第147話 先生、リゲル君とシグレ君はどっち強いんですか?
シグレさんは不気味な笑みを浮かべたが、振り返る時には普通に笑顔に戻っていた
さっきの悪魔は隠れたんだ…何を企む?シグレさん
リリディ
『これは…』
『シャー!』
ギルハルドも落ち着きがない
何かを感じたのか、てか獣じゃなくても感じる
それは周りの冒険者もそうだよ
何も起きない訳がない
リゲルはバツの悪い顔を浮かべ、溜め息を漏らすと彼のもとにシグレさんが静かに歩み寄っていく
息を飲む光景にグリンピア冒険者ギルドは静まり返る
クワイエットさんはリゲルより数歩、後ろに下がると同時にシグレさんが階段下にいる彼らの元に辿り着く
以前、俺達だけじゃなく冒険者である誰もが1度は考えたであろう話の内容があった
どっちが強い?
リゲルとシグレさんは明らかに食う側の人間
正当な暴力と乱暴な暴力という言葉の意味がかけ離れた二人がぶつかるとどうなるのか、興味があったのだ
それに対して俺も少なからず興味ある
しかしこの場で争う必要性が感じられないため、8割は穏便に済んでほしいと願う
だが……
2割は…
シグレ
『聖騎士をやめたの聞いたよ?冒険者になったんだね』
リゲル
『悪いか猛獣』
クワイエットさん、目を開きながらリゲルを見つめて高速で首を横に振る
人間あんだけ首を横に触れるんだな
シグレ
『挑発的だねぇ、悪い気はしないよ?僕は君に興味あるからさ』
リゲル
『男に好かれるのは勘弁だな、せめて女に好かれた方がマシだ』
そんな会話を受付奥のギルド職員が頭を抱えて見てる
止めに入らないのかなと思ったけど、そうならない理由が目に写る
クローディアさんがニヤニヤしながら奥で傍観してる
あの人、この状況を楽しんでるだろ
アカツキ
『ティア、シグレさん止めない?』
ティア
『大丈夫じゃない?』
リュウグウ
『どこがだ…』
このタイミングで何故抜けた発言がでるっ!ティアさん!?
シグレさんの笑顔は崩れない
まるで楽しんでいるかのようだ
腰に手を置くシグレさんに両腕を組むリゲル
ここは見守るしかないのか…
リゲル
『なんも悪いことしてないぜ?』
シグレ
『それは残念だ。今だけ警備兵を忘れて動きたいって思ったの初めてなのになぁ』
明らかな挑発
それには冒険者達も肩に力が入る
リゲル
『忘れると後悔するぞ?』
リゲルも遠回しの挑発!
俺の肩に力が入り、熱が入る
この空間、きっと普通の人間ならばかなりの居心地の悪さを感じる筈だ
ティア
『店員さん!イチゴみるく!』
彼女は近くで固まる軽食屋の男性店員を捕まえ、飲み物を注文した
妹の声にシグレさんは横目で視線を向け、小さく微笑むと直ぐリゲルに視線を戻した
笑顔のシグレさんの両手は、腰に装着している短い鉄鞭をいつでも掴める態勢
だがこれはどう見てもわざとらしい、見せているようにしか見えない
一触即発としては動く理由はまだ無い
もしかしたらどちらも今以上に発展する事はないと知っていての行動なのだろうか
俺にはわからない
そこで2階の吹き抜けからとあるチームがロビーの静かな様子に気づき、顔を覗かせた
エーデルハイドのクリスハートさんにアネットさんだ
他の人はいないが、何故だろうな
クリスハート
『ちょ!リゲルさん!』
彼女は慌ただしくしながら階段をかけ降りるとアネットさんが追いかけた
それにはリゲルもバツの悪い顔を浮かべる
リゲルとシグレさんの間に見えないバチバチが飛んでると悟ったクリスハートさんは二人の間に割って入るとその場を納めようとしたのだ
クリスハート
『何してるんですか』
リゲル
『ただ話してるだけだ』
アネット
『えぇ…?』
クリスハート
『そう見えません』
リゲル
『何もしねぇよ』
クリスハート
『信用できません。何バチバチしてるんですか…ロビーで喧嘩してもお互い怪我するだけですよ』
互いを労る言葉
彼女にこの場の興味など興味ないのだ
駄目なものは駄目、ザ・正論だ
ここでこの場の雰囲気も静まるかと俺は思った
しかしだ、リゲルはあろうことかクリスハートに対して危なすぎる言葉を言い放ってしまう
リゲル
『俺は怪我しねぇよ』
俺は強い、だから負けない
そう変に解釈しても可笑しくはない
リゲルは胸を張って彼女にそう言ってしまったのだ
他人がその言葉を挑発としか思えていない筈
一番その言葉を拾っちゃいけない人が口を開く
シグレ
『確かにそれはそうかもね。絞め落とせば怪我しないし』
リゲル
『あぁ?絞められるまで呑気に突っ立ってると思うか?』
駄 目 だ こ れ
なんだか謎の大義名分が完成しそう
でもここで助け船がきてしまう
俺の父さんがギルドに姿を現すと、『シグレ、行くぞ!交代の点呼して帰るぞ』と言ったのだ
流石にこれ以上は無理だと悟ったシグレさんは溜め息を漏らし、入口で待つ俺の父さんのもとに歩く
すると彼は後ろ向きでリゲルに手を振って去っていったのだ
ようやく、新鮮な空気が吸える
冒険者達は何度も深呼吸しながら苦笑いを浮かべた
こっちもヒヤリだよ、まったく
リゲル
『あっぶね』
クワイエット
『駄目だよリゲル、あれ相手にしたら』
クリスハート
『男ってなんでそうなんですか…』
リゲル
『何もしてねぇよ、戦う気も無かったしな。まぁあいつの着火点知るためにチキンレースはしたけど』
クリスハート
『相手はシグレさんですよ』
リゲル
『安心しろ、俺の方が強い』
クリスハート
『なんで胸張ってるんですか…』
我が物顔のリゲルだが強がりにはみえない
どっちが強いんだろう…凄い気になるがその結果は見ることが出来なかったよ
クローディア
『くそっ!邪魔ものが入らなかったら…なんでゲイルさんがくるのよ』
受付嬢アンナ
『クローディアさん、見たかったんですか』
何やら受付の後ろでそんな会話が聞こえるけども、聞かなかったことにしよう
ティアのいちごミルクが店員の手によって運ばれてくると、彼女は美味しそうに飲み始める
リュウグウもそれに釣られて注文しているが、彼らは実費だ
俺達みたいに勝手に冒険者資金を使う事はない
アカツキ
『それにしても、森では動き足りなかったな』
《雪で魔物も少なかったしなぁ》
ティアマト
『ケッ!冬は嫌いだ…』
ティア
『たまにはこんな日もないと疲れちゃうよ?ティアマト君は万全な時に大きく暴れてほしいし!』
ティアマト
『そういわれると確かに適度に動いて全力で暴れる日は必要だな』
たまにはいいか
俺達はリゲル達から意識を外し、そんな会話をしていたのだがリゲルが近くを通る時にその会話を耳にしたらしく俺の背後から頭を掴んでニヤニヤしながらとあることを口にしたのだ
それには仲間たちも驚くが、自身に被害がこないことを良い事にリリディやティアマトが見てみたいと言い出したのだ
こうして訪れたのはあまり使われないグリンピア冒険者ギルドの受付脇から奥の廊下の先にある施設
そこは最近は使われていない安易闘技場、稽古場なのだが小さい闘技場にしか見えない
円状のフィールドの外側は壁、その上に3列の観客席だ
50m四方と案外広く、ギルドの建物の奥行が深いのはこの部屋があるせいだろう
《お前にとっては必要な機会だ》
フィールドには俺とリゲル、あいつは奥の方に歩いていくと体操し始める
何を今からするか?ここまでくれば答えは1つしかない
何故か俺はリゲルと実践稽古をする羽目になったんだよ
身内ばかりの冒険者が殆どだし、野次馬のようにそいつらが客席に少しずつ集まってきている
《いいか?ステータスじゃあいつが上、同じだとしてもあいつが上、わかるな?》
『わかってる』
俺は静かに囁く
客席でティアの応援する子tが聞こえる
士気が格段と上がっていくのだが、相手が誰なのか考えると僅かにそれが低下していく
この時点で俺は結果を出している。それは駄目な事だと知っていてもそう感じてしまう
悔しいけどリゲルは強い
リゲル
『こっちも動き足りねぇんだ。少しは持ちこたえろや』
彼は体操を終えると、剣を抜いて肩に担ぐ
構えではないのが少し悔しいけども、何も言えん
ギルド職員が2人ほど客席で監視しているけども、予期せぬ出来事が起きないようにって理由だろう
互いに真剣だが、寸止めしてやるよとリゲルが言ったんだ
これで以前ボコボコにやられたからな
今度は少し抵抗できると思う
アカツキ
『構えないのか?』
リゲル
『構えてるぞ?剣は片手で使ってやるからお前は両手で刀でも握っとけ』
両手なら問題ない、何もそこまで加減をしなくてもなんて思ったりしている俺がいる
まぁしかし、俺は構える
両手で刀を握り、いつでも動ける準備はできた
開始の合図はない。俺が出るかあいつが出るかだ
しかしリゲルは俺の構え方を見ると、しかめっ面を浮かべながら言い放った
『だからお前は駄目なんだ』
何故?と疑問を浮かべた瞬間に10m先にいたリゲルが消えたかのように目の前に現れた
本当に速い、しかし俺は見える
無表情のまま、奴が剣を振り下ろしてくると俺は刀でそれを受け止めた
つもりだった
『っ!?』
甲高い金属音が鳴り響くと、俺はそのまま押し込まれて地面に叩きつけられた
口から一気に酸素が出てくる感覚、なんだか慣れてきたなこの状況
リゲルは飛び退き、首を回して少し骨を鳴らすと口を開く
『武器は軽く持つ、普通だ…筋肉は力を入れる瞬間が一番強い。立て』
俺は立ち上がる
しかしその瞬間に突っ込んできた
今度は横に薙ぎ払うかのような振り方
刀でガードしようと振られるであろう剣の軌道上で身構えた
そこで彼の手元を見ると、俺は驚く
『!?』
今にも手を離しそうなくらいに軽く握っているだけだ
そんな戦い方は嘗めているのではないかと思ったのだが、そうではないことを俺は叩きこまれる
一瞬でその緩い彼の手、瞬時に力が入る
それと同時にもの凄い勢いでリゲルは剣を振って刀を弾いたのだ
両手で持っていたのに、刀を握ったまま腕が上に上がってしまう
そこまで差があるのか…
力の入れ方だけでそこまで変わるのか…
『基本だ』
リゲルはそう呟くと、もう片方の手で隠し持っていた小石を親指で弾いて俺の顔に飛ばしてくる
顔を逸らして避け、更には彼の回し蹴りをしゃがんで避けた
これはチャンスでは?と思い、懐に潜り込む
でも上手くいきすぎているのが不気味過ぎる
こんな簡単に間合いに入れてくれる男か?いや絶対違う
リゲル
『ば~か』
くそ!
俺はその場から全力で飛び退くと同時にリゲルは軸足をブラすことなく更に回転して剣を振ったのだ
2回転目の方が速かったぞ。
ギリギリ回避成功、しかしドッと汗が流れる
《あと少し遅れてればアウトだったな》
『そうだが…くっ!』
リゲル
『会話してる暇なんてねぇぞ』
彼は間合いを止めてくると何度も攻撃を仕掛けてくる
俺のガードは間に合うが、全てが重くて弾かれてしまっていた
剣を振ろうとするリゲルの動くは遅く、振った時に瞬間的にもの凄く早い
俺の動体視力でもギリギリな速度に何度も驚きながらも言われたことを実践しようと機会を伺う
だがしかし、急に出来るはずがない
少しでも手を緩めれば剣を弾かれて離しそうだ
持っている時は手を緩く、振る瞬間に一気に力を入れる…か
こいつの攻撃を受けていても体力が消耗するだけだ
俺は次の剣撃をギリギリで避け、言われたままに遂行してみた
多分その時の俺の顔はダサかっただろうな
ワザとらしく手を緩ませ、振りながら力を入れて刀を薙ぎ払うかのように振る
するとリゲルは『やべっ!』と言いながらそれを受け止めた
鍔迫り合いになったが、片手で踏ん張るリゲルを押し込むことが出来ない
リゲル
『顔は赤点だが攻撃はギリギリ補修無しか、言われて直ぐ出来ると思わなかったがその分評価してやる』
『ぐぬぉぉぉぉぉぉ!』
力を入れて押し込もうとしてみるけども、リゲルは片手で力を精一杯入れて抵抗する
単純な押し合いとなると両腕と片腕の差が出たのか、彼は足を広げつつこれ以上押されないように踏ん張る
『チッ!』
リゲルは刀を弾き、飛び退くが俺は逃がす気はない
『光速斬』
技スキルを使うなとは言っていない!筈!
俺は素早く目の前に詰め寄ると肩の力を抜いた状態で剣を切り上げた
足にも力を入れ、地面を押すようにして下半身の力を腕に伝えるようにだ
『調子に…』
彼は小声で囁きながら体を横にして攻撃を避けると俺の腕を掴み、投げ飛ばす
大外刈りという投げ技がある、俺はそれをされてしまい地面に叩きつけられた
フゥ、とリゲルが涼しい顔で俺を見下ろしているけども、本当に強いなお前
『今のはちっと危なかった、嘘じゃねぇ』
その言葉、ちょっと嬉しいぞ
俺は立ち上がってから砂をほろッているとリゲルは剣を担いで話しかけてくる
『宝の持ち腐れってわかるか?いい能力持っていても使い方を知らないと意味がない』
『…俺のステータスはまだ出せるという事か』
『十分に出しきれてねぇからな。刀を振る時もスピード強化は働くのを知ってるか?』
『初耳だ』
『武器の使い方教えたろ?スピード強化はその方法に拍車をかけるからお前のステータスが高ければ片手の俺の剣を弾くことは出来る。練習しとけ…俺は隊長に毎日素振り300回してからじゃないと夜食は食わせないとかパワハラ受けてここまで強くなったからな』
なにがパワハラだよ
ルドラはリゲルの強さの土台を作ったのはわかる
だけどもここまで強くするとは驚きだ、ということは本気のルドラはもっと強いのか
口を開くリゲルは愚痴をこぼすように言うけども、顔は僅かに笑っていた
剣を眺ると、俺に視線を向けてワザと首を傾げて見せる
『俺もそれをやるのか』
『先ずは100回だ。帰ったら飯食う前にしとけ…さっき教えた振り方だぞ?力を入れたまま振る奴なんざ避けてりゃ勝手に疲れていくから倒すのも面白い、C以下なんざそんな奴らが多い、振る時に息を止めて腹筋に力を入れるタイミングも覚えればなおグッドだ』
彼は俺に視線を向けて言うのではなく、周りを眺めながらそう告げたのだ
まるでこの場にいる者全ての言っているようにも思える
ルーミア
『あっ!やってる!』
アネット
『面白いイベントだよ!見ないと損しちゃう』
シエラ
『リゲルさんの苛めイベント』
エーデルハイド…今来たんですかぁ
でもそれの方が嬉しい
負けまくりだったしな
3人の後すぐにクリスハートさんが姿を現すと、席に座りながら困惑した様子を見せてシエラさんに口を開いた
『終わったの、でしょうか』
『クリスハートちゃん、多分今から』
それはない
リゲルは言うこと言ってきっと満足している
俺は苦笑いを浮かべたまま、ティアに顔を向けてみると彼女は『次勝てるよっ』と俺の心をケアしてくれる言葉をかけてくれる
肉体的の回復よりも彼女の一声の方が俺には特効薬だ
《あ…》
テラ・トーヴァから抜けた声
俺はどうしたのか聞こうとした時にフィールド内がなにやら不穏な空気になったと気づく
体中をピリッとした感覚、これはまさかと祈りながらリゲルに顔を向けると
彼は今日初めて俺の前で剣を両手で握り、姿勢を低くしたのだ
その目は凍てついており、口元は笑み
リゲル
『最後に差を見せてやるよ』
な ぜ 今 本 気 に な っ た
何で?!何で終わる雰囲気だったのにやる気出したんだ!
『行くぞ、剣を振り落とす』
リゲルの口から予告が飛ぶ
俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、身構えた
一瞬で目の前に到達したリゲルの背後は砂ぼこりが舞う
当たり前だ!さっきよりもスピードが速い!
そして今から振り下ろすその剣の攻撃威力もきっと
『くそ!』
俺は全力でその場から横に飛んで避けた
その攻撃は止める気が全く感じられない全力の一撃であり
地面に大きく傷跡を残す
直ぐにリゲルは俺の飛び込んだ方向に駆け出し、剣を突いてくる
顔を逸らして避け、刀を振るとそれを剣を受け止めてから弾く
その力は凄まじくて痺れを感じさせるほどだ
蹴りが来る、俺は体を横にして避けるとリゲルはそのまま剣を横に振ってくるから大袈裟に飛び退いた
追撃してこない、彼は距離を取る俺を見て小さく溜息を漏らしていた
リゲル
『避ける事に関してはお前は上出来だ。だがそれを続けるとどうなるかわかるか』
アカツキ
『そりゃ疲れる』
リゲル
『僅かな回避で活路を見出せないと、それは詰みだ…あと俺の一撃は受け止めれば終わるぞ』
言われなくてもわかってる
全ての一撃がトドメと言わんばかりのパワーがるのが馬鹿の俺でも理解できるさ
まるでティアマトが神速を得たかのような男だ
そう考えると、そうとう厄介な男だな
僅かな時間で俺は息が上がる
リゲルは未だに体力が存分の残っているらしく、目を細めたままその場で振って直ぐに駆け出した
『真空斬!』
デカい!そして速い
その剣の斬撃が俺に飛んでくると、あろうことかリゲルは追従してきたのだ
これを避けてもリゲルはきっと対応してくると思うと気が重い
あえて俺は負けるくらいならば少しでも意地を見せようと考え、勇気を出して飛び出す
『っ!?』
僅かにあいつが目を開いた
しかしその反応は直ぐに凍てついた顔に戻る
『ぬぉぉぉぉぉ!!』
身を極限まで低くして突っ込み、真空斬をやり過ごしてリゲルとの距離が一瞬で詰まると、俺は力を抜いていた両手に力を一気に入れながら刀を振る
歯を食いしばり、地面で足を蹴って大袈裟に息を止めてだ
肩にも無駄な力が入っているだろうが気にしない
『おらぁぁぁぁぁぁ!』
大声を出して振った刀はリゲルの放つ言葉によって雲行きが怪しくなる
不気味な笑みを浮かべて奴は言ったんだ。『じゃあな!』ってな
武器が壊れるんじゃないかと思うくらいの金属音、互いの武器がぶつかると俺は後方に勢いよく吹き飛んだ
完全なる打ち負け
リゲルは直ぐに俺に駆け出し、剣を片手に持ち替えて追い打ちを狙う
吹き飛ぶ俺の背後に壁が迫る、これはイチかバチかだ
『ぶっ!』
壁に背中を強く打ち、苦痛を堪えながらも目の前に迫るリゲルの剣の突きが顔を狙っていると気づき、俺は顔を大きく横にずらして間一髪突き刺されなくて済んだ
しかし完全ではない、頬が切れている
剣を片手に持っていたリゲルはきっと避けられるとわかっていたのだろうと思える光景が俺の視線の下部に見える
彼のお得意の小道具、投擲用ナイフを俺の首元に突き立てていたのだ
リゲル
『わかったか?』
アカツキ
『俺はわかっていたけども、お前はどうだ?』
俺の言葉に彼は釈然としない様子を見せてから直ぐに俺の言葉の意味に気づく
こっちだってタダでやられてたまるかってんだ!
ティアと共にシグレさんの誕生日プレゼントを買いに行ったときに俺も購入してたんだ
スティンガーって暗器をな
ペンと大差ないサイズの鉄の棒状の武器
ボタンを押すと火薬が破裂し、小さな鉄の鉛球を飛ばす1発限りの代物だ
それを左手で持ち、腰付近でリゲルの股間に向けていたんだ
リゲル
『くっはっはっは!お前も面白くなったなぁ』
彼は首元に突き立てていた投げナイフを引いて腰の後ろにしまい、数歩後ろ歩きで下がってから剣を鞘に納めて腕を組む
もう襲ってくる様子はないようだが
アカツキ
『流石に男の急所だろ?』
リゲル
『馬鹿か』
彼は自身の股間をコンコンと叩く
すると何やら堅い音がする、まさか…お前!?
常時…あれなのか?と思っていると違う事を言われた
『お前も買っとけ、股間ガード』
『オトヒメちゃんの鍛冶屋に売ってるあれか』
『知り合いか。なら話は早いな?お前の作戦は合格だ…だが俺には効かねぇよ。スティンガーの1発は防げる』
『ぐぬぬぬぬ!』
完全に隙が無いのか
男の急所はガードして当然だ!と彼は強く自信を持っていると、客席のクワイエットさんが深く頷くのが見てる
『悪いが俺の勝ちだ。お前は無料でいつでも相手してやるよ…ただし生温くはねぇけどな』
彼はそう言うと背を向けて歩いていった
また負けた…か
だが清々しい気分だ、損をした感覚がない
俺は終わったことで疲れがドッと押し寄せ、刀を鞘に納めると壁に背中を預けて深い溜息を漏らす
彼が何故ここまで強いか?当たり前だ、彼は知らずして父であるルドラから誰よりも厳しく訓練をされていたんだからな
《素直じゃねぇなあいつ》
『俺が強くなるために協力してくれるって事だろ』
《ハッキリ言えねぇのはあいつらしいか》
『逆に素直になってたら引くかな』
《わかる》
歩き去るリゲルの背中を眺めながらテラと会話していると、リゲルはふと客席を見上げる
リゲル
『どうだ?強ぇだろ』
クリスハート
『えっ?』
彼女に言い放つリゲルは自慢げに言うと、扉の向こうに行ってしまう
《あいつ…意外と一部の思考が幼い子供のままじゃないか?》
『え?何がだ』
《お前、気づけよ…本気出す気なかったあいつがなんで本気出したかをよ…》
わからんぞテラ・トーヴァ!
安易闘技場のイベントも終わり
俺とリゲルはギルド職員にこっぴどく叱られる事となる
寸止めも糞もない、次は冒険者カードを期間付きで停止するぞ!と
そんな事もあり、俺はロビー内の丸テーブル席で仲間と反省会をしていた
ティア
『アカツキ君は頑張ったよ、あれだけ粘れたんだもん』
リュウグウ
『誘いだしは上手かったぞ、喜べ』
ティアマト
『良かったじゃねぇかアカツキ、骨を切らせて肉を断つって作戦だろ?』
ティア
『ティアマト君それはアウト!逆っ!』
リリディ
『でも奮闘しましたね。流石ですよ』
アカツキ
『あれしか一矢報いる事が出来なかったけども』
《いや上出来だ。勝てないってわかりゃそれなりの戦い方がある》
次はもう少し検討してみたいな
自身のステータスをもっと活かして戦えれば、あいつを本当に驚かす事はできるだろう
『帰ったら素振りだな』
俺はそう告げると、皆が微笑む
そんな中、俺は背後から肩を叩かれた
誰かなと思って振り返ると頬に冷たい何かが当たる
バーグさんがサイダーという飲み物を俺の頬につけて微笑んでいたのだ
彼はそのサイダーを俺の前に置くと、親指を立てて口を開く
バーグ
『凄かったよ、よくリゲル君を相手に踏ん張ったな!これは奢りだ』
やったぜ
そこにドラゴンさんも登場し、ニコニコと笑顔を見せながら俺の肩を叩く
『あいつ相手によう頑張ったなぁ!』
『負けましたけどね、あはは』
『なぁに気にすんな!人は最初は弱いんだからよ、落ち着いて強くなってけばいいって事よ!それ飲んで頑張りな!』
バーグさんとドラゴンさんは満足したのか、俺達に手を振ると歩き去っていく
サイダーを貰ったし飲んで渇いた体を潤す。
いつもより美味しいと感じる。
ティア
『あれ本気だったよね』
リリディ
『でしょうね』
『ニャハハーン』
ギルハルドはテーブルの下で鳴いてる
今日は天井に張り付かないのか
リュウグウ
『なんだかんだ気にしてるとはな、男は単純だな』
アカツキ
『とういうことだ?』
リュウグウ
『気にするな』
ティア
『気にしない気にしない』
どうやら女性陣はリゲルが本気を出した理由がわかっているような雰囲気だ
答えを聞こうとしても、ティアは『こういうのは言いふらしたら駄目なの』と言って教えてくれない
それにしても体が怠い、鉛のように思い
リゲルとの戦いで多少無理をした動きをしたからだとわかっているけどさ
『ミャハハン』
怠さを感じ、腕を回しているとテーブルの下にいたギルハルドが顔を出してテーブルの上に飛び乗る
とリリディの前でゴロンと転がり、腹を見せる
まるで撫でろと言わんばかりの仕草にリリディはクスリと笑いながら腹を撫でるとギルハルドは口からヨダレを垂らしながらリラックスし始めた
ヒドゥンハルトというBランク予想の猫種の魔物
それは謎に包まれ過ぎて情報は少ない
だが行動を共にしていると驚くことを多々見せてくれる
重力など関係なしに天井に張り付いて寝るし、壁を普通に歩く
4足歩行は勿論だが2足歩行もする
基本的に4足歩行、戦闘に入ると2足歩行の場合が多い
一番驚くといえば収納スキルだろう
ギルハルドは武器を扱う
どこから出すかと言うと、自身の毛の中をまさぐって小刀やクナイそして手裏剣といった小道具までなんでも取り出す
それを見るたびに質量保存の法則の意味を俺は忘れそうになる
リュウグウ
『来月は幻界の森だな』
ティアマト
『てか気まずそうじゃね?リゲルとクワイエットの野郎』
アカツキ
『確かにそうだな…。どうなるんだ』
当初の予定では行く人間は決まっていた
イディオットに俺の父さん
ロイヤルフラッシュ聖騎士と聖騎士1番隊全員だ
本当は聖騎士1番隊を含むロイヤルフラッシュ聖騎士長に生前のエルデヴァルト国王からの勅命で『幻界の森に残るスキルの情報を探してくる』が目的
しかしそれは昔にジェスタードさんがあったと嘘をついたことにより、王族はあると信じている
ゼファー王子に王位が変わるらしいが、中止の知らせがないとなるとこの指示は継続中だ
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は無いと知っていても、その森の魔物が持つスキルが欲しいから俺達を連れていきたいって感じ
双方ともに目的はスキルの情報じゃない、スキルゲットだ
ティア
『お兄ちゃんも行きたそうだった』
リリディ
『多いと駄目だって言われてますからね』
アカツキ
『何の魔物がいるのか聞いておきたいな』
そんな会話をし始めると、タイミングよく話しやすい人が唐突に俺達のいる丸テーブル席に座った
クワイエットさんだ
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