第167話 幻界編 7

俺達は門森を直ぐに抜け、目の前の光景に驚愕を浮かべる

森が色鮮やかであり、僅かに神々しく光を放っていた

そして視界全てが森、これが幻界の森だと直ぐにわかる


アカツキ

『これは…』


ティア

『見てるだけで体が強張るね』


リリディ

『こんな森があるというのですか…』


幻想的な森の周りには木々などは無い、草原地帯が広がっているのだ

森に近い草木は僅かに幻界の森にように色が侵食しているのが気になる


クローディア

『生きる森ね、また草原が侵食されかけてるわ』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『そのうち近くを焼き払わねばなるまい』


カイ

『あの、どういうことですかロイヤルフラッシュ聖騎士長殿』


カイはたどたどしく言うと、ロイヤルフラッシュ聖騎士長は言ったのだ

幻界の森から流れ出る魔力が近くの植物を侵食し、森を広げようとしている

放置していると森自体が大きくなるのだ。


とんでもない森だな…生きてる森って


クリスハート

『凄いですね。とても綺麗なのに綺麗と十分に表現できない』


リゲル

『見た目は綺麗でも中は地獄だぞ?女みてぇだろ』


クリスハート

『女性は表も裏も綺麗です!』


リゲル

『そうかいそうかい、世の中おまえみたいに出来てねぇぞ』


クリスハート

『へ?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『痴話喧嘩してるとルドラに怒られるぞリゲル』


リゲル

『してないっすってば』


クワイエット

『今は休んだ方がいいよ、あの中に入れば休める場所なんてない』


ゲイル

『確かに中で休むなど無理だ、グリモワルドはどうやって最深部まで…』


ティアマト

『ってことは中で寝泊まりしたってことっすよねゲイルさん』


ゲイル

『確実に中で休んでいる。だがそんな事不可能だ…俺とクローディア、ハイムヴェルトとオズボーンの4人でも半日も耐えれなかった』


クローディア

『半日は頑張ったほうでしょ?』


ジキット

『あの森で半日持ったんですか!?』


クローディア

『私を誰だと思って?ハイムヴェルトもいたのよ?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『ならば納得できるな。』


ここで休めと指示が出るが、視線が幻界の森から離せない

クローディアさんは仁王立ちのまま、堂々と森を眺めているのだが


昼を過ぎたあたり、俺は懐に入れていた干し肉とクッキーで空腹を紛らわせる

意外と焼き菓子でも腹は膨れるんだなぁと思いながらもとあることに気づく


幻界の森にだけ雪が無い、まぁどうでもいい事かもしれない


『ニャハハーン』


リリディ

『武者震いって言ってます』


リュウグウ

『面白いな』


ティアマト

『てかこっからでも鳥肌止まらねぇな』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『それほどまでに危険な森だ。できれば戻りたい』


《やめとけ黒豹マン。主さんは俺達に興味深々らしい》


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『く…引き返せばどうなるかわからんな』


ちょっとしたスキルを手に入れるだけなのに、面倒だ

何がいるのだと思い、俺はアヴァロンの言葉を思い出してみた


アカツキ

『テラ、アヴァロンのヒントだが』


《死、呪い、絶望、幻影、地獄の根幹だ》


クローディア

『全然わかんないわ、結構魔物は詳しいつもりなんだけど』


ジキット

『本当に天使の声が聞こえるんですね…』


聖騎士にはテラ・トーヴァの声を天使の声という事にして話してある

ティアから聞こえる声みたいな感じであり、聞こえる者は何故聞こえるかわからないという設定


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『死と呪いだけだとアンデット種か吸血種を想像するが…』


ゲイル

『Aを従えるとなると俺の予想は外れる。それ以上を知らん』


A以上の存在

闘獣であるが、それはAの中でも戦いに特化した生物を指し、テラ・トーヴァに自然の均衡を保つために与えられた称号

Aの戦闘特化型かSランクかという選択肢がある


Sは虹王蛙、死王ギュスターブ、赤龍ササヴィー、奪宝ゼペットの4体

アヴァロンの言葉通りならば死王という名を持つアンデット種かと思われるが


クローディア

『ギュスターブではないわ、あれは北の果てにある獄島にいる』


俺達の住む大陸にはいないようだ

今は敵意を向けてないのが幸いだ、と父さんは溜息を漏らして告げるが

それはまだわからない


リュウグウ

『このクッキー美味しいな』


ティア

『そう?頑張って作ったの』


『ミャンミャー』


彼女の手作りだ

こういう時の為に作ってきてくれていたのだ

十分に腹が膨れるから助かる。毎日食べたい…俺だけ


聖騎士は干し肉を食べながらも仲間同士で色々と作戦の確認をしている姿が見える

ここでもう一度聖騎士メンバーをおさらいだ



カイ・ラーズ      隊長

ジキット・ローレンス  副隊長

バッハ・フォルテア   

シューベル・ジュイン  

トーマス・スタン    

ドミニク・ヴェイン   元2番隊

アメリー・カルッセル  元2番隊

バルエル・コールソン  元2番隊


ドミニクとバルエル、そしてアメリーは緊張した面持ちでロイヤルフラッシュ聖騎士長の話を聞いているようだ

その様子を見ていると、俺の肩をポンポン叩いてから耳元で囁く声が聞こえた


『カイ、とトーマスも初めてだよ』


『クワイエットさん』


『体中に目を付けといてね、地面を潜ってくる魔物もいるからさ』


オオクチビルという巨大ヒルだ

ミミズのような姿であり、全長は2メートルと細長い 

数秒噛みつかれただけで結構な血液を吸われるため、要注意だよと彼に言われた


『虫よけ粉は駄目か』


『リュウグウちゃん、持ってきたの?』


クワイエットさんは少し苦笑いを浮かべる

どうやらリュウグウは持ってきたようだが、自慢げにそれを取り出すと粉を体に濃くつけていく

少し顔が白くなったのを見てリリディがブフッと笑い、リュウグウが光速パンチを放つ


『見た目よりも命大事に、だメガネめ』


『ぐはっ…、それにしても酷いですよ』


『いっとけ』


『私も使うリュウグウちゃん』


ティアも念のためにリュウグウから借りて肌に粉をつけている

少しだけこの粉は匂いがあり、近づいて嗅ぐとツーンとする嫌な匂いを発するんだ

虫避け粉だけども、効果があるならばかなり良い商品だ


『私も…いいでしょうか?』


ふと振り向くと、アメリーだ

聖騎士の話し合いは終わり、それぞれが休んでいる

こっちの様子を見て不安になり、やれることはやろうという事だと思う


『良いぞ、女は大歓迎だ』


『ありがとうございます』


カイ

『おいアメリー、余計な関係を持つな』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『良い、許す』


ロイヤルフラッシュさんに止められ、カイという隊長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、地面から顔を出している岩場に座って休み始めた


アメリーは虫よけ粉を肌にかけた事で多少は安心したらしく、リュウグウに律儀にお礼をしている


『私達も初めてだ、そっちの仲間関係はわからないが何かあったら信頼できる者の近くにいればいいと思うぞ』


『そうします』


ドミニク

『ったくアメリーは心配性だな』


バルエル

『こっちにゃロイヤルフラッシュ聖騎士、そっちは元英雄五傑様だぞ。大事にならねぇさ』


この2人は元2番隊だ

リゲルと同世代のような感じだが、かなりリラックスしている感じがする

アメリーはたどたどしく頷くが、その会話を聞いていたクワイエットさんは彼らに顔を向けないまま干し肉をかじり、告げたのだ


『そういってる奴が死んでいったよ。あんだけ強かったラフター副隊長も油断して死んだのを忘れた?』


ドミニク

『そ…それは』


『過剰なくらい警戒しとけばいい。本当に気配感知なんて役に立たないからさ』


アメリー

『肝に命じます』


カイ

『余計な事を吹き込むなクワイエット』


っとここで1番隊の隊長のカイの登場だ

何やらご立腹、クワイエットさんは面倒くさそうに立ち上がると、振り返る

ズカズカと歩み寄るカイは腕を組んだままクワイエットさんを嘗めまわすように見回す

かなり仲が悪い、見ていて十分にそれが伝わる


若い聖騎士3人は少し不味くないだろうかと言わんばかりに挙動不審になっていく

しかし、クワイエットさんはカイに睨まれても僅かに笑みを浮かべたまま首を傾げるだけ


『何様だ貴様。勝手に協会を脱退しておいてこっちの部下に指南しようとは』


『あんたが頼りないのさ、普段の判断力が欠けているのにここに来たって事は死にに来たのかなぁって思っちゃったよ?』


『っ!』


それがカイの着火点だったのだろう

カッとなった彼はクワイエットさんをどつこうと腕を伸ばすが、それは出来なかった


『ほら』


クワイエットさんは彼の手を素早く掴み、一本背負いさ

結果論でいってしまえば誘ったんだと思われる


地面に叩きつけられたカイは『ぐはっ!』と息を吐きだしながら苦痛を浮かべると足を回してクワイエットさんの顔面を蹴ろうとする

しかし、そこでロイヤルフラッシュ聖騎士長が『やめぬか!』と怒号を上げて終わりとなる


鬼の様な形相を浮かべて立ち上がるカイは笑顔のままのクワイエットさんを前に何も言わずに背を向け、離れていく


リゲル

『誘われてんの気づかないとか馬鹿だろ。本当に1番隊の隊長か』


クワイエット

『僕はジキットかバッハのどちらかが良いと思うんだよなぁ』


リゲル

『俺はバッハだな、いっつもマイペースだし周りに流されないから』


クワイエット

『僕はジキット派だよ?』


意見が分かれるのが面白い

アメリーら新人は『情報として覚えておきます』と小声で告げて聖騎士達の元に戻る


クローディアさんは呆れた顔を浮かべ、クワイエットさんにゲンコツして怒る

まぁ本番前に面倒ごとを起こすのは得策じゃないしね


シエラ

『駄目、喧嘩』


クワイエット

『ごめんごめん、僕とリゲルはエーデルハイドの後ろを守るからシエラちゃんは僕たちの前ね』


アネット

『後ろは任せるわね』


リゲル

『わかってる。無音になったら直ぐに全員背中合わせだぞ?ロリ娘は真上見とけ』


シエラ

『私、年上』


クリスハート

『幻覚をみたらどうすればいいですか』


クワイエット

『じっと動かない事、全員が魔物に見えるって可能性が一番高いし…誰もいなくなるって錯覚する時もある』


ルーミア

『こわ…マジこわ』


リゲル

『目の前の光景が可笑しいと思えば動かないで目を閉じろ、背中を叩いて知らせる』


叩いたとしても幻覚は時間経過で治る為、有効策ではない

しかし自身が幻覚を見ているという警告として必要だとリゲルは真剣に話した


リュウグウ

『ティアは幻覚を見ないほうが良い、変態がおっぱいを触ってくるぞ』


ゲイル

『息子がそんな勇敢だと思うかいリュウグウちゃん』


リュウグウ

『確かに…』


リリディ

『ブフッ』


アカツキ

『森に行く前に心が削れそう…』


ティア

『気にしないでアカツキ君…ふふふ』


笑ってますね!?


ティアマト

『まぁ俺達も幻覚見たらさっきの話みたいに従おうぜ。どんな幻覚を見るかは完全ランダムって面白いけどな』


リリディ

『全員がティアマトさんに見えたら僕は死を選びますね』


ティアマト

『あぁん?』


ティア

『森に入る前にやめてよー』


《いつも通りで良しだ。10分後に行くぜ》


アカツキ

『わかった』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『10分後に任務を遂行する。各自で決められた方向を警戒し、何かあれば直ぐに伝えよ』


『『『ははっ』』』


もう少しで中に入る

ちょっと心臓がドクドクしてきた

冬だけど、少し暑いな…そう勘違いしてしまう


『気を張るなよ?』


父さんが俺の背中をドンと押す、痛い

だけども叩かれたせいで少しは楽になったかもしれない


『ありがとう。父さんは何年振り?』


『どうだろうな、20年?』


『かなり昔だね』


『当たり前だろ?今は警備員だ』


確かに


《中に入ったら集中しろ、何が起きても可笑しくはない》


幻想的、神々しい世界が待っているとテラは話す

そこでようやくロイヤルフラッシュさんが『そろそろ行こう』と言い放つ


気合いを入れ、俺達は歩き出す

ロイヤルフラッシュ聖騎士長とクローディアさんが先頭、その後ろが聖騎士だ

それに着いていくようにしてイディオット、エーデルハイド、クリジェスタ、そして俺の父さんだ


足首ほどまでしか延びない草原地帯を歩き、俺は色鮮やかな森を眺めた

僅かな発光を見せる森の入口は初めてでもわかりやすいほどに入口があり、そこに向かって歩いている


『アカツキ君、ちゃんとトイレした?』


『大丈夫だ』


こうして幻界の森の入口前

人口的に作られたかのような綺麗な道があるが、中はどうなっているのだろう


全員が一度足を止め、ロイヤルフラッシュ聖騎士長が口を開いた


『入った瞬間、少し空気が重くなる…。無暗にこの森の植物には触れるな、未知数だ』


知らないのに触れる度胸など無い

少し深呼吸を置いてから入るのかなとか思っていたが、ロイヤルフラッシュ聖騎士長は大斧を肩に担ぐと我先にと歩き出す


バッハ

『さて、嫁さん以上の地獄に突入だ』


ジキット

『家では弱いんですねバッハさん』


バッハ

『言うな、行くぞ』


シエラ

『緊張』


クリスハート

『行きましょう』


リュウグウ

『なんでも来い』


こうして全員が森の中に足を踏み入れた

空気が重くなる、の意味を俺は知る

呼吸が何故か難しく感じるのだ、理由はわからない

リリディが驚きながら俺を見ているが、こいつは大丈夫そうだな


森には太陽の光が差し込まないほどに頭上には枝木が伸びているが森の中の色々な種類の植物が程よく発光しているため、明るい

大きな食虫植物が大きな木々から生えている

出来れば近づきたくない、僅かに動いてるもん


《不気味だ》


確かにそうだ

気づけば全員の歩行速度は遅くなり、慎重だ

側面を見て意識を集中していると、そこでクローディアさんが『止まって』と口を開く


ロイヤルフラッシュ

『…良く見えたな』


クローディア

『蜘蛛の糸…』


俺たちには何も見えない

しかし、クローディアさんが懐から何かの粉を前方に振り撒くと、無数の糸が木々をつたって張り巡らされている事に気づいた


クローディアさんは地面に落ちていた細い枝を広い、糸に触れた

面白いほどにスッパリ切れたのでビックリさ


トーマス

『気付かず歩いてれば…』


ロイヤルフラッシュ

『想像したくはないな、しかもこの糸を除去すれば犯人が来そうだ』


ゲイル

『これは特殊な狩り方ですな』


ロイヤルフラッシュ

『かなり質が悪い』


リゲル

『なんか嫌な感じするぜ?』


クワイエット

『確かに見られてるよ何かにこれ』


アカツキ

『みんな!十分に………っ!?……っ!!』


声が、音が、何も感じなくなった

一瞬だけ俺は焦りを覚えたが、目に見える者達も焦りを顔に浮かべている

冷静、冷静にと自分に言い聞かせようとイディオットで素早く背中合わせで武器を構えた瞬間にテラが叫んだ


《アンノウンとガンディル!》



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