第197話 幻界編 37
次の日を迎えることが出来た俺はティアマトに担がれ、神殿内の迷宮を進む
馬の絵を探しながらであるが、途中で水路が流れる大きめの部屋を見つけた時にはみんなの士気が一気に跳ね上がったよ
魔力が回復できる水、そしてそこには魚が泳いでいたんだからな
ジャックが4体もいたけど、誰もが喜んで飛び込んでいったのには驚いた
2体はクローディアさんとロイヤルフラッシュ聖騎士長が単騎でボコボコにした
あとはリゲルとクワイエットさんのコンビが1体、エーデルハイドさんが1体だ
ドロップは1体、両断一文字はアネットさんが獲得
エーデルハイドさん達もかなり強くなったと思う
倒すまでが流れるかのような動きだったんだ
ロイヤルフラッシュ聖騎士長がウキウキしながら水路を泳ぐ魚を腕を素早く突っ込む方法で乱獲し、全員はシエラさんの火魔法スキルで俺の父さんが何故か持っていた焚き火用の細い薪で焼き魚を食べる事が出来た
ついでに魔力水も補給、一応万全だ
シューベルン
『生きる望みが出てきたぞ』
アメリー
『骨の調子も結構良くなってきました』
バッハ
『だが完治したかはわからん、ギリギリまで戦闘は参加するな…ジキットもだ』
ジキット
『了解です』
クローディア
『それにしてもトラップがありそうな建物じゃない?間違った部屋に行くとどうなるのかしら』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『最悪の場合、死ぬかもな』
クローディア
『先頭をあんたにすれば問題解決ね』
これにはロイヤルフラッシュ聖騎士長、困惑を浮かべる
聖騎士が横で魚を食べながらも微笑んでいるのが良い雰囲気に思えた
ティア
『ジャックばっかですね…』
ゲイル
『他にいそうだが細心の注意を払って進もう。』
アカツキ
『いつ出れるか…』
ゲイル
『それはわからんな』
だよね
休憩後、さらに奥に進んだ
やはりジャックが俺達の行く手を遮るが、途中で見知らぬ魔物が現れる
床から生えてきたかのような細長いイソギンチャク、頭部から生える触手は6つぐらいだけども細い
緑色をした姿をしており、頭頂部に見える口には歯がない
丸のみするタイプか…
それが4体も前を塞いでいる
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『ヒドラだ…』
カイ
『覚えてますよ聖騎士長殿、ガンテア共和国とマグナ国の国境沿いの大きな山であるエルベルトの調査で登山したさいに川の上流にいた不気味な魔物ですな』
バッハ
『ランクB、触手に触れれば麻痺だ…そのまま丸のみされるから気をつけろ』
アカツキ
『水源か近い所にいる感じですか』
バッハ
『そのようだ…魔法耐性もかなり高く、物理じゃないと攻撃は通ら『フレア!』』
みんながバッハの言葉を聞いているのに、ティアは魔法陣を展開すると業火を正面に放出してヒドラ4体を一気に灰になるまで燃やし尽くした
周りの岩で出来た床が壁が赤く染まり、酷い箇所だと溶けだしている
流石のクローディアさんでも引き攣った笑みを浮かべ、彼女を見つめた
ティア
『これで良し』
カイ
『…まぁ、良いのか』
リゲル
『こりゃ夫婦喧嘩が見物だぜ…くっふっふっふ!』
俺を見て笑うなリゲル
そして魔石は1つ光っている、調べるとそれはショックというティアが持つ雷魔法だ
麻痺状態にするスキルなんだけど、ティアは気づけばショックのレベルがマックスの5に到達してしまったのでいらないのだ
ジキットが欲しい顔をしていたので彼に上げたのだが、凄い事が起きた
最初からレベルがマックスの5になったと騒いでいるのだ
これには全員が驚く
ドロップ後、レベルは1からが基本だ
だがヒドラのショックはレベル5の状態で手に入れる事が可能だったんだ
ジキット
『これは凄い…』
バッハ
『ちょっと落胆したが…嬉しい誤算だ』
ドミニク
『良い感じですが、悪い事が起きる前に進みま…』
その通りだと俺は思った
だけども彼が言いたかった事は今起きた
遥か後方から聞こえる何かの大きな咆哮、それは周りを揺らし、俺達の体を金縛りにさせるほどだ
クローディア
『走りなさい!龍!』
荒げた声、それによって僅かに正気を取り戻した俺達は一気に駆け出した
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が先頭を走り、馬の絵を瞬時に床から見つけるとその方向に皆を誘導する
通路はどこまで狭くはない、少し大きめな個体がギリ通れるくらいだ
追ってきているというわけか…匂いか?
少し広い部屋に到達すると、そこにはワイバーンが1体翼を畳んで体を休めている
先頭を走るロイヤルフラッシュ聖騎士長は『邪魔だ鳥!』と一気に駆け出し、ワイバーンが起き上がると同時に大斧を素早く振って首を刎ね飛ばした
魔石を調べている暇はない、一気に走って部屋を抜ける
この部屋の先は通路が狭くなっているので運が良ければ後方からドスドスと音をたてて追いかけてきている何かは通れないかもしれない
一先ず俺達は通路をある程度進むと、足を止めて体を休めた
先ほどの部屋から何かを壊そうとする音が鳴り響くが、やはり通れなかったか
シエラ
『怖いね』
クワイエット
『龍だったら本当に不味いからね』
クリスハート
『本当にそうですよ、というか…神殿凄い大きいんですね。普通ならもう抜けても可笑しくは…』
ゲイル
『もう出れるかもしれない』
父さんが指を指す先、この迷宮は終わりを告げていた
遥か先で光が見えていたのだ
これには誰もがホッと胸を撫でおろす
ジキット
『なんかイソギンチャクみたいなのいますけど…』
どうみてもヒドラだ
しかも道にビッシリ生えている…数は…10体近い
すると全員の視線がティアに集まる
まぁ口にしなくても彼女は何を訴えられているか悟り、苦笑いを浮かべた
フレアで道を埋め尽くすヒドラを一層し、俺達はようやく神殿を抜ける事が出来た
嬉しい気持ちが最高潮に達すると思われたが、事態は最悪だった
森に出る事が出来たのだが
頭上高くを飛ぶ魔物に開いた口が塞がらないんだよ
見てるだけでも3頭の龍が飛んでいる…かなり大きな個体だと全長30メートルはある
それらが大樹の枝木という天井付近で優雅に飛んでいるのだ
アメリー
『夢物語…19』
ティア
『龍の楽園…』
最深部までもう少しか
最後の苦難は龍、豪華だな…
クローディア
『最低な場所…戦うよりも隠れて進まないと駄目よ』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『俺もこれを見てしまった以上は何を見ても驚かん、早く帰って肉を食いたい』
ドミニク
『龍が飛んでる…人が踏み入れちゃ駄目な領域って事かい…』
リゲル
『凄ぇ場所だな。震えが止まらねぇ…』
アネット
『2度は来たくないわ…早く目的地に行かないと…』
神殿から森は海抜が低く、奥がかなり見える
ロイヤルフラッシュ聖騎士長のスバ抜けた視力が俺達の向かうべき場所を捉えた
遥か向こうに結界のようなものが貼られた場所があり、建物が見えると彼は告げる
あそこに行くしかない
2日あれば辿り着ける距離だとわかると、全員が気を引き締めた
リリディ
『龍種ばかり…森から3頭ぐらい飛び上がりましたね…』
リュウグウ
『言うな、数えるな』
ルーミア
『焦らず行こうか。』
森に足を踏み入れた
無意識に皆の歩く速度は遅いが、それは疲労からくるものではなく、慎重からくるのもだ
近くを龍が飛ぶと、一斉に木の影に隠れる
もし見つかればと思うとゾッとする
『緑龍か…』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が囁く
初めてみた、というわけでは無さそうだ
リゲル
『強いすか?』
ロイヤルフラッシュ
『見つかったら戦うな、それが答えだ』
わかりやすい
だが森の中は龍だけじゃない
体中が刃のように刺々しい剣蜘蛛の巣が至るところにあるのだ
地面に蜘蛛の糸を張り、それは木の上に作った丸い巣に繋がっている
クリスハート
『踏むと振動でバレますね』
リリディ
『あ…』
彼は踏んでしまう
リュウグウは舌打ちをし、彼のケツを蹴った
しかし、過去はかわらない
『キィー!』
意気揚々と巣の中から現れたのは剣蜘蛛、サイズがでかい!
足もいれると全長が10メートルはありそうな大きさだ
それは地面に着地した途端に複数の足を使って真空斬を沢山放ってきたんだ
足が沢山あるからできる芸当に俺は驚く
それを全員が一先ず避ける事に専念したが、リリディはグェンガーで黒い煙と化すと剣蜘蛛の背後に回り、頭部をスタッフでぶっ叩いた
『ギフッ!?』
『おまけです!』
振り向いた剣蜘蛛はリリディにタイミング良く顔面をスタッフで叩かれ、フラついた
ギルハルドが剣蜘蛛の足を懐に隠し持っていた小刀で切り飛ばし、ティアマトが投げた片手斧が腹部に食い込んで血が流れる
良い連携だ
『瞬雷閃光』
ルーミアさんは体に電撃を纏い、バランスを崩した剣蜘蛛の足元を駆け抜けた
かなり速いが、俺は足元を通過するときに双剣で何本か切り裂いたのが見えた
彼女が通過したあと直ぐに通った場所に電撃が走り、それは剣蜘蛛を感電させる
バチバチと凄い音をたて、苦しむ剣蜘蛛はそれでも自身を攻撃したルーミアさんに攻撃しようと鋭い足を突き出す
『よっと』
余裕そうな声だが間一髪だ
『両断一文字』
聖騎士シューベルンが剣蜘蛛の背後から腹部を大きく切り裂く
固そうな体だが、硬い物質にかなり有効なこの技は剣蜘蛛の体を深々と斬れる優れもの
倒れている剣蜘蛛に視線を向けるシューベルンの表情は心地よさそうに見える
シューベルン
『うむ』
バッハ
『いいとこ取りか』
シューベルン
『冒険者に負けてられん』
ジキット
『聖騎士ですからね』
彼らの顔色も悪くない
みんな諦めてないのだ、生還するために頑張っている
その後、オーガアントの群れから走って逃げ
幻覚を見せる蝶のイルズィオが花畑を占領していたので迂回し、全長20メートルある緑龍が寝ている近くを忍び足で通りすぎる
これが一時間で全て起きたよ
みんな疲れが顔に出始めてきたな
アカツキ
『休みませんか?』
リゲル
『それが良い』
大きな木の根本で体を休める事にした
俺は歩けそうなくらい回復したと思われたが、足をつくとやっぱり痛い
リンゴを過信しすぎたら駄目だな
ティア
『駄目だよアカツキ君、休まないと』
ゲイル
『そうだぞ』
シエラ
『怪我凄い、休むべき』
申し訳ない
疲労よりも罪悪感が俺を蝕みそうだよ
リュウグウ
『にしても凄い森だ』
クリスハート
『森を包む森、ですか』
不思議な感覚だな
巨大な大樹の枝木が日光を遮るくらい空を覆い隠している
隙間からほどよく太陽の日差しが森を照らし、幻想的だ
アメリー
『今時刻は15時…』
アカツキ
『どうするべきか、このまま進んで適度な寝床があるかどうかわからない』
木の根が太く、雨避けにもできそうなくらい地面から顔を出してちょっとした屋根になっているんだ
無理に進むか、余裕を持ってここで今日は進行をやめるかを悩ませる
クローディア
『追っ手次第ね』
クリスハート
『それがなければ…』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『数時間後には直ぐに日が暮れる、まだ1月だ』
となると休むしかない
木の根が屋根となり、それは数分後に訪れた大雨を防いでくれた
ザーザー降る雨は森を覆い隠す巨大な大樹によってボタボタと大きな水滴を落とす
ここで休むしかないようだな
根を屋根代わりにみんなが空を見上げる
まだ明るくてもよい時間なのだが、雨だから薄暗い
シエラ
『自然の家』
アネット
『でも寒いよ?』
ゲイル
『ここは夜寒いかもな』
バッハ
『そうならたまらんな…』
カイ
『だな建物など期待できん、我慢するしかない』
それしかない
森の上を飛んでいた龍も雨で今は姿は無い
どこかで雨宿りしているのかもな
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『部下を全員休ませたい、良いか?』
アカツキ
『構いません』
クリスハート
『はい』
クローディア
『あんたも休みなさい、あとでこき使うから』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『ふっ…昔を思い出す』
彼は鼻で笑うと、部下に指示を出してから横になる
魔物が来ないか降りしきる雨の中、辺りを見回す
するとクワイエットさんが何か見つけてキョトンとしていた
視線の先にはカエル、しかし大きい
全長10メートルある
丸みある緑色の綺麗な肌をしているが、頭には王冠が乗ってる
クローディアさんは『敵意向けると死ぬわよ』といってカエルから視線をそらすように皆に告げた
ティアマト
『どんな魔物なんすか』
クローディア
『ゴリラと同じで臆病な性格の魔物よ、ランクAのキングゲロンパ』
ゲイル
『雨の王と言われるカエルだ、夏場の雨天時に現れた記録はマグナ国周辺の森にもある。俺とクローディアも出くわした事あるんだ』
リュウグウ
『この森だけの魔物ではないんですね』
ゲイル
『あぁそうだ。だから目を逸らせて意識してないって思わせないと不味い』
リリディ
『襲われるとどうなります?』
ゲイル
『あの距離から瞬きする暇もなく殴られるぞ、舌で』
リリディは寝たフリをし始めた
距離は50メートル先だが、そこからでも超高速で舌を伸ばして攻撃すると父さんは言うんだ
しかも殴られるぞ、ではすまない
人間なんて即死、運が良くて数秒意識はあるが即死というわけのわからない言葉を口にした
『ゲロゲーロ』
ルーミア
『ひぃ…』
アネット
『死んだふり、死んだふりしよ』
リリディ
『それティアマトさんじゃないと通用しませんよ』
リリディ
『バカメガネ、熊に死んだふりは意味無いぞ』
ティアマト
『てか俺に死んだふりは効かねえし』
クローディア
『静かにしなさい馬鹿』
数分間、キングゲロンパはこちらを見てから去っていく
しかし何故だろうか、去り際の顔は僅かに切なそうだった
18時、この森は僅かに光を放ち、更に幻想的に見せてきた
あまりにも美しく、森の光景に目を奪われる
アネット
『魔物わかる?リリディ君』
リリディ
『いないですね』
アカツキ
『お前調べるの早いな』
リリディ
『慣れるとなんかできるようになりました』
センスあるなこいつ
羨ましい…
ボタボタと森に落ちる水滴を眺め、俺は寝転がる
今はエーデルハイドの皆さんが隣の寝の下で外を警戒しているが、クローディアさんも一緒だ
父さんは俺の隣で寝てる
『!?』
遠くで龍の咆哮が聞こえた
かなり遠いが、聞こえただけで体が少し強張る
『ティア、寝ないのか』
『大丈夫、今日はご飯なしだね』
『帰ったらうんと食べないとな』
『そだね』
お腹が空いた
三食無いのは悔やまれるけど仕方がない
それにしても、ここまでよくこれたな
色々と問題は起きたが最深部まで到達することができたのは奇跡かもな
(…あそこか)
ここからでも遠くの結界が見える
あそこにいけば、きっと……
《神のスキル》
『!?』
あの声に俺は驚いた
テラでは無い、森で聞き慣れた得たいの知れない者の声さ
俺しか聞こえてないのは皆の様子を見ればわかる
しかしなぜ俺だ
《興味はナイ、イキノビテ試練ヲオエロ》
『帰れるのか』
《オマエラ次第、タドリツケタラ、ネガイヲ一つ叶エル》
『願い事?』
《強くナリタイカ、カネがホシイカ、人間ノ考える願い事ハ単純》
『あんたは何者だ』
《クレバワカル、ソコハ神木テラーガの根本、魔物ハアラソワナイ》
この大きな木が神木?
リリディのスタッフの材料のテラーガの神木だと?
確かに大きな木だ…
本当なら凄い貴重な木であり、超高価である
それをどうこうするとかは興味ないけどな
『シレンが終われば帰らせろ』
《それは約束シヨウ、願い事、カンガエトク、ヨイ…結界に一人でもハイレバ、ヨイ》
良い事を聞けた
なぜ俺達に目をつけたのか聞いたが、答えは帰ってこなかった
直ぐに起きているエーデルハイドさんらに伝えると、冷静に『起きた人からその事実を伝えます』と答えた
帰れる
その情報さえあればあとは何もいらない
願い事か、そんなこと言われても浮かばないよ
どうしようと考えていると、俺はいつの間にか寝てしまった
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