第241話 6 ホンノウジ地下大迷宮

次の日、俺達はホンノウジ地下大迷宮に向かう為にホンノウジの森を馬車で進む

トリケランという恐竜種が引く馬車が5台に侍騎士が30人がそれぞれ乗っている

速度は馬より早くは無いが体力もあり、適度な速度で走るから馬車の中にいる俺達はあまり揺れを感じることなく馬車の中で寛いでいた


俺達が乗る馬車にはシキブさんがいる

彼女は何故かティアに惚れ込んだらしく、くっついてる


《もしら男よりも女に興味あるのかもな》


アカツキ

『まさか…』


道中に魔物は現れない、スムーズに道を進み、昼前には山の前に辿り着いた

馬車から出ると、既に目の前には巨大な洞窟がある

近くには大きな詰所が建てられており、2階建て

約30名の侍騎士がここで洞窟を見張っているということだ


本当に多い効い洞窟だな…


《さて、運頼みの地下探検だぜ》


『ミャンミャー』


リリディ

『少し奇妙な匂いが洞窟から漂いますね』


確かに妙な匂いだ

臭くは無いが…好きにはなれない

シキブさんはギルハルドを抱きかかえると『50階層の悪魔の体臭よ、この匂いが持ち出す食糧を腐らせる』と告げる


『ニャンヤ』


『あらま』


ギルハルドは直ぐにシキブさんの腕から逃げるとリリディの足元に隠れる


ティアマト

『飯あればいいなぁ』


リュウグウ

『空腹ならメガネでもくっとけ』


ティアマト

『おっけ』


リリディ

『そんな…』


まぁ冗談はさておき、気を引き締めないとな

闇猪に岩蜥蜴、そしてグルーテンでしか食料調達が出来ない

こっちは運スキル持ちが2人だぞ?


ティアの運【Le5】MAX

称号の運は4と高い


リュウグウの称号スキルの運レベル4


食糧は運というならば俺達は十分に運のツキがある


侍騎士

『魔物の数は多くはありませんが、やはり食料問題ですのでお気を付けを』


アカツキ

『わかりました』


ティアマト

『行こうぜ』


リリディ

『行きましょう』


『ニャハー』


ギルハルドが万歳している

侍騎士が不思議そうに見ているが、さて行こうか

俺は一息つくと洞窟に目を向けた


ひんやりとした空気に交じって妙な匂い

この匂いで体調を崩す危険はないようだ


リリディ

『間欠泉が脱出口…か』


ティア

『どうしたのリリディ君』


リリディ

『お爺さんが昔話をしているのを思い出したんです。死ぬかと思ったらそのまま地表に出てくれて生き永らえたって』


ティア

『今から向かう場所の話だったらいいね』


ティアマト

『点々と思い出しやがって。まぁ行こうぜ』


《ここで長居しても意味はねぇ、行こうぜ》


俺はシキブさんに行くことを告げると、仲間と共に洞窟の中に入っていった

中は凄く広い、道幅も十分過ぎるほどだ

壁には発光石が顔を出していて視界も良好、問題なく進める


アカツキ

『目印は剣が刺してあるらしい、見落とさずに行こう』


ティア

『そうだね』


数分歩くだけで魔物が天井に張り付いているのを見つけた

闇蠍、1メートルサイズの虫種だがすばしっこい

攻撃方法は尻尾の毒針であり、鋏での攻撃は殆ど見たことは無いな


それが2匹も張り付いている


『キィ!』


あ、落下してきた

体を半回転させ、そのまま尻尾をこちらに向けているけどもリュウグウが跳び上がり2匹を素早く槍で貫く


一撃だな

闇蠍が地面に落下すると魔石を出すが回収する気は無い


リュウグウ

『ふむ、体は良好だ』


ティア

『最初は私達だね』


アカツキ

『任せる。他は戦闘中に周りの警戒、魔物が現れたら対応でいこう』


少し進むと、道は迷路になってきた

正しい道には剣が地面に突き立てられており、俺達は迷わず進めた

現れる魔物はこうだ


Fのゾンビナイト、ゾンビランスにゴースト

そしてEの闇蠍が殆どだ

たまに現れるのがDランクのタガメのような見た目のハンドリーパーだ


まだお腹は空かない、入ってまだ1時間しか経過していない

現在は2階層、そしてゾンビナイトやゾンビランスを女性2人が倒しつつ俺達を先導する


リリディ

『ギルハルド、戦います?』


『ニャーニャー』


ティア

『嫌って言ってるね』


アカツキ

『気分屋だな』


リリディ

『困ったものですね』


4階層を超えたあたりでそれは起きた

初めて見る魔物が1頭、俺達の前に現れた


『ブシュルルル』


体毛が黒い猪、全長1メートルしかない

牙は鋭く、目は左右に2つあるから猪のイメージがあまり沸かない

だが獣であることに変わりはない、肉である


ティア

『あ、闇猪ってこれだよね』


『ブギィィィィ!』


走ってきた

狙いはティアだが、彼女は跳躍しながら突進を避け、そのまま鉄鎌で斬り裂いて着地したんだ

意外とアクロバットな動きも出来るとは驚きだ。

流石シグレさんの妹だ


ティアマト

『おし、肉を切り分けるか…任せろ』


ここでは持ち出した食料は直ぐに腐るが、ここにいる魔物の肉が腐らない

だからこそ温存することが可能なのだ

ティアマトがナイフで肉を斬り落としていると闇蠍が2匹現れる

だがそれはリュウグウが難なく倒す


ティアマト

『オッケー、1日分にはなるか』


ティア

『やったね』


時刻は15時

10階層を超えたあたりで現れる魔物が変わる

鬼トンボという口が鋭い1メートル級の虫種の魔物、ランクはE

虫特有の目が赤く光っているのが不気味だ


俺達の周りを素早く飛び回ると、更に1匹が現れて同時に突っ込んできたんだ

戦闘当番であるティアマトは拳で鬼トンボの顔面を殴って玉砕、リリディは木製スタッフのフルスイングで胴体を叩き、体を四散させながら吹き飛んでいった


流石に幻界で生き延びた仲間たちだ、強い


ティアがシキブさんから渡された紙があるが

それにはこの地下大迷宮の魔物が書かれていたんだ



? ジャバウォック

B ラブゥ(金属ゴーレム)鬼ヒヨケ、閻魔蠍

C 般若蠍、闇蟷螂、鬼蜘蛛

D ハンドリーパー、鎧ダンゴ、岩蜥蜴

E 闇蠍、鬼トンボ、ガウス(蛾)

  闇猪、グルーテン

F ゾンビナイト、ゾンビランス、ゴースト


殆どが虫、ゾンビは食える筈ない


《歩きながら聞け、まだ先は長いがめっちゃどす黒い気配が最下層からする…すんげぇ気だぞ》


アカツキ

『聞いたからってやることは変わらない』


リュウグウ

『生半可な道じゃないことぐらいわきまえてる、馬鹿神めが』


《くふふ、その調子だ》


ティア

『そろそろ12階層、体力残して休まない』


アカツキ

『そうだな』


ティアがその話をした理由は目の前に水が発光する湖が現れたからだ

ドーム状の空間、発光石で広さがわかりやすい


しかも木々が生えており、そこには紫色の小さな実だ

残念だが毒素があるから食べると体調を崩す

だが薪として使える


俺はティアマトと共に枝木を折って集め、薪代わりにしてくべるとティアマトが火打石で火をつける

平たい石を積み重ねて石焼だ

バーベキューみたいな気分だと口には出来ないが、様になってる


ティアマト

『箸はねぇ、悪いが火傷しねぇように気をつけろや』


リュウグウ

『助かるな熊五郎』


ティアマト

『ケッ、焼けたら食えよ』


料理はティアよりも得意なティアマト、似合わない

今回は料理とは言わないが、腹の足しとしては豪華だ

熱された肉で焼かれた猪の肉からは肉汁が垂れてくる


俺達は良い焼き具合になると、手づかみで食べ始める

ギルハルドは美味しそうに食べているが、味は薄い


ティア

『カロリーオフ?』


《残念だが肉汁出てる時点でそんなことない》


ティア

『ぶーだ』


リュウグウ

『普通の肉で味薄いは悲しいな』


ティアマト

『帰ったら豪華な肉でも食おうぜ』


リリディ

『そうしたいです』


アカツキ

『そうしようか』


11階層の休憩ゾーン

本当に体を休めれるか不安だが、運良くギルハルドがその役目が出来る

寝ていても魔物が近づけばこいつは起きる


一応見張りを1人置いて交代だ、2時間交代

食べ終わってからは俺は木々の周りを歩きだすが、

リュウグウが木々の実を見ている


食べる気だろうかと思って観察していると、彼女は『食うと思ってるのか?』と何故か心を見透かされた


『いや、…食べるのかなって』


『変態が、食う筈ないだろう』


《怒られてやんの》


『ぐぬぬ…』


テラに笑われた

するとリュウグウは進むべき穴の向こうを見つめる

俺も顔を向けてしまうが、魔物の気配は無い


リュウグウ

『魔物が入らない理由は周りの湖か、というか大きな水溜まりというべきだろうな』


直径10メートルの池みたいな感じだ

中に生物はいない、まぁ魚の事な

底まで透き通っており、深さはざっと3メートルしかない


アカツキ

『何かが流れる音がかすかに聞こえるな』


リュウグウ

『地下水脈だろう…。それにしても』


彼女は木の根を枕にスヤスヤ寝ているティアを見る

この状況で寝れる肝っ玉は流石としか言いようがない

しかもギルハルドを抱きかかえて自身は安全な状態…やるではないかティア


《意外と腹黒いとこあんな…》


アカツキ

『まぁそうだな』


リュウグウ

『それにしてもエド国は私がいた世界に似ているな…似ているというか歴史の授業や写真で見た昔の日本と言うべきか』


彼女は日本という場所に住んでいた

その昔の時代がエド国に似ているのだという

米が主食なのもこの世界に来て苦労しなかったらしい


《熊五郎とメガネも横になって寝てる、リュウグウお嬢も寝たらどうだ》


リュウグウ

『最後の見張りは私だ、寝る時間の調整で起きておく』


アカツキ

『あり難い』


リュウグウ

『魔物が出てもお前だぞ?私は見ているだけだ』


酷い…


俺は湖の前で座り、ボゥッと眺めながら過ごす

天井からしたたり落ちる水滴は地下水脈から漏れているからだろうな

それにしても湖が発光しているのはなんでだろうな、魔力水とはちょっと違う


『飲んでみるか?』


《飲めばいいだろ》


『おいそこは止めろよ』


この水、調査隊が持ち帰らない筈がない

ムサシさんの話では奇妙な水を採取し、洞窟から出たんだがその途端に黒ずんで駄目になったのだとか

だからと言ってこの場で飲むという発想が浮かんだものもいなかったらしい

まぁ得体のしれない液体を飲むのは怖いからな


《なんで止める?魔力水だぞ》


『え?幻界の森の?』


《ここらは幻界の森と同じで魔素が濃い…だからそっから離せば魔力水が駄目になる》


『疲労回復に魔力が僅かに回復するあの魔力水?』


《魔リンゴほどじゃねぇが自然治癒力もそこそこ上がるあの魔力水だ》


『魔素か…』


《魔物しかあまり通らない場所は濃い、だから人のいる所にはねぇのさ》


なるほど

人間が作る高価な魔力水と違って天然、となるとかなり品質が良い

それは俺達があの森で体験している


『活用するか』


《そうしとけ》


『てか教えろよ』


《イージーモードで進ませても面白くもねぇだろ?》


なんて神様だ、まぁ教えてくれたから良いか


いつの間にかリュウグウもティアの近くで寝ている

俺は刀を手に見回し、あまり動かないようにしていた

僅かにどこからか響いてくる虫の鳴き声、だがかなり遠い

ティアマトのイビキが反響してるのはあれだけど…


『む』


気配感知に魔物

来た道からだ。

俺は体を向けて警戒するが、足を止めている

数は2つ、こちらに本当に来ないのだろうか


『…行ったか』


《だな》


引き返したようだ

小さい溜め息を漏らし、近くの木を見ながら俺は口を開く


『この木を魔物が避けてるのか?』


《ご名答、奴等には嫌いな毒素含んでるからさ。しかも人間にゃわからない臭いが魔物を遠ざけてる》


『なるほどな』


こうして俺はティアマトと交代して眠りについた

起きてからは肉を焼いて食べ、仲間と共に出発さ

俺は先頭を歩きながら蠍やアンデットを倒しながら目印を探して進み、15階層まで降りた


階段を降りた先には崖が多く、下は流れが早い水脈だ

落ちたら死ぬだろうな


アカツキ

『結構倒したな』


リリディ

『まだ魔物相手に苦労は無いですが、綺麗な道ではないので歩くのが大変です』


アカツキ

『後ろ、リュウグウ』


リュウグウ

『わかっている』


天井付近に空いている穴から近づいてくる気配

それはブラットスパイという大きな蚊である

30センチだが、刺されたくはない


5匹が頭上から飛び込んでくるとリュウグウが槍で素早く3匹を貫き、ティアマトが肉を担いだまま新しい武器を振り回して残りを切り裂いた


『振りやすいな』


ティアマトだからそこ片手で振り回せる

握りが1メートルある斧は以前より50センチも長く感じる

どうやら気に入ったようだ、良い品物だ


ティア

『アカツキ君、ここ穴だらけだね』


アカツキ

『蚊ばかり出てきそうだ。確かに虫ばかりだ』


ティア

『ご飯種の魔物さんも闇猪から現れないけど、相当な運なんだね』


アカツキ

『一応はまだあるが、明日の分が無いな』


ティア

『大事に食べないとね』


『量は正確に決めて食べないとな、寝る前は少なくても良い』


《それが良いぜ兄弟》


19階層、普通の洞窟だ

カサカサと音が聞こえるが、奥からだ

どこかで聞いたことがあるな…


音を聞いた女性陣は肩を強張らせる


アカツキ

『どうした?』


ティア

『アカツキ君、この音…あれだよ』


あれ?あれとは?

まぁそれは直ぐにわかったよ

気配が範囲に入ると俺は少し驚く


(15匹だと?)


多い、しかしあまり強い気ではない

静かに進んでいき、曲がり角から聞こえる音の向こうにいくと音の正体が判明したさ


リリディ

『いっ!?』


ティア

『ひぃいぃい!』


アカツキ

『これは幻界の森の…』


30センチと大きなゴキブリ

まさかあの森だけの虫じゃないらしい

壁に張り付くそれは僅かに羽を動かしてカサカサと音を立てていたのだ


《気持ち悪っ》


アカツキ

『ゾッとする。奥にも気配だぞ』


ティアマト

『しかも多いぜ?婚活パーティーか?』


アカツキ

『なら飯はどこに?』


《お前らだぞ?》


全てのゴキブリの目がこちらに向くと、一斉に羽ばたきながら襲いかかってきた

俺は刀界で吹き飛ばそうと身構えるが、ティアが早かった


『無理駄目フレアー!』


真っ赤に染まる洞窟内

業火が彼女の魔法陣から吹き出すと、飛んできたゴキブリ全てを飲み込んで灰すら残さず燃やし尽くした


奥の気配までも一瞬で消えた

そこまで嫌いか…ティア


リリディ

『ゴキブリにフレア』


ティア

『いいの!ゴキブリだから!』


リュウグウ

『男にはわかるまい、生理的に無理なものは無理だ』


ふむ…


20階層、そこで蠍が多くなる

進めば闇蠍、闇蠍、闇蠍ばかりだ

15匹は倒したかも知れない


強い魔物が現れないから大きな問題は起きないが

はやり食料という問題が俺の頭から離れないんだよ

20階層まで来てもまた1頭だけ、これはきっと仲間も心配になってる筈だ


俺は凄い心配だ



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る