第39話 台風の日編 特殊な人たち

俺は朝、凄い音で目が覚めた


台風だ


『んお?』


上体を起こしてベッド横の時計を見ると、早朝の5時だよ…

しかし窓は板で補強されていて外は見えない

ガタガタと窓が揺れ、僅かに家も揺れているけども壊れないか心配だ


《風強いな兄弟》


先にテラ・トーヴァが起きていたから話しかけてくる

俺は欠伸をしてから彼に話しかけた


『起きてたのか、神出鬼没過ぎないかお前』


《俺も音で起きたんだよ、トロールは大変だったな》


確かに大変だったなと思いながらも二度寝を狙い、再び横になる


『大変だったけど、目標が見えた』


《だな、兄弟は確かに良いスピードだが…それを活かすスキルが無い、ゾンビナイト見つけて斬擊強化狙っとけ、熊五郎のピッタリなスキルはまだ先だ、まぁ仲間は全員引き出し増やす様に場数増やさないとダメな時期だ、次はお前の為に使っとけよ》


『わかった』


そうした会話をしていると、急に部屋のドアが開く

ちょっと驚いたが、妹のシャルロットだ


『アカ兄ぃ、起きてた』


凄い爆発した寝癖に微妙な顔をしてしまう

どう寝たらそんな頭になる?一度徹夜してでも寝る姿を見たくなる


多分シャルロットも音で起きて不安になったからベッドに潜り込もうとしたのだと推測する。


『わかったよ、今日は許す』


シャルロットは眠そうな顔のままニコニコし、ベッドに入ってくる

俺も寝るか…


《兄弟、一線越えるのか?》


『馬鹿言わないでお前も寝ろ』


『アカ兄ぃ?独り言?』


『いや、違う…寝ぼけてるんだよ』


『そっか、おやすみ』


《クックック…》


この野郎……

まぁしかしだ、二度寝は気持ち良い

起きてから『まだ寝れる』と言う開放感が得られるからな


風は昨日の夕方よりも遥かに強く

何かが家の外で何かにぶつかりながら転がる音が聞こえる


妹は凄い、もう寝たよ

俺も寝付こうとすると、予想よりも早く眠りについたよ

時間は8時だが、まだ大丈夫だ


何もなければいつも10時に起きてるからな

いつの間にかシャルロットもいないが、母さんの手伝いで妹は意外と起きるのは早い


《兄弟、台風だがこりゃ面白いな》


『どういうことだ、俺は今から三度寝だぞ』


《それも驚きだ、しかし台風が遅い原因はどうやら別だな…》


『別って何だよ…魔物とかいうなよ?』


《魔物さ》


俺は飛び起きると、テラ・トーヴァはクスクス笑う

魔物ならば大変だぞと言ったが、奴の反応を見るにそこまで深刻じゃなさそうだ


《何も全部の魔物が人間に害をなすわけじゃないさ、台風の中で心地よくしてるこった…》


『何がいるんだ?』


《まぁそれは教えても蛇足だから秘密だぜ兄弟、人が出会うことは無いからな》


そうか、ここまで言われると逆に気になる

だったら言うなよな…ったく

進行速度か遅い台風は非常に珍しいが、そういった台風はきっとテラ・トーヴァが言っていた『とある魔物』なのだろう


害が無いなら大丈夫か


俺は寝てから10時頃に起きると寝癖のままリビングに向かう

ソファーでは父さんが座ったまま寝ており、シャルロットが父さんの太股を枕代わりに横になって寝ていた


『起きたのアカツキ』


リビングのリクライニングチュアでのんびりしていた母さんが小声で話しかけてきたが、本を読んでいたか

今流行りのミステリー小説だな


『起きた』


『鍋の中にアサリの味噌汁あるから食べてね?』


ありがたく温め直してからテーブルの上にあったスクランブルエッグと共に食べたよ

凄い風だ、家大丈夫かな…


しっかし外も行けないとなると本当に暇だ



朝食を食べてからは2階に戻り、補強した窓に視線を向けると僅かに雨が入り込んでいた


綺麗な雑巾で軽く拭くだけでいいか

これじゃグリンビア全体で外出は無理だ

仕事なんて出来っこない


飯を食べ終わり、どうしようかとリビングでうろつきながら考えていると、外から音が聞こえた

あぁ、裏の物置だがドアが開いてしまってバタンバタンいってるよ

幸いな事に物置内にたいしたもんは入ってない筈だけども…


視線で母さんが行ってこいと俺に訴えてる

これは行くしかないか


『わかったよ』


声を小にし、父さんとシャルロットを起こさないようにしてから裏口に向かうと、ドアを開けたのだ


『ふぁっ!』


かなり風が強く、目の前を何か大きな物が飛んでいった、タライだ

危なかった

前屈みで外に出てみるとわかるけども、こうしないと飛ばされそうになるんだ

物置は直ぐ横だから助かる


よく見るとドアが壊れてた

相当錆びついていたのだろう、俺はどうしたもんかと考えながら雨をしのぐために物置の中に入った

ここなら風しか入らない

中は5畳ほどのスペース、壁にスコップや鎌など色々あるが特に最近は使う用事などない

そのうちこの小屋も補修しないと駄目だなこれ


《意外とこういう場所で外を眺めるの好きだぜ?》


『わかる、説明しにくいけど部屋から窓を開けて大雨を眺めている感覚に似てる』


《そうそう!わかってるなぁ兄弟、俺達は変人だ》


まぁそうかもしれん

んで、ドアノブを見て見るがガタついている…これじゃ直ぐ風で開いてしまう

物置の中に置いてあった大きな漬物石を両手で持つと、それを使ってドアの前に置いて開かないようにしてみたけども、これしか思い浮かばない、

ロープあったしそれ使えばよかったかなぁ

ドアは風で開こうとしても漬物石があるので開く事は無い、しかし重たかった


『これでいいと思うか?』


《開かなけりゃいいんだよ兄弟、だが凄い人間もいるんだな》


『え?』


俺は早く家の中に入りたい

凄い人間というのはどういう意味かと多少気になるが、雨に打たれ過ぎてちょっと寒いから中に入ろうとすると声が聞こえて来たのだ


『いっちに~さんし!台風直撃いってこ~い!』


俺は腕で顔を隠しながら声のする表に向かうと、シグレさんが走っていた

嵐の日にランニングとはどういう神経なのだと俺は目を疑う

危ない筈なのに、シグレさんとはその言葉が似合わない気がするのは何故か


『お?アカツキ君か、君もトレーニング?』


『違います』


俺の前で両足を交互に上げて話しかけてくる


『シグレさんはトレーニングですか?』


『だって暇だろ?そういう時はトレーニングだよ、あ…そういえばティアは部屋でのんびりしてるけども会わないのかい?』


『この天候で僕が会いに行くと思ってます?』


『あはははは!だよね…ごめんごめん!台風だから今日は大人しくしてるんだぞ?』


『…はい』


大人しく出来ない人に大人しくしろと言われて複雑だ

彼は颯爽と表通りを軽く走っていく


『‥‥』


《どういう生き方したらそうなるんだ?兄弟》


『知らない、あの人は特殊だ』


《見たらわかる、あとあいつも特殊だな》


『へ?』


特殊な人間なんて1人しかいないと思いながら、台風の中、辺りを見回した

するとどうだろうか


2つ隣に新築を建てた同業者であるバーグ・ジェガンタさんが雨風に煽られながら歩いてきたのだ。

その光景に俺は目を疑う


30代前半、まだイケイケの冒険者であり、彼のチームは俺達と同じDランク

フルデ、ドラゴン、プラオさん率いる4人構成のパーティーなのは覚えてる。


『おや、アカツキ君も買い物かい?』


近くまで来たバーグさんから衝撃的な言葉に更に驚く


『も?!俺は違いますよ、バーグさん何してるんですか』


『昨日買い物忘れちゃって…、奥さんがまだ寝てるから起きる前に頼まれたシメサバ買わないと怒られちゃう、まぁこんな天気に買うシメサバはきっと新鮮だ』


理解が出来ない

店が開いてると思ってるのだろうか…


『開いてると思いませんが』


『大丈夫大丈夫!そこに人がいれば何かが起きる!』


これも理解が出来ない

閉まってたら会えないと思うんだけど

彼は嵐の中、俺の肩をポンと叩くと商店街に向けて歩いていく

すると正面から風で飛んできたバケツが顔面をヒットし『ギャプランッ!』と叫びながら背中から倒れた。


俺は彼に肩を貸し、家まで戻してから自宅に向かう

裏口にから家の中に入ると母さんがタオルを持って待ってくれていた。

凄いずぶ濡れ、頭を拭いてから服を脱ぎ、直ぐに着替えたよ

風邪ひきたくないし


俺は部屋に戻るとベットに寝転びながら魔物の本を開く

俺達のいる街の近くの森には魔物はいるが、全てがいるわけでは無い

その場所の気候や特徴によって出現する魔物も違うからである



『斬撃強化は欲しいけども、ゾンビナイトとか意外と森で会わないよな』


《太陽を嫌うからな、パペットナイトとかどうだ?あいつも斬撃強化スキルあるだろう?》


『でも稀だぞあれ』


《ここらじゃそうだろうな、斬撃強化持ちか、Fだとゾンビナイト、Eはパペットナイト、Ⅾならソード・マンティス、んでCはリザードマンだがリザードマンが一番ハズレが無いな》


『どうしてだ?』


《スキル複数持ちさ、斬撃強化スキルと斬撃技スキルがある‥個体によって違うけど最悪でも連続斬り、良いと真空斬っていう武器を振って斬撃を飛ばす技さ、使い勝手良いぞ?》


『欲しい』


《沼地しか生息しねぇよ兄弟、この街にあるか?》


『隣街だな、海抜の低い森の先に一部沼地があるけど…』


《なるほど、2択か…まぁ狙う価値はあるから考えときな》


いつかそうしたいものだ

テラ・トーヴァは本当に詳しいな、欲しいスキルあるときにこいつに聞けばいいんじゃないかな


『そういえばコンペールの件で気になってんだけど』


《どうした?》


『コンペールのスキル知ってたんだな、だけど人の中だとあの魔物にスキルは無いと言われてるぞ』


《スキルが無い魔物なんていないさ兄弟、ドロップ条件がある魔物だっている、それがコンペールなのかもしれねぇ》


『条件?』


《魔物にスキルを使わせてから討伐とか、スキルをドロップするように下準備する行為が必要な奴って言えばいいか、だがコンペールは俺も知らねぇんだ…》


なるほどな、少し勉強になった

がむしゃらに倒しまくっても意味がない魔物もいる

その条件を持つ魔物のスキルはきっと良いスキルの筈だ

俺は魔物の本を熟読し、スキルが無いと記載される魔物を探した


その魔物は俺達がお世話になってる森にもいる魔物だったのだ

Dランクのグレイバット

灰色のコウモリだよ。


1メートルと大きめのコウモリであり、翼を広げると2メートルは越えるだろう

だがこいつ、太陽嫌いの魔物だから殆ど洞窟内にいる

一応夜の森には餌を求めて洞窟から出てくるとは書いているけど


このグレイバットに良いスキルなんてあるかな

だが試してみたい気もしなくもない


《期待するだけ無駄なスキルだと思うがな…だが気になる気持ちはある》


『確かに、そういえば台風の中に魔物がいるって言ってたけど、普通の魔物でもこんな天気で顔出す奴はいるのか?』


《あぁいるぜ、面白い魔物だがそいつも何のスキル持ちか俺は知らねぇ》


お前も知らないか

やっぱり気になるなぁ




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