第223話 2 ダンカートの街

登場主要キャラ  


グリンピア冒険者チーム『クリジェスタ』(Aランク)

リゲル・ホルン       元聖騎士の中でも上位の強さを持つ男

クワイエット・モンタナ   元聖騎士1番隊の副隊長


グリンピア冒険者チーム『デーエルハイド』(Aランク)

クリスハート・ルーティン  片手剣士、本当の名はルシエラ・ル・ダンカード

シエラ・エリ・フルブレーム 魔法使い、

アネット ・ルールー 片手剣士、

ルーミア・マイン      双剣士


ルシエラ・ル・ダンカード   クリスハート

エミ・ル・ダンカード     母

リクゼン・ル・ダンカード男爵 父

クリス・ル・ダンカード    次女

キャリヴァン・ル・ダンカード 長男


・・・・



夜食の席

そこは大勢が食べるには丁度良い広さを持つ貴族たる部屋

長テーブルを囲むように皆は座り、壁際にはメイドが数人、騎士が3名待機していた

色とりどりな料理が並べられているのをクワイエットは目を輝かせてヨダレを拭く


ルシエラ・ル・ダンカード   クリスハート

エミ・ル・ダンカード     母

リクゼン・ル・ダンカード男爵 父

クリス・ル・ダンカード    次女

キャリヴァン・ル・ダンカード 長男


その全てがクリジェスタ、エーデルハイドよりも奥の席に座っている


エミ

『長旅で疲れたでしょう。美味しい料理を今日は頑張って用意しましたので満足いくまで食べてください』


リクゼン

『存分に食べてくれ』


クワイエットが即座に料理に食らいつく

これにはアネットやシエラが苦笑いだが、殆どが笑っているために粗相とは捉えられずに安堵を浮かべる者もいる


リゲル

『この刺身…サーモンか』


キャリヴァン

『そうですリゲルお兄さん。漁業権が与えられてから新鮮で高級な魚介類がダンカートの街にも容易く流れるようになったんです』


リクゼン

『お兄さん…』


エミ

『知らぬうちに仲良くなられたようね、ヴァン』


キャリヴァン

『はい。新鮮な時間を与えてくれました』


クリスハート

『リゲルさん?何やらかしたんです?』


リゲル

『おまっ…やらかしてねぇよ』


クリスハート

『怪しい』


キャリヴァン

『稽古をつけてもらったんですが、あの状態でボコボコにされました。あはは』


騎士1人はそれを目の前で見ていたから驚かないが、他の2人は驚愕を顔に浮かべる

クリスハートは弟が怪我をしてないか心配そうに聞く

リクゼンは苦笑いを浮かべ、口に切り分けたステーキを運ぶ


エミ

『娘から色々と聞いております。リゲルさんには感謝が絶えません』


リゲル

『俺は何もしてないっす。俺の父さんだ』


リクゼン

『…リゲル君の父さんの名とは』


リゲル

『聖騎士では1番隊の隊長ルドラって名前で通ってると思います。あんたを知っているようなことを話してました』



ここでリクゼンは目を見開き、そして思い出した

忘れる筈がない、忘れたらそれこそ人間として生きていけないくらいに大きな思い出だった


昔、リクゼンは街に騎士をつけずに夜を出歩いた時、裏路地にてゴロツキと遭遇して金品を巻き上げられそうになった時に無駄に抵抗を見せ、殺されそうになった

そこで運良く聖騎士の魔物使いの隊長を務めていた頃のルドラが偶然にも見つけ、助けたのだ


運良くその時期に聖騎士での魔物使いはダンカートに駐在しており、ルドラは散歩で裏通りを歩いていたのだ

そしてただの命の恩人ではなかった


リクゼンはルドラとそれなりに仲が良くなると、近くの炭鉱での採掘道具での悩みの話をした

この時、ルドラは『近くの街に炭鉱道具を作るのが好きなもの好きな鍛冶職人を知っている』とリクゼンにその者を紹介したのだ


それによりリクゼンが他の貴族から頼まれていた鍛冶職人への伝手は生まれ、功績が増えた

今ではダンカート家が付近の炭鉱の責任を担うことになり、準男爵として地位を固める事が出来たのだ


リクゼンはそれをリゲルに話した

話し終えると、目の前にあったワインを飲んで口を開く


リクゼン

『目が似ていると思っていたが…ようやくわかった』


キャリヴァン

『ルドラ様の…』


クリス

『ハンサムは伯父さんだったねー』


リゲル

『まさかここの家にも顔を利かせてたのかよあの人』


リクゼン

『世間は狭いというのはよく聞く、だが世間は狭すぎて偶然がこうも訪れるとは思わなかったよリゲル君、にしてだ…ルドラ殿は今どこに?』


その言葉でエーデルハイド、クリジェスタは全員なんともいえない表情を浮かべる

(まさか…)とリクゼンは考えたくもない予想が頭をよぎる

しかし、リゲルがそれを言葉に出す


『殉職しました』


リゲルは話した、父の全てを

リクゼンはそれをただひたすら真剣に聞いた


リクゼン

『…彼は私の中では最高の人間だった。キャリヴァンにも多少剣術を教えてくれた、だから勝手にたまにだが騎士を連れて森に行っているが…目を瞑っている』


キャリヴァン

『あはは…』


リクゼン

『複雑な事が起きていたことは誠に悲しいことだが。最後の彼はどうだったのだ?』


リゲル

『俺を守って死にました』


リクゼン

『親というのは有能ではない、誰でも欠陥はあるが…父として息子を守れたならばそれ以上の姿はないだろう』


リゲル

『色々繋がりました。俺が困っているからとかいうから人肌脱いだのかと思いましたが…あんたとの付き合いもあったんすね』


リクゼン

『いや、彼ならば君の事を考えて動いたのだろう…最後の最後に返しきれない恩を貰ってしまったようだ。まさか準男爵から男爵に、そして貴族会の参入が出来るとは思いもしなかった。これはいつか返す』


リゲル

『俺は何も…』


リクゼン

『困惑か、だが私が返したいと願えば君は父を近くに感じる事ができよう…勝手にそうさせてもらう』


クリス

『お姉様の男ってこの人なんだ』


全員が真顔でクリスに視線を向ける

当然、クリスハートは否定しつつも妹の頭を叩く





こうして次の日

エーデルハイドはクリスハートを屋敷に残してクリジェスタと共にダンカートの冒険者ギルドに足を運ぶ

中はグリンピアと同じ広さであり、構造も同じだ

時刻は9時、ただの下見の為にどんな場所か見に来ただけだが依頼板には当たり前に依頼書の争奪戦が繰り広げられていた


『俺の依頼書だ!』


『それ寄越せっ!俺が先に気にしてた!』


『ふざけたこと言ってんじゃねぇ!』


シエラ

『ここも変わらない』


ルーミア

『どこも同じね、朝って』


リゲル

『だろうな』


アネット

『ここは比較的に魔物が暴れたりと問題はそんな起きないらしいよ。毎年平和だってキャリヴァン訓が言ってたね』


シエラ

『ここって確かマスターウィザードいる』


リゲル

『ほう…知ってんのか』


シエラ

『冒険者チームのマジックナイト、4人全員が女性で槍が1人、剣士が1人で残りは魔法使いって斬新な編成だけど、その中に1人が飛びぬけて強いって聞いてる』


リゲル

『マリーって女だろ?歳は25歳とお前と同じ。赤紙のボブショートで好きな食べ物はイカリング、チームの休みは土日だから土曜の今日はいねぇ。休みの時は実家の近くのカフェでバナナジュースを飲むのが日課、彼氏無し…親近感沸くか?』


シエラ

(…ストーカー並みに調べ上げてる、レベル高くてツッコめない)


聖騎士での調査をリゲルは無駄に発揮する

既に彼はダンカードに来る前に冒険者や近辺を調べ上げていたのだ


クワイエット

(ここで調査能力活かさなくても…)


彼らはエーデルハイドと共にロビー内の丸テーブル席に座ると、各自が隣接された飲食店の店員に注文する

少し話し込んでいるとリゲルは沢山の視線を感じて横目でそれらを確認していく

誰もがアネット、ルーミア、シエラを見ている


リゲルは理解してないがクワイエットはわかる

彼女達は無駄に可愛い、綺麗の集まりなのだ

男達が見ないわけがない


アネット

『ここはゴロツキいないのリゲル君』


リゲル

『グリンピアより平和だ。ギルド内での問題はねぇ…だが』


『『『だが?』』』


皆、首を傾げる

すると近くの丸テーブル席に座っていた男が急に立ち上がり、緊張した面持ちでアネットに近づくと手を差し伸べながら頭を下げる


『デートし…てください!』


リゲル

『ナンパは多いギルドだ』


アネット

『……』


残念ながら男が玉砕した

肩を落として席に戻る男は仲間に慰められているが、アネットは気にしない


ルーミア

『ここで有名なのはマリーさんだけ?』


リゲル

『ランクBの実力があることで有名なのはマジックナイト所属の魔女マリーとドラグーン所属の槍マサだ』


クワイエット

『てかエーデルハイドさん、基本的なマグナ国冒険者の情報は

覚えておかないと…』


普通、冒険者はランクBとなるとその名は街の外まで情報が広がる

エーデルハイドはそういった情報はあまり詳しくない


アネット

『ありゃま、勉強しとくさね』


リゲル

『けっ、グリンピア近くだけでも問題ねぇぞ』


同業者の情報は知るべき

その理由は特に得が生まれる事はない


リゲル達は飲み物を飲んで話し込んでいると、二人の女性がギルドに姿を現す

赤い髪、ショートボブの髪型のマリー

そして同じチームの魔法使いであるルーシー


二人の登場でロビー内が一瞬ザワついた

視線の殆どがマリーに向けられており、それは周りから一目置かれる存在であるとわかる


マリー

『昨日の査定遅れた代金貰わないとね』


ルーシー

『うんうん!頑張って将軍猪倒したもんね』


マリー 

『帰ったらカフェ行きたいのに、これ終わったらまた用事ね』


ルーシー

『仕方ないよ、でも報酬高いかもよ』


そういった話をしながらも2人は受付に歩いていく

エーデルハイド、クリジェスタのすぐ横を2人が通り過ぎようとした時、マリーは足を止める

視線はリゲルに向けられており、彼女は何かを考えながら僅かに首を傾げた


リゲル

『なんだ女、ナンパしてぇのか?』


ブレないツンツンぶりなリゲルにアネット達は苦笑いを浮かべる

しかめっ面を浮かべる彼にマリーとルーシーは面倒な人間に話しかけてしまったのではと浮かべるが、マリーは何か煮え切らないまま受付まで仲間と共に歩いていった


クワイエット

『マスターウィザードか』


リゲル

『それなら今頃Bランクになってる。なってねぇってことは難ありって事だろうよ』


シエラ

『難あり?』


リゲル

『全ての属性魔法スキル取得に魔法強化スキルが一定のレベル、そして魔法耐性強化スキル持ちだったか…マスターウィザードの条件は』


クワイエット

『確かそんなだったかなぁ、多分まだ彼女の能力が仲間と共有しあえてないって感じかな。1人が強いとそれなりに戦いやすくなるんだけどさ』


アネット

『苦労人なのかな』


ルーミア

『まぁ他所の事情は変に口だし出来ないし気にしないでおきましょ』


リゲル

『んだな』


シエラ

『特に用事ないし、帰る?』


彼女がそう告げた時、ギルドにクリスハートが騎士2人を従えて姿を現す

それだけでロビー内の人間の視線が彼女に釘付けとなってしまう


『マジで帰って来てたのか…ルシエラお嬢さん』


『めっちゃ可愛い…でもナンパしたら牢屋行きだろうな』


『美人の部類じゃないか?それにしても凄い美貌だな』





シエラ

『人気』


ルーミア

『いいねぇ』


クリスハートは騎士2人と何かを軽く話すと、彼らを帰してから仲間の元に近寄る

そのまま席に座ると、溜息を漏らしながらテーブルに軽く伏せた

どうやら家で根掘り葉掘りと色々な事を聞かれ、既に疲れたとの事だ


リゲル

『ご苦労なこった』


クリスハート

『知りませんっ』


アネット

(なんで顔赤いんだろう)


あまりリゲルの顔を見ようとしないクリスハートにアネットは疑問を浮かべるが、直ぐにどういうことか想像がつくと僅かにニヤつく


リゲルはクスリの時間だとわかると懐からタブレット錠剤を小さな紙袋から2錠取り出し、口に放り込むとジュースを飲んで一息つく

骨の治りを促進するかなり高い錠剤であり、そのおかげでクワイエットはギブスは取れている

リゲルもギブスは右腕につけているが、既にとってもいいとは医者にも言われている


ただの防具として彼はつけれいるだけ

無理に動かさないようにする意味合いもある


クワイエット

『僕は運動は少しずつって言われてるから本調子は1週間ちょっとかかるかな』


リゲル

『俺ぁ2週間だぞ。毎日バリ高ぇクスリ飲んでんのによ』


クリスハート

『我慢して飲んで安静にしてください』


リゲル

『飯が食いずらいぜ…まったく』


ルーミア

『どうする?明日の朝にはまたここを出るけどさ』


シエラ

『ここの魔物、何がいる?』


クリスハート

『基本的にグリンピアと変わりはないですが、夜にチビラスというアンデット種の魔物が出るらしいです』


ランクCのアンデット種の魔物

Aランクに位置する呪王ジャビラスがかなり小さくなった姿を持つ

サイズは30センチとかなり小柄であり、鳴き声は『ジャジャ』

特徴的な攻撃手段は魔法スキルが多く、物理攻撃は殆どしない


珍しい魔物見たさもあるが、皆は諦める事にした

それよりもクリスハートは、『何も予定が無ければ屋敷で寛げばいいとお父様がおっしゃってました』というと、一同は一度屋敷に戻る事にしたのだ


昼前に戻ると、メイドから『昼食はどのようにいたしますか?』と聞かれたのでクワイエットは即答で『いただきます!』と元気よく答える

するとメイドは微笑みながらも『では時間になりましたらお呼びしますのでそれまでごゆるりと客室で寛ぎください』と話して去っていく


アネットはルーミアのと共にシエラの休む客室に向かうと、彼女らでベットに横になる

その様子をシエラは近くに椅子に座り、部屋の中を眺めた


シエラ

(貴族だなぁ)


普通の育ち方などする筈がないと彼女は悟る

机の上に置いていた水筒に手を伸ばし、少し飲んでから置くとアネットが口を開く


アネット

『凄い家だよね。ここって住み込み用の部屋を客室に変えたのかな』


シエラ

『かもしれない』


アネット

『でも羨ましいなぁクリスハートちゃん、お家が立派』


ルーミア

『てかさ!クリスちゃん可愛いよねぇ!ほっぺた食べちゃいたいくらい綺麗なお肌だった』


アネット

『クリスハートちゃんを少し幼くした感じ。本当に似てて一瞬ビックリしちゃった』


シエラ

『クリスちゃん、欲しい』


ルーミア

『ねー!』


女性らはクリスハートの妹の話で盛り上がる

その頃、クリジェスタ2人はリゲルの休む客室で時計を見ながら体を休めた

クワイエットはソファーに横になり、リゲルはベットに寝転がる


クワイエット

『無理に動くと治り遅いからね。今は出来るだけ体動かさないほういいよ』


リゲル

『わぁってる、完治しても本調子に戻すのが大変だろうがな』


クワイエット

『なんでティアちゃんのケア断っちゃったのさ』


リゲル

『…気分だ』


クワイエット

(絶対違う…)


そこでドアをノックされ、キャリヴァンが1人で訪れる

非常に心地よさそうな顔をしており、彼は近くの椅子に腰かけると2人に専門的な話を持ち掛けた


キャリヴァン

『父は今炭鉱を私に委託しているのですが。時たま自然にできた地下洞窟に出くわすと魔物が出る事がしばしばあります』


クワイエット

『掘っていけば壁が崩れて洞窟が現れるなんて珍しく無いね』


キャリヴァン

『最近、また洞窟を掘り当ててしまって魔物が出てくるんです…。それまではその都度、冒険者に依頼していたのですが…』


リゲル

『どうした?』


キャリヴァン

『それが結構深い洞窟で…しかもミスリルがかなり多いんです。できれば洞窟内の魔物を掃討してから発掘場にしたいのですが可能でしょうか』


リゲル

『予想以上に洞窟ってのは広い、ある程度の採掘現場を確保したらあとは道を塞いで魔物が行き来出来ないようにするってのはコスタリカ近辺の炭鉱もしてたぞ』


キャリヴァン

『ご助力感謝です、良い話を聞きました』


リゲル

『それまでは必要最低限の冒険者チームと短期間での契約で報酬払って動かせばいい。金の高さよりも普段の稼ぎより毛が生えた程度の報酬を開示しとけば大抵の冒険者は断らないって聞いたことはあるが飽くまで聞いた話な?』


キャリヴァン

『聖騎士で培った知識ですね』


クワイエット

『僕らも採掘現場に現れた魔物倒したりとか下っ端時代はしてたしねぇ』


リゲル

『懐かしいな』


キャリヴァンは『今日の夕方に1組のチームを呼んでいるので同行してほしい』と2人に懇願する

無下に出来ないリゲルは一息つくと、『おう』と彼らしい返事を乗せる


安心したキャリヴァンは『冒険者との交流はあまりしたことがないので助かります』と告げる


リゲル

『人を動かす職務だ。冒険者がどんな生き物が知っていても損はないぜ』


こうしてダンカート家と交えての夜食後、リゲルとクワイエットは予定の時間前に応接室の椅子に座ってうたた寝をしていた


クワイエットはイビキをかきはじめ、完全に寝てしまうとリゲルは彼に顔を向ける


(夜寝れるのかよ…)


こうして彼らは貴族との商談の話に巻き込まれる

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