第62話 沼地の主、ベロヌェルカ編 5

赤騎馬のブルドンが凄い鼻息が荒い、こいつもあれらが敵だとわかるようだ

俺達は一か所に固まり、ロイヤルフラッシュ聖騎士長が送り込んだ刺客に警戒をする

まさか魔法騎士会の者を使うとは思いもよらなかったよ


桃源魔法ロットスター

『まぁリスタルト家の事はもうどうでもいい…、それよりもだ』


彼は背伸びをすると、腰に手を当てて口を開いた


桃源魔法ロットスター

『俺のレーザーどうだ?レベル5の威力は伊達じゃないだろう?』


アカツキ

『何をしに来た』


桃源魔法ロットスター

『わかっている筈だよ、まぁこれは超極秘任務…俺とロイヤルフラッシュ聖騎士長だけしか知らない方が良いだろうね、部下に下手に話すと国が混乱するから理想的な解決を提供するよ、武装を解除して俺達と共に聖騎士協会に向かう事だ』


それは出来ない

安全な保証なんてないからな

だが戦って勝てるか?いや無理だ


曲がりなりにも相手は現在の英雄五傑の1人であり、そして部下には聖騎士が2人

残る4人は魔法騎士か聖騎士かはわからないが精鋭なのはわかっている

するとリリディは冷たい顔のまま、彼に話しかけた


リリディ

『僕のお爺さんを何故追い出した』


桃源魔法ロットスター

『ああ彼ね、禁止魔法を使ったからだよ…単純かつ普通の答えだ』


リリディ

『でも仲間を救った』



桃源魔法ロットスター

『それがどうした』


リリディ

『何を…』


その答えに彼は驚く

ハイムヴェルト・リスタルトはリリディのお爺さんであり、元魔法騎士の副隊長である

当時の詳しい事情はよく知らない、しかし遠征時に強い魔物と遭遇し、仲間を守るために魔法騎士会ではご法度の黒魔法を使ってしまい、規則を破ったことで協会を追い出された


その強さは当時の聖騎士ロイヤルフラッシュと互角、そして当時の魔法騎士長より強いという話だが

桃源魔法ロットスターの話しぶりからするとこいつは当時から変わらず魔法騎士長であるとわかる


ティア

『仲間を助けたハイムヴェルトさんをなんで簡単に追い出したんですか…』


桃源魔法ロットスター

『大人の話は難しいだろうから単刀直入に言うよ、彼は邪魔なんだよ』


アカツキ

『何を言ってるんだ』


リリディ

『お爺さんが邪魔だと?』


桃源魔法ロットスターは部下に武器を構えさせ、リラックスした状態で話した


桃源魔法ロットスター

『俺は魔法騎士長の座を奪われるわけにはいかないのでな』


ティアマト

『屑が』


桃源魔法ロットスター

『子供にはわからないさ、地位は力だ・・・。まぁそれは話しても仕方がないからさっさとどうするか決めた方が良い、お前らに勝ち目はない…俺はマグナ国の英雄五傑だぞ?』


地位に欲がまわったか

自分が落とされると知って黒魔法を使った事を追い出す為の理由にしたのだろう

下衆に近い事をこいつはしてリリディのお爺さんは追い出された



リゲル

『変態袋め…今度は嘘っぱち煙玉使っても狼狽えないからな?』


クワイエット

『でも本当だったらどうするの・・・?』


リゲル

『んなわけあるか!さっさとこいつら包囲するぞ』


リゲルやクワイエット、そして数名の桃源魔法ロットスターの部下が俺達を囲もうと歩いてくる

そうさせまいと後退するが、背後は沼地であり逃げ場はない

テラ・トーヴァに話しかけてもうんともすんとも反応しないのが非常に不味い


ティアマト

『やべぇぞ!この数と五傑相手じゃ何も出来ねぇ』


リュウグウ

『今回はクローディアさんもいないからな』


アカツキ

『くそっ…』


『ヒヒン』


ティア

『ブルドンちゃん、歯向かったらだめだよ?』


ティアが必死に興奮しているブルドンをなだめる

今にもこの馬は突っ込んでいきそうだから危ない、きっと直ぐにやられるだろう


部下を前に出し、桃源魔法ロットスターも静かに余裕そうな顔を浮かべたまま歩き出す

すると彼は首を傾げて足を止める

変わった様子にリゲル達も現在の上官である桃源魔法ロットスターの様子に違和感を覚え、口を開く


クワイエット

『ロットスターさん?どうしたんデス?』


桃源魔法ロットスター

『…はて、どこかで見た事がある口調をする変態袋だが』


ジェスタード

『吾輩ですか?』


桃源魔法ロットスター

『吾輩…?まぁいいか、お前の話はルドラ君から聞いているよ。今度こそ息の根を止めて証拠を消す、悪いな変態袋』


ロットスターは腕を前に伸ばす、何をしてくるのだと身構えたつもりだった

だがしかし、遅すぎたのだ…

彼の手の平が白く光ったと思った瞬間に鋭い白い刃が無数襲い掛かり、俺達の体を斬り刻んだ


動体視力強化スキルを持つ俺でもそれは反応出来ない、ということは仲間は無理だ

苦痛を浮かべ、全員が血を流してその場に倒れていく様子を、俺は倒れながら視界に捉える


桃源魔法ロットスター

『シャイン…これもレベルを5まで上げた俺の白魔法だ、避け切れまい』


ティア

『う…』


アカツキ

『ティア…怪我は』


ティア

『なんていったらいいかわかんない』


この状況でまったく意味の無い質問だ

誰もが怪我を負っているのだからな


リリディ

『くそ…一撃ですか‥』


リュウグウ

『不覚…』


ティアマト

『ぐぬぬぬぬ』


ティアマトは立ち上がろうとしたがとても立てそうにもない

赤騎馬のブルドンにはシャインという魔法が飛ばなかったので無傷だ


そしてもう1人、無傷の者がいる

敵であるロットスターや聖騎士連中がそれには驚愕を顔に浮かべ、口を大きく開いた

何故?狙っていなかったのではないのか?と俺は思っていたがそうでもない事をロットスターが口にする


桃源魔法ロットスター

『何故当たってない?お前には多めに刃を飛ばした筈だ…一撃で肉塊にするほどにな』


ジェスタード

『あ、そうだったんデスか…怖くて無我夢中で動いていましたし、それで運よく回避できたかと』


桃源魔法ロットスター

『悪運の良い奴めが、次は全てお前に飛ばすぞ』


ロットスターはジェスタードさんに腕を伸ばし、先ほどの魔法を全力でぶつけようと企む

全体に放った魔法を1人に全てぶつけるという事は即死させるき満々だ…

目撃者は全て消すという事か…


ジェスタード

『1つだけ聞きたいのですが、彼等に固執する理由は何でしょうか?』



桃源魔法ロットスター

『話す義理はない。なぁアカツキよ、こいつを殺した後はお前の仲間にも死んでもらう』


ロットスターは俺を見て告げると、ジェスタードさんは倒れている俺に顔を向けた

パペット種の顔の袋を被り、両手に糸操り人形を掴んだ可笑しな格好の男はマジマジと俺を見つめながら何かを考え始めた


アカツキ

『逃げてください…』


俺は必死に立ち上がりながらジェスタードさんに告げる

すると彼は俺を支えながら立ち上がらせてくれた

この状況を打開する策なんて何もない、こんなに早く強い者を送ってくるとは思っても見なかったよ


誰もが協会が暫く大人しくしてくれると思っていたからだ

だが急ピッチで俺達を追いかけてきた様だ…そこまでして欲しいスキルかよ…


ジェスタード

『アカツキ殿、そういえば恩返ししてませんでしたね』


アカツキ

『え…?それはこの前…聖騎士達を追い払った時に…』


ジェスタード

『あれが恩返し?あれは吾が輩にも牙を向けてくる弱者を殺めない為にした事、今回も吾が輩に牙を向ける弱者であることに変わりはないデスが、恩人たちが傷付いている…ならば1日の恩を返すに丁度いい』


アカツキ

『弱者?あんた何を言ってるんですか』


ジェスタード

『こいつが欲しいのはアカツキ殿の持つスキル、それは当時に国の為に戦った吾輩とその仲間達、そして王族しか知らぬ事実』


ティア

『ジェスタードさん?』


ジェスタード

『アカツキ殿、貴方は魅入られましたね?神の力のスキルに…』


俺は難しい事に理解が追い付かない、しかし1つだけわかる事がある

この人は理解している、俺の持つスキルの事を

それと同時に、ようやく口を開く奴が現れた


《悪いな…俺は馬鹿のために力を使われるわけにはいかねぇ…助けてくれや。》


アカツキ

『!?』


ジェスタード

『やはり不穏な気配はそなたか…ついてきて正解でしたね』


アカツキ

『なんで聞こえてるんですか…』


ジェスタード

『念術を感知できマスので、まぁそうとなればますますこのスキルをマグナ国に渡してはなりませんね…話しぶりからするに…王族は知らない』


ジェスタードさんは背伸びをすると、ロットスターに顔を向けた

耳鳴りが凄い、何故今それが起きるのか俺はわからず、ただ彼だけを見ていた

自然とロットスターの部下達はギョッとした様子を見せ、数歩後ろに下がると口を開いた


リゲル

『変態袋野郎に何ができる…』


クワイエット

『なんか不気味だなぁ』


ロットスター

『ほう…ルドラ小隊長を弱者というには百歩譲ってやろう、しかし俺も弱者に当てはまるような口ぶりは馬鹿としか思えんな?俺が誰だかまだ理解してないようだが…今この場で一番強い者がその場を収める権利がある…それは俺だ』


ジェスタードさんは両手をだらんとさせ、脱力状態となる

すると俺達は悪寒を感じ、鳥肌が立つ

それはロットスター達にも感じている様でもある、彼らも身震いをしているからだ


不気味な様子にロットスターは険しい顔を浮かべ、舌打ちをすると伸ばした腕から無数の光りの刃を発生させ、撃ち放ってくる

攻撃してきたと気づいた時にはその刃は俺の目の前まで迫ってきており、避けれるとは思えない


だがそれは俺とジェスタードさんに当たる前に見えない何かによって全てが弾かれ、砕け散る


桃源魔法ロットスター

『なにぃ!?』


驚愕を浮かべるロットスター

流石に只者じゃないと知った他の部下達も彼の近くに固まり、武器を再び構えだす


ジェスタードさんは俺に『そこにいなさい』と告げると優雅に前に歩いていく

あれ…彼の体から紫色の魔力が僅かに漏れているのが見えるぞ…?

曲芸師だよな?この人は一体何者なんだ


リゲル

『今の魔法を弾くだと!?』


魔法騎士A

『ロットスター殿のシャインを全て弾いたぞ‥』


魔法騎士B

『何者だコイツ…』


ロットスター

『待て…お前は何者だ?』


ジェスタード

『お前は当時、ハイムヴェルトに嫉妬していた…奴の方が強く、思いやりがあるから部下の殆どがお前よりも彼を慕うようになった…お前はそれが憎くて仕方なかったんだ‥』


ロットスター

『なっ!?』


ジェスタード

『欲を拗らせたお前はハイムヴェルトを筆頭に部下をつかせ、遠征にいかせたな?…しかも魔物は闇ギルドに依頼して捕縛していた凶悪な魔物を放って襲わせる為…本当はハイムヴェルトを殺す予定だったのは当時の吾輩は知っているデス』


ロットスター

『ななな何を言ってるんだお前はぁ!?』


ジェスタード

『何を?闇ギルドとその後連絡がつきましたか?無理でしょうね…吾輩が尋問し…殺したから』


ロットスターは口を震わせ、後退りする

その話にリリディは目を大きく開いてジェスタードさんをただただ見つめていた


ジェスタード

『本当に目が似ている孫だ…ハイムヴェルト殿はずっと孫の自慢話をしていた…マスターウィザード以上の称号を持つ彼が魔法騎士長になるべきだったが‥お前は自身の部下諸共彼を殺そうと闇ギルドを使った…しかし予想外にもハイムヴェルト殿が強すぎて撃ち存じたが黒魔法を使えることを理由に追い出すことが出来たからホッとしているでしょうね』


ロットスター

『そんな話は知らん!』


リゲルとクワイエット以外の4人はロットスターの部下だ

その4人が凄い形相で上官であるロットスターを見ているのだ


魔法騎士A

『ロットスター殿…その遠征、わたくしも参加しておりましたが』


魔法騎士B

『闇ギルドのシャドウパンサー…確かにあの遠征から事件が何一つありませんでしたが…』


ロットスター

『偶然だ!騙されるな!本当ならそれが公になった筈だ』


ジェスタード

『ハイムヴェルト殿はそうしなかっただけ、事実がわかっても彼は帰る事を選んだのデスよ‥貴方の傲慢な屑みたいな性格を見抜いていましたからね…心優しい彼はお前を追い出すよりも自ら出ていくことを選んで抵抗せずに出ていったのです』


ロットスター

『貴様ぁぁぁぁぁそれ以上言うとぉぉぉぉぉ!!テレサ・マグナム!!!』


ロットスターは右拳を握ると白く発光し、俺達の頭上高くから白く大きな握り拳が落ちて来た

狙うはジェスタードさんだが、彼は両手に掴んでいる糸操り人形を上に放り投げると驚きの光景が浮かんだ


2つの人形がロットスターの攻撃を受け止めたのだ

あんな小さな人形2つだけであの強力な魔法を受け止めた事に俺達は痛みを忘れ、驚きまくる

なんだあれ!!!!質量が違い過ぎるじゃないか!!!!!!


ロットスター

『ばっっ!?!?!?!?』


ミライト

『私参上!』


レフター

『俺様参上!』


人形が喋っている。やっぱり来ているようにしか見えない

2つの人形は受け止めた攻撃を殴って消滅させると、ジェスタードさんの正面で仁王立ちでロットスターを見つめた


肝心のジェスタードさんは両手を前に出し、その手の平からは薄っすらと黒い糸が2つの糸操り人形まで繋がっている


ロットスター

『馬鹿な!?俺の十八番魔法だぞ!?』


ミライト

『言ったでしょ~?あんた弱者だって』


レフター

『まぁお前はジェスタードさんの戦う姿なんて見た事無いからなぁ!昔よくお前はヘコヘコしてたのに忘れちまったのかいゴマすりロットスターさんよぉ!』


ロットスター

『ゴマすり…貴様何故それを…まさか!』


ロットスターは驚愕を顔に浮かべ、数歩後ろに下がる



ジェスタード

『まぁ当時の容姿と違いますからね、名前も違うのでわからないでしょう』


ロットスター

『くっ、…こ…殺す前に名だけ聞いてやる!!誰だ!貴様』


ミライト

『聞いて驚きなさい』


レフター

『見て絶望しなさい!』


2つの人形から紫色の魔力が大きく噴出すると、ジェスタードさんの背後にそれは集まり、不気味で巨大な藁人形が現れたのだ

全長5mはあるだろうそれは赤い釣り目をし、藁人形なのに歯が釘で構成されている

夏場なのに凄まじい冷気を放ち、その場の誰もが体を震わせ、恐怖した


リゲル

『ななななんだこれは!?』


魔法騎士A

『ああ…これは、まさか!?』


魔法騎士D

『勝てるわけがない!!!死にたくない!死にたくないぃぃぃぃ!』


ロットスター

『おい!待てお前ら!』


ロットスターの部下の4人はブルブル震えながら一目散に森に逃げていく

残るは五傑の桃源魔法ロットスターに聖騎士のリゲルとクワイエット

彼らも理由のわからない悪寒を感じ、両手に握る片手剣が震えている事に気付いた


ジェスタード

『吾輩はエド国ではジェスタード、しかし昔マグナ国の王族に直属で使えていた時の名は違う』



ロットスター

『はっ?直属!?…お前!まさか!!!』


ジェスタード

『英雄五傑、道化傀儡グリモワルド・グレゴールといいマス…ゴマすりロットスターと吾輩が呼んでいたのを思い出しましたか??弱者五傑よ』


ロットスターは何かを悟ったのか、額から大量の汗を流して震えた

俺は絶望を忘れ、希望を見出した

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