第169話 幻界編 9
ギャングマは一直線に俺に向かってきた
その速度は凄まじく、奴が通った道に風が起きる程だ
だが見える、ギルハルドより遅いならいける
『らぁぁぁ!』
『ティアマト!』
ギャングマは俺に到達する前にティアマトに遮られる
片手斧の攻撃を両爪でガードし、ティアマトを押し込んだ
『ぬぁぁぁぁ!』
ティアマトは地面をえぐりながらも耐える
しかし誰もが傍観する筈がない
『おらよ!』
『ガリ熊め』
リゲルと俺の父さんが左右から奇襲を仕掛けた
あれなら避けられまいと思ったが、ギャングマは小さく鳴くとティアマトを弾いてから飛び退いて二人の攻撃を避けた
シエラさんとティアのラビットファイアーでの追撃を爪で斬り裂いて消すと、頭上から飛び込んでくるクローディアさんの振り下ろす鉄鞭を横に飛んで避ける
回避はかなり得意らしいが
多勢に無勢という言葉がある
『断罪!』
俺は避けた瞬間を狙って刀を振る
それはギャングマが飛んだ方向に現れ、奴はそれに気付くと同時にあり得ない柔軟さを俺たちに見せつける
体をくねらせて攻撃を避けるなんて芸当にギョッとしたが、完全に無傷ではない
『グマッ』
脇腹に浅い傷、そして僅かに血が流れる
ギャングマは脇腹の傷をペロペロと嘗め、再び左右に揺れながら両手を広げた
あれがギャングマの戦闘体勢なのだろうが
その体勢からさっきの加速を叩き出せるのは凄い
クローディア
『打たれ弱いとは思うけど』
クワイエット
『当てなきゃだね』
ロイヤルフラッシュ
『時間をかけるな!いつ別の魔物がくるかわからん』
その通りだ
この状況で別の魔物が来たら非常に不味い
俺は仲間と共に駆け出し、一気に畳み掛ける事に賭けた
『グマー!』
もしこいつがA以上なら俺達の攻撃はあまり通じないかもしれない、しかしBならばいける
『リュウグウ!頼むぞ!』
『わかってる!』
『グマァ!』
ギャングマの加速、俺とリュウグウの目の前に一瞬で迫ったくると奴は両手を掲げ、振り落としてくる
《落ち着け兄弟》
テラの声もあまり意識するのを忘れた俺は軽く握っていた刀を力強く握り直すと同時に叫びながら振り上げた。
『おらぁぁあ!』
金属音が響き渡ると、俺は弾かれて吹き飛ぶ
ギャングマは平気というわけでも無さそうだ
『グッ…』
僅かにバランスを崩したのだ
ほんな一瞬の隙にリュウグウが三連突
素早い突きはギャングマが体をひねらせて避けたが、出来れば3発中1発は当たってほしかった
でもまだなんとかなる
『上から降るのは雨だけじゃねぇぞ!』
既にティアマトの仕込みは終わっている
視界に見える攻撃には反応速度は早い、しかし死角はどうだろうか
ギャングマの頭上から落ちてくるのはティアマトの放った特殊技スキルのギロチン
斬擊が落ちてくると、それはギャングマの左腕を吹き飛ばした
『グマァ!?』
驚くギャングマだが、直ぐに顔を俺達に向ける
ティアが真横からショックを放ち、雷弾がギャングマの肩に命中するとピリッと動きを止めた
一瞬の隙は大きなチャンス
リリディとギルハルドが見逃す筈がない
『ニャハ』
ギルハルドがギャングマの胸部を切り裂くと、リリディは『ドレインタッチ!』と叫びながら頭部を叩く
叩かれて間抜けな顔をするギャングマの体から僅かな魔力がリリディに流れ込む
追撃で俺が側面から刀を突こうとすると、ギャングマはキッと目つきを変えて爪で刀を弾き返す
腕に伝わる痺れを堪えながらも、回し蹴りを繰り出すギャングマの攻撃をしゃがんで避け、飛び退いた
『へんな魔物も来たぞ!』
父さんが叫ぶ
俺はふと視線を外し、森の向こうから走ってくる8体の魔物に驚いてしまう
あの魔物はギルド内にある魔物全書にて見たことがある
幻の虫種と言われたアラクネリアという蜘蛛の上部が人型の魔物だ
悪魔のような姿をしており、下半身の蜘蛛の体からは赤い目が沢山ついている
推定ランクB、それが8体となると絶望的だ
『グマン!』
『っ!?』
やってしまった
僅かに視線を逸らした隙に目の前にギャングマだ
このタイミングから刀でガードするのは間に合わないと覚悟を決めた瞬間
父さんが怒号を上げながらギャングマの背後から強烈なゲンコツを頭頂部にお見舞いする
『真・ゲンコツ!』
『ギャプランッ!』
ギャングマは勢いよく地面に叩きつけられる
その拍子に僅かに地割れが起き、ギャングマがバウンドすると父さんは足を掴んだ
『おらぁぁぁぁぁぁ!』
放物線を描くような起動、そのままギャングマは更に地面にビタンッと叩きつけられると動かなくなる
『バクダート!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が向かってくるアラクネリアに向かって爆炎スキルを発動する
それによってアラクネリアは炎に行く手を遮られ、超音波の様な鳴き声を上げた
8体全てを相手にする自信はない、それはみんなの顔を見てもきっと同じ感情だと思う
『蟻も来たぞ!』
リゲルが叫んだ
引き離していたオーガアントの群れが後方から迫ってきていたのだ
聖騎士達は死んだトーマスに視線を向けると、バッハは『すまん』と囁く
身内からの死亡者となると聖騎士も辛いのだろう
もし俺達が同じ状況になったならば、聖騎士の様に冷静になれることはない
『ニャハン!』
『ギルハルドに続いてください!』
リリディが叫ぶと誰もがその言葉を信じようと一斉に駆け出した
獣道に近い茂みの中に四足歩行で走るギルハルドの後ろを俺達は一生懸命追いかける
最後尾はクローディアさんがいてくれているからきっと大丈夫だ
先頭はリリディとギルハルド、そしてロイヤルフラッシュ聖騎士長率いる聖騎士
『ぬっ!邪魔だ雑魚が!』
『ギャべっ!』
前の方で何かと遭遇したようだが
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は立ち止まらずに切り捨てたようだ
その正体は直ぐにわかったよ
これまた幻と言われている魔物、棘ゴブリンだ
体が刺々しく、目が釣り目
身長は1メートル半とゴブリン種にしては大きい方だ
『貰い』
クワイエットさんがちゃっかり魔石を回収しているが、彼は冷静だな
『ティア!大丈夫か!』
『私は平気!走るのは慣れてる』
リュウグウ
『どこまで行く気だ!』
アネット
『これ戻れるの…?』
ルーミア
『ヤバいねぇ』
《魔物だからけの森だぞ、気を抜いたら死ぬぞ!》
アカツキ
『ティアマト!上!』
パープルアサシンというカマキリだ
クワガタの様な顎を持つ口を開き、両手の鋏を開きながら木の上から飛び込んできていたのだ
運良く俺は上を見ていたおかげでそれに気づくことが出来たよ
『おらぁぁぁぁぁぁ!』
ティアマトは片手斧を振り上げ、パープルアサシンを吹き飛ばした
倒していないが、今はそれでいい
リゲル
『ついてきてるか!?』
クリスハート
『私達は大丈夫です!』
アカツキ
『こっちも大丈夫だ』
クローディア
『追ってきてるわよ!アラクネリア!』
甲高い鳴き声が聞こえる
キキキと閻魔蠍に似た鳴き声だな
というか…獣道過ぎる
茂みをかき分けて走らなければ前に進めないほどに生い茂っているんだ
葉っぱで皮膚を斬らないように顔をなるべく隠しながらも視線だけで頭上を注意して走っていると
突然開けた場所に辿り着いた
そこは紫色の草木が生える広大な草原であり、中心には見たこともない立派な木が生えていた
赤い桜だ、そんな色の桜なんて初めて見たよ
誰もがその場で立ち尽くし、桜を見ていると思ったがそうでもない
『なんだ…あの建物は』
父さんが驚愕を浮かべて口を開いた
更に奥に見えるのは巨大な建造物、それは神殿のようにも見えるが遺跡と化している
『ニャハンニャー!』
リリディ
『あの中に!急いでください!』
『キキィィィィ!』
アネット
『わぁぁぁぁ!急いで早く!』
アメリー
『なんなの本当に!もう帰りたい!』
カイ
『つべこべ言わずに行くぞ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『遅れるな!ヒドゥンハルトに続け!』
ギルハルドの行動が正しいかなんてわからない
でも今はそれに賭けるしか道は無かった、だからロイヤルフラッシュ聖騎士長もギルハルドを追う
アラクネリアは直ぐに森の中から姿を現すと、俺達を追いかけてくる
『走れ!』と俺は叫びながらティアと並んで走っていると
帰りたいと強く思う光景を目にする
ティアと共に生きた心地を感じない顔をしたが、これは俺達2人以外は誰も気づいていないだろう
頭上は異常に伸びた森の枝木で覆われており、空は見えない
しかし、不可思議な大草原を覆う枝木の天井で巨大な魔物が太い枝木をつたって移動していたのだ
ティア
『蛇…』
全長なんてわからない、見えるのはほんの一部でしかない
数十メートル?天井までは200メートルくらいありそうだが、そこからざっと見ると全長100メートルはくだらない巨大な白い蛇だ
奴は天井から俺達を眺めていたのだ
『見るな…ティア』
『あれ…絶対…』
かなり強い、クローディアさんが俺達の様子に気づいて上を見上げてしまうと、彼女は顔を強張らせる
それが答えだ、変に意識しないで気づかない振りをしたまま走ったほうが良さそうだな
なんて森だよ…
Cランクが殆どいない
Bランクの魔物が一気に8体とか信じられないよ
アネット
『ギャァァァァ!へっびぃ!』
クリスハート
『アネット、何を言っ…もう無理』
リゲル
『ルシエラなにを弱気言っ…なんだありゃ!?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『上を絶対見るな!神蛇ツェンバーだ!』
ドミニク
『ひぃ…』
ジキット
『くそ!それってランクなんですか!?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『ごたごた言ってると餌にして置いてくぞ!』
荒げた声が飛び交う
そんな最中、アラクネリアは徐々に俺達に迫ってくる
人間よりもアラクネリアの方が速度があるからな
俺はクローディアさんに『撃ちます!隣に移動してください!』と叫んで後ろを開けてもらった
アラクネリアとの距離は10メートル
俺は走りながらも詰めてくる様子を横目で見ながら、5メートル付近と近づいた瞬間に言い放った
『刀界!』
鞘に刀を強く押し込み、金属音を響かせる
俺の背中から衝撃波が発生するとそれはアラクネリアを巻き込み、斬り刻んでいくが傷は浅い
しかし、先頭の3体が転倒すると、他が巻き込まれて共倒れだ
クローディア
『ナイスよ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『神殿だ!入るぞ!』
いつの間にか赤い桜の木を通り過ぎ、神殿の階段前
俺達は急いで駆け上ると、リリディが杖を構えて待っていた
ここからならば階段から登ってくるアラクネリアを狙えると思ったのだろう
父さんとクローディアさんも階段の上から向かってくるアラクネリアを待ち構えているので、俺達もここで迎え撃とうと仲間と共に振り返る
だけども可笑しなことにアラクネリアは階段下まで来ると足を止めたのだ
まるで神殿を嫌っているかのようにだ
リリディ
『来ない?』
リュウグウ
『どうしたのだ…』
アカツキ
『来ようとしてないな、ここは何なんだ…』
辺りを見回すと、神殿によくある石柱が左右に並んでおり、半分が崩壊している
一番奥には巨大な扉があるが、瓦礫によって入れないようだ
まるで城みたいだ、いつの時代の建物なのか考えても俺達にはわからない
『少し落ち着こうか』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が低いトーンで口を開くと、瓦礫に腰を下ろす
近くでゴロゴロと寛ぐギルハルドを見て、ここなら多少安全だと悟ったに違いない
聖騎士達はようやく休めると思ったのか、倒れるようにして地面に座る
階段下にいたアラクネリアも諦めて森に帰っていく様子を眺めていると、ティアが肩を叩いてきた
『水分補給しないと』
『そうしよう』
《ヤバかったな、アラクネリアが8体とか笑うしかねぇし》
ティアマト
『笑えねぇって』
シエラ
『推定ランクB、8体』
ドミニク
『流石にあれは逃げるっしょ』
リゲル
『てか言って良い?真上にまだいるぞ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『見るな、絶対に見るな』
意地でも見たくはない
ここは屋内ではないからな
建物の中に入る通路はありそうもない、見える扉は全て瓦礫で埋まってるからだ
『ニャハーン』
リュウグウ
『足がパンパンだ、休まないと歩けぬ』
クリスハート
『皆さん休みましょう…。本当にとんでもない森ですね』
リゲル
『一人だけやられたのは奇跡だ。まさかトーマスとはな』
クワイエット
『やっぱり血を流すと狙われやすいのかな』
シューベル
『ふん、奴の油断だ…くそっ!』
バッハ
『苛立つなシューベル』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『さて、休みながら考えよう』
俺達は彼に視線を向ける
ここから脱出するための話し合いかと思われたが
ロイヤルフラッシュ聖騎士長はこっちを向いてない
俺は首を傾げると、彼は『これはなんだ?』と言って地面を指差す
《……なんだこれ》
カイ
『これはいったい』
ルーミア
『落書き?』
地面に矢印が描かれ、隣には『休憩用』と書いている
この森には似つかわしくない光景にみんな頭を悩ませた
矢印の先にも矢印、どうやらどこかに導く目印に見える
アカツキ
『これ古代人が?』
リュウグウ
『バカかお前は』
ティアマト
『違うのか?』
リュウグウ
『もうお前ら喋るな』
クローディア
『ロイヤル、これ思い出さないの?』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『何がだ?』
クローディア
『グリモワルドのサインよ?目のマークがある』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は思い出したようであり、驚きながら地面に書かれた矢印に近づいて凝視だ
幻界の森を制覇した者はジェスタードさん、そしてロイヤルフラッシュ聖騎士長から聞いたゾンネの二人のみ
予想ではイグニスもだと思うが
もしこの矢印がジェスタードさんが書いたのならばかなり希望がある
ゲイル
『一度ここを宿にしていたのか?』
アカツキ
『どうだろうね』
クリスハート
『矢印を追ってみますか』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『その前に休むぞ』
リュウグウ
『真上に巨大な蛇がいるのに安心して休めると思うか?』
誰も視線を上に向けようとしない
デカすぎる蛇が舌をチョロチョロだしながらこちらをみているのだ
俺はチラ見でその姿を確認したけども、見ただけで体が強張る
ジキット
『ロイヤルフラッシュさん、上のアレは大丈夫なんですか』
ドミニク
『襲われたらひとたまりもないですよ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『襲ってくるなら今頃お前らは蛇の腹の中だ、今は僅かでも体力を回復して移動するぞ』
実際、俺達は全力でずっと走った
息切れは直ぐには治らず、体がいつもより重く感じる
襲ってこないのならば、休むしかない
体力の回復をしている最中、口を開く者はいない
腰を下ろした者たちが徐々に立ち上がり始めると、ロイヤルフラッシュ聖騎士長は頷いてから矢印の方向に歩き出す
森から魔物のおぞましい鳴き声がここまで響き渡り、この広大な空間に反響して聞こえる
そんな声に俺達は気を取られながらも巨大な建造物を外回りで歩く
ジェスタードさんの残した矢印、その先には建物の中に入れる入り口があった
扉があったような感じだが、長い年月で錆びて壊れたのだろう
近くにそれっぽい扉が倒れている
クローディア
『中に入るしかないわね』
ティアマト
『中に何がいるんだろうな』
リリディ
『何かいるとかやめてくださいよ…』
カイ
『聖騎士、中を制圧しつつ進むぞ』
『『『はっ!』』』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は先頭を歩き、中に入る
暗いと思いきや、なんと壁にかけられた発光魔石がまだ生きていたのだ
光量は少ないが薄暗い程度だ、全然見てるよ
俺はいつの間にかティアの手を握っていたらしく、彼女は『少し痛いかな』と苦笑いを顔に浮かべて知らせてきた
『ご…ごめん』
『気にしないで、みんな怖いのは一緒』
《どっちが女だ?》
ぐ…テラめ
建物内はさほど損壊は見られない
しかし床一面に瓦礫が至る所に落ちている
斬り裂かれた絨毯や家具、錆びた剣など色々だ
リゲル
『中に魔物がいないと限らねぇ、お前ら気を緩むなよ』
クワイエット
『本当に疲れる場所だねこの森、てかここまで来たの初めて』
クリスハート
『こんな規格外な森とは…』
クローディア
『笑いたくなるわよね、ランクBのアラクネリアが8体も普通に出てくるのよ?雑魚ランクみたいに当たり前に現れれば常識疑っちゃう』
バルエル
『トーマスさん…』
シューベル
『忘れろ』
バルエル
『しかし』
シューベル
『帰ってから贅沢に悲しめ、今はその時じゃないぞ馬鹿が』
上官の言葉に新人1番隊は口を閉じる
悲しそうな表情だが、死んだトーマス仲が良かったのかもな
するとロイヤルフラッシュ聖騎士長は突き当りで足を止めた
よく見ると壁には魔石が食い込まれており、矢印はそれを指している
記録用の魔石か、連絡用魔石か…
どちらも色は紫色だからわからないが、この場合は記録用だろう
聞け、壁に食い込んだ魔石の横に字はそう書いていた
俺達イディオットは後ろの警戒をし、左右の廊下は聖騎士やエーデルハイド達で目視警戒
その間、ロイヤルフラッシュ聖騎士長はクローディアさんと共に魔石に近づく
『メッセージ、でしょうねこれ』
『グリモワルドめ…何を残した』
『聞こえばわかるわ』
《聞いてみようぜ、多分聞かないと生き残れねぇ…》
俺達は予定より大きく外れてしまった
今頃は幻界の森を抜けて洞窟に歩いている頃なのに、俺はまだ森の中にいる
帰れる保証を感じないが、それでも生き続けていなければ帰れる保証も生まれない
不思議と心は落ち着いている、それが救いだ
仲間たちも混乱する様子はない、最悪な場合を想定していたからだ
なってしまったならばしょうがない、俺達はそう考えれる
しかし、聖騎士の半数はそう思えてない表情だ
不安という暗い感情が顔に出ているのがわかる
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『情けない顔しおって、冒険者達を見習え馬鹿どもが』
彼は囁くようにして部下にそう告げ、壁に食い込まれていた魔石に手を伸ばすと魔力を流し込んだ
魔石は僅かに発光し始めると、そこからジェスタードさんが残したメッセージ
言葉の記録が再生されたのだ
『この場に辿り着き、この場で生きる希望を捨てきれぬ者にこれを送る』
紛れもない、それはジェスタードさんの声だ
全員が目を見開き、警備など忘れて声のする魔石に顔を向けた
『ここは人が踏み入れてはならぬ森、今はその内容を省いて話しマショウ。夜になると森にはドグマという邪悪なゾンビがもの凄い数で蔓延る、それに見つかればどちらかが死ぬまで追いかけられマッス。この神殿は神蛇ツェンバーによって保護された神聖な建物、無暗に破壊せずに静かにしていれば害を加えてこないので注意シマショ。夜は外から叫び声が凄いシマスが。それがドグマの鳴き声デス。夜は絶対に外に出ないで朝まで神殿で耐えましょう。早朝時間には魔物の動きが鈍くなるので、そこが活路です…今日をここで過ごし、神殿の階段から見える赤い花が沢山咲いている木々を目印に真っすぐ行けばこの地獄から脱出できます。希望捨てずに生き残る為にガンバデスゾ?』
俺達は帰る為に大きな情報を、ジェスタードさんが残した記録で見つけることが出来た
一同はホッと胸を撫でおろし、聖騎士達は小さくガッツポーズをする
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は不気味に笑みを浮かべ、大斧を担ぐと『今日を辛抱だ。聖騎士の意地を見せろ』と部下の指揮を静かに上げる
ティアマトは俺の背中をドンと叩き、口元に笑みを浮かべたまま俺に親指を立てた
アカツキ
『いけそうだな』
ティアマト
『だな』
リゲル
『ドグマか…』
クリスハート
『建物が安全ならば、安心ですね』
シエラ
『帰れる』
ゲイル
『希望が凄い見えたな』
クローディア
『ロイヤルフラッシュ、休める寝床を確保しに行くわよ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『うむ…冒険者達はここで警備を、聖騎士達は左右に見える部屋の制圧だ。ここから見える範囲だけ『あと1つ重要な事がアリマース!』…!?』
記録用の魔石はまだ再生されていた
それ以上に何を話すつもりなのかと俺は耳を傾けると、ジェスタードさんの残した記録からは聞きたくなかった情報を聞かされてしまう
『私の両手に握っている魔物はゴスペルと言ってですね!この森でテイムしたんだすよ?ランクB、初見だとほぼ倒せず即死シマスヨ?叫び声は超厄介、耳を閉じて戦わないと発狂して勝手に自害しますのでご注意を』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『…ぐっ。とんでもない魔物を掴んで歩いていたのかあの馬鹿は…』
クローディア
『デスペル…未知の魔物』
クワイエット
『叫び声を聞いたら終わりって怖いねリゲル』
リゲル
『マンドラゴラかよ』
クリスハート
『グリモワルドさんと会ったことないのですが…』
リゲル
『お前はないだろうな、両手に糸操り人形みたいなの掴んで歩く変な五傑なんだけど、掴んでる人形がランクBとか凄いな』
初見だと回避不可能過ぎる
叫び声を聞けばそこで死ぬことが確約されるとか最悪過ぎだろ
リュウグウが変に息を飲みこんで聞いているが、その魔物はどこにいて何をしているのかわからん
正直怖いよ
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『…では各自動け』
こうして聖騎士達は視線の先に見える部屋をしらみつぶしに調べる為に慎重に歩き出す
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