第242話 7 ホンノウジ地下大迷宮
21階層、闇蠍に囲まれて俺達は背中合わせとなる
闇蠍の目が僅かに光っているから不気味だ
甲高い鳴き声を上げながら徐々に詰め寄ってくるが、1匹が襲い掛かると一斉に動き出したんだ
アカツキ
『全員で倒せ!』
俺は飛び込んできた闇蠍を両断し、側面から尻尾の毒針を突き出してくる別の闇蠍の攻撃を横目で捉える
首を狙うとは性格が悪いなこいつ…
しゃがみ込み、刀を振り上げて斬り倒すと足元に近づく闇蠍を刀で差す
『ニャハハーン』
《こういうときは助かる猫だ》
アカツキ
『だな』
ギルハルドは両手に短刀を握り、縦横無尽に闇蠍の間を掻い潜りながら斬り裂いていく
仲間もせっせと倒しているが、その甲斐あってか闇蠍の群れが直ぐに全滅だ
辺りに魔石が落ちているが、光っているのは4つか…
リリディ
『毒耐性のスキル、ティアマトさんが1つ拝借すればあとはギルハルドに渡しても?』
ティア
『おっけー』
リュウグウ
『問題ない』
アカツキ
『大丈夫だ』
『ミャンミャー!』
ギルハルドはニャンニャン鳴きながら発光する魔石3つを腕に抱えると、そのまま体に光を吸収していく
その隣でティアマトがスキルを吸収しているが、来た道を見ているのは何故か
アカツキ
『どうした』
ティアマト
『いや、こんだけ闇蠍がいりゃ…般若もそろそろ出てきそうだと思ってよ』
《いつ出てきても可笑しくはねぇ、用心しとけ》
ティア
『その前に少し休憩、振り回し過ぎて疲れちゃった』
うむ、気持ちはわかる
ティアは自分の体を軸に回転しながら闇蠍を斬り飛ばしたりしてたもんな
その場に仲間と共に座り込み、俺は水筒の中の水を飲む
戦いの後の水分補給は一番美味しく感じる。しかも中はただの水じゃない
パワーウォーター、栄養満点であり少し甘味がある
リュウグウ
『魔物の気配…1体だけだと?』
後ろからだ
だが遠いから意識しているだけで良いと俺は言ったのだが、彼女はリリディの首根っこを掴むとそのまま来た道を逆走したのだ
凄い全力疾走に残された3人と1匹はキョトンとしてしまう
『戻るぞ』と俺が告げると俺達はリュウグウ達を追いかける
すると奥で『賢者バスター!』と聞こえたけども何を戦っているのか
辿り着くと直ぐにわかったよ…
2人の足元に倒れているのはグルーテンというイタチを灰色にして少し大きくした姿をした魔物だ
闇猪より小さいが食料である
ティアマト
『リュウグウ、なんでわかった?』
リュウグウ
『ここの魔物は複数体で襲ってくるだろ。だが闇猪は1頭だった…飯に出来る魔物は1頭で行動してるのではと思って確かめに行っただけだ』
あの瞬間でそこまで考えていたのか
俺やティアマト、リリディなら絶対気づかない
リリディ
『いやはや…凄い考察力ですね』
ティア
『凄いリュウグウちゃん!私も気づかなかった』
リュウグウ
『ティアもか…』
少し嬉しそうなリュウグウ
俺は追い打ちをかけるかのように仲間と共に褒めると、急に照れ始める
当然の反応だ、誰もそれに茶化す者はいない
ティアマト
『マジでファインプレー。1体のみの気配は出来るだけ対処するか』
アカツキ
『そうだな。食料の可能性が高いかもしれない』
《とりあえず熊五郎が肉を切り分けたら進むぞ》
食べれる肉の量は1㎏しかないのは悲しい
だが1食分となるとそこまで嘆く事もないか
ティアマトは肉を担ぎ、俺達と共に歩き出すと肉の切れ端をギルハルドに投げた食べさせる
『ミャンミャ!』
ティアマト
『感謝されるとは思わなかったな』
リリディ
『猫語、わかってきましたね?』
ティアマト
『勘弁だぜ?』
アカツキ
『というかだ。20階層まで1体の気配を今まで無視してきたが…』
リュウグウ
『次から逃がさねばいい』
ちょくちょく1体だけの気配が感じるんだ
今思えば勿体ない、結果論だけどな
そして22階層に降りる手前のドーム状の広い空間
俺達が向かいたい階段の前に大きな何かが居たんだ
まぁ寝ていたらしいけど、この場に俺達が入り込むとそれは起き上がる
『キキィィィィ…』
閻魔蠍、10メートル級の大型の黒い蠍だ
頭部は閻魔が怒りを浮かべるかのような模様が白く浮かんでおり、両鋏はでかい!
尻尾も長い!毒針もデカい!
《最大個体じゃねぇかこれぇ!?》
ティア
『でかぁぁぁぁい!!』
『キキィィィィィィ!』
その大きな巨体が地面を強く踏むと天井からボタボタと落ちてくる面倒な魔物
般若蠍というランクCの蠍だ、頭部は般若のような形だからそういう名だ
数は8匹か…、ちなみにサイズはここから見て1メートル半くらいだろうな
『シャー!』
ギルハルドも威嚇してる
俺は身構えると、奥にいる巨体は般若蠍を引き連れて突進を仕掛けてきた
あんな質量にぶつかるのだけは御免だ、ここは無理は出来ない
アカツキ
『リリディ!』
リリディ
『もうしてます!』
閻魔蠍と般若蠍が走る目の前に黒い魔法陣が地面に幾つも現れると、そこから黒く光る球が飛び出す
何が起きるかは知ってる。
俺は無意識にティアを守るように前に立ち、ティアマトの後ろにリュウグウが隠れる
そして黒い弾の全てが眩い光を放つと同時に奴らの目の前で大爆発を起こしたのだ
爆風がこちらまで来ると吹き飛ばされそうになるが、ティアが後ろから体を支えてくれているから持ちこたえている
リリディは…吹き飛んだぞ
僅かに揺れを感じ、パラパラと天井から小さな瓦礫が落ちてくる
砂煙で前方が見えないが…まだ生きてる
『キッ!キィィィィ!』
閻魔蠍だけがな
アカツキ
『ティアマト続けぇ!』
ティアマト
『おうよぉ!』
俺達は駆け出した
砂煙から姿を現した閻魔蠍の硬い体は亀裂が走っている部位が多く、かなりのダメージに近い
だが弱っている様子は見えない。
それよりも奴は怒りで力が満ち溢れているんだ。まるで獣の様な執念だ
直ぐ後ろからはティアとリュウグウ、これならいける
《油断すんなよ!》
わかってるさ
俺は光速斬で誰よりも先に飛び出すと、閻魔蠍は体を回転させた
襲い掛かるは長い尻尾、あれで俺を吹き飛ばす気か…しかも囮か
ならば誘われやろう
尻尾を避ける為に跳躍して奴の目の前に近づく
それにしてもでっかい…こんな大きな個体は初めてだ
《来るぞ!》
『だろうな!』
真横から鋏がくる
挟み込むのではなく、ぶつける気だ
当たればダメージは大きい、しかし大丈夫だ
ティアマトが襲い掛かる鋏の前に飛び込んでくると、左腕に魔力を流し込んで叫んだのだ
『マァグナァムゥ!』
音速を超えた破壊力抜群の左ストレート、炸裂音が響き渡ると共にティアマトの腕は振りぬかれ、鋏とぶつかる
彼も強い、それは結果が見せてくれた
閻魔蠍の鋏はティアマトの拳に打ち砕かれ、バランスを崩した
その瞬間に俺は目を1つ刀で貫き、俺の背後から放たれた光線が砕かれて肉が見える鋏の部位を貫いた、それはリュウグウが放った槍花閃だ
『キュイィィィ!』
苦しんでいる
素早く後ろに下がる閻魔蠍は口から毒液を後方のリュウグウに飛ばすが、ティアマトがすかさず彼女の前に現れると体全身で受け止めたのだ
ティアマトは毒耐性レベル5、効かないのだ
『シャワーの時間はまだだがな!』
『キュイ!?』
ティア
『いけ!ギルハルド君!』
『ニャハン!』
ギルハルドがティアの隣から消えた、その瞬間に閻魔蠍の別の目が何かに斬り裂かれてその場で暴れまわりだす
尻尾で地面を叩く度に足場が揺れる。かなりのパワーの持ち主だな
ティアマトが近くで攻撃の隙を伺っていたが、尻尾のリーチを見誤ってぶつかってしまう
『ぐぬぅぅぅぅ!』
腕でガードし、地面を滑るようにして吹き飛ぶだけで済むお前も凄いよ
本当にみんな強くなった
ティアは暴れる閻魔蠍にラビットファイアーを放ち、肉が見える部位を的確に狙う
それが閻魔蠍のスイッチが入り、残る目を赤く光らせて俺達に突っ込んでくる
俺は身構えて避ける準備をしたが、その瞬間に直ぐ横を黒弾が通り過ぎた
小石程度のサイズの弾に驚いた閻魔蠍はまだ無事な方の鋏でそれをガードするがやはり損傷が激しい鋏ではダメージを抑えることが出来ず爆散だ
『キュイ!?…キュ…』
吹き飛んだ腕を見て狼狽える閻魔蠍、きっと驚いている筈だ
こんな筈ではなかった、と
リリディ
『僕も守ってくださいよティアマトさん』
ティアマト
『ケッ!自分の魔法で吹き飛ぶ姿は見物だったぜ?』
リリディ
『そうでしょうねぇ…』
ティア
『どうするリリディ君!』
リリディ
『贅沢は言いません、普通に倒します』
アカツキ
『任せろ』
リリディ
『おや?やる気ですか?そこまで無理をしてドロップをすることも…』
アカツキ
『大丈夫だ』
俺は奥で睨みを利かせている閻魔蠍に静かに歩き出す
刀に魔力を流し込み、あいつが動き出すのを待つ
《やる気か?》
アカツキ
『ああ!リュウグウ!頼むぞ!』
『キキキキィィィィ!』
お前は返事か、まぁいいだろう
俺は駆け出し、閻魔蠍との距離は直ぐに縮まる
以前の俺達なら死闘になっていたはずだが今はそうじゃない
好敵手、戦い甲斐があり過ぎる
強くなったんだよ俺達はな
『キュイ!』
口を開いて噛み砕く気か、そうだろうよ
お前には突進を活かすにはそれしかない
ギリギリで俺はスライディングし、奴の股下を潜り抜けた
刀に流し込んだ魔力を今解放するときだ
奴の尻尾の根が見えた瞬間にスライディングしながら刀を振った
『破壊太刀!』
届かないと思いきや、剣先よりものびた魔力は硬質化して鋭い刃と姿を変える
これは固い物質を切り裂く技、両断一文字よりもリーチが長い
『ギュイィィィ!』
尻尾は切り飛ばされると、閻魔蠍は前のめりに倒れる
こうなったらもうこちらの勝ちだ閻魔蠍、お前に勝つ術はない
『鬼突き!』
リュウグウは槍に魔力を流し込み、飛び込むと頭部を槍で深々と突き刺したのだ
彼女のその技も貫通力がある使い勝手の良い技スキル
見事に俺のあとに彼女は続いてくれたよ
断末魔を上げ、上体を上げた閻魔蠍から振り飛ばされまいとリュウグウが耐えると、最後だと言わんばかりに槍を突き刺したまま内部をえぐる
そこで閻魔蠍の動きが止まったのだ
僅かな静寂ののち、奴は静かにその場に倒れる
ここが一番大事だ、魔石を出すまで油断できん
一息つきたいが、俺は閻魔蠍の背後から刀を構えながらいきなり動き出しても対応できるようにずっと奴を見てる
気配は消えそうだが、死ぬ間際の抵抗も珍しくないからだ
リュウグウだって槍を構えながら離れてる
緊張の一瞬だが、閻魔蠍の体から発光した魔石が現れると戦いの終わりを感じ、その場に座り込んだ
簡単に倒したように見えるかもしれないが、必死だった
強くなったからといっても巨体から繰り出される一撃は人間の俺達には重すぎる
ティアマト
『面白かったぜ』
リュウグウ
『良し!』
『ニャハーン』
ようやく先に進めるな
だが休みたい
リリディが魔石のスキルであるアンコクを吸収すると、俺は大の字で寝転がった
アカツキ
『切断じゃなくて破壊で良いんだな』
ティア
『らしいね、おっきぃなぁ』
アカツキ
『でかいぞこれマジ』
ティア
『凄いよね、』
怪我無く討伐が出来て安心だ
まぁこちらに腕を回しながら歩いてくるティアマト次第だが…
『ケッ!めっちゃ重てぇ一撃受け止めたが怪我はねぇ…。いい一撃だったぜ』
よくガードしたよお前は
《流石だ、やれると思ったぜ》
アカツキ
『降りる前に少し休憩だ。みんな怪我はないか?』
リリディ
『大丈夫です。』
ティア
『あんだけ吹き飛んだのに大丈夫なんだ…』
『ニャハハ』
そして22階層
直ぐに視界の前には発光する小さな湖が点々と姿を見せる
休憩できる場所ならここですればいい、時間は15時か…
ゆっくり進み過ぎたな
人に聞いたからといって気兼ねなく進むのは得策じゃないってリュウグウが豪語したんだ
それがいつの記録なのか、最新情報なのか吟味できなければ情報はだいたいでしか効果を発揮しない
だからいつも以上に慎重に進んだせいで予定よりも5階層分も遅れてるんだ
ティア
『私はこれで良いと思うよ』
《俺もだ。最後ここに調査に来たのは半年前…まぁ慎重に進むにゃいい理由だ》
リュウグウ
『ネットがないのが痛いな』
アカツキ
『ネット?』
リュウグウ
『こちらの世界にあった専門用語だ。気にするな説明が難しい』
みんなは近くの石を拾い、石焼きの準備だ
俺は刀で近くの木の太めの枝木を斬って薪にするために集めていたんだけど
これそういえば毒素あるんだよな?昨日も薪に使ったけど煙に毒無いのかな‥
『テラ、実にしか毒素はないのか?』
《ああそうだ。気にすんな》
ならば良し
肉が食べれるだけマシ
味が薄いのは俺は我慢するが、焼けた肉を食べる時のティアマトの顔といったら
凄い微妙そうなんだよな
休むには早いが、今日はこのくらいで進むのは明日にしようと仲間に告げる
誰もが縦に首を振ると、俺は来た道に視線を向けた
アカツキ
『というかティア、シキブさんどうだった?』
ティア
『凄い速い人、この称号に慣れてないけどシールド無かったら直ぐに負けてたね』
リュウグウ
『あの早撃ちに数での暴力は凄いな…動きは見えたが対応するには色々苦労する』
リリディ
『僕もギリギリ目で追えましたが、それだけ…攻撃の数をさばくには馬鹿馬鹿しいと思える量の攻撃を一瞬でしてましたから』
シキブ・ムラサキ
早撃ちが特技とは聞いていたが、予想外過ぎた
だがティアは『動きは見えたけどあの数は慣れないと捌けない』と言ったのだ
慣れれば対抗できると遠回しに言っているように聞こえたよ
それほどまでに彼女の称号は並外れているんだ
となると双璧と言われているリリディのギール・クルーガーはそれと同様の力を持つことになる
んでティアマトはオーガ・タイタンになる筈だが元五傑の人間恐慌アクマと同じ称号、弱いはずない
リュウグウは・・・俺はなんだ?
その答えはのちにきっとみる事が出来るはずだ
次の日、俺は先頭を歩く
隣はギルハルドであり、リュウグウは後ろで『似合わんコンビだ』と呟く
それは俺もわかってる、しかし今日に限ってギルハルドはやる気なのは珍しい
いつも気分屋なのだ
武器を手にしていないが四足歩行でしっかりを前を見ている
《似合わねぇ》
『お前も言うな』
テラに口を開いた瞬間、目の前に2つの道
剣が地面に刺さっているのは右側だが、その前には見たこともない魔物が居たんだ
人型だがあれは虫、頭部にはクワガタの様な角を生やし、いかにも私は頑丈ですと言わんばかりの鎧のような甲殻で覆われた魔物
奴は開いている腕を握り締めると、二の腕の甲殻から刃がジャキンと音を立てて伸びる
絶対…強い
感じる気が物語っている
明らかにBだろうと思える強さが見た目から感じる
リリディ
『…これは』
ティア
『クワハルド…虫騎士って言われる強い魔物』
《兄弟…強いぇぞ》
こんなん情報に無かったぞ
22階層にもBランクと戦う事になるなんて運が悪い
しかもあっちはこちらの準備を待つ気は無い
『クワ』
囁くような声が聞こえたと同時に奴は一直線に俺に突っ込んでくる
その腕から生えた刃を前にし、胸部を突き刺そうとしているのだ
刀で弾きながら横に避け、回転しながら薙ぎ払うかのように刀を振るが直ぐにクワハルドは刃を盾に俺の攻撃をガードする
『シャハ!』
ギルハルドは俺とクワハルドの間を通過すると、金属音が鳴り響いてクワハルドが僅かに仰け反った
なんの音かと驚いたが、それはギルハルドが前足で握る短刀が奴を斬った時の音
だが斬ったわけではない、僅かに傷をつけただけに過ぎない
『クワッ』
『くっ!』
刀を弾かれ、もう片方の腕から生える刃が振られた
素早くしゃがみ、刀を突きだすがクワハルドは俺の攻撃を弾くと同時に腕を掴もうと手を伸ばす
飛び退いて距離を取り、直ぐに奴が追ってくる
反応が早すぎる。流石は虫といったところ
しかも力勝負はあちらが上、正直にガードすれば押し込まれるのがオチだろう
『シャハハー!』
『クワ』
俺を追いかけていたクワハルドはギルハルドに行く手を遮られ、短刀での攻撃を捉えて刃でガードしている
あの猫の速度についていけるとは驚きだ。俺はちょっと自信ないぞ
俺は駆けだすと、テラが口を開いた
《兄弟らだけじゃ苦労するだろう?》
するとクワハルドの視線は俺じゃなく、後ろを見ている
ティアマトにリュウグウが飛び出してきたのだ。そしてリリディやティアもだ
『断罪!』
俺は飛び込みながら刀を振る
斬撃は奥にいるクワハルドの目の前に現れたが、奴はギルハルドを弾き飛ばすと素早く体を反らして避けたのだ
初見なのに見抜かれたとはこれまた驚きだ
『貰った!』
『俺もだ!』
リュウグウやティアマトが一気に飛び込む
だが相手はただのBランクではないようだ
彼女の目にも止まらぬ槍は奴の顔を狙っているが、奴は顔を僅かに逸らすだけでリュウグウの槍は頑丈な甲殻に弾かれ、ティアマトの振り下ろす長斧は刃で受け止められると
同時攻撃を瞬時に裁くとはあっぱれとしか言いようがない
武人という言葉が浮かんだその時、クワガルドはティアマトの長斧を弾いてから刃を振る
リュウグウが逃げたが、ティアマトは逃げれない
しかしすかさず俺が前に出ると刀でガードするが、重すぎる!
吹き飛ばされながらもクワハルドはギルハルドの猛攻を掻い潜り、俺に向かって襲い掛かる
しかしその足は直ぐに止まり、ティアが放つラビットファイアーの熱光線5発を避ける為に後方に跳躍しながら回転し、全ての熱光線を刃で弾き飛ばした
見た目に反して身軽、そして芸達者
着地した瞬間を狙って飛んでくるリリディの黒弾、それは奴が2つに斬り裂き、後方で爆発する
『クワ…』
アカツキ
『こいつ…』
ティアマト
『強ぇ…この人数相手に対等にやるとは個体として総合値高ぇぞ。』
《Bランクでもディラハンに連なる騎士だぜ。知識があるから強いに決まってる》
ティア
『どう崩せばいいのかな』
アカツキ
『ごり押し』
リリディ
『力押し』
ティアマト
『無理やりだぜ!』
馬鹿3人、考える事は同じだった
後ろからも気配、それは闇蠍が8匹と面倒な数だ
『ティア!リュウグウ!後ろ頼む!』
ティア
『はい!』
リュウグウ
『仕方ない』
俺は前に振り向くと、ギルハルドが目の前で背伸びをしてからクワハルドに威嚇をし始める
対する敵であるクワハルドは姿勢を引くし、不気味な構えを取ったまま動かない
こちらからの攻撃を待っている、という事だろう
3人に減ったとなると戦力のダウン
しかし俺達3人が得意とする戦いがある
アカツキ
『行くぞお前ら、俺達馬鹿は』
『『剣より強い』』
一斉に飛び出す
ギルハルドも追従するが、前に出たのはティアマトだった
お前がこういう時、一番槍だよな
『クワッ!』
クワハルドは一気に迫る
今までで一番早い
ティアマトは大声を上げながら長斧を振り下ろすと、クワハルドは右腕の刃で受け止めた
だが熊の全力の一撃に僅かに奴の足元が地面に亀裂を走らせる
それでも僅かにでもバランスを崩さないのは強靭な筋肉が甲殻の中に潜んでいるからだな
『クワッ』
クワハルドは残る腕の刃をティアマトに伸ばす、だがティアマトは避けようとしなかった
胸部を狙う一撃を彼は上手く体を動かして脇を通過させたんだ。俺じゃ出来ない
ティアマト
『死んでも離さねぇぞ!』
右腕でガッチリとホールドし、ティアマトはクワハルドの左刃を封じたんだ
ずっとそうできるわけじゃない、勝負は一瞬で決まる
ティアマトの長斧が弾かれるが、リリディがクワハルドの振り下ろす刃に木製スタッフをフルスイングし、叫ぶ
『賢者バルター』
あとでツッコんでおこう
彼のスタッフとクワハルドの刃がぶつかり合うと、リリディが押し負けるが
もう大丈夫だ
『破壊太刀』
刀に魔力を流し込み、俺はそのまま剣を振り下ろす
逃げないと不味いと察知したクワハルドはティアマトの脇腹を蹴って脱出を試みるが
彼は蹴られても顔に力を入れてやせ我慢を見せる
『ぬぅぅぅぅぅ!』
ありがとう、ティアマト
《やれ兄弟!》
『おらぁぁぁぁぁ!』
一気に刀を振り下ろし、クワハルドの頭部を狙ったが…
奴はティアマトに腕を脇腹で掴まれてても力で引き寄せ、ほんの僅かだけ後ろに下がったのだ
だから両断できず、俺の刀の先はクワハルドの顔を斬り裂くだけしかできなかった
赤い血が噴き出し、甲殻が僅かに割れるとリリディは怒り狂ったクワハルドに殴られて吹き飛ぶ
『クワァァァァ!』
ティアマト
『くそ!』
もうティアマトが持たない
俺は更に刀に魔力を流し込み、再度振りぬこうと目論む
だがしかし、その前にティアマトは4発目の蹴りに堪え切れずに吹き飛んでしまう
味方はいない、そう感じたくなるが…まだいる
怒りを声に乗せたクワハルドは俺に視線を向けた
それだけで背筋が凍り付く思いだ
『シャハー!』
『クワ!?』
甲殻が砕かれた奴の顔面を狙ってギルハルドは両手に持つ筒状の何か撃ちだした
爆発音、それと同時にギルハルドの持つ筒状の先からは目に見えない速度で何かが撃ち出され、それはクワハルドの顔面を貫いて貫通する
あれは投擲銃という道具で弾を撃ち出す暗愚だ
構造はティアがシグレさんにプレゼントしたスティンガーという1発だけ弾が入った使い捨てのペンに見える小さな投擲銃と同じ
それの大きい銃だ
赤い血が飛び散り、クワハルドは大きく仰け反る
脳を破壊されている筈だが、それでも頭部を真っ赤に染めたまま体を回転し、ギルハルドを蹴って吹き飛ばそうと回し蹴りを見せる
『ニャハム!』
投擲銃を盾にしたが、ギルハルドはガードしたまま後方に吹き飛んでいく
もうそこまでしてくれたならばあとは我儘は言わないよ、ありがとうみんな
クワハルドは大きくよろつくと、両腕を垂らしたまま俺に視線を向けた
何をしようとしても、もう遅い
『開闢』
鞘から吹き出すは瘴気と金色の煙が交じりあったもの
そこから現れたテラにクワハルドが驚き、僅かに後退るが…
『クワァァァァァア!』
流石武人、向かうか…神に
これにはテラも嬉しかったようだ、装備から僅かに見える口元には笑みがこぼれている
そのままクワハルドの刃を刀で2本砕き、そのまま体を回転させながら更に刀を振る
『嫌いじゃないぜ!おめぇわな』
『クワァァァァァァ!』
斜めからの斬り上げで両断されたクワハルドの上部は吹き飛び、宙を舞う
テラは奴を背にして刀をしまうと、腕を組んでニヤニヤしながら口を開く
『見事』
クワハルドの上部が地面に落ちると同時にテラは満足そうな笑みを浮かべて光を放ちながら消えていく
直ぐに発光した魔石がクワハルドの体から顔を出すと、俺は溜息を漏らしてから肩を落とす
本当に強い虫だったよ
気づくとティアは俺の後方で黄色い魔法陣を展開して身構えていた
あれはショックという麻痺効果のある小石程度の雷弾を放とうとしたのだろう
だが彼女は放たなかった
理由は魔法陣を消してから構えを解く彼女の口から言い渡された
『テラちゃんの邪魔になりそうだったし』
《わかってるぅティアお嬢ちゃん》
リュウグウ
『こっちは片付いてるぞ…それにしても』
彼女は膝をついているティアマトに視線を向けた
脇腹でクワハルドの腕を挟み込んでいたのだ、離した時に刃で脇を切ってしまったのだろう
脇腹から血を流していたのだ
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