第168話 幻界編 8
俺達は即座に脅威に振り回された
アンノウンとガンディル
聴覚麻痺が起き、俺は仲間たちと共に背中合わせで全ての方向に警戒をする
エーデルハイドにはリゲルとクワイエットさん
父さんとクローディアさんは人で真剣な顔を浮かべ、目だけで辺りを見ている
聖騎士達は数名が体を強張らせながらも武器を構えるが
その様子を見ている隙に何かが森の中から飛んできた
あれがアンノウンだろうと直ぐにわかったよ
翼を広げて一直線に襲い掛かるその蝙蝠の目は左右に2つずつ、牙だらけの大口を開けている
『っ!』
俺は断罪という特殊技スキルを使い、その場で刀を立てに振る
すると俺に向かって飛んできたアンノウンの目の前に縦の斬撃が現れ、容易く両断された
しかし、その後方から別のアンノウンが2匹も飛んでくる、しかも地面からも何か這って来てる
口をパクパクと開けながら蛇のように蛇行して向かってくる魔物、これはガンディル
噛みつかれれば終わりと聞いているが、思い出すだけで寒気がする
周りの状況はわからない、視界でしか情報が得られないからだ
アンノウン全てを倒さないとこの状況は覆らないだろう
《早く倒せ!蜘蛛が来る!》
『っ!』
断罪を何度も使い、アンノウンを叩き落とす
ある一定の距離まで近づいてきたガンディルは地面から跳躍し、俺の腹部めがけて飛んでくる
きっと腹を食い破って体内に潜り込む気だ、それは絶対に嫌だ
『!』
タイミング良く刀で串刺しにし、そのまま体を回してから別のガンディルを飛び込んできたと同時に両断
回転した時に僅かに仲間の状況を見たが、後ろを守るティアマトやリュウグウの前にもアンノウンやガンディルが沢山いる
真上はリリディだ。緑色の魔方陣を頭上に展開してカッターを放っているのが見えたよ
頭上からも跳んできているのだろう
《蜘蛛は進行方向から!アカツキパパと怪力女でやれ!》
ここは信頼して任せるしかない
テラ・トーヴァの声だけが俺を安心させる
『っ!?』
俺の前にアンノウンが3、ガンディルが6だ
一斉に来られては不味いと思った俺はギリギリまで引き寄せ、素早く刀を鞘に押し込んで叫んだ
刀界と言い放っても、それは声になることはない
正面に衝撃波と共に無数の斬撃が飛ぶと、目論見通りに全ての対象を斬り刻んで倒していく
『点呼!!!!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長の怒号が真っ先に聞こえた
どうやらアンノウンは倒したようだ
ティア
『みんな大丈夫!?』
アカツキ
『イディオットは無事だ』
クリスハート
『こちらも無事です』
リゲル
『あっぶね!無事』
クワイエット
『リゲルあたま丸かじり寸前だったよ!?』
カイ
『こちらも無事ですがトーマスがガンディルによって小指を食い千切られました』
1人の怪我、トーマスは痛みを堪えながら右手小指を抑えていた
痛々しいが、そこまで焦っている様子はない
それよりも…
クローディア
『危なかった…』
ゲイル
『この蜘蛛…知らんな』
進行方向で蜘蛛が来るとテラが叫んでいたが
その光景を見て俺達は言葉を失くす
全身が刃の様に鋭利な体をしており、銀色に輝いていた
全長7メートル、足だけで2メートルある
かなり堅い魔物だったらしく、父さんが手を痛そうに振っていた
見た目的に殴るのは得策じゃなさそうだけど、殴ったらしい
ジキット
『直ぐに止血しないと』
トーマス
『くそっ!俺がリーチかよ…』
カイ
『落ち着け、直ぐに止血準備だ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『急げ、血の匂いで魔物がウヨウヨくるぞ』
『シャーー!』
リリディ
『その暇はなさそうですよ!』
アカツキ
『何が来るんだよ!』
《止血とかしながら走れ!糸を斬れ怪力女!》
クローディア
『あとであんたボコボコにするからね!』
進行方向の色を鉄鞭で破壊し、クローディアさんは『走って!』と叫ぶ
後ろを振り向くと、そこにはガンディルが地面を20匹ほど這いずってきていたのだ
さっきに開闢を使っていればと後悔をしながらも俺達は道の奥に走る
『シュツルム!』
リリディが杖を後ろに向け、走りながら黒い魔法陣から黒弾を放つ
ガンディルの群れがシュツルムによって爆発四散し、追手はいなくなったかと思ったが
煙の中かからガンディルが8匹ほど甲高い鳴き声を上げながら這いずってきた
クローディア
『次のアンノウンで決めるわよ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『頼むぞアカツキ!』
アカツキ
『わかりました!』
森の中を走ると、気づけば追ってきているガンディルも見えなくなる
どうやら移動速度は速くはない、てか遅い方だ
クローディアさんは足を止め、僅かでも休むわよと告げるとテラ・トーヴァが再び叫ぶ
《真上!》
『っ!?』
未知なる魔物に目が離せない、虫種のカマキリだと思う
紫色の体、全長は5メートル
顎はクワガタの様に鋏がついており、腹の先には立派な毒々しい花が咲いている
両手の鎌は鋏になっているが、形状はカマキリだ
ティアマト
『3体!』
リゲル
『龍斬!』
リゲルは剣を振り上げながら龍の爪を彷彿させるかのような3つの斬撃を頭上に飛ばす
2体は避けたが、1体は避けきれずにバッサリと両断される
『キー!』
『キー!』
クローディアさんは素早く未知なるカマキリの鋏の攻撃を鉄鞭で弾き、その隙に父さんが飛び込んで顔面を殴って頭部を吹き飛ばす
『強撃!』
クリスハートさんは落下しながら鋏を振り下ろすカマキリに向かって技スキルを発動
攻撃時にだけ筋力を向上させる技スキルだ
その技で互いの攻撃が弾かれたが、彼女には仲間がいる
シエラ
『ファイアーボール!』
すぐさま火球が放たれると、それはカマキリを火で包み込んだ
甲高い断末魔を上げて苦しむが、それでもカマキリは両手の鋏を開いてクリスハートさんに襲い掛かろうと飛び込む
『真空斬!』
アネットさんが剣を振り、斬撃を飛ばした
カマキリは火だるまになりながらも鋏でガードするが、技の勢いに押されて後方に転倒だ
起き上がる瞬間を狙ってクリスハートさんが通過しながら首を斬り飛ばして終わりになる
クリスハート
『これはカニ?カマキリ?』
リゲル
『お前が命名しろよルシエラ』
私が?と自信を指さして困惑する彼女が少し可愛い
その間、俺達は魔石を回収しながらも周りを警戒していたのだが、クリスハートさんは近くで倒れているカマキリを見て唸り声を上げると、口を開いたのだ
『パープルアサシン?』
リゲル
『良し決定』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『緊張感が無いのではないかリゲル』
リゲル
『少しは気分くらい紛らわせてください、すいません』
クローディア
『それにしても…この『うわぁぁぁ!』』
聖騎士が突如叫んだ
しかも1人だけじゃない
バッハとジキットだ
彼らは周りを見ながらも顔を真っ青にして聖騎士の仲間から僅かに離れている
これはもしや…と誰もが思ったのだろう
ティア
『頭上!チョウチョ!』
ゲイル
『イルズィオの鱗粉か!みんなチョウチョの真下に入るな!』
バッハ
『くそっ!なんだこれは!』
ジキット
『全員がリッパーに見える』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『慌てるな!バッハ!ジキット!』
リゲル
『聴覚もやられてんだ!聞こえねぇっすよ』
荒げた声が飛び交う中、聖騎士達が幻覚を見る仲間に歩み寄ろうとするも
2人は仲間に剣を向けて構える
バッハ
『待て待て待て!目を閉じて屈めばいいんだな』
ジキット
『目を閉じて…目を閉じて』
2人は落ち着きを取り戻すと、聖騎士が素早く背後にまわって背中を叩く
それによって2人の体から強張った様子が消える
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『2人を守れ!1分程度は幻覚は消え…』
『っ!?』
《アンノウン!頭上から5体!》
こんな時に…!
俺は真上を向くと、急降下してくるアンノウンに向けて声にならずとも叫んだ
鞘に刀を再び強く押し込めるが金属音は出ない
だが技は出ると信じたのだ
すると鞘から瘴気が真上に吹き出し、中から鬼の仮面をつけた甲冑姿のテラが現れた
《一気に斬り裂く!》
気を使っての念術だ
その様子を聖騎士は驚いてみているが、隠すとかそういうのどうでもいい
一応は聖騎士の目を盗んで使う予定だったが、そんなこと言ってられん
テラは熱を帯びた刀を振り上げ、アンノウンを4体一気に両断して燃やし尽くす
それにはロイヤルフラッシュ聖騎士長も驚愕を浮かべて何かを口にしている
ティア
『後ろ私!』
『っ!』
俺は後ろから聞こえるティアの声に振り向く
すると苦痛を浮かべた顔のフクロウが俺の背後から奇襲をかけていたんだ
ランクCの鳥種ホロウ
全長1メートル半、噛まれると毒で麻痺するとリゲルに聞いている
ティアはそれを回し蹴りで吹き飛ばすが、ホロウは直ぐに態勢を立て直す
『ギァァァァァァァ!』
ティアマト
『黙れ!』
『グェ!』
ティアマトが既に目の前に迫っており、ホロウは片手斧によって頭をかち割られてしまう
ようやく静かになったと思いながらも辺りを見回して仲間と共に警戒していると、俺は体が凄い熱い事に気づく
緊張から来ている体温の上昇だ、過剰なまでに体が強張っているのだろう
ジキット
『う…ようやく』
どうやら聖騎士の幻覚症状を起こした2人は治りかけてきたらしい
その間、ロイヤルフラッシュ聖騎士は発光した魔石4つを手に取り、クフフと笑って見せていた
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『1つはいただく、だが他の3つは予想外だ』
彼はそう告げると、エーデルハイド、イディオット、そしてクローディアさんに投げ渡した
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『10秒で誰に使うか決めろ』
テラ
『そうしな…俺は戻るぜ?』
瘴気と化して消えるテラ・トーヴァ
どうやら欲張る気はロイヤルフラッシュ聖騎士長にはないようだ
それはある意味、俺達に信頼を得ようという行動と捉えてもいいかもしれない
アカツキ
『ティアマト!お前だ』
ティアマト
『おうよ!』
クリスハート
『シエラ!』
シエラ
『了解』
クローディア
『はいアメリーちゃん』
クローディアさんはいらないらしい
投げ渡されたアメリーは慌てながらも上官の顔色を伺うが、視線の先はロイヤルフラッシュ
カイではない
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『良い、精進せよ』
アメリー、緊張した面持ちが若干軽くなる
だがここからが問題過ぎるんだ
俺達の目的は達成されたのだが、帰っても良いのか?
誰もがそれを口にしたくても、出来ない
だがリゲルは堂々とそれを口にした
リゲル
『帰れます?これ?』
ゲイル
『…堂々と帰ろ』
ジキット
『治った…しかしこのまま帰るにしても』
ドミニク
『主は許してくれるのか…』
《リュウグウ後ろ!ガンディル!》
『くっ!!』
彼女は振り向きながらも飛び込んできていたガンディル1匹を槍で貫く
しかし同時に飛び込んできていた残る1匹は彼女の攻撃速度では間に合わない
不味いと思うが、そうはならない
『ちょこっと賢者バスター』
リリディが真横から現れ、残りのガンディルを叩きつぶした
ホッと胸を撫でおろすティアだが、リュウグウは少し不貞腐れている
『メガネ、何を企んでいる?』
『え?』
『お礼を求めているのか、変態め…体はやらんぞ』
『誰か助けてほしいんですが?』
ティア
『リュウグウちゃん、幻覚見てる?』
見てない!と顔を赤くして答えるリュウグウ
それには俺の父さんも『油断するな、周りを警戒しろ』といって場の空気を戻す
バッハ
『一応戻りながら進みませんか』
カイ
『私もそれには賛成だ。ロイヤルフラッシュ殿はどうお考えですか』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『進めば危険すぎるが、止む終えん…一度戻る』
《無理だ、後ろは進めねぇ》
次から次へと何かが起きる
今度はなんだ?とティアマトが口にした瞬間、全員が凍り付いた顔を浮かべた
地面を覆いつくすほどの蟻、かなり小さいが…だがこの数は異常過ぎる
オーガアントという鬼の顔をした蟻であり、人肉を好む厄介な蟻だ
数センチしか満たない体でも、億を軽く超える数が地面を歩く姿は圧巻過ぎる
リゲル
『火っ火!』
シエラ
『無理!多すぎ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『左右にもいる!これでは無理だ!逃げながら後方に集める!』
アカツキ
『みんな走れ』
一斉にその場から走りだす
後ろからは地面全てを覆いつくすオーガアント、それに向かってリリディがシュツルムを、シエラさんがファイアーボールを放って数を減らそうと目論むが、全然減らない
『くそっ!バクダート!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が腕を伸ばし、赤い魔法陣から爆炎のようなブレスを放出して後方を火の海にするが、それでも数は減る様子はないのだ
クワイエット
『凄い数!全然減らない』
アネット
『疲れてきたよぉ』
ゲイル
『たえろぉ!』
どこまで走ったか、多分100メートル程だと思う
蟻だからこそ足は遅い、逃げ切ったと思い誰もが足を止めて両膝に手をあてて疲れを見せる
前には直径50メートル程の池、底が見えるくらいの綺麗だ
深さは2メートル程であり、綺麗な魚が泳いでいる
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『水は飲むな?以前、それでも部下がショック死した』
アネット
『飲めないのね』
クリスハート
『水筒の水あるでしょう』
アネット
『落とした…』
それは可愛そうだ
仕方なくクリスハートさんが飲ませてあげている
少し落ち着いた、俺はそう思って深い溜息を漏らす
聖騎士達もそうさ、彼らも肩の力を抜いて僅かでも息切れを治そうと深呼吸をし始めた
魔物の感知は期待できず、目だけの目視警戒だけ
仲間と共に近づいて背中合わせで死角を失くそうと動き出した時に何か不穏な音が聞こえた
それは風を切るような音
何だろうと思って仲間にも聞こえたかどうか口を開こうとした瞬間に聖騎士から叫び声が上がる
『うわぁぁぁぁぁぁ!』
『っ!?』
一斉に視線が集まる方向には小指を怪我していたトーマス
俺は見ている光景が嘘だと思いたくなった
彼の頭部は斬り飛ばされ、両膝をつきて前のめりに倒れていったのだ
一体だれが?今の一瞬で何が起きたのかまったくわからない
《くそっ!なんでこいつがここに…》
テラは力なく口を開いた
ふと視界の片隅に、何かがいるのに気づいて俺は仲間と共に顔を向けて武器を構えた
がりがりにやせ細った全長2メートルの熊に見えるが、両手の爪は1メートルと長い
目が赤く、両手を広げて左右にユラユラと揺れているのが不気味だ
あれが…やったのか…
クローディア
『ギャングマ!』
ゲイル
『おいおい幻と言われた魔物のお出ましかよ!』
リゲル
『あり得ねぇ…』
アメリー
『トーマスが…あ…あぁ』
バッハ
『冷静になれ、悪いがトーマスは捨てていく…すまぬ』
カイ
『馬鹿な、遭遇事例は歴史上2回だぞ!?』
このギャングマもヒドゥンハルトと並ぶ幻の生物
推定ランクはBと言われているが、今なら納得できる
この時点で1名が死亡、その事実で驚きは俺にはない
それよりもギャングマという魔物と遭遇してしまった驚きが大きいのだ
クローディア
『…どう斬り飛ばしたのかしらね』
『グマァ・・・・』
リゲル
『やるしかないようだな』
それしかない
俺も覚悟を決め、刀を構える
だが何故かギャングマは左右に揺れながらも不気味に笑みを浮かべるだけで何かをしてこようとしない
観察しているのか、馬鹿にしているのかはわからない
しかしこいつは聖騎士を殺したのは間違いない筈だ…
誰もが戦闘態勢に入ってギャングマを警戒していると、その熊はニヤッと笑った瞬間に動き出した
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