第232話 11 エルベルト山
クリスハートをリゲルの肩を借り、穴の中を進む
直ぐに道は広くなり、自然に出来た洞窟のような景色となる
発光石が数多く壁から顔を出している為に視界は十分に確保できている
魔物の気配もなく、2人は辺りを警戒しながら進むが道がゴツゴツしていて何度も足を取られそうになってしまう
天井からはいくつもの巨大な氷柱から水滴が地面に落ち、音が洞窟に響き渡る
リゲル
(カーズールいたら流石に不味いな)
クリスハート
『あの、右腕は…』
リゲル
『ビビりながら安静にしてたが、万全だ』
クリスハート
『そうなんですね。』
リゲル
『無理して右足つくな、俺は意外に平気だ』
リゲルはそう告げると、奥に見える椅子に使えそうな岩に彼女を座らせる
懐から彼が取り出したのはテーピングという応急処置用のテープを取り出した
主に関節を補強するために、捻挫をした彼女の歩行の手助けにもなる
別名、動くギブスとも言われることもある便利なテープともいえよう
リゲルは手足を怪我したらどう巻くかを熟知している
抵抗する彼女の靴を勝手に脱がせ、直ぐ近くの湧き水でハンカチを濡らすと足首を拭いてからテーピングを巻いて応急処置をし始めた
終わるまでクリスハートは顔を赤くしているが、リゲルはいたって真剣だ
『終わった。少しきつく巻いたが関節代わりになってくれる、キネシオテープがあれば完璧だったが…転がった時にどっかに飛んでったようだ』
キネシオテープは伸び縮みする伸縮性ある茶色いテープ
それは血管の流れを良くする働きを持つテープだ
リゲルは靴下と靴を彼女に履かせ、自分の腰に装着していた水筒を彼女に渡す
『お前のは俺のキネシオテープと遊びに行ったようだ。もう帰ってこない』
苦笑いを浮かべるリゲルは溜息を漏らし、彼女の隣に住む
『…くふっ』
すると彼女はクスリと笑うと、平然とリゲルの水筒の中の水を飲む
飲んでから彼女は気づいたが、僅かに顔をするのみ
彼女がリゲルに水筒を渡すと、今度は彼が水を飲んだ
クリスハート
(なんで平気なんだろう)
彼女にはそう思える余裕がある
リゲルは水筒を腰に装着し直すと、上を見上げる
普通の蝙蝠が数多くぶら下がっているからだが、人間に害はない種だ
主に果物を食べる種だと知ると彼は洞窟の向こうに視線を向ける
リゲル
『正解に近いかもな』
クリスハート
『風が…』
リゲル
『正解ならば奥に進めば生暖かくなってくる、火口付近に行ったことは無いがな』
クリスハート
『クワイエットさんたちはどうしてるでしょうか』
リゲル
『あいつならアネット達を進ませる。互いに別れた場合は目的地にそれぞれで進むしかない』
彼はそう告げるとクリスハートに肩を貸して進む
魔物の気配はまだなく、彼らは魔物などここにいないのだろうかと思い始めた
しかし、そこまで都合よく進めるはずもない
『っ…』
リゲルの顔が険しくなるのを彼女が気づくと、息を飲みこむ
『1体か』
彼は呟きながら近くの岩陰にクリスハートと隠れ潜んだ
洞窟の向こうから現れたのはブラッククズリ、しかも全長2メートル半と他の個体よりも大きい
口には既に息絶えた小さな鹿を咥えており、これから食事の為に移動していると見える
リゲルは完全に警戒をしていない状態のブラッククズリが近くを通った瞬間に飛び出し、振り向いてきたと同時に顔面を突き刺して仕留めた
魔石がブラッククズリの体から出てくるがリゲルは見向きもせずに小鹿を奪い取ると腰に装着したナイフで革を剥ぎ、その場で肉を斬り落としていく
クリスハートは何をしているのか彼に聞くが、『食料調達』と言いながら笑みを浮かべる
『可哀そうだが小鹿は美味い。腹減ってるだろ』
『私は大丈…』
言い終わる前に彼女のお腹が鳴る
リゲルはプルプルと震えながら顔を赤くするクリスハートを暫く眺めると、鼻で笑って肉を切り分けた
今度は熱魔石を取り出すと、それを地面に置いてから魔力を注ぎ込む
熱を発する魔石に近くに転がる石を綺麗に積み上げ、平たい石を置いてから数分すると彼は細かく切り分けた肉を石の上に置く
すると肉から湯気が出たのだ
石は熱されており、次第に焼ける音が響き渡る
匂いが彼女の鼻につくと、可哀そうだという小鹿に対する感情をお礼に変え、その場に座る
リゲル
『生物はよ、みんな生きるために何かを犠牲に生きながらえている…原罪って言葉あるだろ』
クリスハート
『人は生まれながらに罪・・・みたいなこと書いている変な本ですよね』
リゲル
『変いうな?書いてある事は真っ当だぞ?生きてりゃ人間だって誰かに迷惑かけんだ…、迷惑かけながら生きてますごめんなさいって気持ちが大事って書いてるのは俺でもまぁ納得したぞ』
クリスハート
『確かに人は1人では生きていけないですから。意味としては真っ当ですね』
リゲル
『騙されたと思って今度読んでみな。おい焼けたぞ…』
彼は剣先に肉をかけて彼女の前に出す
(…美味しそう)
彼女のその考えは間違っていた
少し熱を冷ましてから肉を食べると、とてつもなく美味しかったのだ
小鹿の柔らかい肉が不味い筈がないのだ
死んで間もない小鹿の肉、だからリゲルは食べれるとわかったのだ
『タレが無くても…美味しい』
『だろ、今のうちに食っとけ。女だからって小食アピールでもしたら襲うぞコラ』
『破廉恥な』
『まぁ実際美味いだろ?美味いと希望も持てる』
あながち間違いじゃない
彼女はそう思いながらも彼と共に肉をどんどん焼いて食べていく
食べきれなかった肉は近くで息絶えたブラッククズリの口の近くに置く
弔いの意味での貢ぎ物だ
リゲル
『悪ぃな、俺達も生きるためにお前の餌を奪うしかなかった』
彼はそう告げると、彼女に肩を貸して歩き出す
赤い湧水が出ている近くを通るとリゲルはそのまま飲めることを確認して2人で飲む
非常に冷たく、喉を十分に潤すとリゲルは大きく息を吐いて心地よさを顔に見せた
クリスハート
『飲めそうな色に見えなかったのですが…』
リゲル
『食紅に使われる花匂いに水の赤さ、まぁそこら中に赤いつぼみの花があるだろう』
クリスハート
『確かに沢山生えてますね』
リゲル
『根から分泌される赤い液が湧水に浸透してんだよ。無毒だ…こんなん知らなきゃ毒水にしか見えねぇだろうよ』
クリスハート
『凄いですね…』
リゲル
『いつもルドラさんに森に置き去りにされてたからな、1週間サバイバルで生き残れとかされてた』
クリスハートは思った
愛する息子を殺す気で育てていたのか、と
溜息と同時に頭を抱える彼女は(考えるのはやめよう)と諦めた
進むこと1時間、更に中は寒さを増す
体が震えるほどの冷気であり、吐息は白い
黒いローブをしていなければこれ以上に寒さに2人は苦しんでいただろう
そして先ほどの小鹿の毛皮、ある程度羽織れるようにナイフで付着している肉を取り除きていたのだ
毛皮の方を肌にすれば暖かいが、小鹿の為に小さい
リゲルはクリスハートにローブの中でタオルケットみたいに肩で羽織れ、といって着せていた
彼女はそれによっていくらか洞窟内の寒さが平気であった
『リゲルさんは大丈夫ですか?』
『俺は心配すんな、てか両肩に羽織るだけでもマシだろ?』
『リゲルさんは山でも不自由なく暮らせそうですね』
『山ならな、だがここは洞窟だ…焚火が無理な時点で俺のサバイバル能力は死んでる。自力で火を起こせる湿度じゃねぇ』
湿度が高すぎて火が起こせないのはサバイバルとして致命的なのだ
体温の確保が出来ない事は死を意味する
こうしてしばらく進み、4つの分かれ道に出くわす
どの方向からも風が吹いており、2人は悩んだ
しかし、リゲルは思いがけない方法でそれを解決する
剣先を地面につけ『どーこだ』と口にして手を離したのだ
倒れた先の道、彼はそっちに行こうというと、彼女は彼を遠い目で見つめた
天井から伸びる氷柱が無くなり、次第に奥からは冷たくない風が吹く
兆しが良いと感じ始めた2人だが、妙な事に気づき始めた
後ろから唸り声が微かに聞こえるからだ
風による錯覚かと一瞬思ってしまうが、それにしてはリアルなのだ
リゲル
『…なんだと思う?』
クリスハート
『この道幅ならば大きめの魔物も十分に通れますが…』
リゲル
『唸り声を察するに全長3メートルってとこか、山にいる鎧熊っぽい乾いた唸り声だな』
ランクBの鎧熊、灰色の体毛は非常に硬く、背中から僅かに鋭い角が生えている熊だ
爪は長くは無いが鋭く、それよりも質が悪いのは頭部から生える渦巻き状の角である
そこには魔力が蓄えられており、なんと魔法スキルを放つことが出来るのだ
クリスハート
『行きましょう』
進んでも進んでも唸り声は響き渡り、ましてや近くなっていく
多少の焦りを覚えたリゲルだが、そこで彼らは絶望を目にしてしまう
目の前は崖であり、下には地下水がもの凄い速さで流れていたのだ
向こう岸まで10メートル以上、クリスハートの状態を見ると飛び越えるのは無理に等しい
リゲル
『何かを考える時間が欲しいが、それは面倒な獣を退治してからか』
クリスハート
『すいません、私が足を汚してなかったら』
リゲル
『気にすんな、俺は楽しんでる』
彼はニヘラと笑うと、彼女の頭を軽く叩いてからその場に座らせ、自身は来た道に体を向けた
剣を肩に担ぎ、首を回して骨を鳴らす彼の気配感知にその魔物の気配が入る
(強めか…面白ぇ)
不気味な笑みを浮かべ、待ち構える彼の前に現れたのは鎧熊ではなく、鬼パンダというBランクの熊だ
全長3メートル、口からよだれをダラダラと垂らし、白い目はリゲルに向く
大きな牙を剥き出しに上体を持ち上げ、手を左右に広げた鬼パンダは咆哮を上げると顔を怒りで染めた
相手にとって不足はない
『パァァァ!』
変わった鳴き声を上げ、それはリゲルに走り出す
彼は静かに歩き出すと、深呼吸をする
『残念だな熊公』
低い声で言い放った彼は右手に握る剣に魔力を流し込む
『完治した俺に歯向かうか?まぁそれはいいが…』
鬼パンダの鋭い爪が彼を襲う
しかし当たる寸前でリゲルは一瞬でその場から鬼パンダの腹の下にスライディングしながら剣を振る
『両断一文字』
熊の肉質でこの技スキルを耐えるのは無理である
リゲルはBランクだからこそ一瞬で終わらせる事を選んだ
長期戦では不利だからだ
そして彼は幻界の生還者であり、強くなっている
『パフッ』
顔面から地面に倒れ、その大きな巨体は僅かに地面を滑る
立ち上がるリゲルは膝をほろうと、鬼パンダの魔石を拾って口を開く
『今の俺は強ぇぞ熊公、いつもよりな』
こうして彼はクリスハートのもとに急ぐと、上機嫌なまま彼女を立ち上がらせた
『うっし、終わったぜ』
(一撃ですか…しかし)
強い、ただそれだけしか浮かばない
ある程度の苦戦は強いられると彼女は予想していたが、リゲルは一瞬だけ本気を出して仕留めたのだ
自分は出来るのだろうかと考えていると、リゲルは『どうした?』と話し掛けた
『驚いて言葉忘れちゃいました』
『だろ』
彼は剣を鞘に納める
崖から向こう岸を眺めても、やはり跳べる気はしない
からくりがあるわけもなく、二人は険しい顔を浮かべた
『どうします?このままでは』
『…』
リゲルはクリスハートの声が聞こえていなかった
下に落ちれば二度と陸に上げれることは無い激流、そしてその流れは奥の穴に流れている
確実に溺れ死ぬことは明白だった
彼はどうすべきかを考えていると、奥に見える壁に丸いスイッチの様なものが見えた
押したらどうなるんだろうかと思いながらも足元に転がる石を投げ、見事1発でスイッチに当てて押した
すると向こう岸から床が現れ、それはリゲル達の方に伸びてきたのだ
意地悪な仕掛けに彼は溜息を漏らし、彼女に肩を貸す
『行こうぜ』
『はい』
幅2メートルの床を歩き、向こう岸に辿り着いた2人は広くなっていく道をつねに見回しながら進む
次第に気温は上がっていき、行くべき場所に近づいていることに気づく
クリスハートは歩きながら怪我した右足首を気にする
テーピングという治療を初めて施された為、違和感が少し慣れなかったのだ
だが痛みは殆どない、足に体重をそれなりに乗せてもあまり痛みがないが、あまり乗せるなと言われているから彼女は足をかばうように歩く
(色々出来るんだ…)
テーピング療法という体験よりも彼女はその際に足を色々触られたことを思い出す
少し恥ずかしい気持ちとなるが、色々思い出すと全てが新鮮だった
ここまでされても嫌な気分がしない、それはリゲル自身から感じるのが彼女に嫌な下心ではないからだ
ふと抱きしめられ、自分から近づいて胸元に頭を預けたことを思い出してしまい
頭から湯気を出しそうになる
何故あんなことをしてしまったのか、彼女は答えを知っていた
『ルシエラ、足は大丈夫か』
『大丈夫です…その、すいません』
『どうした?』
『私が叫ばなければこうなることもなかったのに』
『あれは仕方ねぇ、条件反射に抵抗するなんざ人には不可能に近い』
『そうですか』
『それよりも少しずつ熱くなってきたぞ』
『そうですね、あっ!』
足を庇って歩くクリスハートは足を取られたが、リゲルが直ぐに支えて起こす
『頑張れ、もう少しだ』と彼女に口を開く
心地よかった気温が直ぐに生暖かくなり、出会う魔物と倒して進んでいくといつの間にか初夏といわんばかりの気温に変わっていく
熱さでフードを脱ぐとクリスハートが2着を腕に持ち、熱い道を進んでいく
次第にその暑さは皮膚をも脱ぎたくなるほど
リゲルは進むペースを遅くしながらこまめに休憩を取った
『防具脱ぎたいですね』
『肌を晒せばその分水分が跳ぶ、我慢しろ』
『水も生暖かい』
『我儘言うな、俺も冷たいのが飲みたい』
『リゲルさん…水…』
『もうない』
『ふぇ…』
どちらも喉が渇いている、先ほど2人で分けて飲んだのが最後だったのだ
頬を膨らます彼女にリゲルは少し笑みを浮かべる
まだ2人には余裕がこの時見えていた
しかし、洞窟を抜けた先でそれは直ぐに消し飛んでしまったのだ
洞窟の入口が見えてくると2人はようやく外だと思って歩く速度を早める
ようやく外、しかし彼らの視界には見たこともない光景が広がっていた
広大な広さを誇る空間、周りは絶壁で囲まれており、地面に至る所からは僅かに溶岩が噴き出している
そこは溶岩が固まって出来た地面であり、外に出た彼らに想像を絶する熱が襲い掛かる
異常なまでの熱さで視界はユラユラと揺れており、彼らが辺りを見回すと他にも洞窟の入口らしき穴が数か所ある
『リゲルさん、暑すぎて…』
『我慢しろ、それにここは…』
彼らが目指す火口付近ではない、火口そのものだった
真下は厚さ3メートルの固まった溶岩、その蓋の上に彼らは立っている
『進もう…大丈夫だ。俺がいるから問題はねぇ』
確証もない言葉でもクリスハートは安心をしてしまう
彼が言うなら大丈夫だと心底信頼しているからだ
洞窟から体が全て出した瞬間、2人の予想外な事が起きた
『人なぞいつ振りか…』
2人は素早く背後に振り返る
抜けた穴の上には横穴があり、そこから巨大な生物が寝そべったまま口を開いたのだ
それは誰が見ても龍と答えるだろう
大きく広げた翼は黒から下部につれて金色に染まっており、頭部から異常に長い尻尾は黒
だが2本の角は空に向かって伸び、僅かに金色に発光していた
頭部から生える赤くて長い毛は人間の髪のように伸び、背中から刃のような角が尻尾の根元まで生えている
口を開いただけで2人の体が強張り、戦慄が走る
リゲルとクリスハートは同時にその姿を目で捉えると確信したのだ
あれが帝龍だと
全長30メートル級、Sランクの生物界最強種の龍が静かに体を持ち上げるだけで
2人は圧巻してしまう
(…勝て・・ねぇ)
リゲルでさえも、堂々たる最強の姿に苦笑いを顔に浮かべた
人間か挑むべきではない生物、それが今目の前にいる
溜息を漏らした帝龍は口から僅かに火が漏れ出ると、2人を睨みつけて口を開く
『何用だ!?ここは我の根城!目に見える全てが人間の領域だと思うてか!たわけが!』
全身に体を入れた帝龍は鱗が光り輝きだし、眩い量の魔力を体から一気に放出しながら咆哮を上げた
あまりにも兄弟過ぎる魔力量に魔力が漏れ出てしまったのだ
普通ありえないことが、目の前で起きた事に2人は臆病風に吹かれそうになる
動くだけで精一杯、来ることが間違いだった
普通ならそう思うのが当たり前だ
戦えば完全なる死。ブルーリヴァイアと違い、今2人だけである
帝龍
『我の名は帝龍ブリューナク!私の道楽に付き合って行くが良い!!』
翼を羽ばたかせるだけで帝龍ブリューナクの体から熱が放出され、2人は顔を腕で隠す
その瞬間にブリューナクは地面に降り立ち、翼を広げたまま静かに口を開けていく
話し合う余裕なんてない、彼女はそう思うとリゲルの手をギュッと握りしめた
怖い感情を抑えながらも目だけはブリューナクをひたすら見つめるクリスハート
リゲルは横目で彼女を見つめると、彼だけが前に歩き出す
『先に逃げとけ、俺が時間を稼ぐ』
『そんな…』
『いけ…悪いが嘘をついた。俺じゃこいつに勝てねぇ…まだな』
リゲルは肩を落とし、うな垂れた
ここまでか、と
逆立ちしても到底勝てぬ存在を前に口での説得は不可能に近く、やれることとすれば1つしかない
彼女を逃がすために戦うしかないのだ
『小僧!メスを逃がす気ならば先にそやつと我は遊ぶ事になるぞ?』
(無理か…あのケガじゃ逃げた瞬間に…)
来た2人逃がすわけにいかない、龍はそう告げるとリゲルは顔を持ち上げてブリューナクに視線を向ける
戦わずとも感じる強者の気迫、彼は睨みつけられると僅かに震える体に力を入れた
(迂闊だった…知性ある龍だと思っていたが。浅はかだった)
来なければよかったよ彼は愚かなタイミングで後悔をしていsまう
(勝てるなんて何故思った?俺だけならまだしも…ルシエラやあいつらまで巻き込んでる)
1人ならどれほど楽だったか、自身の軽はずみな誘いでこのような結果になったことに自身を恨んだ
(まだやりたいことあったんだがな…仕方ない。)
だが風前の灯火だとしてもやるべきことは決まっていた
本当に悔いる前に、彼はクリスハートに視線を向ける
彼女は逃げる様子もなく、悲しそうな顔をリゲルに向けて静かに近寄ると、彼を優しく抱きしめて口を開く
『大丈夫、大丈夫だから…傍にいます』
何故そこまで自身にこだわるか。まだ彼はわからない
しかし、リゲルは涙を浮かべる彼女にこだわっていることは自身で認めていた
逃げてくれないならば、どうにかするしかない
リゲルは祈った
今一番死んでほしくない人を死なせたくはないと
『悪ぃ、俺のせいだな』
彼はそう囁くと、彼女の頭を撫でてながら、弱弱しくそして力強く呟いた
『父さん、母さん、俺ぁあんたらに一度もお願いを言ったことはねぇ…だけど今だけはどうか聞いてくれよ…あんたらの息子の最初で最後の頼みだぞ…助けてくれよ、まだ死にたくねぇんだよ』
その声は、彼女の耳にも聞こえた
『俺はどうでもいい、だがせめてルシエラだけでも助けてくれよ…父さん、母さん』
死んでいる親に彼は強く願った
死んでも叶えろ、最初で最後の息子からの一生のお願いだぞと言わんばかりに
藁をもすがる思いとはこの事、彼は神に祈らずに親に祈った
1度深呼吸をし、彼はクリスハートを離して前に出る
目を赤くさせ、そして静かに鞘から剣を抜くと更に深呼吸をしてから剣に魔力を流し込み、彼は口を開く
『なめんな、遊んでやるよ』
『準備が出来たようだな』
帝龍ブリューナクは不気味な笑みを浮かべると、前足で一度地面を強く踏んでから息をゆっくりと大きく吸い込んだ
凶悪過ぎるブレスが来る、リゲルはそう思った
避けるしかなく、だがクリスハートを残して飛び退くわけにもいかない
彼は素早く後ろに振り向き、彼女を抱いてその場から離れようと考えた
だがクリスハートは右手に剣を持ち、彼の隣に歩き出したのだ
何をしている?リゲルは彼女にそう告げると、意外な答えが返ってくる
『私はしたいことをしているだけです。』
『…』
リゲルは覚悟を決めたような顔に僅かに笑みを浮かべる
悪くない、と口を開くと龍に顔を向けて再び口を開く
『お前といると楽しかった。抱き心地も良かった』
『私も貴方の胸は居心地が良かったです』
リゲルは嬉しかった
あぁ、俺達は死ぬのかと…
クワイエットたちが来る気配もなく、来たとしても絶望的
(生きて帰れたら・・・もう1回抱きしめてみるか)
彼はそう考え、ブリューナクに向かって2人で駆け出そうと地面を踏み込んだ
息を大きく吸い込んだ龍は彼らのそんな状況に反し、龍たる遊びを開始する
『第一問!!!!』
リゲル
(なに?)
クリスハート
(え…)
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