第106話 侍王と魔導王編 7 世界騎士VS道化傀儡

『まだ遠い!逃げマスよ!』


ジェスタードさんが叫ぶ、叫ぶ人だったかと驚くがそれよりも脱出だ

俺は無意識にティアを抱きかかえる、彼女は慌てたが気にしない


リュウグウ

『ちょ!エロメガネ!』


リリディ

『我慢しなさい!』


リリディはリュウグウを担ごうとするが、頭を叩かれた


リュウグウ

『私は足は平気だ!』


なら大丈夫だ

2人の装備をティアマトに持ってもらい、俺達はジェスタードさんを先頭にドアを破って走った

廊下にいた看護婦や侍騎士が驚いているが気にしている暇なんてない


《まだ全然遠いがこっちをとらえてはいない!急げ兄弟!出会ったら死だぞあいつは!》


『わかってる、みんな死ぬ気で走れ!』


ティアマト

『くっそ!逃げるのはむかつくが…』


リリディ

『仕方ないでしょう!誰も倒せない人ですよ!逃げても誰も笑いませんよ』


そうだ

誰も笑わない

ドラゴンを背に逃げるような感覚に近いな

そのような超高位種の生き物相手に逃げても『仕方がない』と誰でも言うはずさ

俺はイグニスをそれ以上の存在だと認識している、俺だけじゃない


ジェスタードさんもきっと…


『アカツキ殿、ついてきなさい!』


ジェスタードさんはそう言いながら治療施設の外に出ると、思いもよらぬ者と鉢合わせになる


リゲル

『あ』


クワイエット

『あ』


こんなところでお前らかよ

俺達を監視するマグナ国の聖騎士、その中でも精鋭の2人だ

いきなりの出会いにあっちは驚いて固まっているが、俺は何故か彼らに叫んでしまう


『逃げろ!死ぬぞ!!!』


『『はっ?』』


ジェスタード

『こっちデス!』


何故俺は彼らに逃げろと言ったのか、それがわからない

街中を急いで走っていると、後方からリゲルとクワイエットさんが急ぎ足でついてきている

彼らも後ろをチラチラ気にしながらだけどもきっとわけがわからないだろう


『おいおいどういうことだ!何わけわかんねぇこといってんだお前』


『リゲル、マグナ国の聖騎士を襲った漆黒騎士といえばわかるか?』


『っ!?』


リゲルは驚きながら後ろに振り返る

しかしこっちは走っているからイグニスの姿は見える筈がない

大通りを市民を避けるようにしてひたすらずっと走っていると、大広場に辿り着いた

円状の大広場、中央には噴水にムサシ王の銅像だ


ベンチには市民が休んでおり、侍騎士がわんさかたむろしている

息切れをしていた俺達はその場に立ち止まると、ジェスタードさんも足を止める


『テラ、イグニスとの距離は!』


ジェスタードさんが急かすように話すと、テラは答えた


《多分気づいてねぇ…いや、わかんねぇけども距離は500mほど先だ!もうすぐ治療施設の前ぐらいだ》


そんな会話を聞いていると、リゲルがジェスタードさんに恐る恐る質問をしたんだ


『何が起きてるんす?』


『お前らの同胞を殺したのは世界騎士イグニス、そいつが今近くにいるのデスよ…君らも私服とはいえ…きっと彼にはバレて殺される。公衆の面前でもあいつは構いはしない』


『嘘…だろ?世界騎士イグニスったら…伝説の…』


アカツキ

『今は逃げるしかない、あいつに勝てるとはお前でも思わないだろう?』


クワイエット

『サイン欲しいなぁ…』


するとリゲルはクワイエットさんの脇腹を殴る

クワイエットさんは痛がるが、リゲルは彼を睨みつけながら話す


『死にに行きたいのかお前…くっそ!仲間の仇がイグニスかよ!無理じゃねぇか!』


彼は近くに落ちていた水筒を蹴って遠くに飛ばす


《兄弟!やべぇ!》


『どうしたテラ!』


《急げ急げ!あいつも俺みたいに気配感知が馬鹿みたいに広い!こっちに向かってきてるぜ!今すぐ走っ…》


テラが最後まで言うことはなかった

俺達が通った道の遥か向こうから細長く、白い光線が飛んできたんだ

飛んできたのはわかる、しかし早すぎて反応が出来なかった


ジェスタードさんは自身の体の正面に瞬時にシールドを張る

白い光線は彼を狙っていた、光魔法のレーザーだと思うが…これは・・速過ぎる!!


『ぬっ!?』


ジェスタードさんのシールドは一瞬で押され、盾もろとも吹き飛ばされていった

一瞬過ぎる…隣にいたジェスタードさんが消えるようにして吹き飛んだのだ

周りの人は何が起きたかわかっておらず、キョロキョロしている


ティア

『ジェスタードさん!!』


クワイエット

『そんな…グリモワルドさんが』


リリディ

『覚悟を決めるしか…ないですね皆さん』


リュウグウ

『くそ!ここが終点か』


アカツキ

『構えろ!』


俺達は直ぐに身構える


すると奥の方から徐々に何かが見えてくる

そして俺達は不思議な現象が起きていることに可笑しさを感じなかった

耳鳴りが凄く、無音だったんだ


周りの人の声も、こちらを見て首を傾げる侍騎士の歩く甲冑の音も何も聞こえない

先ほどの一瞬で何が起きたか周りは気づいていないのだ

俺の耳に聞こえるのは遥か遠くから歩いてくる鳥の様な仮面をし、赤と黒が交わる鎧の騎士の者の足音、ここからでもきこえるとは笑いたくなる


『信じたい…君たちではないコトヲ』


低い声だ、初めてじゃない

ドッと汗が流れる、体が熱い

十分休んだはずなのに再び息が苦しくなる

それよりも…あんな不気味な恰好をしている者に誰も気にする様子はない


まるでそこにいないかのように世界騎士イグニスとすれ違っている

あんなにも禍々しい瘴気を体から吹き出し、悪魔のような姿をしていてもだ


《兄弟…気配完全遮断だ。あいつは眼中にない対象に限り…いないように思わせることが出来る特殊な超希少スキルだ》


アカツキ

『とんでもないな…』


ティア

『アカツキ君、降ろして…私はいいから』


俺は彼女を降ろし、リュウグウにティアを任せて下がらせた

武器を構えていると、とうとう奴が50メートル先まで来て足を止める

リゲルとクワイエットさんも険しい顔をしているが、逃げる気はないようだな


リゲル

『く…やべぇなこれ、アカツキうんぬん考えている暇ないなクワイエット』


クワイエット

『これは流石に死を覚悟するよね…ロイヤルフラッシュ聖騎士長以上の気迫を凄い感じる…肉をたらふく食べて死にたかったなぁ…』


アカツキ

『飯を考える暇あるなら戦ってください』


世界騎士イグニス

『教えろ、お前は違うな?アカツキ』


イグニスは意味の分からない言葉を俺に問いかけてくる

俺は何のことだかわからず、僅かに首を傾げる

するとイグニスは大きな剣を担ぎ、鎧の中から目を光らせて話しかけてきた


『ムゲンに盗聴用の魔石を仕込ませていた…そこで聞いた…しかしお前ジャナイだろう?開闢スキルの今の持ち主』



























『俺だ』


低い声で、俺は答えた

覚悟は出来ている、よくここまで頑張ったなと俺は自分を褒めてやりたい

諦めるのが速い?いやこれが普通の人間の考える事さ


赤子が獅子に勝てるか?無理だろ

奇跡なんて期待するような戦いなんて俺たち冒険者はしない

力が全てなんだ…俺達の世界はな


『…神はあまりにも残酷だな、なぁ戦神テラ・トーヴァよ』


俺は時間が止まったかのように衝撃的な事実に驚いた

リリディが言っていたな…星が誕生してからは僅かな神しかいなかった

その中でも戦いの神がいた


それが開闢スキルのテラ・トーヴァだったのか

なんでスキルになっているんだ…


テラ・トーヴァは答えなかった

俺はこの状況を少しでも生き延びる為にどうするか、少しでも脳をフル回転させる


だが何も浮かばない

体と脳が諦めていることに、今気づいた


リゲル

『アカツキ、お前なんでこんな奴にも狙われてるんだ…』


アカツキ

『…』


イグニス

『最強のスキル、開闢を保持しているからだ』


その言葉でリゲルたちは全てを悟ったようだ

俺を見る2人の顔は驚愕そのものだ


クワイエット

『ロイヤルフラッシュ聖騎士長が僕たちに教えないわけだね…おとぎ話だと思ってた』


リゲル

『お前が…、いやしかしそうか…まだ上手く扱えてないから俺でも楽にあの時は倒せたのか…』


アカツキ

『そういう事だ、俺の持つスキルが各国に知られると戦争になるらしい』


リゲル

『作り話で聞いたことあるな、スキルをめぐって戦争になった話をよ』


イグニス

『お前が持っているとは悲しい、俺は傷つけたくなかった』


アカツキ

『嘘つけ、お前は誰だ!』


イグニス

『知らずに死んだ方が幸せだ…』


奴は大きな剣をこちらに向けると、魔力を込め始める

バチバチと放電が始まるが…なんの技だ!?

見ただけでとてもつないものだとわかる


体が動かない…畏怖しているのだろうな


『レールガン』


俺の遥か後方から声が聞こえた

その瞬間、俺の直ぐ顔の横を目にも止まらぬ速度で雷の光線が通過し、世界騎士イグニスに襲い掛かる


『!?』


彼は剣を盾にそれを空に弾く

それによって軽く剣が弾かれるが、あの凄い破壊力がありそうな魔法を弾くとは凄まじい


僅かにバランスを崩したイグニスに向かって、俺の横を通過して突っ込んでいった者がいた

ジェスタードさんだ

両手に持つ糸操り人形に魔力を込め、右手で殴りかかった


『小癪な』


イグニスは直ぐに態勢を立て直すと同時にジェスタードの攻撃を剣で防ぐ

金属音が響き渡り、そこで周りの人たちが初めてイグニスがいることに気づいた


人々は慌ててその場から逃げると、侍騎士がその様子に止めに入ろうとする

しかし2人の間に割って入るなど不可能だ、それを体で感じて足を止めている


イグニス

『グリモワルド、何故お前はそっちにつく?』


ジェスタード

『我が輩がそれを聞きたいデスね!』


イグニス

『聞きたくば勝ってみよ』


イグニスは彼の腕を弾くと、素早く回転して剣を振る

ジェスタードさんはそれを手に握る糸操り人形で弾くけど、あれって堅いんだな


リライト

『とことんやるよレフター!』


レフター

『おうよ!俺達をなめんなよ旧友!』


イグニス

『面倒な小道具めが』


ジェスタードさんは剣でガードするイグニスの剣に両手に握る糸操り人形をぶつけて紫色の爆発を引き起こした

爆炎の中にイグニスは消えるが、彼は直ぐに煙の中から縦に剣を振り下ろす


その攻撃を白刃取りするジェスタードさんも凄い、彼は剣を掴んだまま腹部を蹴り、イグニスは地面を滑るようにして吹き飛ぶ


イグニス

『やはりお前は5人の中では使える男だ…』


イグニスは腹部をほろいながらもジェスタードさんの目の前に瞬時に移動すると、目にも止まらぬ速さで何度も剣を突く


『無駄デス』


ジェスタードさんは全てを回避し、大声を上げて剣を弾いてから回し蹴りでイグニスの顔面を蹴るがビクともしない。その足を掴まれ、イグニスは右手を伸ばして先ほどの白い光線を撃ち放った


『くっ!』


直撃したジェスタードさんは地面を転がるように吹き飛ぶ

その最中に彼は地面を叩き、キリモミ回転しながら3発の黒弾を放った、見たことがあるぞ…それはリリディのシュツルムだ


『会得したか!』


イグニスはジェスタードさんに襲い掛かりながら3つの黒弾を斬り裂いて近づく


後方でシュルルムが爆発すると爆風で侍騎士たちは吹き飛んでいるけども死んではいないだろう

俺達は見守ることしか出来ない


邪魔したらきっと…


ジェスタード

『速い』


イグニス

『当たり前だ』


ジェスタードさんの目の前には剣を振り下ろす世界騎士イグニス

目で追えるけども、とうてい俺達には反応できっこないスピードだった

終わった後に何が起きていたか脳がそこで理解する感じに近い


ジェスタードさんは右手の糸操り人形で防ごうとしたが、受け止めたて直ぐに力負けし、そのまま地面に叩きつけられた


イグニスがトドメと言わんばかりに剣を押し込もうとすると、彼は異変に気付いた


『!?!?』


そうだ、あれがいた・・・召喚されていたんだ

呪王ジャビラス、巨大な藁人形であり、口は釘だらけ、目が悪魔のように釣り目だ

そのおぞましい魔物はイグニスに向けて大口を開いていたんだ


『これは流石に聞くでショウ?』


イグニスは逃げようとしたが、ジェスタードさんは剣をガッチリ掴んでいて逃げれなかった


『ジャアアアアアアアビイイイイイイイ!』


ジャビラスの大口から紫色と黒の巨大な光線が飛び出し、イグニスを飲み込んだ

その攻撃は大広場を超えて建物を破壊するほどだ、きっと被害も多い筈だ

俺はジェスタードさんが初めて周りを気にしないで戦う姿を見た


それほどまでに本気なんだ


数秒の攻撃が終わり、光線が消えた時に俺は仲間と共に絶望を感じた

イグニスの鎧はチリチリと赤く熱を帯びていたが、生きていたのだ

普通死ぬだろ…今のは人に耐えれる攻撃じゃないぞ!


ジェスタード

『馬鹿な!?そこまで堅い鎧なのデスか!』


イグニス

『ぐっ…アンデット系の攻撃をほぼ無力化する効果を持つ鎧だが…それでもこの威力か、流石は呪王…生身では俺でも即死だろうな』


彼はそう褒めたたえながら剣に魔力を込めると、地面に倒れるジェスタードさんに押し込みながら囁いた


『終焉爆刃(シュウエンバッハ)』


その言葉のあと、イグニスの持つ剣を起点に熱風を帯びた爆発が起きて俺達は吹き飛んだ











少し、意識が途切れた居たかもしれない

俺は倒れていた

急いで起き上がり、周りを見てみると横でリュウグウとティアが倒れている

声をかけようと口を開いたとたん、目の前に誰かがいることに気づいた


『あ…』


《兄弟…奇跡でも起きなきゃ無理だ》


いたのは世界騎士イグニスだ

体から煙が立ち込めている、そりゃそうさ

だって剣を爆発させて攻撃するんだからな、幾分か自身にもダメージはある筈だが


あるように思えない、余裕そうだった


『ロイヤルフラッシュの小僧はつまらぬ男だった、犠牲知らずして国を救えぬ…』


『お前が黒豹人族の村を壊滅したんだろうが…痛みはないのか』


『ないな…作られた世界にて感情は無意味』


『何を言っている?』


『お前にはわからない話だ…お前が狙いの者だったのには驚いていた…あの時俺は助けたことを後悔したくもなったが…助けないと本当に心を失くしそうだったからそうしただけ』


イグニスは大きな剣を振り上げる

殺されるならば抵抗ぐらいしてやると動こうとした瞬間に、彼の横からリゲルが飛び込んできた


『俺の獲物だ、取るな』


イグニス

『その覚悟、惜しい』


イグニスは剣を振ると、リゲルの剣を容易くへし折り

更に回転して彼を斬り裂いた


『っ!?』


驚愕を浮かべるリゲルはそれでも歯を食いしばり、自身の腰の後ろに手を回して投げナイフを手に取るとイグニスに投げる

だがしかし、それは容易く弾かれてしまう


『消えろ』


直ぐにリゲルの腹部にイグニスの蹴りが入り、彼は吹き飛んでいく

ガキン!と音が鳴り響く

俺は何の音だと目を向けると、イグニスの背後からクワイエットが剣を突き刺そうとしていたのだ

しかし、こいつの鎧が硬すぎて剣が折れたんだ


『そんな…』


驚くクワイエットに向かって溜息を漏らすイグニスは彼を斬り殺そうと剣を強く握りしめた

でもこっちにも覚悟を決めた仲間がいたんだ


リリディ

『シュツルム!』


ティアマト

『ギロチン!』


イグニス

『ほう…』


俺の顔スレスレを黒弾が通過し、イグニスはそれを軽く避けると頭上から落ちてくる斬撃を剣で弾いて消した


ティアマトとリリディが俺に近づくと、立ち上がらせる

イグニスは少し後ろに飛び退き、俺達の様子を見ているようだ


ティア

『ん…』


アカツキ

『ティア!大丈夫か!』


ティア

『大丈夫…』


みんな大丈夫だ

それよりもジェスタードさんだ…爆発した場所は深いクレーターになっており、彼の姿は見えない

死んでないことを祈るしかない


ティアマト

『どうするよ!この状況!』


リリディ

『どうもこうも絶体絶命ですよ、侍騎士さえ近づけませんから』


その通りだ、この大広場の外で侍騎士は近づこうとしない


イグニス

『頼みの人間はあのザマだ』


アカツキ

『お前は本当にイグニスなのか!何故人を平気で巻き込む』


イグニス

『何故か?マグナ国王は俺を裏切った、だから奴を殺すためにこちら側についた…やろうと思えばいつでも可能だが、まずは周りから殺せばおのずと恐怖する、そのあとに殺す…ジワジワと恐怖を植え付けるのも悪くはないだろう』


『何があった』

 

『教える気はない、すまない…』


イグニスは悲しそうに話すと、剣を放電させた

先程見せようとした技だ

俺達はやられるまえにやるしかないと覚悟をきめる


ティアも動けないのにラビットファイアーを放とうとしていた

しかしだ、イグニスの背後から何かが素早く現れた


『!?』


それにはイグニスも驚く


『お前がイグニスか』


エドの国王ムサシさんだった

飛び込んだ状態から大きな刀を振り下ろすと、イグニスは剣で受け止めた

凄まじい金属音が鳴り響くと、イグニスの足が僅かに地面に埋もれ、舌打ちをする


『馬鹿力か』


『女に失礼ね』


イグニスは剣を振って弾き、ムサシさんは宙返りしながら着地した

彼女の側近達は大広場の入口だ、くるなと言われたのだろうか


イグニスは唸り声をあげていると、ムサシさんは刀を構えながら彼に聞いた


『私の旦那候補はどこかしら?』


『誰のことだメンヘラ王、グリモワルドならばあそこで永遠に寝ている』


イグニスが視線を変えた

クレーターからいまだに消えぬ黒煙

ムサシさんは言葉の意味を悟ると、その場で剣を素早く振った


『ぬっ?』


初見、イグニスは見切った

ムサシさんは技を放ったのだ

あれは断罪だ、イグニスの目の前に巨大な斬擊が現れ、それをガードしたのだ


その威力は俺のなんか比較にならないほどに凄い

あまりの威力にイグニスは地面を滑るようにして僅かに吹き飛んだ


『女の王、馬鹿には出来ぬか』


『あんたはここで殺す』


『やってみろ、女めが』


二人が走りだし、互いの武器が激突するとムサシさんが弾かれた

素早く動き出すイグニスは剣を突き出すと、それをムサシさんは間一髪で頭をずらして避け、剣を振る


ムサシさんが剣を振れば僅かに斬擊が飛ぶ

近くにいると斬られるぞこれ

しかし押されているのはムサシさんだ、いくら彼女が馬鹿力でも相手は世界最強と言われた者、勝てるはずがない


『千斬り』


ムサシさんは懐に飛び込むと、刀を振る

イグニスは剣を盾にしてガードすると、物凄い連続で斬擊が現れた

初めて見る技に俺は口を開けて驚く

瞬時に千の斬擊を発生させる最上級の刀技なんだよ

感動したくても、今は素直にできない


物凄い金属音が響き渡ると、イグニスは唸り声を上げながら全てを受けきる

それ全部受け切ったのがあり得ない…


イグニスは体から衝撃波を放って彼女を吹き飛ばすと、宙に舞うムサシさんを空から紫色の光線が襲い、彼女は降る光線を刀でガードしたまま地面に叩きつけられた


『終わりだ』


イグニスは叫びながら飛び込み、ムサシさんを突き刺そうとする

しかし、彼女は『やばっ!』と口にして転がって避けた

イグニスの攻撃が地面に刺さっただけで辺りは隆起し、ムサシさん起き上がるとその場から飛び退いて離れる、イグニスは一直線に彼女に襲いかかる


『流石ね』


『惜しい女だ』


イグニスはそう言いながらもムサシさんの剣と何度もぶつかり合う

の速い攻撃に反応して刀を振れるってムサシさんも相当な実力者だ

それなりにイグニスとやり合えるという事は初代五傑にも十分に対抗できる力を持っていると言っても過言ではない


しかし相手は当時最強と言われた世界騎士イグニス

彼はムサシさんの攻撃を弾き、バランスを崩させると低い声で言い放つ


『お前もあの世だ』


首をはね飛ばそうと襲い掛かるイグニス

だが彼はムサシさんの前に現れた男に驚き、動きを止めてしまった


『殺すぞ』


イグニス

『ぬっ!?』


その者の持つ右手の糸操り人形でイグニスは腹部を殴られて吹き飛んだ

初めてイグニスにダメージが入ったかもしれない


イグニス

『ぐぬぉっ!!』


奴は地面を転がり、奥の建物の壁に激突して崩落に飲まれていく


『あ…』


ティアは声を漏らす

服装はジェスタードさんだけど、顔が違った

いつもは布袋を被る彼の布袋が破けて素顔になっていたのだ

その顔は酷い火傷を負っており、お世辞でも人の顔とは言えなかった



そこで俺は理解した

ジェスタードさんが顔を隠す理由とムサシさんの願いを叶えれない理由をだ


ムサシ

『カウラ…』


ジェスタード

『…醜いデショウ、何も言わなくてもよいのデス…。こんな顔が王になどなれない、あなたは世界一綺麗な王だ、吾が輩のような者と結婚したら吾が輩は王族になる、誰がこのような醜い王族を認める?あなたの知るカウラは死んだのです…吾が輩は貴方と共になれない。もし吾が輩がこんな火傷をしてなければ、きっとあなたを国から連れ出して駆け落ちでもしたデショウね』


ムサシ

『…気づいてたわ、あの炎の中で無傷の筈がない』


ジェスタード

『理想は理想のままが良い、これが現実の吾が輩デス…食い止めますので逃げなさい…最後に会えて良かった、ムサシ』


ジェスタードさんは火傷を気にして彼女にろくな返事をしなかったのだ

好きなのに、それを叶えれない理由があった

幼いムサシさんを館から救出したときの大火傷でだ


そんな彼は彼女に『最後に』と言った

時間を稼いで死ぬつもりなのか

だがそれでいいのか?ジェスタードさん


俺は違うと何度も思った

すると奥で崩落した建物が爆発したかのように弾け飛ぶ

唸り声を上げてイグニスがその中から姿を現すと、首を回して骨を鳴らしながら静かに歩いてくる


イグニス

『醜い顔だなグリモワルド、俺に近い力を持つ貴様がそんな顔だとはな』


ジェスタード

『それがどうした?目的が薄いお前ハただ強いダケで語られぬ存在ではない』


イグニス

『面白い冗談だ』

 


ジェスタード

『奪う力よりも守る力は強い』


彼はそう告げると、体を紫色に発光させた

遥か頭上で待機させたジャビラスが降りてくると、ジェスタードさんは凍てついた声で口を開く


ジェスタード

『最大火力』


『ジャァァァァビィィィィ!』


ジャビラスの口からとてつもない光が溢れた

先程の攻撃よりも、さらに威力を上げた怨固波動砲だろう

イグニスは舌打ちをし、撃たれる前に仕留めようと構えた


すると奇跡が起きた


イグニスの背後から三人の強者が現れた

エド国の天下無双衆の3人だった


明鏡止水オダ・ムカイ

二刀流の刀を持つロン毛のイケメンか


風林火山シンゲン・ゴーウン

あご髭が長く、ハゲ頭の老将軍であり

大きな鉄鞭を持っていた


瞬雷美人シキブ・ムラサキル

やはり綺麗だ、美しい

突く系の細剣を持つ美女だ


オダ

『逝け!』


シンゲン

『力は負けんぞ?』


シキブ

『大物だね!』 


イグニスは再び舌打ちをしながら三人の攻撃を避けた

無双衆の攻撃は地面を激しく破壊し、その威力は流石のイグニスでも受け止めるのは困難だと悟ったのだろう


イグニス

『流石に今はその時ではないか、アカツキよ!まだ死ぬな?』


イグニスは分が悪いと見てその場から飛び上がり、屋根に登ると逃げていく


ムサシ

『流石だお前たち!ここから離すために追いかける振りをして頃合いを見て戻れ!』


『『『御意!』』』


無双衆は彼を追いかけていき、その場が静かになる


『助かったか』


ティアマトがホッとし、構えた片手斧を下げた

ようやく俺も体が動ける

あいつが不気味な殺気を放つから俺達は蛇に睨まれたカエル状態だった


ジェスタードさんでも駄目だったか…

あのイグニスという者はそれほどまでに強いのか

俺達は本当に勝てるのだろうかと不安が押し寄せる


『ぐ…』


ジェスタードさんがが右手に持つ糸操り人形で顔を隠しながら膝をつく

彼は一番ダメージが深く、体中から血を流している

当たり前だ、爆発を直で受けたんだからな…かなりの爆発で生きてることが凄い


『カウラ』


ムサシさんは心配そうな顔を浮かべながらジェスタードさんに歩み寄ると、『触るな!』とジェスタードさんは叫んだ


『なんでそこまでして貴方は我儘を言わないの?』


『我が輩は迷子だ、人は何かを成し遂げる為にそれを探し…そして歩く、普通に人生を過ごすのもイイダロウ、しかし我が輩にはそれがもうない、お前の命を狙ったムゲンは死んだ…もうやるべきことも目標すらない』


『やることくらい自分で探せないの?』


ムサシさんは悲しそうな顔を浮かべたまま、彼の頭を撫でる

ジェスタードさんの頭部の殆どは昔の大火傷のせいで生えてはいない

彼女は抵抗なく、彼を撫でた



『面倒臭い人』


彼女はそう告げると、遠くに待機させた側近の侍騎士を呼ぶ

呼ばれた侍騎士たちは顔色一つ変えずに無表情のままムサシさんの前で綺麗に並ぶ

そこで彼女は言い放ったのだ


『お前らはこいつをどう思う?幼き私をこんな姿になるまで炎の中から救い出し、王にしたこいつをだ』




『はっ!魔導王グリモワルド・グレゴール様がムサシ様を救った英雄だと思います』


『力が認められるこの国ではこれ以上の方はいないかと思います』


そんな驚きの言葉が侍騎士から飛び交う中、ジェスタードは懐から別の布袋を被ろうとする

しかし、ムサシさんは彼の手を掴んで止めると


凄い事をしたんだ


直ぐに両手でジェスタードさんの両頬に触れると、接吻した

この国では接吻というらしい


『!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!』


俺達の心の時間が止まる

そしてジェスタードさんもあまりの予想外過ぎる出来事に凄い目が開いているし動かない


『変態は見るな!そいっ!』


リュウグウは俺の目を目潰しする


アカツキ

『ぐぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


ティア

『アカツキ君っ!?』


ティアが驚く

こっちはこっちで大変だけども、なんで俺なんだ?


ちょっと痛かったけども目は開くな…リュウグウもほんとに、ほんとに…


ムサシさんはジェスタードさんと顔を離すと、顔を真っ赤にしながらモジモジし始める

女性の国王、しかし20代

ジェスタードさんとは結構歳が離れていると聞くが、30代後半くらいだったな確か


ジェスタード

『何が起きたんです?』


ムサシ

『…ファーストキスだったのよ!それよりも怪我が酷いから運ぶわよ!お前たち!』


『『『御意!』』』


ジェスタード

『ちょ…』


彼はムサシさんの側近騎士に立ち上がらせられると、奥で待機させていた馬車に彼を連れていく

治療しないとあのケガは不味いけど、ティアがいる…の忘れてない?まぁいいか


ティア

『ふぁ・・・』


ティアは目をキラキラさせて変に連行されるジェスタードさんの背中を見ていた


アカツキ

『どうしたティア』


ティア

『ムサシさんはジェスタードさんの心を愛してるんだね!』


その言葉にムサシさんは冷静を装うが、顔は少し赤い


ムサシ

『先ずはごくろうだったわ、イグニスが国内にいるならば厳重警戒態勢を当分とらないと駄目ね…私はもう行くわよ!忙しいから!』


待ってくれ、他に何もないのか…

彼女は馬車に向かって側近騎士と共に走っていった

俺達は狙われていたというのに、放置されるとは何事だろうか


リリディ

『…もともとはエド国の城内魔法侍騎士だったんですよね、ジェスタードさんは』


ティアマト

『だな、本名はカウラ』


リュウグウ

『歳の差カップルということか、あれならジェスタードもムサシ王の勢いに折れるだろうな』


ティア

『折れるべきよ!』


一番興奮しているのはティアだ

どうやら面白い恋が実りそうで興奮しているようだ

まぁ良い事か、良い事だな


エド国の侍王と魔導王か、その名を並べると確かに面白い

そして、2人の人生も面白いな

あれ?



あれれ!?


あれがファーストキスだと言ったな

という事はだ…、あんな可愛い顔しといてこれを言うのもあれだが





未経験か…


ティアマト

『おいアカツキ、あいつら…』


俺は彼に言われて気づいた

リゲルとクワイエットだよ


リゲルは大怪我していて吹き飛ばされている筈だ

何故か彼らが心配だった、理由はわからない

しかし、リゲルが吹き飛ばされた場所に行くと、彼もクワイエットも見当たらなかった





侍王と魔導王編 終






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