第257話 ウェイザー街でのほほんと

ウェイザー2日目

俺達を出ると近くの飲食店にて朝食を取る事にした

手頃な宿だとたまに軽食屋がない場合があるは、今回選んだ宿には無かったよ


皆で家族客や少数の冒険者がいる店内にえテーブルを囲み、ハムエッグにわかめの味噌汁そして漬物にご飯というごく普通の料理を静かに食べ始めた


《みんな眠そうな顔だな》


リュウグウ

『朝だからな。てかお前は空腹とか感じないのか?』


《実体あるとお腹減るなぁ。この状態じゃ平気らしいぜ》


ティアマト

『普段なにを食うんだよ』


《普通にお前らと同じ感じの飯》


本当かよ、信じられん

苦笑いを浮かべながらご飯を食べていると、ギルハルドはリリディのハムエッグを取ろうと目論む

さっきガツガツ食べていた厚切りベーコン2枚をペロリと平らげてしまったようだ

しかもまだ食い足りないと…


『ニャ』


『駄目です』


ギルハルドの首根っこを掴んで床に降ろすと、彼は溜息を漏らしながら店員を呼ぶ

どうやら追加注文らしいが、ギルハルドはリリディの足を前足で何度もさすってアピールする

食べたい、まだ食べたいとでも言いたいのだろうか

まぁそう言っているに違いない


店員

『猫さんのご飯ですね』


リリディ

『先ほどの厚切りを1枚お願いします』


店員

『かしこまりました。その猫って幻のあれなんですよね?噂では聞いてたんですが』


リリディ

『そうですね、名前はヒドゥンハルトですが…男性が触ろうとすると引っ掻いてくるのでご注意ください』


店員はニコニコしながら奥に小走りに去っていく

俺はタクワンを口に頬張る、美味い…米に案外あうからたまに食べる程度だと丁度良い

米も美味しいんだけど、ウェイザーにいるオーブ男爵は鉱山で炭鉱そして小麦、米、トウモロコシの生産をしている貴族だ

グリンピアに運ばれる米の殆どがこの街で生産された米であり。街の5分の1を占める大きな田んぼが街の奥にある


一度行って見てみたいが、今回は行けそうにないな


『ミャンミャー』


グリンピアでは慣れていてもウェイザーの人はギルハルトには慣れていない

珍妙過ぎる猫を凝視し、首を傾げるのもが多数伺える


『黒い頭巾・・・』


『完全にあれだな、グリンピアのイディオット』


『あぁかなり有名になった女の子がいるチームね?確か幻の猫を従える黒賢者だったかしら』


『ここにいるって事は遠征だろうか』


ちょっとした会話が聞こえる

俺達はそれをよそに朝食を食べ終わると、回復魔法師会ウェイザー支部へと足を運んだ

すると今度はちゃんと起きていたアンジェラさん、しかし寝ぐせが酷い


ティア

『アンジェラさん、朝弱いんですね』


アンジェラ

『違います、寝るのが好きなんです』


《どっちでもいいだろ》


『ミャハー』


ギルハルドはアンジェラさんのベットに飛び込むと、昨日のように寝転がる

まぁ俺達は用意された椅子に座り。ちょっとした会話をしていたのだが時間になったら一度席を外してほしいそうだ

相手は貴族だし俺達がいては機嫌を損ねる危険があるからだとか


アンジェラ

『2人残って頂ければ』


リリディ

『ではアカツキさんとティアさんでいいでしょうね』


リュウグウ

『釈然としないが。まぁ良いだろう』


《冒険者ギルド見学しときな。終わったらギルドに向かわせる》


アカツキ

『だな』


アンジェラさんにコーヒーを出されたが、結構甘い

彼女は『私は甘党』とか言いながら胸を張るが、無い…張る胸が無い!

凝視していると殺気を感じた


リュウグウだ


口パクで『変態が』と言っているのが伝わる


アンジェラ

『ティアマトさん?コーヒー苦手ですか?』


ティアマト

『いや気にすんな、猫舌なんだ』


アンジェラ

『見た目によらず可愛いですね。』


リリディ

『可愛い…ですと?』


ティアマト

『なんて目て俺を見てやがる…』


驚くリリディに引き攣った笑みのティアマト

もうこいつらいつもこの調子だが。たまに見る程度でよろしい


アカツキ

『アンジェラさんはなんで回復魔法師会に』


アンジェラ

『え?楽して稼げるから冒険者やめました』


《まぁ普通だな》


元冒険者だったとはな

話を聞いてみたが、魔法使いで冒険者になって最初に会得した魔法がケア

ケサラ・パサラが出てきたときに可愛くて餌付けしたらスキルをくれたらしい

そっから色々とケアを頼まれる日が多くて冒険どころじゃなくなっているところを回復魔法師会に拾われたとさ


アンジェラ

『そろそろですかね』


こうしてこの部屋には3人だけ

アンジェラさんとティアそれに俺だがギルハルドもいつの間にかいない

どんな貴族なのか聞くと、ギスター侯爵という超有名な人間だった

コスタリカの近くにある街を取りまとめている貴族であり、マグナ国でも逆らえる者は少ないと言われる者だ


バリバリの貴族だが、礼儀を怠ると鬼のような形相を浮かべるから鬼ギスターとも言われている

悪い噂は無いが貴族という生き物の象徴とかもな

貴族じゃない人からしたら癖が強いと言われても可笑しくはない


アンジェラさんが少し緊張した面持ちを見せているとドアをノックされ、入ってきたのだ先ほど話していたギスター侯爵に屈強な騎士が2人

顔があった瞬間に俺は少し緊張してしまう


ギスター侯爵

『冒険者か…』


騎士

『よろしいので?ギスター殿』


ギスター侯爵

『良い、今回はこちらから出向いている…あちらに合わせるのが道理だ』


アンジェラ

『すいません。』


なるほど、ギスター侯爵の腕に包帯…か

彼は近くの椅子に座ると、騎士にも『座れ』と指示をして座らせる

そこで彼が来た理由を口にしたのだ


ギスター

『屋敷で階段から落ちた時に複雑骨折したのだ。完治したのはいいが痛みが消えぬ…僅かに曲げると激痛が走るのだが医者の話だと関節が固まってしまい。リハビリをしても以前のように使うには1年はかかると言われた』


アンジェラ

『そ…それでここに』


ギスター侯爵

『回復魔法師会の本部に問い合わせるとここを名指しされたのだ。そこなら新しい出会いと共に我の怪我を十分に治す者が…い…る?』


彼は話ながらも俺の隣に座っているティアを見て言葉が途絶える

僅かに首を傾げながらも何かを思い出そうとしている様子だが。それをアンジェラさんが答えを出した


アンジェラ

『その説明だと私がケアを施す感じではないですね。彼女の事でしょうがテスラ会長はティアさんと会わせたかったのでしょう』


騎士A

『ティアだと!?』


騎士B

『ティアと言えばあの…』


ギスター侯爵

『くふふ…テスラめ、この我に食わせたか…』


アンジェラ

『申し訳ない事を存じますが、あなたの怪我は後遺症を残すレベルですので私みたいな普通の回復魔法師会の会員では治りません。幹部クラス…いや、テスラ会長でも難しいのです』


ギスター侯爵

『理由を告げよアンジェラ嬢』


アンジェラ

『飽くまでケアは怪我を治す魔法。貴方の体はもう怪我が治っている状態であり。関節がどのように痛みを出しているかは専門外の私ではお答えしかねますがケアをしても外傷の無い貴方を治すのは困難かと思われます』


ギスター侯爵

『確かにケアは外傷に有効な回復スキル…我の悩みの種を治すにはケアでは条件が合わないということか』


アンジェラ

『だからテスラ会長はティアさんを呼んだのですね。しかも治療してからの言い値という事も聞いています』


ギスター侯爵

『我を試す気だな?良いだろう…乗ってやる』


彼は不気味に微笑むと椅子を立ち上がる

意外と身長が高い彼はティアに近づくとありえない行動を取ったのだ

彼女に膝をついて包帯が巻かれた腕を前に出したのだ


一般市民ともいえるティアの前でそんな仕草は貴族がする筈がない

だがしてしまったことにティアも驚く


ギスター侯爵

『頼みごとに権力は無意味、この苛立ちを覚える痛みを治してはくれまいかティアお嬢』


ティア

『私のお爺さんも外で転んでから同じ後遺症に悩まされました。骨が感知しても関節痛が酷くて杖を使ってましたから…治せるのでしたら』


ギスター侯爵

『ふむ』


《一応ビビらせるか。こいつの過去を見たが喋ってみろ》


ティア

『え?また人の過去見たの?』


彼女は困惑した顔を浮かべるとギスター侯爵の目が鋭くなる

俺はギョッとし、変に怒るんじゃないかとドキドキしたんだけど

そうならなかったんだ


ギスター侯爵

『例の声…か、我の何を見た?』


ティア

『あの…頭の中の声が寝る前にギスター侯爵は毎日していることがあって、奥さんの匂い『良いっ!信じる!だから言うな…』…ですよね』


気になる、凄い気になる

ギスター侯爵は頭を抱えて何やら見えないダメージを負っている

俺は下手に口を開けないから見ているだけだが…


ギスター侯爵

『…では治してもらおう』


外でやった

ケアじゃ無理そうだったからだ

ノア・フィールドは戦闘形態で使用可能な回復スキル

金色の翼を羽ばたかせるティアの姿にギスター侯爵と騎士二人は終始驚きっぱなしだったよ


当然ギスター侯爵の腕は治った

しかも騎士二人の疲れも回復、とんでもないスキルだな

んで室内に戻るとギスター侯爵はニッコニコさ


ギスター侯爵

『これは確かに権力以上、国宝に相応しい能力だ』


ティア

『ありがとうございます。』


ギスター侯爵

『これに値など我ではつけられん…。何が望みか、ティアお嬢』


ティア

『何か困った事がありましたらお声かけていいですか?』


ギスター侯爵

『喜んで協力しよう。関係の構築はこちらとて願ったりかなったりだ』


かなり喜んでもらえたらしい

だが何も渡さないで帰るわけにはいかないギスター侯爵は桃金貨3枚をティアに渡し、ウッキウキで帰っていった


そのお金をティアは1枚だけ懐にいれると、残りをアンジェラさんに渡す

協会にお布施というわけだろうな


アンジェラ

『化け物ですか?』


ティア

『違いますっ』


アカツキ

『とりあえずは目的は果たしたな』


アンジェラ

『助かりました。戦いも一流で回復も一流とはいやはや…とんでもない称号ですね』


ティア

『また何かあったらご連絡ください』


こうして支部を離れ、冒険者ギルドに向かう

すれ違う人がこちらを向くが祈りだす人もちらほらいる

ティアは俺の横を歩き、呑気に欠伸をしているが周りが驚いていても態度が変わることは無い


《ここのギルドはあのクロウラウズって黒鳥がまとめているらしいが、あの性格じゃ悪い所じゃねぇだろうよ》


アカツキ

『良い鳥さんだしな』


ティア

『ティアマト君、暴れてないかな』


《大丈夫だ、楽しくやってる》


楽しくやっているという意味は行けばわかった

ギルドの建物は俺達の街と同じ構造、内装も殆ど同じである

中に入ると1か所に多く冒険者が集まっているんだけど中心にはリリディ


そしてリュウグウとティアマトは隣接された軽食屋のカウンタ席にてバナナジュースを飲みながら冒険者の人だかりを見ていた


リリディが何を話しているのか、彼はギルハルドを抱きながら椅子に座っているようだが

近づいていくとなんとなくわかる

魔法使い職らしき冒険者が多いからだ


リリディ

『先ほど話したチェーンデストラクションとシュツルム会得の方法ですが、天鮫だけは逃げるの早いので要注意です』


冒険者A

『助かるぜ!台風シーズンに無茶でもしてみっか』


冒険者B

『教えてくれるなんざ驚きだぜ…』


普通は教えることは無い

新発見された自身の称号はある程度まで同職者を引き離さない限りだ

だが彼は今じゃ黒賢者であり、最終称号だからこそいつ公開してもいいのだが

教えたのは2つだけだ


以前、彼が言っていたが『あいつを倒したら全てを公開する予定です』と言ったんだ

魔法祭でロットスターと戦い、勝たなければ人の興味は最大限にならないという事に気づいたんだろう


それを教えたのはリュウグウだ

彼女は『今公開しても勿体ない。世に知らしめたいなら魔法祭で勝ったらにしろ』という意見を飲んだのだ


俺はティアマトとリュウグウに近づき、カウンター席に座ってリリディの様子を見ている

マグナ国内でも魔法使いとしてティアだけじゃなく、リリディの名もある程度浸透しているから気になる冒険者は多い


ヒドゥンハルトを従える黒賢者、とても面白いと俺は思う


クロウラウズさんの姿が見えないと思ったのだが、2階の吹き抜けから下を見下ろして冒険者の人だかりを見ている

ここの冒険者はグリンピアよりも結構多い感じだ

森に冒険者達が向かっていると思うけど、ギルドでのんびりしている人間でもこの人数だ

魔法使い職の冒険者なんてメモ帳にリリディの言う事を書いているのが驚きだ


なんだかんだ本当にここまで来たのかと何度も何度も思う場面がある

だからこそ刺客が来ても俺達は立ち向かい、生きなければならない


リリディはステータスを見たいと言われているが、彼が見せることは無い

『まだ未完なので見せる事ができません』と言ったのだ

残念がる冒険者、しかに1人の魔法使い職らしきものだけが不敵な笑みを浮かべてギルドを出ていく姿を俺は見つけた


それに気づいたのは俺だけじゃなく、ティアやリュウグウそしてティアマトもその姿を見ていた


ティアマト

『着慣れてねぇ感じ…わかるぜ?』


リュウグウ

『さて…何者かと言われると馬鹿な憶測しか頭に浮かばないが、メガネが鬱陶しいと思う者となれば誰が浮かぶ?』


《決まってんだろ、あの協会だ…しかもメガネと友好的じゃない野郎共の派閥》






次回 クワイエット君 頑張る

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