第112話 帰る道中

俺は裏通りに入ると、ティアマトとリリディに顔を向けた

彼らはそれだけで意味を理解し、しばらく歩くと物陰に隠れる


リュウグウ

『意外と裏通りと言うには明るいな』


薄暗いイメージがあったが、そこまで暗くはない

ただやはり人はいない、酔っ払いが壁際で瓶を抱きしめながら寝ているくらいか


《お?ついてくるか…》


来たか

俺は二人と共に暫く歩いてから曲がり角で曲がり

近くの小屋の陰に隠れた

少し顔を出しながら息を潜めていると、例の二人が姿を現した


普通な格好をしたエド国民にしか見えない

しかし、そうでもないようだ

40代と20代の男だが、何者だ


『見失いました』


『かもしれん、宿くらいは特定したかったがな』


『だが深追いはするなと指示が来てます、飽くまで監視して隙を見て捕らえれる状況ならば動けと言われてますがどうします?』


『ロットスター様に報告しよう、まぁ鉢合わせたとしても我々はこのやり方は好かんからどちみち他人の振りだ、一度この目でしっかり見てみたかったが』


アカツキ

『っ!』


こいつら…なるほどな

マグナ国の魔法騎士協会の者か

いても不思議じゃなかった、忘れていたよ

どうやら聖騎士だけじゃないようだ


《やめとくか、熊五郎とメガネにはさっき止めとけって伝えといたぜ》


俺は頷いた


《ロットスターって馬鹿っぽそうだからこいつら撃退したらむきになりそうだしよ…。今は刺激しないように無事にグリンピアに戻ろうか兄弟》


二人が溜め息をつき、来た道を戻る姿を見ながら俺は頷いた

数分後、ティアマトとリリディが姿を現す

彼らもテラから事情は聞いていたらしく、面倒臭そうな顔を浮かべていた


『魔法騎士協会かよ、だり』


愚痴るティアマト

俺は裏通りを歩いて宿に戻ることにしたよ

顔は覚えたが、何故そこまでやる気がない?


というか魔法騎士なんて若い子は少ない

直ぐに若い奴は脱退する事で有名な協会でもある

理由は聞かずとも予想はできるかもしれん



宿に戻り、俺は部屋に戻ると装備を脱いで楽になった

狭い和室だが2階だし、窓から表通りが見えるから幾分はマシさ


刀を布団の横に起き、ゴロリと横になって天井を眺める

部屋に明かりはないが、街中の明かりが絶妙に窓から流れ込むから灯りとしては丁度だ


《窓から顔出すなよ兄弟、さっきの尾行マンが表で彷徨いてる》


『この宿を見てるか』


《かもな、だが確証はない筈だから少ししたら別の宿を見に行くだろうよ》


聖騎士連中よりも大変そうな気がする

しかも2人だけじゃないかもしれないな


《しかし、兄弟》


『どした』


《ボロい部屋だな》


俺は壁を見た

確かにな…多少ボロいし、廊下とか足音が聞こえる

それに右隣の部屋のいびきもだ。あれ?これティアマトだ

左隣はティアだけど静かだな



『あれ?』


ティアの声だ、聞こえるのが笑える

壁に顔を向けると、低い位置に貼ってある張り紙がカサカサと動きだす


何事だと思い、その張り紙を外すと



ティアの顔があった


『……』


『……』


《おいおい、穴の空いた壁を張り紙で誤魔化してたのかよ》


そういう事らしい

ティアは苦笑いしながら顔を引っ込めた

こっちも苦笑いしたくなるさ

でもちょっと嬉しい


布団に横になり、欠伸をしているとティアの声が穴から聞こえてくる


『アカツキ君、寝るの』


『暇だし寝ようか迷ってだ、ティアは?』


『私も悩んでた』


《お互い探り合いしないで素直になりゃいいのに》


お互いに無言が数秒続き、俺は息を飲んでから口を開いた


『眠くなるまで何か話すか?』


『そうする』


このまま話すと思いきや、ティアは俺の部屋に来た

ノックされ、鍵を開けて部屋に招く俺


心の奥底で至福を感じていた

ちゃぶ台を挟んで二人で座っているが、何を話せばいいのか逆に迷う


だってティアが変に緊張してるからだ

いつもはそうじゃないだろ?


『壁の意味無かったな』


『あはは…そうだね』


相当薄い壁だな、笑うしかない


『アカツキ君は帰ったらどうするの?』


『どうするもこうするも、変わらないよ…俺達は弱い、強くなってもずっと弱い、俺の父さんやティアのお兄さんもきっと協力してくれる、それまでみんなで頑張ろう』


ティアは安心したのか、静かに頷いた


《あっちに行ったら森に行って開闢を使って強くなることにはなるが…今は他力が許される場面だ、色々助けてもらうこったな》


テラ・トーヴァはそういうと、欠伸をした

寝るのだろうか?寝てほしい


『私も強くならないと』


『頑張ろうティア』


元気よく彼女が返事をすると、少し恥ずかしそうにしながら顔をうつむく

俺は首を傾げ、彼女の顔を覗き込もうとしたのだけども、その前に小さな声で凄い質問をされた


『ア…アカツキ君は私の事、どう思ってるの?』


ティアは赤面、ザ・赤面だ

どういう意味で言っているかは馬鹿の俺でもわかる

これは治療施設の続きが予想される展開だ、俺は落ち着かないといけない


『しょれは…』


噛んだ


俺はうつむいた、こっちまで赤くなる

死にたい、今すぐ死にたい…

何で噛んだのか?知らない


一息ついてから勇気を出し、顔を上げると

ティアが笑いを堪えてこちらを見ていた

どうやら噛んだのがツボに入ったようだ


『ごめん…』


俺が謝ると、彼女は笑った

先ほどの雰囲気が台無し、これは次回に持ち越しだろう


『アカツキ君、凄い噛んだね…』


『ああ、好きと言うにも凄い緊張して…』


俺は溜息を漏らしながら言い訳を言うと、テラ・トーヴァは口を開く


《なんで今言えた?兄弟?》


『へっ?』


今、俺は何て言ったっけ?

あれ…好きって言ったか…な

しかしだ、ティアの顔を見ると爆発しそうなくらい真っ赤だ

彼女は無言のまま、勢いよく部屋を出ていく

その足音は廊下から隣の部屋、自分の部屋に戻ったようだ


《馬鹿だな…兄弟》


俺は否定せずに無表情でいると

ティアは冷静じゃなくなっているらしく、壁の穴から彼女の悶絶に似た呻き声が聞こえてきた



聞いているこっちが恥ずかしくなる

俺はどうしていいかわからず、布団に潜り込んで耳を閉じた

彼女の世界の声だ、俺が聞くべきじゃない…いや違う


聞く勇気がない


その後、俺は徐々に落ち着きを取り戻すといつの間にか寝てしまっていた

仲間たちと朝食をとり、赤騎馬ブルドンを馬小屋で回収してから馬車乗り場でミヤビ街まで行く馬車に乗り、ムロマチの街を進んだ


大通りをブルドンに乗って進む俺とティア

馬車はティアマトにリリディそしてリュウグウとギルハルドだ

馬から眺める街は賑やかだが、一部の警備侍はそうでもなかった

その理由は街に貼られた沢山の街の情報紙に書いている事件があったからだろう


蛸頭の怪人、カマクラにて侍騎士を襲撃

しかし近くにいた天下無双衆のシキブによって撃退、逃亡中

昨夜の出来事らしいが


ムロマチ方面に逃げてから見失ったらしい

いやな予感がするぞ…、早くこの街を出たいな


リリディ

『日中は大丈夫でしょう…、今日の夜を超えればですがね』


馬車の窓からリリディが顔を出して話しかけてきた

確かにその通りだ、同じ街にいることになるしな


ティアマト

『記憶が戻るにつれて強くなる…か、難しい奴だな』


アカツキ

『死んだムゲンはさておき、ゾンネは記憶が戻るにつれて強くなり、ヴィンメイは敵を倒すにつれて強くなる…これって当時の強さを取り戻すって意味でいいのかな』


《多分そうだろうよ、となれば一番面倒なのはゾンネだぜ?》


ティア

『テラちゃん、凄いゾンネ推しだね』


《あいつは…他の2人と違ってちゃんと背負って堕ちた》


俺達はその言葉に首を傾げていると、彼は更に話した


《守るべき者を持った暴君さ、あいつは違う王の道を行ったが間違いじゃなかった…だからこそ強いぞ兄弟、あいつが完成する前に倒せねぇとマジで不味い…こっちが先に強くなるんだ》


そうしたい

戦いの神であるこいつがそこまで言うのだから


行きかう警備侍や侍騎士の顔色は険しい

警戒態勢は固めだ、かなりいる

中心街を抜け、商業通りを進んでいるとティアマトが馬車内から俺に話しかける


『そういやよ、幻界の森だっけか?いついく』


『お前マジで言ってんのか…』


『マジだ』


リリディが凄い呆れた顔でティアマトを見ている

でもリュウグウはそうでもない、ティアもだ


ティア

『あそこに行って帰ってこれるようじゃないと私達はゾンネも倒せないかもね』


リュウグウ

『メガネ、なんて顔してるんだお前は…どちみちきっと行く羽目になるんだぞ』


リリディ

『今、急にお腹が…私は無理そうです』


リュウグウ

『お前、死ぬまで腹痛でいるつもりか?』


彼女はリリディの頭を叩く

ティアは笑いながらそれを見ているからこっちもつられて笑ってしまう


いつかは行くんだな…まだ納得がいく理由はないけど

帰ってこれるまで強くならないと生き延びれないからな

幻界の森か…いったいどんな魔物がいるのかわからない


父さんなら知っているかもしれない、それにクローディアさんもだ

色々やることはある、リリディのスキルのなぞなぞも謎過ぎる


1、両手がある黒い犬、両手を破壊し倒し切れ(コンペール)

2、嵐を好む鮫、背びれを破壊すると怒って技を使う、逃げる前に倒し切れ(天鮫)

3、沼地の雑食獣、大きな舌と長い尻尾を切断して倒せ(ベロヌェルカ)

4、鬼と化した虫、口を破壊し、燃やして倒せ(鬼ヒヨケ)

5、地獄からの蠍、両鋏を切断し、最後に尻尾を切ってから心臓を刺せ(???)

6、地下深く、太陽を知らぬ不気味な羽の魔物、太陽の光で倒せ(???)


それを話しながら何の魔物なのかを予想しようとしたが

ティアは俺に向かって『4はいつか戦う事になりそうだね』と言ってきた


アカツキ

『そうか?』


リュウグウ

『鬼ヒヨケか、今の私達ならそれなりに挑めるのだろうか』


ティアマト

『ちょ…忘れてたがそうだったな、あの化け物虫か』


ティア

『あれと戦うって因縁あって燃えるよね』


ティア凄い根性だな、俺は億劫になるけど


ティアマト

『そのうち倒すとなると燃えてくるぜ』


リュウグウ

『それは頼もしいが、5はわかるよな』


俺は顔を逸らして誤魔化す

しかしティアの視線が痛く感じる…横目で見ると、細い目でジーっと見てる


《俺は全部知ってるぜ?》


リリディ

『本当ですか?!』


リリディは窓から身を乗り出して反応する


《いい反応だな…。6は流石にお前ら知らねぇ…本にも乗ってねぇ野郎さ…今のマグナ国にいる五傑共を倒せるレベルにならねぇとあの魔物は無理さ、倒すだけでも地獄なのに…条件付きで倒すとなるとそのくらい必要だ》


アカツキ

『教えてはくれないって事か』


《ああそうさ、残りのなどなぞの魔物…それらを倒したら教えてやるさ》


リリディ

『5は!わかってました!』


リュウグウ

『…』


彼女は疑い深い目でリリディを見つめた

というか…鬼ヒヨケかよ!

そこでティアマトが溜息を漏らし、それに関して重要な事を口にした


ティアマト

『ティアちゃんをかなり酷使することになるだろうな…リリディの黒魔法は炎じゃなくて爆発だ』


アカツキ

『ラビットファイアーのレベル上げ…か』


ティアマト

『まぁグリンピアに行ったらまずそれが良い』


リュウグウ

『私もそれでいいぞ』


それならそれにしたい

全員遅れず強くなる必要があるからな


ティア

『魔法強化スキルも1あれば…』


リリディ

『魔妖精を狩りに夜の森に行く必要がありますね』


魔物Cランクの妖精、見た目は黒いドレスの魔女

身長は俺たちと大差ないが、面倒な敵だよ

地面から僅かに浮遊した魔物であり、物理攻撃はあまり効かない

夜の森かぁ…頑張るか


途中、ティアがお昼ご飯としておにぎりを買おうと提案してきた

道行く先におにぎり屋台があったからだ

馬車を先に進ませ、俺とティアはブルドンを降りて昼の食べ物としておにぎりを1人2つずつ買うことにした


『俺は3つだぞ!』


ティアマトが馬車の側面窓から体を出してそう告げている

俺は手を上げて反応を見せると、彼はウン!と頷いてひっこむ


『らっしゃい!作り立てだよ!』


屋台のおばさんが元気よく接客してきた

種類は少ないが、間違いのない具の入ったおにぎりだ

俺達は適当にいくらか買ってからそれをおばさんに袋に入れてもらっていると、ティアがおもむろに口を開いた


『トンプソンさん、元気かな』


『あの人は大丈夫だろ?陽気な人だし』


『なんだかんだあの人のおにぎり美味しいよね』


確かに美味い!何故だろう…オヤジエキスでも米に入っているのかな

そう考えると食欲が消えそうだ、やめとこう

紙袋に詰めてもらい、それを抱えてブルドンに乗ってティアと共に走りだす


直ぐに馬車に追い付くと、リュウグウにおにぎりの入った紙袋を渡す


『そろそろ街を出ます、数時間は森ですからよろしくお願いしますね』


御者がそう話す

ムロマチの街はカマクラより小さいから抜けるまで速い

とはいっても現在は昼を軽く過ぎて14時、昼飯の時間を大きく過ぎている


『わかりました』


俺はそう答え、前を進む

馬車内で仲間がおにぎりを選んでから俺とティアに4つ渡してきた

俺は彼女が食べたいもの2つ選ばせてから残りを選ぶ

鮭と昆布か…無難だ


リリディ

『敵が出ましたら僕が出ましょう』


リュウグウ

『私も出るぞ』


ティアマト

『俺は後半戦にとっとくぜ?馬車内は俺達じゃねぇし客を守らねぇとな』


珍しくまともだなティアマト

馬車内には彼ら以外に4人の一般客がいる

どうやら家族客だ、ミヤミ出身で旅行でムロマチにいたんだとさ

子は6歳ぐらいが2人、男の子と女の子だ


『Cランク冒険者で助かります』


馬車内の家族客、その旦那さんらしき人がニコニコしながらとう言っている


ティアマト

『任せな、あんたらは馬車から出なけりゃ怪我しねぇ』


『熊が喋ったー!』


女の子がはしゃぐとリュウグウが大爆笑した

流石のティアマトも女の子に言われ、笑うしかない



天気は快晴、風はちょっと冷たい

秋だけども1か月すればすぐに冬の寒さがくるだろう

快適に森の中を進んでいると、ティアは右側の森に指を指す


リリディとリュウグウが待ってましたと言わんばかりに窓から飛び出し、馬車が止まる


『さて…運動しますかリュウグウさん』


『お前は休んでもいいんだぞ?』


『馬鹿な…、大賢者の道に休みはありません』


リリディが変な事を言っていると魔物が森から意気揚々と現れた


『ギャギャギャ!』


『ギャギャ!』


『ゴブブ』


ゴブリン2体にハイゴブリン1体か

リリディは『リーダーお願いしますね』とリュウグウに告げると走ってくるゴブリンに向かって突っ込んだ


『言われずとも!』


リュウグウが叫び、リリディの後ろを追従する


『ドレインタッチ!』


『ギャ!』


リリディはゴブリンの振り回す短剣の攻撃などごり押しで木製スタッフをフルスイングし、ぶつけた

その瞬間にゴブリンの体が発光し、それがリリディの体に流れる


『ギャーギャ!』


叫びながら吹き飛ぶゴブリン

直ぐに別のゴブリンが飛び込んでくるが、彼はスタッフで攻撃をガードしてから腹部を蹴って転倒させると起き上がる前に頭にスタッフで叩いて倒す

ちなみにドレインタッチとは敵の体力を吸収する技だ、彼には必要なスキルである


リリディは体力無いからな


『遅い!』


『ゴブブ!?』


ハイゴブリンの剣を巧みに避け、リュウグウは側面から胸部を素早く2回貫いて倒した


御者

『凄いですね』


ティア

『まだいますので油断はできません』


御者

『珍しく連続で現れますね、ここは穏やかなんですが』


そうこうしていると、森から再び魔物が現れる

エアウルフの群れ、魔物ランクDの狼さ

8頭もいる…これは驚きだ


『グルルル!』


リュウグウ

『これは狩りをする数じゃないぞ…群れ全部っぽいが』


リリディ

『珍しいですね、縄張りを群れで離れるのは嫌な予感がしますが』


エアウルフが牙を剥き、構える2人にジリジリと近づいていく

すると森の奥から何かの鳴き声が聞こえた

それは何度も聞いたことがある声だ


『グロロロロオオオオ!』


『『『!?』』』


トロールの声にエアウルフは驚き、反対側の森に逃げていく

なるほど、トロールが邪魔なのか…ならば


ティア

『トロール!2体だと思う!』


アカツキ

『リリディ!リュウグウ!いけるか!』


リュウグウ

『誰に言っている!』


リリディ

『いけなきゃダメでしょう?』


やる気満々だな


馭者

『トロールですか、大丈夫ですかね…Cはあまり見ないので』


ティア

『トロールなら大丈夫です、ただトロールは人を見ると襲うので馬車から顔を出さないようにしていただければ…馭者さんも』


馭者

『喜んで隠れます』


トロールは動物よりも人を優先的に襲う

だから馬車をひく馬は大丈夫だ

馭者は正面のドアから馬車内に入って客と共に身を潜めた


『グロロ!』


『グロォ!』


来た

二メートルある大きな人型の魔物

筋肉質であり、鉄鞭を肩に担いで森から姿を現す

馬車内にはティアマトがいるからそこは問題ない


『ニャー』


すると馬車からギルハルドが我もと言わんばかりに飛び出してリリディの横に行った


リリディ

『頼もしいですね。リュウグウさんは片方頼みますよ!』


リュウグウ

『穴だらけにしてやる!遅れるなメガネ』


リュウグウは叫び、走る


『やれやれ…名前あるんですがね、ギルハルド!いきますよ!』


『ニャ!』


彼らも走る


リュウグウは襲いかかるトロールの鉄鞭をスライディングで避け、股下を潜りながら槍で太股を数回刺して立ち上がる

一瞬、トロールがバランスを崩したが、膝をつきながらも背後から迫るリュウグウに向けて鉄鞭を振った


『タフな体だ』


彼女は飛び退く

スライディングしながらだと十分に威力が発揮しなかったのだろう

トロールは意外にも筋肉質だからこそ頑丈だ

リュウグウの槍の攻撃は深手にはならなかった

それでも彼女はトロールの攻撃を避けつつも何度も槍で攻撃した


槍は手数、あれなら大丈夫だ 

リリディの方もギルハルドがいるから時間の問題だ


『シャァァァ!』


『グロォっ!』


ギルハルドはトロールの目を引っ掻いて距離を取った

前屈みになった隙にリリディの木製スタッフがトロールの後頭部直撃、痛みに顔を上げた瞬間にギルハルドがトロールの首筋を切り裂く


『助かりますよ!ギルハルド!』


彼はパートナーを誉めながらもトロールの足にスタッフをフルスイングし、膝をつかせてから回転の勢いを止めずに顔面にぶつけて浮き上げた


トロールの体が僅かに宙に舞うが、奴もタフだ


『グロォ!』


『おやっ』 


飛び込むリリディに鉄鞭で突いた

彼は間一髪で避けてから左手を伸ばし、緑の魔法陣から円盤状の刃を2つ飛ばした


『カッター!』


その魔法はトロールの体を切り裂き、血が吹き出す

苦痛を浮かべたトロールは後退りしつつも鉄鞭を構え、リリディを睨む


リリディ

『良い相手です』


アカツキ

『油断するなよ?』


リリディ

『勿論!』


リリディは口元に笑みを浮かべ、襲いかかるトロールの攻撃を避けると、膝にスタッフをぶつける

ちょっと痛々しいな…バキンって聞こえた


『グロォォォ!』


凄い悶えながらトロールは転倒

どうやら膝がいったか

鉄鞭を手から離し、両手で膝をおさえてる


『ギルハルド!』


『ニャニャ』


ギルハルドが飛び込むと、トロールの首に両前足の爪で突き刺した

流石にタフな体といわれても深々と爪を刺されればイチコロだ


『グロ…ロ…』


『賢者バスター!』


スタッフがトロールの顔面めがけて振られる

ギルハルドは彼の攻撃の寸前で爪を抜いて避けると、リリディのスタッフがトロールの顔面に直撃さ


手足ピーン!となってからバタリと動かなくなる

リリディはトロールの様子を見て首を傾げると、おまけでもう1発スタッフで殴った


そこでトロールは断末魔を上げてから完全に死んだ

リリディは笑みを浮かべながら隣に来たギルハルドを撫でている


リュウグウ

『こいつ!』


『グロォォォ!』


リュウグウのほうはハズレだったらしいな

手数もダメージも彼女の方が結構与えてるがトロールは倒れない

既に死ぬ寸前なんだが、タフ過ぎる個体だったようだ


『死ぬまで槍で穴を開けてやる』


『グロロロ』


トロールは息切れしながらも鉄鞭を構えたままリュウグウを睨む

そこで予期せぬ事が起きる


『お姉ちゃんがんばれー』


馬車の窓から男の子が顔を出したのだ


『馬鹿!レオン!』


慌てて旦那さんが息子を引っ込めると、トロールは標的を変えた

叫びながら馬車に向かって走っていったんだ

リュウグウとリリディは驚きながら奴を追うが、ギリギリ間に合わないか


ギルハルドが追い抜きながら奴の足を狙って切り裂いたが、バランスを僅かに崩しても直ぐに立て直す


止まる気配はない


『グロロロ!』


『くっ!!』


リュウグウが焦りを見せた

二人のスピードはトロールより早くても、これは際どいぞ

だが大丈夫、だから俺は動かない


トロールが馬車の窓に手をかけようとした瞬間、熊が窓から顔を出す


ティアマト

『残念だなぁ?馬車は重量オーバーだ』


彼の右拳は魔力に包まれ、固まっていた

技スキルの鬼無双だ

それは腕を魔力で包み込み、固めて殴るのだ


『鬼無双!』


『ゲプッ!?』


ティアマトの右ストレートがトロールの頬を殴り、吹き飛ばす

仰向けに転倒すると、リュウグウが飛び込んで首を貫いて絶命させた


リュウグウ

『すまない』


リリディ

『強い個体でしたね、あなたの手数でも踏ん張るとは』


リュウグウ

『く…威力が足りなかったか、悪かった…』


ティアマト

『いんや、槍は威力より手数さ…、そもそも頑丈な野郎相手だと槍だけじゃ長期戦なりやすいだろ?仕方ねぇさ』


リリディ

『槍はソロが一番困難な武器と言われてますから、今回は運が悪かったとしかないですね』


リュウグウ

『次はこうならぬ、助かったぞ熊』


ほら、大丈夫だ

馬車では旦那さんが子供怒ってるけど、まぁ仕方ないか

リリディとリュウグウが馬車に入ると馭者はホッとしながら馬車から出て、前の椅子に座ってから馬車を進ませ始める


俺は近くの魔石を回収してから馬車を追う


《なかなか戦えたな》


アカツキ

『あと数発、だったかな』


《だな、リュウグウのお嬢ちゃんの攻撃があと2発くらいであのトロールも倒れてたかもしれねぇな》


ティア

『凄い槍の攻撃スピードだったね、リュウグウちゃんも強くなったね』


それは頼もしい事だ

リュウグウは少し暗いまま、馬車に乗る

気にしているようだ

馬車が進みだすと、リリディが上手く彼女をフォローしようとしているのが聞こえてくる


『リュウグウさん、仕方ないのですよ』


『だが熊がいなければ危なかったのは事実だ』


『C相手に槍であそこまで戦えたんですから』


『…槍花閃を使えば』


『かもしれませんが、馬車に当たると思って撃てなかったですよね』


『うむ』


『僕たちは一人ではないから怪我人はいなかった。そういうことです…。僕がへまをしたら頼みますね』


彼は満面の笑みでやり遂げた感を無駄に出す

すると、リュウグウの言葉でリリディは真顔となる


『わかった』


リリディが驚いた顔をしながら俺を見る

素直過ぎて予想外、と言ったところか


『いやぁ、C相手に単機とはお強いですなぁ』


馭者がニコニコしながら、俺にそう呟いた


森を抜けるまで頑張るか



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