第105話 協力関係になるために

エーデルハイドさんとの約束日

俺とティアはギルドに朝から向かったんだ

他の3人?今日は実は休みの予定だったんだけど。休日出勤みたいなもんさ

まぁ明日も休みなんだけどね…


俺は家で朝食を食べていると、珍しくティアが家まで来たんだ

暇で着てしまったらしいけども、シャルロットが『アカ兄ィはまだ渡さない』とか可笑しな事を言うので母さんに妹を連れていくようにし。俺は朝食を食べ終わるとティアと共にギルドに来たというわけだ


自国は8時半と早い

俺達、イディオットは基本的に9時半にくる

理由は依頼争奪戦に参加するのを避けるためさ。依頼板に冒険者がコスパの良い依頼を早く入手するために朝は揉みくちゃになるんだよな


俺達はあまりもので良いよ…



ティアと一緒にギルドの1階ロビーの軽食屋のカウンター席に座りグラスに入ったオレンジジュース片手にエーデルハイドを待ちながら依頼板に集まる冒険者の波を見ていた


『あっ、バーグさんが波に溺れてる』


ティアが指をさす

そこには抗うバーグさん、揉みくちゃにされながらも抵抗を見せている

残念ながら彼の手に依頼書はない


《諦めたな…》


だろうな


『死ぬっ!しぬぅ!』


バーグさんの声が聞こえる

その様子をゲラゲラ笑いながらドラゴンさんが他のチームメイトと共に見ていた


『あっ、消えた』


ティアが笑った


『お待たせしました』


声の先にクリスハートさんだ

今日も輝いて見える、こんな美人がグリンピアにいるとはな

勿論シエラさんやアネットさん、ルーミアさんも一緒だ


みんな良い顔してる


《来たようだな巻き添え女性隊》


『面白いあだ名だねぇ』


『巻き込まれた』


アネットさんとシエラさんが反応を示す

クリスハートさんは依頼書は省いて森に向かう予定を俺とティアに告げる


この前の稼ぎがあるから大丈夫だそうだ


『では行きますか』


『はい!』


クリスハートさんはいつもより少し元気がある気がした

今日はブルドンは健康診断のため、シグレさんが動物専門の施設に連れていくから来ない

いないといないでちょっと寂しいな


『あの二人はいないようですね』


クリスハートさんが辺りを見回して囁く


ティア

『二人?』


笑顔で反応するティア

わかってる筈なのに、あえて知らないフリ

それに気付かないクリスハートさんは自然と答える


『リゲルさんと、もう一人の人が』


シエラ

『クリスハートちゃん、リゲルさんだけ覚えてる』


『深い意味はありませんから…』



クリスハートさんは焦りながらも『行きますよ!』と元気よくアルキ出したので俺はティアと共に彼女らについていった

風は無い、最近は風が冷たいから無風は楽で良い


歩きながら他愛のない会話をしていると、テラ・トーヴァがクリスハートさんに話し始めたんだ


《なに狙いだ?》

 

『斬擊強化が欲しいのでソード・マンティスですね』


《なるほど、スピードはいいのかい?》


『それはのちほどにします』


《ふむ…。それと森に関してだが、海抜の低い森はやめとけ、崖の下に面倒なのがいる》


アカツキ

『魔物か』


クリスハート

『なんの魔物ですか?』


《将軍猪、いま無理に挑む必要はない》


クリスハートは少し悩んだが、諦める

あの魔物にも良いスキルがあるから諦めるのが難しかったんだろう


よかった。今は挑みたくない

更に奥に進み、見晴らしが良い場所で一度足を止めて休憩することになる


『さっきのコロール、鈍感だったね』


アネットさんがシエラさんに話しかけていた

さっきコロールが2体いたんだけど、1体が近くの木の根に足をひっかけて前のめりに転倒したんだよな


シエラさんが無表情のままファイアーボールで燃やして倒してた


『魔物もお茶目』


シエラさんが口を開くと、堂々と大の字に寝始めた

あ、そういえば聞いてみたいことがあるんだ…聞いてみよう


『そういえばシエラさん。グリンピア中央学園の実技講師の採用試験に出るんですね』


シエラさんはムクリと上体を起こし、ニコニコしながら答えた


『高等部の実技講師、勿論』


『魔物って何を呼び寄せるんですかね』


『というか。知ってるという事はリリディ君も?』


俺とティアは同時に頷くと、何故かエーデルハイド御一行さんは苦笑いを浮かべた


ティア

『何を採点する試験なんですかね』


クリスハート

『私もグラン先生の説明を聞いてからギルド職員に詳しい詳細を聞こうとしましたが。極秘らしいです』


ルーミア

『対策できないよねぇ。いつも通りで戦うしかないって事かも、シエラ大丈夫?』


シエラ

『ドラゴンさんだけちょっと心配だったけど。もっと面倒になる』


シエラさん溜息

12月までもう少しだ。きっとリリディもそれに向けて何か対策しているとは思うけども

なんだか心配だ


クリスハート

『それにしても学生の学科に魔法科ですか。』


アネット

『不満?クリスハートちゃん』


クリスハート

『ちゃん…。いえ、そういうわけでもないですが…何を目的として何でしょうかね』


ティア

『多分意味はあるのかもしれませんね。学生を終えていきなり冒険者になっても素人からですから戦い方も逃げ方もわからない状態。亡くなる人もいるからそれを減少させる理由となるとありかもしれません』


ルーミア

『なるほどね』


シエラ

『確かに私達も最初は素人、学生時代にある程度の知識を専門の人から聞いていれば幾分かマシ』


アネット

『初心者だとベテランに話しかけるのも億劫なチームもいるしね』


冒険者の死亡者はこの街でも起きる

それを出来るだけ少なくするためならば必要かもしれない


《まぁ人間が魔法使いをどう思ってるのかが問題だがな》


アカツキ

『どういうことだ?』


《発展途上すぎるからな。マスターウィザードなんて魔法使い職でも平社員レベルだぞ?》


シエラがウッと言いながら胸をおさえる

彼女の職はファイアウィザードだが、何故だ?


ティアが辺りを見回していると、彼女は偶然にも空を飛ぶソードマンティスを発見する


『こっちこっちー!』


《とんでもねぇな》


ティアの誘い方にいまいち疑問だ

だがカマキリの視界に死角はない

キョロっとこちらに気づくと直ぐに急降下してきたのだ


エーデルハイドの皆さんは武器を構えるけども

そうしなくても、もう大丈夫だ

俺は刀を僅かに鞘から抜き、口を開く


『大丈夫ですよ、テラなら一撃です』


クリスハート

『?』


俺は開闢と言い放ち、鞘に刀を強く押し込み、金属音を響かせた

見慣れた光景が訪れる

鞘から黒い煙が正面に噴出し、その中から鬼の仮面を被った武将らしき者が現れた

前よりも大きくなってる気がするぞ…2メートルくらいある


当然、ティア以外は度肝を抜かしたような顔をした


『!?』


ソードマンティスは目の前に現れた不気味な武将に驚き、飛行したままブレーキをかけるが、その一瞬の隙にテラが赤く熱された刀で斬り裂いても燃やし尽くす


クリスハート

『召喚スキルとか聞いたことないんですけど…』


シエラ

『召喚スキルは神様だけ使えるって図書館の本で見た!』


ルーミア

『アカツキ君神様かぁ』


アネット

『いや…なんでそうなるのよ。でも凄い殺傷力』


驚く声にテラ・トーヴァは振り向いた

やっぱりクリスハートさん達は自然と身構えるけども、声を聞くと誰か悟ったようだ


テラ・トーヴァ

『よう女軍団。他言したら神としてお前らを地獄に落とす・・・いいな?』


脅しじゃないかそれ?みんな体が強張ってる

ティアが目を細め。テラを見るとそれに気づいたテラは頭を掻き、消えていきながら言葉を口にする


『悪かったよティアお嬢ちゃん。んでエーデルハイドよ。必要な時には手を貸せば望みのスキルは兄弟は協力してくれるだろう』


煙が消えると、残っているのはソードマンティスの発光した魔石

クリスハートさんは目を見開いたまま魔石に近づき、手を伸ばすとこちらを向いて微笑んだ


『本当に異常なスキル。確定ドロップなんて夢のようなスキルですね』


アカツキ

『テラがたまに口が悪いのは許してください』


『いえ、それは時間が解決するでしょう』


彼女はそう言いながら魔石を掴み、光を吸収する

どうやら斬撃強化だったようだ

戻るときのクリスハートさんは機嫌が良く、恐ろしいほどニコニコしていたよ

あと30分あるけば森を抜けれるという距離まで来た時、一度足を止めた


川の流れる音が聞こえる、それに風が出てきて少し寒い

昼過ぎはかなり寒くなるから上着忘れるなよと父さんに言われてたっけ

結構寒いんだな、冬みたいに感じる


アネット

『凄いスキル、しかも喋るとか』


《神だぞ?どうだ?》


ティア

『テラちゃん威張らないの』


《今日くらいいいじゃねぇかよ》


アカツキ

『今日が本当に最後になるのか?』


《痛いとこつくじゃねぇか兄弟》


シエラ

『スキルが話すってのもまだ慣れない、凄い』


アネット

『だね。私欲に使おうとする人は確実にいるだろうさ…秘密が一番だよこれ』


アカツキ

『他言無用でお願いします』


そういうと、皆は頷いた

ギルドに戻り、俺とティアはクリスハートさん達と共に赤い絨毯の上を歩き、受付カウンターに向かっていると、冒険者たちが壁の情報板を見てざわついていた

何があったんだろうと思いながらも俺とティアはそちらに歩き出す


『どしたんだろうね』


ティアが首を傾げ、俺に顔を向ける

俺も首を傾げてしまう


《面白いな人間って…仕事が速いというかなんというか》


『テラ?』


すると、情報板を見ていた冒険者の声が聞こえてくる


『マグナ国の取り組み初だってよ』


『でもわからんこともないぞ。新米は危険がいっぱい、俺の心は彼女の胸でおっぱい』


『お前帰れ』


『魔法科の実演講師か。こりゃ面白いな…旅団のドラゴンにシエラちゃんもいるのか』


『てかリリディの宣伝文句がわからないんだがハイムヴェルトって誰だ?』


『昔、叔父から聞いたがグリンピアで一番強かった魔法使いだよ。あの魔法騎士会の副魔法騎士長だったんだぞ』


『マジか!あのリリディがその孫か…』


俺とティアはまさかと思い、人込みをかき分けて前に言った

そこにある大きな宣伝ポスターに固まってしまう

グリンピア中央学園高等部に実技講師の採用試験のポスターだ

12の月、3の日の採用試験の見学自由、場所は学園に新しく設立された実技講演場

ポスター作るの早すぎますよグラン先生…


ティアが試験の参加者の名を見て引き攣った笑みを浮かべていた

俺も同じ顔がしたいけども、これはリリディが喜びそう


夢旅団の近接戦闘特化型魔法使いドラゴン

グリンピア一番の冒険者チーム、エーデルハイドの炎魔法使いシエラ

時代を見据える熟練魔法使いミーシャ

若き原石ロズウェラ

ビッグエコーの早撃ちサンドラ

ソードガーデンのフレミー

アサシンドッグの岩使いロトム


みんな知ってる

クローディアさんはグランさんに何か話したのだろうか

何故リリディだけ優遇されてる感じに文字がデカいんだ?


ティア

『ハイムヴェルトの意思を受け継ぐ男、イディオットの黒魔法使いリリディとかダークヒーロー?』


《聞いてるだけで恥ずかしいぞ》


アカツキ

『リリディ、こういうの好きだよ』


《やめてくれや…》


というか人物紹介が彼だけ期待させるような文章だ

マスターウィザード以上の称号を持つ男、お爺さんの意思を受け継ぎ、魔法使いの歴史を変える


本当に聞いているだけでこっちが顔を隠したくなるなぁ

というか、まだギール・クルーガーじゃないんだけどさ


ドラゴン

『面白いキャッチフレーズだよな』


ティア

『ドラゴンさん』


後ろにいたよ

ニシシシと笑いながら彼は俺の隣にくると、肩を軽く叩いてきた

しかし、何も言わない


『黒魔法とか見たことないぞ…』


『見てみたいよな。見学タダだし行ってみようぜ』


『おっし、誰が合格が賭けようぜ』


冒険者が後ろで盛り上がっている

俺達も見に行くけども、リリディはあがり症だし大丈夫かな…


《お前ら心配してんのか?》


アカツキ

『そりゃ…』


ティア

『ねぇ』


ティアと同意見、嬉しい

テラ・トーヴァはそれとは違い、問題ないと告げると続けて話したんだ


《他人と比べる機会なんてねぇ。メガネはそのチャンスが来たんだから自分が今どこにいるか理解して強くなるためには必要だ。あいつは心配すんなよ兄弟…冒険者としての年数は少ないにしろ、危ない橋は何度も渡ってる。楽しみだ》


さて、不安と期待が半分だ

どうなるんだろうな


人込みから抜けると、クリスハートさんが俺達を待ってくれていた

シエラさんにポスターの件を話すと、彼女は驚きながらポスターに走っていく


『ありがとうございますアカツキさん。私達も今後なにかあれば協力しますね』


『お願いします』


クリスハートさんはニコッと笑みを浮かべると、辺りを見回す

何かを探しているようだが、どうしたのだろう


ティアがどうしたのか聞くと、クリスハートさんは『何でもありません』と答え、俺達に会釈をしてくる

シエラさんが興奮したまま戻ってくる

珍しく女の子っぽい様子にクリスハートさんは苦笑いだ


『頑張る』


『頑張りましょう』


シエラさんの意気込みにクリスハートさん答えた

俺は2階のテラスに向かう、小腹が空いたからトンプソン爺さんの屋台でおにぎりを買おうと思ったんだ


しかし、テラスに行かなくても良さそうだ

2階の吹き抜け、その広い空間にて彼は屋台を開いている

というかテラスからどう移動させた?ドア通らないだろ?


『デートだねティアちゃん』


『いやっあのっその!』


トンプソン爺さんがティアを茶化す

あたふたしている彼女を横目に、俺はショーケース内のおにぎりを見ているのだが、在庫数は少ないな…


『この時間は品薄じゃぞい』


『でも鮭と焼きおにぎりがある』


『ウニおにぎりもあるぞい?牡蠣おにぎりも』


『いりません』


そういいながらティアと共に仲良くおにぎりを1つだけ選ぼうとした

ショーケースを覗いていると、ティアも同じことをするが顔が近い

彼女の匂いだ、小腹が満腹になりそうだ


『そっちを食べたいのか?』


トンプソンさん。やめてくれその表現

ハイかイイエで答えろと言われると、俺はわからないと誤魔化すだろう


『私は筋子!』


『ほう、ティアちゃんいいね』


『俺は昆布で』


『アカツキ君はつまらんのう…』


『…』


このジジイ…なんだったらいいんだよ

屋台の近くで買ったおにぎりを食べていると、トンプソン爺さんが欠伸をしてから屋台から出てくる

2階の吹き抜けからポスターに集まる冒険者たちを見下ろしている

何かを凝視し、一瞬だけ目を見開くと小さく鼻で笑ったんだ


『トンプソンさんは情報板のポスター見た?』


『今見たよティアちゃん。』


『こっからあの文字見えたんですか!?』


『目は自信あるんじゃぞぉ?昔鍛えていたからな』


目を鍛えたのか?まぁいいか

俺も真似してロビーを見下ろしてポスターを見てみるけども、とても見えないよ

どんな視力してんだこの人


『少し様子を見てやるか…』


トンプソン爺さんが囁くようにして口を開く

どういう意味なのか俺は聞いてみると、彼は苦笑いしながら『何でもないさ』と言う


『トンプソンさんの家ってどこにあるの』


ティアが彼に質問をすると、トンプソンさんは唸り声をあげた

そんな難しい事なのだろうか

ティアと顔を合わせて不思議がっていると、彼はどこかで聞いたような言葉を口にしたんだ


『遠すぎて帰れんなぁ。』





次回、賢者録 




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