第119話 ハイムヴェルトの友人
マグナ国、その国境に入った
ちょっと緊張だ
最初の街であるレベッカに入る前、大きな防壁前の扉で商人の馬車や冒険者が並んで検問を受けている
検問員が4人に警備兵が3人か
馬車の中で変に緊張するリリディに向かってリュウグウが頭を叩く
『あからさまに怪しいぞお前』
『少し緊張しました』
顔に出過ぎだ…まぁいいか
こうして俺達の番になり、冒険者カードを見せると何事もなく通過したのだが
中に入ると防壁の裏側の壁に背中をつけてこちらを見ている冒険者が3人ほど俺と目が合い、彼らは驚いた顔をする
《冒険者がなぁんで3人でここを見てるんだろうなぁ?馬鹿な兄弟でもそれくらいわかるだろうなぁ?》
俺とティアはあまり彼らを横目に通過し、街の中に向かう
『人間観察が大好きな冒険者なんだな。わかりやすい』
『まだ見てるね』
『あまり見るなよティア』
『わかってます』
俺の脇腹をつねってくる、少し痛い
街中はそんな俺達の気持ちとは別に平和そのものだ
久しぶりな母国に緊張感が僅かに軽減されていく
エド国と違い、和風ではない
俺達の国だ。
『親近感感じるなぁ、久しぶりに帰ってくるとよ』
ティアマトは窓から顔をだし、すれ違う冒険者や警備兵を眺めてそう告げた
目的の宿は馬車乗り場の途中にあるから途中で降りないといけない
『…』
俺はすれ違う冒険者の中で、こちらを意識してる者がいるのを捉える
知らない顔なのに、なんでこんなにも俺達を見るのか
視線だけで見てもこっちはわかってるぞ
こっちを意識してるってことは何かを知っているんだな?
《兄弟より頭は悪い野郎だな》
テラ・トーヴァはそう言いながら冒険者をあざ笑った
こちらは視線を向けてすれ違う冒険者なんて知らない顔し、宿の前で降ろしてもらった
怪しい奴はいない、リュウグウが『見られる前に入れ』と言うので俺達はブルドンを店の横に隠してから急いで中に入った
ここもなにかと懐かしい
古びた宿屋、店の人間は1人だけ、後ろの壁にはドア、その横に30センチ四方の鏡だ
店内は壁を見ると板を打ち付けて補強している形跡が至る所に見られる
穴でも開いたのか?以前来た時も気になったけども
疑問を浮かべたままフロントに顔を向け、この街の情報誌を見てのんびりしている人に声をかけようと歩き出す
彼は俺達に気づくと少し驚いた顔を浮かべて情報誌をフロントに置き、立ちあがる
『懐かしい客が2人、今日はお友達を連れて来たか』
『ご無沙汰してます。今日はシングルを人数分お願いします』
俺は頭を下げて頼むこむと、お爺さんは笑みを浮かべて答える
『人気じゃねぇ宿さ、誰もいないから超開いてるぜ?1人銀貨3枚…飯はないがな』
苦笑いする老人は両腕を左右に広げた
その時に僅かに裾から手首の傷が見えたんだ
大きな傷、かなり昔の古傷だが…
なんの傷だろうか
それに関して考えていると、リリディが彼に歩み寄った
老人はそれに気づくと、彼の持つ木製スタッフを見て驚愕を浮かべる
『お前…そのスタッフ』
気優しい感じの老人が、凍てついた顔を浮かべた
何故だ…俺の体中がビリビリと僅かに痺れる感覚を覚える
この人は普通じゃない…なんだこの気迫は
誰もが驚く
だが驚かない男が1人、リリディだ
言われた問いに彼は淡々と答えた
『僕のお爺さんの形見です。それだけで僕の名は知っている筈です…アカツキさんからここの宿の事は聞いてます。僕のお爺さんであるハイムヴェルトさんの事、知ってますよね?』
『お前は…リリディか?あの鼻垂れ小僧っ子なのか』
『小さい僕を知っているようですね。僕はお爺さんの称号を継いでいる…お爺さんが正しかったと勝手に無念を晴らすためにそうなったんです』
驚くお爺さんに、リリディはステータスを見せた
すると彼は乾いた笑みを浮かべ、それは高笑いに変わる
『ハイムヴェルト、お前は孫に託したか…ギールクルーガーこそが魔法使い最強という事を。あの欲深いロットスターに潰された夢を孫に叶えてもらうか』
『お爺さんの夢ですか?』
『奴は魔法使いの最強はマスターウィザードではない事を発見した、自分の持つ称号こそが魔法最強の称号だと世に知らせるために。しかしあのロットスターは邪魔をした。ハイムヴェルトに魔法騎士長の座を奪われると思い、俺達を魔物で全滅させて任務中の事故にしようとした』
『詳しく知ってるんですね?』
『当時の私はハイムヴェルトの補佐、名はマキナだ…。俺達はコスタリカ周辺の森に生態系調査に向かったんだ。そこで得体の知らん化け物に襲われた…半分が死んださ、そこでハイムヴェルトは隠していた黒魔法を使って撃退したんだ』
『倒してないんですか』
『倒そうと思えば倒せたかもしれない、しかし怪我をした仲間を助けることを優先したハイムヴェルトは追う事を止めたんだ。俺だって重傷だった』
『それはロットスターの仕込みだったといつわかったんですか』
『あいつと親しかったグリモワルドがコソッと教えてくれたらしい。暗躍していた闇組織は奴によって全滅、証拠もあったがハイムヴェルトはその前に黒魔法所持という協会法違反によって追放されたのが先だった。黒魔法は不幸を呼ぶ魔法とか田舎の考えみたいな事をまだしておる…それさえなければハイムヴェルトは諦めなかっただろうな…あいつはグリンピアに帰ることにしたのだ。真実を表にすればもっと面倒になると感じてな』
『それは僕が引き継ぎます、当時の襲撃事件の件は聞いてましたが…このスタッフが何なのか知りたいですね。壊れる気配がない』
『そりゃそうだ、神木であるテラーガの木で作ったんだぞ…それ売れば金貨500はくだらんじゃろう』
凄い!リリディ凄いの武器にしてたのか!
どんな衝撃にも耐える世界で一番堅い木で作られているとはな
ここまで削るまで1年はかかるとかもの凄いことも聞いた
普通の金属で削ると直ぐに折れるから上質な金属で徐々に削っていって形にしていくらしい
『そういやそこの2人、お前らまだ追われてるのか』
マキナさんが俺とティアに顔を向ける
どうやら俺達が出ていってから聖騎士が訪れて俺達の居場所を聞こうとしてきたらしい
しかし彼は知らない、そう答えたんだ
聖騎士会と魔法騎士会が大っ嫌いらしいから意地悪したんだとか
俺達は追われてることを話した、スキルの事は口にせずだ
それを彼は深く聞かず、溜息を漏らしながらフロントに戻って椅子に座る
『ロットスターはお前を意識しているだろうな。リリディ』
『僕が彼をボコボコにします。どうするかはいつか考えます』
『あいつは屑だが実力はあるぞ?』
『それでも僕のお爺さんが正しかったと証明させます』
『…まぁいい。あいつの大事な孫なら無下にできねぇ…一応ちびっこ聖騎士の中が冒険者の格好してうろついてるのは流石に気づいたかお前ら?』
この人…気づいている?
俺は驚いていると、彼は話した
『元魔法騎士副長の補佐だぞ?聖騎士が恰好変えたって若造の変装はバレバレだ。歩き方が冒険者じゃねぇ…ありゃ新米聖騎士だ。熟練した野郎は自然に動くからあんな聖騎士のように歩きはしない。お前らが帰ってくるのを待っていたって事か。なるほどな』
アカツキ
『奴らはいつから?』
『最近になってだな…。夜は安心して寝ればいいさ。訪ねてきたら呆けとくさ』
アカツキ
『すいません、巻き込むような感じになって』
『ロットスターの若造が将来堕ちるとなれば俺も酒が美味くなる。あいつを倒すならば助けてやろう
。新米の下手変装相手ぐらい問題ない。街の人間の詳細ぐらい奴らも調べている筈だから俺にはあまり深くまで関わらない筈だ。休みな…飯は俺が作ってやる。外は出たくないだろう?』
リリディ
『…マキナさん』
『本当に大きくなった、ハイムヴェルトはいつも俺にお前の話をした。1度しか君とは会ったことはないが…当時は3歳ぐらいか。覚えているはずないだろうな…枝を振り回すのが好きな奴だったな』
彼はそう言いながらフロント奥のドアに入っていった
数秒後、ドアを開けて彼が『宿の横に隠してる馬は裏にある馬小屋に隠せ。あとは好きな部屋を使え、金はフロントに置いとけ』だってさ
俺達はフロントにお金を置いてから急いでブルドンを裏にある馬小屋に隠した
他にも馬が3頭もいる、しかも赤い馬もいる…
同じ赤騎馬種、マキナさんの馬だろうか
ブルドンは同種に興奮し、近づく
大丈夫そうだし俺達は宿に入ってからフロント横に階段を上っていく
廊下が目の前にあり、左右に部屋が8つある
どうやらシングルしかないようだ
1階には部屋は2部屋、それはダブルだった気がする
奥の部屋から順番にみんなが部屋を選び、入っていく
俺も部屋を見つけて入る
小綺麗にされた小さな部屋だが悪くはない
俺は暗い部屋の中に入ると、机の上のランタンに灯りをつけないでカーテンの隙間から窓の外を眺める
人々が陽気に歩いている様子が見える
冒険者も警備兵もだ
怪しい感じの者は見えない、今はな…
《新米…か》
テラ・トーヴァが口を開く
俺は後ろに下がり、ベットに横になると彼と話した
『街にいるのはその可能性が高いのは嬉しいな。新米だとしてもそれなりに強いか…どれくらい強いかな』
《兄弟なら大丈夫さ。それに仲間もいるだろう?十分に準備は出来たはずだ》
『そうだな。夜は何事もなく寝たいな』
《祈っとけ》
面倒だなぁ
俺は懐から懐中時計を取り出して時間を見ると18時だ
この時間からゆっくりできるのは有難い
少しだけ仮眠でもしようかと思い始めたころ、ドアの外からティアマトが声をかけてきた
俺は立ち上がり、カギを開けるとティアマトが入ってきて薄暗い部屋の中の椅子に座る
そのまま彼に視線を向けたままベットに横になると、彼は話しかけてきた
『夜は普通に寝るか?どうする』
『忍び込むとは思えない、それはマキナさんが許さないだろうし』
『ここの入り口が完全に閉まるのは21時、それまでに1階は訪問しそうじゃねぇか?冒険者風の格好で宿泊客のフリしてよぉ』
《それもあるが多分大丈夫さ》
俺とティアマトは首を傾げる
するとテラ・トーヴァは呆れたような声で俺達に教えてくれたんだ
《勘弁してくれ兄弟、マキナは聖騎士の変装を見抜いてたんだぞ?笑顔でそんな客を泊めると思うか?事情知ってんだぞ?》
ああそうか、泊めるわけないか
なんかの理由をつけて今日は泊まれないとか言いそう
入り口に休業とか看板を立てたりとかもちょっと考えたが
それは逆に怪しいから今は自然に宿を営業している感じに見せているんじゃないかってティアマトが予測する
『まぁ俺達は出禁で今日は過ごそう』
『だな』
ティアマトは返事をすると、欠伸をする
俺は眠気が覚め、立ちあがってから窓の外を見ると森の帰りと思われる冒険者がギルド方面に疲れた顔をして歩いているのを眺めた
部屋の灯りはつけるのはちょっと億劫だ
店の表側の部屋の俺やリリディそしてティアマトはそういった考えがあり、灯りをつけていない
ティアマトも窓に近づく、俺の頭の上から外を眺めていると、彼はニヤニヤしながら口を開いた
『確かにな。意識して観察すればわかるが歩き方がやけに小奇麗な野郎がいる』
『姿勢が良いな』
宿の前を通過する冒険者2人だ
冒険者に紛れているから余計にわかりやすい
意識して探そうとすれば俺達でも気づくことは可能だな
でもそんなこと知らない人間からしてみれば気にはならないだろう
《きっとマグナ国に戻った情報はロイヤルフラッシュに知られている筈だ、そこでここいらの変装騎士がどんな行動をとるか…だ》
『変わらず監視でいてほしいな』
『俺もそう願うぜ?夜くらい寝かせてもらいねぇな』
『俺もだ』
『つうかティアちゃんとどこまで進展したお前ぇ?』
俺は慌てた
そんな様子の俺を見てティアマトが面白がる
『ブチュリとしたか?まだか?それともそれ以上か?もうハッピーエンドか』
《熊五郎、残念だが頬にキスされたぐらいでこいつは何もできん》
お前がバラすのかテラ・トーヴァ!?
ティアマトは笑いを堪えながら、椅子に戻って座る
俺は肩を落としながらベットに横になると、彼は口を開く
『男は度胸、次はしとめないとな』
『どういうことだよ』
『繋がれば強くなる!なにかの本で書いてた』
ティアマトはそう告げると、笑いながら部屋を出ていった
よくわからないセリフを言っていたな…
その後、マキナさんが降りてこいと階段下から大声を出すので俺達は部屋から顔を出し、下に降りるとフロント奥のドアに案内される
普通の家みたいな感じの部屋だ、リビングだろうな
リリディはテーブルの上にあるハンバーグ定食を見て素早く椅子に座る
ちゃっかりし過ぎだけども…マキナさんは笑っているから大丈夫か
『毒はねぇ、まぁ食ったら部屋に戻ってゆっくりしときな』
彼は壁際の椅子に座ると、手に持っていたホットドッグをモグモグ食べ始める
それにしてもこのハンバーグ美味しい、米も美味しい
ニンジンも丁度いい柔らかさで全部美味い
ティアマトがガツガツ食べていると、マキナさんはそれを見て言ったんだ
『遠征時、私は料理もこなす料理魔法騎士とも言われていた…このハンバーグはハイムヴェルトもお気に入りだ』
リリディ
『お爺さんは強かったですか?』
『べらぼうにな、なんせ当時のロイヤルフラッシュの若造と互角だった…ギールクルーガーの称号を知る者は俺に五傑の一部だけだな…グリモワルドとクローディアちゃんくらいだ。あとはあいつが冒険者時代の仲間ぐらいだろうよ』
アカツキ
『何故ハイムヴェルトさんはギールクルーガーを隠そうと』
『多分、孫に託したかったんじゃないか?』
ティアマト
『あんだは称号持ちか』
『当たり前だ。今の若造魔法騎士なんぞ負ける気はせんな…昔は強い奴ばっかだったが今はそんな奴らは消え、売れ残り集団だ…。力の象徴がおらんからな…イグニスのような奴がな』
アカツキ
『出会ったことあるんですか?』
『数回な。目の前にするだけで笑いたくなる気を感じたなぁ…あれは最初で最後だろうよ。それが今はどうだ?ロイヤルフラッシュの若造が力の頂点だぞ?笑える…権力に屈した力なんぞ力じゃない。力は自由を手にできる・・だから昔の五傑は誰もが憧れた。ロイヤルフラッシュの若造は数合わせ…マグナ国の純粋な者を1人中に入れたかったという当時の馬鹿な王族の考えだっただろうよ』
リュウグウ
『今の五傑は王族の部下みたいな感じには確かに聞こえるわね』
『そうさ、新五傑と聞いて最初は驚いた…しかしメンツを見て私は国の強さのランクが1段階下がったことを知った。4人知っている…確かにあいつらは強いのは認めるが…』
マキナさんは溜息を漏らし、口を閉ざす
するとティアがその後、何を言いたかったかを言い当てた
『初代より明らかに見劣り、ですか』
『私なら泥を塗るような行為だと感じてなりたくはないね。五傑というネームブランドに負けたのだろう。たかが1段階の力といっても、その1段上という壁は凄まじく高すぎる。ハイムヴェルトはその候補だった。リリディよ…お前は彼以上を目指し、魔法の歴史を変えるか?500年間も変わらぬ魔法の歴史だ』
『悪いですがそれ以外興味がありません、もうその道の乗ってしまった』
『大変だぞ?一番強い黒魔法を会得するにはロットスターよりも面倒な魔物と戦う羽目になるからな…』
リリディはそれを知らない
勿論、俺達もだ
なぞなぞのようなメッセージでしか聞いたことがない彼はマキナさんに最後の魔物を聞こうとする
しかしタイミングよく宿の入り口が開く音が聞こえ、マキナさんは椅子から立ち上がった
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