第20話 休息日にて焦る

ソード・マンティス討伐後、2週間はひたすら自分たちが持つスキルのレベル上げに専念したがそんな短期間で成果が上げられるはずも無い

相対する敵がFランクの魔物だからだろう、それは開闢スキルであるテラ・トーヴァも夜に話していた


休日、イディオットで集まると昼飯をみんなで食べることになったが、ギルド隣の広めの飲食店に足を踏み入れるとそこにも冒険者は沢山いる、彼等だけじゃなく、普通のお客さんもちらほら見かける


丸テーブルに座り、テーブルを囲んで料理を注文してから俺達は冒険者ランクのアップを兼ねてのDランク魔物の討伐も視野に入れた活動を話し合っていたのだがそこであのチームが姿を現す


『あら…』


それはこのグリンピアの街で一番強いエーデルハイドという乙女冒険者チームだ

クリスハートさんやシエラさんもいるが他も勿論いる


『久方ぶりですね、調子はどうですか』


『上場です、今僕達はEランクなのでDに向けてどう動くか話し合ってました』


クリスハートさんに話しかけられて答えたが彼女らは何故か隣の丸テーブルを囲んで席に座る


ティア、リリディ、ティアマトは少し緊張した様子だが俺だって同じ、いや俺は少し違う

シエラさんが凄い俺を凝視しているからである、テラ・トーヴァの存在をバレてはならない


『私のチームのメンバーですが2人ほど紹介してなかったですね』


『片手剣士のアネット・ルールーよ、称号はナイト』


『私は双剣士のルーミア・マイン、称号は無し!』


綺麗な笑顔が自己紹介する彼女ら2人の女性らしさを伺わせる。

ルーミアさんは称号無しと言うがそれでも強いのは誰でも知っている事だ

アネットさんのいう称号ナイトはクリスハートさんのソードランナーの前の称号らしい

彼女らでも称号獲得は難しいのだ


こちらも再び自己紹介したのだが、ティアの時に彼女らは少し興奮してしまう


『私は、その…魔法使いのティア・ヴァレンタインで、称号はパナ・プレイヤーです』


称号を聞いたエーデルハイド4人全員が口を半開きにして固まり出す

クリスハートさんは素早くティアの横に駆け込むと彼女にくっつきながらもステータスが見たいとねだり、ティアは公開するとそれを見たいと他の3人もステータスを覗き込む


『うわ‥本物だ、いるんだ…』


『凄い、欲しい』


『サポート頼もしい術あるわぁ、これだとスキル上げだけで全然先までいけるわ、なるべく内緒にした方が良いわよ?』


アネットさん、シエラさん、ルーミアさんの順に口を開く

ティアは恥ずかしそうにしているが、同時に自身が評価されている事に嬉しそうだ

それを自分たちの事かのようにリリディはティアマト、そして俺もなんだか嬉しくなる


『そのランクにとどまるなんて勿体無い、当然上を目指すのでしょう?』


クリスハートさんに言われ、俺は頷く

彼女らは俺達のステータスも見たいと言うがリリディやティアマトだけ見せた、俺のは秘密にしたいと言うと彼女らは何かを悟り、納得を浮かべる


『自身の情報ですから仕方ないでしょうね、となるとアカツキ君のスキルはチームの実力を上げる良い物があると言う事ですね』


まぁそれなりにバレるよね、苦笑いで誤魔化していると俺達に元に店員が料理を運んでくるのでエーデルハイド一行は席に戻る


『今日ぐらいは贅沢だぜ』


ティアマトがテーブルに並べられた料理を見てそう告げる

俺達は今後の士気を高めようと普段食べないメニューを注文したのだがチーム資金でそれは補った


『ご注文のキングサーモンの刺身定食4人前です、ごゆっくり召し上がり下さい』


気さくな笑みを浮かべ、店員がそう言いながら軽く一礼すると厨房に戻っていく

1人前銀貨3枚はする贅沢な料理、俺達は食べるのが勿体なくてただただ幸せそうに見つめてしまう


オレンジ色のサーモン独特の色が食欲をそそり、それを際立たせるために並ぶ海老の刺身や帆立なども同じく光って見える

カラキューというキュウリの漬物にポテサラダ、味噌汁はアサリだがこれまた美味しそう

米も相乗効果で美味しそうに光っている様に見える


『食べるか』


俺は先陣を切って口を開くと皆一斉にいただきますと言い、美味しそうに食べ始めた

刺身は家でも食べた事はあるがキングサーモンはない。何故このようなしっとり美味い味なのだろうと幸せを口内で感じながら答えの出ない疑問を考える気もないまま俺は無心で食べる


横ではそんな俺達を見て微笑むエーデルハイド4人がいる

ご飯はおかわり自由、なので野郎3人は2杯目の米をおかわりし、サーモンと共に口に入れていく

少ししてからエーデルハイドさん達の料理も運ばれてきたが、彼女らは唐揚げ定食だった


こっちは食べ終わるまで誰も口を開こうとしない、開く時となれば食べる以外意味は今存在しない


こうして食べ終わると水を一気に飲み干し、余韻に浸る

なんだかティアマトは腕を組んで目を閉じ、ウンウンと頷いているけどリリディは眼鏡を触りながら口元に笑みを浮かべ、ティアマト同様に何度も頷いていた


『凄い美味しかった、またなんか特別な時に食べたいね』


『そうだなティア』


良い経験が出来たなぁ、美味しかった


『それでだみんな、明日はまたDの魔物を相手に頑張ろうと思う』


『俺は賛成だ』


『僕も賛成です』


『私も』


『となれば依頼は途中で遭遇しそうなゴブリンやハイゴブリンの依頼書は受注しておこう』


俺の提案には皆即座に頷く


『取りあえず狙いを決めるより適度に探しながら他の魔物倒していった方が良いかもね』


ティアの案でいこうか

すると食べ終わったクリスハートさんがこちらに顔を向けて話しかける


『そういえばこの村に滞在していた聖騎士も撤退したそうです、聖騎士を襲った黒い騎士と未確認の龍は見つからなかった様だし』


『龍とはなんなんですかね』


『誰も知らない所から推測すると極秘任務ね、黒騎士はわからない…どこの者かも検討もつかないけど聖騎士の小隊1つを全滅させるんだから実力は聖騎士長ロイヤルフラッシュさんと互角かもしれないって噂されているわ』


『ロイヤルフラッシュさんってどのくらい強いのですか?』


『このマグナ国には英雄五傑が存在するの、最強の名を持つ者だけども全員を知る者いない…でもその中の1人がマグナ国聖騎士長である黒豹ロイヤルフラッシュと言うのだけは公表されてるわ』


『凄まじく凄い獣種の方なんですね』


『Aを単騎で倒した実績のある者よ、化け物です』


誰もがその事実に驚愕を浮かべる、Aなんて見ただけで俺達は卒倒しちゃうかも


『誰が一番強ぇんだろうな』


ティアマトがおもむろに口を開くとクリスハートさんは真剣な顔を浮かべ、答える


『噂程度ですが、このマグナ国が出来てから今迄の歴史上、並外れて強い者が1人いたらしいです。しかも誰も素顔を知らないの、顔を仮面で隠していたとも聞いているわ』


『今の五傑はロイヤルフラッシュさんしか名前が公表されてないのは何故でしょう』


『わからないわ』


だよね

しかし良い事を聞いた、俺達は変わった情報が知れて少し満足感を得ている

そうしていると飲食店内に親より見た光景を目の当たりにする、ドアを可憐に開けて現れたのはなんとクローディアさん、普通にしてれば本当に綺麗な女性だがこの人は台詞でそれをぶち壊すが得意だ冒険者副ギルド長


しかし夏にはギルド長になるとか前に聞いてる


『あら?ちびっこチームが2組も』


彼女はそう言いながらニコニコし、カウンター席に座るが横に置く鉄鞭が見事に凶悪だ

シエラさんやアネットさんがそれを見て生唾を飲む音が俺にも聞こえる


『クローディアさん、お昼休みですか?』


『あらティアちゃん、その通りよ?どう?順調?』


『はい、おかげさまで少しずつ成果を出せてます』


『それならいいわ、あ…そういえばエーデルハイドちゃん達に丁度良い依頼があるの、私面倒だし割増しで報酬増やすから…ね?』


彼女はウインクをして彼女らにお願いをする、何故かそのウインクにリリディはゾッとしているが、それは隠しとけ


『内容次第ですが、どのような依頼でしょうか』


『キングゴブリン率いるゴブリン集団よ、調査団を派遣したけども取り巻きのゴブリンやハイゴブリン合わせて8体ほどね、今だと増えてるかもしれないけど金貨8枚でどう?』


『直ぐに向かいます、場所はどこですか』


クリスハートさんは立ち上がると他の仲間達も立ち上がる

それを見てクローディアさんはニコッと綺麗に笑うと『海抜の低い魔物の森に降りるための下り坂付近に拠点を置いている筈』と答えたのだ


『先に失礼するわ皆さん』


『またね、変な気のリーダーさん』


クリスハートさんとシエラさんが俺達に口を開くと仲間を引き連れて店を出ていく


『昼休み終わったら勝手に依頼書つくっとこ』


自分の仕事を冒険者に託したか

にしてもこの人って現役時代、どうだったのかな…

誰もそれを知らないのだ、聞こうとするとこうだ


『クローディアさんは冒険者だったのですか』


『男を狙う美人冒険者よ?彼氏募集中』


『あ、はい』


詳しくは教えてくれない、これだよ

俺達は会計を済ませ、クローディアさんに挨拶してから隣の冒険者ギルドの2階テラスに向かうとトンプソン爺さんの屋台の前の丸テーブルに座り、寛いている

肝心の屋台だが今日はおにぎりは品切れ、ニコニコしながら屋台から顔を出してこちらを伺う爺さんと彼は化している


『爺さんよ、Dランクで俺達にお勧めの魔物っているかい?』


『ほぉ?ティアマト君よ、やる気あるのじゃな』


『当たり前ぇだ、強くなるんだよ俺達ぁ』


『それならグランドパンサーで慣れた方が良かろうて、あれは力もあれば俊敏さを兼ね揃えた猛獣、Dの中では全ての能力値が高い方じゃ』


グランドパンサー、見た目は灰色の毛のない大型犬だが毛が無い分、俊敏さを納得させる筋肉が見れる

Dランクの中では一際強いと聞いてことがあるが、それを余裕を持って倒せるようにならないとCというランクの壁で終わる事になるよとトンプソン爺さんは話す


『しかしトンプソンさんは詳しいですね、何故です』


『リリディ君、冒険者マニアじゃからよ』


謎な爺さんだ、それ前にも何度も聞いたからな?しかし悪い人じゃない

周りのテーブルにも冒険者はのんびりしているけどもそんな彼らも、時には緊張の一瞬を感じる時はある


『お!いたいた、ティア』


『お兄ちゃん?』


シグレさんが警備兵の格好のまま現れたのだ、ティアマトは血相を変え、顔を強張らせる

彼だけじゃなく、周りの冒険者も驚愕を浮かべたのち、顔を逸らして汗をかき始めている


彼はそれには目もくれず、俺達の座るテーブルの前に来ると近くの誰も座っていない椅子を掴んで引き寄せ、座り出す


『今日は昼で終わりにしてたしな、暇だしティアが何してるか気になって下の連中に聞いたら上にいるって聞いたんだ、デートじゃないのか』


ティアは首を傾げるが理解してないようだ


『昼で終わり?巡回はどうしたの?』


『半ドンだ、ゲイルさんも今日帰りは早いかもよアカツキ君』


『そうですか、そういえば冒険者より何故警備兵になったんですか?僕の父さんが推薦したと聞いてはいるんですけどそれなら魔物相手の方がシグレさん丁度良いと思うのですが』


『簡単さ、意気揚々と歯向かって来たくせに最後は許しを請う悪党の姿を見るのが好きでなぁ。魔物は最後まで果敢だろ?だからつまらないんだよ』


『エグイ』


リリディがボソッと囁く

誰もがその問いに息を飲みこむ、悪魔だこの人

腰には警備兵用の剣を持ってると思いきや、持っているのは鉄の棒だ

片手剣ならぬ片手棒とでも言っておこう


『今日の夜食何か知ってるかティア』


『あれ?朝お兄ちゃん出る前にお母さんがカレーって言ってたよ』


『うっし!それなら良い汗かいてから帰るかな、妹を頼むよアカツキ君』


素早く立ち上がるシグレさん、椅子の音に近くの冒険者はビクンと体を震わせる

彼はにこやかに手を振ってその場から去っていくが、怖がられ過ぎだ


『アカツキ、お前意外と度胸あるじゃねぇか』


『ティアマト、お前怖がり過ぎじゃないか?』


『あの人の鬼をお前見た事ないだろ…ったく』


『知らない方が幸せ、の具現化した人ですよティアさんの兄さんは』


『そんな怖いの?私といる時は普通なんだけどなぁ、たまに怒るけども別に普通だけど…』


『まぁあの人、あれだ…アカツキを酷く買ってやがる』


『それはちょっと思うけども、まぁティアと昔から付き合いあるし』


『それもあるだろうが…』


ティアマトは深い溜息を漏らす

普通にしてれば普通、それが普通なんだよ

誰だって怒れば怖い一面を出すのは理解してるし、今更シグレさんを怖がるのも難しい


『良いお兄さんじゃな、ティナちゃん』


『はい』


トンプソン爺さんの言葉に彼女は元気よく返事をした

下に降りると今日の依頼板の残りを一応確認してみたが残っているのはEとFランクばかり

1つだけCランクのトロール1体の討伐があるが1体倒すだけで報酬金が金貨2枚とは結構凄い

魔石報酬を乗せればきっともっと高いだろうが俺達もそのランク帯に行けるようにしないとな


ランクが高ければ報酬も高いのは当たり前だ、それほどまでに命も賭けて戦う事になるからだ

いつ死ぬかわからない冒険者、誰もが無理をせずに行う為、この街グリンピアはDランクが殆どを占めている


『今日は疲れたぜ、黒い騎士もすっかり見なくなったな』


『まぁいても俺達冒険者にも見向きもしないらしいからな、聖騎士に恨みでもあるんじゃね』


『エーデルハイドと森を出る時すれ違ったけど美人だなぁ、俺も混ざりたい』


ロビーで寛ぐ冒険者の声を背に俺はロビーの隅によるとステータスを見せ合い、明日はどのように戦いを進めるかで話し出した


・・・・・

アカツキ・ライオット


☆アビリティースキル

スピード強化【Le2】

気配感知【Le1】


☆技スキル

龍・開闢【Le1】

居合突【Le2】


☆魔法スキル


称号


・・・・・・・・・・

リリディ・ルーゼット


☆アビリティースキル

打撃強化【Le2】

気配感知【Le2】

麻痺耐性【Le2】



☆技スキル

ドレインタッチ【Le1】

骨砕き


☆魔法スキル

風・突風【Le2】

風・カッター【Le1】


・・・・・・・・・・・

ティアマト・ウロボリス


☆アビリティースキル

斬撃強化【Le1】

気配感知【Le1】

毒耐性【Le2】


☆技スキル

連続斬り【Le3】

鬼無双【Le2】


☆魔法スキル


称号


・・・・・

ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

安眠  【Le1】

気配感知【Le1】


☆技スキル


☆魔法スキル

火・ラビットファイアー【Le2】

雷・ショック【Le2】

木・スリープ【Le2】

風・ケア  【Le1】


称号

パナ・プレイヤー


☆称号スキル

デバフ強化【Le1】

自然治癒【Le1】

スピード強化【Le1】


・・・・・・・・


『馬鹿にはされないステータスにはなりましたね』


リリディは嬉しそうに話す

確かにこのステータスを見ると初心者ですとは言い訳はできない、身を引き締めて頑張るしか道は無いのだ。


『ティアちゃんが既に仕上がってる気がしなくもないぜ』


『えへへ』


ティアマトの言葉に彼女は照れ笑いを浮かべる

称号持ちがいるのは強みだ、E以下の魔物相手ならばティアのショックの麻痺、スリープでの睡眠が確実に効果を発揮するのはかなり有難い、前まではE相手に全員でかかっていたのに、今では1人でも対応が出来る事を考えれば確実に俺達は以前より強くなってる


それが嬉しく感じた


《やっべ!!!隠せ!》


テラ・トーヴァがいきなり叫ぶ

俺は反応が遅れてしまうのだがその意味が直ぐにわかった

仲間達が驚愕を浮かべている、俺の横で顔を覗かせ、ステータスを覗いていたクローディアさんがそこにはいたのだ


彼女の顔色が、今まで見た事も無い凍てついた顔をしていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る