第180話 幻界編 20

何故私は追いかけられているのでしょうか

皆さんといた時に強制転移魔法スキルにて辿り着いた場所は廃墟と化した街並み

その中央広場から街の外に出る為にシークゴブリンという頭部に角が生えたゴブリン

この魔物は本でしか見たことはありませんが、どこかに存在しているという程度でしか記載はなかったですね。


それが至る所から私達エーデルハイドに襲い掛かってきたのです

しかし、それだけならば対応は出来ましたが…


今逃げているのはコカトリスという全長10メートルのギョロ目の鶏のような鳥種の魔物

口から石化ブレスを吐きながら逃げる私達を追いかけてきているのですよ


アネット

『やばいやばいやばい!』


シエラ

『触れると!石!』


クリスハート

『吐き続けるなんて…』


『コケコー!』


ブレスに触れた部分が石と化す

あれに触れたら本当に終わりですね


必死の思いで裏路地に逃げ、途中にあった建物の裏口に入ってやり過ごしました

そこはバーのような内装となっています。

多分ここは…作業員の控室ですね。誇りまみれの椅子が沢山散らばっている


アネットさんやルーミアさんは椅子を起こすと、ズッシリと座って深すぎる溜息を漏らしてます

私も漏らしたいですよ、ですが私はリーダーだし弱音はあまり吐くのは苦手です


アネット

『私達が一番やばいかもね』


クリスハート

『かもしれません、それに…』


タイミング良く私のお腹が鳴る

何故私なのか、神様は何故そのような過ちを平気で犯すのか

恥ずかしくなった私は顔を赤くし、俯くとルーミアさんがクスリと笑った声が耳に入りました


シエラ

『でもみんな、動体視力スキル1つずつ!』


ルーミア

『シークゴブリンいいね。』


アネット

『案外ドロップ率高い感じだね、試練って危ない反面…実はスキルが出やすいとかかな』


シエラ

『それ一理ある』


クリスハート

『…』


私は立ち上がると、奥のドアに歩いていく

自然と全員が無言になり、私の後に続く

まだクリアリングしたのはこの部屋だけ。ドアを開けると廊下が数メートル続き

直ぐにバーらしい店内が視界に広がる


カウンター席が殆どであり、テーブル席は5つしかない

こじんまりした営業をしていたのでしょうかね…お酒はよくわかりません


『ゴルル』


『っ!?』


カウンター裏から唸り声

直ぐに私達は武器を構える

シークゴブリンかと思いきや、2足歩行の蜥蜴種リザードマンによく似た魔物ですね

紫色の鱗に守られ、軽装備ですがバックラーと剣を手に私達を睨みつけてます

目は左右に3つずつで軽6つ、下は蛇のように長く、尻尾も長い


私達とサイズは変わらないのが不思議です、リザードマンの方が大きいですからね


『シエラ!』


私は彼女の名を口にし、相手が攻撃態勢に入る前に走りだした

きっとシエラは援護をしてくれる為に待機するでしょうし、私の後ろからは双剣のルーミアさんが共に駆けている


『ゴルァ!』


この魔物の名前はイエガーと呼びますか

私が正面に来たと同時に体を回転させ、その勢いを利用して両断しようと目論む

しかし、こちらは強撃という筋力を高めて攻撃する剣撃、両手でしっかりと握りしめながら振る瞬間に全力で力を込めて相手の剣とぶつかると、私と相手の剣は共に弾かれた


それで良いのです

あとは仲間が何とかします

ワザと私は後方に倒れながらも頭上を飛び越えていくルーミアに笑みを送る


『連舞』


彼女は素早く2回転し、何度もイエガーの長い首を斬り裂いた

かなり頑丈な鱗であるのは見て明らかでしたが…

ルーミアは同じ個所を4回もずらさず狙い、頑丈な鱗を砕いて首筋を斬り裂いてくれたのです


『ゴハ!』


苦痛を顔に浮かべるイエガー

その間にルーミアはシエラが放ったファイアアローの邪魔にならぬように横に飛び退いた

炎の矢は見事にイエガーの胴体に命中すると、深く体に食い込む


あれは見てるだけでこちらが痛くなりそうですね

命中して燃え広がるのではなく、刺さったままですから

体内で熱が広がっていると思うと、こちらが痛く感じる


『グガガガガ!』


苦痛に暴れ始めるイエガーですが

暴れすぎると外に魔物にバレてしまう危険が大きい為、私は素早く起き上がると剣でイエガーの首筋を突き刺し、アネットが兜割りという技スキルで敵の頭部を叩き割る


それがトドメとなり、イエガーは床にドスンと倒れてくれました

直ぐにシエラとアネットが薄汚れた窓から僅かに顔を出して外を確認、そうやら外に変化なしです


(助かった…)


そう思いながら剣をしまい、イエガーの体から魔石が出てくると私達は驚きましたよ

光ってましたからね、スキル付きです


アネット

『こんなにドロップ率が良いと生きて帰りたいねっ』


シエラ

『少し頑張れる』


クリスハート

『皆さん頑張りましょう。しかもこのスキル…』


暗殺

かなり貴重なスキルだと思われるのですが、このスキルは私達もわからないのです

聞いたことないんですからね

しかしスキルの性能が凄い事にアネットが凄い驚いてる


アネット

『技使用後、転移魔法で対象の背後に瞬間移動し…突攻撃強化での一撃だってさ』


ルーミア

『双剣で良かった。これ誰も知らないスキルだよ!』


確実に双剣のルーミアさん用

彼女はこの状況でも嬉しさが勝り、ニコニコしながら技を会得しました

そうして私達は一度ここで休むことにしました


長椅子をベット代わりにみんなが横になる

少し硬いけど、ここに来てからは一番寝やすいのは確かです


(お風呂入りたい)


でも仕方がないので諦めますか

小休憩、先ほどの良い雰囲気がいつの間にか現実に引き戻されてしまって無言が続いてる

何か話した方が良いのかと内心焦りを覚えた頃、外から馬の鳴き声が聞こえてきて驚く

恐る恐る窓から外を見てみると、頭部がギョロ目で受けつくされた馬が我が物顔で表通りを歩いていたんです


不気味過ぎて少し鳥肌が立ちましたが、アネットさんが声にならないほど体が強張っているのがここからでも見えますね…


クリスハート

『あれ絶対不味い敵ですね』


シエラ

『Cじゃない、きっと』


クリスハート

『でしょうね』



アネット

『あれは?』


あれは?

はて?どう言う意味でしょうかと思いながらも私は次に現れた魔物に言葉を失う

キングトロール、ランクAのトロール種の王と言われる存在です

3メートルも大きくメタボリックな体をしていますが、その手に握る鉄鞭は巨大

無意識なのでしょうか、舌を出したまま鉄弁を肩に担いで歩いてます


『あれ、勝てない』


ルーミアさんが弱音を口にしますが、誰だってそう思う筈です

せめてリゲルさん達がいれば何とかなったんですけど、私らだけだと…


(っ…)


右足が痛い

かなりの時間を歩いていたので疲労から筋肉が悲鳴を上げているんだと思われます

でもそれは私だけじゃない、シエラも疲れを顔に浮かべていますし、他の2人もです

一番の不安は空腹ですね…


アネット

『いつから食べてないかな…』


シエラ

『本当にお腹空いた…』


お腹が空くだけで、人は前向きになれない

それだけ食欲というのは生きていく中で大事なんです

力が出ないですからね


そのせいもあり、会話は少ない

ふとシエラは何かを思い出したのか、屋上に行って信号弾を打ち上げると言いだしたんです

何の信号弾だろうかと聞くと、どうやらクワイエットさんから以前に貰っていたようで聖騎士用の品質の良い信号弾をくれたとか


森の中で遭難した際に使う道具だというのですが、ここで役に立つのかどうかは定かではないですがやる価値はあるかもしれない


カウンター裏の狭い階段を4人で登り、廊下にある3つの部屋を調べながらクリアリングしていく

廊下の奥は壁にかかる梯子、その上は天窓ですが押せば開くタイプですね

私が先頭で先に上がり、屋上に上がるとシエラも登ってくる

他は廊下で待機です。


『見えてれば、来る』


『来てくれるでしょうか』


『クワイエットさんだし、見えたらきっとくる。リゲルさんもきっと来る、クリスハートちゃん心配だろうし』


『それは知りません』


『そい!』


シエラは地面に信号弾を叩きつけ、それは爆発して空に撃ちあがる

遥か上空にて赤い光を放ちながら静かに落下していくのを見ながらも私はシエラと共に店内に戻る

あの信号弾が見えていればと僅かな希望に私は託しなくなった


今できる事は何も浮かばない

拾うと空腹なのか、判断力が低下しているのかもしれません


『コケッコー!』


建物の裏からはコカトリスという厄介な魔物の鳴き声が聞こえてきます

裏は無理、表には目で見えるだけで数体の魔物がジッとたたずみながら辺りを見回している


ギョロ目の馬が2頭、あれは相手に出来ません…無理


(どうしよう…)


喉も乾いた

どうしようもない

脱力感が徐々に押し寄せてきている

でもどうにかしないと本当にここで死んでしまうことになる


シエラ

『何かないかな』


ルーミア

『さっき漁ったけど何もなかったね』


クリスハート

『水分が無いのは痛いです』


ルーミア

『本当に不味いね、結婚してから死にたいのに』


クリスハート

『結婚かぁ』


深く考えた事はありません

婚約で良い思い出がないので結婚が良いものだと感じれないんですよね


(外は…)


再び薄汚れた窓を覗く

微動だにしない不気味な馬、あれさえどこかに行けば良いのですが…


『フシュル…』


鼻息だけが異様に聞こえる

番是ならば挑んでいただろうか…

でもランクCには到底見えない、Bならばかなり危険

2頭もいるんですから


気づけば外は薄暗くなっていき、迂闊に外に出てはいけない時間帯となる

厳しい状況があるのは覚悟していたけど、まさかこんな形だなんて…


クリスハート

『今日はここで耐え凌ぎましょう、皆さん大丈夫ですか?』


アネット

『大丈夫だと思う』


クリスハート

『水さえあれば…』


あの人ならこの状況どうしていたのか

せめて聞いてみたいなと思い始める

会えたら聞いてみようかな

だけど今はそれよりも……


シエラ

『来るまで耐える』


アネット

『てか本当に不味いよ、水だけでもあればね』


水だけでも、それは皆さん同じ意見でした

するとルーミアさんだけ何やらカウンター裏でゴソゴソと漁り始めました。


アネットさんが『さっき調べたけどなんもないよ』と言うのですが、ルーミアさんは無視して何かを探してます


私に視線を向けたアネットさんは首を傾げますが…

気になったので彼女のもとに向かうと、食器棚のカップの中から魔石を見つけて凄い顔をこちらに向けて来ました


私も驚愕ですけどね


クリスハート

『ルーミアさん、それ』


ルーミア

『賭けるしかないわね』


記録用の魔石に違いない

これを置いた人が予想通りなら私たちは希望がある

それを胸に抱き、私は魔力を流し込む


聞こえてきたのは求めていた声で間違いはない

大きく喜びたくても、今は心にとどめましょう


『この声を聞いたとなると凄いデスネ。この地帯は聴覚が研ぎ澄まされた魔物だらけ、忍び足で裏口から抜けることをおすすめデス。休憩ゾーンはこの建物の地下貯蔵庫、カウンター裏のカーペットを裏返せばあります、残念ですが食料等はありません』


ゼロではない

シエラがカーペットをひっぺがすと、隠し扉があったんです

開けると小さな階段があり、その先には安心して休むことができる部屋があるという


ここでは確実に気が休まらない

ならば下に行くしかない

私達は中に入り、階段下にある10畳ほどの地下貯蔵庫に辿り着く

しかし、そこは薄汚れたフローリングというだけであとは何もない


シエラ

『一先ず仮眠』


クリスハート

『皆さん、三時間だけでも休みましょう。』


私達はちゃんと寝ていない

昨夜も二時間ぐらいしか横になってないんです

今は寝ることを優先し、それから水の確保ですね


アネット

『そだね、先ずは休めないと』


皆さん横になり始めると、いつにも増して直ぐに寝息をたてて寝ました

気づいたら私も寝ていたのですが、起きたのは4時間後です


かなり疲れていたかは仕方がない

しかも今起きたのは私だけ


(まだ眠い)


正直寝ていたい、でもそうもしてられない


『クリスハートちゃん?』


『信号弾は聞こえたのでしょうか』


『きっと助けがくる』


彼女は自信をもって告げた

クワイエットさんからは『どうしようもない時に使えば良い』と言われて持たされたというが、希望は薄いです

でもゼロでなければ意味はある


(ついてきたというのに、情けない)


結局は足を引っ張った

それに関して考えてしまうと気が滅入りそうになる

喉の乾き、空腹で窮地に立たされる事は想定していてもこうまで八方塞がりとは…


建物の周りには見るからに危険な魔物だらけ

今の私たちの状態では抜け出せる力は無い

もし助けが来たとしてもどんな顔をすれば良いのか、そんな余計な不安をしてしまう


気づいたら私は寝ていた

相当疲れていたのでしょうが三時間程で目が覚めると私は皆を起こして外の様子を見るために地下から店に戻る


夜なのに通りに点々と設置された小さな球体が光を放ち、街を明るく照らしている

先程よりも魔物は少ない、ならばここを出るべきか…


ルーミア

『入り口付近に街の地図っぽいの落ちてたけど裏口から200メートル先に水路がある』


クリスハート

『人が口に含める水があれば良いのですが』


ルーミア

『裏口にコカトリスはいなかったよ、出るなら今』


シエラ

『クリスハートちゃん』


全員の視線が私に集まる

危険な選択ですが、水だけでも確保しなければいけない

私は小さく頷くと、仲間と共に裏口から外に顔を出す

魔物は見当たらず、不気味な気配すらない


『今なら』


私は囁きながら仲間と共に裏口を足早に進む

ここにも明かりが存在するから暗くはないが、設置数が少ないから多少は暗い


短い道のりがかなりの長旅に感じているのはかなり緊張しているからでしょうね

死ぬか生きるかですから


『ゴブァ!?』


『!?』


建物の隙間に隠れていたシークゴブリン

角が2本映えた筋肉質な魔物だが、それが私達に気づいた瞬間に飛びかかってくる


爪を伸ばし引き裂こうとするが私は剣で受け止め、直ぐにアネットさんとルーミアさんが魔物の両脇を通過しながら体を切り裂いた


『ゴッ!』


それでも死なない

最後の抵抗に近い感じがします

私の剣を弾き、一人でも道連れにしようと目論んでいるのかもしれませんね


しかしシエラが直ぐにファイアーボールを命中させてシークゴブリンを火だるまにして倒してくれたおかげで私は事なきを得た


『行きましょう』


小声で皆さんに伝え、固まったまま道を歩く

すると水の流れる音が聞こえ、私達の目に光が灯る

橋の下、そこには綺麗な水路があり、美しい魚が泳いでいたんです


『ニジマス…』


アネットさんが囁く

私達が知っている魚が水路にいるとなると、期待が膨らむ

辺りをくまなく見回し、魔物がいないことを確認してから橋の下に向かって水を飲もうとしたのですが


本当に飲めるのかがここに来て心配になる

ニジマスに似た魚だったら?水ではなかったら?と深読みしてしまいますが、今はそんな慎重になってはいけないと判断した私は皆さんの代わりに先に水を飲むことにしました


(死んだら、無駄じゃない)


飲めない水とわかるだけで良い

覚悟を決めて口に含んでみると、それは幻界の森の川で飲んだ川の水と同じだとわかった


魔力が回復する感覚、私は一心不乱に水を飲み始めると仲間も元気よく水路に顔をつけて飲み始めた


アネット

『生き返った、マジ』


ルーミア

『魚もいる』


クリスハート

『良かった』


安心すると少し泣きそうになる

足手まといだけど、なんとか自分達で頑張らないと


アネットさんが剣でニジマスを2匹突き刺して捕らえると、裏通りに散らばる木屑を集めて焚き火

剣に刺したニジマスを焼いて皆さんで仲良く食べました

普通の魚であり、味も空腹により美味


少量でしたが少しすれば体に元気が戻る筈


シエラ

『…』


アネット

『信号弾、ダメだったかな』


シエラ

『クワイエット君はくる』


ルーミア

『てか今だから聞くけどさシエラ、クワイエット君のこと気に入ってるでしょ』 


シエラさんは答えない

たまに一緒に歩いてるのは見掛けるから仲が良いのはわかります


でもシエラさんは飽くまで『仲が良いだけ』と以前は言い切っていた


アネット

『癖は強いけどグリンピアの男より良いと思うけどねぇ』


シエラ

『仲が良いだけ、うん』


そこまで言い切る理由とは何でしょうか

クワイエットさんといるシエラは本当に楽しそうだと思える笑みなのに…


各自が水筒に水を補給し、多少お腹が満たされた事によって頭の回転も戻り始める

信号弾を打ち上げて四時間経過、これは期待せずに行動するしかなさそうだと判断して私は皆さんに進むことを提案する


裏通りに戻りながらも地図を眺め、大通りを避けて進むしかないと話し合いながら計画を立てているとき


回復した状況を悪化させんとする声が鳴り響いたんです


『シレン』


『『!?』』


あの声

森の中でも聞こえた不気味な低い声

私達は耳にした途端に体が強張る


襲う感情は恐怖

そしてそれが形となって現れた

近くの建物の屋根にいたであろうそれは私達の前で道を塞ぐようにして落ちてくる



全長10メートル

尾が長く腕の無い龍であり、頭部は普通の龍よりも比較的大きい

これはワイバーンという翼が大きく発達した魔物である

頭部の2つの角は後方に伸び、目は蛇のような眼光

尾は鋭く長い


それは4人の前で嘗めまわすように眺め始める

どう見ても友好的とは思えぬ唸り声を上げ、敵意を向けていた


(これは…)


これが声の主なのかとクリスハートは考えたが、そうではないと直ぐに悟る

確かに目の前にいる魔物は強烈な威圧を放つが、クロコディルを命令するほどの力ではない

しかし、強い事に変わりはない


『ギュルルルル』


『こりゃ不味いねぇ、あっちは不味いと思ってないだろうけどさ』


アネットは小声で苦笑いを浮かべ、静かに身構える

それを合図に他の者たちも目の前にいるワイバーンに戦う姿勢を見せた


『やるしかない』


シエラがワイバーンに腕を伸ばし、赤い魔法陣を展開した

その瞬間にワイバーンは大きな咆哮を上げ、大きな口を開けて突っ込んでくる

顎の力は人間を軽く噛み砕き、いかなる魔物をも同じように骨すらも噛み砕くだろう

龍種とは生物界では頂点に等しい生物であり最強でもあると聞いてます


『生きる為に!』


私はは叫び、仲間と共に駆けだした

死ぬか生きるかの勝負、私達に助けはない

4人でランクAの魔物と戦い、勝たなければならない


シエラのファイアアロー、火の矢がワイバーンの右目近くに命中すると僅かに動きが止まる

アネット、ルーミア、私は隙だと言わんばかりに噛みつき攻撃を間一髪ですり抜けて頭部側面を斬り裂く


(硬すぎる…)


鱗に僅かな傷跡を残すだけ、普通の斬撃では龍種に傷を与える事すら困難だ

ならばもう一度、技を使って攻撃すればとクリスハートは振り返る

すると私の真横を誰かが吹き飛んでいく


(ルーミア!)


彼女はワイバーンの尾の叩かれてしまった

投げられた玩具の様に飛んでいく仲間を見届ける暇もなく、血相を変えた2人にワイバーンはギロリと睨みつける


『ギュルァ!』


途端にワイバーンは全方位に向かって尾を払う

アネットと私は飛び退いて避けれたが、シエラが吹き飛んでしまう

尾が当たる距離ではないのにだ


理由は簡単だった

尾を払うだけで突風が巻き起こり、彼女はそれによって吹き飛んだのだ

しかしただでは済まさないのがグリンピアで一番と言われたチーム

シエラは吹き飛びながらも赤い魔法陣を展開し、魔力で構成した炎の剣を撃ち放つ

フレイムソードという投擲魔法スキルだが、それはクリスハート達に視線を向けたワイバーンの背中に命中する


しかし彼女の魔法は頑丈な鱗によって弾かれ、無力を結果とした

龍種には上位級と言われる魔法でなければ頑丈な肉体にダメージを与える事が出来ない


(そんな…)


シエラは後方に壁に背中を打ち付け、地面に倒れる


その間、私とアネットは果敢に尾や噛みつきを避けながらも暴れまわるワイバーンに攻撃を仕掛けるが、技スキルを使っても鱗に傷がつく程度

筋力強化スキルをもう少し上げていればこうなることはなかっただろう


明らかに相手が悪過ぎるのだ

彼女らは今それを感じ、見え透いた結果を知っていても立ち向かう

何とかして勝たないと、みんなに会わないと


どうすればいいんですか

聞きたい人が近くにいない、自力で何とかするしかない


次回 3人称

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