第267話 5 イーグルアイを鎮静化させよう

リゲルは不貞腐れた顔を浮かべ、椅子にもたれ掛かる



『だっる』



テラから色々と事情は聞いた彼だが、面倒だという感情が沸いていた

休憩所スペースにある椅子に座って寛いでるが、彼は相手方が馬鹿ならば追撃してくるのだろうと予想していたのだ


貴族騎士が建物の物陰に隠れていたことも、彼は瞬時に悟っている

だからこそ、ここで待ち構えたのだ

その堂々たる姿は夜襲を奇襲で返そうという意思はない、あるのはこちらが勝つという自信


『バカな奴だ』


リゲルの口から自信あふれる馬鹿にした声が漏れる

少しすると正面玄関の床が僅かに軋む音

入ってくる気か?と思いながらも椅子に座ったまま足を組み、玄関横の休憩所スペースから未熟な足音を聞き澄ます


(…?)


フロントには椅子に座って寝ている作業員

かなり爆睡しているからちょっとやそっとじゃ起きない

しかし普通に入ってくれば作業員も起きる可能性もある

だがリゲルの見ている視線の先から現れた姿は貴族騎士の姿というより追剥のような恰好をした者が5名


リゲルは驚かない、素性を隠して証拠を消すならば誰でもそうすると思っていたからだ

貴族騎士が宿で問題を起こしたとなれば、貴族とて知らないという無視は出来ない


リゲル

(馬鹿な貴族騎士だ、変に言いくるめられて焦ったのか)


彼らはトロイ達を捨てればよかった

そうすれば自分達に被害が起きないからだ

知能を低い騎士に彼はクスリと笑うと、茶色いローブを羽織る貴族騎士は驚きながらリゲルに体を向けて湾曲した特殊な剣を向けた


以前としてフロントの作業員は起きず、静かなロビー内では彼のいびきが響き渡る


『茶はもう出せねぇぞ?』


リゲルは小さく笑いながら口を開く

彼からはフードを被る彼らの顔はあまり見えない、しかし鋭い眼光が向けられていることだけは確かだ

一言も話そうとしない様子にリゲルは溜息を漏らし、首をまわすと骨が鳴る


相手も薄暗いロビー内で彼がリゲルだという事を認識していないが

そもそも貴族騎士はリゲルの名を知っていても顔を知らない


『忍び足も下手、慣れてないのもさっきの動揺で感じた…お前ら素人だな』


挑発だ

彼はそのまま背伸びをすると、再び口を開いた


『お前らは普通に見張りをしてから館に戻っていつもの報告をして体を休めていりゃよかった』


その瞬間、5人が一斉にリゲルに飛び掛かる

手には湾曲した特殊な剣、明らかに殺す気で来ているとリゲルは冷静に感じ、動き出した

目の前の小さなテーブルを蹴り上げ、落ちてきた瞬間に前に蹴ったのだ


奇襲者は足を止め、飛んでくる小さなテーブルを剣で真っ二つにする

その時間が命とりだ


『っ!?』


先頭にいた奇襲者は目を開いて驚く

何故なら真っ二つにしたテーブルの先にリゲルがいたからだ

先ほどまで椅子に座っていたはずの彼は蹴ったと同時に飛び出していたのだ


『ほら』


リゲルは小さく告げると、武器を前にして身構えている奇襲者を殴り飛ばした

吹き飛ぶ物音で作業員は起きると思いきや、起きないことにリゲルは驚く

彼には他を見る余裕がまだあった


『っ!?』


左右から飛び掛かる奇襲者

リゲルは下がらずに前に駆け出し、倒れた奇襲者を起こそうとする別の者の肩を深く斬り裂く


『ぬがぁ!』


激痛で声を出すと、そこでようやく作業員が起きた

しかし彼は目の前の光景を瞬時に悟ると、見なかったことにするために寝たふりを始める


(面白ぇ奴だ)


リゲルはそう思いながらも奇襲者を次々と剣で斬っていき、10秒もたたずにその場を制圧したのだ

相手は死んではいないが、放っておくと死ぬ危険があるほどの怪我を負っている


『くそ…貴様何者だ』


リゲル

『リゲル・ホルンだ。』


『な…貴様が…』


上体を起こす奇襲者に向けて剣を向けたリゲル

躊躇いなく自分達を斬っていた事を感じた奇襲者は動けばきっと殺されるだろうと知り、動けなくなる

数秒の静寂の中、リゲルは言い放ったのだ


リゲル

『誰に言われてここに来た?教えれば無事に返してやるぞ?』


『何故我らを知っている…』


リゲル

『こっちは元聖騎士さ…調査能力舐めるなよ?』


『くそ…』


リゲル

『お前らは来るべきじゃなかったが、来るべきでもあったかもしれねぇ』


彼の言葉に貴族騎士は首を傾げた

リゲルはそこで面白い事をその男に話したのだ

話の全容を聞いてしまった奇襲者である貴族騎士は彼のいう事を聞くしかなかった

そうしなければ今日を生き延びれたとしても、そのうち死ぬことになる可能性が高いからだ


リゲルは彼らが起き上がるのを見届けながらも『作業員、金貨1枚やるから見なかったことにしろ』と告げる

投げた金貨はフロントで寝たフリをしていた作業員に飛んでいくと、彼は跳び起きてから金貨を両手でキャッチしたのだ


作業員

『かしこまりました』


リゲル

『今日は良い日だ…。』


そこへ真っ暗な廊下の奥から1人の男が姿を現した

リリディである

彼は彼なりに、邪魔してはいけないだろうと思って飛び出さないようにずっと見ていたのだ


リリディ

『出ないほうが良かったですよね』


リゲル

『助かる。ちと悪いがみんなを起こし…いや明日の朝食時間にするか』


リリディ

『今2時ですからね…』


リゲル

『まぁそうだが、お前トイレで起きたのか?』


リリディ

『ご名答です。私の膀胱も調査済みだとは驚きですよリゲルさん』


リゲル

『勘弁してくれ。深夜の方がキレッキレじゃねぇかよお前…。てか猫は?』


リリディ

『ティアさんに取られました』


リゲル

『お前の猫は自由だな』


彼は笑いながらそう告げると、丁度そこへ先ほど寝たふりをしていた作業員がグラスに入った冷たいバナナジュースを差し出してきたのだ

『追剥撃退流石でしたお客さん』と言い、また彼はフロントに戻る


リゲル

『サンキュー』


リリディ

『しかし、あれは何だったのですか?』


リゲルは乾いた喉を潤すためにバナナジュースを半分まで飲むと、リリディに軽く話した

そして何故予定を変更したのかもだ


リゲル

『もしあいつらが俺の指示通りに動けば面白いだろ』


リリディ

『面白いって…貴方は鬼ですか?』


リゲル

『感情的な問題じゃねぇだろ黒賢者、結果が面白いってだけだ…んでちと野暮用があるから付き合ってくれや』


リゲルはリリディと共に外に出ると、懐から変わった物を取り出す

それは聖騎士をやめた時点で返却しなければいけない聖騎士の備品であり、名前は『集合弾』だ

発光弾と同じ使い方であり、地面に叩きつけると小規模な爆発を起こして空に舞い上がる

そして2度目の小さな爆発で鮮やかな色を発光させ、煙を出しながらゆっくりと下降していく


近くにいる聖騎士を集めるために作られた発光弾であり、リゲルは深夜徘徊する者がきっと見ているだろうと思って使ったのだ

その効果はてきめんであり、数分で聖騎士が2名彼らの前に現れる


彼らはアカツキ達と会話を交わした若い聖騎士であり、見知らぬ者が集合弾を放ったことに驚きを隠せない


聖騎士A

『馬鹿なっ…何を放ったかわかっているのか?』


リゲル

『返却してねぇのはロイヤルフラッシュ聖騎士長さんに言わないでくれや。バレるとチクチクいわれらぁ』


聖騎士B

『元聖騎士…いやまさか貴方は…』


リゲル

『13番隊の聖騎士は初めて見る。俺は元聖騎士1番隊のクワイエット1番隊副隊長代理のリゲル・ホルンだ』


名を告げられた聖騎士2人は驚き、僅かに後退る

当たり前だ、今目の前にいる男は1番隊でも精鋭と言われており、2人が憧れて入ったからだ

良い元凶が目の前にいると知り、2人はやめてもなお強い目を持つリゲルに頭を垂れた


聖騎士B

『13番隊、補給担当のカジットと申します』


聖騎士A

『13番隊、治療騎士というあだ名をつけられておりますハリウッドと言います』


リゲル

『治療騎士だと?』


聖騎士A

『運よくケアを会得した状態で聖騎士に入団出来ました。それと同時に普通の応急処置検定も2級を取得、テーピング療法も2級を先月は…』


リゲル

『お前凄いな…それで体力も剣術も問題なくって事か』


聖騎士A

『はっ!』


リゲル

『…補給担当か。力持ちということだな?』


聖騎士B

『力には自信があります。クワイエット1番隊副隊長には程遠いですが、足腰は農家で育った故に先輩にも負ける気はしません。貴方の村の近くにある街にて育ちましたが妹と弟がいるので学費の問題もあり、私は中退して聖騎士に賭けました』


リゲル

『見事受かったな…やるじゃん』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長は新しく加入した11番隊から13番隊にはリゲルとクワイエットそしてルドラの事は少しだけ話していた。英雄だったと

英雄に褒められた事により、聖騎士の2人は胸が熱くなる


しかしリゲルはそんな彼らの感情が無駄になることに僅かな罪悪感を感じつつも、口を開いた


リゲル

『悪いが手伝ってほしいことがあるんだ。俺も人間だ…困るって状況はある』


聖騎士A

『まずはお聞かせいただければ』


リゲルは彼らに説明をするが、1分もかからなかった

聖騎士2人は『一大事になりますね』と驚きを隠せない


リゲル

『って事だ…。どうする?』


聖騎士B

『直ちに我らは詰所に戻り。そちらの計画に合わせて動けるように警備兵と連携を致します。ただ13番隊の隊長が…』


リゲル

『どうした』


聖騎士B

『リゲル殿ならば存じていると思われます。元2番隊のベルトーチさんです』


リゲル

『自分勝手な性格な奴をなんでロイヤルフラッシュ聖騎士長は選んだんだ…あの人ほんっと人選を選ぶの昔から下手』


聖騎士A

『そう愚痴れるのは貴方かクワイエット殿だけですよ』


リゲル

『勝手な判断で動いたらロイヤルフラッシュ聖騎士長に報告するぞって言えば大丈夫だ。俺は元聖騎士だからきっと俺が指示をしたとしてもあいつは無視するかもしれねぇしな』


聖騎士A

『では変に動きそうならばロイヤルフラッシュ聖騎士長殿の名を使わせていただきます』


リゲル

『悪いな…』


リゲルは2人の肩を軽く叩く、直ぐにその場を離れて詰所に戻ろうとした2人だがハリウッドは何かを思い出したかのような顔を浮かべると、リゲルに聞いたのだ

魔力量を高める訓練は瞑想で本当に良いのか、と


リゲルはリリディに顔を向けると、そのまま話したのだ


リゲル

『こいつは魔法に関しては右に出る者は殆どいねぇ…そうだろ黒賢者リリディ』


リリディは名前で呼んでくれたことに心の中では驚くが、答えを求められていると知るとメガネを触りながら答えたのだ


リリディ

『地味でしょうが瞑想が一番です、しかし直ぐに成果は出ません…。2か月間の間に毎日30分続けても微々たる量ですが、1年ずっと続ければ馬鹿でも体感で感じますよ。塵も積もれば谷となる…みたいな感じです』


カジット

(山…だよな)


ハリウッド

(言わないでおこう)


ハリウッド

『黒賢者リリディ殿でしたか、そのお言葉を胸に刻んでおきます。それではまた…』


駆け出してその場を去る2人の背中を見送ると、リゲルはリリディのケツを軽く蹴った

『塵も積もれば山となる、だ馬鹿たれメガネ』と言いながら笑う


リリディ

『谷だと減ってますね!』


リゲル

『やっぱ夜の方がキレッキレだぜお前』


リリディ

『嬉しくないですが。今日はもう寝てもいいでしょうね』


リゲル

『んだな、明日にみんなに話すぞ』


こうして2人は宿に戻り、各自の部屋に戻る








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