第26話 魔物商人編 2 侵入
予想外な事に、魔物商人のものと思われる馬車が工場地帯から出てくる
俺はその馬車を遠目で見ながら考えて指示を出した
『後をつけ《兄弟、あの馬車に魔物はいねぇ…中だ》』
テラ・トーヴァが口を開いた
『中だと?』
《ああそうさ、きっと工場内のどっかに闇商人と関係がある野郎がいるんだ…そこに魔物を置いたのだろう》
『何故だ』
《簡単な事さ、輸出する特産品に魔物という商品も一緒に届けるんだろう…他国との貿易なら抜け穴くらい見つけれる、じゃないと無駄に費用が掛かるはずだ》
『詳しいなお前…、まぁ納得がいくよ』
《だから次の輸出まで囲(カク)まってから隠して一緒に他国に流す方が厳しい検問を突破できる、検査の穴場があるからこっからだと俺は予想するぜ兄弟…今なら中に人も少ない、場所ならわかるがどうするよ?食いたい魔物は兄弟達でも倒せるが》
『…』
俺は少し考えてから皆に顔を向け、聞いたことを話すと全員の意見が一致する
『俺はぁいいぜ?面白そうだ』
『侵入ですね?いいでしょう』
『夜の工場見学って初めて』
ティアだけちょっとズレてる
俺は連絡魔石で父さんに連絡しようとしたが繋がらない
そうこうしているうちに父さんがよこした警備兵が3名やって来たのだ。
彼らに事情を説明すると工場内にも工場で雇われた警備兵がいるらしく、掛け合ってみるという事で彼らと一緒に堂々と工場内に入っていくことが出来た
大きな道の両脇には工場が立ち並んでおり、ここで何かを作っていると思うがグリンピアの特産品は果物と酒だ
その証拠にこの場が少しアルコール臭いのだ
近くを警備していた警備兵に出会うとこちらの警備兵が事情を説明し、他の警備兵を連れてくると言って去っていく
俺達はそのまま気配のする場所へテラ・トーヴァの指示のもと、向かう事になる
『冒険者は凄いですね、流石ゲンコツ長の息子さんだ』
なんだか警備兵に褒められるが俺の実力じゃないのが悔しい
笑って誤魔化すしかない
それを仲間はクスクス笑いながら見ている
《止まりな兄弟、右の建物だ》
俺は先頭で立ち止まり、言われた場所を見るが工場じゃない
3階建ての事務所の様な建物だがテラ・トーヴァの話じゃ裏手にある別の建物の地下から感じるらしく、裏に回れと言われた
裏側に人の気配が数人すると言うのだ
警備兵が俺が持つ魔石と同じ魔石に小声で話かけ、誰かと通信している
それが終わり次第、俺達は警備兵3名を連れて裏手に回るが…
『警備兵以外の警備とは…』
警備兵が顔だけ出して口を開く
俺も顔を出すがゴロツキみたいな奴が3人もいる、警備しているが真面目そうに見えない
彼らが見張っているのは事務所裏の倉庫前、ドアがあるがそこに何かを隠してますと言わんばかりの警備だ
『応援を待つ、先ほど私が呼んだからこちらに向かっているとは思うが…』
警備兵が小声で話す
それならば待った方が良い、しかし事態は悪化の一途を辿る
奥の道から大きめの布袋を背負うゴロツキが現れ、彼らと会話をし始めたのだ
『なんだぁそりゃ』
『かっさらった人間だ、あの特別な魔物、何故か人間しか食わねぇんだろ?なら運ぶ迄これで足りるだろ?』
『おいおいよしてくれよ、捜索願い出されてここまで警備兵の手がきたら不味いって問題じゃねぇぞ』
『大丈夫さ、浮浪児だし誰も気づきやしねぇ』
そう話し、布袋を背負う男は倉庫シャッター横のドアに入っていく
待っている暇はなさそうだ、人を餌にしようとしている、警備兵は険しい顔を浮かべ俺達に口を開く
『反対側から回って声をかけます、その隙に後ろから一発で気絶させてください』
『え?』
『ではご武運を』
警備兵3人はそう告げると素早く反対方向から顔を出す為に忍び足で去っていく
俺達が後ろから奇襲となるとかなり荷が重いがティアマトは楽しそうだ、彼だけ
『ティアマトは1発で沈めろ、リリディもそのスタッフで頼むな』
『任せてください、残りの1人は…』
リリディはティアに顔を向けると彼女が緊張した面持ちで口を開く
『麻痺させます』
それでいくか、1分も立たないうちに警備兵が奥の方から3人現れ、彼らに声をかけた
『君達はここで何をしている?』
いきなり現れた警備兵3人に、見張りの3人はギョッとした顔を向け、俺達から背を向けた
『あぁん?警備兵さんの巡回ルートじゃないだろ、なんでここにいる?』
『工場内の警備を委託された警備兵の様子を見に来たのだ、どうやらクレームが入ったのでな…』
『それならここは違うぜ?クレームとは警備兵もなっちゃいねぇな』
見張りのゴロツキがニヤニヤしながら腕を組んでそう話した。
その瞬間、話しかけていた警備兵が開いた手をわざとらしく握りしめる
俺はそれが合図だと思い、仲間と共に一気に素早く忍び寄ると、ティアのショックが警備兵と話す見張りの男の頭部に命中し、変な声を上げて倒れる
『アビバビバ』
変な声過ぎるだろ
驚く2人の見張りがこちらに無理向いたと同時にリリディのがドレインタッチという対象の体力を吸い取る技で顔面を殴打
ティアマトが鬼無双という腕に闘気を纏わせて固めた状態で殴る技で顔面をぶん殴り、吹き飛ばす
全員が見事に一撃
それには俺も驚くが警備兵3人も驚いている
『やるじゃないか』
『やり損ねたら俺がやろうとしたが要らなかったか』
『予想以上だな』
その言葉にティアは照れている。
警備兵は麻痺したゴロツキを殴って気絶させ、彼らを引きずって近くのゴミ箱に投げ入れるとドアの前に歩いてくる
倉庫内のシャッターは閉じているから入口はここしかない
《普通に入っても良いぜ?近くにいないが地下に向かう階段付近に1人いるから入ったら物音は立てないで入りな》
俺は返事をしてから警備兵に入る事を告げると彼らは同意した
警備兵がドアを静かに開けた、廊下が奥で右に曲がっているが、その途中に2階に登る階段とドアが2つ
壁にかけられたランタンで灯りはある。
警備兵2人が先頭、残り1人が俺達の後ろからくる
誰も声を発したりしない、静か過ぎて喋ると響く恐れがあるのだ
《曲がったら直ぐ左側のドアの前に1人だぜ》
テラ・トーヴァの指示を危機、俺はジェスチャーで先頭の警備兵に指を1本伸ばし、その手を曲がり角に指しただけで2人は理解した
曲がり角まで来ると警備兵が一息つき、素早く曲がって姿を消した
『がふっ』
俺たちも直ぐに向かうと先頭だった警備兵の1人が上手く気絶させたらしく、静かに見張りを床に置く
『明らかに怪しい匂いしかしないな』
『そうですね、応援を待ちたいですが…』
『待ってる間に子供が死ぬ、行くしかない』
警備兵2人は会話すると俺に顔を向けてくる
何を求めているわかるからテラ・トーヴァに話し掛けようとしたら、その前に奴は口を開く
《地下の階段を降りると合計5人の気配がする、降りた先の近くにいないから先ずは降りな》
『一先ず降りて大丈夫です』
警備兵に告げると後ろの警備兵が連絡魔石で再び小声で連絡する
人の命がかかっている為、先に侵入して制圧するという連絡だ
ドアを開けると直ぐに地下に向かう石の階段
降りると左右1つずつドアがあり、奥もドアだがその先に2人
手前の右側のドアの先に2人、奥の左に1人だ
『制圧する』
先頭の警備兵はそう告げると、左のドアを軽く開けた
そこは寝室、二段ベッドが3つあり、ゴロツキが欠伸をかいて寝てるので今は無視することにして反対のドアに向かう
『心臓ががががが』
ティアの息が少し荒い、緊張しているのだ
彼女だけならまだしも、リリディは顔を強張らせているのが俺の緊張を僅かに緩和してくれる
扉の前で警備兵2人が聞き耳を立てると俺達を階段付近まで下がらせ、彼等2人がドアの両脇に隠れて構えだす
すると少し離れた俺達からでも部屋の中で歩く音が聞こえ、ドアが開くと同時に警備兵2人が一気に襲い掛かって気絶させると部屋の中に戻してドアを閉める
『こちら工場内潜入班、Aブロック事務所裏の倉庫のドアから地下に侵入、人命により強行突破中ですが直ちに増援を頼む、倉庫脇のゴミ箱に気絶させた見張り3名、応援を求む…繰り返します、誘拐された浮浪児がいる為強行突破、直ちに増援を頼む、以上』
俺達の後ろにいる警備兵が小声で連絡魔石に話している
そうしていると正面の警備兵はドアを閉めて俺達を呼ぶ
歩いていくと左のドアの奥から凄いイビキが聞こえるから早々に起きることは無いだろう
そのまま奥のドアまで忍び足で歩いている途中、テラ・トーヴァが話しかけてくる
《兄弟、1人だけ強めの人間がいるから気をつけな…》
『わかった』
俺は警備兵にそのことを伝える、しかし増援を待つのも出来ない
誘拐された浮浪児だが、いつ餌にされるかさえわからないのである
行くしかない、前にいる2名の警備兵はそう話す
『人間の相手は私達がします、アカツキ君達は直ぐに魔物が収容されていそうな部屋を制圧してください、最後まで姿を隠して制圧する事が出来そうにないですから』
『わかりました、みんなもいいか?』
俺は仲間に顔を向けて言い放つ、だが答えは予想通りで返って来た
『楽勝だぜ』
『やるしかないでしょう』
『あばばばばば』
ティア、落ち着け
奥の扉の前まで辿り着くと息を潜め、中の音に耳を傾ける警備兵だが
その後ろにいる俺達でも部屋の中の音は耳に聞こえてくる
『まさかこの国であの魔物がいるとは思わなかったな』
『だな、あいつに売ればかなりの高値だが倒さずに捕まえた俺に報酬は弾むんだろうな?死ぬかと思ったぜ?まぁそのせいで部下2人やられたけどな』
『その分お前の報酬も増えるだろ?大丈夫さ、それに生きたままだと魔物の価値が上がる…それより餌の時間といかないか?』
『お前が持ってきた子供か、勝手にしろ…俺はそういう趣味はねぇんだ』
『そうかい、だがあいつは空腹になるとやたら五月蠅くなる、鳴かれれば地下だとしても声が漏れる危険がある、あれに近付くのは嫌だがお前が行かないなら仕方がない、餌やりにいってくる』
『俺は酒でも飲んでるぜ』
事態は急を要する、機会を伺っている時間は無さそうだと警備兵は思い、顔色を険しくさせながらこちらに顔を向けて頷いた
警備兵2人が静かに腰の片手剣に手を伸ばすと、俺達の後ろの警備兵も同じく武器に手を伸ばす
突入するしかないのだろう
俺達も直ぐに動けるように身構え、深呼吸をする
『心構えの準備は無い』
警備兵がそう告げるとドアノブに手を伸ばし、勢いよく開けて2人が飛び出していく
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