第194話 幻界編 34 流星レガシィ戦
レガシィが放った無数の雷撃の投擲速度は速く、避けるのは困難を極める
雷というレアな魔法スキルは他の魔法スキルと違って発動速度は遅いものの、発射すれば他の魔法よりも高速で飛ばせるんだ
『くっ!』
『ぬおっ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長やクローディアさんが間一髪で避けた
リゲルやクワイエット、そして他の者らも奇跡的に回避が出来たのだが
シューベルンとティアマトは僅かに触れてしまうと苦痛を浮かべたまま感電し、その場に倒れてしまう
動く気配はない、しかし気絶してはいない
一時的な麻痺だと見受けられる
『犬めが!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は飛びかかり、大斧を振り下ろす
彼の強さを知らなかったレガシィは牙を剥き出しにしたまま左前足で彼の攻撃を弾こうとした
だが結果はレガシィが弾かれて地面を滑るようにして僅かに吹き飛ぶ
『!?』
レガシィが驚いている
続けざまにクローディアさんと父さんが飛びかかるのだが、先程の攻撃を受けて悟ったのか体を電撃に瞬時に変えてその場から消えたかのように移動をした
体を電撃化とは驚きだ
あまりの速さに皆は足を止めてしまう
リリディ
『面倒な』
ルーミア
『くるよ!』
空高くに舞い上がる電撃はレガシィの姿に戻りながら隕石の如く仲間達に落下していく
たまらず皆が飛び退くと、地面に激突したレガシィは周囲に電撃が混じった衝撃波を飛ばす
リゲル
『マジ!?』
ティア
『なっ…』
音速を越えた全方位の攻撃
2段構えの攻撃は仲間達を飲み込み、吹き飛ばした
敵は余裕のつもりなのか、仲間が立ち上がるまでのんきに傍観しながら雷を再び体に纏う
推定ランクA
そう納得できる戦いではない
奴は懐に潜り込んでいったリゲルの剣を横に跳んで避け、待ち構えていたクリスハートさんなルーミアさんの挟み撃ちからの攻撃すら顔色一つ変えずに避けたのだ
レガシィは飛び退き、皆を眺める
その間にティアマトやシューベルンが起き上がるが、息遣いが荒い
ダメージもある技だったようだ
『グルルル』
シエラ
『ファイアーボール!』
ティア
『ラビットファイアー!』
大きな火球と熱光線5発がレガシィに飛ぶ
投擲速度で勝るラビットファイアーは直ぐにレガシィの目の前に迫る
あの距離から回避に移ったとして、避けられるとは思えない
戦えない者は俺の他にアメリー、ジキット、アネット
4人は戦う者の後方で魔法が直撃するのを体を強張らせて祈った
当たる、誰もがそう思っただろう
しかし当たる寸前でレガシィの前に半透明なシールドが彼女らの魔法を撃ち消した
これにはバッハやリゲルが舌打ちを鳴らす
発動した形跡はない、常時展開しているスキルだと思われる
『だったら物理はどうだ!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長は走る
同時に仲間達が攻め始めた
力ならばロイヤルフラッシュ聖騎士やクローディアさんであの魔物に勝てるかもしれない
そのために皆も隙を作る為、武器に魔力を流し込んだ
『グルァ!』
『っ!?』
身を屈めたレガシィ、俺はそれを見て嫌な予感を感じた
何もしないわけがないんだ
それをいち早く感じたクローディアさんは『左右に跳べ!』と叫ぶ
途端に前方にいたレガシィは一瞬眩い光を放ち、電撃と化すと目にも止まらぬ速さで突っ込んできたんだ
それが通過した後には強力な電磁波が発生し、バチバチと大きな音を響かせる
全員が避けた者の、僅かに遅れたシエラさんやバルエル、ドミニクが苦痛を声に出してその場に倒れていく
死んではいない、しかし立ち上がる事は出来ない
ランクAの攻撃に触れれば人間なんて一撃で倒れてしまうのだ
最悪の場合、死ぬなんて珍しくもない
直撃しなかっただけ良かったと思うしかないだろうな
レガシィが実体化し、仲間達に振り向いた
だが既に奴の目の前に飛び込む者たちがいた
クリスハート
『よくも!』
クローディア
『叩き割る!』
リリディ
『賢者の一撃!』
先に動いたのはクローディアさんだ
彼女の振り下ろした鉄鞭はレガシィの半透明なシールドによって遮られたが、僅かにヒビが入る
これにはレガシィが一瞬だけ目を見開く
傷つけられると思わなかったんじゃないかな…
『龍斬!』
クリスハートさんが剣に大量の魔力を流し込み、振り下ろした。
龍の爪のような巨大な斬撃3つがシールドに激突すると、更にヒビが広がる
不味いと感じたレガシィはその場で電磁波の交じる衝撃波を飛ばし、近くにいる者と近づく者を吹き飛ばす
ただ1人を覗いてだ
『ここですよ!!』
『グルッ!?』
グェンガーという瞬間移動スキルでリリディはレガシィの背後に回っていたのだ
その手に握る木製スタッフを両手で強く握りしめ、鋭く奴を睨みつけ
彼だけの技が振り向いたレガシィに発動する
『賢者バスタァ!』
俺はこの時、父さんに聞いた話を思い出した
いつだったかは忘れたけどもリリディの使うスタッフはテラーガという神木の木で作られた武器だ
それが何なのか父さんなら知っていると思い、聞いた時の話だ
『ハイムヴェルトさんが強かった秘密はあのスタッフも関係している。普通の武器で魔法を弾き返すとかは結構難しいが、テラーガで作られた武器は違う…触れるだけで魔力が暴発して砕ける』
リリディの渾身の一撃は容易くシールドを破壊し、そのまま奴の頭部にスタッフが叩きつけられる
『ギャン!』
悲鳴を上げるレガシィ、落下するリリディに攻撃する事すらせずにその場でバランスを崩す
攻撃のチャンスだ…しかし他の者は吹き飛ばされて距離がある
近づいてくる者たちはいるが、間に合わない
だからリリディは自分で何とかしようと、落下したまま左腕をレガシィに向ける
彼の腕から黒い魔法陣が現れると思いきや、魔法陣は彼の周りに出現した
『チェーンデストラクション!』
4つの黒い魔法陣の中から問いだしたのは黒く、そして太い鎖
それはレガシィの胴体や前足に巻き付いて動きを止めた
これが彼が出来る最後の抵抗
レガシィはギリッとリリディを睨むと、口を大きく開いた
犬であるが、その口からはバチバチと電撃が見え隠れしている
リリディの着地と同時にブレス系でも吐き出すのだろう
しかしそうはさせんとギルハルドがレガシィの顔を一瞬で通過し、右目を斬り裂いた
『ギャイン!』
たまらず口を閉じるレガシィ
その様子を見てリリディは『流石です!ギルハルド!』と叫んで彼を賞賛だ
レガシィは電撃化して逃げ出そうと目論んでいるが、それは出来ない
リリディのチェーンデストラクションに拘束されていると魔力が使えないんだよ
それがわからないレガシィは驚きを顔に浮かべる
そうしている間に、辿り着く仲間がいた
クローディア
『死になさい!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『犬畜生が!』
ティアマト
『おっしゃぁ!』
リュウグウ
『よくやった馬鹿メガネ!』
『グルァァァァァァァァ!』
レガシィは黒い鎖を引き千切れなかった
途端に鬼の形相で鉄弁をフルスイングするクローディアさんの一撃はレガシィの顔面を直撃し、大きく仰け反らせる
ティアマトのナグナムは右前足に甲に向けて直撃、折れる音を響かせるとレガシィがガクンと前屈みとなった
リュウグウの槍花閃は胸部を貫き、最後にロイヤルフラッシュ聖騎士長が大斧に流し込んだ魔力が技を発動する
『グランドクロス!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士は目にも止まらす速さで十字にレガシィを斬る
すると体を深くまで斬り裂かれたレガシィは苦痛を顔に浮かて直ぐに最後の抵抗だと言わんばかりに怒りを顔で染め上げた
鎖を自力で断ち切り、そのまま口を大きく開いて膨大な魔力が奴の口に集中し始めた
最大最強のスキルでも放つつもりなのだろうが、それを出すのが遅すぎた
『無駄な犬めが!』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長が吐き捨てた瞬間にそれは起きた
レガシィの目の前に十字の輝く光、それは奴を光で包み込むと聖なる魔力が対象に先ほどと同じ攻撃を発生させた
再びレガシィは十字に斬り裂かれたのだ
それは先ほどよりも強く、大きい斬撃
いかにAクラスであろうとも、ロイヤルフラッシュ聖騎士長の放った技は強力過ぎて耐える事など難しいだろうな
『ガ…グル…』
致命傷を負ったレガシィは技を止められ、後ろにヨロヨロと下がっていく
今が討ち時だと言わんばかりに誰もが一気に攻め立てていく
これは勝ちだと俺は思い、戦いの最中でも拳を強く握りしめたんだ
だけどもレガシィは飛び込んでくる仲間達を睨みつけながら、最後に視線を俺に向けた
何故俺を見た?とギョッとしてしまうが、そこでレガシィは驚くべき行動を取った
『馬鹿な人間めが…ここで死ねば楽だというのに…』
人間の言葉を口にした
構わずにリゲルだけは飛び込み、龍斬で奴にトドメを刺す
戦いが終わり、静けさが訪れるとクリスハートさんはルーミアさんと共にシエラさんに歩み寄る
ティアマトにはティアとリリディだ
2人共起き上がれず、近づくと気絶していたんだ
起こそうとしている間、クローディアさんはレガシィの体から出てきた発光した魔石を手にする
クローディア
『とんでもないわねこれ』
怪我人を守る為に俺達の前にいた父さんも気になって近づいていくが…
父さんが驚いた顔を浮かべたまま魔石に触っていた
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『なんのスキルだ』
クローディア
『瞬雷閃光。実態を電撃と化して直線的に突っ込むらしいけども…さっき見た技ね』
ゲイル
『効果が凄まじいぞ!?触れた対象の魔力を半分吸収して気絶効果…。しかもダメージも強力だ』
現にシエラさんやバルエル、ドミニクは意識を取り戻すと『魔力が殆どない』と気づく
しかもダメージが大きくて起き上がる事すらできない
体を動かすと激痛は走るので下手に動かせないのが厄介だ
リンゴを食べさせて応急処置になるが、効果が直ぐに出るわけじゃない
まる1日経過を見なければいけないんだ
クローディア
『これってルーミアちゃん双剣だし持っておいて損はないわよ?まぁ私が決める立場じゃないけどね』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『ハイムヴェルトの孫が決めればいい。活路を作ったのはあいつだ』
リリディ
『ではルーミアさんで』
ルーミアさんは幻界の森に入って一番の笑みを見せた
嬉しそうにスキルを吸収する彼女を他所に、リリディはロイヤルフラッシュ聖騎士長に気になる事を聞き始める
『お爺さんは強かったのですか?』
『そのお前の使うグェンガーを見るたび思い出す。爆殺ジジイめ…勝ち逃げしよって』
『貴方でも苦戦したんですね』
『まぁな、あいつの黒賢者としての称号はマスターウィザードなど赤子同然…ロットスターの意地汚さで世を去ったが。お前が復讐したいならばすればいい…魔法騎士長になる条件は現魔法騎士長を打ち負かす事だ』
『…』
『倒せる者はいる、しかしそうしない理由はわかるか?みんなハイムヴェルトを慕っており。その後継者を待っている…あの馬鹿は使い勝手は良いがそこまで強くはない。それよりもあいつが部下に持つ2人組の親子が強い』
『ロンドベル、アルベルトですね』
『あれは時期にロットスターを超えるだろうが、それでもあいつに手を出す気は無い…お前を待ってる。』
『…覚えておきます』
クワイエット
『あ!?そういえばあの馬鹿ベルトッディーって魔法騎士副隊長、僕殺しちゃった』
カイ
『なにっ!?』
バッハ
『ほぁ!?』
シューベルン
『おまえっ!?』
聖騎士全員、驚愕だ
それを今口にして大丈夫なのかとこっちは焦るけども、ロイヤルフラッシュ聖騎士長は頭を抱えるばかりだ
『クワイエット…お前…』
『だって邪魔だったしさ。しかもあんな雑魚で隊長とか笑っちゃうよね。ゴマすりで昇給する協会なんてそんなもんさ。聖騎士はそうじゃないって信じたいけどどうかな?』
その
彼の言葉は聖騎士に注がれた
バッハは『良し、俺は違う』とか言いだすが…
カイは『とんでもない事をお前は…』と深い溜息を漏らした
だがロイヤルフラッシュ聖騎士長はこの事実を口外禁止とし、聞かなかったことにしたのだ
それを聞いたリゲルは『案外頭柔らかくなりましたねロイヤルフラッシュさん』と言ってリンゴを投げ渡した
『俺は平気だ』
『グランドクロス撃っといて普通は無いでしょ。あんたでもあれ魔力半分使うんでしょ?知ってますよ』
『…すまぬな』
クローディア
『半分寄越しなさい黒豹マン』
『ぐぬぬ…致し方ない、向こうの森に行けば食い放題だしな』
3時間ほどの休憩、夕日は見えない
だって空は森の枝木で覆われて見えないんだ
木を伝っていけるかと思われたが、俺達は人間だしそんな芸当は出来ない
ティア
『アカツキ君、傷は?』
アカツキ
『傷口は塞がったな…だけども骨が…』
クワイエット
『粉砕なんだから治るとも限らないよ。帰るまでは』
リンゴで全ての怪我が治るという保証はない
飽く迄、魔力回復や疲労回復、自然治癒が爆発的に高まるってだけ
骨折者もリンゴを食べても戦いに参加できるかどうかは難しいだろう
アネット
『帰ったら肉食べるんだぁ』
クリスハート
『アネットさん…顔凄いニヤニヤしてますよ』
アネット
『シュンライシュンラーイ』
シエラ
『1人、精神がもう可笑しい』
それにはリュウグウとティアが笑みを浮かべる
状況は悪かった頃から徐々に回復している為、みんなの顔色に余裕が生まれ始めていた
だからこそ聖騎士達も僅かに苦笑いを浮かべてアネットさんを見ているんだな
シューベルン
『しかしあれだバッハ、カイ、ここで死ねば楽だという意味をどう捉える?俺は最深部は地獄だってメッセージだと捉えたが』
バッハ
『間違いはないだろうな』
カイ
『だろうな。真剣に進まねば全滅もありえる』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『そうならぬように細心の注意を払え』
『『『御意』』』
アカツキ
『俺は無力だが、ティアマト達も奥に行けたら注意してくれ…何が起きるかわからない』
ティアマト
『おうよ!ってかお前担ぐの俺だし他の3人に頑張ってもらうか』
リリディ
『わかってますよ』
リュウグウ
『望む所だ、まだ死ぬわけにはいかん』
ティア
『大丈夫!』
クリスハート
『頑張りますか』
リゲル
『さぁて、あの奥が本番だな』
クワイエット
『到達者はグリモワルドさんにゾンネ、そして多分イグニスか』
ゲイル
『全員が人間を代表する化け物クラスだ。強い理由がここに来て全員わかった筈だ』
ジキット
『いたた…ドロップスキルが半端ないですからねぇ』
バッハ
『ここに来て我ら聖騎士もちまちま発光した魔石を回収したが…どれも素晴らしいスキルだ』
カイ
『このまま帰れたら…歴代最強の聖騎士1番隊も夢ではない』
クワイエット
『カイさん、夢ちっさ…』
カイ
『斬るぞ貴様…』
バッハ
『まぁまぁ、帰ったら喧嘩してくれ』
アメリー
『お風呂入りたい…』
リュウグウ
『私も風呂に入りたいな、馬鹿メガネは私から半径100メートル内に入るな』
リリディ
『死ねとっ!?』
『ニャハハハハ』
アカツキ
『まずは皆さん休みましょう、俺がいうのもあれですが…』
シューベルン
『小僧のいう通りだな』
ロイヤルフラッシュ聖騎士長
『ふむ、あと3時間で夜だ…各自で体を休めろ…1時間は俺が森を見張る』
ゲイル
『私も行こう』
クローディア
『私は怪我人のお守するわ』
こうして俺達は体を休め始めた
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