第113話 ミヤビにて

ミヤビが見えてくると丁度良くゴブリンが現れた

数は5対と意外と多く、キングゴブリン付きだ


『俺の出番だ、業者さん止まっときなぁ?』


御者

『頼みました熊さん』


『ティアマトだっ!』


あっ!と馭者が反応をした

リュウグウとリリディは馬車の中で笑いを堪えているのが見える


ティアマトは馬車の窓から飛び降りると、進行方向から向かってくるゴブリン達を眺めて首を左右に動かし、ゴキゴキと骨を鳴らす


俺達の中ではパワータイプ

近接の威力は熊そのものだ


《準備運動になるか?熊五郎》


『けっ!いっとけ』


彼は吐き捨てると、片手斧をその場で大きく振って真空斬を放った

斬擊を飛ばす便利な技スキルである


それは2体のゴブリンを両断し、さらに後方から迫るキングゴブリンにまで飛ぶ


『ゴブ!?』


すかさず錆びた片手剣でガードするが

奴の武器は真空斬によって砕かれ吹き飛んだ


『遊ぼうぜぇ!』


『ギャギャー!』


一気にゴブリン達に迫り、ひと振りで2体を切り裂く

ティアマトは動きが止まってしまっているゴブリンの頭を掴むと、立ち上がろうとしていたキングゴブリンに投げてぶつける


『寝てた方がお似合いだぜ?』


彼は不気味な笑みを浮かべながら飛び込み、高い位置から落下の勢いを使ってキングゴブリンの胸部に片手斧を食い込ませた


『ゴブッ…』


鮮血が胸部から飛沫を上げた

キングゴブリンの強張った体は直ぐに力を失い、動かなくなる


残る1体のゴブリンは慌てふためきながら背を向けて逃げていく


《まぁまぁか》


アカツキ

『良い線いってない?』


《あながちその言葉も間違いないな兄弟》


ティアマトは魔石を回収し、俺に全て投げ渡すと直ぐに馬車の中に戻った


『そうそうCは出ねぇか』


ティア

『ここだとねぇ』


『今度は俺が相手してぇ』


多分だけど、さっきリュウグウとリリディがC相手に戦っているのを見て思ったのだろう

自分の力を試したいというのは悪い事ではない

まぁその後、魔物は現れずにミヤビの街まで辿り着くこととなった


ギルドで魔石を換金し、俺は以前に泊まっていた宿に仲間と共に向かうことにした

近くの馬小屋にブルドンを預けてから宿に入ると、そこには冒険者が数人フロントで受付をしていた


『おや?』


階段を降りてきた宿員が俺に気づくと、ニコニコしながらこっちに歩み寄ってきた


『またのご来店ありがとうございます、今回も連日予定ですか?』


『いや、1だけで大丈夫です』


『了解しました、それにしても魔物を連れていて驚きましたが手懐けたのですねぇ』


宿員がギルハルドを見て驚いている

専用の首輪をしているのはパートナーとしての証拠だ、襲ったりはしない


『未来の大賢者ですから』


リリディは胸を張って告げると、宿員は見事にスルーした


『では次の受付にしますので並んでお待ちください』


ティアがクスリと笑う

リリディは微妙な顔つきだ、リュウグウは隣で呆れた顔をしながらも彼を見ている


『ここの料理は美味いぞ?』


俺はそういうと、ティアマトが楽しだと言う

ティアも俺の言葉のあとに何度も頷くからリュウグウも楽しみらしい


『次のお客様』


俺達の出番になると、シングルを5部屋用意してもらう

それぞれが部屋に軽い荷物を置くために戻り、俺は直ぐにロビーに降りてみんなを待つことにした


休憩所スペースには冒険者が4人、椅子に座って夜食の時間を待っているようだ

俺は近くで壁の張り紙を適当に見ながら時間を潰すことにした


『今日は疲れたな…グランドパンサーが3体同時とか焦ったぞ』


『あれは驚いたな、なんとか倒せたが次は嫌だ』


そんな会話を耳に入れていると、テラ・トーヴァは話し始めた


《3体は面倒だよなぁ、だが兄弟なら倒せるまで強くなったな》


『そうだな、強くなってるんだな』


《トロール相手に人数かけなくて済んだんだぜ?もちっと喜べ》


テラの話を聞いているとティアマトが階段を降りてきた

彼はこちらにくると休憩所スペースにいた冒険者達が一瞬驚いた


まぁ見た目が熊に少し見えなくもない体格だからな


『アカツキ、早ぇな』


『お前もな、飯が待ちきれないか?』


『美味らしぃからよ、まだ20分あるが来ちまった』


19時までまだ時間がある

俺はのんびり待とうとティアマトと話を始めようとした途端に外が少し騒がしいことに気づいた


《出番だぜお前ら》


『あぁ?』


『ティアマト、いくぞ』


『お?おう!』


体が勝手に動いた

ティアマトと共に外に出ると冒険者のいざこざが始まっていた

四人の冒険者チームと二人の冒険者だ


なんだか見たことある人が混じってる…あれれ?


トッカータ

『仲間の尻触ったろ!』


『知らねぇな、柔らかいのが手に当たっただけさ』


あれ?トッカータさん

ミヤビで仲良くなった冒険者チームだ


ミヤビ冒険者チーム 『エアフォルド』(Cランク)

トッカータ  片手剣士

イビルイ   片手剣士

クルミナ   魔法使い

ローズマリー 槍師


こんな感じで全員いる


クルミナ

『触ったでしょ酔っぱらい!』


クルミナさん怒ってる

どうやら酔っぱらい冒険者チームの一人が彼女のお尻を触ったようだが、どういう流れだったのかはわからないな


イビルイ

『すれ違いながら触るとは…』


なるほど!なるほどね!

俺はなんとなくわかったけども、酔っぱらい冒険者達は茶化す感じで返事を返してるだけなのを見ると真っ黒に近いな


『尻かどうかは知らねぇよぉ?尻なら謝るが覚えてないなぁ』


わざとくさい言い方にトッカータさんがピキピキと怒りを覚え始めてる、クルミナさん奥さんのローズマリーさんの尻なら多分言葉よりも先に飛び掛かっていただろうなだったかな



俺は警備侍が来るまでの間に面倒な事が起きる前になんとか鎮圧できないかと考えていると、先に動くものがいた


『おい』


『あ?』


ティアマトが酔っぱらいの横に立っていた、いつのまに?

変な返事をした酔っぱらい冒険者はティアマトに強く首を捕まれ、持ち上げられた


『がっ…!?ぶっ!』


苦しいだろうな

トッカータさん達は突然の事に驚いて数歩下がった


『あ…ナット!?』


持ち上げられた酔っぱらいの名はナットか

仲間の一人も顔が赤いからこいつも酔っぱらいか


ナットは足をジタバタしながら抵抗していると、ティアマトは不気味な笑みを浮かべながらナットに話したんだ


『首をこのままへし折られるか謝るか選びな』


彼は強く首を掴み、ナットは余計苦しそうな顔をする

彼は何度も頷くとティアマトは手を離し、地面に彼を落とした


『触った、触った…もうしないから許してくれ』


ナットはそう言いながら仲間を置いて一目散に逃げていった


『あ!ナット!』


仲間も逃げた

これでいいのかもな

脅しに近いが、ティアマトのインパクトに負けたのだろう


『ティアマト、強引過ぎるぞ』


『わりっ、力が余っちまってよぉ』


トッカータ

『アカツキ君!?、それにその熊は君の…』


ティアマト

『ティアマトッ!ティアマトッ!』


ローズマリー

『あら?アカツキ君じゃない』


『ご無沙汰です、元気そうですね』


俺はティアマトと共に宿の前で彼らと話し始めた

どうやらトッカータさん達は昨日から森に行けてないらしく、理由は閻魔蠍という魔物ランクBのヤバいのが現れてから立ち入り禁止でお休み中だとか


今日は強い冒険者が派遣されて森に向かったから明日からなら森に入れるかもって話してくれた


アカツキ

『僕は明日にマグナに戻ります』


トッカータ

『そうか、またミヤビに来たら顔を出せよ?今度は一緒に森に行きたいからな』


アカツキ

『はい!』


ローズマリー

『それにしても、熊かと思ったらティアマト君だったのには驚いたわ』


ティアマトは苦笑いで誤魔化す

そこでティアやリリディそしてリュウグウも宿から出てきた


ローズマリー

『あらティアちゃん』


ティア

『お久しぶりです』


クルミナ

『やっぱ可愛いなぁ』


トッカータ

『元気そうで良かった、……ん?』


ふと遠くで爆発音が聞こえた

それは森の方角、俺達もそちらに顔を向けると赤の光が空で輝きながらゆっくりと落ちてきていた


トッカータさんは険しい顔を浮かべる

彼だけしゃない、他の仲間もだ


クルミナ

『嘘でしょ?!Cランク冒険者チーム二組向かったのよ?』


リリディ

『あれは何の意味ですか』


クルミナ

『討伐失敗、撤退する…よ』


魔物Bランクの閻魔蠍の討伐

どうやら討伐に失敗したみたいだな

結構深刻な状況だ


俺は少し良からぬ事を考えた

それを見抜く男が隣で不気味な笑みを浮かべる


ティアマト

『行きたそうな目してんなぁアカツキィ?』


アカツキ

『まさか』


リュウグウ

『また付き合わされるのか、やれやれ』


リリディ

『またBランクの魔物ですか、魔法はふんだんに使いますので頃合い見てさがってくださいよ?』


ティア

『火は任せて!』


ヤル気満々じゃないかお前ら…


トッカータ

『まさか挑むのか?というか、またBって?』


アカツキ

『以前、ミノタウロスを倒したんです』


クルミナさんが凄い驚いてた

だがミノタウロスはBの中でも低いレベルだ

閻魔蠍はミノタウロス以上なんだから悩んでしまうよ


《いけるよ兄弟、仲間と俺を信じな》


その言葉に俺は溜め息を漏らし、顔を上げると口を開いた


『飯はあとだ、倒すぞ…閻魔蠍』


リリディは真剣な顔のまま、俺に視線を向けて頷くと森を見た

一番彼が閻魔蠍を倒したいのだろう

黒魔法のなぞなぞの答えになっている一体だからな


トッカータ

『助太刀したいが閻魔蠍ならお荷物になりそうだ、頑張れよアカツキ』


アカツキ

『初めての魔物ですが、やっぱりでかいんですかね』


ローズマリー

『でかいわよ。知り合いが見たことあるらしいのだけれど魔法があまり効かないし物理的な攻撃でさえ頑丈な甲殻に守られてるからみんな逃げるって聞いた』


魔法も効かない?虫なのに?

鬼ヒヨケは火が弱点だがそれは虫種だからだ

同じ虫種である閻魔蠍はそれを甲殻で補っているのか…  


魔物が強いとそこまで人間の攻撃を受け付けなくなるとなると面倒だな


普通なら無理はする必要はない、倒すなんて俺は選ばない

しかしだ



俺達は倒す



次回


激高する地獄からの蠍編




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