第106話 賢者録 1 


リリディ・ルーゼット


☆アビリティースキル

魔法強化【Le2】

打撃強化【Le4】

気配感知【Le3】

動体視力強化【Le3】

麻痺耐性【Le3】

スピード強化【Le3】

攻撃魔法耐久力強化【Le2】


☆技スキル

ドレインタッチ【Le3】

爆打  【Le2】

骨砕き 【Le1】



☆魔法スキル

風・突風   【Le3】

風・カッター 【Le3】

黒・チェーンデストラクション【Le2】

黒・シュツルム【Le3】

黒・ペイン  【Le1】

黒・アンコク 【Le1】

黒・グェンガー


称号

ハイ・クルーガー【黒】


☆称号スキル

魔法強化 【Le2】

自動魔法盾【Le2】

スキル発動速度強化【Le2】

魔力消費軽減【Le2】

特殊魔法『クラスター』


・・・・・・・・・


魔物表


A闘獣 金欲のアヴァロン(妖魔羊)、睡欲のモグラント(土駆龍)


A 呪王ジャビラス、ドミレディ


B デュラハン、将軍猪、閻魔蠍、鬼ヒヨケ、女帝蜂、ミノタウロス

  


C ブラック・クズリ、トロール、ファングマン、侍ゾンビ

  パペット・ハンマー、リザードマン、鉄鳥、マグマント

  剣蜂、キラービー(単体D/集団のみC)、般若蠍、ベロヌェルカ

  ロゴーレム、ニャン太九郎、魔妖精、チベタンウルフ


D キングゴブリン、グランドパンサー、ゴーレム、ラフレコドラ、ケサラン

  ソード・マンティス、黒猪、グレイバット、鎧蛇、棘巻トカゲ

  リッパー、ゲロックロ、ハンドリーパー、ブー太(梟)


E コロール、エアウルフ、ハイゴブリン、エレメンタル各種

  パペットナイト。ボロゴーレム、棘蜂、グール、グリーンマンティス

  ゲコ(ヤモリ)、闇蠍、格闘猿(エド国)


F ゴブリン、ディノスライム、格闘猿、ゾンビナイト、風鳥

  ゴースト、ウッドマン、ビリビリフラワー、眠花蜘蛛

角鼠、カナブーン ゾンビナイト、赤猪、棘鴉、オオダンゴ

ギョロギョロ、ゾンビランサー、シロオニバス


・・・・・・・・・・


※3人称


リリディはアカツキとティアがエーデルハイドと森の中にいるとき、更に奥の森でギルハルドと共に来ていた

人間1人、猫1匹だ

危険だと思った彼だったが、そうでもないことに気づいた

自身が狙われる危険は低いからである


魔物ランクBとして幻の猫種とされる忍者のような黒い頭巾を被り、体の模様はブチの猫

4足歩行で歩いたり2足歩行になったりと器用であり、壁も重力を感じさせないほどにスムーズに歩く


『寒いですね、ギルハルド』


『ミャハハン』


深い森の中でリリディは自身のパートナーに語り掛ける

肝心のギルハルドは彼の体をスリスリするという難しい答えが返ってきた

それには苦笑いのリリディ、彼が何故森に来たかというとグリンピア中央学園高等部に来年度から設立される魔法科の実技講師の採用試験前のちょっとした訓練に近い


『ニャ?』


ギルハルドが森の奥に目を向けた

すると奥の方からガサガサと茂みをかき分ける音がリリディの耳にも入る


『手ごろならば嬉しいですね』


そう言いながら、彼は頑丈な木製スタッフを構える

その武器は彼のお爺さんであるハイムヴェルトが愛用していた杖であり、神の木を長年削って作られた大変貴重な武器だ

神木テラーガという金属よりも硬いと言われる木


『ニャハーン』


ギルハルドは戦闘態勢に入らない

言葉は主人と出来なくとも、なんとなく理解は出来ている

この獲物は主人の者だと理解しているのだ


『貴方でしたか』


現れたのは魔物ランクDのグランドパンサー

毛のない犬種の魔物であり、見た目はピットブルという犬に酷似している

全長1メートル半、特殊個体となるとそれ以上に大きいが、強さはさほど通常個体とは変わらない

飽く迄、集団でいる場合のリーダーが自然と体が大きくなるという不思議な現象が起きる

だから強くはない、ただ大きいだけだ


『グルルルルル』


通常個体のグランドパンサーは大きな口からヨダレを垂れ流し、リリディとギルハルドの周りを静かに歩き出す

明らかに魔物はリリディを餌と認識し、狩る姿勢を見せていた


『きっと試験はこれ以上の魔物を連れてくるんでしょうね。できればCと挑みたいんですが』


愚痴をこぼすリリディ

だが簡単に希望のランクの魔物など現れはしない

奥に行けば行くほど強い魔物入るが、それは出てくる確率が上がるだけだ

基本的にD以下が森を締めている


本当に戦いたい場合は海抜の低い森、いわば崖下の森に行くしかないのだ

だが彼はそこに降りようとした時、崖下の川辺に将軍猪がいることに気づき、諦めた


『グルルルル』


グランドパンサーは彼の周りを歩く

リリディは無駄に動かず、目だけで彼を追いながらスタッフを肩に担ぐ

彼の視界からグランドパンサーが消えた瞬間、後方からの僅かな砂利を踏み抜く音でリリディは振り返りながらスタッフを払うように振った


『ガァァァァ!』


飛び込んできていた、口を大きく開いて


『だと思いました!』


救い上げるようにして彼のフルスイングはグランドパンサーに命中すると『キャイン!』と鳴き声を上げて宙を舞う

彼は素早く右手を伸ばす、緑色の魔方陣を出現させると唱える


『カッター』


緑色の魔方陣から2つの黄緑色の円盤状の刃が現れ、宙を舞うグランドパンサーを斬り裂いた

鈍い鳴き声が聞こえ、魔物は地面に叩きつけられるようにして落ちる

スタッフを構えたままリリディはジリジリと動かぬグランドパンサーに近づくと、気配が消え。同時にその体から魔石が顔を出して地面に落ちた


『ニャンヤー』


『貴方が喜ぶのか』


2足歩行になり、ぴょんぴょんとジャンプするギルハルドに彼は笑う

そのまま魔石を回収し、ギルハルドに渡すと、その体毛に魔石を収納したのだ

あの体毛の中には質量保存の法則など関係なしに色々な武器が収納されており、ある程度は入る

魔石ぐらいなら問題はないだろう


『ギャギャ!』


『ギャギャギャ!』


ゴブリン2体が後方から意気揚々と走ってくる

気配は察していたリリディだが、その姿を見て溜息を漏らす


(あれはいらないですね)


そう考えながら、彼はギルハルドの頭を撫でると『天誅』と囁く

これはギルハルドに倒せという意味で彼が覚えさせた言葉だ


『ニャハ!』


返事をしたギルハルドはその場から砂煙と残像だけを残して消える

次の瞬間には襲い掛かってくるゴブリン2体が同時に斬り裂かれて地面に倒れた


『ニャンニャー』


直ぐにギルハルドは主人であるリリディの横に現れる

『偉いぞ、ギルハルド』と言いながら頭を撫で。ゴブリンが魔石を出すのを確認してから回収し、ギルハルドの体の中に収納


少し戻りながら魔物を探していても、現れる魔物は彼の希望通りではない


『ブギギ!』


Fランクの赤猪

それは体当たりされる前にリリディはかっ飛ばして倒す


『ギギギギ』


これもFランクのウッドマン、人型の木の魔物だ

目は釣り目であり、身長はリリディとほぼ同じ

動きが鈍く、あまり危険視されない魔物だが、意外と頑丈なのだ

しかし彼は気にせずにスタッフで頭を叩いて粉砕し、魔石を回収する



(1体ぐらい現れてもいいじゃないですか)


心の中で愚痴をこぼしながらも森の中を戻るようにして歩く

しかも数も単体ばかり、この後に現れたコロールもハイゴブリンもである

溜息の数だけが増え、倒れている木を椅子代わりに腰を下ろして休みだすと。ギルハルドは堂々と彼の足元で仮眠をしてしまう


『ニャフー』


(なんで寝るんですか…)


主人も困惑

頭を掻いてから空を見上げ、欠伸をする

以前味わったことのない感情が彼を襲う、奢りからなのかはわからない

それは『退屈』だった


コロールやグランドパンサー、Dランクに気を張っていた彼は今じゃ魔法使いなのに使わなくても倒せるほどに強くなっていたのだ

だからこそ好敵手ともいえるCランクと戦いたかった


『おや?』


リリディの気配感知が魔物をとらえた

彼は立ち上がり、近づく気配を待っているとそれは現れる


『ゴゴッ』


『ボロゴーレムですか』


魔物ランク

名前の通り、ボロボロのゴーレム

見た目は岩を人型に固めた感じに近い

物理はあまり効かないが、魔法スキルは殆ど一撃で倒れてしまう魔物だ


期待外れだったリリディはゆっくり近付く魔物に向かって右手を伸ばすが


(いや、これは丁度良いのかもしれませんね)


口元に笑みを浮かべ、伸ばしていた右手でメガネを触る


『殴り倒す』


物理はあまり有効でない

しかし数で叩けば問題はないと予想した彼はボロゴーレムに走る


『ゴッ!』


襲いかかるリリディに向かって右手を振り下ろすと、彼はそれよりも先にボロゴーレムの顔面をスタッフで殴って背後に回る

岩の破片が飛び散り、ロゴーレムが顔を押さえながら振り替えるとリリディはすかさずで更に顔面をスタッフで殴った


『ゴッ!』


『遅いですよ』


両手を大振りに振り回すロゴーレムの攻撃を避け、腕

肩、背中、膝を順番に殴って岩を削る


(相当硬いんですね…)


彼は驚いた

岩は飛び散りはするものの、ロゴーレムは元気だった

重量もあるからこそ、ふらつきもしない


『ゴゴ』


『ある意味、適度』


リリディは囁くと、振り下ろさせる両手を避けて側面からスタッフをボロゴーレムの足に叩きつけた


『ゴッ?』


僅かにふらついたボロゴーレム

リリディはその隙に軽く跳躍し、両手に握るスタッフを掲げた

顔を持ちあがるボロゴーレムに向かって、それを全力で振り下ろす


『賢者バスター!』


先ほどの攻撃よりもボロゴーレムの岩が飛び散り、両ひざをついて顔を覆い隠す


(意外にいけるんですね)


リリディはそう思いながらも僅かに顔を持ち上げたボロゴーレムにスタッフをフルスイングし、叩きつけると後方に転倒させた

いかに敵が物理があまり効かないといっても何度も殴ればダメージは蓄積する


彼なりに見出したちょっとした退屈しのぎでもある


『ゴブブ!』


背後の奥からハイゴブリン、ランクEの魔物だ

しかしリリディはそれには興味がなかった


『邪魔です』


彼はそう言いながら横目でハイゴブリンを見ると、右手を伸ばして黒い魔法陣を出現させて言い放つ


『シュツルム』


黒い魔法陣の中から現れた黒弾が走ってくるハイゴブリンに命中し、爆発四散

すぐさま起き上がろうとしたボロゴーレムを再びスタッフで殴り倒し、撲殺したのだ

ボロボロすぎる魔物が動かなくなると、リリディは額の汗をぬぐった


『予想以上に良かったですね』


『ニャハハ』


『ギルハルド、起きていたんですか』


いつの間にか起きていたパートナーに苦笑いを浮かべたリリディ

すると可笑しなことに、ボロゴーレムの体から発光した魔石が現れる


『おや?』


彼は一瞬驚いたが、直ぐに真剣な顔つきのまま膝をついて発光した魔石に手を伸ばす

ドロップしたスキルは骨砕きという打撃系の技スキルだった

頑丈な物体に対して有効な技、しかもそれは彼が持っているスキルだ

口元に笑みを浮かべ、魔石を掴んで光を体に吸収するリリディはギルハルドの様子が可笑しいと気づき、顔を向けた


『どうしたのですか?』


『シャハハー』


茂みの奥に向かって可愛い威嚇をしている

魔物か?とリリディは僅かに考え、それは違うと知った

顔を出したのは人間だ、しかも彼よりも若い少年だ

歳は学園でいうと中等部といった様子にリリディは魔石の光を吸収し終えると、ギルハルドに魔石を投げ渡してから茂みから顔を出す少年に声をかける


『危ないですよ?ここは魔物がいる森です、君の歳で1人だけだと怪我しますから早急に帰った方がいいと思います』


『いや、その…』


困惑する少年にリリディは首を傾げた

すると驚くことに、彼だけじゃなかった

茂みから他に2人が姿を現す、それもまた、少年と少女である


『カイル、だから浅い森の方がいいっていったのに』


少女がそう告げる

困惑していた男の名はカイルのようだとリリディは察し、彼らに何者か聞いたのだ

カイル、ランダー、ミミリーという3人はグリンピア中央学園中等部の3年生であり。来年は高等部との事

短剣を持った少年少女、そして縮れ毛の少年は短い鉄鞭を持っている



(冒険者ごっこ?いずれにしても連れて帰りますか)


リリディはそうするしかなかった

ここから街まで近いとは言えない地点、学生ならばスキルなんて皆無に等しい

放っておくのは危ないと悟ったリリディはギルハルドと共に3人の学生を連れて帰ることにした


(あと少し時間がありましたが…まぁ頃合いは良しか)


空を見上げ、日が暮れそうなのを確認してそう感じる

スタッフを担ぎ、ギルハルドを横に先頭を歩いていると、後ろから彼らに色々な質問をされたのだ


『凄いですね!ボロゴーレムを撲殺なんて!』


カインが興奮気味に口を開くと、ランダーも話し始めたのだ


『魔法スキルじゃないと倒すの難しいのにな』


そこでリリディは聞いてみたのだ。何故こんな森の深い場所にいたのかと

理由は単純だ、高等部卒業後に冒険者になりたいからだったのだ

彼らはスキルが全くなく、自らの肉体のみで今日は訓練という肩書で森に入ったのは良いが、先ほどのボロゴーレムに追いかけまわされて逃げていたのだ


茂みに隠れていたところをリリディが現れたというわけだ

ちなみに彼らが持つスキルはカイルが持つ気配感知のみ、他にはない


『よく生きてましたね…』


リリディが呆れた顔を浮かべて告げると、3人は苦笑いを浮かべた


『猫さん可愛い』


触ろうとすると、リリディは『女性は大丈夫ですが男性は僕以外が触ろうとするとひっかかれますので気を付けてください』と告げる


ミミリーはギルハルドの横に来ると歩きながら頭を撫でる


『ミャハーン』


『可愛い!ペット連れて冒険者してるんですね!見た目が変わってますけども』


『そうですね。ペットというよりもパートナーです』


『そういえば名前を聞いてませんでした。』


リリディは自身の名を告げていないことに気づく

あえて彼は『大賢者になる男』と言うと、3人は微妙な顔を浮かべる

しかし、直ぐにミミリーは口を開き、その雰囲気を吹き飛ばす


『でもハイゴブリンを吹き飛ばした魔法!あれ見たことない!』


『来年の高等部で授業で教われるかなぁ』


カインがおもむろに囁く言葉にリリディは首を傾げ、歩きながら聞き始めた


『来年?』


『あの…高等部になったら僕は魔法科になろうかと思ってて』


なるほどな、とリリディは納得を浮かべた

どうやらグリンピア中央学園中等部には高等部に新しく設立される学科の話は聞かされており、現状でも結構希望者がいるのだとカインが話す

リリディはなんだか嬉しかった。それと同時に採用試験に対するやる気が上がる


『魔法使いって神秘的でいいですよねぇ』


カインが口にする言葉に、リリディは返事を返す


『なるまでが壁ですね、魔法スキル1つ手に入れるのも苦労ですし、魔法強化スキルを手に入れるとなるとランクCの魔妖精、これは夜に現れる魔物です』


『そこまでかかるんですかね…』


『心配しなくとも大丈夫です、魔法強化は後回しでも十分魔法使いとして胸を張れます』


不安がるカインにリリディはそう言って彼を自信つけた

よかった、といった安堵を浮かべるカインの表情を見てリリディは口元に笑みを浮かべると、先頭を歩くギルハルドが『シャハハー』と可愛い鳴き声を出す


(魔物の気配)


リリディは手を横に出し、3人の足を止めて前に出る

彼らも構えは取るが、それは魔物には意味はない

まだ戦える力を持っていないからだ


『ゴブブブ』


『キングゴブリンですね』


魔物ランクD

カインたちは体が強張る

仕方ない事だ、彼らにとってはまだDという魔物は化け物みたいに見えるのだから

錆びた片手剣を地面に引きずりながら堂々と姿を見せるキングゴブリンの取り巻きはゴブリン2体


徐々に3人の血相は真っ青になっていく


『僕もそんな時代ありましたよ』


『怖くないんですか?』


カインが口を開くと、リリディは『全然』と答える

先に飛び出してきたゴブリン2体は『天誅』とリリディが囁くと、ギルハルドが『ニャン』と鳴いてから一瞬でその場から消え、ゴブリン2体があっという場にリリディの目の前で引き裂かれて地面に沈んでいく


『えっ?』


『何?今の?』


カインとミミリーが驚愕を浮かべ、口を開く

するとギルハルドがリリディの横に現れてから地面にゴロンと転がった


『カイン君。魔石の気配感知スキルを吸収しなさい』


リリディはゴブリンの体から出てきた発光する魔石を目にし、カインにそう告げた

キングゴブリンはいきなり取り巻きが死んだ事に動揺し、足を止めてリリディに警戒を見せている

その隙にリリディはカインに話したのだ


『均等に気配感知を配るより、1人が高い方が良い…強敵を早めに察知して逃げる手段を作れるのは一番大事です。カイン君が使いなさい』


『あっ…はい!』


カインが魔石を掴む

するとキングゴブリンは叫びながら走ってくる

誰もがそれに驚きを浮かべるが、リリディは肩に担いだスタッフを降ろし、突っ込む前にカインに口を開く


『魔法はいらないですね』


リリディは一直線に走った

キングゴブリンは目の前に現れた彼に驚きを見せるが、直ぐに右手に握る片手剣を振ろうとした

しかし、リリディにとってはそれは退屈でしかなかった


『大振り過ぎですよ』


『ゴブッ!?』


彼はキングゴブリンよりも早くスタッフを振り、武器を弾いて遠くに飛ばしたのだ

武器を失くしたキングゴブリンは慌てる様子を見せずにリリディを掴もうと顔面に手を伸ばす


(遅い)


リリディはしゃがみこんでから背後にまわり、奴が振り返ると同時に顔面をスタッフで叩き、尻もちをつかせた

体を回転させ、その勢いを駆使してスタッフを放物線を描くようにして振りながらキングゴブリンの頭部に叩きつけて倒しきる


(頭ならばすぐですね)


生物は頭は大事、そこを狙えば討伐は容易である

舌を出しでバタリを倒れるキングゴブリンを見下ろしながら右手を伸ばし、緑色の魔法陣を展開していつでもカッターを撃てるようにしていたが

体から魔石が出てくると、リリディは魔法陣を消し、魔石を拾った


『ん?』


リリディはカインたちを見た

固まった状態でこちらを見ている

はて?と首を傾げながら『行きますよ?』と言うと、ようやく彼らはハッとしたようにしてリリディについていく


不思議と帰りに魔物はゴブリンなど赤猪、グリーンマンティスなど低ランクばかりだったためにリリディはスタッフで撲殺しながら進むべき道を堂々と歩く


『魔法使いなんですか?』


『そうですよ?』


カインの言葉に返事をするリリディだが、何故かカインが納得いかない顔を浮かべているのに気づく


(魔法使ってないですからね…)


気づいたリリディは笑いながらメガネを触る


『実技講師かぁ、誰来るんだろうね』


ミミリーが独り言のように言い放つと、カインとランダーもそれに対して口を開く


『やっぱりエーデルハイドのシエラさんじゃないかな、街で一番の冒険者チームだし』


『有名な人が来るってワクワクするなぁ』


(そうですよね…やっぱ)


リリディはあえて笑った

期待されてないからこそ良い、彼はそれが一番だと思った

始まりは誰も知らない場所から歩き出す

でもそのチャンスが12の月に訪れると実感するリリディは心地よく感じた


森を抜け、中心街まで彼らを連れていったリリディはそこで彼らと別れることにした


『まだ貴方たちには早い、やる気は認めますが森の奥は怪我だけじゃ済みませんので気を付けてくださいね』


『助かりました。』


『ありがとうメガネの人』


カインのお礼はわかるが、ミミリーの言葉に苦笑いを浮かべるリリディは彼らに背を向けると、ギルドに向けてギルハルドと歩く

赤い夕陽も消えかけ、空は殆ど暗い


30分してようやくギルドに辿り着いた時、入り口近くの丸テーブルの席に座ってバーグさんと唐揚げを食べているドラゴンさんがニヤニヤしながら彼に話しかける


ドラゴン

『ようダークホース!ポスター見たか?』


リリディ

『ポスター?』


バーグ

『情報板に行けばわかるよ。いってごらん』


バーグが指をさす先にリリディが顔を向ける

アカツキとティアがいた時よりも冒険者の数は少なく、ポスターを見る者も少ない

しかし、彼は面白いポスターが貼ってあることに気づき、苦笑いを浮かべた


『ハイムヴェルトの意思を受け継ぐ男、イディオットの黒魔法使いリリディですか』


彼が囁く

明日がその日だったらいいのにと彼は期待を募らせる

試験に採用されるとか彼にはそこまで考えていない

あるのは知らしめる場があればいい、それだけだった


笑みを浮かべ、足元でくっついてくるギルハルドの頭を撫でると、横にバーグとドラゴンが現れる


バーグ

『俺も君は気になっていたよ、というかドラゴンやその知り合いの魔法使い達もだ』


リリディ

『何故です?』


ドラゴン

『黒魔法持ちの魔法使いは今のところ、この国には表上だとお前だけだぞリリディ』


バーグ

『そういうことだ。このポスターは隣街にも貼る予定だってギルド職員も言っていた。黒魔法って道のブランドを見に来る魔法使いは沢山来ると思わないか?』


リリディは考えた

隣街にも貼られるとなると、それは嬉しいなと

失敗は出来ない、全力を出そうと彼は決めると、ドラゴンは話し始めた


『シュツルムの獲得方法教えてもらったのは嬉しいが、嵐はこなくてね…』


リリディ

『シュツルムは便利ですよ』


『爆発系は喉から手が出るほど貴重だ。教えてくれたんだし採用試験後に飯でも奢るぜ?』


リリディ

『では遠慮なく』


バーグ

『だがよドラゴン、2日後は天候荒れるってよ』


ドラゴン

『マジっ!?』


ドラゴンは興奮しながら反対側の壁の天候情報板に走っていく


『うおおおおおおおお!これはいけるぜぇ!』


リリディは笑う

ドラゴンさんにはシュツルムの獲得方法も教え、どんな魔法スキルなのかも見せていた

だからこそ手に入れたいと思っているのだろう


リリディはその後、魔石を換金してから開いている席に座る

仲間はいない、ギルハルドのみだ

まだギルハルドを見に来る者はいるが、今日は少ない

警備兵ですら見る為に数人がギルド内にいる


それにも直ぐに慣れたリリディは欠伸をしながら近づいてくる軽食屋の店員に声をかけられる


『リリディさん、何か飲みます?』


『いちごミルクと杏仁豆腐をお願いしたいです。杏仁豆腐は2つで』


『あれぇ?リッチですね』


『ちょっと楽しみが12の月にあるので』


『ああなるほど』


軽食屋の若い男性店員は奥の情報板ポスターに顔を向けた

そのままニコニコしたまま店に戻る様子をリリディは横目で見てから椅子に野垂れかかる

今日のギルド内もギルハルドを見に来る人を抜けばいつも通り

リリディは他の丸テーブルの席で楽しく雑談する同業者を見て微笑む


『ねぇ』


リリディは声をかけられた

誰だと思いながら声の方向に顔を向けた瞬間、彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる

ゼルディム率いるソードガーデン、その御一行

しかも声をかけてきたのは魔法使いのフレミーだった


『…』


リリディは面倒だなと思い、顔を逸らしてからテーブルの上でゴロゴロしているギルハルドの腹をワシャワシャと撫でる


『ミャハハーン』


心地よい声を出すギルハルドにリリディは僅かに笑う

完全なる無視だと気づいたフレミーはしかめっ面になる

彼女だけじゃなく、ゼルディム以外の2人の男もだ


オルダー

『シカトかよ』


ゼットン

『なんでお前1人なんだ?』


それでもリリディは反応しようとしない

横目で彼らを見て、溜息を漏らすだけだ


フレミー

『本当に参加するの?実技講師』


(なんなんですかこのたらこ女)


リリディは会話がしたくなく、溜息を漏らしているとゼルディムが無表情のままその場から去りながら口を開く


『行くぞ』


彼の仲間たちが慌てて彼を追う

助かったと思い、この場は多少ゼルディムに悔しくも感謝をしたリリディは若い店員が運んでくる

杏仁豆腐2つ、リリディは代金を支払いテーブルにそれが並ぶ

1つはギルハルドに与える餌でもある


『ニャッハハーン!』


ギルハルドは杏仁豆腐を見て目を輝かせ、器用にスプーンを使ってテーブルの上で食べ始めた


(進化してからというものの、食べ物は変わりましたね)


ニャン太九郎の時、生肉だった

しかしヒドゥンハルトとなってからは人間と同じ食事を好むようになった

森の中では時折、毛の中から小さな紙袋を取り出し、キャットフードをバリバリと食べることもある


でも主食は焼いた肉だ

リリディの実家に帰ればそれが待っている

それまでの辛抱のために杏仁豆腐だ


リリディもスプーンで食べる


(美味いですね!)


銀貨1枚と高い、コスタリカに行けば銅貨4枚と安くはなるが

それでも美味しいからこそ彼は頼んだ

ペロリと平らげ、いちごミルクを飲み干すとギルハルドと共に満足を得たリリディは立ち上がり、ギルドを出る


彼の家は以前、呻き声で問題になった橋の近く

リリディがギルハルドを肩車したまま家の前に辿り着いた

2階建ての普通の家、玄関からリビングに向かうと、そこにいた3人の人間のうちの1人

ソファーで寛いでいた少女が帰ってきたリリディに顔を向けると、立ちあがって口を開いた


『おかえり!ギルハルドちゃん!』


『ミャハーン!』


ギルハルドはリリディの肩からぴょんと飛び、少女にダイブした


(僕は?)


リリディはそう思いながらもその光景を眺める

妹のリズ・リスタルト

彼女はギルハルドを抱きかかえてソファーに戻っていった

父のクリス・リスタルトに母のリース・リスタルト

リリディの家族が全員、その場にいた


リース

『あら?帰ったの』


クリス

『飯あるぞ?カレーだからお前待ちだったんだぞ?』


リズ

『お兄ちゃんおっそーい』


(少し予定より遅れましたか)


杏仁豆腐を食べる時間がそうさせたかとリリディは後悔する


『じゃあご飯食べます』


リリディはそう告げると、母親が微笑みながら台所に向かう


(ようやく気が休まる)


彼もまた、妹のリズの座るソファーの隣に腰を下ろす

家が一番落ち着くと感じながらもリラックスしている彼の隣でリズがギルハルドをモフモフしている

父さんであるクリスもそれを見て触らないように娘に近づき、眺めていた


クリス

『近所から言われたが、お前グリンピア中央学園の実技講師の採用試験出るんだな』


リズ

『え!?お兄ちゃん私の学校に来るの!勉強無理でしょ?』


『失敬な…僕は卒業生ですよ』


リズ

『あ、そうだった』


クリス

『魔法科の実技講師か。宣伝文句には笑ったが…』


するとリリディの父さんの顔が真剣になる

思いつめたような、そうでもないなんともいえない表情にリリディは気づく


『どうしたのです?』


クリス

『俺の父さんはロットスターよりも確実に強かった。お前はどうする気なんだ』


『お爺さんの代わりに歩くだけですよ。父さんだって最初は魔法使いだったでしょ?』


クリスはリリディの言葉に驚きはしなかった

昔、彼の父さんも冒険者でいる時代はあり、筋肉質な魔法使いだったのだ

だがしかし、膝の怪我によって引退して漁師をしている

リリディの父のまた、とある事を夢見ていた時代があった


そんな彼はハイムヴェルトの身に何が起きたのかリリディから聞き、ロットスターを憎んだ


クリス

『いけそうか?』


『そのために採用試験に挑戦しないといけませんから、まぁもっと強くならないと駄目ですけどね』


クリス

『もうお前は強い』


父はリズにモフられるギルハルドを見て告げた

リズは『お兄ちゃんが来るのかぁ、心配だけど友達と見に行ってあげる』と告げると、リリディはニコニコしながら頷く


リズ

『魔物Bランクを倒したって聞いたよ。今でも信じられないけどさ』


『誰から聞いたんです?』


リズ

『近所のおばさん連合軍に聞いた!』


言い方に父、そして台所からリビングのテーブルにカレーを運ぶ母が苦笑いする


『情報網は凄いですね…』


リズ

『黒魔法ってどんなだろうなぁ』


それはその日のお楽しみですとリリディは答え、家族で晩御飯を食べることになった






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