を保っていられる


ティア

『弱点あるかなケロベロス』


ジキット

『聖騎士でも知らない魔物です。誰か知っている人はいますか?』


そこで予想外な者が口を開き、皆は驚いて顔を持ち上げた


ゲイル

『ハイムヴェルトさんがエド国の地下迷宮にて遭遇したと聞いている。弱点は黒魔法だ』


剣山のホンノウジ地下大迷宮の地下は50階層まである

俺の父さんは40階層の前の門番で3つの頭部を持つ黒い犬と戦った話を聞いたことがあると話す

物理攻撃で攻撃しても直ぐに再生し、いかなる魔法スキルをも弾き返す

だがしかし、黒魔法だけは有効だったというのだ


全長15メートルと恐竜種のように大きな巨体らしく、かなり獰猛で暴れまわるから死ぬかと思ったという話を何度も聞かされたよと父さんは苦笑いを顔に浮かべて話す


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『ならば我らは足止めの攻撃しか出来ぬのか…』


クローディア

『リリディ君次第ね、というかシエラちゃんもね』


そういえばそうだ

シエラさんもシュツルムという黒魔法の爆発スキルを持っている

リリディから教えてもらってから会得したようだ

となれば火力は2人か


ティアマト

『殴ればなんとかなるか』


リゲル

『試してみろ熊公』


ティアマト

『その前にお前で試すか?』


リゲル

『いっとけ』


リュウグウ

『いいから寝るぞ』


アネット

『女性は女性で固まりましょうねぇ』


まぁそれは勿論だな

一息つき、数分足らずで殆どがスヤスヤと寝息を立てる

俺は眠気が来るまで少し起きていようと上体を上げた

同時に聖騎士のジキットやアメリーが起き上がる


彼らも寝付けないらしいな


ジキット

『眠いけど寝付けないな』


アカツキ

『でも寝ないと』


リゲル

『寝とけジキット』


ジキット

『やはり起きてましたか』


リゲル

『まぁな、無理してでも寝ろ』


リゲルに言われ、彼は大人しく横になる

俺もそうしようかなと真似ようとしたのだが、ここで予期せぬことが起きた

天井に設置された照明魔石、それは僅かな光を放っている


その光が消えた途端に誰の者でもない声が聞こえた


『タノシイカ?』


『っ!?』


声が終わると同時に照明は戻り、俺達は武器を構えて立ち上がる

ロイヤルフラッシュ聖騎士長、クローディアさん、父さんにリゲルそしてクワイエットさん

そしてジキットにアメリー、バッハだ


あの声は聞いたことがある、森でも聞こえたあの声だ

とても低く、唸り声に近い


ドッと汗が噴き出る

体が熱く、心臓がいつにも増して早く脈打っているのがわかるよ


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『見られているというわけか』


クローディア

『どこからなのかしら、寒気がするわね』


ゲイル

『きっとここにはいない』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『何故そう思う』


クローディア

『なんとなくよ、根拠なんてここにはないわ一生ね』


ジキット

『体の震えが…』


リゲル

『化け物が…顔に自信でもないのかよ』


アメリー

『リゲルさん、煽らないでお願い』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『やめとけリゲル、今は声の主の機嫌を損ねることは不味い』


リゲル

『わかりましたよ』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『それで?いつ聖騎士に戻る』


リゲルはその問いに苦笑をすると、再び横になってしまう

『フラれましたな』と父さんが囁くとロイヤルフラッシュ聖騎士長は少し笑みを浮かべたまま静かに腰を下ろした


相当リゲルとクワイエットさんを高く評価しているようだ

まぁ考えてみればすぐにわかる事だ。ルドラという男にみっちり育てられた2人だからな


『お前も寝ろアカツキ』


『父さんはどうするの』


『寝るさ、ここは運を信じてみんなで寝るしかない』


バッハ

『とんでもない森だな。』


クローディア

『行きたくば冷静でいることね、取り乱したりしたら死ぬわよ』


バッハ

『心得ております』


こうして俺は静かに寝る事にした

テラ・トーヴァの声はまだ聞こえないことが不安だが、あいつなら大丈夫だろう

起きた時には既に殆どが起きており、俺はティアに寝ぐせを直してもらってからここを出る事にした


建物を出ればあのカサカサと忍び寄る生理的に受け付けない虫がいるだろうが

それでも俺達は進むしかない


シャルターを出ると、俺達は裏口から静かに建物を出た






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