第135話 最終決戦 獣王ヴィンメイ 1
俺達は獣王ヴィンメイが決着をつけようとしていることを、朝一番で家に来たギルド職員のロキさんから聞いた
今から何ができる?スキルを手に入れる事しかできない
助けはこない、隣街から腕に自信がある冒険者を募るのみだ
それでも付け焼刃かもしれない、でも気持ち的に楽にはなる
俺は8時にはギルドに辿り着き、2階の応接室に来ていた
部屋の中心には大きな楕円状のテーブル、それを椅子で囲んでいた
誰がいるか?決まってるさ
クローディアさん
シグレさん
俺の父さんのゲイル
イディオットのみんなにエーデルハイドのみんな
そしてクリジェスタというチーム名でグリンピアで俺達を監視するリゲルとクワイエットさん
この中でクワイエットさんが一番緊張感がなく、干し肉を美味しそうに食べている
シエラ
『美味しい?クワイエットさん』
クワイエット
『美味しいよ?シエラちゃんもどう?』
クローディア
『ふざけないの』
彼女に注意され、2人は大人しくなる
明日には獣王ヴィンメイがこの街を襲う
クローディアさんは近くの街に救援を呼び、冒険者を集めている最中だと話す
目的はヴィンメイの犬笛で集まった魔物の侵攻阻止
魔物に対しての策はどうとでもなると彼女は軽く言う
だがしかし、問題は本体である獣王ヴィンメイだ
あいつはもう生前の力を手にしており、Aランクと戦ったことも勝ったことがない俺達には手の打ちようがないんだよ
リゲル
『俺が倒す』
アカツキ
『手があるのかよ』
リゲル
『倒す』
ティア
『凄い思想…』
彼女は苦笑いを浮かべ、ボソッと呟く
誰も答えが出ない、無駄な時間が刻々と進むだけだ
シグレ
『悪いけど警備兵は僕やゲイルさん含め、街を守る』
警備兵だから仕方がない事だ
獣王ヴィンメイを倒せても、冒険者の間を通って街に入られたら大変だからな
俺の父さんもその役をするから更に残念だ
ティア
『アカツキ君だけ効率よく狙う獅子には見えないから仕方ないよ。あれ脳筋って凄いわかる…全部一気に壊す気だよ』
リュウグウ
『本当に質が悪い獅子だ』
クリスハート
『ですが戦うしか…』
ティアマト
『こっちゃ覚悟できてるぜ。今すぐでもあいつの顔面を殴ってやるぜ』
リリディ
『凄い根性…』
ティアマトの脳はどうなっているのか、わからない
だが最悪なタイミングでもこのようなやる気を出せるのは心強い
そしてリゲルは念のため、ロイヤルフラッシュ聖騎士と撤退した1番隊に連絡を入れているというが…
リゲル
『ロイヤルフラッシュ聖騎士は確かに無理だ、コスタリカからでも4日かかる…』
クリスハート
『1番隊の皆さんはどうですか?』
リゲル
『ギリギリ間に合うが…』
雲行きが怪しい顔だ
嫌な予感しかない、それもそのはずだ
1番隊は王都に届いた怪文書の対応をするために撤退していったからだ
それを無視して戻ってくるなどできないだろうな
指示を出したのはロイヤルフラッシュ聖騎士だが、決めたのはフルフレア公爵
逆らえるはずもない
クワイエット
『何が来わかって、ノヴァツァエラだよね』
シグレ
『昨夜のは凄かったよ。さっき現場を調べた先輩たちから聞いたけど…』
ゲイル
『直径300メートルのクレーターだ。』
誰もが言葉が出ない
それなら逃げ場なんてないに等しいぞ
使われたら終わり。それが一番の問題だ
『ニャハン』
天井に張り付くギルハルドが鳴いた
頼みの綱がこいつか…俺達も強くなっているのにな
ちょっと悔しいよ
アネット
『限られた時間で対策ねぇ…』
クワイエット
『無理にしても無駄だよ。今の状態で挑むしかないね』
アカツキ
『ある程度は俺達も街に向かう魔物を倒してから先に進むのはどうだ?』
リゲル
『お?お前にしては成長した考えだな』
《褒められたぞ?》
アカツキ
『喜べないな…』
リゲル
『喜べよ。まぁあながち間違いじゃない…つぅか』
リゲルは背伸びをし、続けて話そうとするとティアが口を開く
ティア
『後方の憂いをある程度、解消してからいけば存分に戦える。脳筋王との戦いよりも先に魔物を減らすのが先だね、だってあの獅子さん最初前でないと思う』
リゲル
『その通りだ。あいつは何様だってくらい戦うと同じくらい高みの見物が好きだ。先ずは見る筈さ』
クリスハート
『動き出す前に魔物を減らす、だね』
クローディア
『それが今の一番の案ね。冒険者だけで大丈夫そうになれば私も向かうわ』
《それがいいぜ。あいつは傍観大好き馬鹿だ…マジで最初は見てるだけだと思う》
シグレ
『魔物の質はきっと上がっているだろうけど、最初に魔物優先なら何とかなるね』
ゲイル
『うむ、我らも落ち着いたら向かう』
アカツキ
『1月の終わりまで待って欲しかったな』
リリディ
『あちらは早く貴方と会いたいらしいですね』
アカツキ
『俺は御免だよ』
《まぁしかしだ。やるしかねぇ…兄弟は逃げるって選択肢ないだろ》
アカツキ
『街が無くなるくらいなら死んだほうがマシだ』
ティアマト
『逃げるなんざ御免だ。確かに必要な時に逃げるのも大事だが…今はそれを選べねぇ』
クローディア
『いっとくけど北の森は封鎖中、調査したのちに街全体に緊急警報を発令するわ。』
リゲル
『それがいい、今日あれがこないならば最大レベルの警報はギリギリまでしないほうがいい』
《あいつは決めにくる、覚悟決めろ》
アカツキ
『わかった。今日はいつも通りでいこう』
全員が静かに頷く、リゲル以外な
こうして応接室から出ると、リゲルは大胆にも2階の吹き抜けから1階ロビーに飛んで降りた
近くにいたバーグさんが驚きながら身を引くのが見える
リゲル
『なんだ?』
バーグ
『凄いな』
リゲル
『まぁな』
するとリゲルは隣接している軽食屋に顔を向ける、お腹が空いているだろうな
ドラゴン
『お前凄いな。』
リゲル
『得意だからな』
リゲルはクワイエットを呼び、軽食屋に歩き出す
俺達も普段通りしとかないとな。てか開闢使わないといけないのに北の森はいけないし
参ったな…
ティア
『今日はリゲルさんと訓練しないんですか?』
クリスハート
『夕方にサブ武器の訓練を頼んでます』
シエラ
『気になる』
アネット
『駄目駄目シエラ…邪魔しな~いの』
クリスハート
『何を考えてるんですかアネットさん…』
アネット
『なんも?』
アネットさんはニヤニヤしながら階段を降りていく
俺達も依頼板を見てみるが、何も依頼書が貼っていない
丸テーブルに座り、少しのんびりしていると2階から父さんとシグレさん、そしてクローディアさんが降りてくる
父さんは遠くから俺を見て真剣な顔で頷く
途端に驚いた表情に変わるのが何故なのかわからない
『マキナさん!』
父さんが声を大にし、走ってくる
その名にかなり聞き覚えがあるぞ
『元気かゲンコツ男』
俺のテーブルの近くから聞こえた
仲間と共に振り向くと、そこには元魔法騎士会、魔法副騎士長補佐だったマキナさんがニコニコしながら椅子に座ってフライドポテトをパクパク食べていたんだ
あの人はリリディのお爺さんであるハイムヴェルトさんの補佐を勤めた強い時代の一人
父さんが嬉しそうな顔で彼に近づき、固い握手をしている
ら
周りの冒険者も少し気になるようであり、チラチラ見ていた
『マキナさん、どうしたんですか』
『散歩じゃ、明日には帰るさ』
手を離した父さんは握手した自身の手を見つめると、彼に言ったんだ
『力は衰えてないですね』
『馬鹿いうな若僧、魔法使いは肉体鍛えずして何の役に立つ?そんな奴は荷物になるだけじゃて』
今、ロビーにいる数人の魔法使い職がウッ!と言いながら胸をおさえたぞ?
苦しそうだ…見なかった事にしようか
マキナ
『おや?懐かしい顔だ』
アカツキ
『ご無沙汰ですマキナさん』
ティア
『お久しぶりですマキナさん』
みんなで深々とお辞儀をすると、マキナさんは気分を良くする
散歩にしては凄い距離だ、とリュウグウが口にするとマキナさんはニコニコしながら話してくれた
『本当になんとなくだ。こっちの魔物の方が活きが良いからな』
リリディ
『腕ならしですか』
マキナ
『まぁな』
《兄弟、こいつを巻き込め…今は必要だ》
アカツキ
『え?』
俺は驚いていると、父さんが真剣な顔になる
きっとテラの声が聞こえていたのだ
『マキナさん。助けてほしいことがある』
『真剣な顔は似合わないぞゲイル?どうした』
『…クローディアと応接室で話しませんか?』
気づけばクローディアさんもこちらに近づいてきていた
話をまだ聞かずとも、何かを悟ったマキナさんは目を細める
父さんはシグレさんを帰し、再びクローディアさんとマキナさんを連れて2階の応接室に言ったのだ
協力してくれるだろうか…
ティア
『きっと助けてくれるよ』
アカツキ
『そうだな…近くで頼りになる仲間か…他には…』
いない
それが痛すぎる
仲間たちは誰がいてほしいか、確実に頭に浮かぶ者がいる筈だ
元英雄五傑にいた道化傀儡グリモワルド・グレゴール
今はジェスタードという名でエド国にいる
リュウグウ
『遠すぎる…』
ティアマト
『くそ…あの布袋がいりゃ殆ど解決なのによ』
アカツキ
『仕方がないさ』
ティア
『本当に死ぬ気で頑張るしかないね』
アカツキ
『状況の悪い時はあるさ、今がそれだ』
《そうさ兄弟、やるしかねぇんだ》
昼前にリゲルとクワイエットはロビー内の丸テーブルに座り、遅めの朝食を食べるようである
何やら楽しそうに会話している
周りでは大勢の冒険者がロビー内に沢山設置されている丸テーブル席に座り、森に行けないからただただ仲間たちと話し合って明日の予定を立てている会話が聞こえる
ふと気になり、俺はリゲルとクワイエットさんに近づく
『なんだ?』
リゲルの面倒くさそうな顔、わかりやすい
俺は彼の近くで立ったまま、質問をした
『他の聖騎士は来る感じはするか?』
『今回はタイミングが悪い。フルフレア公爵の指示を無視してしまえば非常に不味いからな…。ロイヤルフラッシュさんの指示ならばいいけど、今回の指示をくだしたのは公爵さ、それが無ければ1番隊は引き返してる』
王都コスタリカの帰省、怪文書に対して守りを固めなければならない指示はフルフレア公爵から聖騎士会のロイヤルフラッシュ聖騎士に言い渡されているのだ
リゲルが言うには無視すると聖騎士会から追放は勿論の事、最悪の場合は罪に問われる
『ルドラはなんて言っていた?』
『部下はコスタリカに戻してルドラさんは来るって』
1人、聖騎士会の1番隊の隊長が引き返すという事はかなりの戦力になる
しかし2人の顔は微妙だ
その理由をクワイエットさんが口にする
『無理だよアカツキ君、聖騎士としての人生をあの人が終わらせるなんて考えられない』
『勝手な行動癖ある人じゃないんですか』
『だとしても今回は絶対に無理だよ、公爵の指示を無視するって自殺行為さ…あの人が今の地位を投げてくるとは思えないな』
それが答えか…
気づけば俺の後ろに仲間たちが来ていた
今の話を聞いていたらしく、険しい顔を浮かべている
ティア
『ルドラさんってどのくらい強いんですか?』
ティアは単純な質問をする
するとクワイエットの顔が微妙そうだ
これはもしかしたら彼らの方が強うのだろうなと思っていると、違ったのだ
クワイエット
『強いよ。僕とリゲルが飛び掛かっても無理だね』
知らなかった
そこまで強いイメージはなかったがな
リゲル
『お前は魔物でも倒してろ。俺が獣獅子を倒す』
アカツキ
『何言ってんだお前』
リゲル
『俺の獲物だ』
睨むなよ…
リゲルの母親を殺した根源は獣王ヴィンメイである可能性がかなり高いからだろう
自身の手で息の根を止めたいのはわかる、しかしだ
お前は強い、でも獣王ヴィンメイの方が圧倒的なんだぞ・・・
今の彼は現実的な考えよりも感情的である
それは他の者もわかっているようだ
クリスハート
『みんなで挑むべきです』
リゲル
『今度は足が竦まなければいいな』
クリスハート
『だ…大丈夫です!』
リゲル
『守る余裕はないぞ、わかってるか?』
その言葉にクリスハートさんは首を傾げた
ティアも、リュウグウもだ
俺はわからず、ティアマトとリリディと共に首を傾げる
リゲル
『それにしても暇だ。お前は何すんだクリ坊』
クリスハート
『クリ坊はやめてください』
ムスッとした顔を浮かべる彼女は可愛いというより、美しい
街を歩けばすれ違う男が振り向くくらいに彼女の顔は綺麗なのだ
胸は少ないけど…平均ぐらいはあると思う…
ティアが一番だ!うん!
そこで思いもよらないことが起きる
彼女の不満な言葉に対し、俺達の知らないものが答えたのだ
『ルシエラ!』
振り向くとそこには貴族だろうと思える服を着た男が立っていた
結構若いが明らかに俺より年上、彼はクリスハートさんを見てニコニコしている
もしかして…だが
クリスハート
『な…』
リゲル
『あ…』
彼女は明らかに嫌そうな顔を浮かべ、リゲルは苦笑い
2人の顔色など関係なしに貴族風の男はクリスハートさんに歩み寄り、彼女の手を掴む
『見つけたよルシエラ、ごっこ遊びなんてやめて帰ろう』
『嫌です!』
爽やかな顔を浮かべる貴族風の男はクリスハートさんに手を振りほどかれた
素早く席を立つ彼女は彼から距離を取り、溜息を漏らす
『オコーネル、なぜ来たのですか…私は父と約束したんです。来年の春までにBランク冒険者になれば貴方との婚約は破棄すると』
やっぱりオコーネルか!
シエラさん、ルーミアさん、アネットさんは驚いた顔を浮かべている
どうやらクリスハートさんを追ってグリンピアにきたらしいな
大の女好き、毎日違う女性と歩くという噂が絶えないのは父さんから何故か聞いているよ
貴族会に入るオコーネルの家系、カルテット家となると下手に突っぱねる事は難しいだろう
俺達みたいに普通に生きる人間より貴族は階級が高く、ある程度の自由が利くのだ
何をされるかわからない
クリスハート
『私は貴方に嫁ぐのは嫌です!何故来たんですか!』
オコーネル
『そろそろ僕だって身を固めないといけないと思ってね。なるべく他の女性との交流は避けるよ』
絶対に無理だ、と誰もが思った筈だ
近くで聞いているリゲルは目を細めながら『無理無理』と口パクでクワイエットに顔を向けて伝えている
というか、あれだよ
彼女はBランクのサーベルタイガーをリゲルと倒した
チームでの討伐ではないにしろ、これはいつBになっても可笑しくはない功績だ
彼女はBまでもう少しだから婚約は出来ないと、告げるが
それでもオコーネルは諦めることはなかった
『貴族同士にそんな冗談で婚約は破棄できるわけがないだろう?』
『私は嫌です!貴方みたいに信念がない人と一緒なんて御免です』
喧嘩に近い、その声はロビー内に響き渡り、みんなの注目を集めている
下手に介入できない俺達はただ見守ることしか出来ない
『信念?利益の無い目標なんて眉唾じゃないか。君のお父さんにも話してあるんだ・・ほら、行こう』
焦る様子も見せない彼はクリスハートさんに近づき、手を伸ばした
しかし、彼女は伸ばした手を叩き、本当に嫌そうな顔を浮かべる
『触らないで!』
凄い拒絶反応
生理的に無理とはこのことだろうなと、俺は勉強になる
《こいつの過去、身漁ってみたけどよ…》
アカツキ
『そうだだったテラ?』
《クリ坊の心じゃなく体しか見てないな…》
その念術は俺だけじゃなく、テラ・トーヴァに認められたもの全てに聞こえているようだ
リュウグウやティアが引きつった笑みを浮かべ、オコーネルを見ているのが証拠さ
クリスハート
『好きでもない人と結婚なんてしません!それなら死んだほうがマシです!』
ほんっとうに嫌なんだな…
彼女の行動に俺は度肝を抜かす
剣を抜き、それを自身の首に突き立てたのだ
流石にクリスハートさんの仲間は焦り、彼女を止めようとする
でも何故だろうか…
オコーネルは全然焦りをみせていない
いや、彼女が行動を取った瞬間は驚いていたが今は溜息を漏らして困惑するだけだ
『おいおいルシエラ、怪我をしたら大事な肌に怪我をするぞ…』
『何故そこまでして私に付きまとうんですか』
『素直に身を固めるためさ。僕も大人だよ』
そこでオコーネルの背後から、貴族騎士が2人現れる
高価な鎧、剣には派手な装飾だ
高い金を費やしているのだろう…強く見える
フェイスから見える目は細く、手練れた男だと俺でも見てわかるぞ
オコーネルのカルテット家は商業系貴族
それでも騎士は護衛として家系で雇っている
どこの貴族も少なからず、騎士は存在するのだ
2人の騎士はクリスハートさんに軽く頭を下げ、あろうことか鞘に納めている片手剣を握りだす
いつでも抜き、無理やり連れて帰るという現れかもしれん
『本当は親のアルスター子爵に、結婚が成立しない場合には次男に継がせると言われて焦っている…そうだろう坊ちゃん』
口を開いたのはクワイエットに顔を向けるリゲル
その言葉にオコーネルは目を見開くが、直ぐに顔を正す
その間にシエラはクリスハートさんの剣を降ろさせてくれている
オコーネル
『なんだい君?』
リゲル
『俺と同じ23とは思えないな。飾りの騎士は動かさないほうがいい…そんな見た目だけにこだわった武器を平然と使う騎士なんてたかが知れてる』
彼はあざ笑うかのようにして言うと、椅子から立ち上がる
そこでクリスハートさんは自然とリゲルの後ろに隠れたんだ
肝心のリゲルはそれに対し、少し驚くが直ぐにオコーネルに顔を向ける
馬鹿にされたと思ったのか、オコーネルの引き連れた騎士の目が睨んでいるのがわかる
だが言葉は発しない、貴族騎士は口数が少ない奴が多い、理由はわからないけどな
オコーネルはしかめっ面でリゲルを眺め、鼻で笑う
『冒険者にしては度胸があるじゃないか』
『冒険者だから度胸が必要なんだろう?』
『悪い事は言わない。訂正したほうがいい』
『なら1つ質問させてくれや…お前は勝てない相手を前に大事な人を守る時、どうする?』
リゲルは腕を組み、ニヤニヤと笑みを浮かべた
どういう意図で言ったのかわからない。しかしオコーネルは簡単だと言わんばかりに答えたのだ
『勝てる者を引き連れていればいいだろう?貴族はそれができるって今わからないのかな?僕の背後に2人の騎士がいるのが見えない?』
『…』
リゲルは溜息を漏らし、後ろに隠れているクリスハートの顔を向けた
彼女は首を傾げているけども、首を横に振っている
その答えは嫌、という事か…何が正解だ?
勝てない相手…俺で言うとゾンネとかイグニス、ジェスタードさんとか探せばゴロゴロいる
もしティアがそんな凄い強い者に狙われたならば、俺ならどうする?
だが頭で考えなくても体は答えを出すはずだ
というかだ、俺はいつも出している気がする
リゲルは呆れた顔でオコーネルに話す
『お前が動け馬鹿、勝てなくても…そこは問題じゃない。守る者の為にどこまで出来るかが重要だろうがよ。いい女ならお前が負けたとしても自分の為に体を張る者に対してそれなりの敬意を払う』
『貴族にそんな事態起きないよ。馬鹿かい?』
『お前には難しかったな、なら妻の為に女性との遊びを禁じれるか?』
『努力するに決まってる』
『それがお前の本気の弱さだ。クリ坊は意地でも帰らないぞ?帰って女性学でも学んで来い』
リゲルの言葉が癇に障ったのか
オコーネルは舌打ちをして彼を睨みつけると、顎を動かして騎士を前に出す
一触即発を超えた状況に自然と俺達も身構えてしまうが、その時には既にリゲルは動いてしまっていた
一瞬で騎士の懐に入り、剣を抜かれる前にフルフェイスを片手で僅かに脱がし、残る右手を手刀で喉を強く突く
『グえ!』
変な声を出しながら喉をおさえて騎士が膝をつく
もう一人の騎士は剣を抜き、リゲルの顔に鋭い突きが飛ぶ
流石は貴族騎士だ、本当に速い
でも俺でも見える
ということはだ、リゲルはもっと見えているんだろうな
『おっそ』
リゲルは小さく囁くと、顔を逸らして騎士の顔の前まで迫る
僅かに顔の側面を斬られて血が飛ぶが彼は気にしない
そのまま体当たりをして騎士を吹き飛ばして尻もちをつかせた
イラつく奴だけど、強いのは認めている
しかも焦らずに2人を圧倒するその技量には正直脱帽するよ
対人戦に慣れ過ぎている…
リゲルは起き上がろうとした騎士に剣を突き立て、『足腰弱すぎ』と欠点を告げる
オコーネル
『きさっささささま!貴族に剣を向けるか!』
リゲル
『次はお前だ。今勝てない相手が目の前にいるぞ?どうする?女の為にひ弱な体で挑めるか?』
彼は先ほどの話を掘り返す
オコーネルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、『何してる!立って戦え!』と騎士を怒鳴りつける
喉を突かれた騎士は咳をしながら喉をおさえており、結構苦しそうに見える
リゲルに剣を突き付けられている騎士は動けず…だ
流石の貴族も状況を飲み込んだのか、額に汗を流し始めた
どうするか
俺はかなり気になってしまい、完全なる傍観者と化した
気づけばティアの手を握っているけども、彼女は目の前で起きている事に意識を向けていて気づいていないらしい
《どさくさは卑怯だ。兄弟》
うるさい!無意識だ
リゲル
『どうした?こないのか?本気見せろよ…最後のチャンスだぞ』
オコーネル
『貴様!今をやり過ごしたとしても今後どうなるかわかっているのか!貴族会の者を愚弄とは…貴族に対する侮辱罪でお前を一生牢屋にすることもできるのだぞ!』
リゲル
『お~怖い怖い。』
『ぎゃふ!』
彼は回し蹴りで剣を突き立てていた騎士の頭部側面を蹴って気絶させる
完全に戦闘不能な騎士を見たオコーネルは数歩、後ろにさがった
どうみてもこれが答えだ
彼は本気という言葉を知らずして育っている
リゲルは向かってこないとわかると、剣を鞘に納めて面倒くさそうな顔を浮かべた
とことん色々な言葉の価値観が違い過ぎて話すのが嫌だろうとは思う
オコーネルは数秒、リゲルを睨むと怒りを浮かべたまま我先にとギルドを出ていってしまったのだ
騎士2人を残して、だ
幸先が危うくなるが…リゲルは何故そんな真似が出来るのか俺にはわからない
無鉄砲過ぎるからだ
リゲル
『貴族なんてこんなもんだ。嫌いだ』
凍てついた顔の彼は席に戻る
クリスハートはキョトンとした表情のまま、彼を見ている
それに気づいたリゲルは運ばれてくるベーコンエッグとグラスに入った水に軽くお辞儀をするとクリスハートさんに顔を向けて口を開く
『どうしたクリ坊?女の癖に荒げた声は出すもんじゃねぇぞ?俺の母さんも言ってた』
『かあさ…、そうですか』
彼女は笑った
『なんで助けてくれたんですか?』とクリスハートさんが聞くと、リゲルは『は?』と言った後に言ったのだ
『あいつが気に食わなかっただけだ。権力は力じゃねぇよ…、貴族はその辺が俺達と価値観違うから教えただけだ』
『でもオコーネルはあれで終わりにはしないんですよ?』
『そん時はそん時に考える。どうせ明日になれば俺達全員の運命は決まる。今日直ぐにあのバカが来たらまた追い払ってやる。だからお前は明日の為に雑念は捨てろ』
『あ…はい』
ティアが俺の手をブンブン振ってる
偉く興奮しているけども、きっとクリスハートさんの顔を見てそうなったんだろうな
なんだか彼女の顔は、嬉しそうだった
『ありがとうございます』
『お礼はカランビットを使いこなせたら聞いてやる。今は飯を食うから獣王ヴィンメイの毛玉みてぇな魔物の対応を考えとけ。そこにいる馬鹿よりは強くなれ』
アカツキ
『俺か?』
『お前以外に誰がいる?』
本当に…こいつは…
クワイエット
『リゲル、素直になってもいいのになぁ』
リゲル
『何がだよ。』
クワイエット
『アカツキ君は十分強いよ』
貴方に言われると嬉しいなぁ…
でもリゲルは…
リゲル
『まぁ強くはなったのは認めるが、気に食わん』
何が駄目なんだよ!
ゼルディムより質が悪いぞ
するとリゲルはクリハートさんがムスッとした顔になる
リゲル
『わぁったよ。』
何をわかったのか理解できん
彼は俺に顔を向けると、水を飲んでから口を開く
『いつでも親が助けにくると思うなよ?お前は強くはなったが自身で何とかして仲間と切り抜けなきゃいけない時がこれから訪れる、もしかしたら一人の時もある…生きようとして戦うな、死ぬつもりで戦え。』
アカツキ
『そのつもりだ』
リゲル
『…ならいい』
ティアがおもむろに俺の手を引っ張り、どこかに連れていく
他の仲間もついてくるが、2階のテラスだ
雪が僅かに積もってるのにトンプソン爺さんは屋台開いてる
冬は休業しないのかよ
トンプソン
『おやぁ?イケイケちゃん達』
ティアマト
『寒くないのかよ…』
トンプソン
『上着着とるからのぅ、お腹空いたらいつでも買いなさい』
まだ昼前だ
俺達はテラスのテーブルや椅子に積もる雪をどかしてから座ると、リュウグウが話し始めた
リュウグウ
『素直じゃない男だ。昔の話しは聞いたが…他人にハッキリ言えないのは仕方がないか』
リリディ
『嫌みとかでは?』
ティア
『最近気づいたけどリゲルさんってきっとアカツキ君が羨ましいんだよ。だから前より刺々しい!』
リュウグウ
『だな』
アカツキ
『なんで!?』
《これは兄弟に難しいぜティアお嬢ちゃん》
ティア
『そだね』
アカツキ
『それはまず置いておこう。それにしてもだ…』
ティアマト
『あのツンツン聖騎士、クリスハートさんの言うこと聞いたぞ?』
《少なからず信頼はしてるんだろうよ。その話しは野暮だ、明日の為に別の森で俺使え》
と、言うことで東側の小さな森に向かうことにした
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