第158話 決戦 男の成長禄 1

俺は緊張した面持ちでティアの家に向かって見た

夕方頃には迎えに行くとは言ったが…


《兄弟、冒険者の格好で行くより一度出直した方が…》


『やはりそうか!汗臭そうだし!』


《いや…まぁいいか》


俺はティアの家の近くまで行くと急遽家に戻り、風呂に入ってから着替えて私服で刀をつけたまま再びティアの家に向かう

時間的に少し早いくらいだ、問題ない


何故かわからないがティアの家の玄関がいつにも増して大きく感じる

変わらない筈なのにな


《兄弟、敵の数は2人…女2人は大丈夫だ》


『意味が分からない』


《入ればわかる》


うむ、ノックしよう

しかしドアを叩こうとした瞬間にドアは開いたのだ

現れたのはシグレさんだ


『やぁアカツキ君、待ってたよ』


『待ってたんですか?』


『先ずは入ろうか』


笑顔のシグレさんは裏の無いような顔にしか見えないが不気味だ

廊下を歩いてリビングに向かうとティアはいない、しかし父親のルーファスさんと母親のローズさんがソファーで寛ぎながらこちらを見ているのがわかる


ローズ

『アカツキ君じゃない、早いわね』


ルーファス

『今日はよく娘を誘ったねぇ?』


何故か凄く緊張する言葉だ

家族全員が知っているのは当たり前だな

俺はぎこちない歩きでソファーの前の椅子に座るとローズさんは『飲み物持ってくるわ』と台所に向かう


シグレさんは休みらしいが、なんで俺の背後に移動した?気になる

まぁしかしだ…正面にはティアの父親といういつもと違う印象を感じるルーファスさんだ


ルーファス

『Bランクは凄いな、数十年振りにこのグリンピアから現れるなんて驚きさ』


アカツキ

『俺の父さんはランクはどのくらいだったんです?』


ルーファス

『Aだけども結局はSとかわりない強さだった。ゲイルさんにハムヴェルとさん、クローディアちゃんにオズボーン君とそりゃ街では自慢の冒険者だったし都会の者に負けない強さだったらしいよ』


父さん凄いんだ…


シグレ

『今妹は部屋でなんだか服を選ぶのに数時間かけてるよアカツキ君』


アカツキ

『その情報をもとに僕は何を求められてるんでしょうか…』


シグレ

『君も意地悪だなぁ。』


ローズ

『下着まで考えてるわよ』


ローズさん、台所から顔を出して余計な事を口にする

俺は恥じらいながらも咳払いし、心を落ち着かせた

敵は2人じゃない、3人全員だ


何かを俺に求めている


シグレ

『まぁ同じ部屋で寝るよいう事はそういう事だよアカツキ君』


あれ…やっぱり俺の部屋でティアが寝る事に…そうなるよね

そのつもりだったけど


ルーファス

『帰ってきたら娘の肌はツヤツヤしてるとは思うが…女性は一度決めた覚悟を無駄にされると深いショックを受けることだけは忘れてはならんよ?』


『はい』


冷静に返事をしてみたが

これは遠回しにゴーサインだ。

敵じゃない、味方に変わった瞬間だ


ローズさんはイチゴミルクを持ってきてくれた

甘くて美味しい。イチゴはグリンピアじゃ高いから意外に高級品なんだ

俺の家じゃあまりでないけど。もしや用意していた!?


『覚悟はしております』


シグレ

『そうだね。この調子でAランクにもなれればアカツキ君の生涯も安泰さ』


『そうなんですか?』


ローズ

『あら?ゲイルさんやクローディアさんから聞いてないの?』


ルーファスさんの隣に座るローズさんは少し驚きながら反応を示す

冒険者ランクは上がれば上がるほど討伐時に報酬がある程度増す事は知っているが

どうやらAというランクに到達すると滞在する街のギルドから助成金が毎月支給されるんだってさ

それは初耳だったが…凄いな


俺の父さんはきっと貰っていたであろうが教えてくれなかった

帰ったら聞いてみるか


シグレ

『Aランクって国でどのくらいいるかわかるかい?』


『いえ…全然』


シグレ

『そもそもの話をするね。運も関係している』


『運?』


俺の背後から正面に移動したシグレさんは腕を組んだまま、近くの椅子に座る

Aランクは俺の夢でもある、なる条件はある程度予想はしてるし、軽くは聞いていた


シグレ

『Aランク級の魔物と遭遇ってことがそもそも生涯で出会うかわからないんだよ。Bランクを倒しまくってAを目指すにもBだって沢山出てくるわけじゃない。だからこそこの国のAランク冒険者チームは10もいない。』


Aの魔物1体を討伐するだけで冒険者ランクAにはなれるが、そもそも人間の住む世界には姿を現さないというのが理由だ

Bも森の奥が多く、グリンピアの北の森からBランクが他の森より多めに出現するのは海抜の低い森があるからだ


ルーファス

『海抜の森はとても深い、更に奥にある幻界の森となると未知すぎる森だが…』


シグレ

『戻れたらきっとそれだけでも昇格の話は見え隠れ留守だろうね。Aランクも冒険者が挑んでも戻ってこれなかった歴史がある』


『そんな危ない森なんですか』


シグレ

『初代国王が特殊な条件を冒険者ギルド運営委員会に提出していた記録があるんだ。あの森の魔物の高ランク魔石を回収してくれば無条件でAにするとさ』


ゾンネか

普通の魔石の色は紫色だ


んでシグレさんの説明ではこうだ

赤は上位ランク

緑は中位ランク

青は下位ランク


帰還の証拠として青魔石以上を10個回収すればAランク

赤を1つ手に入れればSランクという条件がいまだに生きているのだ

確かにランクを上げたい欲はあるが、今はそれは考えないでおこう


ルーファス

『クローディアちゃんも君たちならいけるだろうと言っていた。止める気は無いが娘を頼んだよ』


『わかりました』


ローズ

『早く襲えばいいのに』


ボソッというローズさんの言葉は強すぎる

居た堪れない感情が湧いてきた時、助け船が来る

ティアが良いタイミングでリビングに来てくれたのだ


俺がいる事に多少は驚いているが、彼女の登場で場の雰囲気が変わった



ティア

『アカツキ君、早いね』


『用事が早く終わったからね、ティアマトはクワイエットさんと訓練するためにギルドに行ったよ』


ティア

『なんかすごい組み合わせだね』


『だろうな。ティアは準備は大丈夫か?』


大丈夫、と彼女は返事をしたので俺はその場を逃げるようにして彼女の腕を掴み、家を脱出する

その時のシグレさんの顔はきっと忘れない


俺は歩きながらもティア荷物を持ち、彼女の手を握ると微笑んでくれた。

特に何かを口にする様子はない


『そう言えばリュウグウは暇してるのかな?』


『リュウグウちゃんは見に行ったけど、寝間着のままベッドで小説読んでたよ』


『行ったのか』


『少し散らかってたけどオトヒメちゃんより全然マシだよ?』


片付け出来ないオトヒメちゃん

可愛いのに足の踏み場がたまになくなる話はティアから以前に聞いたな

まぁ俺も面倒な時は部屋の掃除は怠る時はあるがな


『リュウグウは休み満喫か、リリディは1日中瞑想してそう』


『多分してそう。』


そんな話をしながら家に向かう

すると家の前で父さんが巡回中の警備兵と何やら楽しげに会話している


『じゃあ巡回頼むぞ』


『わかりました』


丁度話は終わったか

警備兵が去ると、父さんがニコニコしながら俺達に体を向けてきたので近付いていくと第一声が放たれた


『チキンな息子だがヨロシク頼むよティアちゃん』


《くふっ!》


笑うな神様


ティア

『今日はお邪魔します』


ほら、ティアが赤くなってる


『父さん、何話してたの?』


『なぁに、正月は問題なくて楽だけど休みたいなぁって愚痴を聞いてたんだ』


『き、聞いてたんだ…』


『治安維持目的の機関だから警備兵がまったくいなくなる事は出来んからなぁ、仕方がないさ』


ティア

『大変ですね』


『休ませたくてもこればかりはな、寒いだろうから家に入りなさい、俺はホルスさんとこに用紙があって行ってくる』


父さんはそう告げると歩いていってしまう

親同士の付き合いでもあるのかな?と思いつつ家の中に入るとリビングに顔を出すが、母さんはソファーに横になってスヤスヤ仮眠中だ


シャルロットはどこだろうと二人で探してみたが、風呂っぽいので今のうちにティアを部屋に招き入れて荷物を置く


『わ、魔物の本古い』


直ぐにツッコまれた

前にも言われたな…買い忘れていたよ

ティアは無意識にベッドに横になると、魔物の本を広げる

俺も隣で寝転がって眺めるが、少し緊張するなこれ


『古いと思って買ってきてあげたから持ってきたよ』


ありがとうティア、ありがとうティア

心の中で涙しながら彼女が荷物から取り出した最新の魔物の本を広げて眺め直すのだが、綺麗だ!古くない!


『ギルハルド君の事も前より書いてるの』


『マジか!』


『リリディ君のおかげだね、魔物の本って調査団とギルド冒険者委員会に所属する冒険者情報を便りにしてるからクローディアさんがリリディ君にギルハルド君の事を教えてたんだよ』


『そんな事してたのか』


『そそっ!しかも結構売れてるらしいよ?幻の猫種ヒドゥンハルトの情報を詳しく更新って売り文句で各街の冒険者ギルドや書店に売ってる』


幻の猫種か

しかも今回はヒドゥンハルトの適当イラストじゃなくてちゃんと描かれていた


魔物ランクB(推定)の猫種

完全隠密に秀でた魔物であり、全長は1メートルにも満たない

特殊スキル『ネコトモ』で自身より格下猫種を従属化可能

目にも止まらぬスピードで爪以外にも収納スキルにて隠し持つ武器を使って敵を攻撃する


壁や天井を歩く事も可能であり、主に肉類なら牛や猪を好んで食べる。

弱点は耐久力において貧弱な点だが、そもそも攻撃を当てる事が困難


野生としてのヒドゥンハルトの記録はないため、もし遭遇した際での取るべき行動は不明

情報元は野生のにゃん太九郎を冒険者がパートナー化させ、鍛練の末にヒドゥンハルトへと開化した事によって得た情報であるので、上記で説明した通り野生としてのヒドゥンハルトは未知数である



らしい



『前までは説明文が不明ってしか書いてなかったんだよ』


『そうなのか』


リリディのギルハルドからの情報か、やっぱり魔物の本がつねに買うべきだったな

俺のは父さんのお古だし、そこまで魔物の変化はないだろうなと思って買ってなかった

しかし、ある程度の情報は更新されているから買うべきだったなと今更後悔するが遅い



それにしてもティアとの距離は近い

彼女の匂いが鼻につき、多少心臓がハイペースに稼働しているのが自身でもわかるがティアがそれに気づくことはない


『後ろのページには闘獣って魔物でアヴァロンの関して乗ってるよ』


ティアが開いたペーシには金欲のアヴァロンが記載されており、この魔物の討伐は堅く禁止されていると書いていた

縄張り内の魔物があまり狂暴化しない要因の1つが闘獣の存在であるため、遭遇しても顔を向けずに静かに立ち去ることを推奨すると説明されている

国家規模でアヴァロンの討伐は禁止とか凄いな…


そして一番後ろのページ

俺はティアと共に不気味な説明の魔物に興味を抱いてしまう


カタストランバー(推定ランクA以上)


全長3メートルの筋骨隆々とした肉体

四足歩行の黒い猛牛だが目が頭部全体を覆い悪魔のような鋭い目をしている

禍々しく赤黒く光る曲がった角、目が赤く染まり、全身の体毛は黒いて長い

両手の爪は鋭く、1メートルも伸びる魔物

口は肉食獣よりも牙が鋭く、口の中は歯で埋め尽くされた魔物

咆哮を上げると瘴気を体から噴出させ、触れた者を腐食させる


そんな規格外な魔物がいるのかと驚くが

いるからこそ魔物の本に記載されているのだろう

説明文の最後には、遭遇した際は死を覚悟するか全力で逃げるしかない、と書いている

生き延びた者がいたからこそ記録がある。誰なんだろ


『私達が知ってるAランクって呪王ジャビラスとドミレディだけどこの本には他に3体しか書いてないね』


『熊帝とクロコディル、獅子蟲だな』


クロコディルと獅子蟲は推定レベルAとだけしか記載がなく熊帝しか詳しく情報は無い

全長3メートルの熊、爪を剥きだして腕を振るだけで巨大な真空斬を発生させ、咆哮は地面を揺らし、前方に強い衝撃波を飛ばすらしい

物理と魔法耐性は高く頑丈だがスピードはAにしては遅い部類のため。危険と判断した際は逃げる事も可能、だってよ


『ティアマトかな?』


口を開くとティアが笑う

こうしてSランクページもあるかなぁと思ったけども国家機密とか書いてあって記載無し

魔物の本を閉じてから小さいベットで2人で寝転ぶけど、狭いからティアと体が触れている


2人で天井を見上げながらこちらから手を握ると、彼女は腕に掴みつくようにくっついてくる

こういう一面を見るのは至福だ。

あっちもこっちも覚悟の上での今日の一大イベントだ

彼女はどう攻める?いや受けに徹するか?わからない


でも今までの記憶を思い返してみるとある程度の行為はセーフに近い気がする

どうやって男の階段を登るか考えていると股間が反応してしまう


まて、お前はまだ早い

階段の登った先を考える前に起きるなと心を鎮めながら徐々に無心と化して体を鎮める


『俺は頭をつけてティアとつっくつ』


口を開いて初めて気づく、心の声が出てしまったことを

しかし、それは俺にとって恥ずかしいことでもティアにとっては緊張を解す魔法の言葉になる


『アカツキ君っ…そんなに頑張らなくても…』


必死に笑いを堪えているが、ティアも顔は僅かに赤い

俺はどこかに穴があるならば頭を突っ込みたいが、穴は無い


『凄い緊張してるんだ』


『そうだよね、私だって緊張してるもん…エド国に逃げた時のお泊りと違ってアカツキ君の部屋だし』


『ふむ、てか夜食を作っている感じの匂いがしてくるな』


『確かにね、手伝わなくていいの?』


ここは一度心を立て直すしかない

俺はティアと共に下に降りる事にした

テラ・トーヴァが口を開かないのは重要な事が無い限り、喋るなと言っているからだ


頼むぞテラ・トーヴァ!


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