第163話 幻界編 3

聖騎士1番隊

ロイヤルフラッシュ聖騎士長

カイ・ラーズ      聖騎士会、1番隊の隊長

ジキット・ローレンス  聖騎士会、1番隊副隊長

バッハ・フォルテア   聖騎士会、1番隊

シューベル・ジュイン  聖騎士会、1番隊

トーマス・スタン    聖騎士会、1番隊

ドミニク・ヴェイン   聖騎士会、1番隊

アメリー・カルッセル  聖騎士会、1番隊

バルエル・コールソン  聖騎士会、1番隊    

・・・


俺達はあまり聖騎士とは話してない

というか一言も会話を交えてないな

ロイヤルフラッシュ聖騎士長ならば話したが


聖騎士は俺達にあまり良い印象を持ってないと思えるし、そもそもリゲルとクワイエットさんを酷く毛嫌う熟練者が数名いるから若い聖騎士も話しかけ難いのだろう


アメリー

『自炊、ですか』


リゲル

『食うか?』


アメリーは『こちらは気にせず』と優しく断るが、その答え方にジキットという聖騎士が苦笑いを顔に浮かべているのが気になる


クワイエット

『どうせあまり接するなとか言われてるんでしょ?』


ジキット

『ご名答ですね』


クワイエット

『気にしないからいいよ、アメリーも生き残りたかったらロイヤルフラッシュさんだけ指示聞けばいいさ、1番隊の中で幻界の森での指示を出せる人なんてロイヤルフラッシュさんだけだしさ』


アメリー

『ですが…』


クワイエット

『ルドラさんとリゲル、あと僕がいない1番隊に何があるの?』


クワイエットさんの鋭い視線がアメリーに刺さる

いつもはニコニコする彼は、時には目を細めて残酷な言葉を発する事がある


それが今だ

ティアでさえ生唾を飲む雰囲気

俺は静かになった夜食の場でアメリーに何故か頑張れと心の中で声援を送る


ジキット

『あまり虐めないでくださいクワイエットさん…、まだアメリーは1番隊所属して間もないんです』


リゲル

『わかってんだろジキット、間もないから許されるなんざ今から向かう森にはねぇ。怖いと思ったら今すぐ帰れ』


シエラ

『残酷、リゲル君』


リゲル

『残酷も糞もねぇよ。あそこは常識が通じねぇんだからよ』


クローディア

『確かにあそこはヤバイわよ。でも今さら戻れないのも事実よリゲル君』


リゲル

『まぁな…悪いなアメリー』


アメリー

『いえ、大丈夫です。肝に命じます』


リゲル

『冷静じゃない奴の近くには寄るな、わかったなアメリー』


アメリー

『わかりました』


聖騎士二人は軽く会釈をすると、洞窟前の警備を始めた

俺達も夜食後は片付けをし、イディオットと俺の父さん以外は洞窟の中に向かう


焚き火の灯りで辺りを見回すが、特に変わった様子はない

気配さえもな


《油断すんなよ?俺は寝る》


ティアマト

『神様は健康だな』


《まぁな、おやすみ》


リュウグウ

『今更だが、神が寝るというのも何かと普通なんだな』


ティア

『そだね。生きてるならば寝る事も出来るって事だし』


ゲイル

『ところで猫はどこだいリリディ君』


リリディ

『クリスハートさん達と一瞬に洞窟に歩いて行きました』


オイッ、とみんながツッコんだ

どうやらギルハルド、夜はちゃんと寝たい派らしい

てか移動と時はずっと起きていたから眠かったのだろう

猫は沢山寝るのは魔物も変わらないか


『ティア、気配を感じたら直ぐに教えてくれ』


『がってん』


ヤル気満々のようだ

父さんの指示で『無駄に話すとアンデット種が集まるから大事な事以外は口を開くな』と言われ

俺達は静かに洞窟の前を警護だ


聖騎士のジキットとアメリーは洞窟の横で腰を降ろし、静かに辺りを警戒しているのがわかる


鳥の鳴き声もない、本当に静かだ

動かないからこそ少し寒さを感じる


『三時間交代か』


リュウグウが囁くように言うと、俺は小さく頷く

するとそこで森の奥から奇妙な鳴き声を耳にした


『ワーニー!』


『ガーウー!』


鳴き声か?と首を傾げる

だが父さんは面倒臭そうな顔を浮かべた

どうやら鳴き声の主を知っているようだ


ジキット

『ワニグルーミーとガウグルーミーですか』


ゲイル

『マシな部類か、みんな静かにしとけ』


マシ?

魔物ランクCのパペット種グルーミー科

本では絵が無かったが、どんな姿たのだろう

パペットとなるとオモチャに近いかもな


ティア

『まだ気配感知の範囲外』


リュウグウ

『遠くか』


ゲイル

『油断するなよ?獣種より素早い』


リリディ

『ゲイルさん、グルーミー科とは…』


ゲイル

『相当厄介なパペット種だ。しかもそのグルーミー科にはパペット種最強がいる』


とんでもない事を聞いたよ

普通の魔物の本では載っていないらしく、魔物全書というかなり高い本でないと記載されてないという面白い事を聞いたよ


A ドラ・グルーミー、キメラ・グルーミー

B 獅子・グルーミー、熊・グルーミー

  虎・グルーミー

C 鰐・グルーミー、ガウ・グルーミー

  喰い・グルーミー、ヌイ・グルーミー


パペット種グルーミー科にはこれだけ数がいる

寒い日に活動するらしく、山頂付近や冬場に現れるのだ

時たま森の浅い場所に姿を見せる時もあるようだが…


リュウグウ

『何に気をつければ良い?』


ゲイル

『突発的に襲ってくる、予備動作無しの飛びかかりに注意しろ』


ティア

『耐久性はパペット種だし低いけどスピードは段違いってお兄ちゃんに聞いたことあります。体の中の核を破壊しないと倒れないとか』


ゲイル

『その通りだティアちゃん、体から赤い魔石が顔を出している筈…。それを破壊しないと倒せん』


ティアマト

『Cでも上位っつぅことですかい』


ゲイル

『二人一組で挑め、出来れば避けたいがな』


アカツキ

『仲間を呼ぶとか?』


ゲイル

『近くで鳴かれると体力を奪われるという理不尽な特徴がある』


勘弁してくれ、卑怯だぞそれ…

近距離で鳴かれるとそれだけ体力をごっそり持っていかれれとか


『ガーウ!』


『ワーニー!』


俺は心の中でこちらに来るなと祈った

ジキットとアメリーは焚き火を消し、その場をやり過ごそうとする


俺達の視界は満月での僅かな灯りのみ

目が慣れてくるとある程度は見える

気づけばティアが俺の腕を掴んで息を潜めてた

ちょっとキュンと来たが、今はそれどころじゃないな


アカツキ

『ガウはティアマトとリリディ、ワニは他でいこう』


ジキット

『僕ら聖騎士は洞窟前を守りますが、避けれるなら避けたいですね』


リリディ

『でしょうね、ちなみにスキルはなんでしょうかね』


ティア

『召喚・グルーミーだよ』


驚いたな

どうやら倒したグルーミーが召喚として現れるようだ

夢詰まる召喚スキルだが、欲張って戦うのはよそう


すると鳴き声は徐々に遠くなっていき、先程の静かな森に元通りだ


一同はホッと胸を撫で下ろし、夜の警備を再開しようとした瞬間


『行ったか』


『『『わっ!』』』


ロイヤルフラッシュ聖騎士だ

驚いてしまい、声を出してしまうと彼は溜息を漏らした


『グルーミーは音に敏感だぞ…気をつけろ』


『す…すいません』


『まぁ座って警備せよ、立っていたら寝る時に寝られなくなるぞ』


こういう警備は慣れているのだろう

自然とみんなは無意識に彼の言葉に従い、地面に腰を下ろそうと視線を降ろすが


『濡れてる、雪』


『うむ』


ティアにツッコまれる聖騎士長は困惑している

なんだか普通に接すると怖い人でもなさそうだ、黒豹だけど


仕方なく洞窟入り口で腰を下ろして警備をすることになったのだが

リュウグウだけは何故かロイヤルフラッシュ聖騎士長を警戒している様子だ

それはきっとロイヤルフラッシュ聖騎士長も気づいている筈だが、無視に近い


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『例の作戦を終えたら即座に逃げるぞ、あの森は敵わん』


ティアマト

『あんたでもヤバいって思うのかよ』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『面倒過ぎるのだ。行けばわかる』


ティアマト

『色々聞いたがよ、何に気を付ければいい』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『絶対に慌てるな、あそこの魔物は取り乱した対象が狙いやすいとわかってる』


ティア

『こわ…』


アカツキ

『平常心でいろってことですね』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『その通りだ、以前に言った時は慌てふためいた奴から死んでいったよ。助けたくても気づいた時にはもう死んでるんだ。結構心にくるもんはある』


彼はうな垂れ、再び溜息だ

部下の死に目を見てきたんだろう、目の前にいるのに助けることが出来ないというのは辛い

慌てず、深呼吸して対応しないと危険が増すならば平常心でいるように心がけよう


アカツキ

『リゲルやクワイエットさんも行ったことあるんですよね』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『あるぞ。本来ならばリゲルは死んでいた』


その言葉に俺は驚く

以前にもリゲルからそのような事を聞いたことはあるが、詳しくは聞いてない

危なかったくらいしか聞いてないのだ


クリスハート

『何があったんですか?』


振り返るとクリスハートさん率いるエーデルハイドの皆さんだ

気づけば時間は結構進んでいたから交代の時間が近づいていたのだ

でも予定より30分も早いな


ロイヤルフラッシュ聖騎士

『話せばリゲルに怒られる』


リュウグウ

『子供か』


ティア

『こらリュウグウちゃん』


リュウグウ

『ぬぅ…』


その間にエーデルハイドさん達も近くに腰を下ろす

シエラさんは目が虚ろだ、まだ眠いのだろう

アネットさんは平気そうだけど、寝ぐせが…凄い


クリスハート

『死にそうになったとリゲルさんから聞いたのですが、何があったのです?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『…内緒だぞ?あいつは逃げ遅れたから俺達は奴を置き去りにして逃げた』


その言葉に誰もが険しい顔を浮かべた

幻界の森での鉄則はリゲルから聞いているからわかる

逃げ遅れた仲間は助けに行くと双方ともに死ぬ危険性が高いからこそ捨てるのだ

昔、リゲルは幻界の森での任務でなんらかのトラブルが起きた時に行動が送れたのだろう


クリスハート

『何故…捨てようとしたんですか』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『行けばわかる。だがあいつは生還したんだ』


アネット

『どうしたんです?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『リゲルのヤンチャな性格は親父譲りだ、ルドラ1番隊隊長は俺の命令を無視してリゲルを助けに戻ったのだ。強引に奴の腕を掴んで引き留めた時の顔は今でも忘れん』


ティア

『お父さん…ですもんね』


ロイヤルフラッシュ聖騎士

『この俺の向かって言ったんだ、止めると殺すぞ…とな。あの時のルドラは殺気立っていて本当に食い殺されるんじゃないかと驚いたさ』


アカツキ

『結果的にどちらも生還したという事ですが、その後はどうしたんですか』


ロイヤルフラッシュ聖騎士

『ルドラは脱退する気でいたが、俺が止めた。まだ奴は必要だと感じたからだ』


ティア

『でしょうね』


ジキット

『懐かしいですね…、あの時のルドラさん本当に鬼みたいで怖かった』


アメリー

『私は初耳です、リゲルさんの父だったのも最近知ったので助けに向かった理由も納得できます』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『だろうな…。何故指示を無視したと聞くと当然な答えが返ってきたよ、世界で一番大事な者を守るならば何も怖くはない、とな』


クリスハート

『…ですがルドラさんは』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『あいつは死んだ、聖騎士にとって大きな損害だ…リゲルにとってもな』


リュウグウ

『お前怒られていたな…』


ロイヤルフラッシュ聖騎士

『お前はクローディアに似とるな…』


リュウグウ

『嬉しくはないぞ?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『まぁ良い。まぁリゲルが俺にあれだけキレるのは初めてだったが、あれのおかげで少し目が覚めたよ』


アカツキ

『どうしたんです?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『私は可愛そうな存在だと思っていた、しかしリゲルは全てを失った…そんなあいつは私に言ったのだ。あんたには嫁がいていいよなってな』


ティア

『聞いてました』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『俺には唯一残る宝物がある。我儘にも残された存在を無下にして恨みを晴らす為に感情的な生活が目立っていたが…少しは冷静になれた気がする。もし俺も全てをイグニスに奪われていたら、今の俺はいない』


彼は空を見上げ、何かを思っていた

黒豹らしさである怖い顔つきが、少し切なく見える

リゲルにとってロイヤルフラッシュ聖騎士長は羨むべき存在でもあったんだ

家族が残っているんだからな


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『リゲルはヤンチャだが行動は素直だ。こうしたいと思えばすぐに動く』


シエラ

『そういえばクリスハートちゃんを狙う貴族相手に喧嘩売った』


クリスハート

『ちゃん付けも余計ですし、あれは流れでそうなっただけです』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『面白い話だな、戻ったら聞こう』


意外と柔軟に話が出来る人のようだ

ちょっと気が楽になってきた

そこで俺達は幻界の森の情報、すなわち魔物をおさらいしたのだ



闘獣   ????

ランクB コカトリス(巨大鶏)ヒドゥンハルト(忍者猫)

ランクC アンノウン(巨大蝙蝠)、オオクチビル(巨大ヒル)、

     ヘルディル(肉食浮遊魚)、イルズィオ(虹色のチョウチョ)


中でも厄介なのはアンノウンという蝙蝠だ

超音波で聴覚麻痺させながら頭を丸のみにするために跳びかかってくる悪魔みたいな魔物だ

その魔物によって聖騎士は以前、多くを失ったらしい


ティア

『ギルハルド君のお仲間もいるんだよね…敵意あるならヤバいよ』


ロイヤルフラッシュ聖騎士

『好戦的ではないと知っている。じゃれる為に飛び掛かってくる傾向があるというのは俺は学習した』


リリディ

『それでも脅威ですよ、じゃれるレベルが多分ヤバいです』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『だろうな。それとアカツキから聞いた情報も気にかかる…闘獣の存在がいるらしいな』


ティア

『多分ですが、最深部かと』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『だとしても幻界の森はその主の縄張り、絹食わないと思えば何かしらアクションを起こす』


リュウグウ

『それが起きれば非常に不味いだろうな』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『俺とクローディアがいるからこそ撃退ぐらいはできそうだがな』


アカツキ

『アヴァロンが危険視した存在でもですか』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『ちゃんと聞いていたか?撃退は俺達の無傷というわけではないぞ?半数以上が死ぬだろう』


誰もが息を飲みこんだ

綺麗に撃退という意味で彼は言っていない、どんな被害があるのか

それは全滅に近い状態になる可能性が高いという事にも捉えられる


『ブシュン!』


リリディが大きなくしゃみをした

誰もが目を細めて彼に視線を向ける


『あはは…すいません』






『ガーウ!』


『ワーニー!』


アカツキ

『リリディ?聞こえる?』


リリディ

『…はい』


リュウグウ

『メガネ貴様ぁ…』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『仕方がない、距離は100m先…2体だがイディオットで対応したら警備交代だ』


クリスハート

『ガンバですよ皆さん』


彼女はニコッと笑い、綺麗な声援を送る

何度見ても綺麗な人だ


ティアマトが我先にと立ち上がると、片手斧を器用に回しながら森を前に仁王立ちだ

体から顔を出している赤い魔石を破壊しないと死なない魔物、パペット種のグルーミー科

鰐・グルーミーとガウ・グルーミーだ


アカツキ

『ティアマトとリリディは鰐、他はガウだがティアは俺とリュウグウの直ぐ後ろで支援を頼む』


ティア

『了解っ』


ティアマト

『リリディ、お前が噛みつかれている時に攻撃するから頑張れ』


リリディ

『ひどっ!?熊なんですから逆に食い殺してくださいよ』


ティアマト

『あれを倒してからお前を食い殺そうか?』


ティア

『それは終わってからぁ』


いつも通りだ

逆に安心するコントを聞いて俺達は武器を構えていると、森の奥から意気揚々と初めての魔物が飛び込んできたのだ




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