第116話 激高する地獄からの蠍編 3

『光速斬!』


俺は全身全霊で突っ込んだ

だが相手はBの怒れる魔物、低い姿勢で腹の下を潜って足を斬ろうとしたが正面に鋏


《虫なめんな兄弟!》


『くっ!!』


寸前で跳躍し、鋏に挟まれずに済んだが俺は跳んでしまった

見上げる巨大な閻魔蠍、ここから全体が眺めれるけど綺麗だなとか考える暇はない


《リュウグウ!お前の突きは蠍に効く!》


尻尾がこちらに伸びてくるのを身をよじって避けると、リュウグウとリリディが左右から攻撃を仕掛けた


『爆打!』


リリディが閻魔蠍の足に木製スタッフをぶつけ、小規模の爆発が起きる

しかしビクともしない、出来たことと言えば俺から意識を逸らしてリリディに目を全て向けただけ

でもそれでいい


『鬼突!』


魔力を纏うリュウグウの槍が閻魔蠍の足を狙う

しかし貫けない。貫通力特化の技スキルなのにだ

これは彼女のスキルレベル不足だからかもしれないがそれでも足にはひび割れが出来て閻魔蠍は怒る


『くそっ!』


『ギュイイイ!!』


鋏を振り回され、リュウグウとリリディは一度退いた

俺は落下しながら刀を真下にいる敵めがけて突き、技を放った


『居合突!』


刀の技スキルでは唯一、俺が持つ突系の技

尖った斬撃が真下にいる閻魔蠍の頭部に命中すると、僅かに甲殻に亀裂が入る

だが内部まではダメージはない…


甲高い叫ぶ声を上げながら大きな鋏をこちらに伸ばし、挟もうとしている


『突風!』


リリディが発生させた強風で俺は真横に吹き飛び、危機を脱した


『助かる!』


俺はそう叫ぶと、ティアがラビットファイアーを放って閻魔蠍の目を狙う

だが両手の鋏でそれはガードされ、何事もなかったかのように尻尾で地面を何度も叩いて怒りを俺達に見せつけてくる


ティア

『なんだが1週まわって楽しくなっちゃった』


リリディ

『最後までティアさんは清純でいてほしかったですが』


ティアマト

『悪ぃなぁアカツキィ!ティアちゃんも俺達に毒されちまったな、はっはっは!』


リュウグウ

『わ・・・私はまだ残ってるぞ』


アカツキ

『悪いが仲間になった時点で残ってすらないぞ』


リュウグウは不満そうな顔を浮かべて黙る

それを見てティアがクスリと笑う


『キィィィィィィィ!』


アカツキ

『地道に行くしかない!リリディはシュツルムの準備!ティアはひたすら目に放て!俺とリュウグウで翻弄させるぞ!』


ティアマト

『俺はなんだぁ!?』


アカツキ

『感覚で動け!命令されるよりもその方がお前が一番だろ!』


ティアマトは不気味な笑みを浮かべる

それにしても、鳥肌が止まらない

耳鳴りもいつの間にか消え去ったし、俺は閻魔蠍から目を離せない


生きるために戦っている、しかしどう倒すかとかどう動くか考えると1つの感情が俺の体にまとわりつく

恐怖という感情だ。


人が相手する魔物じゃないというのは肉体が僅かに理解しているのだろう

だがそれはまだ俺達が弱いからそう感じるのかもしれない



奴の体が半回転すると、俺に尻尾の先端にある鋭い棘を伸ばしてくる

あれは毒針、刺されると毒液によって体内の血液が瞬時に凝固し、即死だ


歯を食いしばり、しゃがんで避けるとそのまま光速斬で足元を通過しながら刀を振る

ガキンッと音がして手が痺れる、本当に金属を斬ったかのような感じだが、斬れてない

俺の刀が刃こぼれしないのも凄いな…


《ばっか!斬は無理だって》


『わかって…っ!?』


《避けろぉぉぉぉぉ!》


真上が暗くなったと思ったら巨大な鋏が降ってきた、押し潰す気か!?

俺は地面を大きく蹴って真横に飛び、間一髪で避けることが出来た

しかし、地面に強く叩きつけた鋏から軽い衝撃波が発生し、近くにいた俺はそのまま吹き飛ばされ、リュウグウは足をふらつかせる


虫でさえそれを隙だと理解した

リュウグウに向けて薙ぎ払うかのように尻尾が迫る


『くそっ!』


跳ぶしかない、それは致命的だがそれしかないのだ

彼女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて跳んで避けると、待ってましたと言わんばかりに両手の鋏で宙を舞う彼女を狙った


リリディ

『今は気にせず』


彼女の危ない状況を救いに行ったのはリリディだった

奴はリュウグウに向かって飛び込む、スタッフを持った右腕で体を抱き寄せて掴むと迫りくる鋏に向かって左手を伸ばした


『シュツルム!』


黒い魔法陣から黒弾が放たれ、迫る鋏に命中すると爆発が起きる

風圧でリリディとリュウグウは吹き飛ぶが、それが正解だろう

距離を置くことが出来たんだ


『真空斬!』


ティアマトが黒煙の中に向かって片手斧を大きく振って斬撃を飛ばす

しかしその真空斬は黒煙の中に消えると、弾かれた音だけを残して消えた


『チッ…ダメか。頑丈過ぎるだろ』


ティアマトが舌打ちをしてから愚痴をこぼす


ティアはすかさず黒煙の中にラビットファイアーを放つ

しかしそれは黒煙から飛び出してきた閻魔蠍の鋏によってガードされ、弾かれた


リュウグウ

『いつまで抱き着いてる!』


リリディ

『すいません、心地よかったもので』


リュウグウ

『あとで殴る、助かったがな』


2人も立ち上がり、途端に閻魔蠍が一直線に襲い掛かる

しかも両鋏をいっぱいに広げ、えぐりながらという豪快な行動をしながらだ

あれは流石に怖い


『キィィィィィィィ!』


《怒り過ぎだろ!!》


アカツキ

『そりゃな!』


『ニャ!』


ギルハルドは軽く避けるけども、俺達はそんな身軽じゃない

左右に飛んでぶちかまし攻撃を避けたが、ティアと俺に向かって尻尾が向かってくる


ティアは俺を掴むと、右手を上にかざした

すると驚くべきことが起きる

彼女の掲げた手の平から緑色の魔法陣が現れ、俺達は空に舞い上がる


これはとある者から頂いた魔法が付与された指輪だ

レイヴンという飛翔魔法を使うことが出来るんだ


『ナイスだティア』


『役に立ったね!』


閻魔蠍が俺達を見上げている隙に、リュウグウとティアマトが懐に潜り込んだ


『鬼突!』


魔力を帯びた彼女の槍が閻魔蠍のひび割れた箇所を突き刺した

割れた部分ならばと考えたのだろう


それは正解だ

見事の彼女の槍は閻魔蠍の体を貫いた


『ギュピイイイイイイ!』


『ぐっ!』


痛みに耐えかねた閻魔蠍はその場で暴れ、リュウグウを吹き飛ばした

ティアマトは叫びながら足に向かって片手斧を全力で振ると僅かに彼の攻撃が硬い体を砕くが、叩いた衝撃で僅かにバランスを崩した隙にティアマトは踏みつぶされそうになったので飛び退く


俺はその間、ティアの魔法で後方に移動しながらゆっくりと落下を始める


ティアマト

『こいつ・・・!』


『キイイイイイイイ!』


ティアマトに向かって両手の鋏を何度も叩きつける

それを彼は何度も避け続ける

ギルハルドがキュウソネコカミを発動させ、神速を得ると一直線に閻魔蠍の顔面に向かって突っ込んだ


流石の蠍もそれには反応できず、目の1つを斬り裂かれて悲鳴を上げる


『ギャフ!』


勢いを止めれないギルハルドは地面を転がる

リリディはパートナーの心配をよそに、右手を敵に向けて黒い魔法陣を出現させた


『シュツルム!』


暴れまわる閻魔蠍に黒弾が撃ち放たれ、それは側面に命中すると転倒させたのだ

しかし、直ぐに立ち上がってきた


リリディ

『馬鹿な…直撃ですよ!?』


俺とティアは離れて着地してから彼の近くに向かう

俺だって驚いてるさ、彼のシュツルムの威力は黒魔法耐性があるミノタウルスでも嫌がるほどのダメージがある

なのにこいつは…


ティア

『堅い甲殻が魔法の威力を軽減してるんだね』


ティアマト

『ならこのメスの甲殻を全部剥がして裸にすりゃいいんだな!そりゃ男の仕事だ』


アカツキ

『相手は人間じゃないぞ!』


難しすぎるぞ…

復帰したリュウグウが遠くから槍を回転させ、勢いをつけて槍を突いて光線を放った

槍花閃という彼女の切り札だ


だがそれは防ぐ動作すら閻魔蠍は見せず、甲殻に弾かれた


『くそ!狙いが外れた…傷口を狙っていたのだが…』


彼女は前屈みになりながらも苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた

割れた甲殻を狙ったのだろうが距離があり過ぎて狙いが外れたんだろうな


閻魔蠍は地面をすくうように払い、意思や土の塊を俺達にぶつけようとしてくる

デカい魔物はこんな攻撃するんだな…前にも体験したことあるぞ


ティアはシールドを正面に展開してそれを防ぐが直ぐに壊れる


割れた先には閻魔蠍が既に迫っており、俺やティアマトやティアが驚愕を浮かべた


《避けろ!》


奴の尻尾が不気味に発光してる

あれはスキルを行使しようとしている

俺達3人は横に飛び込むようにして避けた


すると閻魔蠍の尻尾の棘が目にも止まらぬ速さで先ほどまで俺達がいた場所を突いたのだ

あまりの連打に地面がくぼみ、穴のようになっているけどもあれ食らったら即死だな


リュウグウ

『三連突!』


彼女は奴の側面に飛び込み、甲殻を僅かに砕いた

リリディはスキル使用後に無防備になったリュウグウが閻魔蠍の標的にならぬように真正面から突っ込んだ


『ギュイイイ!』


『僕だけじゃないですからね!』


リリディの後ろから何かが閻魔蠍に突っ込んだ

ギルハルドだった

キュウソネコカミによって神速を得たギルハルドは甲殻の割れた足の部分を斬り裂いてから吹き飛んでいく


閻魔蠍はそれに気を取られ、後方で吹き飛ぶギルハルドに体を向けた

だがそれは囮だと俺は気づくのが遅れた

側面の目がリリディを見ていたんだ


『リリディ!』


俺は叫んだ

光速斬で向かっても間に合わないだろう


『なっ!?』


尻尾が払われ、リリディは直撃して大きく吹き飛んだんだ

無気力に吹き飛ぶ彼と入れ違うようにして前に出た俺は閻魔蠍の尻尾の叩きつけを避け、懐に飛び込んだ


俺はこいつの攻撃も見えるし、こいつよりスピードはある自信がある

しかし命を狩るような力はあるかと言われると即答は出来ないな…


《付け根狙え!!》


『おおおおおおおお!』


俺は足の付け根に向かって刀を押し込んだ

体を動かす関節は堅くはない、見事なまでに俺の刀は深く突き刺さり、血が飛び出る


叫び暴れる閻魔蠍に吹き飛ばされないようにその場から離れると、面白くないことが起きる

鋏を振るだけで奴は真空斬を発生させてるからだ、あり得なさすぎるだろ!


大きな斬撃を避けるだけでも一苦労さ

ティアマトがあまりの数に避けつつ後ろに下がる


ティア

『リリディ君が…』


アカツキ

『自力で何とかさせる!今は敵に集中しろ!』


ティア

『わかった!』


彼女は襲い掛かる無数の真空斬を避けると素早くラビットファイアーを放つ

その1つは割れた甲殻に命中し、閻魔蠍は叫びながらも僅かに後ろに退いた


リュウグウ

『熊!頼むぞ!』


ティアマト

『熊言うな熊!』


リュウグウ

『うるさい!』


彼女が飛び込んだ、俺もすかさず走って向かう

ティアも一緒だが、近づく気か…しかしそれしか手はない


『キ!』


赤い目のすべてがリュウグウを捕え、正面まで迫ってくると鋏で彼女を挟みこもうとする

1つを避けても、もう一つがまだだ…避けた先で彼女を待ち構えている

だが最悪な結果にはならない


『ギロチン!』


ティアマトが閻魔蠍の上空から斬撃を落とし、鋏にぶつけてバランスを崩したんだ

鋏から僅かに破片が飛び散っている


リュウグウは槍を回転させながら荒げた声で『槍花閃』と叫び

至近距離から鋏の関節部分、ようは腕の付け根を狙って光線を槍の先から撃ち放った


そこから血が出ると閻魔蠍はさらに怒ったようだ

もっと目が赤く染まったぞ…、しかしだ


『刀界!』


その隙に正面で鞘に刀を強く納め

無数の斬撃が交じる衝撃波を飛ばす

甲殻を砕く威力はまだないが、砕けた箇所には有効だ

その部分が斬り裂かれて血を流している


『ラビットファイアー!』


ティアも俺の直ぐ後ろから魔法を放ち、閻魔蠍の顔面を狙って視界を遮る

嫌がってはいるがそれでいい、一瞬でも隙を作れるならばそれはチャンスだからな

体を振って暴れる閻魔蠍の尻尾が僅かにティアの頭部をかすり、額を切ってしまう

彼女はバランスを崩して転倒すると、俺は助けに行こうか迷ってしった


すると直ぐにティアが叫ぶ


『敵を見て!大丈夫だから!』


そうだった。過保護すぎた感情は今は駄目だ


ティアマト

『ギロチン!』


ティアマトは刀を振り降ろし、閻魔蠍の頭上高くに発生させた斬撃を落として鋏にぶつけた

そこはリュウグウが付け根を狙った腕であり、できれば俺もそのまま切断できればなと思ったが無理だった


僅かに閻魔蠍がグラついた、それだけだ


『シャァァ!』


ギルハルドが再び目を狙うが、閻魔蠍が僅かに動いただけで体とぶつかって無残にも吹き飛んでいく

リリディが腕を閻魔蠍に向け、空高くに黒い魔法陣を発生させていた


『ペイン』


閻魔蠍の頭上に展開された黒い魔方陣から黒い雨が降る

それは振れた対象に激痛を与える黒魔法、黒い雨が閻魔蠍の割れた甲殻の中に入っていくと、今まで以上に甲高い鳴き声を発した


あまりの高音に俺は耳をおさえた

その隙に閻魔蠍は両手の鋏で地面を強く叩きつけて衝撃波を発生させて俺達を吹き飛ばした

リリディも巻き込まれ、魔法が止まる


『くそ…ティア、大丈夫か』


『まだ大丈夫』


彼女の腕を掴んで一緒に起き上がると《避けろ!》とテラが叫ぶ


『ギィィィィ!』


目の前には2つの鋏を此方に向けて襲いかかる閻魔蠍がいた

ティアは反応しきれてない、彼女の指輪での飛翔は間に合わない


『くっ!』


俺はティアを横に強く押し飛ばし、光速斬で突っ込んだ

ギリギリで頭を下げると鋏が閉じた

本当にゾッとする、首を狙っていたのかよ…


そのまま真下に潜り込んだ俺はひび割れた足の甲殻に刀を突き刺してからえぐると閻魔蠍は悶えながら尻尾の先端の毒針で俺を貫こうとした


刀を抜き、体をくの字にして不細工にも避けてからその場から離れると同時にリリディがスタッフを閻魔蠍の顔面にフルスイングし、蠍の体から光がリリディに流れていく


ドレインタッチか…体力を吸収したんだな


『連続斬り!』


ティアマトが閻魔蠍の背後から尻尾の付け根を狙い、素早く2回切り裂くが血が僅かに吹き出たのみ

不規則に動く尻尾に当たった彼は地面を転がる


『鬼突!』


リュウグウは勇敢にも閻魔蠍に突っ込む

彼女は鋏の甲殻を突き破り、ダメージを与えた

直ぐにリリディが彼女を突風で吹き飛ばしてその場から引き離す


『助かる!』


リュウグウが吹き飛びながら口を開いた


アカツキ

『こんなに攻撃しても…』


『ギュィィィ!』


閻魔蠍は怒ってる、まだ元気だぞ…


ティア

『アカツキ君…』


彼女は心配そうな顔を浮かべた

額から血を流してるが大丈夫そうだ、それなら良い


ティアマトは脇腹をおさえながら構える

先程の尻尾の攻撃で受けたダメージだろうが、よく立てるな

直撃だったぞお前


だがそれは彼の耐久スキルがちゃんと機能している証拠でもある



リリディ

『やはり…欲張ると駄目ですね』


彼はふらつきながら告げると、リュウグウが彼を支えた


『…』


『何を驚いてるメガネ、まだやれるな?』


『勿論です。』


さて、このままじゃこっちの体力が不味い

確かにこの状況だと欲張れないな

リリディのスキルを会得するのは無理そうだ


あんな巨体で素早いとは本当に面倒な魔物だな

俺は刀を構えながら走り、閻魔蠍の鋏を避けてから顔に飛び込み、刀を鞘に納めながら『刀界』と叫ぶ


無数の斬擊が混じる衝撃波を顔に飛ばし、いやがっている隙にティアマトがギロチンを使い、斬擊を閻魔蠍の頭部に落としてふらつかせてからリュウグウがさらに鋏のつけ根を突き刺し、そこでようやく奴の右腕がダラりと力が入ってないかのようになった


『ギィィィィ!』


リリディ

『シュツルム!』


黒弾を閻魔蠍の右腕のつけ根に命中した

そこで活路が見えてきたんだ

奴の右腕がシュツルムの爆発と共に吹き飛んだ


リリディ

『よし』


アカツキ

『よし!』


ティア

『よっし!』


リュウグウ

『よし!』


大きな声だ

それほどまでにこの意味がデカい


閻魔蠍は痛みよりも、怒りが勝っており狼狽える様子はない

甲高い鳴き声を上げて残る左手の鋏を広げ、こちらに襲い掛かる


右腕が失ってもその攻撃はおさまることを事を知らない

尻尾の毒針の突きを避けても、左腕の鋏を掻い潜ってひび割れた甲殻に刀を突き刺しても

奴は目を真っ赤に染めながら俺達に牙を剥く


『!?』


閻魔蠍の真下にいた俺は危険を感じ、光速斬で抜け出した

その瞬間に奴が体の下腹部全体を地面に押し付けたんだ

のしかかりだったんだ、あれは一撃過ぎる…潰されたくはない


『ラビットファイアー!』


ティアの飛ばす熱光線5つが閻魔蠍の顔に命中し、僅かに狼狽えた隙にリュウグウが槍花閃で光線を放ち、目を1つ潰した

そこで奴はようやく怒りよりも痛みが勝り、奴は後ろに下がる

丁度


閻魔蠍の背後にはリリディとギルハルドがおり、彼らはいきなり下がってきた閻魔蠍にぶつかって吹き飛んだ


転倒しても踏みつぶされないように体を上手く転がして何とか凌いではいるがリリディの動きが鈍っている、ギルハルドはまだ大丈夫そうだ


『ギロチン!』


ティアマトが飛び込み、空中で武器を振り下ろすと斬撃が閻魔蠍の頭上に現れて落ちる

それを避けようとした閻魔蠍は完全に避けることが出来ないと瞬時に見切り、左手の鋏で顔をガードした


パキン!と大きな音が聞こえた

奴の鋏に亀裂が入っている

俺は素早く奴に走り、毒針の攻撃を避けたが尻尾が横に振られて俺は直撃した

灰にため込んだ空気が全て口から出たかのような感覚、全身が痛い

しかし、吹き飛びながらも俺は荒げた声で叫ぶ


『頼むぞ!リュウグウ!』


『うおおおおおおお!鬼突!』


背後に回り込んでいたリュウグウが閻魔蠍の尻尾の付け根に槍を突き刺した

刺してから素早く飛び退き、馬のような後ろ足の蹴りを免れる


『シュツルム!』


リリディの爆発魔法、黒い魔方陣から黒弾が左腕の鋏に命中し、甲殻が弾け飛ぶ

それによってその腕は弾かれたように大きく真上に伸びきった


『居合突!』


痛みを堪えながら立ち上がる俺は素早く刀を前に突きだし、突きの形をした斬撃を飛ばすと左手の鋏を貫通した

堅い外殻は意味を成していない、これなら…いけるか?


『ギュイイイイイイ!』


奴の左手の鋏が赤く発光している

俺は何が不穏な予感を感じ、『全員下がれ!』と叫ぶがそれと同時に閻魔蠍は叫びながらその手を地面に叩きつけ、爆発を発生させる


避けても近くだった俺はそれに巻き込まれて吹き飛ぶ、ティアマトもだ

一瞬、意識が飛びそうになった

耳鳴りが凄い、耳が痛い…


吹き飛んだ先がどこかわからない、俺は倒れているようだ


《…っ!!…!》


テラ・トーヴァが何か話してる?聞こえない

視界がぼやけてる、仰向けで俺は倒れているけども体が痺れて動かない

するとティアが俺の視界に映り、泣きそうな顔のまま俺にケアをかけてくる


彼女も何か話しているけども、それは徐々に聞こえてきた


『ツ・・君!アカツキ君立って!!!』


《アカツキ立て!!!!!!》


俺はカッと目を見開いた

ティアの背後には閻魔蠍、奴は俺とティアを鋏で押しつぶそうと左腕を掲げていたんだ

それを止めようと、奴の両側面には俺の仲間が必死な顔で攻撃をしてくれている、それでもこいつは止まらないんだ!


俺はティアの腕を掴みながら上体を上げ、叫ぶ


『光速斬!』


地面を蹴ってティアと共にその場を脱し、閻魔蠍の攻撃を避けることが出来たが後ろの様子を見ていない俺はティアを抱きしめたまま大きな木に背中をぶつけて地面に再び倒れた

だけどもこれは気つけに丁度いい、意識が痛みで戻ったよ


『アカツキ君!今は我慢して』


ああなるほど…俺って血だらけなんだ、そっか…

凄いよな、Bの魔物ってさ

1発でこんなに人を壊せるんだ、避けたのになぁ


『がっ!?』


背後から跳びかかっていたティアマトは閻魔蠍の尻尾にはたき落とされて地面に落下

リリディはギルハルドに目を攻撃するように指示し、ギルハルドが目を狙うと閻魔蠍は嫌がってしまい、ティアマトに追い打ちするのをやめた


『アカツキ君…』


『心配してる暇はないぞティア、仲間を助けるぞ』


《兄弟、お前自分の怪我がどれだけかわかってるか?》


『考えて何の意味がある』


《なに?》


『今更それを考えて…酷いから逃げますって選択をすると思うか?』


《…ならどうする?》


『馬鹿の考えはこうだ、死ぬ前に倒す』


テラ・トーヴァは大きく笑った

緊張感をまるで感じさせないほどに大きくだ

俺は自分の可愛さを捨てた


倒したいなら何かを捧げる気で挑むべきだ

綺麗に倒すなんて無理さ、俺達はまだそんな強くはない…筈だ


『光速斬』


俺は奴に突っ込んだ

すると瞬時に反応してきた閻魔蠍は傷だらけの左手の鋏で俺を挟みこもうと腕を伸ばしてくる


『おおおおおおおおお!』


俺は叫びながら挟まれる寸前で斜めに跳躍し、奴の左腕の付け根に刀を押し込んでから横に抉った

赤い鮮血が噴き出すと、奴は悲鳴を上げながら尻尾をこちらに向けてくる


刺す気か


『ティアマトォォォォォォ!』


俺が叫ぶと、仲間は呼応してくれる


『わぁってるわぁぁぁぁぁぁぁ!』


ティアマトはギロチンという技を使い、閻魔蠍の頭上から斬撃を落とすとそれは尻尾に命中し、軌道がずれた

俺は刺されずに済んだのだ、有難い


その隙に俺は刀を抜いて下がり、入れ違いにティアのラビットファイアーが閻魔蠍の顔面に命中

リリディがチェーンデストラクションで2本の鎖を閻魔蠍の尻尾に伸ばして巻き付き拘束した


リュウグウが槍を回転させながら跳躍し、閻魔蠍の頭上から尻尾の付け根に向かって槍を突き、槍花閃で光線を撃ち放つと、奴の尻尾は切断される寸前まで貫通したんだ


『キィィィィ!』


『うっ!』


大きく鋏を振り、リュウグウに攻撃をする閻魔蠍だが距離が遠くで肩をかすっただけだ

それでも彼女は大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる


リリディ

『シュツルム!』


『キッ!?』


彼は臆せずに真剣な顔を浮かべたまま叫び、閻魔蠍の真正面から魔法を放つ

反射的に鋏でガードしようとするが、避けたほうがまだよかっただろうな

黒弾が奴の鋏に命中すると爆発と共にその鋏が吹き飛んだんだ


馬鹿の俺でも今が倒す時だと気づく

リリディには感謝しよう、避けられないためにも至近距離を撃つことを判断した彼は自身の魔法の爆風で大きく地面を転がって吹き飛んだのだ


もう閻魔蠍の腕はない、脅威なのは尻尾の毒針

それももうすぐ切れるとなると。俺達は自然とスキルを会得する方法で奴と戦っていることに気づく


息切れが凄い、まるでこの場に酸素がないと勘違いするくらいに深く呼吸をしてしまう

あの巨大な化け物は体力はまだあるだろうが、ダメージはきっと深い


ティアマト

『連続斬り!』


ティア

『ラビットファイアー!』


『キキィィィィ!』


ティアマトの素早い2連撃が閻魔蠍の頭部に命中しひび割れる

そしてティアの魔法が奴の口元に命中し、バランスを崩して横に転倒したんだ

今こいつは両腕がない、そして今…


『シャァァァァァァァァ!』


ギルハルドが最後の力を振り絞り、キュウソネコカミの力を全て使って突っ込むと

切断寸前の尻尾を斬り飛ばしたんだ

でかしたぞ!


リリディ

『休め!ギルハルド!』


吹き飛んでいくギルハルドは聞こえているのだろうか…しかしギルハルドは本当に頑張った


『ギュ…?ギュイ!?』


《こんなはずじゃないって鳴き方だぜ?お前らの攻撃で怒りよりも勝る何かによって正気に戻ったらしいぞ》


リュウグウ

『それは…好都合…だ、ぐ…』


リリディ

『大丈夫ですか』


リュウグウ

『触るな、後で殴る』


ティア

『見て!目が白くなってく!』


閻魔蠍の目が、白くなった

我に返った…という事になる


全員が体力の限界、みんないつ倒れても可笑しくないほど疲弊し、汗だくだ

しかしだ…


本当に狙っていなかったのに、なっている

両手の鋏の切断は吹き飛ばすケースもありなのだろうか?

尻尾も順番になんだか切断できたけども後は心臓…


どこだ


ティア

『蠍の心臓…』


リリディ

『私はまだ撃てますが…皆さんどうです?』


リュウグウ

『私は鬼突を使えばあとは終わりだ…』


ティアマト

『俺はまだ技2発ぐれぇは多分いける』


ティア

『私は4発はイケる!一番動いてないからみんなの代わりい動かないと』


リリディ

『ティアさんは十分に役に立ってますから』


アカツキ

『そうだな。んで俺もあと1発が限界だ…光速斬を回避に使い過ぎた。心臓を狙う余力はあるとは言い切れない』


《頭部だ》


俺達は驚いた

きっと手助けしないだろうと思っていたテラ・トーヴァが教えてくれたのだ


ティア

『テラちゃん…?』


《こいつは特殊だ、脳の真下にある…閻魔の柄の両目の中心だ》


目の模様の中心…か

閻魔蠍はこちらの様子を伺い、威嚇をしているが先ほどよりも覇気はない


俺はリュウグウに顔を向けた


『無理をさせるぞ、俺とティアマトで隙を作るから1発で貫け』


『私に頼るか…』


『開闢を使いたくても今の状態じゃ避けられそうだ…。しかも避けられないように足を今度狙う事になるが、そんな体力はもうない』


もう無理だ、今にも倒れたいからだ

体中が痛い、血が流れている

それを悟ったリュウグウは槍を強く握りしめ、閻魔蠍を睨みながら答える


『しくじったら尻に槍を刺すぞ』


俺は苦笑いを浮かべながら頷き、ティアマトに視線を向けた


『次で全て出そうぜ…あっちもわかってる筈だ。どっちもいっぱいいっぱいだってな』


『その通りだ。リリディとティアは援護してくれ』


『わかりました』


『はい!』


『ティアマト!行くぞ!』


『おお!』


俺は叫びながら彼と共に突っ込んだ

両腕も尻尾もない閻魔蠍は戦意を失わず、甲高い鳴き声を上げながら襲い掛かってくる

何をする?どんな攻撃を隠してる?


奴に接近していくと、それがわかった

口を開いて何かを飛ばしてきた。

紫色の液体を飛ばしてきたんだ


『構わねぇ!行く!』


『ティアマト!!』


ティアマトは俺の前に躍り出ると、飛んでくる液体なんて気にせず突っ込んだ

俺は彼の名前を叫びながら追いかけると、彼は液体を体で受けたんだ

丁度ティアマトが盾になってくれたから俺は僅かに腕に付着しただけ、だが触れた場所が黒ずんだ


毒液だったんだ。神経毒さ

俺の腕に激痛が走るが今更それに驚いてたまるか!


ティアマト

『その口はチャックだ!』


アカツキ

『!?』


俺は何故彼が平気なのかわからない、毒液を浴びたのに

毒液?ああそうか…ようやく彼のアビリティースキルが役にたったよ

彼は毒耐性のレベルが4と非常に高いから毒の影響を受けてないんだ!


ここでそれが発揮かよ


平気なティアマトに困惑する閻魔蠍、しかし彼はそれを見逃さない


『口はやわらけぇだろぉ!』


ティアマトは閻魔蠍の口元に飛び込み、連続斬りを放つ

すると奴の口から鮮血が飛び散り、悲鳴を上げる


『断罪!』


俺はティアマトの後ろから刀を振って閻魔蠍の目を狙った

これはその場で振った斬撃が狙った場所に現れるという凄い技

魔力の消費量が凄いから使いどころを見いだせなかったが、今しかない


半分の目を失った閻魔蠍は上半身を大きく持ち上げて空に向かって鳴く

リリディが両肩に黒い魔方陣を1つずつ出現させ、黒い鎖を伸ばして閻魔蠍の前の両足に巻き付いて前のめりに転倒させるとリュウグウが飛び込んだ


一瞬でも動きを封じれば御の字だ!


『終わりだ!鬼突!』


『ギュゥピィィィィィィィ!』


リリディ

『ぐっ!くそっ!』


リュウグウが槍を突きだした瞬間に閻魔蠍がリリディの鎖を断ち切る

だがそれは遅かった

立ち上がると同時に彼女の槍は狙った部分に深々と突き刺さり、押し込んだんだ

ビクン!と奴の体が反射的に動き、頭を振ってリュウグウを吹き飛ばした


槍は刺さったままだ

リュウグウは地面に叩きつけられる前にリリディがキャッチしようとするが、彼は受け止めきれずに彼女と共に地面に倒れた


『ギュイイイイ!』


アカツキ

『外れた…のか?』


奴が走ってくる

元気すぎる…もう俺達に次なる攻撃はない


『ラビットファイアー!』


『シュツルム!』


ティアの熱光線5つが閻魔蠍の顔面を燃やし、素早く立ち上がったリリディの黒弾は奴の口で爆発を起こした

すると閻魔蠍は前のめりに滑りつつ倒れ、俺達の目の前で止まったんだ


俺は息が出来ないほど体が強張る

立つなと秒で100回は唱えたかもしれない

ティアが俺達の前に移動すると、両手を前に出していつでもラビットファイアーを撃てる準備をしている


ティアマトも今にも死にそうな顔を浮かべたまま片手斧を構えるが、腕が下がっていた

リリディなんてリュウグウと共に動けないようだ

誰もが立っているだけが限界、今動けるのはティアだけ


『ギュ…ピピピ!キキキキ!』


アカツキ

『これが…』


ティアマト

『へ…へへ、とんでもねぇぜこいつはよぉ』


閻魔蠍は立ち上がろうとしていた

しかし何度も足を滑らせて立ち上がれないでいる


『立たないで…お願い』


ティアが小声で口を開きながら体を小刻みに震わせた

ここで立ち上がれば俺達は死ぬ。もう魔力を残してない

動けば頼みの綱はティアとリリディに託される

それは火を見るよりも明らか


でも、こいつが立ち上がることはなかった


《流石に虫だな!心臓貫かれても無意識に襲ってきやがったかぁ…》


アカツキ

『どういう…ことだ』


その瞬間、閻魔蠍は立ち上がることを諦めてドスンと上体を地面に落とした


《死んでるんだよ、本能的に動いただけ…おめでとう兄弟》



奴の頭部から現れた発光する魔石が現れて地面に落ちると、俺達は確信したよ


勝った


俺とティアマトはその場に倒れながら笑みを浮かべた







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