第119話 魔物大行進編 2

クローディアが冒険者を引き連れて森に向かった後、森への入口である防壁では警備兵30名に冒険者になって1年未満である者が16名その場を守っていた

扉は堅く閉ざされており、彼らは防壁の上から森を眺めている

その高さは10メートル、それを登る魔物ならこの森にはいくらでもいる


『森が静かだな』


防壁の上の警備兵がそう告げた

すると冒険者は『わかるんですか?』と聞く


『そりゃわかるさ、長年ここから森を見ていたからね…。魔物は俺達の下にある頑丈な扉を壊せはしないが、登ってくる魔物は沢山いるぞ?』


警備兵が若い冒険者に顔を近づけ、怖がらせるように言い放つ

息を飲む新米の冒険者を見た警備兵は口元に笑みを浮かべると、肩を軽く叩いてから『楽にしろ、じゃないと死ぬ』と言って森を眺める


その様子を見ていた1人の警備兵が怯えさせる言葉を放つ同僚を注意した


『ドンパ、何してる…怖がらせるなよ』


『あはは、すいませんエーミールさん』


『ったく、しょうがない奴だ…。冒険者よ、気にしないでくれ』


警備副兵長エーミール、彼は以前に鬼ヒヨケからアカツキ達を守ろうと果敢にも飛び込んだゲイルの親しき友人であるエーミールである

ゲイルの指示でこの場を守るように言われ、魔物を入れないように警備兵に指示を任されていた


冒険者A

『ですが、あの数ならば魔物も流石にここには…』


副警備兵長エーミール

『いや、魔物は針の穴を通すように冒険者を掻い潜ってくる奴はいる・・・。油断せずに森を見ておきなさい』


冒険者B

『明日休みで可愛い洋服買いたかったのに…』


副警備兵長エーミール

『これだけの緊急事態だ、協力者には明日の買い物で使える十分な金は入るぞ?』


そう言いながら彼は微笑み、直ぐに警備兵達に顔を向けると真剣な顔へと変えた


(ここも新米だらけなんだがな…)


ここにいる警備兵も大半は新人、熟練した者は素早く隣街に市民を避難させるために出払っていたのだ

こんな事、起きる筈がないからこそ今彼らは警備兵不足に陥っていた


副警備兵長エーミール

『魔物を統率する化け物とは聞いたことが無いが…』


警備兵ドンパ

『俺達は人間専門です。魔物の世界にはいるんでしょうね』


冒険者B

『ここまで来てほしくないなぁ…』


副警備兵長エーミール

『女、諦めろ…始まればある程度ここまで来て壁を登ろうとしてくる』


冒険者は溜息を漏らし、森を眺める

するとそこで森の奥から青い発煙弾が空に打ち上げられ、誰もが険しい顔を浮かべた


警備兵

『始まりましたね…』


副警備兵長エーミール

『そうだな…』


静かな夜、だからこそ彼らのいる場所まで僅かに森から慌ただしい色々な音が届く

息を飲む警備兵は防壁から下を覗き込み、魔物が来ないかを厳重に監視していると街側の防壁の下からエーミールへの伝令を届けに警備兵が走ってやってきた


ゲイルゲンコツ長がシグレと共に向かっている、と

若い警備兵達はそれを聞いただけで(よし!)と心の中で叫んだ


副警備兵長エーミール

『この場は俺が預かっている。ゲイルとシグレが来るまでここを守るぞ。登ってくる馬鹿は連射式ボウガンで撃ち落とせ!登ってきた魔物には褒美として遊んでやれ!』


『『『はい』』』


副警備兵長エーミール

『ドンパ、投擲の指示はお前に任せる』


ドンパ警備兵

『了解ですよ』


副警備兵長エーミール

『冒険者は同じく、登ってきた魔物の対応、魔法使いがいるならばよじ登る魔物を撃ち落としてくれ』


冒険者達が頷く

緊迫した雰囲気の中、警備兵達が更に松明を増やす

そうすることで魔物は集まりやすくなるからだ

別の防壁から登ってこないようにするための誘導である


副警備兵長エーミール

『冒険者の中にアカツキ君はいなかったな…』


ふと彼はそう囁いた

すると冒険者達はその言葉に反応し、声をかけた


『イディオットですか…お知り合いで?』


『まぁ一緒に死にそうになった仲だよ。彼らはどこに?』


『ウェイザーの街で疫病の対策に向かったと聞いてます。彼らもいてくれれば安心だったんですがね』


『話はゲイルから自慢げに聞いたよ、Bの魔物を幾度となく倒し、今や数十年振りにこの街から冒険者ランクBが生まれそうだったね』


『実際彼らは強いですよ。リリディさんだってミノタウロスを公衆の面前で倒したくらい強いんです…Bにならないのは可笑しいくらいの強さでした』


エーミールは自分の事ではないのに、彼らの称賛の声が少し嬉しく思った

口を開く冒険者の胸を軽く小突き、『誰にでもそうなれる資格がある』と告げて森に目を向けた


『!?』


エーミールはこうみえても気配感知は高い

だからこそ、この場にいる誰よりも事態の変化に敏感だった


副警備兵長エーミール

『くるぞ!』


彼が叫び、ドンパが連射式ボウガンを持つ10名の警備兵を防壁から下を覗かせるように配置につかせた

すると同時に森の奥から魔物が姿を現したのだ


ゴブリン、エアウルフ、格闘猿

面倒なのがグランドパンサーというDランクの猛獣である犬種の魔物だ

この場でそれを倒せる者は少ない


冒険者達がグランドパンサーの姿を見て肩に力が入るのを見たエーミールは『落ち着け』と言い、防壁に到達した魔物がよじ登ってくるのを見る


『放て!』


ドンパが叫ぶと警備兵が一斉に連射式ボウガンを放ち、地面に落としていく

登るとなると魔物でも攻撃など出来ず、ただの的だ


警備兵

『俺達、魔物専門じゃないんだけどなぁ』


冒険者

『頑張ってください』


警備兵

『登ってきたら頼むよ、魔物との戦闘訓練は2回しかしたことがないんだ…』


警備兵はそう言いながら必死な顔でボウガンを放ち、魔物を撃っていく

数は徐々に増えるが、それも数体のみ

エーミールはグランドパンサーが上まで到達するまでに赤い魔法陣を手の先から出現させると、グランドパンサーに向けてボムを放つ




『ギャフ!』


爆発魔法になす術もない魔物はそのまま地面に落下し、動かなくなる

そこでボウガンの弾数が無くなり、装填をしていると格闘猿3体とゴブリンが防壁の上に到達してくる

警備兵は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた


連射式ボウガンを装填し終えた警備兵が飛び込んでくる格闘猿に撃とうとした瞬間、冒険者が前に飛び出して格闘猿を斬り裂いて防壁の下に落とす


他の冒険者も同じく登ってきた魔物を斬り倒す光景を見た警備兵は下に集中しようと再びボウガンを防壁をよじ登る魔物に向けて撃ち始める


(数が!)


エーミールは森から姿を現す魔物の数を見て小さく舌打ちをする

この数では無理だと思う様な数が森から現れたのだ


(森の中に入った奴はどうなったんだ!)


彼は焦りを見せながらも警備兵に撃ち続けろと叫ぶ

このままでは突破されると彼だけじゃなく、誰もがそれを感じ始めたころに突然それは起きた

下の扉が開き始めたのだ


『おい!どこの馬鹿が開けていいと言った?!閉じろ!』


エーミールが声を荒げながら街側の扉の下で待機している警備兵に鬼のような形相で叫ぶ

しかし妙な事に彼の部下は皆、首を横に振っているのだ

それには彼も何を伝えたいのかわからず、首を傾げる

あとは警備兵が100人も増えており、市民の避難をしていた者たちだった


(あれ?)


『ギャフ!』


『キャイン!』


『グゲッ!』


エーミールは魔物の悲鳴に似た声を聞き、防壁の上から森側の下を眺めた

そこで彼は苦笑いを浮かべることとなる


ゲイル

『馬鹿は俺だけで十分だろ、エーミール』


シグレ

『やっと体動かせますね』


副警備兵長エーミール

『遅かったなお前ら!』


ゲイル

『他の警備兵も連れてきた、ここは任せる!俺達は森に向かう』


副警備兵長エーミール

『わかっ…』


その瞬間に森からけたたましい咆哮が鳴り響き、地響きが起きる

森から風が流れ込んでくると、誰もがその異常な獣の声に体を強張らせた

魔物が足を止め、森を眺める隙を見てシグレが無慈悲にも鉄鞭で頭をぶっ叩いて倒す


『ボーナスタイムですね』


シグレはそう言いながらボカボカ倒していく

先ほどの咆哮もなんのそのな彼にゲイルも引き攣った笑みを浮かべ、口を開く


『さっきの声、聞いてなかったのか?』


『いえ、聞きましたよ?それよりも扉』


『そうだな。扉を締めろ!』


ゲイルは部下に扉を締めさせると、シグレを連れて森に進みながら現れる魔物を倒して進む


『ゲイルさん、あの咆哮がアカツキ君達が言っていた過去の偉人ですかね』


『獣王ヴィンメイ、そうだろテラ』


《奴がいる》


テラは念述の受信を許可したものに対し、遠くからでも声を届けれる

それを先ほど聞かされた2人はかなり驚いたのだ


《あいつは力のごり押しだ!だが殲滅に関してはイグニスよりも上、どんな野郎かは詳しく聞いている筈だ!イディオットは向かってきてはいるが間に合わねぇ!お前らで何とか倒すか撤退させろ!》



『妹を虐めた動物を逃がすと思ってるのかい?』


《兄は威勢がいいな…だが相対すりゃわかる!》


『リリディ君の魔物がいないのが悔やまれるが、倒しきるぞシグレ!』


『はいよ!』


2人は走った

きっとクローディアが持ちこたえていると信じて

しかしその頃、肝心の彼女はエーデルハイドと共に森の奥から聞こえた咆哮の主とご対面を迎えたのだ














開けた草原地帯の中心にある岩に腰を掛ける3メートルの巨体

獅子の肉体を持つ2足歩行の化け物を前に、クローディアは驚愕を浮かべた


(あれが…)


獣王ヴィンメイ

『許さぬ』


囁くようにして口を開き、立ち上がるヴィンメイの右手は切断されたままであり、傷口は塞がっている

左手に握る鉄鞭の先には鉄球がついており、それを力強く握りしめて怒りをあらわにしていた


『大きな犬ね』


『貴様何者だ?アカツキ達を呼ばぬともっと呼ぶぞ!この傷の恨み!貴様らでは晴れぬ!』


足で強く地面を踏むヴィンメイ

それによって地面が揺れ、彼は唸り声を上げながら鉄鞭を肩に担ぐ

始めてみた化け物にクローディアは凍てついた目を向け、鉄鞭を握り締めたまま近づいていく

彼女の後ろからエーデルハイドの4人もついていくと、ヴィンメイは口から圧縮した空気弾を撃った


『小細工』


クローディアはそう言いながらも腕で払って弾き飛ばす

それにはヴィンメイも僅かに目を開けて驚くが、直ぐに不気味な笑みを浮かべてから高笑いした


『がはははは!少しは楽しめる人間らしいが!お前1人でどうできる!?我は獣王ヴィンメイ!獣人里の歴代最強の戦士であるぞ?スキルを渡せばお前は部下にしてやらんでもないがなぁ!』


『スキルが欲しいのかしら?』


『あれさえあれば我はこの世で伝説を作れる!』


『間に合ってるわ、ゾンネとは仲良くないのかしら?』


『あいつはわからぬが!まぁスキルを手に入れたらまずはあいつを殺すか!我を馬鹿にしおってからに!その前にこの街を壊す!俺の腕を斬った猫はどこだ!教えぬと頭を叩きつぶすぞ!』


『獅子が猫に負けたのね、可哀そう…あなた弱いんじゃない?』


クローディアの挑発にクリスハートは体を強張らせる

怒らせたら一番駄目な化け物だからだ

だが彼女はあえて怒らせようと挑発するが、簡単に乗るとは思ってもいなかった


しかし


『お前殺す!!』


(単純ね)


鬼の形相を浮かべた獣王ヴィンメイは空に向かって大きな咆哮を上げ、地面を蹴って宙に舞い上がった

着地する地点にはクローディア。彼女は空高くから鉄鞭を掲げるヴィンメイを見て武器を構える


『貴方達!避けなさい!!』


『はい!』


エーデルハイドの全員が返事をし、その場から飛び退く


獣王ヴィンメイ

『そのまま死ね!大地噴出断!』


クローディアは間一髪で避けながら跳び

ヴィンメイの技によって地面が大きく地割れが起きて岩が隆起するのを見て驚愕を浮かべる

予想外の破壊力、予想外の広範囲、予想外の衝撃波によって彼女はバランスを崩しそうになる


『ほう!』


ヴィンメイはクローディアに関心を浮かべ、落下してくるタイミングで武器を振った

人間程度の筋力では自身の一撃など耐え切れない、そう思っていた

この時までは


『パワーダンク』


クローディアはそう囁き、獣王ヴィンメイの鉄鞭に自身の鉄鞭をぶつけた

弾かれ合うことなく、その力はなんと拮抗していたことに獣王ヴィンメイは驚愕を浮かべる

しかし、直ぐに大声を上げてクローディアを弾き飛ばし、遠くに着地するのを見て彼は目を細めた


今まで見た人間と何かが違う、と


クローディア

(こんな馬鹿力、感じたことないわ…)


彼女の武器を握る両手は今の一撃で痺れ、感覚が鈍っていた

ちょっとした後悔を浮かべたクローディアは武器から片腕を離し、ブンブンと振りながらも身構えるヴィンメイに向かって言い放った


『しばらく相手してもらうわよ…』


『やってみろ人間!愚かさを思い知れ!』


2人が走り出した瞬間、クローディアはテラ・トーヴァの声を聞く


《持ちこたえろ!あいつの攻撃は大袈裟に避けないと吹き飛ばされるぞ!》


獣王ヴィンメイは恨みを晴らすために、当時の力を取り戻していた


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