第261話 2 本当の別れ 本当の居場所
北の森、海抜の低い地にある崖下の川辺付近にて悪魔種のヴィドッグがデビル・パサランを従えて金欲のアヴァロンを倒そうとヤッケになっている最中、クリジェスタとエーデルハイドは後方から突っ込んだ
通常のデビル・パサランとは違い、大型犬に似た姿のデビル・パサランもいるが
それは頭部を左右に開いて不気味な口を見せながら人間に襲い掛かる
クリスハート
『気色悪い犬ですね!』
飛び掛かるデビル・ドッグを彼女は剣を振り下ろして両断すると、直ぐに側面から飛び込んでくるデビル・パサランの噛みつきを避けた
直ぐにシエラがファイアボールを放って応戦して彼女は難を凌いだが
辺り一面が悪魔種だらけなのはかわらない
クワイエット
『シエラちゃん!棘爆弾!』
シエラ
『みんな、集まる!』
彼女の声に全員がシエラの背後に集まる
そして小さな赤い魔法陣を多く展開すると、その中から赤く染まる棘を一斉に噴射したのだ
デビル・パサランの体に命中し、そして奴らの足元などに赤く発光する無数の棘が刺さった瞬間にそれは爆発を発生し、近くの個体を吹き飛ばす
アネット
『殲滅いいね!でもまだまだいる!』
クリスハート
『来る敵を倒しましょう』
『ミーの邪魔をするなんて馬鹿な人間!こっちにはまだ奥の手があるのよ!カモン!』
宙を浮遊する蜥蜴は指を鳴らすと、デビル・パサランの群れの中から現れた
ブラッククズリのような姿をしているが尾は3つ生えている
頭部に生える2つの角は前に伸び、口は大きく裂けていた
『ゴァァァァァ!』
リゲル
『悪いな、サーカスの調教師じゃねぇんだ』
デビル・クズリ
それはリゲルに大きく飛び掛かると口を大きく開く
だが安直過ぎる攻撃に笑みを浮かべたリゲルはデビル・クズリに左手を伸ばすと、白い魔法陣を展開して囁いたのだ
『ドカン』
それはショットガン、彼もまたスキル名を口にしなくても発動が可能なのだ
大きな炸裂音が響き渡ると同時に宙で回避が出来ないデビル・クズリはショットガンのマトになってしまい。抵抗できずに体を四散させてしまった
『ノォォォォォ!?』
ヴィドッグは驚愕を浮かべ、飛びながら慌てふためく
どう見ても無謀な策だったのだ
ヴィンメイ以上の生物がいなければ彼らには勝てない
この場にいる人間は幻界の森を生還した者であり、ランクAの冒険者なのだから
その間、他の者たちは人間の言葉を喋るデビル・パサランと交戦していた
『ユルサヌゥ!』
『カエセ…カエセ』
『スイタ・オナカガスイタ!』
ルーミア
『成仏してね!』
元人間だとしても容赦はしない
エーデルハイドは果敢にも迫りくるデビル・パサランの首を刎ね飛ばし、飛び込んでくる犬型の個体を一撃で両断していく
クワイエットはシエラの援護をしつつ、彼女が戦いやすく近くで敵を倒す
シエラ
『助かる!』
クワイエット
『少し温存していいよ!1発だけはヴィドッグのために残しといて!逃げる可能性が高い』
シエラ
『了解!』
彼女は強く返事をしつつ、背後から飛び込んでくるデビル・パサランの体当たりを避けるとローブの内側に隠していたナイフを2つ手に取り、デビル・パサランの頭部に突き刺した
彼女はクワイエットから投げナイフの技術を習っており、両手を使えば8本同時に投げる事も可能だ
だからこそローブの内側には30本もの投げる用のナイフを隠し持っている
流石と言わんばかりにクワイエットは彼女の背中をポンと叩くと、シエラは僅かに照れた一面を見せる
しかしそれはほんの一瞬、敵は動き続けているのだ
リゲルはデビル・クズリを倒すと、嫌な予感を察知する
奥で多くのデビル・パサランと戦うアヴァロンが両手を前に出し、巨大な魔法陣を展開したのだ
殺気と共に鳥肌が彼を襲う、しかしそれを感じている時間はない
リゲル
『避けろ!死ぬぞ!』
彼の声で仲間は状況を理解し、アヴァロンが展開した魔法陣の軌道上から急いで飛び退いた
その瞬間に戦獣であといわんばかりの力が炸裂するのだ
アヴァロン
『ゴールド・バスター』
金色の太い光線が撃ち放たれると辺りは強く照らさせる
そして軌道上にいたデビル・パサランやデビル・ドッグは一瞬で塵と化し、光線は森の奥まで貫通していく
地面が大きく揺れ、そして強い風が発生するとリゲル達はバランスを崩す
(あり得ねぇ…なんだあの化け物)
魔法なのか技なのかなんて彼らにはどうでもいい
しかし敵にしてはいけない生物だったという事だけは確かだ
光線が放たれた後は地面が大きくえぐられ、その威力を物語る
『ギョエェェェェ!こんなのに勝てってゾディアック様も無茶をぉ!?』
リゲル
『馬鹿悪魔、逃げたら殺すぞこら!』
『くそ!まだミーの兵隊は500もいるネ!お前らだけでもあの世に送ってやるネ!』
ヴィドッグは控えていたデビル・パサランを全てリゲル達に向けた
その数は先ほどよりも多く、対処するには至難の業である
だが死ぬわけにはいかない
リゲルは襲い掛かるデビル・パサラン達に向かって腕を伸ばすと、あれを発動する
彼の左腕には魔力で構成されたガトリング砲、それはすなわち特殊魔法自動総銃ヤマト
支える人間が近くにいなくても彼は今使わないと仲間がやられると感じ、腕に力を入れそして足を前後に開いて深呼吸をする
リゲル
『っ!』
背中を強く支える感覚に彼は横目で背後を見ると、そこには息を切らしたクリスハートがいたのだ
彼女は強い目を彼に向け、両手で彼の背中を支えた
クリスハート
『支えます』
リゲル
『あぁ!一生な!』
その瞬間にリゲルは撃ち放つ
轟音と共に連続で放たれた大粒の魔力弾は向かってくるデビル・パサランやデビル・ドッグの体を肉塊へと変えていき、軌道上の生物を吹き飛ばしていった
とんでもない攻撃にヴィドッグは驚愕し、空に逃げると羽ばたかせた羽に激痛を感じた
『ナッ!?』
シエラがナイフを投げていたのだ
地上では小さくガッツポーズする彼女と、隣で褒めているクワイエットの姿
ヴィドッグは憎らしそうな顔を浮かべながら地面に落下していくと、偶然にもデビル・パサランの体がクッションとなって地面に叩きつけられることは無かった
『こんな醜態!許さないネ!君らももう息切れネ!』
リゲル
『確かになぁ…沢山撃ったが魔力吸収しても体力の限界だ…』
クリスハート
『ほら、ちゃんと立って!』
リゲル
『大丈夫だ、まだ立てる…』
リゲルは体力だけは誰よりもある
しかし称号の特殊技を放つ時の反動を抑えるために体を強く力む為、異常なほどに疲れてしまうのだ
ショットガンならばまだ彼はここまで疲れなかっただろう
しかしヤマトとアハト・アハトの2種スキルだけは人間が抑えられる反動ではないのだ
アネット
『ちょっと!あっち不味い!』
ルーミア
『信じなさい!こっちは手一杯じゃん!』
敵の数が多く、誰もが手一杯
ヴィドッグは一番厄介な人間が体力切れだと悟ると、デビル・パサランの頭に飛び乗って彼らを嘲笑う
『ミーの勝ちね!確かにチミらはめちゃ強いネ!でも数は力よんっ!』
押し寄せるデビル・パサランの群れにリゲルはしかめっ面を浮かべ、クリスハートと共に身構える
無駄に威力の強い技を使わなければこうならなかったかもしれない
しかし使わなかった場合、既に全員が危ない状況になっていたことは変わらない
リゲル
『ルシエラ、背中は守る』
クリスハート
『わかりました』
リゲル
『帰ったら部屋の掃除付き合ってくれや…クワイエットがシエラの家に住み着くから引っ越しの手伝いだ』
クリスハートは驚きながらも、直ぐに微笑む
『貴方はどうするんですか』
リゲルは襲い掛かるデビル・パサランを両断一文字で一気に真っ二つにし、ショットガンで前方から跳びかかってきた他の個体を四散させて吹き飛ばすといきなり笑い始めた
これにはリゲルの背後で敵と応戦しながらも息を切らすクリスハートも危機的状況にも関わらず、首を傾げる
リゲル
『一緒に住まねぇか』
一瞬、時が止まる
彼女は驚きながら背後を振り返ると、リゲルは『馬鹿たれっ』と囁きながら彼女の背後から駆け出してくるデビル・ドッグの頭部を剣で突き刺す
リゲル
『話は後だ、まずは生きろ…』
クリスハートはどう反応を見せていいかわからない
だが困っているわけではない、どう反応していいかわからなかったのだ
嫌ではない、別に貴方とならば良いと思ってしまっていたから反応の仕方がわからないだけだ
リゲル
『やべぇ…多すぎる』
クリスハート
『頑張れたらちゃんと返事します』
彼女はそれが精一杯
しかしリゲルにはそれが十分過ぎる答えとなる
『クワセロォォォ!』
急に死角から襲い掛かるデビル・パサランに向かってリゲルはショットガンで応戦し、肉塊にする
すると彼は側面から襲い掛かるデビル・パサランに向かって剣を向けたのだ
そこで思わぬ事が起き始めた
赤い線の模様をした特殊個体のデビル・パサランが姿を現し、仲間であるはずの他のデビル・パサランを殴るだけで頭部を破壊していったのだ
何故敵である人間に味方しているのか、彼らにはわからない
そしてヴィドッグでもそれはわからない
『なんでぇ!?ミーのいう事きかないノ!?』
『リゲウ!クワイエト!』
シエラ
『あれ…』
クワイエット
『口にしちゃ駄目』
クリスハート
『リゲル…さん』
リゲルは真剣な面持ちのまま、目の前でデビル・パサランを倒していく特殊個体をずっと眺めていた
殴り、時には両手の爪を伸ばしてデビル・パサランを引き裂いていく強さ
他の個体よりもかなりスピードがあり、先ほどのデビル・クズリよりも強い個体だと彼は悟る
クリスハートは心配そうな眼差しでリゲルに顔を向け、彼の肩に触れる
だがそれは無用な事だった
リゲル
『大丈夫だ…大丈夫なんだよ』
『こんな強い個体を作った覚えはないネ!?何なんだネ!?』
リゲル
『おい蜥蜴野郎、お前を倒せば部下は全部死ぬのか』
『当たり前ネ!ミーの魔力供給から動いている人形ネ!』
リゲル
『そうか』
彼は最後の力を振り絞り、左腕を前に突きだす
これにはヴィドッグもギョッとし、慌て始めた
『まだアレ撃てるなんて嘘ネ!お前は限界ネ!』
リゲル
『舐めんな!』
彼は左腕に魔力を流し込み、自動自動総銃ヤマトを展開する
これには流石のヴィドッグもデビル・パサランを前に出して盾を作り出す
飛べなくなったことにより、空に飛んで回避することが出来なくなってしまったからだ
『お前!反動で吹き飛ぶネ!無理ネ!』
リゲルはヴィドッグの声なんて聞こえなかった
あいつさえ倒せば、みんな無事に生還できる
このことで頭がいっぱいだった
クリスハートが周りのデビル・パサランを掃討すると直ぐに彼の背中を支える
リゲルは自力で踏ん張れない、だからこそクリスハートの負担は大きい
支えれる筈がないのだ
しかし彼女はそれでも彼を支え切ると誓う
『大丈夫です。私がいます』
『悪いな…』
だが彼を支えたいと願う者は1人じゃなかった
クリスハートですら気づけなかったのだが、リゲルの背中を支える者が2人いたのだ
これにはリゲル自身、今までにはないくらいに驚いてしまう
赤い線の模様をした特殊個体デビル・パサラン
そして普通の個体のデビル・パサランが両手を使って彼を後ろから支えようとしていたのだ
クリスハートはわけもわからず、体が膠着して思考が混乱してしまうが
その2体から放たれた言葉で十分に何者なのか察することが出来たのである
『リゲウ…』
『ダイジョウブ、ダイジョウブダカラ』
リゲル
『あの世で幸せにな!』
リゲルは自然と涙を流し、正面から襲い掛かるデビル・パサランの群れに隠れるヴィドッグに向けて切り札を撃ち放つ
轟音と共に連射される大粒の魔力の弾丸の雨は襲い掛かるデビル・パサランの群れをことごとく粉砕に、それは奥で隠れているヴィドッグの胴体を貫いた
『ノォォォォォォ!ミー…これで終わり…なんて』
リゲルは吹き飛ぶヴィドッグの頭部に向かって腕を向け、粉々に打ち砕く
黒く発光した魔石が落下し、それをクワイエットが両手でキャッチすると同時に周りを取り囲んでいたデビル・パサランやデビル・ドッグは動きを止めるとその場に倒れ始めた
魔力を供給している主が死んだ事により、動くために魔力が無くなったのだ
リゲルの背中を支えていた普通の個体もその場に倒れると、特殊個体がしゃがみ込んで抱きかかえる
静かとなる最中、金欲のアヴァロンは人間達に顔を向けると『食えぬ矜持』と言って早々と森の中に立ち去っていく
アネット、ルーミアやシエラも息を切らしながらその場に大の字に倒れ、クワイエットは膝に手をつけて前屈みで疲れを見せた
だがリゲルとクリスハートだけは2体のデビル・パサランから目が離せない
何者かはわかりたくもない、しかし思いたくもない
しかしそれは一緒の別れとなることだけは確かだった
リゲル
『・・・』
特殊個体は動かなくなった普通の個体を抱きかかえながらも死線をリゲルに向ける
しかし会話はない、だが時間は有限であり、特殊個体といえど体の自由が利かなくなってくると、その場に倒れていく
倒れるデビル・パサラン達の体から白い魂が天の上り始めると、リゲルは目の前で息絶えた2体の前に座り、小さく呟く
リゲル
『馬鹿だなあんた…』
クワイエット
『リゲル…』
リゲル
『言うな!わかってる…だから口に出すな』
いつもよりも小さな背中に見えるリゲル
そんな彼の後ろで背中をさすり、クリスハートは彼を見守る
アネット
『ヴィドッグの魔石…』
アネット
『赤黒く光ってる。クローディアさんに渡しとかないとね』
《なぁリゲルや?帰ろうぜ?》
彼はそう言われると2体のデビル・パサランから白い魂が空に昇っていくのを眺めた
それを見て僅かに笑みを浮かべると、涙を拭いて立ち上がる
リゲル
『帰るぞ…』
クワイエット
『そだね。てか凄い数で恐ろしかったよ』
シエラ
『やばかった』
クリスハート
『九死に一生を得る、ですかね』
リゲル
『俺がいるから死なねぇんだよ』
クリスハート
『過剰ですよ?』
リゲル
『事実だ』
クワイエット
『てか悪魔の席を倒せたね。今は小休憩してから歩いて戻ろう』
リゲル
『そうだな、こっちはヘロヘロだ』
リゲルは立つことで精一杯だ
もう少し筋トレをしようと思いながらも座ろうとすると、クリスハートが彼の体を支える
リゲル
『すまねぇな、てか反動凄いだろ』
クリスハート
『300体ぐらい一気に四散しましたね。それなんですか』
リゲル
『リュウグウは近未来兵器だとか言ってたから俺はそう言ってる』
クワイエット
『近未来というか…遠い未来だね』
シエラ
『凄かった、てか疲れた』
ルーミア
『持てる分の魔石回収して帰ろうか』
普通の魔物は紫色の魔石
悪魔種となると黒い魔石となる
値打ちは普通の魔石よりも高く、デビル・パサランの魔石は今の時価では金貨1枚もする
魔石は討伐した証としての報酬でもあるが、加工して武器の混ぜればある程度の魔法スキルをふせぐ効果を持つことが出来る
黒い化石はその性能が高く、鍛冶屋に高く売れるのだ
だから金貨1枚なのだ
彼らは多くの魔石を回収しながら森を抜けると、防壁の上から警備兵が扉を開けて彼らを招き入れた
イディオットが扉の前で倒れているデビル・パサランの魔石を回収している最中、クリジェスタとエーデルハイドは先にギルドに足を運ぶ
受付にはクローディアが立っており、帰ってきた2組に気づくと手招く
クローディア
『結果はどうだったのかしら?』
その問いにクワイエットは黒くて大きな魔石を受付に置いた
リゲルはふととある事を気づき、口を開く
リゲル
『クワイエット、スキルもしや』
クワイエット
『もらっちゃったぁ!』
アネット
『あっはっはっは!ちゃっかりぃ?』
クワイエット
『だって話しかけれる雰囲気じゃなかったもーん。みんなリゲル見てたし…』
リゲル
『やられたな』
彼らは笑い、クローディアに魔石を全て渡す
ひと際大きな魔石は彼女が保存することになり、他は明日中に換金すると告げた
アネット
『なんのスキルだったの?』
クワイエット
『全体強化、近くに味方がいると全員のアビリティースキルが1段階強化された状態になるんだってさ』
その時の彼の顔は笑顔だったが、いつもよりもぎこちなかった
気づいたのはリゲルとシエラだけ
しかし彼らはそれを深く考えるつもりはない
クローディア
『悪魔討伐、良くやったわ…エド国のギルドからも報告は共有されてるんだけど。各国で悪魔種が動いているそうよ』
シエラ
『活発化、ヤバい』
アネット
『動き出しが少し遅いかもねぇ』
クローディア
『何故か様子見が長かったのは気になるけども、ゾンネやイグニスだけに目を向けている暇はないようね?ゼペットもきっと動くかもしれないから用心しなさい?数日前にゾンネと思われる個体がコスタリカ周辺で現れたんだけど討伐に向かった五傑の閻魔騎士ブリーナクとその部隊が何も出来ずに全滅、生存者はブリーナクのみよ』
クワイエット
『ブリーナクさんは決して弱くない、あの人の部隊も聖騎士と同等の強さだよ』
アネット
『本当に怖いねぇ…でもなんとか悪魔種と潰し合ってもらいたいもんね』
リゲル
『本当に暴君ゾンネが平和を願って暴君と化しているならば今動いている悪魔種の目論見は無下にできねぇはずだ。もしゾンネが平和を望む化け物ならばな』
クリスハート
『でもアカツキさんを狙うのは諦めないんですね』
リゲル
『だろうよ…。今こられちゃ不味い…俺達は総合的に強くならねぇとまだ勝てねぇから神に祈るしかねぇぞ?』
シエラ
『急がないと…駄目』
クワイエット
『でも今は答えはない、無駄に考えずに休もう』
こうして彼らは一度解散する
時刻は22時
寝るには丁度良い時間だが、クリスハートは仲間を先に帰らせてから再びギルドに戻った
ロビー内には冒険者の姿はおらず、受付奥で職員3名がクローディアと共に何やら話し合いをしている様子が見える
クリスハート
(大事な話でしょうね)
彼女は静かに2階に上がると、テラスに向かった
そこには風呂に入ったばかりで半裸のリゲルは椅子に座って三日月を見てたそがれていたのだ
少し驚くクリスハートだが、リゲルと目が合うと咳ばらいをして近くの椅子に座る
リゲル
『明日は筋肉痛だ、悪いが訓練できねぇ』
クリスハート
『構いません。怪我はないですか』
リゲル
『俺は平気だ。ただあまり体に力が入らないくらい疲れてる』
彼は苦笑いを浮かべ、話す
溜息を吐き、再び空を見上げると静寂がこの場を支配する
彼女はリゲルが何を考え、空を見ているのかなんとなく察し、彼が話し出すのを待った
静かな時間が1分を超えようとした時、リゲルはテーブルに置いていた水筒を掴んで飲み干す
リゲル
『クワイエットも超加速だよな。ロリ女の家族に気に入られたと悟って急ピッチで動きやがる』
クリスハート
『それって本当なんですか?』
リゲル
『ミリアさんに今日道端で会ってな。どうやら夏にはクワイエットが住み込みで暮らすらしいってのは本当だ。クワイエットもさっき俺に詳しく話したよ』
クリスハート
『そそそれってププロポーズしたと?』
リゲル
『らしいぜ?親公認、まぁそうだよな…なんだかんだクワイエットの貯蓄は金貨3千超えてるしギルド職員でもあるから田舎街にしては立派な公務員、立派な職歴だろうよ』
クリスハート
『確かにグリンピアじゃリゲルさんとクワイエットさんって特殊ですね』
リゲル
『だな。引っ越し祝いと引っ越しお手伝いもせにゃならねぇけど。なんかこっちまで嬉しくてな、弟みてぇな存在だしよ』
クリスハート
『いつかはお互い独り立ちするだろうと思いましたが…』
リゲル
『先ずはあいつか。俺もここで呑気に個室を借りている暇はねぇ…だからその…あれだ』
彼は急にドモる
これには流石のクリスハートも何を言いたいのかわかってしまい、少し恥じらう
だがリゲルはアカツキと違い、いう時は言う男だ
それが今、証明される時だ
リゲル
『ちゃんと毎週1回は掃除するから一緒に住まねぇか?俺がいれば世界一安全な家だぞ』
クリスハート
『プロポーズのつもりですか?』
彼女は微笑んだ。恥じらいなど吹き飛んだのだ
貴族育ちであるクリスハートには交際という概念はない
初めて好きになった異性が夫になることを彼女は願ったのだ
リゲルはクリスハートの返し言葉に対し、笑みを浮かべて首を傾げる
リゲル
『だがちゃんと言いたい事はある、好きという感情はわかんねぇんだがこれだけは言えるってのはある』
クリスハート
『何でしょうか』
リゲル
『お前と一緒に入れれば俺は他に何もいらねぇ。』
彼女はわかっていた
リゲルが言う言葉ではこれが限界であると
伝わりにくいが、言いたいことはわかっていた
だからこそ彼女はベットに横たわるリゲルに近づくと抱きしめたのだ
リゲルは安堵を浮かべ、彼女の背中に手を回して抱きしめる
しかし彼は言葉を間違っていた、それを彼女は彼の胸から伝わる心臓の音を聞きながら指摘したのだ
クリスハート
『貴方の家じゃなく、貴方の胸の中が世界で一番安全だと私は思ってます』
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