第251話 ヴァーニアルト伯爵来訪

俺はグリンピアに帰ってから2日後、冒険者ギルドの地下訓練場の客席でティアに看病されている

中央にはグリンピア中央学園の1年生となる予定の学生

そしてリゲルとクワイエットさんが彼らに冒険者とは何かを叩きこまれている


それよりも何故俺がティアに看病、というか包帯を腕に巻かれているか?

午前中にリゲルに訓練でも模擬戦を挑み、ボッコボコのけちょんけちょんにされたんだ

何度も殴られ、何度も投げられ、何度も笑われと…

顔が痛いし体も痛い…転んだ時に右腕を擦りむいて血が出たのでティアが消毒してからガーゼを当てて包帯を巻いてくれているという状況だ


一応仲間には4日間の休暇を与えているから、これはティアとのデートに近い

良い所を見せようとしてリゲルに返り討ち、俺はまだまだだったんだ


《あのなぁ兄弟?アハト・アハトにあいつなったって言わなかったか?》


アカツキ

『でも…』


ティア

『基礎身体能力で負けてるんだから無理だよアカツキ君』


アカツキ

『そうか…』


《みろティアお嬢ちゃん。兄弟が落ち込んだ》


ティア

『良い子良い子してあげるから』


ならばいいか


リゲルとクワイエットの講師だが

今日は剣士の基本を叩きこんでいるようだ

学生は15人いるが、彼らは木剣を片手に訓練場の外側を走り込みさせられていた


リゲル

『剣士は一番疲れちゃならねぇ!お前らが疲れたら誰が仲間を守る?体力は大事だ!人の命がかかっている戦いなんざ平気で起きる。古風な鍛え方だが剣を持って走り込みだけでも全然ためになる』


『はい』


リゲル

『外周10週でいい!それとだ…』


リゲルは中央で走る学生を見ている別の学生5人に視線を向ける

全員女性、しかし何故彼女らは走らないのかは直ぐにわかった


クワイエット

『シエラちゃん体調崩しちゃったもんねぇ』


女学生

『大丈夫ですかね…』


クワイエット

『2,3日安静かな…風邪だってさ』


リゲル

『俺たちゃ魔法使いじゃねぇから大層な事は言えねぇ。だが毎日瞑想すりゃ魔力量は少しづつ上がるのはイディオットのリリディを見ればわかる。やってるか?』


『10分ほどは』


リゲル

『最初は1時間なんざ無理だ。そんくらいで良い』


クワイエット

『僕彼女達に投げナイフ教えるね』


リゲル

『あぁ頼む、自分を守るために必要な技術だ』


女性はマトに向かって投げる用のナイフでクワイエットさんと共に練習開始

中央では走り込みを終えた学生らがリゲルの前に集まる

男だけじゃない、女性も5人ほどいるようだが…女性の顔はなんか可笑しい

凄い眼差しでリゲルを見ている


ティア

『リゲルさん、人気らしいよ学生に』


アカツキ

『モテ気というやつか』


《悔しいか兄弟?全方面で負けてるぞ》


アカツキ

『くそぅ…』


ティアが笑う


その後、リゲルは剣の振り方や突き方などを教え込み、何度もやらせる

休憩は5分と短いのは『森にいると想定しての小休憩だ』と学生に説明したんだ

休憩後には最後にもう一度、剣の振り方を軽くさせてから勉強の時間となる


魔法使い志望の学生もリゲルの話を聞き始めた


『魔法使いはスキル会得が厳しいが。マジックゾンビでその憂いもない。しかし油断するな?100回モーション後に発動する魔法が強力かもしれないからな?』


『十分に気を付けます』


『…てかドラゴンさん、あんた教えれるだろ?』


俺達の近くの席で傍観していた夢旅団の魔法使いドラゴンさん

彼は苦笑いしながら下に降りると、リゲルから銀貨2枚を受け取って代わりに説明をし始めたんだ


ドラゴン

『コスパ良いスキルと切り札さえありゃ当分は安心できる。下位級と言われる魔法スキルは戦闘でも気兼ねなく使える、だがそれ以上の威力を持つスキルは当然魔力消費も高い、使う時は危ない時...

予期せぬ魔物との遭遇時に切り札を使うって感じで最初は覚えていてくれ。マジックゾンビも殆どが下位級魔法だ。内緒で夜の森に入っても今の状態じゃ死ぬだけだから行くなよ?ちゃんと色々と知識を頭に叩きこんでからじゃないと後悔する。魔法使いは仲間との連携が命だ。隙を作るかそれとも仲間の攻撃に合わせて自分も攻撃するかの判断はちゃんとしないと森を出るまで魔力が持たないぞ?』


こんな時間が1時間

学生たちが帰ると地下訓練場は空になる

俺はティアと共に丸テーブル席に座って体を休めているが、同じく休みであるエーデルハイドのアネットさんがサンドイッチが3つ入った皿を持って俺達の席に座ってくる


アネット

『元気そうねぇカップルちゃん』


ティア

『ぼちぼち!シエラさん大丈夫なんですか?』


アネット

『弟が風邪だったから看病していたらしいけど、移された感じね』


《移して弟は治るパターンだな?》


アネット

『神様でもわかる?その通りよ』


アカツキ

『んでエーデルハイドさん達は3日間の休みってことですか』


アネット

『そそ。』


《先にお前らここに帰ってきたからわかると思うけど、この街は変わりねぇか?》


アネット

『無いねぇ。あるとすればティアちゃんの話にこのギルドが大混乱よ?国宝認定されるわエド国の最強3人の1人を倒したとか言うわでみんなビックリ騒ぎ満開よ』


よくわからない

だがここではみんなある程度ティアに対して普通そうだ

バーグさんなんて道で出会った時に『流石ティアちゃん!彼氏も鼻が高い!』とかいってスキップしながら去っていったんだ

夢旅団も今日は休みになっているのだ


今日、森にいった冒険者チームは約14組

アネットさんがそう告げるとサンドイッチをペロリと平らげる

今は昼過ぎ、まだ食べてなかったらしい


ティア

『クリスハートさんは?』


アネット

『メスの顔するようになった』


エロいぞアネットさん

しかし何故…何故なんだ

グリンピア一番の美女であるあの人がリゲルを好いてしまうとは

人生とは面白いな


俺達はアネットさんと共に軽い話をしていると、ギルドに変わった風貌の女性が入ってきたのだ

貴族っぽい女性だがこの人も中々に美人さんだ

騎士を5人も従えているが…貴族騎士だ


アネット

『ヴァーニアルト伯爵よあれ』


アカツキ

『知ってるんですか…』


どうやら知っているらしい

ロビー内で休んでいた冒険者も突然の貴族にビックリ、それは仕方ない

何かを探している感じだが落ち着かない様子も見える

何故そんなに深呼吸しているのかわからない


ティアはおもむろに立ち上がると、彼女と目が合う

そこでヴァーニアルト伯爵はハッとした表情を見せると、静かにティアに近づいてきたのだ

急に静まり返るギルドの中、2階の吹き抜けからはリゲルとクワイエットさん、そしてクリスハートさんが見下ろして様子を伺っている


ヴァーニアルト伯爵

『初にお目にかかります。私の家系は回復魔法師会を創設したヒウラ家、そして私の名はヴァーニアルト・ミラ・ヒウラ伯爵と申します。』


ティア

『テスラさんから色々聞いてます。よろしくお願いします』


彼女は深々と頭を下げると、ヴァーニアルト伯爵は驚く

多分かなり緊張している。

貴族だからとティアを相手にするのは少し扱いが難しいからだと思う


ヴァーニアルト伯爵

『本当に回復魔法師会へ?』


ティア

『ここに支部が出来るのならとテスラさんに約束しました。』


ヴァーニアルト伯爵

『なるほど…本部は貴方がどのような人間かわからずに困惑している状態、テスラ会長だけはそんな私達を見て楽しんでいるという悪魔の所業を見せているわ』


ティア

『意外と腹黒いですねテスラさん!』


ヴァーニアルト伯爵

『その…できれば私から頼みがあるのですが』


ティア

『なんでしょう?』


ヴァーニアルト伯爵

『コスタリカで執り行われる魔法祭の全室に貴族会の集会があるのですが…できればその。同席して頂ければ』


ティア

『お酒は飲めないですけど隣に付き添えば良いですか?』


ヴァーニアルト伯爵

『…いいの?』


ティア

『クレープ食べたいです』


ヴァーニアルト伯爵

『そんなの沢山作ってあげるわ!グリンピアに店舗でもなんでも!』


ティア

『タタラにあるクレープ屋さんをグリンピアにも作ってください』


なんて軽い話なんだ…金で解決、じゃないのか!?

ティアは貴族のお願いとなるとこうなることは予想していたらしい感じだな


ティア

『あの…私は別に普通の人間なので普通に接して頂ければ』


ヴァーニアルト伯爵

『そ…そうよね、テスラ会長は普通に接すればいいというけど他の部下が何度も用心用心と念入りに言うからこっちも…ね』


額の汗をハンカチで拭く貴族

かなり緊張していたようだ


ティアは『今日ご飯行きましょう!』と告げると貴族の顔はほころんだ

とても幸せそうな顔を浮かべ、頷いたのだ


こうして連れていかれた場所はグリンピアで一番高いカルビ店、ではなくステーキ専門店だ

ここにきた貴族が良く訪れるから店は高級感ありまくりだよ…冒険者は入り難い場所だ


ヴァーニアルト伯爵は個室を用意し、自身の後ろに騎士5人を待機させ

俺達は対面して座る


料理が運ばれるまでは会話となるが、どうやらこの貴族はマグナ国の薬剤関係を幅広く展開している凄い貴族さんだった

どうやら新薬開発に今は力を入れているらしく、癌細胞を殺す薬を作りたいと彼女は思いつめた様子で話す


ヴァーニアルト伯爵

『それが作れれば世界でも大快挙、でも専用の研究所を作って色々人員を増やすと金貨1億はくだらないわね』


アカツキ

『一億…』


ティア

『それは最低額ですよね?』


ヴァーニアルト伯爵

『最近見積もりし直したら金貨3憶枚になりそうで卒倒しそうよ?国からの補助金をもう少し引き上げてもらうためにティアちゃんを使いたいって思念もあるのよ、ごめんね』


ティア

『いえいえ、薬を作るとなると大事だと思います』


《癌程度で人間は金貨3憶もかけるのかよ?あんなんバイルの実を乾燥させてある程度毒素を飛ばして粉末にしてから適量飲ませりゃ癌細胞なんて死ぬだろ?》


ティア

『えっ?でもバイルの実って毒だよ?』


ヴァーニアルト伯爵は急にティアが口を開き、驚く

しかし彼女は様子を見ているだけだ


《ある程度毒素飛ばすだろ?んで粉末にして癌の人間に服用させりゃ癌細胞だけ殺すんだよ。適量は忘れたがな》


ティア

『へぇ、バイルの実が癌細胞殺すんだ…』


ヴァーニアルト伯爵

『ティアちゃん?今天使の声聞いてる!?』


ティア

『え?天使』


ヴァーニアルト伯爵

『だってテスラ会長はウェイザーの件はティアちゃんが天使の声を聞いて処方薬が完成したと聞いているから…』


ティア

『あはは、これ天使かなぁ』


《俺には似合わねぇな》


ヴァーニアルト伯爵

『今の話、聞かせて!?』


彼女はかなり興奮しているようであり、ティアは少し驚くが何を話していたかを彼女に説明したのだ

その時のヴァーニアルト伯爵さんの顔といったら、至福の時を過ごしているかのようだったよ


ヴァーニアルト伯爵

『バイルの実を乾燥させて粉末に…ね。適量は治験で数か月で結果が出る。本当に聞こえるのね』


ティア

『一応…天使かはわからないですけど』


ヴァーニアルト伯爵

『毒が治療薬って発想は今までなかったわ、これが本当なら医療の歴史が変わるわ…』


《一応だが多すぎると別の細胞も壊すから気をつけろと言っておけ。ティアちゃんくらいの歳だと50gか》


ティア

『私ぐらいの歳だと50gだと言ってます』


ヴァーニアルト伯爵

『そこまでわかれば十分です。これなら専用の研究所を作らずとも行けそうね』


アカツキ

『納めている街にある医療研究所ですね?』


ヴァーニアルト伯爵

『その通りです。私が納めているヒウラにはマグナ国総合医療研究施設があります。今知った情報さえあればそこで十分開始できます。ティアちゃんありがとう…結果が出たら金貨5千枚家に送るわ』


ティア

『ひぇ…』


ヴァーニアルト伯爵

『癌の特効薬となると世界中欲しがる筈、何十億という大金が流れるわ』


嬉しそうに話す貴族

まぁ貴族はそういう生き物なのは仕方がない

最初に出会った時の緊張は彼女にはなく、気さくにティアと会話をしている

かなり警戒していたということだろう


普通の女性だとわかってもらえて嬉しいな

食事をし、そして店を出て去り際のヴァーニアルト伯爵はティアに『回復魔法師会を頼みます』と告げて騎士と共に去っていった


本当に伯爵さんが彼女に会うだけに来たのか…凄いな

俺はティアを家に送り、家に帰ると着替えをしてから部屋に戻る

やはりシャルロットが俺のベットを占領している


部屋に戻し、俺はベットを取り戻すとそのまま横になった

明日も休みだからゆっくりしよう

そう思いながらテラと会話でもしようと話しかけたが、寝ていた



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る