第25話 魔物商人編 1

俺は今、ティアの家のリビングにいる

彼女の家は裕福だ、テーブルを前後で囲むように3人用のソファーがあるのだが、何故か正面のソファーに座っているのはパンツ一丁のシグレさんと俺の父さんだ、何故ここにいる

ティアとその母親であるローズさんは台所で今日の夜食を作っているがカルボナーラの様だ


不思議と緊張する、父さんは腕を組んでニコニコしているのだから

こういう時は面倒な事を頼まれる時だ


『なんでここにいるの父さん?』


『まぁ先ずは話とく事がある、それは聞けば納得するだろう』


俺は首を傾げると父さんは真剣な面持ちに切り替わり、口を開いた


『隣町からの警備兵からの報告でな、魔物商人がこちらに来ている情報が入ったのだ、魔物を利用した売買はこの国では犯罪、知っているだろ?』


『そりゃまぁ…』


『気配感知スキルの高い検問員がいてもこのザマだ、気づいたのは酔っ払いが飲み屋街で問題起した時に警備兵が捕まえて身元を確認したのだが、そいつは何も持っていなかったもんでリストの照会をしたら犯罪履歴がバンバンでたらしく、持ち物検査したら魔物を大人しくさせる専用の薬を持ってたんだがそれは魔物商人がよく使う薬、それで尋問したらこの街に移動しているってことだけは聞いたんだ』


『それしか話さなかったの?』


『雇われ人だったから詳しくは聞いてなかったらしいぞ、グリンピアを超えていくような事を話していた事だけは聞いたらしいからそれを吐いたのだろう』


『気配感知でもバレずに検問を突破できるんだね』


『驚きだよ、今までそんな事無かったからな…何か細工がある筈だ、この街にいるなら俺達警備兵の仕事だがここは田舎町だ、人数は少ないから冒険者各位にも協力を仰ごうと思ったのだが、それでクローディアさんに相談したんだよ。』


『そしたら僕?』


『どうやら彼らなら見つけるならば出来るかもしれないと言われたのでな、まさか息子がいるチームをあのクローディアさんが抜擢するとは思いもよらなかったぞ?今はEでもDの実力は十分あるっていうしな』


あの人がそんな事を?俺達を推薦するとは思いもよらなかったが、父さんは少し嬉しそうだ



《そういや兄弟、街中に魔物の気配がチラッとしてたな》


ここでいきなり言うか?テラ・トーヴァよ

今、会話出来ない事は知っている筈だが…


俺は父さんに背を向けてソファーに蹲るようにしてテラ・トーヴァと会話する


『それどこだ』


《あれ食いてぇな…食わせてくれるならばいいぜ?》


『人が見てなかったらな』


《わかってるさ兄弟、黒い馬が引いていた、屋根が赤い馬車だ…馭者だった商人は顎鬚が多少長い商人、服装は青かった、行き先は産業地区だが行けば俺のスーパー気配感知でどこかまるわかりさ》


産業地区、工場が多い場所だが…


『息子…何してる?』


『!?』


俺は直ぐに笑いながら頭を掻き、姿勢を正した

シグレさんが凄い顔で俺を見ているが、台所からローズさんも同じだ

しかしティアだけはわかっている、彼女は焦った様子を見せながら俺に小さく首を横に何度も振ってる

会話しているのがわかってるからな


『そういえば変な馬車は見たよ父さん、ここら辺で見ない馬車だ』


『ほう?』


『黒い馬が引く屋根が赤い馬車だったな、商人は顎鬚が少し長くて服は青かったけども産業地区に向かってたよ』


『なるほど、よし…』


父さんは立ち上がるとシグレさんも立ち上がる

何がよし、なのかわからないが

嫌な予感がする、俺はこの後、家に帰って飯を食べたいんだ


『ここを立つならば夜は逆に目立つ、その前に今いるであろう場所を特定するぞシグレ君』


『じゃあ着替えてきますよ俺』


『そうしてくれ、解決したら次のボーナスを増やすように本社に掛け合っておくから』


シグレさんは嬉しそうにガッツポーズをするとリビングから出ていく、部屋に行ったか

俺は勿論父さんに拉致され、外に連れていかれるがティアもついてきてくれている

飯を食えない悔しさがあった俺はとある者を連れていかないと気が入らないと告げ、父さんと共にその者の家を訪ね、そしてギルド前に集まる


『何故でしょうか』


『夜だぜぇ?』


リリディとティアマトだ、悪いがお前らも犠牲だ

父さんが詳しく説明をすると彼らの表情も徐々に真剣になる

最後まで話すと誰よりもティアマトがやる気満々だ


『こっちはシグレ君と共に詰め所にいって警備兵を連れてくる、それまで無理をせずにその地区を張っていてくれ』


父さんは小石サイズの四角い魔石を俺に投げ渡す、これは通信出来る魔石だ

父さんとの連絡用にって事だ


『俺達は行く、見つけてもつつくなよ?』


『わかった』


こうして父さんとシグレさんは警備兵の詰め所に向かっていく

さて…どうした者かと皆で歩きながら話し合うが…


『魔物商人かよ、まだ居やがるんだな…』


『闇商人ですから決して無くならないでしょうね…』


『すげぇ魔物現れなきゃいいがな…』


『それが心配だよね、アカツキ君はさっきテラ・トーヴァと会話してたんでしょ?』


『やっぱティアはわかったか』


『わかるよ、あんな変人見たいな行動してる時はそうだもん』







心が痛い、泣きそう


『ということはテラ・トーヴァから色々聞いたという事でしょうアカツキさん』


『場所は産業地帯、黒い馬で赤い屋根の馬車、商人は青い服だってテラ・トーヴァが言ってた』


『それだけ情報があれば見逃しはしませんね、見つけたらどうするつもりですか?』


『テラ・トーヴァが食いたいって言ってる、どうやら適度な魔物らしいが…という事はだぞ?』


俺は口を開くとティアがその先を話す


『強い魔物なんだね』


数十分歩き、俺達は産業地帯の近くにくる

夜は稼働してない工場が沢山あり、その地区内のランタンの灯りが不気味に沢山の向上を照らす

入口はこの南口と北口、しかしグリンピアを出るにはここから出たほうが南の森から別の街に行きやすい


レンガで出来た2メートルほどの壁が工場地帯を囲み、扉は鉄柵だが開いている


『ここでたむろしていると怪しまれますから一度近くの飲食店でもどうですか?』


リリディは近くの飲食店に指を指した、まだ営業している…よし!

俺は彼の意見に即座に賛同すると、その意図をティアにバレる


『アカツキ君、ご飯まだだもんね』


『お前ぇ・・・夜食前に連行されてたんか』


『…うん』


『ケッ、まずは飯食え…お前が食う間は俺達が店内の窓から入口見とくからよ』


『助かるよティアマト』


熊が天使に見えた

俺達4人はその飲食店に入るが、意外と普通の店だ

午前は営業していない、午後から遅めの夜までか…仕事が遅く終わった人にとって丁度良い場所だ

きっと工場勤務の人間を相手にしているのだろう


その証拠に店内は僅かに作業服を着た年配の人たちがコーヒー片手にカツサンドを食べている

俺達は窓際のテーブルに座り、オレンジジュース4人分とカツ丼1人分を注文した

店員が厨房に戻る為に背を向けると掃除に連絡用の魔石から父さんの声が聞こえた


『アカツキ、どこだ?』


『工場地帯南口近くの飲食店、ジャンクマンだよ』


『そこのカツサンドは肉厚でなぁ…父さん昔よく食べに行ったよ』


『んでどうしたの』


『ああ悪い悪い、一応北口に警備兵を隠すようにして7人配置するが夜だと対応できる部下は少ない…というか南口に向かわせれる警備兵は3人しかいない』


夜だし仕方がない、というか動かす為の理由が予想でしかないのだ

父さんも詰め所で上層部に打診したとは思うが物的証拠は通じなかったのだろう、警戒という形での人数でしか与えられなかったと思う


確定してたらもっと来てる筈だよ


『大丈夫、いつ頃来る?』


『30分後だ、ジャンクマンの店の裏通りで落ち合おう』


父さんはそう告げると通信を切った

近くにいる俺の仲間達も今の会話は耳を傾けて聞いていたので伝言ゲームしなくても良さそうだ


『魔物の数はわかるかテラ』


俺はなんとなく話しかけてみるが…


《やっぱし中から感じるぜ…2体、だがよ兄弟、俺が食いたいのはその中の1体、もう1体はきっと手に余る…檻の中に入ってるだろうが開けちゃ駄目だぜ?》


『わかった』


その事を仲間に伝える

どう考えても俺達では勝てない魔物がいるという事だ、街中で見つけた魔物は問答無用で処理しても大丈夫だがその魔物だけは檻は開けないようにしよう


『お待たせしました、カツ丼とオレンジジュース4人分です』


早い、10分もかかってない

まぁ客も少ないし、直ぐに作れたのだろう

俺は皆が飲み物を飲む間、必死に飯を食べていると彼らの会話が耳に入る


『強敵1体、だがよ…テラ・トーヴァが食いたいっつぅ魔物も弱いとは限らねぇ』


『私もティアマト君の意見に賛成かな、あのスキルの主だもん』


『でしょうね、となると全員でかからないと駄目な敵…』


どんな魔物か、想像しても答えは出ない

そんな中、店内では工場勤務が終わった年配の人たちが徐々に帰り始めている

ようやく半分まで食べた所でテラ・トーヴァが唐突に話しかけてくる言葉が憎らしい


《出てくるぜ兄弟、暢気に飯食ってないでさっさと出ようぜ》


『…』


俺は無言のまま、会計を済ませて仲間と共に外に出た

ティアが同情を俺に向けている、やめてくれ…

腹何分目かわからない、半分かな


それが逆に生殺しである


『可哀想だな、リーダー』


『ティアマト、お腹空いたよ』


『くっはっは!』


『ティアマトさん、声を抑えてください…あれですよ』


リリディの声で全員静かになる、工場地区の入り口から出て来たのはテラ・トーヴァが言った通りの馬と馬車そして商人だがまだ警備兵が来ていない

ここで無理に引き止めてもいいのか?苦渋の選択だ


夜の検問は警備が厚い、父さんは夜のうちに動く事は無い様なことは言っていたが、動いたんだ

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、俺は仲間に指示を出す事にした

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