第126話 将軍猪 1
色々ギルド内で騒ぎがあった次の日、俺達は冒険者ギルド内応接室にてクローディアさんを待っていた
冒険者ランチBの話に乗ることにしたのだ
彼女は微笑みながら、今日に早速更新だと張り切っていたから早めに来たんだ
リリディ
『オレンジからブルーになるんですね』
彼はテーブルの上で寝転がるギルハルドを撫でながら口を開くと、『ミャンミャー』とギルハルドが心地良さそうに鳴く
ティアマト
『しかもピカピカな青だぜ』
リュウグウ
『アクアブルーと言え、綺麗な色よ』
楽しみだ
椅子に寛ぎながら待っていると、奥のドアからクローディアさんが俺達のカードを持って現れる
前までのオレンジ色のカードは返却したさ
今度からこのアクアブルーの冒険者カード
しかもグリンピアで俺達のみとなると少し嬉しい
『大事にしなさい?』
クローディアさんは笑顔を浮かべ、全員に渡す
誰もが新しいカードを眺め、口元に笑みを浮かばせた
アカツキ
『なんだか緊張する色ですね』
クローディア
『安心なさい。あの聖騎士コンビもBランク冒険者カードだから仲間よ?』
初耳だ
しかしよく考えれは納得いく
幻界の森に行く1の月の中頃までリゲルとクワイエットはグリンピアの滞在をロイヤルフラッシュ聖騎士長から命令されている
その間、自給自足を強いられていたのだ
となると冒険者として稼ぐしかないだろうな
あの2人は強いのは知っている
当然、彼らのカードはアクアブルーでも可笑しくない
ティア
『B…』
アカツキ
『やったな』
ティア
『ちょっと興奮しそう』
《まぁおめでとうだぜ。そういや昨日の馬鹿冒険者の件どうだ?》
クローディア
『イーグルアイね?私は冒険者ギルド運営委員会の副会長よ?タタラの馬鹿ギルドマスターより格上なのよ?次は潰すって手紙をギルドに送っておいたわ』
《とんでもねぇ女だ…》
リュウグウ
『会長では無いんですね』
クローディア
『なったら本部勤務嫌だしねぇ』
なるほど
なろうと思えばなれるわけか
エーデルハイドはBまであと1体のBランク魔物を倒せば念願のB
来年の春までは余裕だろう
『でも刺客には気をつけなさい』
それは勿論だ
カードランクが変わっても俺達が強くなるわけじゃない
俺達は立ち上がり、彼女にお礼を言ってからその場を去ろうとドアに歩く
すると、クローディアさんは『オズボーン商会から指定依頼来てるから受付でアンナちゃんのとこに真っ直ぐ行きなさい』と言う
オズボーンさんか、エドから戻ってきてたか
彼は俺の父さんと友達であり、同じチームメイトであったと話の内容でわかった
あの人も強いのだろうな
でも昔より太ったと父さんは言ってたし、全盛期よりはかなり質は落ちたかも
『いこうみんな』
俺はそう告げ、部屋を出た
2階吹き抜けからロビーを見下ろし、朝の依頼書争奪戦が依頼板の前で繰り広げられている
『あぁぁぁぁぁ!』
波に飲まれるバーグさんを見てティアが苦笑している
受付に向かい、欠伸をするアンナさんに声をかけると彼女は見られた事に対して照れ笑いしながら誤魔化す
『可愛い』
背後でリリディが呟いているが無視だ
『アンナさん、クローディアさんから指定依頼がと』
『オズボーン商会さんからです。将軍猪の角2本の納品になります』
驚いたな
頭部から伸びるあの角か
メスは無いがオスには角があるんだよ
目に見える生き物に向かって突進してくる時、その角は凶悪過ぎる武器となる
『何に使うんですか?オズボーンさん養鶏所ですよね?』
『それはオズボーンさんじゃないとわかりませんねぇ。将軍猪に聞いてみても良いかも?』
『無理です』
アンナさんは笑いながら、依頼書を受付の下から取り出す
原本と控えに判子を押して控えを俺に渡してくるのだが、やると言ってない
『金貨20枚ですよ?グリンピアのBランクが断るなんてそんなそんなぁ!』
アンナさんは笑顔でそう言っていた
拒否権は無し、か…
苦笑いしながらも控えを懐にしまい、その場を後にする
となると今回は赤騎馬ブルドンはこれないな
まぁブルドンは今日は健康診断の日だから連れてきてない
将軍猪となると流石に心配だし丁度いい
『リベンジだぜ』
『燃えますね』
ティアマトとリリディのやる気は十分
意味を知るリュウグウは彼らに微笑みながらも『宿敵か』と口を開く
あの魔物に追いかけらて全力で逃げた思い出があるからなぁ…
今度は逃げない、倒しきる
《食わせろよ?熊五郎にピッタリの魔法スキルがある》
ティアマト
『マジか!?』
アカツキ
『なんだそれ?』
《個体によって変わることはあるが、筋力を一時的に向上させる火魔法のパワーアップは確実に持ってる》
リュウグウ
『便利な魔法スキルだな』
ティアマトにはいいかもしれんな
ティア
『いこっか』
彼女は俺に微笑みながら口を開く
早速、森に向かって俺達は歩いていくことにした
ゼペットの刺客がいるかもしれないという考えはあったが、来る気配はない
それよりも肝心のゼペットはどこにいるのだ
何をしている?
将軍猪の目撃した場所は北の森にある海抜が低い森
崖の下の川辺にて確認されている
それを倒す為に森に足を踏み入れると、俺達は少し驚く
『雪、少しあるけどいつ降ったんだろう』
ティアが口を開く
雪があるとはな…
だが太陽で結構解けており、あまり気にすることはない
ティアマト
『冬だなぁ』
アカツキ
『12の月の後半は流石に休むか』
リリディ
『いいですねぇ。アカツキさんもデートで忙しいでしょうし』
彼が変な事を言うもんだからティアの目が泳ぐ
リュウグウの鋭い視線が突き刺さるが、もう慣れたよ
『ミャハハン』
『ギルハルドは気楽だなぁ』
リリディの隣を気楽に歩き、鳴く姿を見てティアマトが言い放つ
そういえばリリディとティアはかなり有名な冒険者になっている
亡魔望真リリディに天姫ティアという何かと凄い二つ名だ
グリンピアでも一目置かれており、リリディに関してはミノタウロスの単独撃破も相まって魔法使い職の間では憧れの目で見られているようだ
俺も強くなればそのように言われるときがあるのだろうか
『どしたの?』
考えながら歩いていると、ティアが顔を覗き込んでくる
『何でもないさ』と口元に笑みを浮かべながら答えた
なんだか彼女は納得いっていない様子だが、直ぐに彼女は森の奥に顔を向ける
指を指し、2体と告げると俺はティアマトと共に先頭に躍り出た
現れたのは格闘猿2体、Fランク猿だけども冬だから毛深くなっている
『ウギギッ!』
襲ってこず、木に登り始めた
攻撃してくる様子はなく、こちらを木の上から眺めているだけだ
『進もう』
『ケッ、残念だ』
俺が指示をすると、ティアマトは肩を落とす
ティアは方向を確認するため、指輪を使って飛翔して空高くを緩やかに落下しながら辺りを見回す
指輪の付いた手を上に掲げ、円状の風の刃が回転している様子は面白い
リリディ
『便利ですよね、ティアさんのあれ』
リュウグウ
『貰った指輪にしては高価すぎるが、便利だ』
アカツキ
『高く飛べるし、ゆっくり落下できるっていいな』
そんな話をしていると、頭上からティアが戻ってくる
ティア
『このまま北に真っすぐで大丈夫。それにしても東側に見えるおっきい木々の地帯って凄いね』
リリディ
『大樹の森ですね』
北の森には様々な森の姿がある
デカすぎてなぁ…
森の中に入ると東側には大樹が沢山生えている地帯があり、そこは魔物があまりいないので誰も行こうとはしない
《お?出番だぜ?》
どういうことだと思った瞬間に奥から冒険者が慌ただしい顔を浮かべて走ってくる
やけに後ろを気にしており、グリンピアのギルドで何度も顔を合わせる人たちだとわかった
俺達は一斉に武器を構えると、近づく冒険者3人が顔色をホッとさせながら口を開く
『グランドパンサー3頭!退避します』
『くっそぉ!こんなところにいやがってぇ!あの犬』
今年、冒険者になった者たちだ
となるとランクDの魔物相手はきついだろうな
『任せろ』
彼らが通り過ぎる瞬間、俺はそう告げると直ぐに指示を出す
真横からも気配はしている、だからこそ前方から姿を現すグランドパンサー3頭をリュウグウ、ティア、リリディに任せ、俺はティアマトと共に左右の警戒をすることにしたのだ
リリディ
『1人1頭ですよ?』
リュウグウ
『わかっているわよ!』
ティア
『行くよみんな!』
『グルルルル!』
灰色の体のグランドパンサー3頭の毛はない筈なのに、冬になると黒い薄毛が生える
3人は前方から襲い掛かる魔物に向かって走りだすと、俺は側面から姿を現した魔物に少し驚く
『ゴルルルル!』
ティアマト
『こんな場所にブラック・クズリかよぉ!』
アカツキ
『行くぞティアマト』
ティアマト
『よしきた!』
光速斬で駆け抜けた俺はブラック・クズリの前足を斬り裂いて転倒させた
スピード強化はMAX、奴の胴体視力を超えた攻撃が可能になっている
もうこいつを恐れることはない
俺達は強い
『おらぁ!』
ティアマトが飛び掛かり、起き上がろうとしたブラック・クズリの頭部に片手斧を食い込ませる
一撃で彼は倒し、片手斧を抜くとブラック・クズリの体から出てきた魔石を拾う
《Cも問題ないな》
『へへ!だなぁ…』
ティアマトは笑みを浮かべながら魔石を投げ渡してきた
キャッチしてからティア達を見てみると、丁度倒したようだ
問題なし、だな
『アカツキ君のほうは大丈夫だった?』
『こっちは大丈夫だったよ』
『なら行こっか』
ティアと軽く会話を交え、俺は先頭を歩く
1時間歩き、海抜の低い森の近くまでくると崖から下を見下ろす
よく俺は生きてたなと思いながらも真下に見える大きな川を見た
アカツキ
『ティア、気配はどうだ?』
ティア
『後ろに2体だね』
アカツキ
『リリディ、リュウグウ頼む』
二人に任せ、俺達は崖から広大な森の向こうに顔を向けた
奥まで森、しかも一番奥は例の危険な森でもある幻界の森
不気味な色をした大樹が広範囲にわたり生い茂る地帯、きっとあそこだな
《危ない森だぜ?》
アカツキ
『わかってる。でも行くと決めたんだ』
ティアマト
『楽しみだ』
後ろではゴブリン2体を瞬殺したリリディとリュウグウが近寄ってくる
するとギルハルドは奥に見える不気味な色の大樹に視線を向けると、目を細めた
『シャハー!』
威嚇だな
この距離からでも何か感じるのか
リリディ
『一先ずは将軍猪、どうします?』
アカツキ
『俺が囮になる、避けるなら俺が適任だ』
リュウグウ
『頼むぞ』
《将軍猪は目が合った奴に突っ込んでくる。木を背にして誘っとけ》
アカツキ
『そうしよう、降りよう』
急勾配の下り坂を歩き、海抜の低い森に到着だ
全員の警戒がよりいっそう強くなる
魔物の気配なしだ
ここはランクの高い魔物ばかり
だから普通の冒険者は気軽に来たりしない
『ニャハハン』
ギルハルドが森に体を向けて鳴く
何かいるのだろうか
俺は武器を構えながら待ち構えると、ランクCのトロールが2体同時に姿を現した
鉄鞭を肩に担ぎ、鋭いきばを持つ人型の魔物
身長は2メートルはある
『ドルル』
鉄鞭を構え、こちらに狙いを定めたトロールはゆっくりと歩いてくる
いちなり走ってこないのはありがたいな
『リュウグウ、リリディで右側頼む、他は俺と左!行くぞ』
全員が返事をし、飛びかかる
俺は一気に間合いを詰めると、鉄鞭を掲げた右腕を斬り飛ばして背後に回った
1発で両断できたとは自分でも驚きだ
『ゴロッ!?』
トロールは後ろにふらつき、左手で切断部位をおさえた
どうやら俺達を甘く見ていたようであり、奴は焦りを顔に浮かべる
逃げようとしても、もう遅い
『それ!』
ティアが脇腹をサバイバルナイフで切り裂き、トロールは苦痛を浮かべながら前屈みとなる
その隙にティアマトが高く飛び上がり『ギロチン』と叫んで片手斧を振り下ろす
トロールの頭上から斬撃が落ちていくと、それは奴の体を深く切り裂く
『ドロ…』
そのまま前のめりに倒れるトロールに俺達3人は静かに歩み寄る
まだ気配があるため、消えるまでは迂闊に近付けない
『いい感じだね、あっちも』
ティアが笑みを浮かべ、目だけを動かしてリリディとリュウグウそしてギルハルド達を見た
ギルハルドがトロールの右足を切り裂いてバランスを崩すと、リリディは右手を伸ばし、緑色の魔法陣から突風を放つ
トロールはそのまま背中から倒れていき、リュウグウは飛び上がると素早く脳天に槍を突き刺してトドメを差した
『サポート感謝だメガネ』
『僕は帰り道まで魔力温存しますので頼みますよ?』
『望むところだ』
リュウグウはトロールの頭から槍を抜き、魔石を回収して俺に投げ渡す。
魔石が小石サイズで助かるよホント
《今なら休憩できそうだぜ?》
アカツキ
『昼頃だし軽く腹に入れるか』
リリディはギルハルドに『ご飯』と言うと、『ミャンミャー』と鳴きながら腹をゴソゴソして中からバッグを取り出した
中にはサンドイッチやおにぎりがある
俺達はそれを分けてから川辺にある岩場に座ってゆったりと食べる事にしたよ
地面は雪解け水で湿ってるから座れない
『ミャハーン』
ギルハルドは小さな紙袋に入ったキャットフードを顔を突っ込んで食べているけど、もう少しマシな食べ方ないだろうか
飯の時間だとしても、魔物は関係ない
リュウグウは森を気にしながらサンドイッチを食べていた
『ティア、そのおにぎりの具…なんだ?』
思わず聞いてしまった
クリーム色というか、なんというか固形物も混じってる
マヨネーズ?なんだろう
『エビマヨ!』
『あぁなるほど』
『アカツキ君のおにぎりはなんなの?』
『いくら』
『あっ!贅沢』
何気ない会話は楽しい
風がないから寒いとあまり感じない
というか買った上着が暖かいんだよ
購入するときは迷ったが、買って正解だったか
ティアマト
『帰ったらバラ焼きか』
ティア
『ティアマト君、もう夜食のこと考えてる』
アカツキ
『早いぞ…』
ティアマト
『早く食いてぇんだよ』
夜食はみんなで中心街にある精肉店の建物の2階にあるバラ焼き専門店に行くんだ
そこは屋内ではなく、屋外での夜食だ
外で食べる肉も美味しいが、眺めはいまいちだと聞く
まぁ建物は2階までしかないからそうだろうな
4階建てとかなら街並みを見下ろしながらといった感じにお洒落になった筈だ
グリンピアは2階建てしかない街、それ以上は治療施設ケアヒューマンと冒険者ギルドの3階建てしかない
『魔物の気配!強いよ!』
皆が丁度食べ終わる頃にそれは起きた
手の持っていた食べ物を無理やり口に入れて素早く立ち上がり、武器を構える
『一度身を潜めよう』
俺はそう言って近くの茂みに仲間と共に隠れた
獣道をなんのそのと枝木をものともせずにゆっくりとやってきたのは大きな猪
ランクBの将軍猪である
全長2メートル半で口元付近から前に伸びる長い角はオスであるとわかる
栗毛をしたその巨体は辺りを目だけを動かして見回し、木々の根元付近に生えるキノコを食べながら歩いていた
《音に敏感だ、喋るなよ?こいつは雑食だが肉を好む》
テラ・トーヴァの声を聞いている時、将軍猪は鼻先を動かしながら前を通り過ぎる
《捕食対象を目にするとずっと追いかける、奴の体力は魔物の中でも底知れぬ量、先ずは先手必勝であの猪の後ろ足を狙いたいな…後ろ足の筋力が凄い》
言われてみると後ろ足の付け根の筋肉は凄いのがわかる
誰が先手で動くか、それは直ぐにわかった
みんな俺を見ている
それが答えだな
《一発行け兄弟》
俺はその声を聞くと、強く頷いてから茂みからゆっくり立ち上がった
将軍猪は近くの木の根に生えているキノコをパクパク食べている背後に静かに歩み寄ると、俺は光速斬で一気に突っ込んだ
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