第114話 激高する地獄からの蠍編 1 

トッカータ

『手伝いてぇけど…』


彼はうつむきながら覇気のない言葉を口にした

それは気持ちだけでいい、無理をしてほしいなんて言わない

手伝いたいという気持ちだけで十分なんだよトッカータさん


アカツキ

『大丈夫です、帰ってきたらジュース奢ってくださいね』


すると彼は苦笑いしながら頷いてくれた

暫くし、俺達は森に向かって歩き出した

侍騎士や冒険者が慌ただしいのは先ほど森の上空に打ち上げられた討伐失敗の発煙筒を見たかだろう


ティア

『慌てるのも無理ないよ、Bランクって危険な魔物って言われてるんだもん』


彼女は俺の隣で歩きながら話した

いつもの可愛い顔が大人びた真剣な顔をしている


アカツキ

『どんな魔物だ』


ティア

『怒ると住み分けを忘れて街を襲いだすなんて珍しくない、それは最悪の場合だけども強いからこそ小さい街ならば蹂躙できる力を持つのがB』


リリディ

『ミノタウルスとは違う、ということですか』


リュウグウ

『あれは下手な浅知恵があるから怒ってても街に来ずに森で潜んでいただろう?その点だとミノタウルスの方が知性はあるわね』


ティアマト

『ケッ!面白ぇ…死ぬ気で行くのは何度目かなぁ、それが病みつきになりそうだ』


アカツキ

『頼むぞティアマト』


ティアマト

『わぁってらよ、お前は無理し過ぎんなよ?ある程度意識散らしてくれや』


俺は彼の肩を軽く叩く

覚悟は出来てくると、周りの異様な雰囲気など気にならなくなる


《ミノタウルスとは違うからな?わかってるかお前ら…単純な強さは鬼ヒヨケ以上なんだぞ?それを意識して挑まないと戦う前から足がすくむぜ?ビビっても動け、叫んで体を鼓舞してでも動け、先を目指したいならな、お前らなら出来る》


テラ・トーヴァの言葉に誰も返事はしなかった

きっとこう思っているだろう、そんなことわかってる・・・と

空は真っ暗、曇り空で月さえ見えない


1時間かけて森の入り口まで向かうと、そこには沢山の侍騎士と冒険者がいた

切羽詰まった顔をしている。


侍騎士A

『フレアは帰ってきたか?』


冒険者A

『まだだ…やられたなんてあり得ねぇ、あいつら普通にBの魔物だって倒すんだぞ!?』


冒険者B

『ガリアさんがやられるか?何かあったに違いない…もしかしたら理由があって逃げることが出来ていないかもしれんぞ』


冒険者A

『理由ってなんだよ…1体の閻魔蠍だぞ?あの人らは初めてじゃないのに…』


そんな会話を聞きながら彼らの横を通り過ぎていくと、侍騎士がハッとした顔をして俺たちに声をかけてきた


『ちょっ!待ちなさい!!!今は立ち入り禁止だ!』


侍騎士が俺達を止めようと小走りに数人が歩み寄ってくる

駄目かと少し諦めかけた時、偶然にも助け船が舞い降りてきた


『行かせてやりなさい』


侍騎士

『シ…シキブ様!?』


天下無双衆の1人、瞬雷美人シキブ・ムラサキル

俺達はその姿に驚き、足を止めるがここにいるとはな

リリディだけは鼻の下を伸ばしている、そんな彼はリュウグウに脇腹を肘でゴンと突かれ悶えた


シキブ

『ムサシ様とジェスタードのお気に入りの冒険者よ、私が許可するわ』


侍騎士は彼女の言葉に悩ましい顔を浮かべる

するとシキブさんはそんな騎士の頬をつねりながら不満そうな顔を浮かべる


『もし彼らが失敗したらデートしてあげる』


今度は侍騎士が鼻の下を伸ばす

そんな説得方法…ありなのか?

可笑しい説得に納得した侍騎士の頬を離し、シキブさんは腕を組むと俺たちに歩み寄ってくる

敵意を向けてこなくてもその体から何かが放出されている気がする…強い

ビリビリと何かを感じているんだ


この人は本当に強い


『ムゲンを倒した子ね?アカツキ君だったっけ?』


『その話、きっと聞いたんですね』


『まぁね。まぁ私は強いから虫くらい倒せるけども私が倒しても意味がないのよねぇ』


『何でですか?』


『強いものは弱いものを導くのも力なのよ?新しい力の誕生を促すって最高じゃない?まぁ貴方たちがそうだったならばいいんだけどもこれは実験よ』


彼女は森に視線を向けると、『行きなさい、時間はない…あれは怒っている』と話した

ティアは俺の腕の裾を掴み、強く頷いた

俺は彼女を心配させないように笑みを浮かべて頷くと、それに反応してくれたのか僅かに笑ってくれた


『お前ら、行くぞ…』


俺の言葉に返事はない、俺はオイルランタンに灯りをつけて歩き出す

光粉も持っているし準備は万全だ。ブルドンは置いてきたけどね

ティアマトは近くの侍騎士から松明を奪っている、まぁ…いいのかな

森から目を離さずに中に入っていくと更に不気味さを感じさせる

生き物の気配などまったくしないからだ


虫の鳴き声も、動物の鳴き声さえも何も聞こえない

無音であり、耳鳴りだけが支配していた


『ギルハルド、無理をさせる…頼みますよ』


リリディは真剣な顔を浮かべたまま横をついてくるギルハルドの頭を撫でた

この魔物は利口だ、いつもはリリディを見て懐くように鳴いて返事をする

だけども今回はしなかった


ギルハルドは森の向こうを見つめたまま獲物を狙う獣の顔を浮かべて鳴いた


『ニャ』


魔物だって生きているからこそ何故ここにきたか理解している

明らかに格上の魔物なのにな、凄いなこいつ


ティア

『緊張してると余計に喉が渇くね』


彼女は腰につけていた水筒を手に取り、水を飲む

俺もそれにつられて同じく腰につけていた水筒の水をグビグビと飲んだ

水筒の水はただの水なのに、今日はいつもより美味しいと感じる


《場所は教える…真っすぐだ、ひたすら真っすぐ行けば草原地帯がある筈だ、先ずはそこにいけ》


リュウグウ

『奴はどういう状態だ?あとは討伐しにいったフレアという冒険者の状態は?』


《それは自分で確かめて理解しな》


リュウグウは不満そうな顔を浮かべるが、仕方ない

何でもかんでも彼に聞いても意味が無いからだ

リリディはスタッフを構えながら側面を警戒しながら前に進む

それは全員同じだ、俺は先頭で刀を構えながら歩く


でも魔物の気配など何も感じない

それはティアも同じだ、彼女の気配感知が一番レベルが高い


ティア

『全然何も感じない…アンデットなら沢山出てくる時間帯なのに…』


ティアマト

『それも不気味だ、魔物が感覚的にこの地帯から逃げたか?』


アカツキ

『その可能性は高い、一応細かく小休憩しながら進もう…10分後に一度足を休めてから直ぐに進む』


リリディ

『賛成です、できるだけベストコンディションで挑みたいですから』


《それは俺も賛成だ》


こうして一瞬で10分歩き、俺達は足を止めて体を休めた

まだ森の中、木々が生い茂っており、仲間は地面から顔を出す大きな根に腰を下ろして一息ついていた


ティアマト

『こんな緊張感、初めてだ…震えが止まらねぇ』


リュウグウ

『熊が虫に負けるのを想像したのか?』


ティアマト

『馬鹿言うな、武者震いだよ』


その間、俺は体を休めながら辺りを見回す

物音一つもしない、下手なお化け屋敷よりも別な恐怖が無音に乗って押し寄せている

死んだ森、それがお似合いだ


アカツキ

『リリディ、閻魔蠍はお前の欲しいスキルを持っているんだよな?』


リリディ

『それは忘れましょうアカツキさん、僕らにそれを考えながら戦う暇があると思いますか?』


俺は答えれない

大賢者になるためのスキル、彼のお爺さんが残した変ななぞなぞがこれだ


1、両手がある黒い犬、両手を破壊し倒し切れ(コンペール)


2、嵐を好む鮫、背びれを破壊すると怒って技を使う、逃げる前に倒し切れ(天鮫)


3、沼地の雑食獣、大きな舌と長い尻尾を切断して倒せ(ベルヌェルカ)


4、鬼と化した虫、口を破壊し、燃やして倒せ(鬼ヒヨケ)


5、地獄からの蠍、両鋏を切断し、最後に尻尾を切ってから心臓を刺せ(閻魔蠍)


6、地下深く、太陽を知らぬ不気味な羽の魔物、太陽の光で倒せ(???)



到底それをこなす技量はあると即答できない

段階的に鬼ヒヨケ以上の魔物だ、欲を出したら一瞬で崩されそうだ


アカツキ

『すまんなリリディ』


彼は穏やかに笑みを浮かべ、眼鏡を触ると頷いた

俺はそろそろ向かおうと皆に声をかけようとすると、森の向こうから大きな音が聞こえた

それは地面に何かが衝突したような音、それが数回連続して起きた


地響きがここまで来るか…これはいったい


ティア

『蠍は怒ると足や両手の鋏で地面を何度も蹴る』


アカツキ

『ご機嫌斜めか…最悪な状況か』


リュウグウ

『怒った魔物は個体値を上回る力を出すときが多々あるからな、これは笑うしかない』


彼女はそう話しながら立ちあがった

俺は歩き出し、皆と共に森をひたすら進んでいく

奥に向かうにつれて会話はなくなっていく


次第に俺も仲間のそんな様子など気にすることも出来ないくらい森に全神経を集中させていく

また地面に何かが激突したような大きな音、それが起きるたびに俺の体は強張る


リリディ

『おや?』


灯りによってリリディが何かを見つけた

側面の木々の根の壁に何かがいたんだ

おばけを見るよりもびっくりしたかったが、それは人だった


女性だ


『…誰?』


女性が小声で声を出し、顔を出してきた

冒険者だ。双剣を持っている20代くらいの人だった

見たところ怪我はないようだが泥だらけだ


アカツキ

『フレアの方ですか?』


俺は水筒を渡しながら彼女に話しかけると、その人は俺の水筒を一気飲みで飲み干してから美味そうな顔を浮かべる、そうとう喉が渇いていたのだ王

彼女は一息ついて話し出す


ウレラ

『私はウレアよ、フレアのチームの1人だけども逃げてるときに仲間とはぐれたんだけども…』


アカツキ

『ほかの仲間は?』


ウレア

『怪我人はいるけども大怪我じゃないわ、きっと無事だけども森から出れないの…私達もう疲れ果てて魔力すら残ってない…このまま街に戻ったらあの魔物を街に連れてっちゃう…凄い怒ってるからきっと追いかけてくる、私達を探してる筈よ』


リリディ

『閻魔蠍ですよね?何があったんですか』


その言葉に彼女は答えようとした瞬間

ティアの顔色が変わった


『四方から気配!!凄い数!』


俺達は瞬時に背中合わせで森を警戒した

次第にその気配は俺達の感知にも捉えれるほどになると、俺達は乾いた笑みが止まらなくなる


多すぎる…


ウレア

『おチビちゃん達ね、これくらいならばまだ…』


リュウグウ

『オチビ?』


すると四方の森の奥からカサカサと不気味な音が近づいてくる

それは俺とティアマトの持つオイルランタンと松明の灯りに照らされ、正体がわかった


魔物ランクEの闇蠍の群れだ

全長1メートルサイズの小ぶりな蠍だが、尻尾の毒針に刺されると麻痺してしまうから注意だ


キーキーと甲高い声を出しながら俺達を包囲するおぞましい数の蠍にリュウグウは性的に無理と言わんばかりの顔をし始める


アカツキ

『出し惜しみはできないか』


ティア

『ある程度スキル使わないとこの数無理だよ』


ティアマト

『悪いが俺は節約するぜぇ!おらぁぁぁぁぁ』


熊が闇蠍の群れに突っ込み、片手斧を振り回す

彼に向かって飛び込む蠍は攻撃する寸前で次々と斬られ、吹き飛んでいく


『ティア!援護!』


『はい!』


彼女はティアマトが戦いやすいように彼の近くにいる闇蠍に群れの一部にラビットファイアーを放つ

赤い魔法陣から細長い熱光線が全て魔物にあたると、蠍は甲高い悲鳴を上げながら燃え盛り、暴れだす

その暴れた闇蠍は別の個体に触れると、その個体にも燃え広がる


こいつらはまだ火に弱いか。燃えやすいんだな

それならいける


ウレア

『物理だけならまだいけるわ、ある程度倒せばきっと逃げるから見える蠍だけ倒して!』


アカツキ

『刀界!』


俺は飛び込んでくる闇蠍達に向けて細かい斬撃が交じった衝撃破を飛ばす

それに触れた個体は吹き飛びながら斬り刻まれ、地面に沢山倒れていった

殲滅するには丁度いい技スキルだ、重宝したいが魔力の消費が意外と多いから節約するならあと1発を出すか迷うぞこれ…


リリディ

『カッター!』


2つの円盤状の緑色の刃を2つ飛ばすと、闇蠍はいとも簡単に両断されていく

まだこのランクの蠍は頑丈ではないようだ

彼はその後、スタッフを振り回して叩きつぶしていく


リュウグウは槍を巧みに使い、闇蠍よりも素早く動き、槍で貫き地面に落とし

攻撃の隙を作らない

一番安定して戦い方をしている


『ケッ!数で勝てると思ってんのかぁ!』


ティアマトは飛び込んできた闇蠍が毒針のついた尻尾を前に出して突き刺そうとするのを顔を逸らして避けながら尻尾を掴み、それを投げ飛ばした


『キー!』



『うるせぇ』


足元にいた個体を踏みつぶす


俺は近づく闇蠍を倒していると、横にいた闇蠍の群れが急に燃え始めた

ティアがラビットファイアーを使用してくれたんだろうな、彼女は戦いながらこっちを見て僅かに笑っていた


ありがたい、スペースが生まれればそれだけ動ける

それにしても、ウレアさんは強いな…双剣でバッタバッタと魔物を斬り倒している

ギルハルドはリリディの近くで闇蠍を斬り裂き、頭部をかみ砕いて倒したりと一連の動きが素早い

闇蠍が反応しきれていないな



闇蠍の数も半分近くになろうとした時、それらは諦めて森の奥に逃げていく

辺りには魔石が転がっているが、回収する気になれない

発光した魔石が3つもあるが…それはギルハルドがなんだか勝手に体に吸収し始めた


誰もそれには何も言わない

今はギルハルドに吸収させたほうがいい、すべてが麻痺耐性だがギルハルドが吸収するとそれは単純な力となって体に吸収される

強くなれるという事だ


まぁ一先ず助かったな

その場に皆が腰を下ろすと、俺も地面に座る


ウレア

『やるじゃないあんた達、でもここは地獄よ?』


アカツキ

『地獄を見たくて来たんだ』


ウレア

『度胸あるわね、そんな男嫌いじゃないわ』


彼女は息切れしながらも俺に近づくと俺の顔を覗き込んだ

ちょっと近いから顔を僅かに下げると、ティアはムスッとした顔で割り込んでくる

それを変に理解したウレアさんは苦笑いしながら降参のポーズをしたまま話す


『貴方の男だったのね』


こっちが恥ずかしくなるよ…


リリディ

『何か来ますね…』


《数は少ないが…面倒な蠍が来たな…》


リュウグウ

『般若蠍だな』


《ほう、よくわかったな…なんでだ?》


リュウグウ

『闇蠍より面倒な蠍は般若蠍しかいない、閻魔ならもっと反応が違う』


《野郎連中より読み取るのが上手いな》


リュウグウは俺達男3人に自慢げな顔を見せてくる、憎いっ…わかんなかったけど


ギルハルドが毛を逆立てて森の奥に警戒していると、それは出てきたよ

ランクC、般若のような顔をした蠍だ、2メートルサイズだがやっぱデカいな

尻尾が長いからそう見えるかもしれないけどな


『キ』


『キ』


2匹だ

それらは俺達の周りをゆっくり歩いて隙を伺っているようだ

リリディは呑気に水筒の水を飲み、一息つくとギルハルドの命令した


『1体斬り刻め』


『ニャ』


ギルハルドは突っ込んだ

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