第27話 魔物商人編 3 力を示せ
俺達は警備兵3人と共に奥のドアを強引に開けて飛び込んでいく
部屋の中にいる男が酒を片手に驚いた顔を浮かべ、椅子から立ち上がる
10畳ほどの広い部屋だ
床は石床、埃臭い部屋だと入った瞬間にわかる
奥にもドアがあるのが見える
木製の丸テーブルが中央にあり、男はそこにいる
テーブルの上には酒が沢山だ。
小皿には美味しそうなベーコンがあるが
お腹が空いてきた
驚きの表情を浮かべていた男は、直ぐに鼻で笑うと俺達に口を開く
『警備兵だと!?何故ここにいる』
男は酒瓶を暢気に飲む、顔が既に赤い
酔っ払いかと思われるが目がそう見えない強さを見せている
男の言葉に警備兵が口を開くが…
『魔物売買の疑いが…』
警備兵が口を開くが、それは最後まで言い終わる前に流れか変わる
男が手に持った酒瓶を投げて来たのだ。
警備兵は顔色一つ変えずに、それを手で払い飛ばすと酒瓶は横に壁にぶつかって割れた
かなり強い酒のようであり、割れると匂いが充満する
『…疑いがある、悪いが家宅捜査だ、大人しくしてもらう』
警備兵が腰の片手剣に手を伸ばす
それだけ伝わる事がある、下手に動けばどうなるか…だ
男もそれは十分理解している筈だが、しかし奴は不気味に笑みを浮かべると腕を組んで口を開く
『奥から調べりゃいいんじゃねぇか?』
『…』
男がそう告げると警備兵3人は顔色一つ変えず、険しい顔のまま
直ぐに警備兵1人が入口を固めるが、その瞬間に事態が更に変わった
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!』
『!?!?』
奥のドアの向こうから男の叫び声が聞こえる
俺達は一瞬そこに視線を向けると、同時に目の前の男が素早く警備兵に襲い掛かる
奴は腰の片手剣を抜き、それを突き出す
『くっ!!』
警備兵もただではやられない、腰から片手剣を抜き、間一髪ガードして防ぐと弾き返して睨み合いが始まる
『先に行きなさいアカツキ君!私達がこいつを何とかする』
『ですが…』
『君達では無理な相手だ、魔物ならば君らの専門だろう?行きなさい!!時間は稼ぐ!マット!』
『ははっ!!』
もう一人の警備兵も彼の隣で剣を構え、男に警戒を向ける
『いいねぇいいねぇ!まぁドアの奥に行った仲間の声だ、…俺が魔物の檻に細工したんだよ、壊れやすいようにな?』
『なに!?』
『取り分増えるだろ?食われれば』
下衆だ。
俺達はこの場を警備兵に任せ、奥のドアに向かう
この場は警備兵に任せるしかない、こういうのは彼らが一番動ける
俺達は魔物専門だ、ならば行くしかない
俺はドアを開け、中に入ると下り階段が目の前に現れたので仲間と共に走って降りる
階段が終わるとそこは広い部屋となっており、壁のランタンがその部屋を照らしていた。
奥に頑丈そうな檻が2つあるのが見えるがどちらも檻に布がかぶさっていて中は見えない
一番奥の檻が大きい、あれはなんだ…
しかしそのうちの1つの檻が開かれており、血だらけの男がうつ伏せで倒れている
そして横には大きな布袋、あれに子供が入っている
致命傷を受けている男に前足を乗せている魔物が1体
その魔物に俺は額に汗を流し、刀を構えた
『グロロロロロ』
俺とティアだけはその魔物を目にして、体が強張った
誰よりもその魔物の怖さを俺は知っている
体毛が無く、灰色の筋肉質な体をし、頭部から赤い毛が背中を通って尻尾の先まで伸びている
短い角は両側頭部から2本生えており、目は白くて鋭い
虎の様な体格をした非常に強い魔物
魔物ランクCの中でも無類の強さを誇る肉食獣、ブラック・クズリなのだ
『マジか…』
あの時の記憶が走馬灯のように蘇る
震える足を気合で押しのけようとしても無駄だ、記憶は消えない
『こりゃ…』
ティアマトが真剣な顔を浮かべて口を開くとリリディも口を開いた
『強敵過ぎますね…』
『でもやらないと駄目だよね、アカツキ君』
彼女は覚悟を決めていた
ブラック・クズリは長い舌を使って口の周りを舐め、俺達を睨みだす
これが冒険者なんだ、都合よく倒せる魔物が目の前に現れるはずも無い
俺はやるしかないと覚悟を決めた
《今の兄弟なら、力を合わせれば大丈夫さ…雑魚だがあれを食いてぇ、頼むぜ?》
テラ・トーヴァよ、お前はどれほど強いのだ?
俺は静かに深呼吸をするとカッと目を見開き、叫んだ
『みんな行くぞ!!俺達馬鹿は!』
『『『剣より強い!!』』』
その声に呼応するかのように、ブラック・クズリは咆哮を上げた
『グルァァァァァァァァァ!!』
『!?』
その雄叫びに一瞬だけ体が強張る
するとブラック・クズリはジグザグに走って襲い掛かってきた
あの時とは俺は違う!あの時は奴の動きはギリギリ見えたが今はちゃんと見える
飛び込んでくるブラック・クズリを真横に僅かに移動して避けた
奴は着地と同時に下半身を振って尻尾で殴ろうとしてくる
『くっ!!!』
顔面を狙っている、尻尾がどんどん迫ってくる
体を反らせて避けるとティアがブラック・クズリに向けて腕を伸ばしてショックを唱えた
彼女の手の平から小石サイズの雷弾が飛ぶと奴の体の側面に当たるが麻痺する気配がない
麻痺しなくても蓄積という意味で僅かにビリッとさせるのにそれすら見せない事に全員は驚いた
『おらぁぁぁぁぁぁぁ!』
ティアマトは死角から片手斧を振り下ろす
その攻撃はブラック・クズリの前足の鋭い爪で弾かれ、彼はバランスを崩すとティアマトの横からリリディが飛び出していく
『突風!』
『グロォ!?』
僅かにブラック・クズリがバランスを崩しそうになり、足に力を入れているのが見える
俺は直ぐに居合突で真空の突きを放つがそれはブラック・クズリの尻尾で弾き飛ばされた
『ショック!!』
再びティアが雷弾を撃ち出すが今度はそれを飛び退いで奴は避けたのだ
素早いが見えなくはない、みんなそれなりに動けている気がする
それでも相手は魔物ランクCの強敵、油断したらやられるだろうな
飛び退いたブラッククズリは着地と同時に地面を蹴って一直線に俺達に飛び込んでくるが先ほどよりも更に速い!
猛獣の中の猛獣を見せつけ、牙を剥き出して襲い掛かると同時に俺は素早く前に出て叫んだ
『ティアマト頼むぞぉぉぉぉ!!』
俺は刀を両手で強く握りしめると、飛び込んで来たブラック・クズリに全力で刀を振る
奴の前足の鋭い爪と俺の刀が振れると甲高い金属音が響き渡り、俺は力負けして弾かれてしまう
しかしそれでいい、俺は後方に転倒しながら刀を前に出し、大口を開けて覆いかぶさってくるブラック・クズリの口に刀を咥えこませるとティアマトが怒号を上げて飛び込んで来た
『鬼無双ぉぉぉぉぉ!!』
ティアマトは左手に闘気を纏わせると、それを固めて殴りかかる
ブラック・クズリは顔を上げ、避けようとするが
『グロォ!?!?』
俺は奴の前足を両手で抱き着くように掴む。
逃がしはしない、当たれ
『オラァァァァァァ!!』
ティアマトが額に血管を浮かべているがかなりの全力だ
俺が掴んでいる成果もあり、奴の側面にそれが当たるとブラック・クズリは吹き飛ぶ
『突風!』
リリディが追い打ちで吹き飛ぶブラック・クズリを風の力で奥の壁に叩きつけ、ティアが再びショックで雷弾を放つ
3発目のショックでようやく奴の体が僅かにビクンと震わせて感電した、蓄積が溜まって来た証拠だがまだ足りない
『大丈夫ですかアカツキさん!』
『ああ…』
リリディが手を差し伸べてくる、俺は彼の手を握って立ち上がる
奥で怒りを浮かべるブラック・クズリに全員が武器を構えるがダメージはまだティアマトの一撃しかない
その証拠に奴はまだ元気、今の状態で開闢を撃っても避けられるだろうな
開闢のアンデット騎士の攻撃スピードは確かに速い、それでも避けられる気がするのだ
『グルルルルルル』
アカツキ
『みんな、気を抜くな…格上だぞ』
ティアマト
『わぁってら!こっちゃ全力だぜ』
リリディ
『これを乗り越えれば実績が生まれますね』
ティア
『そうだね、ブラック・クズリに勝てるって事はそういうことだよね』
ランクCにもみんなの力を合わせれば勝てる、それは大きな意味を成し、前に進む士気となる
『!?』
ブラック・クズリには真っすぐ突っ込んでくる。
リリディは突風を放つが奴は真横に飛んで壁を蹴ってから斜めにティアマトに飛び込んでくると、ティアマトは大声を上げて片手斧を振った
『連続斬りぃ!』
素早い彼の2連撃がブラック・クズリの前足の攻撃とぶつかる
するとどちらも弾かれてバランスを崩す、これが好機だと言わんばかりに俺は居合突を放ち、それは見事にブラック・クズリの体の側面に命中して血を流すが貫通はしない
それでも良い、当たればそれでいいんだ
『骨砕き!!!』
リリディが叫び声を上げ、それをブラック・クズリの胴体に叩きつけると奴は地面を転がるように吹き飛ぶ
すさかずティアのショックが飛ぶがそれは態勢を素早く立て直されると同時に避けられ、鬼の形相を浮かべたブラック・クズリが咆哮を上げながら飛び込んでくる
ガードした俺は刀が弾かれた瞬間に奴はくるりを半回転し、後ろ足で蹴られて吹き飛び、リリディを巻き込んで吹き飛んだ
酷く腹部が痛い、息が一瞬止まってしまう
獣の脚力とはこんなにも力強いんだなと痛がりながら俺は実感する
リリディ
『く…』
ティアマト
『大丈夫かぁお前ら!』
アカツキ
『ああ』
リリディ
『僕も大丈夫ですが…骨砕きのレベルが足りなかったか』
リリディは苦虫を噛み潰したような面持ちを浮かべて立ち上がる
息を荒げるブラック・クズリは俺達の周りをゆっくりと回りながら睨んでいる
なんてタフな魔物だ
ティアマトの鬼無双、そしてリリディの骨砕きをまともに受けてもまだ動けるというのか?
かすった訳じゃないんだぞ?これがCランクの魔物なのか…
その事実は俺だけじゃない、皆も思っている筈である
アカツキ
『ティア、ショックの準備を頼む』
ティア
『わかった、無理しないでね…』
アカツキ
『無理しても大丈夫だよ、だって…』
俺はティアマトとリリディに顔を向けると彼らは僅かに微笑む
ティアマト
『安心しな、カバーすっからよ』
リリディ
『お任せください、僕等は4人で1つですから』
俺は1人じゃない、それを再確認するには良い言葉が飛び込んでくる
気づけば足の震えなどない、体は覚悟を決めていた、いや、違うな…
乗り越えようとしている
刀を奴にぶつけても力負けする、ティアマトは違う
彼は技を放ってようやく相殺になる
『グルルルルル!!』
前足で地面を掻きながらこちらを睨むブラック・クズリ
俺は奴を睨みながら刀を構え、口を開く
『長期戦は不利だ!次で決めるぞ!』
皆が返事をする
俺は全員と共に突っ込むとブラック・クズリはカッと目を見開き、ジグザグに蛇行を見せながら襲い掛かってくる。
見える、全然見える
動体視力スキルの恩恵が今、活かされている
壁を蹴って飛び込んでくる瞬間を捉えた俺は歯を食いしばり、刀を突きだして叫ぶ
『居合突!!!』
真空の突きが刀の先から飛び出す
奴はそれを宙で弾き飛ばすが、お前は連続した攻撃に対応は慣れていないだろう?
リリディがスタッフを両手に握りしめて飛び込んだ
『骨砕き!』
彼は大声を上げ、木製スタッフを振り下ろすとブラック・クズリに命中し、地面に叩きつけられる
それでも直ぐに立ち上がるのだが、ティアマトが逃がすまいと奴の前に立ちはだかる
『グルァ!』
ブラック・クズリは半回転し、尻尾を大きく振ってティアマトの顔面を叩いてから後ろ足で彼の腹部を蹴る
ティアマトは痛みを堪え、歯を食いしばって姿勢を低くし、吹き飛ばされまいと足を開いて耐え凌いだ
流石だと俺は心の中で叫んだ
ティアマトは蹴られる寸前で尻尾を左手で掴んでいた事も吹き飛ばされなかった要因ともいえよう
ティアマト
『今だ!!!』
ティア
『はい!!!』
ティアマトが叫ぶとティアがショックを放つ
逃げれないブラック・クズリは雷弾に命中すると先ほどよりも体をビクンと震わせて隙を見せるがまだ麻痺までいかないか…
しかし
『賢者バスター!!!』
『ギャン!!』
初めてブラック・クズリは鳴いた
リリディが顔面を木製スタッフでフルスイングし、奴は顔が仰け反る
『がはっ!』
尻尾を掴んでいるティアマトに痺れを切らしたブラック・クズリは後ろ脚でティアマトを蹴って吹き飛ばし、リリディを体当たりで地面を転がす
俺はその隙に飛び込みながら刀を振り下ろしており、それは奴の顔面を捉えた
『おおおおおおおおおおおお!!』
『ギャ!!』
全力で振り下ろされた刀はブラック・クズリの顔面を斬り裂いた
血が噴き出ると俺はティアの名を呼ぶ
ゴリ押すしかない、今がそれだ
『ショック!』
彼女の技は見事にダメージを受けて隙を見せたブラッククズリに命中すると体が感電し、体を固まらせたのである
『今だぁ!!!』
『やりなさいアカツキさん!』
『アカツキ君っ!!』
《呼べ兄弟!!!》
俺は肩で息をしながらも素早く刀を納刀し、叫ぶ
『開闢(カイビャク)!!!』
鞘に刀を押し込み、金属音を響かせるとそこから瘴気が噴出した
そこからアンデット騎士が飛び出してくると、麻痺したブラッククズリに向け、雄叫びを上げて刀を振り下ろした
『ゴオオオオオオオオオオオ!!』
ブラック・クズリが顔を上げた瞬間、奴は斬り裂かれて血を噴き出す
その場が急に静かになる
俺達は肩で息をしながらも今だに立っているブラック・クズリ顔を向けて武器を構えているとアンデット騎士は刀を鞘にしまい、俺達に親指を立てて消えていく
『…グロロ…グッ』
ブラック・クズリは体を震わせながら足に力を入れるが、その根性も虚しく横に倒れた。
誰もが息を飲みこみ、倒れた強敵から視線を外さない
すると奴の体からより発光した魔石が出て来たのだ。
それを見て初めて奴を倒したと実感し、俺達は強くガッツポーズをする
明らかに格上だとわかる魔物ランクCのブラック・クズリに勝てた、それは今までの冒険の中でもより一層嬉しかった
ティア
『アカツキ君っ!やったよ!』
アカツキ
『ふわぁ…』
ティアが抱き着いてくるが、俺は冷静を保つので必死だ
意外と胸はある、当たっとる!当たっとる!
俺もティアの腰に手を回した方がいいのか窮地の選択を強いられている気がする、しかし
俺は万歳をした
その様子をリリディとティアマトは可哀想な人を見る目を俺に向けてくる
『スキル!スキルみようよ!』
ティアが抱きつくのをやめると興奮しながら口にする
俺達はブラック・クズリの体から出て来た発光する魔石に手を伸ばす
『!?!?』
俺達全員、口を開いて驚いた
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