第107話 賢者録 2

次の日も休み

リリディはギルハルドに顔をスリスリされて起こされると、上体を起こす


『ミャハハン』


寝癖を沢山つけたリリディは枕の横に置いていたメガネをかけ、ベッドから起き上がる


(今日は…)


イディオットは休みだ

しかし、また森に向かって試験対策でもしようと考えている

対策といっても試験ではどんな点を重要視するかもわからない


だがジッとしていられないのが彼だ


『降りますよギルハルド』


『ニャハーン』


ギルハルドをつれて1階リビングに降りると、家族と朝食をとってから支度をし、家を出る

天候は曇り、夜から雨が降ると言われており、明後日は嵐になるのだ


(多分、休みになるかもですね)


彼はそう思いながらギルドに足を運ぼうとしたが

ふと考えると行かなくても良い事に気づく

依頼などしたら逆にやりずらい、そう考えた


『森に直行ですね』


彼はそう決め、森に真っ直ぐ向かった

入り口まで行くと、見覚えのある者を見かける

どうやら警備兵に森への入場を止められているようだった


警備兵

『学生だろ?駄目駄目!死ににいってどうする?』


カイル

『でも…』



カイル、ランダー、ミミリー

昨日にリリディが森で出会った3人だ

彼らはグリンピア中央学園中等部であり、来年度に高等部に新設される魔法科になるから早めに慣れときたく、森に来ていたのだ


今回は警備兵に見つかり、止められている


ミミリー

『直ぐそこまでなのに…』


警備兵2人は困り顔で学生3人を見ていた

冒険者や独立機関である各協会、科貴族の直轄組織

主にそんな身分の者しか立ち入りはできない


学生は入れないのは当たり前である

リリディは嫌な予感がし、顔を剃らしたまま通過しようと考え、歩いた


しかし、彼はバカディだった


『ニャハーン!』


『あっ!ギルハルドちゃん』


ミミリーがギルハルドに気付いた

リリディは自分を隠しても大事なパートナーの事を一切考えていなかった


(ギルハルド…)


自分の失態をパートナーのせいにしながらも溜め息を漏らす

ミミリーにモフられるギルハルドに目を向けていると、警備兵がリリディに声をかける


『今日も頑張るねぇ』


『はい、適度に運動増したら戻ります。一人ですから』


『うむ』


リリディは警備兵に会釈をし、ギルハルドを呼ぶとモフっていたミミリーの腕から軽々抜け出して主人の後ろをあるく


『あの!』


カイルの声だ

リリディは小さく溜め息を漏らし、振り返った

まだ諦めきれない、といった様子のカイルの表情にリリディは良い才能だと感じたが

同時に向ける方向が違うと悟る


『飽くまで、卒業後に強い状態からスタートするわけではなく、しっかりとした魔法スキルや冒険者としても知識を持って正しい判断のもと、行動できるようにするのが魔法科の狙いです。焦る者は死にますよ?』


カイル

『一緒でも駄目なんですか』


(しぶとい)


リリディは頭を掻いた

どうしたら諦めるかと聞くと『魔法スキルが欲しい』と安易な答えが帰ってきたのだ


『どうしてそんな待てない?』


警備兵が聞くとカイルは答えた


『同じメイトに男爵家の奴がいて、あいつ魔法スキルを2つあるからって威張りちらしながら俺達を見下すんだ』


(あぁ面倒ですね)


リリディだけじゃなく、警備兵の3人も納得だ

しかめっ面のカイルは溜め息を漏らしているとミミリーが説明したのだが、その貴族も高等部になれば魔法科になるらしく、取り巻きと共に馬鹿にしてくるという


『若いときの貴族とはそのような性格の者はいると聞いてます、変に対抗心燃やしても思う壷ですよ』


リリディは答えると、カイルは『でも…』と囁く


『カイル君、その貴族が魔法スキルを2つ持っていたとしてもです。僕からしてみたら君たちと同じ場所にいると感じますが』


『どうしてです?あいつ…Fランクは一人でも倒せるって言うんですよ。僕らはFを倒すのに3人で挑まないと到底無理なんです。同じとは言えません』


思い詰めながら話すカイルに警備兵は目を細めて『君たち、どこでFランクの魔物と?』と怖い笑顔で聞いた

ギョッとする学生3人、昨日に森に密かに入ったことがバレて注意されてしまう


(僕もヤンチャにも数回は森に入りましたね。ティアマトさんに怒られましたが)


昔を思い出しながら、リリディは警備兵に叱られるカイル達を眺めた


『シャハハー』


ギルハルドが森に目を向け、両前足から短い爪を出した

リリディはスタッフを肩に担ぎ、森の入り口から魔物の気配がする方向に体を向けると、警備兵やカイル達がそれに気づく


リリディ

『カイル君、浅い森にもこんなのがいるんですよ』


彼が口を開くと共に、森からとある魔物が顔を覗かせこちらを見ていた

魔物ランクCのトロール

身長は2メートルある人型の魔物である

その右手には鉄鞭が握られており、目を細めてこちらを見ていた


それに気付いたカイル達は驚きながらも後ろに下がり、警備兵の背中に隠れる


警備兵

『トロールか…』


リリディ

『森の入り口に現れるとは…暇なんですかね』


彼はそう言いながらもギルハルドに顔を向け、指示を出そうとしたが、トロールは直ぐに森の中に消えていった

安堵を浮かべるカイル達にリリディは『死んだら意味はない、学生ならば学生のうちに大事な知識を得ることが大事です。それは貴族も同じ、生まれの良し悪しなんてまったく関係ない』と言いながらカイルの肩を軽く叩いた


渋々ながらも頷くカイルにリリディは微笑んだ

ランダーやミミリーもあの魔物を見てからじゃ森に入るのは億劫であり、カイルに帰ろうと話して彼とともにこの場を去ることを決める


『魔物の本を熟読するだけでも生存率はぐんと上がりますよ?』


『ありがとうございます』


リリディが告げると、ミミリーは深く頭を下げてから友達を連れて街に行ってしまった

一番ホッとする警備兵、彼らは先程の会話を思い出すと、仲間同士で話し出す


『貴族か…。Fランク相手に試したのか?』


『貴族も森には特別許可証なければ入れないぞ?』


『いや、それは忘れよう…。俺達はこの場を警備だ』


(確かに貴族は森に入れないですが)


リリディはそう思いながらも、今日も森でギルハルドと共に魔物を倒して歩く

日が暮れる前にギルドに戻り、魔石の換金後にロビーの空いている席に座り、ギルハルドと寛いでいると彼は情報板に顔を向けた


(どこを重要視した試験になるのか、まだ不明ですね)


対策すら出来ない

それはリリディだけじゃなく、他の参加者も同じだ


(ん?)


リリディは受付に顔を向けると、明日は休みであると札があることに気付いた 

嵐が来る。リリディは不気味な笑みを浮かべる


『……ギルドが休みなだけですね』


『ニャハーン』


彼らは決めた、嵐の魔物を狙いに行くと

そうと決まるとリリディは今日は早く帰ろうとギルハルドを呼んでから立ち上がる


(まだ…)


ギルハルドを見に来る人はまだいた

しかし、以前よりも少ない

見世物状態に反応することが怠いリリディは周りの視線を気にせず、ギルドを出ようとすると入口で彼を待ち受けていた者がいた


『シエラさん?何してるんですか』


エーデルハイドの魔法使い、シエラだ

低身長の彼女は腕を組み、彼を待っていたのだ


『待ってた、リリディ君』


『話しかければよかったじゃないですか』


ハッとするシエラ

リリディはどうしたのか聞くと、興味が沸く誘いを聞いたのだ

明後日、ギルドが休みならば試験会場の下見に行かないか、と

どうやら見るだけならば許可されているらしく。リリディは二つ返事で行くことを決めた


(アカツキさん達に頼むこみますか)


試験日は4日後と急ピッチだ

出来ることはしなければいけない


リリディはシエラと約束をしたが、チームの返答次第だと告げると『きっと大丈夫』と笑顔で返す


『では明後日』


リリディはそう言ってギルドを出た

空は既に暗い、それは空一面を黒雲が覆いつくしているからだ

明日は嵐、そう思わせるには十分すぎる天候にリリディは天鮫の討伐でもしてシュツルムのスキルレベル上げでもしようかと考えながら家に帰ろうとした


『ニャハーン?』


ギルハルドが何かを見つけ、リリディが顔を向けた

大通りの中に森の方角へと歩くカインとランダーそしてミミリーがいたのだ


(懲りない学生ですね)


でも懐かしいと思いながらも彼は裏通りに消える彼らを追った

何処に行くかは検討はついている、森である

森の入口を警備する警備兵に見つからないように別のルートから森に行こうとしているのだろうとリリディは読んだ


しかもそれが尾行すると驚きなのだ

なんと高い防壁のドア、そこが施錠されておらず、彼らは普通に開けて向こうの森に出たのだ


『えぇ…警備兵さん、施錠点検…』


リリディは呆れた顔を浮かべながらもランタンの灯りを持つカイルと2人のあとをついていく

トロールを見て驚いていたのに、根性あるなとリリディは思いながらも森の中に侵入した3人の背後にまわり、カインの肩を叩くと女性の叫び声のような声を出して驚いた


その声に驚くランダーとミミリー

リリディだと気づくと、彼らは尻もちをついた


『学習しませんね』


リリディは呆れた顔を浮かべ、地面に座る彼らにそう告げた


『でも…』


『カイン君、どうしたら諦めてくれますか?』


リリディはカインに聞いてみる

学生でスキル持ちはほぼゼロ

いる者は彼らが毛嫌いする男爵家の子である同期のオルトロという子だけらしい


(参った)


リリディは彼らに諦めるように説明することにしたのだ

どれだけスキルを手に入れることが難しい事なのかを


リリディ

『ほぼ1%の確率のドロップですよ?1か月必死に魔物を退治しても1つも手に入らないなんて珍しくもありません…今日1つ手に入れるというのはかなりの強運じゃないと不可能です』


ミミリー

『そんなに難しいんですか…』


リリディは頷く

すると彼の感知に魔物の気配が現れた

彼が森の奥を見つめると、カインたちはリリディの背後に隠れる

ギルハルドがリリディの顔を見つめ、指示を待っていることに彼が気づくと『待て』と待機させた


カイン

『気配…』


リリディ

『気配感知が高ければ便利ですよ。気が強ければ敵わないと判断して早めに逃げれますからね…ですが今回の魔物は…』


リリディは話しながら暗闇で染まる森の奥に顔を向け、話し続ける


『太陽がなければ夜の森はアンデットの住処、しかも日中の魔物と違って集団行動がお好きなんですよ?あなた方は死にに来たようなもんです、ちゃんとした知識は生きるためにある。知らずに来たのでしょう?』


3人は何度も首を縦に振る

現れたのはゾンビナイト4体にグールが1体

そのおぞましい姿にミミリーは顔を真っ青にし、震えていた

ランダーとカインは無謀にも短剣を構え、足をガクガクさせながらも戦う意思を見せるが

どうみてもそれは惰性だとリリディは感じた


(勢いだけじゃ魔物は倒せない。冷静さが力)


そう感じながら、彼はギルハルドに『天誅』と言い放つ


『ニャン』


学生3人は驚愕を浮かべた

返事をしたギルハルドがその場で一瞬で消えたのだから

僅かな砂煙、そして残像を残してだ


次の瞬間、森の奥からノソノソと近づいてくる魔物に異変が起きる


『アッ…』


『カカフ!?』


見えない何かに引き裂かれていき、どんどん倒れていくのだ

その光景を口を開けて見ている3人に、リリディは口を開いた


『アンデットは灯りに近づいてくる、夜は普通の冒険者でも近寄ることはないんですよ…』


カイン

『なにが起きてるんですか…』


『僕のパートナーが雑魚を倒してます』


アンデット系の魔物は直ぐに全滅

そこで丁度いい事が起きる

発光した魔石が2つ現れたのだ


学生3人は驚きながら近づこうとするが、リリディはそれを止めた


『死にたいんですか?』


ランダー

『ですが魔物は…』


カイン

『1体生きてる…』


リリディは『正解』と言いながら気配が残る倒れていたゾンビナイトに近づくとガッと上体を起こしてきたのだ

それに驚く学生3人は声を上げながら再び尻もちをついた


『さよなら』


リリディはそう言いながら頭をスタッフでカチ割って倒す

背後で座り込む3人を見て苦笑いを浮かべながらも発光する魔石2つを調べると、斬撃強化にドレインタッチという便利なアビリティースキルと技スキル


『ギルハルド、今回は許してほしい。帰ったら美味しい夜食を約束します』


『ニャンニャー!』


リリディは撫でながらギルハルドに口を開き、頭を撫でた

喜ぶパートナーに意思が通じたと感じ、彼は発光した魔石をランダーとミミリーに順番に投げ渡す


ミミリー

『え!?』


ランバー

『これって!』


リリディは彼らの武器を見て一先ずといった判断をした

カインは魔法使い志望、武器は短剣だが昨日に気配感知を渡し、レベル2

ミミリーも短剣だが片手剣や双剣を目指すとなる場合を考えて斬撃強化スキル

そしてランバーは短めの鉄鞭、今は筋力不足だとしても鉄弁を振る体力は必要だと予測し、敵の体力を奪うドレインタッチが必要だと感じた


リリディ

『これを与えますので森には二度と行かないでください、約束を守れぬ場合…没収です』


答えは直ぐに出た

ランバーとミミリーは直ぐに魔石のスキルを吸収したのだ

その間、リリディはカインに知識を与えた

魔物が魔物を倒せば人が倒すよりもドロップ率は飛躍的に上がる、そのスキルの力を吸収して魔物は進化し、ランクを上げるのだと


あとは魔物にも条件のある倒し方をすれば確定ドロップするスキルはあるが、かなりの危険が伴う事もだ


リリディの話をカインは真剣に聞いた

そして最後にカインに向けて、リリディは言い放つ


『慌てたらそこで死にますよ?敵を倒しても魔石が出てくるまで絶対に近づいたらいけません』


カイン

『わかりました』


『君はアビリティースキルのみですが。魔法スキルは今は我慢してください…それを持つ魔物は君にはまだ倒せない…そこの2人がある程度マシなスキルを手に入れ、協力して倒さないといけない魔物なんですから』


カイン

『エレメンタル種ですか』


『ご名答、魔法使いってなるまでは本当に大変なんです…そこは理解してほしい』


カインは静かに頷いた

今度こそ理解してくれたと感じたリリディはホッとし、魔石の光を吸収し終えた他の2人に顔を向けると満足そうな顔をしていることに気づく


リリディ

『普通ならばこの場で魔石は出ません、ギルハルドにお礼を言ってほしいですね』


ミミリー

『ありがとうギルハルド君!』


ランバー

『ありがとうございます!』


『ニャハハーン!』


ギルハルドは毛繕いしながら鳴いた

リリディは『出ますよ』と告げて彼らを連れて街に戻った

終始、ミミリーとランダーは嬉しそうな顔を浮かべている

欲しかったものを誕生日に貰ったかのような感じにだ


施錠されてない防壁のドアから街に戻り、裏通りから表通りに出た

そこで3人は安堵を浮かべて溜息を漏らす


(無駄に気を張っていたんですかね)


リリディ

『次は助けません。僕にもやるべきことがあるので』


カイン

『あの、魔法使いですよね?』


リリディ

『僕は魔法使いですが…』


ランダー

『名前何なんです?』


リリディは『大賢者になる男』と言うだけだった

微妙な顔を浮かべる彼らを見て苦笑いを浮かべるリリディはカインの肩を軽く叩き『また会いましょう』と告げてその場を去った


3人は首を傾げたが、ミミリーは『ありがとうございました』と律儀にお礼を言う

リリディは振り返らず、軽く手を上げて反応を示してから自身の家に戻るのだった


ギルハルドと颯爽に街中を歩いて家に向かうリリディ

明後日が楽しみであり、明日はもっと楽しみであった

楽しみが増える一方、住宅街までもう少しという所で彼は背後から呼び止められる


『誰ですか?』


振り返ると、それは普通の一般人にしか見えない服装の男が2人

しかし、見た目だけだと直ぐにわかった

彼でも目を見ればわかるのだ。40代くらいの男であり、顔には古い切傷がついている者が1人いる


こんな知り合いは知らない、そう思いながらも首を傾げていると、男2人は彼に向かってとあることを口にしたのだ


『リスタルト家のリリディ君か?』


リリディ

『そうですが、僕は貴方がたを知りません』


『俺達は知っている。我らは魔法騎士1番隊だ』


リリディ

『!?』



『敵じゃない、身構えるな英雄の孫よ』


彼はその言い方に違和感を感じた

まさかと思い、口を開く前に私服の魔法騎士が話し始めたのだ


『ハイムヴェルトさんが去ってから、魔法騎士はズタボロだ…まだあの方を慕っていたものは多く残っているが…』


リリディ

『ロットスターが嫌いなんですね』


男たちはそのことに対し、答えなかった

何故会いに来た?とリリディは考えていると、男2人は彼に背を向け、歩き去りながら最後に言い放ったのだ


『待っているぞ。』



リリディは。その言葉の意味に気づかない振りをし、去っていく彼らの背に軽く会釈をして家に歩き出した




 




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