第181話 幻界編 21
『ギュルァァァァァ!』
甲高く、龍とは思えぬ鳴き声を上げながらワイバーンは地面を叩いた
すると大きな衝撃波が発生してアネットとクリスハートを吹き飛ばす
地面を転がりながらも素早く立ち上がると、アネットは頭上から降り降ろされる尾を避ける為に真横に跳ぶ
『あっ…』
ワイバーンの大きな翼は腕にもなる
アネットは2段構えの攻撃を避ける暇のなく、腕の様な翼によって殴られ、吹き飛ばされると建物の窓を突き破った
(アネット…)
仲間の心配をしたくても、今はそれどころじゃない
クリスハートは感情を押し殺し、ワイバーンに駆け出した
喉を鳴らして余裕を見せる魔物に対し、彼女は険しい顔を浮かべる
まだ余力が感じられる
となると勝つための手段は残されている
クリスハートは思った
ヴィンメイと同じ雰囲気を持つ魔物だ、と
自身は強いと思っているからこそ遊んでいるに違いないと悟る
『ギュルァァァァ!』
『負けるわけには!』
腕の様な翼の叩きつけを懐に潜り込んで難を凌ぐ
彼女はそのまま顔を下げたワイバーンの下あごに剣を突き刺した
斬撃は効かずとも突きならばと彼女は賭けた
思惑通りに狙った箇所は他の部位よりも柔らかく、彼女の剣は数十センチ突き刺さる
それだけでいいのだ
『爆花散(バッカサン)!!』
クリスハートが持つ最高峰の技スキル
それは剣先に魔力を流し込み、爆発を引き起こす
『ギュピ!?』
ボンッと音と共にワイバーンの頭部は仰け反り、少し暴れた衝撃で尾に触れたクリスハートは地面を転がる
立ち上がると足に鈍痛を感じ、嫌な予感がよぎる
(…折れてはないけど)
だが軽い怪我ではない事は確かだ
この状態で継続して戦うとなると絶望的だが、それはいとも容易く起きる
それが幻界の森だ
仰け反ったワイバーンは直ぐに姿勢を正すと何事もなかったかのようにクリスハートに視線を向ける
彼女の渾身の一撃も下顎から赤い血を流すだけしか出来なかったのだ
いや、ダメージを僅かでも与えただけでも彼女は成し遂げたと言っても過言ではない
冒険者という生き方をする者は冒険者ギルド運営委員会から必ず言われる言葉がある
龍種に出会ったら死ぬ気で逃げろ
『ギュルルルル』
『化け物め』
勝てる見込みが無くなった筈だった
しかしクリスハートを睨むワイバーンの背中に大きな炎が命中し、僅かにバランスを崩した
それはシエラが立ち上がり、フレイムバーストという荒れた炎を飛ばす魔法だった
レベルは3と比較的高く、魔法強化スキルと相まって威力を増している
『どやっ』
この状況、シエラは笑う
ワイバーンは振り返り、彼女に狙いを定めようと足に力を入れて駆け出そうとしたが
それを許さぬ者がクリスハートの左右を駆け抜けた
アネット
『意地でも倒す!』
ルーミア
『お荷物じゃない!』
倒れちゃいれらない
2人は覚悟を顔に浮かべ、リーダーの前を駆ける
それに触発されたクリスハートも無意識に走りだす
自分達も出来る事を証明するため、ここに来た意味を示すため
格上であるワイバーンに立ち向かう
この時、彼女達は気づいていなかった
いや人間が知る由もない
ワイバーンは龍種でも弱い部類だが、今相手しているのは特殊個体だ
Bランクのレベルの魔物が異常成長を遂げただけに過ぎない
B以上A未満という力を持つ魔物であれど、クリスハート達には強敵
『ギュリャァァァァ!』
『真空斬!』
アネットが大きく振り被った剣から斬撃が飛び、ワイバーンの目を狙う
そして後方からシエラがファイアーボールで翼を狙い、ルーミアは素早さを生かして必死に関節を狙う
『爆花散(バッカサン)!!』
その甲斐あってか、狙いが定まらないワイバーンにクリスハートの技が胸部に突き刺さる
爆発が起きると彼女は吹き飛び、ワイバーンは足元をフラつかせた
『弐追(ニツイ)』
ルーミアが双剣を前に突きだし、隕石の如く勢いでワイバーンの片翼を貫く
それによって大きくバランスを崩したワイバーンは前のめりに地面に倒れていく
4人は四方を囲み、倒せるイメージが沸き上がる
それでもクリスハートの怪我は致命的であり、あと1回の攻撃が限度
彼女だけではなく、他の仲間も同じだ
アネット、ルーミアは全身を強く痛めており、ルーミアに関しては右肩の脱臼
シエラは全身打撲に右腕の骨折だ
一撃受けるだけでも危険な魔物相手に全員は最後の力を振り絞る
『あぁぁぁぁぁぁ!』
アネットは飛び込み、顔を持ち上げた瞬間を狙ってワイバーンの右目を剣で貫いた
大きな悲鳴を上げたワイバーンは尾でアネットを掴むと魔法を放とうとしたシエラに向かって投げ飛ばし、魔法を阻止する
普通に戦っても倒せない相手には意地汚く目を狙う
情けないようで間違いではない作戦だ、彼女らはそれを知っている
『ルーミアさん!』
『わかってる!なんとか決めるよ!』
クリスハートは共に走る
ワイバーンは怒りを顔に浮かべ、今からが本番だと言わんばかりに立ち上がった
その口からは熱を帯びた何かを溜めている、そうみても龍種が放つブレスだというのはわかり切っていた2人はその前に攻撃を仕掛けんと速度を落とさず突っ込んだ
『ギュル!』
『くっ!』
長い尾が彼女らを襲う
不規則な動きを見せるワイバーンの尾の攻撃を勇敢にも最小限で避けながらも顔の前に跳び上がると、ルーミアは右手の持つ双剣を投げる
それはワイバーンの左目を狙っていたが、ワイバーンは大袈裟にそれを避ける為に顔を逸らした
(それでいい)
クリスハートはそう思いながらもワイバーンの尾で地面に叩きつけられたルーミアに敬意を払い、剣に魔力を流し込んだ
(力を抜いて…)
攻防の瞬間だけ力を入れろ、他は脱力で良い
彼女が一番信頼しているであろう者の言葉が脳裏をよぎる
充分に練習した、教わった、上達速度だけは自信を持っていた彼女はそれを今最大限に生かそうと脱力した状態から一気に体全体に力を入れ、一瞬の全力を持ってワイバーンの首元に剣を突き刺した
先ほどとは違い、この戦闘で一番冷静に放った彼女の攻撃は見事に首を深く貫き、ワイバーンから血しぶきが飛び出す
『爆花散(バッカサン)!!』
似合わぬ荒げた声で叫んだ彼女の技はワイバーンの首元で発動し、それは剣先からの爆発によって体内に大きなダメージを与える
『ガゴッ!』
大きく仰け反るワイバーン
しかし自身に攻撃を与えたクリスハートだけは何としても潰すという気迫からか、左翼を腕の様に伸ばして彼女を叩き落とす
『がっ…』
その威力は地面をバウントする程であり、彼女は呼吸がままならなくなる
しかし、視線は倒すべくワイバーンに向けられており、それが倒れる瞬間を彼女は見届けた
数秒の静寂
そこに動く者は誰もいない
全員が地面に倒れ、勝者がどちらなのかを神に祈る気持ちで何度も願う
(上出来…だと思うんですけどね)
クリスハートは地面で体を丸め、忘れていた痛みを耐える
だが現実は甘くはなかった
『ギュロ…ギュルル…』
『あはは…んな馬鹿な』
アネットが上体を起こしながら苦笑いを浮かべ、口を開く
ワイバーンがフラフラした様子で立ち上がったのだ
どう見ても致命傷、首から流れる血は止まることなく流れ続け、それでも龍種としての誇りを持った鋭い眼光でクリスハートを睨む
彼女らは勝ったと浅はかにも思っていた
相手は龍種であるにもかかわらずだ
絶望が訪れる、しかし彼女たちの顔は絶望を浮かべていない
やることはやった、そういった顔に近いだろう
動く事すら今は出来ない彼女らはワイバーンがどう動くかをただただ見守るしかない
どう殺されるかという運命を死ぬ瞬間まで見るという地獄をだ
それを後押しするかのように、ポツリポツリと雨が降り始める
『どうすれば勝てたんでしょうね…』
クリスハートは近づいてくるワイバーンに視線を向けながら囁いた
しかし敵であるワイバーンから答えは来るはずもない
雨音だけが彼女の耳に残り、ワイバーンが近づく姿が目に焼き付く
だがその大きな雨音を掻き消すほどの声が彼女の耳に届く
『最後まで押し込め馬鹿』
『…あ』
囁くような声が雨音を超えた
地面を踏みしめて近づくワイバーンの足音よりも気高い足音が聞こえた
聞きなれない唸り声よりも聞きなれた他者を馬鹿にするような声が力強く感じた
それだけで彼女は安心してしまい、涙を流す
本当は生きたかったからだ
『ギュルルルァ!』
ワイバーンの足が止まり、地面に倒れるクリスハートの横を一番信頼する男が通り過ぎた
アネット、ルーミア、シエラも彼らの姿に力ない笑みを浮かべ、気絶はせずとも持ち上げた顔を地面に伏せた
彼らにならば任せてもいい、そう感じたからだ
リゲル
『ワイバーンか』
クワイエット
『こいつ殺さないと駄目だね』
リゲル
『んな怖い顔すんな』
クワイエット
『そっちが言う?』
『お前特殊個体のデスペル倒したろ?こいつは俺の獲物だから倒れてる奴ら頼むぞ』
クワイエットはそう言われると渋々な様子を見せながらも真っ先にシエラのもとに向かう
リゲルは堂々とワイバーンに歩み寄ると、目の前で足を止めたまま目を細めて首を傾げた
今まで彼女らを馬鹿にしたような態度を取っていたワイバーンが、今度は馬鹿にされている
それを本能で察したワイバーンはギロリとリゲルを睨みつけた
人間に馬鹿にされているという事だけは言葉が通じなくてもわかったのだ
両翼を大きく広げ、体を大きく見せながら口に熱を帯びていくワイバーン
しかしリゲルは余裕そうな表情を浮かべたまま剣を抜くと魔力を流し込んだ
『ワイバーンって龍種の中でも落ちぶれ種ってロイヤルフラッシュ聖騎士長から聞いたぜ?てかよ…お前は俺に勝てねぇんだよ』
『ギュルァァァァァ!』
ワイバーンは口から強力な炎のブレスを吐こうとした途端
リゲルは目にも止まらぬ速さでワイバーンの目の前に移動し、叫ぶ
『絶対になっ!龍斬!』
ワイバーンにとって相手が悪過ぎた
龍斬は龍に対して絶対的な威力を与える強力な技スキル
それはスキルが充実しているリゲルだからこそ十分に活かせる技だ
剣を振った瞬間に龍の爪のような斬撃が3つ現れ、それはブレスを吐き出す前のワイバーンの顔面を大きく斬り裂いた
致命傷過ぎるダメージを受けたワイバーンは痛みでブレスが中断されると、口の中で暴発して頭部が爆発してゆらりと地面に倒れていく
雨音だけの静寂
誰が見ても勝者は決まっていた
『ったくよ…クワイエットの耳も凄いな。よく信号弾の音に反応出来たな』
リゲルは頭を掻きながら口を開くと、クリスハートのもとに近づく
『あとで破廉恥と言っとけ馬鹿』と言いながらも彼女を起き上がらせて背中に背負う
クリスハートは一瞬何が何だか分からなくなったが、少し冷静になると少し恥ずかしい気持ちとなる
だが破廉恥だという感情は無かった
(やっぱり強い)そういう信頼が勝ったのだ
アネット
『流石だね…いたた』
リゲル
『近くの建物に運ぶ、クワイエット急げ…あのツノツノゴブリンがまた来るぞ』
クワイエット
『コケトリスもね!』
リゲル
『コカトリスだ馬鹿、倒し飽きたし疲れるだけだ…身を隠す』
こうして彼らは近くの建物に4人を運んだ
リゲルは回収していた赤いリンゴを彼女達に1つずつ食べさせ、半日だけでも休めと言って廃墟と化した宿屋の一室に詰め込んで休ませる
その半日だけ休んだ彼女達は起きてから驚愕を顔に浮かべる
体の怪我が治っていたからである
骨折していたのに完治していることに驚きながらも4人は食べた林檎の事を思い出す
あれだろうなと納得を浮かべ、幻界の森にある果物の脅威的価値を知る
ずぶ濡れになっていた4人は半ば服を乾かず為に落ちていた紐を使って天井付近で伸ばし、乾かしていたが…
クワイエットが入ろうとするとシエラがビンタして追い返す
『見たかったのに…』
『変態、恩人』
渋々ドアを閉めるクワイエット
しかし部屋の中は変わった雰囲気となっていた
アネット
『くふふ…シエラちゃんご褒美だと思って見せてもいいのに』
シエラ
『駄目、みだらに見せない』
ルーミア
『クリスハートちゃんはいいんじゃない?』
クリスハート
『そんな破廉恥な事しません』
アネット
『でもメスの顔してたよ』
クリスハートは満面の笑みでアネットを見つめるが、アネットはそれに殺意が込められていると知る
(…龍斬)
彼女は頭でそう囁いた
ワイバーンが倒れた後、体から発光した魔石が出てきたのだ
リゲルはそれを拾いあげると、ニヤニヤしながらクリスハートにそれを差し出していたのだ
『お前が前で戦ってみんなを守るならこれはお前が持つべきだ』
リゲルの言葉を思い出す
クリスハートが手にした技スキルは龍斬だったのだ
貴重な技を会得した喜びはない、しかし違う喜びが彼女にはある
しかし、それを表に出す事は無いだろう
アネット
『というか、ワイバーンの戦闘参加しただけでスキルが2つくらいアップしたんだけど』
シエラ
『ファイアーボールがマックス!』
ルーミア
『私も結構上がった…龍種すご』
クリスハート
『噂は本当だったんですね、龍種と戦えばスキルレベルが驚くほど上がるって…』
シエラ
『強くなれたかな』
クリスハート
『きっとなれましたよ』
彼女達は助かったことに安堵しながらも、シエラの炎スキルで服を乾かしてから支度を済ませる
4人は1階の小さなフロントに向かうと、リゲルとクワイエットがスヤスヤと寝ている光景を目にして苦笑いを浮かべた
この状況で寝れるという大胆さは流石だ
彼らじゃなきゃ出来ないだろう
床に大の字で寝そべり、静かに眠る2人を見てシエラは微笑んだ
『…ありがとうクワイエット君』
『ほんとっ!?』
『っ!?寝てて!』
『ギャプラン!』
急に起き上がるクワイエットにシエラの鉄拳が繰り出されてしまう
こうして彼らはクリスハート達と合流し、目的地がわからぬ状態で廃墟と化した街を抜ける為に歩き出そうとしたが
外は真っ暗であり、照明すらついていない
リゲルは朝まで待つしかないと判断し、一先ずは荒れ果てた宿で今日を過ごす事を決める
2階の広い部屋、ベットは寝転ぶには無理があるほどに朽ちている為
全員は仕方なく床に寝そべるしかない
その場合はリゲルとクワイエットは隣の部屋になる
リゲル
『まぁルーミアの嫌がらせ攻撃は良かったな、目を執拗に狙う意地汚さは正解だ。馬鹿龍が嫌がってたしよ』
ルーミア
『パッと浮かんだんだよねぇ』
クワイエット
『戦いは綺麗ごとじゃないからね。良い判断さ』
クリスハート
『見てたとは…』
リゲル
『タイミングってあるだろうよ、お前らも自身の覚悟決めて歯向かった敵を途中で奪われたくないだろ。まぁ良くやったなって思ったから助けに行ったけどもクワイエット止めるの大変だったぞ?ロリ女吹き飛ばされたときにキレてたからな』
クワイエット
『怒ってた?僕』
リゲル
『うるせぇ』
みんなは笑った
久しぶりに安心できる空間だからだ
リンゴによって満腹感もあり、怪我も治り、そして魔力もそれなりに回復して余裕が彼女らにはある
リゲル
『しっかしよ、天呪様ってなんだよ』
クリスハート
『得体が知れないですね』
シエラ
『めちゃ強い、絶対』
クワイエット
『外に面倒なのいる、静かに』
窓際に移動していたクワイエットは皆を黙らせた
彼が険しい顔を浮かべて見ている先には両手が剣となっている腕の長い人型の魔物
赤い模様をしており、頭部は鎖で巻かれている不気味さを放つ
聴覚がかなり鋭く、そして強い
身体能力が全体的に高く、街に入った時に一度相手をしたリゲルとクワイエットは苦戦した、と言い放つ
リゲル
『Bだ、小声で話せ…今は雨音で聴こえてねぇ』
クリスハート
『あれは何ですか』
リゲル
『ジャックって呼んでる。良いスキルだぞ?』
彼は近くに寄ってきたクリスハートにスキルを見せた
両断一文字という初見では困難な技、彼はそれを避けた
いかなる固い物質でも斬ることができる代物
ただし、魔力を剣に流す時間が永い
戦いの最中で相手が隙を見せた瞬間に使うのは無理だとリゲルは歩きながら話すが、それでも貴重な技だ
鉄であっても斬ることが可能
だからリゲルは真空斬を捨ててこれを手にした
クリスハート
『知らない技ですね…』
リゲル
『まぁ溜めありってなると連携用だな、てか外の水路で魚泳いでたろ?橋の下にある水路』
クリスハート
『ありますあります』
クワイエット
『食料確保しないとね、誰かくる?』
シエラ、ルーミアが名乗りを上げる
クワイエットはニコニコしながら部屋を出ると、ここにはリゲルとクリスハートそしてアネットだけとなる
その状況にハッとしてしまうアネット
彼女は(これは強制イベント!)と悟り、無表情で立ち上がると部屋を出ていってしまう
(何故?)
(なんだあいつ?)
クリスハートとリゲルはわからないでいた
しかし気が変わって魚取りに行ったのだろうとリゲルは床に大の字に寝そべる
(やっべ、案外寛げる)
『眠そうですね』
『少しだけだ』
『寝ても良いんですよ』
『寝てる間に破廉恥する気だろ』
『本当に可愛いげない返しですね』
クリスハートは呆れた顔をし、自身も横になろうとした
だがここで可笑しな事にリゲルは気づいた
(ん?)
彼は気付いた、しかしクリスハートは気付かない
何故彼女はリゲルの隣で横になったのか
流石のリゲルもこれには顔をしかめながら彼女を観察してしまう
明らかに無意識での行動
それはリゲルにもわかっていた
だが別に邪魔でもないから離れろと口を開く理由すらない彼は無視を決める
『外のジャックとはどんな行動を見せる魔物でしたか?』
『行動に予備動作が殆ど無い。直線的なスピードは速いぞ?』
『私達でも倒せるでしょうか』
『不意打ちされなきゃな、それよりも…』
リゲルは起きあがると窓の外を眺める
時刻は夜、灯りをつけずに真っ暗な部屋から外は空の星空で綺麗に街を照らしていた
その街並みを堂々と飛び回る何かを彼は険しい顔つきで眺めていた
(あれは…)
おぞましい姿の魔物が飛んでいる
クリスハートも驚きながら跳び起き、窓の外を眺め始めた
『ベルセバウスって俺とクワイエットは呼んでる』
全長5メートルの蛾
しかしその下部は蛸の触手のようなものが沢山生えていた
単体で飛び回ることなく、確実に複数で飛び回る魔物だとリゲルはクリスハートに説明し始めた
『灯りを付けれねぇのはアレがいるからだ、強ぇぞマジで』
『リゲルさんがそういうのなら…』
『冗談無しで強い、俺でも1匹相手がやっとだったんだぞ…』
(そんな…なら1匹のランクは…)
Bランク確定
クリスハートの視線の先には5匹のベルセバウスが空を優雅に飛んでいる
口から伸ばす針は生物の体液を吸い、飛び回る際に羽から落ちる鱗粉は睡眠異常を引き起こす。
速度はリゲルが先ほど説明したジャックという魔物より僅かに遅いが、実際戦えば大差はないかもしれないと彼は話した
『あまり窓に近づくな、あいつら熱で感知してやがるからな』
リゲルはそう告げると、窓の上の壁から飛び出した釘を使って床に落ちていた汚い布で窓を隠す
完全な真っ暗状態、クリスハートは手探りで今どこにいるのか把握しようとすると、リゲルが彼女の腕を掴んだ
『ここだ馬鹿』
途端に薄暗い灯りが灯る
聖騎士用の変わった照明魔石だが、光量が僅かだ
森で野宿をする際は照明魔石の光量で魔物を呼ぶ危険がある為、聖騎士協会は特殊な照明魔石を各自持っている
リゲルはその1つをくすねたと笑いながらそれを床に置いた
『これで良いだろ、今日は寝ろ』
(…)
『どうした?』
『いえ、何でもないです』
クリスハートは僅かに首を傾げ、考えた
何故自分はこんなにもこの人に慣れているのだろうと
『おっこらしょ』
彼が床に寝そべるとクリスハートも横になる
ここでも彼女はようやく気付く
(あれっ!?)
何故リゲルのすぐ横なんだろうと
『帰ったら予定あっか?』
『帰ったらゆっくりお風呂入ってご飯食べてベットで寝たいですね』
『とっつきにくい答えだな…』
『悪いですか?』
『帰ったら訓練だバーカ』
彼はそう告げると、微笑みながら眠りについた
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