第104話 侍王と魔導王編 5

俺達は治療施設に入ると、ティア達が入院する部屋に向かった

ドアを開けるとそこにはジェスタードさんがおり

椅子に座って寛いでいたのだ


『おやアカツキ殿』


『ジェスタードさん?大丈夫ですか?』


彼は背伸びをしてから説明してくれた

逃亡中に天下無双衆の一人、シキブと出くわして戦闘になったが、途中で無実だと知らせを届けに来た侍の言葉を聞いて彼女は攻撃を止めたらしい


ジェスタード

『その隙に逃げてキマシタ』


リュウグウ

『逃げる必要ないだろ』


『ニャーン』


リュウグウとギルハルドが反応した

まぁ逃げる必要は無いな


ティアは先程起きて病院食を食べたらまた寝たらしく、起きてない

彼女は特殊な寝方をしており、顔の上半分しか毛布から出ていない


《兄弟の女も変わった寝相だな》


『この声は…』


俺はリュウグウの反応に不味いと思った

テラはリュウグウには名前は言うなと言われていたが……

その理由はわからない、だが彼女の反応は何か知っていそうな感じがする


『ほう、声が周りにも聞こえるようにナリマシタね』


《まぁな、だがリュウグウの姉ちゃんにゃ話しとく事があるなこりゃ》


『お前の声に聞き覚えがあるぞ』


《まず断っとくが、お前がここに来たときに話したのは俺だ。しかしな…仕方がなかった》


『どういう事だ!説明しろ!』


少しリュウグウが興奮している

俺は頭をひょっこり出して寝てるティアの頭を撫でながらリュウグウに視線を向け続けていると、彼女はそれに気付いて声を小さくした


『テラ・トーヴァか』


《あぁそうさ、一つ聞くぞリュウグウ。》


『なんだ』


《こっちの世界に来る前の日を覚えてるか?来る瞬間さ》


するとリュウグウは頭を抑えて考え始める

話の内容がさっぱりだ

リリディとティアマトが首を傾げている

初対面、ではないなこれ


『…思い出せん』


《何があったか、それは俺のスキルレベルが5になって復活したときに全部話すさ、今は駄目だ…協力しろ》


『くっ!』


リュウグウは苦い顔を浮かべると、布団をかぶって隠れた

何があったのかは俺達がいちいち聞くことも出来なさそうだ


『こっちの世界?何をいっているのですか?』


《メガネ、今はそれの答えは出ないぜ…?》


すると、ティアマトが口を開く


『それは後だ、リュウグウ達の怪我はどんなだ?』


リュウグウは『1週間経過後にティアのケアを使えば十分動けるくらいになるだろう』と医者がいっていたらしく、普通に治療をするならばかなりかかるんだとさ

まぁ槍で貫かれているからそうだろう


治るってだけで凄いけどね、流石ティアのケアだ

そこで丁度ティアが起きた


俺は急いで彼女に歩み寄ると、顔が近かったらしくて彼女は布団に隠れた


『ああ、すまん』


『大丈夫だよ』


《ティアお嬢ちゃん、おはよう》


ティア

『ふぁっ!?どこかっ・・・いたたた!』


アカツキ

『無理するなティア』


ティアは跳び起きて怪我を痛がっている、くせ毛が可愛い


《俺だよティアお嬢ちゃん、テラ・トーヴァさ》


『なんで…聞こえるの?』


《まぁ全員に聞こえるってわけじゃねぇ、兄弟の開闢スキルレベルが3になったもんでなぁ、任意で聞こえる人間を増やせるってことさ》


『なら声が聞こえるのは…』


《今はイディオットのみさ、まぁジェスタードの野郎も聞こえてるけどな》


『という事だティア、怪我は大丈夫か』


『大丈夫だよアカツキ君、ありがとね』


『ああ、無事でよかった』


俺は彼女の頭を撫でる、心地よさそうな顔をしてくれてるのが嬉しいな


『来ると思ってた』


そう思っていてくれて助かる、しかしもう少し早く気づいていればよかったな

今更そう考えたって遅いが


『アカツキ殿に取られたのは悔しいデスが、あれがいなくなったならばヨシとしまショウ』


『ジェスタードさんよ?どうしてあいつに固執してんだ?』


ティアマトが質問をすると、ジェスタードさんが答えた


『あいつは…いや、こちらの問題デス』


ジェスタードさんは途中で口を閉ざした

話さないという事は言いたくないという事だろうから詮索はやめとく


『それにしても、開闢スキルも3ですかアカツキさん』


『リリディは何か思うことがあるのか?』


『いえ、特にありませんが…ただゼペットの手下を返り討ちにして魔石の力を回収していけばレベルも5になりそうですねぇ・・・なんて』


『その線も考えてた、きっとゾンネもヴィンメイも俺の前に現れる』


『そうですね、まぁその話はのちほどしましょう・・・』


リリディは扉に顔を向ける

誰かが近づいてくる足音だが、数が多い

俺が椅子から立ち上がると、ティアマトも立ち上がった


ノック後に入ってくるのは侍騎士達だった、しかも女性の侍騎士!そんなのいるんだ…

しかも絶世の美女がいる、鎧ではなく青いドレスだが動きやすいように短く作られている

リリディはその美しさに鼻を伸ばしているけども、無視するか


『何のようデスか?シキブ』


ジェスタードは椅子に座ったまま話すと、懐からリンゴを取り出して頭部にかぶせている布袋の中に入れてモグモグ食べ始めた

変わった光景にも慣れたけど…


扉の前にいる絶世の美女は天下無双衆の1人であるシキブだったか

20代前半くらいか、あの若さでこのエド国の力の象徴でもあるとは驚きである


『何故逃げた?無罪は聞いていたが…』


『面倒臭い事、それと犯人を仕留める為に貴方たちに時間を使っている暇はナイ』


『元英雄五傑にしては臆病ではないか、グリモワルド』


知っているようだ

彼女の周りの侍騎士は張り詰めた雰囲気を出している

どうやら癖のある性格をお持ちの女性のようだとわかるなぁ


『どうとでも言えばいいデス、用事があって来たのでしょう?何用デスか』


『あの化け物に関して教えなさい、あの奇怪な魔物の遺体は見たことがない…何を知っている?』


『あなた方には関係はないデショウ』


『エドの街を脅かしたのよ?関係あるわ…情報を隠すならば無罪である貴方でも匿う真似は罪になるわよ?私の実力は知っているわよね?』


『面倒デスね、教えてもあなた方は何も出来ない…指をくわえて眺めるしかできませんよ』


『あら?貴方と対等に戦った私にいうセリフなの?』


ジェスタードさんは唸り声をあげながら頭を、いや…布袋を掻く

まさかこの人と対等に戦ったというのか

それには驚くしかない


未だにシキブさんは気難しそうな顔を浮かべている

ジェスタードさんはリンゴを食べ終えると、『帰って後処理をしたほうがイイデスよ?』と彼女に告げた


それが不味かったのかもしれない

彼女は目を細め、機嫌を損ねた感じだ

俺はひと悶着起きるのかと溜息を漏らすと、彼女らの後ろから男の侍騎士が現れると、シキブさんに一礼した

伝令、のようだな


『今忙しいのだ、なんだ』


シキブが不貞腐れた顔を浮かべるが、侍騎士は真剣だ

というかこの侍騎士、何か他と違うぞ?

周りの侍騎士よりちょっと装備がいいぞ?あれ?結構階級高い侍か…


『シキブ様は早急に犯人の遺体を回収し、王都に運ぶようにと指示が来ております』


『はぁ?情報持っているこいつはどうするの?回収はするけどもあの遺体が何なのか知っているグリモワルドから情報を聞き出す方がいいじゃない』


反発するシキブさん、しかし侍騎士は顔色一つ変えずに冷酷な顔のまま彼女に話したんだ


『侍王ムサシ様のお言葉です、それでも突っぱねますか?』


シキブさんは驚いていた

ジェスタードさんに顔を向けるが、侍騎士はそんなシキブさんの様子などお構いなしに話し続ける


『王の命令は絶対です。それともジェスタード様にしつこく迫って命でも落とされますか?』


『はぁ!?何言ってんの!?私だってこいつと対等に戦えるのよ?』


慌ただしく答えるシキブさん、でも悪い人じゃない

ごく普通の行動をしようとしているのは誰だって理解してる

夜な夜な侍騎士を襲い続けた魔物の正体の情報を知っているジェスタードさんから情報を得ようとすることは当たり前の行動だ


シキブさんの側近であろう女性の侍騎士達も伝令には驚いているが

そんな状況でもう一人、彼女らの後ろから現れる女性が近づきながら口を開いたんだ


『お前は手加減されたんだ、ジェスタードは女に本気は出さん…それすら気づけぬとはな』


誰もが現れた女性に驚いていた

俺達は誰なのかわからないが、凄い人だとわかる

シキブさんが首を垂れていたからだ、周りの侍騎士も同じくだ


綺麗な女性だ、貴族のような服装をし、腰には立派な刀をしている

しかも侍の象徴でもある兜のマークの刺繍が胸元にされているけども、エド国のマークでもある

金色の刺繍、それは高貴である意味だ


まぁ何者なのかはすぐにわかる

俺達も自然と姿勢を正してしまう、しかし・・・聞いたことがある声だ


シキブ

『ムサシ様…そんな…』


ムサシ

『気づかぬとはまだまだね、ジェスタードはなぜ当時の五傑だったかもう一度勉強しなさいシキブちゃん、戦っていて気づかなかったかしら?周りの建物の被害は少ない、彼が魔導王…魔法を行使していれば周りなんて軽く吹き飛ぶわよ』


シキブ

『その…相手が相手で冷静な状況判断が…』


ムサシ

『そうね、情報をしろうとするのは頼もしいわ…私がするから今は遺体の保管を頼むわ、行きなさい』


シキブさん率いる女性侍騎士はそそくさとその場を退散していく

争いにならなくてよかったとホッと胸を撫でおろすけども

エド王ムサシか、側近の侍騎士たちの装備も立派だ、10人はいる


ジェスタード

『助かりました』


ムサシ王

『あら?感謝するくらいなら結婚してくれるのかしら?』


その言葉で俺は思い出した、俺だけじゃなくて仲間もだ

驚愕を浮かべながら俺は口を開く


『ザントマ…さん?』


ムサシ

『お久しぶりね、それは側近と貴方達しか知らない秘密だから口外禁止よ?』


俺は何度も頷くと、彼女は開いている椅子を掴んでジェスタードさんの近くに置くと、座った

体が近いぞ…ジェスタードさんは唸り声をあげている


ムサシ

『死んだのは聞いた、ありがとう』


ジェスタード

『我が輩ではないデス、イディオットの恩人達が倒したのデス』


ムサシ

『でも貴方があれに固執してくれているのは嬉しいわ、やっぱり私の夫になるべきよ』


なんでそうなる

俺は不思議そうな顔をしていると、ムサシさんは俺達がわかっていない様子に気づいて説明してくれたんだ


ムサシ

『私が幼い頃に起きた事件はきっと聞いているわね?城内の館を燃やしたのは反対派、しかしそれを指示したのはムゲンよ』


アカツキ

『なっ!?』


ジェスタード

『我が輩は女性王の反対派の頭が誰かは見当がついていた、しかしアジトに向かうと奴は食われた状態で奥の倉庫で俺は見つけた…死後数週間はたっていた。となるとだ…館を燃やすように指示したのはムゲンだったことになる』


アカツキ

『なんでムゲンが…』


ジェスタード

『スキルの情報を知る者を殺すためデショウかね、まぁ愉快犯な点もあるので予想でしかありませんがね』


ムサシ

『でも家族の仇を取ろうと何故してくれたの?』


ジェスタード

『暇つぶし』


ムサシさんは『嘘ね』と告げる

それにはジェスタードさんは困惑した


ムサシ

『カウラ、何故あなたはいつも自分の為に動こうとしないの?』


ジェスタードさんに向かっていった言葉、リュウグウとティアは驚き、彼に視線を向けた


ティア

『え…カウラさんって』


リュウグウ

『死んだ侍騎士、幼い王だったムサシの側近であり教育係だったと…』


呼び捨て口を開いたリュウグウに侍騎士は咳ばらいをして気づかせる

リュウグウは『あっ!』とした様子を見せて口を閉ざす


昔の出来事を聞いたけども、ジェスタードさんの本名はカウラ、それだけらしい

魔法騎士としての腕を評価され、幼い頃のムサシさんの魔法教育を任されていたとか

そして館が女性王の誕生反対派によって城内に忍び込まれ、深夜に王族が住まう館に火をつけられた時にカウラはムサシさんだけを救出して業火から逃れた


その時から、ジェスタードさんは顔を隠した

そしてカウラは死んだ事にしてほしいと、気絶していたムサシさんは目を覚ました時にジェスタードさんに言われたらしい


昔話をムサシさんから聞くジェスタードさんは唸り声を上げ、バツの悪い様子を見せているが、ムサシさんは構わず話していた


リリディ

『顔を隠す理由とは…』


リュウグウ

『お前、気づかないのか…』


リリディはツッコまれ、考え出す

ムサシはジェスタードの被る布袋に手を伸ばすと、彼はその手を掴んだ


『やめよ』


『わかっていることじゃない』


『理想は理想のまま、人はそれが原動力とナル』


『私はそれを超えている、現実を受け入れる強さを持っていないとでも?』


『それでも我が輩はこれを脱ぐ気はない、いい男などいくらでもいる…それに我が輩は素性があるようでないような存在、関わらぬ方がいい』


ムサシさんは悲しそうな顔をした、しかし『私の事をどう思っているの?』と聞くと

ジェスタードさんは即座に答える


『好きでアル』


彼はそれを告げると、彼女の手を放して立ち上がり、部屋を出ていった

ムサシさんはちょっと微笑んでいた


ティアマト

『わっかんねぇな』


ティア

『ティアマト君、わからないんだ…』


《熊五郎、流石に鈍感だぜ…》


ムサシ

『これがスキルの声か』


どうやらテラ・トーヴァはムサシも任意で聞こえるようにしていた

ムサシさんは驚いていると、テラ・トーヴァは話し出す


《ムサシ王、ムゲンはゼペットの手下…残りは2人だ》


『教えてくれ』


《スキルに溺れた歴史の猛者や王だ、ムゲンの他は初代マグナ国王ゾンネ、そして獣王ヴィンメイ…あとは厄介なのがいるぞ?世界騎士イグニスがゼペットについている》


『あやつがか!?何故だ?』


《わからねぇ、だが用心しとけ…スキルを知る者は基本的にあれらは消したがる》


『何が起きている』


テラ・トーヴァは部下をさがらせろというと、ムサシは側近をさげさせる

そこで全てを話したんだ

俺がこいつと出会ったとこから今までだ


開闢スキルはムサシさんも先代の王から話を受け継いでいるので理解が速い

今は国がスキルの存在に気づいていないことが救いだとムサシさんが言う

彼女は他言する気はないのは嬉しい


それは凄いスキルだからだとわかっているからだろうな


ムサシ

『悲しき道化のゾンネか』


アカツキ

『ゾンネを知っているんですか?』


ムサシ

『父が生きていた時に話を聞いた。王族にしか聞いたことがない裏事情、ゾンネは暴君になるしかなくてなった、国を思う優しい王だったのよ・・・。今の時代、民衆は暴君と恐れ、畏怖したとしても各国の王族はゾンネという存在を蔑んで口にすることは決してできない存在なのだ。彼には借りがある』


聞いたこともない事実だ

歴史では最強最悪の暴君として世界で一番有名なマグナ国王ゾンネ

聞いただけでは信じられなかった


ムサシさんはそこまで話すと『アカツキよ、そのうち仲間と共に王都に来い』と告げてその場を去って至った

ザントマの格好の時も言っていたが、グリンピアに戻ってからだな


ティア

『それにしてもさ、カウラさんがジェスタードさんだったんだ』


リュウグウ

『キングレイ小隊長の命の恩人でもあるからな、可愛がっていた部下がジェスタードだったって知らないようね』


俺達男3人が知らない会話だ

彼女らは侍騎士と共に戦っていたんだし、そこで色々会話があったんだろうな


『ミャーン』


『ギルハルド、起きましたか』


ニャン太九郎のギルハルド起床、こいつはティア達より怪我は酷くはない

それでもダメージは深かったんだけども、結構動けるくらいまで回復しているらしく、ベットを降りるとリリディの足元で頬をすりすりしている


『よくやったぞギルハルド、流石だ』


『ミャー!』


褒められてギルハルド、機嫌がよくなる


リュウグウ

『ギルハルド、助かった』


ティア

『ギルハルド君!流石だったね』


『ミャン!』


結構こいつは頑張ったらしいな


アカツキ

『みんな無事でよかった、何か食べたいものはあるか?買ってくるよ』


ティア

『お医者さんが病院食のみって厳しい』


駄目か!!!!


リュウグウ

『朝食は質素だったが、栄養メインだし致し方ないか』


リリディ

『なら退院後に祝いますか、僕たちも敵の事ばかり考えすぎですから息抜きがあまりできていません』


ティアマト

『最近忙しい事件ばっかだしな』


アカツキ

『そうだな、今日は休みにしているけども…』


リュウグウ

『お前らは暇なら森に行けばいい、スキルが勿体ないぞ?退院後にグリンピアに戻る事になるんだから少しでも強化しとかないと』


彼女のいう事に間違いはなかった

1週間とちょっとで俺達は自分たちの生まれ育った街に帰る

2人抜きで森と考えると少し心配ではあるが、仕方がない事だ


ティア

『私たちは大丈夫、アカツキ君行っておいで』


彼女は俺の手を両手で握る

少し俺はアッとした顔をすると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら手を離した


リュウグウ

『…』


アカツキ

『言わないのか』


リュウグウ

『今回はムゲンを倒したご褒美に言わないでおくわ』


へぇ…




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