第204話 幻界編 44 ゾンネ戦

やはりお前だろうな、ゾンネ

しかも奴の顔は人間に近づいてきており、蛸の触手が首の周りから生えている

特徴的な武器でありソードブレイカーには赤い血で染まっており、邪魔する魔物を手当たり次第に倒してきたようだった


アカツキ

『貴様…』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『ここまで来るとは、しかも単騎で』


ゾンネ

『2回目の到達だ。にしても貴公らは既に戦える状態ではないと見える』


リゲル

『くそ…化け物野郎め』


カイ

『アメリー、バルエル…戦え…』


ゾンネは馬鹿にするかのように笑みを浮かべ、静かに歩いてくる

だがその様子を気に食わぬ者が大きく動いた


ブルーリヴァイア

『哀れな元人間めが…』


ゾンネ

『なんとでも言え。私は知らねばならぬ…』


奴に記憶を与えてはならない

それは全員一致で決めた事だ

ゾンネは何故ここにきたのか、俺か…それとも…


『?』


奴は人差し指を上げ、『あと1回』と答えた

その言葉にティアやクリスハートさん、そしてリゲルは目を見開いた


『妻の名さえ思いだせば…私は完全なる者として生まれ変わる。そしてまた願うのだ!記憶に消された妻を蘇らせると』


ティアマト

『未練タラッタラの…老いぼれキングがよぉ』


アカツキ

『ティアマト!』


ティア

『ティアマト君…』


ボロボロの状態で彼は立ち上がる

彼だけじゃない、俺の父さんが崩壊した建物の中から顔を出し、クローディアさんも立ち上がる

クワイエットさんやシエラさんもゾンネの前に立ちはだかる


みんな諦めていない

最後の最後にこいつを倒すまではきっと諦めない


ゲイル

『息子の前に俺を倒せ、外道な王めが』


クローディア

『どうかしてるわね。王なら急ぎよく今後の時代の邪魔なんてしないもんよ』


クワイエット

『本当に可笑しい人だ。何のために暴君になったのか…思想と行動がまったく合わないね』


ゾンネ

『ほざくが良いわ瀕死の分際で』


奴は武器を構えると、動ける者たちは駆け出した

クローディアさんが迫ると、ゾンネは鉄鞭を弾いてから彼女を無視して走る

直ぐ後ろにいたロイヤルフラッシュ聖騎士長とバッハ

彼らはゾンネのふと振りを剣でガードするとバッハだけが吹き飛んだ


『獣め』


ゾンネの手がロイヤルフラッシュ聖騎士長に伸びる

しかし聖騎士のトップとしての意地を見せるため、体を大きく回転させて大斧を振る

瞬時に姿勢を低くして避けたゾンネはロイヤルフラッシュ聖騎士長の顔面を殴り飛ばし、側面から襲い掛かるアネットさんとクリスハートさんの攻撃を残像を残して避ける


奴は宙を舞い、美しいエメラルド色の魔法陣を地面に沢山出現させると、花が生えてきた


『コスモ・クラスタ』


眩い光が全員を包み、花の全ては爆発したんだ

辺りを粉塵が覆いつくし、その中からアネットさんが吹き飛んでくる


中で金属音が聞こえてくるが、誰かが応戦している

砂煙が空に舞うと、それはクローディアさんと父さんだった

2人がゾンネに連携攻撃で戦い、なんとか抑えていたんだ


『ほう…中々だな』


クローディア

『くっ…』


ゾンネ

『魔力を使い果たしてから姿を出したのは正解だったな!』


クローディア

『ごふっ!』


父さんの右ストレートを顔スレスレで避けたゾンネは彼女の鉄鞭をソードブレイカーで弾き返すと即座に腹部を蹴って地面に転がす

そのまま流れるように父さんに狙いをつけたが、同時にクリスハートさんと聖騎士のカイが重傷の体で飛び掛かっていく


あのケガで動けるとは驚きだ


カイ

『平和を乱す者め!』


ゾンネ

『消えろ』


しかし、力の差があり過ぎた

カイの剣が振られる前に、ゾンネの剣は既に振り終えていた

血しぶきが飛び、カイの右腕が宙を舞ったのだ


それを心地よく見るゾンネ

クリスハートさんは構わずに剣を振る


『龍斬』


大きな3つの斬撃がゾンネに襲い掛かる

それは剣で受け止める事はせず、彼女から飛び退くという形で避けたんだ

でもそのおかげでゾンネは予想外な攻撃を受ける事となる


『死ね』


ゾンネ

『チッ』


ブルーリヴァイアの口から放たれる絶対零度のブレス

それはゾンネを飲み込んでいったんだ

どうみても一撃、確実に仕留めたと誰もが思っただろう


静けさが訪れ、ブレスの後には凍り付いたゾンネが氷の柱の中で鋭い目つきを龍に向けている


『危なかった』


ゾンネが口を開くと、氷は砕かれた

龍ですら驚愕を浮かべるが、どうやら俺達との戦いでのダメージがブレスに影響していたらしい

先ほどよりも威力が半減していたんだ、見ればわかる


『万全ならば確かに即死だ…』


『やはり化け物か…何故人間を止めた』


『それを完全に思い出すために、ここにある私が残した遺産を取りに来た…』


ゾンネの問いにブルーリヴァイアは押し黙る

何かを知っているようだが、それを話すなんてしないだろう


一つだけ気にかかる事がある

ブルーリヴァイアは焦りをあまり見せてないのだ

その理由がまったくわからない


俺はティアと共に弱々しく立ち上がると、ゾンネは俺達を眺めながら口を開く


『釈然せぬ。龍よ…何故いまでも余裕そうな顔を?』


『お前が生きていた時代とはここは違う。もう龍の楽園ではない』


『…貴様はブルーリヴァイアだ。水と氷を司る龍の者がここの征服者ではないのか』


『自分で確かめればどうだ?』


途端にブルーリヴァイアの口は開かれ、氷柱がゾンネに5発も撃ち放たれた。

舌打ちをしたゾンネは2発を剣で打ち砕き、3発目と4発目を避けると最後の5発目は回し蹴りで破壊した


『!?』


その隙にロイヤルフラッシュ聖騎士長やティアマトそしてクワイエットさんにリゲルが飛び込んだ

多勢に無勢な状況のゾンネは彼らの攻撃を全て武器でガードしたり弾いたりと人間離れした動きを見せた


クリスハート

『てぁ!』


彼女が背後から剣を突き出す

完璧なタイミングかと思われが、ゾンネは背後を見ないで体をずらして避けたのだ

まるで後ろにも目があるかのように


『お嬢さん、お返し』


『あっ!』


ゾンネは近くのアメリーを裏拳で吹き飛ばしてからその場から消えた

現れたのはクリスハートさんの真横、彼女が振り向いた時にはソードブルイカーは振り下ろされていた


蹴れない、彼女は剣を前に出して間一髪ガードしたけども勢い止まらずに地面に叩きつけられる

父さんの右ストレートを腕を掴んでロイヤルフラッシュ聖騎士長に投げてかは奴は再び地面に倒れた彼女に剣を振り下ろす


リゲル

『その女はやめろや』


ゾンネ

『ぬ?』


ガキン!と金属音が響き渡る

クリスハートさんの前にリゲルが現れ、ゾンネの攻撃をガードしたんだ


直ぐにクワイエットさんが飛びかかると、ゾンネは飛び退く


『おやおや、頑張るじゃないか』


クワイエット

『まぁね』


リゲル

『場違いだ、失せろや』


『そういう訳にもいかないのだよ』


リゲル

『……』


『君は虫の息じゃないかね?先ほどのガードが最後の抵抗に見えるが?』


クリスハート

『リゲルさん、血が』


リゲル

『うるせぇ下がれ』


クリスハート

『でも…』


ゾンネ

『君たちに勝ち目はない、死ぬだけだぞ』


それはまだわからない

俺達は諦めてはいないからな

でもリゲルは少し機嫌が悪いのか、ゾンネに『誰も守れずに死ぬ騎士に人権などない、お前らは敗者としてここで死ぬのだ』と告げると彼は思わぬ行動をとった


クリスハート

『あっ…』


思わず目を疑ったよ

リゲルは尻餅をつくかのように倒れ込んだ

やはり限界だったようだが、顔は少しゾンネを睨んでいる

クリスハートさんが膝をついてリゲルの怪我の様子を見ようとしたそのときだった


なんとリゲルはクリスハートさんを抱き抱え、剣を鞘にしまうと右手を握りしめたまま上に上げた


『みんな死ぬだ?笑わせんな化石王。こうすりゃ俺とこいつは生き残る』


彼の右拳には見たことがある眩い光が発せられた

あの魔法は誰もが恐れたヴィンメイが保有したノヴァツァエラという大爆発を引き起こす異常魔法だ


きっと彼は本気だった


リゲル

『どうするよ化石王ゾンネさんよ?あんたでもこの状況は難しいだろ』


ゾンネ

『だが仲間が死ぬぞ?』


リゲル

『どうでもいい』


ゾンネ

『……面倒な奴だが。理に叶っているか』


クリスハート

『リゲルさん?』


リゲル

『どうした化石』


ゾンネ

『確かに貴公は本気だ、だが残念なことにその魔法が撃てないのは知ってるぞ若造』


瞬時に奴はリゲルに襲いかかる

撃てないのはノヴァツァエラを放つ条件を満たしてないからか、あるいは単純に魔力がないのかだろう


『チッ』と舌打ちをするリゲルは魔法を解除した

それは撃てないという答えでもある


周りの攻撃を押し退け、立ちはだかるバッハを剣ごと切り裂いてリゲルに襲いかかるゾンネはソードブルイカーを真横に振る


二人もろとも切り裂こうという魂胆か

そこへクワイエットさんとティアマトが当時にソードブルイカーを受け止める


『断罪!』


俺はその場で最後の技を放つ

ゾンネは背後から現れた斬擊から逃げようとしたが、ティアマトとクワイエットさんが奴を押し込んでそれを阻止してくれたんだ


『ぬっ!』


ゾンネの背中に斬擊が命中すると、緑色の血が吹き出した

そこで奴は怒ったのか、見える範囲に魔法陣を発生させたんだ

コスモクラスタという多重爆発魔法


俺達の周りにも沢山魔法から生えた花があり

避けられる気がしない

高く跳躍していたゾンネは『グンナイ』と告げると、指パッチンで全てを爆発させた


俺はティアを抱き締めたまま吹き飛び、建物の壁に背中を強く打ち付けた

まだ意識はある、まだ動けるかもしれない

立ち上がろうと顔を持ち上げると、ティアは『動いたらダメ』と俺に強く言い放つ


体中血だらけ、確かに動いたら危ないな


クローディア

『万全なら……』


ゾンネ

『万全でもギリギリだろうねぇ?』


立てる者はいなかった

クワイエットさんが立ち上がったけど、かなりふらついてる

父さんは足を引きずる格好で俺の前でゾンネに睨みを利かせるけど、ゾンネはお構いなしにこちらに歩み寄る


狙いは俺だからな…


ゾンネ

『瀕死だな、アカツキ坊や』


アカツキ

『お前は王じゃない』


ゾンネ

『そうだねぇ、それがどうかしたかい?』


ゲイル

『何故貴様は成仏できないのだ、もう生きている意味など…』


ゾンネ

『まだだ、まだやり残した事がある』


ゲイル

『やり残した事?』


ゾンネ

『知る必要はない。確かに全員が万全ならば私でも苦労しただろうな。だが負けるわけではない、ある程度は弱った時に倒せるならば誰だってそうする、私に武士道などない』


アカツキ

『く…』

 

意識が……やばい

俺は口を半開きに、ゾンネに駈けていく父さんの後ろ姿を眺めた

なんだかティアが俺の耳元で何か叫んでるけど、遠い


揺り動かしても意識は徐々に薄れている

遠くでリゲルがクリスハートさんと倒れたまま、怒りを顔に浮かべて何かを口にしている


なんだ?『起きろ?』か

それは無理そうだ


もう少しで帰れる希望があったけど流石にゾンネならばちょっと諦めがつく

結構俺達って頑張ったよな…

今のうちにティアの頭でも撫でておこうと思い、俺は感覚の無い左腕を使って彼女を撫でる

凄い顔をしている、あまりみたくない顔だ


(ティアマト…)


あいつもかなりの怪我だろう…

体中から血を流したまま怒りを顔に浮かべてゾンネに飛び掛かっている

クワイエットさんやシエラさんそしてロイヤルフラッシュ聖騎士長もゾンネ相手になんとかしようと必死に藻掻いている


あいつがこなきゃ、こうはならなかっただろう


『ノア・フィールド』


『っ!?』



今ハッキリとティアの声が俺の耳に届いた

死ぬ前に最後に聞きたい声だからか?いやわからない

しかし事態は一変したんだ



・・・・・・・・・・・














アカツキ君はもう長くはもたない

何度呼び掛けても私の目を見ようともせず、どこか遠くを見ている

寝たらダメ、そう何度も声をかけても彼は反応をすることは無い

徐々に彼の目は静かに閉じようとしている


私は彼を抱きかかえながら何度も叫ぶ


ティア

『起きて!アカツキ君!』


ゾンネ

『無駄だ!私の勝ちだ』


ゲイル

『死ね』


ゾンネ

『おー怖い怖い!』


リゲル

『何寝ようとしてんだぁ阿保野郎!』


みんながみんな必死

諦めちゃいけない状況だけど、もうこれは…

今すぐ何かが起きなきゃ私達は死ぬ


(お願い…リリディ君、リュウグウちゃん)


私はアカツキ君の腕を掴んで泣きながら何度も願う

間に合えば何かが変わるかもしれない

何かがきっと変わると信じていた

すると突然、私の視界の全てが止まった


『えっ…』


ゾンネと戦う人たち、地面で苦しむ人たち

全てがモノクロの世界で時間が止まったかのように動かなくなった

動いているのは龍だけ、ブルーリヴァイアは驚愕を浮かべ…頭を深く下げた


『小娘…頭を下げよ…』


『何が起きて…』


私はアカツキ君を抱きかかえたまま、上体を起こす

物音すらなく、耳鳴りだけが聞こえる

何がどうなっているのかまったく理解できないまま、聞き覚えのある声は聞こえてきた


『到達、成功、試練、突破、仲間、信頼、人間、成長、覚悟、納得』


それはここまで辿り着くまでに幾度となく聞こえた声

私は驚き、無意識に荒げた声で口を開いた


『お願いします!みんなを助けて!』


『…願いはそれぞれに叶えるつもりだが、小娘はそんなことで良いのか?世界一の金持ちや美貌、国を持つという大きな願いは無く、それでも仲間を欲するか?この森の制覇の証を仲間に分け与えるというのか?』


『そんなの知らない!みんな死んだら意味がない!』


次の瞬間、私の背後からその声が聞こえた

今まで感じた事が無い兄弟過ぎる力、それはランクなど到底付ける事が出来ないほどに

人間なんてか弱すぎる生き物だと思えるくらいに大きかった


『呪なる者が助けるよりも、小娘に力を与えたほうが都合が良いな・・・小娘のステータスを上げ、そしてこの森の制限を解除しよう…到達した仲間に感謝するんだな。それと…』


『それと?』


『我が名はデミトリ、神ある我が呼んでいない馬鹿者は帰ってもらおう。神の矜持を邪魔することは罪だ』



あぁ…リリディ君、リュウグウちゃん…

無事に辿り着いたんだ

ありがとう


そして時間は正常に戻り、あの気配は私の近くから消えていく

同時に私の体が発光し、みるみる力が溢れていく感覚を覚えた

今なら助けれる







・・・・・・・・












ティアの声が俺の頭の中でこだました

すると俺の体は緑色の魔力に包まれていった

傷がみるみるうちに回復し、傷は塞がっていく

それと同時に彼女に変化があった


神々しく輝き、背中には金色の翼が生えていたんだ

何が起きたのかわからない


それがなんなのか悟ったのは、俺の父さんと戦っていたゾンネだ


『ありえん…まさかその姿は!』


ティア

『ノア・フィールド!』


金色の翼は彼女を僅かに浮遊させ、彼女を中心に辺りを緑色の魔法陣で覆われた

それは俺達の仲間全てを緑色の魔力で包んでいくと、致命傷である傷まで全てを治していく


俺は先ほどとはうってかわり、完全に体の傷が回復したのだ

瀕死だった殆どがティアの魔法で息を吹き返したのには全員驚きだよ


ゾンネ

『このタイミングでガブリエールだと!?だがしかし貴様らが万全とて倒すのが苦労するだけの事!再び地獄を見るだけだ!』


奴は体から多くの魔力を放出し、怒りを浮かべる

仲間たちは喜ぶ暇もなく武器を構えた

この状況ならばなんとかなる、ティアも金色の翼を生やしたまま戦う姿勢を見せると、ふいに俺に口を開いた


『良かった…アカツキ君』


『ありがとティア、本当に助かった…。でもゾンネを倒さないと』


『それは多分大丈夫だよ』


『どうしてだ?』


『デミトリ様が怒ってる』


全員がゾンネを一定の距離を保ち、再び死闘が始まろうとした時に再び異変は起きた

ゾンネは急に目を見開き、辺りを見回したのだ

あり得ない…なんで奴は怯えている?何を感じた?


ブルーリヴァイア

『ゾンネよ、お前はこの場にいるべきじゃない』


ゾンネ

『馬鹿な…この気配は…』


そして俺達の耳に届く2重の声

それは渋い声と若々しい男性の声が交じった声


『邪魔であるぞ。神の前で頭を垂れよ』


空から一気に落下してきた物体はゾンネの近くに着地すると、奴を吹き飛ばした

苦痛を浮かべて吹き飛ぶゾンネは体を半回転させて着地をするが、現れた者に目を奪われて体が脱力していく


あれは何なんだ?魔物か?


アカツキ

『馬鹿な…』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『あり得ん…こんなの…』


リゲル

『あぁ無理無理、倒せるわけねぇって・・・くはは』


クワイエット

『ふぁ…何これ』


カイ

『もう…驚かんぞ』


クローディア

『あれは…』



『ジャァァァビィィィ』


『ジャビジャビィ』


『ジャァビィィィ』


呪王ジャビラスが至る所にいたのだ

ざっと10体はいるだろう

グリモワルドさんことジェスタードさんのパートナーであるランクAのアンデット系の魔物

巨大な藁人形、その口は釘で埋め尽くされていて不気味だ

全長20メートルとジェスタードさんの持つ個体よりも僅かに大きい


『我が名はデミトリ』


禍々しい黒い瘴気を纏うそれらの中心にひと際化け物が黒い光を体から放っている

2メートルサイズの藁人形みたいな姿だが、フォルムは丸みを怯えており所々に黒光りした防具を装着していた


『死・病・呪い・闇、生物全ての負を司る神』


手は左右に3つずつ、武器は持っていないが爪は鋭い

目は赤く、それは頭部を受けつくすほどに沢山生えている

奴の背中からは巨大な翼が生えており、不気味な文字が沢山書かれていた


ゾンネ

『馬鹿な…ここの主は龍種…』


『古い…。神の遊びを汚す者め、貴様の感情論は神である我の地で行う事は断じて許さん…帰れ』


『ジャァァァビィィィィ』


『ジャビジャビィィ』


ゾンネ

『くっ…』


『神種を殺した事はあるまい?神は生命であらず…神は思想である、お前ら生物が触れることが出来ぬ存在』


デミトリという神は腕をゾンネに伸ばすと、急にゾンネは何かに激突したかのように吹き飛んで壁に激突した

あまりの威力に壁すら貫通し、砂煙に奴は覆われていった


何が起きたのか誰もわからないだろう

まったく見えなかったんだ…あんなの避けれない


『戦いの神、テラ・トーヴァと共にいる人間の小僧か…数万年ぶりに会えたな』


《助かるぜ…デミデミ》


アカツキ

『テラ!?』


ゲイル

『喋れたのか』


《ちと交渉したんだ。俺が復活したら戦ってやるよってな》


デミトリ

『無駄口を叩くな。』


ゾンネ

『くそ…何故神種が…地上に!』


奴は生きていた

建物の中から頭を抱えながら姿を現すと、ジャビラスに囲まれたデミトリにソードブレイカーを向ける

だがそれは形だけだと俺でもわかった


あいつの顔には先ほどの覇気は無い、それに腹部から黒い血が流れている

軽く射抜かれたのだろう、立っているのが凄い


ゾンネはあり得ないほど強い、それはきっと今を生きる人間の中でも最上位であるほどに

ロイヤルフラッシュ聖騎士長、クローディアさん、俺の父さん相手でも危なげなく交戦するほどさ

そんな強大な力を持つあいつが、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべているんだ


『次は首を刎ね飛ばす…どうする?所詮貴様は生物の中で強いだけ。我は生物ではない高みの存在、思想を打ち砕くことは出来ん』


デミトリの体からほとばしる赤黒い魔力は衝撃波の様にその場を包み込んだ

再びジャビラスが複数現れ、その全ては大口を開けてゾンネに『怨固破動砲』という禍々しい大きな光線を放たんとしていた


10体以上のその攻撃、流石のゾンネも耐えるのは至難の業だ


ゾンネ

『…今は退く』


デミトリ

『貴様の愛する者の名がこの先にあるというのに、帰るか…』


挑発だ

帰れといったのにあえてゾンネの大事な情報がこの先にあると口にした

それは試しているに違いない

ゾンネは欲にかられそうになったが、怒りを顔に浮かべたまま舌打ちをすると無言でその場から去っていった


助かった…


みんなその場に座り込み、ぐったりしている

同時にデミトリの遥か後方、開門している防壁の扉の向こうからリリディやリュウグウそしてルーミアさんが血相を変えたまま戻ってきたんだ


リリディ

『皆さん!大丈夫ですか!』


リュウグウ

『生きてい…うわっ!?さっきの化け物!』


ルーミア

『リュウグウちゃん!神様!それ禁句!』


デミトリ

『ふむ…面白い人間だ』


デミトリは全てのジャビラスを撤退させた

それでこの場が楽になることはない、神がいるんだからな


アカツキ

『ティア…その姿』


ティア

『良かった!アカツキ君』


飛行しながら抱き着いてきたから俺はそのまま転倒した

そして恥ずかしい…父さんが横目でこちらの様子を見ているのが見える

ちょっとしたプライベートだから見ないでほしいな


クリスハート

『あの…いつまで抱きかかえて…』


リゲル

『ああすまんすまん』


ティアマト

『助かったのか…てか俺達はどうなる』


ジキット

『神…あぁ助かったんだ』


さて…この気迫を受けながらここにいるのは正直体に響く

俺はずっと抱き着いてくるティアを一度離し、デミトリに視線を向けた

口を開こうとしたが、奴はその前に全てを口にする


『この先にあるゾンネの情報は知らぬほうが良い、試練は満たされた…願いを口にしたら貴様らを帰そう…。そしてあの悲しい人間はお前らにまた牙を剥く…それを打ち砕かねば時代は静まらぬ。』


アカツキ

『願い…』


『そこの小娘は既に叶えた。さぁ願いを言え…長居はさせたくはない、さっさと告げよ…人間は悪しき生物、今回は到達したからこうして神が話してやっている』


ゲイル

『猫神バナナとは何か教えてくれ』


『ゾンネのパートナーのヒドゥンハルドが神となった思想だ』


これには全員今までにはないくらい驚いた

父さんはそれが願いなのか、それ以上は何も言わない


カイ

『不眠症気味だ…安眠スキルが欲しい』


『では安眠スキルを授けよう』


バッハ

『気配感知を限界まで…』


『良いだろう』


ジキット

『死んだ仲間を蘇らせられませんか?』


『面白い願いだな、何故自身に使わぬ?』


ジキット

『親友なんです』


『…面白い、考えておこう』


アメリー

『お母さんは足が弱いので普通に歩ける足が欲しいです』


『…よかろう』


ドミニク

『俺は両断一文字が欲しいです』


バルエル

『俺も…』


『よろしい』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『耐久力強化を』


『レベルが3か、5にしてやる』


クローディア

『彼氏が欲しいわね』


『頑張れ』


今クローディアさんは笑顔で神に舌打ちした

この人、死にたいのか…

でもデミトリは鼻で笑うだけで許したようだ

しかも『出来そうにないな…』と囁いている


クリスハート

『動体視力強化を限界まで』


『良い』


アネット

『金貨1000枚!』


『よろしい』


ルーミア

『弟が医学専門学校を合格するように…』


『他人の為とは面白い、運スキルをこっそり与えておこう』


シエラ

『フレア!欲しい』


『それは炎神に頼め、代わりにファイアテンポというそこの眼鏡のグェンガーのような移動魔法スキルを与える。』


リリディ

『私を天才に』


『不可能だ、別にせよ』


リリディ

『…ステータスのレベルをある程度上げたいです』


『無難である』


ティアマト

『俺の次の称号を教えてくれや』


『オーガ・タイラント、時期にお前はなる』


リゲル

『俺は何を目指せばいい』


『…ノヴァエラを持つ人間か、お前はエルベルト山にいる帝龍に会えばわかるだろうな』


クワイエット

『ステーキ食べたい』


『…』


彼の目の前には皿に盛られた美味しそうな肉が現れた

本当にそれでいいのか…


デミトリ

『テラの力を持つ小僧、貴様はどうする?早く言え』


俺は…

対して大きな夢は無い

田舎で育っていたから想像できないな


アカツキ

『テラはどうすれば解放されるんですか』


『レベル5になれば願いが叶う、その時にお前がそう願えばいいが我はそうしてもらうためにいちいち助けた』


アカツキ

『テラを自由に…か』


『その時まで小僧が今のままでいたならば、容易いだろう』


リュウグウ

『私は何者なんだ…』


リュウグウは真剣な顔つきでそう告げた

よくわからない願いではあったが、デミトリはそれを知っていたらしい

いやデミトリだからわかっていた衝撃的な事実を知っていたんだ


『知ってどうする?知ってなお…この世界で生きる覚悟はあるのか』


『聞いてから決める!私はこの世界の人間じゃない…だけどもここに来る前の記憶があまり無いのだ。何故私はここに来てしまったんだ…家族もいた。それなのにその記憶もおぼろげだ』


俺は驚いた

この世界の人間じゃない、その意味がよくわからなかったのだ

違う場所からやってきた、それはどういう事か…


デミトリ

『お前は地球という星から来た。テラは話さなかったのか』


《俺は専門じゃねぇ…確かにこの星に新しい生命としてやってきたときにちょこっと話をしたがな》


リュウグウ

『教えろ、私は何者なんだ』


デミトリ

『お前は自害した』


突然の言葉に俺の思考が止まった

リュウグウですら、空いた口が塞がらない様子だ

そんな彼女に残酷な言葉をデミトリは淡々と口にする


『お前の家族はすでに崩壊していた、家族としての機能を捨てていた。だからお前は自ら命を絶った…恵まれぬ家庭に生まれ…確証のない死を選んだ。学校という学び舎すらいかなくなったお前は家に帰ると親同士の荒げた声を耳を塞いで部屋で閉じこもった。弟は性格がねじれ…危ない橋を渡ったがやり過ぎたために死んだ…お前はその後に精神に限界が来て死んだ』


『待て…』


『天に昇る魂は宇宙の流れに乗っていくはずだった。しかしお前の魂は他の魂から離れて長い年月を星々の周りをずっと漂い、天界にもいけずに彷徨い続けた所を我は見つけた』


『やめろ…』


『同情でお前の魂の記憶をある程度消した。気まぐれで新しい生き方を与えた…せめてもの情けで限界突破という神が認めた者だけが与えたスキルを与えた。そのスキルは全体のスキルを数値分上げる非常に素晴らしいスキルだ…深くは話せばお前の心の容量は限界が来るだろうが。貴様は以前の生活を思い出すべきではない…ゾンネもそうである』


アカツキ

『ゾンネだと!』


『やつも異世界人、この世界に生まれた王族である赤子に魂を我が宿らせた…我は生と死を司り神である…死んだ魂をどうするか決める権限を持つが人間には到底理解できぬ境地、まぁ余計なことをしたせいでテラの星が少し混乱してしまうが…それも時代の醍醐味であろう』


リュウグウ

『私は…家族がどうなって』


『二度は言わぬ、お前は逃げた…人生を嫌い、自ら命を絶った…そして我が実態を持っていた頃のテラに託し、ここに連れて来たが新しい体が仕上がるまでかなりの年月がかかったようだな。トウジ、アキヨ、リュウジという名を告げれば多少思い出すだろう』


リュウグウ

『…父さん、母さん、リュウジ…』


彼女はうつむいてその場に膝をついた

これ以上は聞くに堪えない

ティアは止めるようにお願いするが、神は無慈悲にも止まることは無い


『新しき人生。その影響で貴様はここに来ても一匹狼であった時は変わらぬ存在かと落胆したが…』


アカツキ

『やめてくれ…』


『馬鹿を売りにした仲間に助けられたようだな。』


リリディ

『馬鹿ですか』


『褒めたつもりだ。事実を知ってまた生前のように精神が蝕まれるならばその程度、だが今は生前と違って色が満ち溢れていると気づける筈だ。リュウグウ・モチヅキよ。貴様は元の世界には絶対に帰れぬ』


アネットさん、ティアがリュウグウに近づき、声をかけて立ち上がらせようとすると

俺達の周りに大きな魔法陣が現れた

見たことがある、強制転移の魔法だ…初めてじゃない


『ゼペットは小物だ、あいつは気にするな…イグニスとゾンネだけに意識を向けろ』


アカツキ

『ゼペットはどこに!』


『お前らの住む大陸の向こう側、最果ての記憶の地に隠れておる』


ゲイル

『死んだ大陸…本当にあるのか』


『行かずとも良い。それではさらばだ人間共…良い時間を過ごせたが。お前らにとっては一瞬だ。次なる道はエドにある剣山のホンノウジ地下大迷宮の地下50階層、ギール・クルーガーとならなければゾンネを打ち砕く力はそろわぬ!行け…』


眩い光で目を閉じてしまうと、その光は直ぐに消える


神の住まう森

ここはそういう地であったか

色々話が聞けると思ったけど、神はそれを望まなかった














アカツキ

『そんな…』


ティア

『えぇ…』


リゲル

『マジかよ、ありえねぇ』


目を開けると、俺達はグリンピアの冒険者ギルドの前にいたんだ

しかも懐中時計は昼を指しており、時間の感覚が可笑しいことに気づく


カイ

『なんだこれは!?』


アメリー

『ここまで一瞬で…』


クローディア

『神って…とんでもないわね』


そのとんでもない事は立て続けに起きた

俺達に気づいた父さんの後輩である警備兵が声をかけた時、全員に衝撃が走る


『ゲンコツ長!?忘れ物ですか!』


ゲイル

『いや…帰ってきたんだが』


『昨日街を出たばかりですよね?』


どう反応していいかわからない

聖騎士、ティアマト、アネットさんにシエラさんはその場に座り込み

状況が飲み込めないでいる


ルーミア

『あはは…意味わかんない、何週間も地獄を見たのに…昨日って…』


カイ

『俺はもう絶対行かんぞ…たとえ聖騎士長殿の指示でもだ』


リゲル

『真面目過ぎるよりも、そういう感情持った方が長生きするぜカイさんよぉ』


カイ

『黙れ…いったい何なんだこれは』


トーマ

『あれ…なんで生きて…』


ジキット

『トーマ!!』


アメリー

『トーマさん!』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『トーマァ!』


聖騎士トーマがいた

死者を蘇らせたか…流石神様だ


デミトリ

『道は示した…各自が頑張るがよい』


神の声はそれが最後

空から聞こえた声に皆は見上げる

人間が歯向かってはいけない存在、生き物ではなく思想の存在

ランクが付けれない力を持つ者


幻界の森という場所は人が容易く踏み入ってはいけない場所だと俺は悟る


リュウグウ

『…』


リリディ

『リュウグウさん、今は考えても何も変わりません』


リュウグウ

『私は…死んだのか…』


リリディ

『それは生前の事です。今は生きて僕たちと共に苦労をする仲間ですよ…それだけは忘れないでください』


リュウグウ

『いっそのこと、生前の記憶なんて消してくれれば良かったのに』


ティア

『リュウグウちゃん、帰ろう』


バッハ

『ロイヤルフラッシュ聖騎士長殿、私らも帰りたいです…コスタリカ帰還後には休みをご所望します』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『ふむ…一先ず銭湯に行かぬか…そこでトーマにも何が起きたか話をしたい』


トーマ

『何がどうなってるのかわかりません』


カイ

『地獄だったぞ…』


アカツキ

『みんな…帰ろう』


リュウグウ

『私も色々整理したい、それと…ティアの姿どうにかならないのか』


強い女性だ

涙をぬぐい、深呼吸をすると彼女はティアに視線を向けたんだ

まぁティアの姿はまだ金色の翼で浮遊しているまま。神々しくて周りの人間が凄い見てるんだ


そこに紛れていたのは回復魔法協会のテスラ会長と護衛の騎士6人

もの凄い形相でテスラさんは護衛の騎士を押しのけてティアの元に歩み寄り、浮遊しているティアの両手を握ったんだ


『ティアちゃん!?それは何!ステータスは!?』


『あ…そういえば』


聖騎士達もこぞって彼女のステータスを見ようとした

まぁ人が持つべきスキルじゃないのがゴロゴロあってテスラさんは気絶してしまったんだ



・・・・・・・・

ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

安眠    【Le4】

魔法強化  【Le4】

気配感知  【Le5】MAX

麻痺耐性  【Le5】MAX

動体視力強化【Le5】MAX

スピード強化【Le4】

運     【Le5】MAX


☆技スキル


☆魔法スキル

火・ラビットファイアー【Le4】

火・フレア【Le2】

雷・ショック【Le5】MAX

風・キュア 【Le4】

風・ケア  【Le4】

風・シールド【Le3】

白・ホーリーランペイジ【Le3】


称号

カブリエール


☆称号スキル

スピード強化【Le3】

デバフ強化 【Le5】

自然治癒  【Le4】

動体視力強化【Le4】

運     【Le4】


固定スキル 『天使』

固有スキル 『戦闘形態』

特殊技   『天剣』

特殊魔法  『ガード・フィールド』

特殊魔法  『ノア・フィールド』

特殊魔法  『デルタ・バルカン』

特殊魔法  『ホーリー』

・・・・・・・


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『小娘…五傑になるつもりか?』


ティア

『なりません!』






凄かった

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