第201話 幻界編 41


ティアマト

『さて…』


ルーミアさんとギルハルド

厨房に入ったが、案外調理場にしては狭い感じだぜ

8畳ほどの空間の中央に鉄製の長テーブル、食器棚や石窯の厨房がエド国みてぇに独特だ

空気を入れ替えする穴が天井にあるが…汚れが酷い


ルーミア

『奥の部屋は何だろうね』


ティアマト

『ゲイルさんが小さい倉庫って言ってました』


そのドアを開けると倉庫というより控室のような場所だ

かなり狭いけど、作業員が休むには丁度良いかもしれねぇ


『ニャハ』


ギルハルドが鳴く、どうやらここじゃねぇ

厨房に戻ると、奴は鉄製の長テーブルの下に視線を向けた

ルーミアさんとよく見てみると、なるほどなってなった


地面に1メートル四方の扉があるんだ

長テーブルをずらして見下ろしてみると鍵がかかってやがる


ティアマト

『下手に入るよりかはそっとしときますか?』


ルーミア

『それが今だと一番だね。でも中から鍵がかかってるのは気になるよ』


ティアマト

『どうしてっすか?』


ルーミア

『だって魔物が内側から鍵をかける?』


まぁ難しいだろうなぁ

だけど内側から鍵がかかっているなら壊さねぇ限り開かない

そのままにした方が良いかもしれねぇけど…


ルーミア

『物音は今しがた聞こえ始めたんでしょ?』


ティアマト

『そっすね』


ルーミア

『用心したほうが良いねぇ』


ティアマト

『ならココ見とくっすか?』


ルーミア

『私も暇だしそうしとくよ』


まぁギルハルド付きで厨房の様子を見る事にしたが

確かに床下から音が聞こえる、しかもここが一番大きく聞こえる

ちと物音がうるさくなっている気がしてきた


『うるせぇぞコラ』


『ティアマト君、それで止んだら苦労しないよ』


そうなんだけど…

止んだぞ…?


結果的に面倒そうな気がしてきた

注意したら止まるって事はそれなりの知識があるかもしれねぇしよ

ただ単に声が聞こえたから静かにしたって事もある


『そのまま静かにしてくれ』


『そんな都合よくいかないでしょティアマト君』




カチャっと何かの錠が外れる音

瞬時に俺とルーミアさんは構えた、どこに?

決まってらぁ

床下の扉から聞こえたんだ


右手で片手斧を構えながらも左腕に流し込み、攻撃の準備だ

ルーミアさんも双剣に魔力を流し込んでいるが、ギルハルドは欠伸をして余裕そうにしてやがる

それが答えだと思いたいがな


静かに開いた床下の扉

何が姿を現すかと思えば、

茶色いフードに身を隠し、小奇麗な顔の…ありゃ…


『子供…嘘でしょ』


ルーミアさんが驚愕を浮かべている

まんま子供だ、しかも女の子だ

なんでこんな子が地下にいるってんだ…と思うけどよ

幻想で見せている罠って事もありうる


『…人間』


ティアマト

『悪いか?てめぇはなにもんだ』


『…』


ルーミア

『本当に人間なの?幻界の森にいるなんて思えないわ』


『エルフ』


ルーミア

『あぁシエラちゃんの…んっ!?』


ティアマト

『エルフがいんのかよ』


『森の奥、あたしたちの家…デミトリ様の加護の下で生きてる』


ルーミア

『デミトリ様?』


『デミトリ様』


それを口にすると、エルフを名乗る小娘は扉を閉めて鍵をかけてしまう

何だったのだろうか…意味が分からん

まぁしかしエルフの小娘が閉じこもった通路はどこかに通じているんだろうな

じゃなきゃ引きこもるなんてしねぇはずだ


てかこんな地獄の様な場所で1人で来れるはずがねぇ


『ニャハーン』


ティアマト

『まぁ深追いはしたくねぇっすね。奥に行けばわかるってことで』


ルーミア

『そ…そうだね』


実際、あの床下の通路を通れば楽に最深部の終点に行けるだろうけども

試練を出した主はそれを好まないだろうよ、きっとペナルティーがある


ガチャガチャとフロントから大きな音が聞こえる

ドアノブを乱暴に回す音だが、俺とルーミアさんは直ぐにフロントに戻った


すると裏口の前でティアちゃんとリュウグウが身構えてた


リリディ

『気配が感じられませんね・・・』


ティアマト

『お前でもか』


アカツキ

『ずっとドアノブを回しているのも不気味だな』


確かにな

途端に音が止んで静かになる

俺達ぁ諦めてくれたかと思ったんだが、違ったらしい


ドアを開けないと入れねぇ筈なのに、そいつはドアを貫通してきたんだ

まぁ幽霊みてぇにヌゥッと入ってきたと言えばいいか


上半身だけ、頭部は羊の頭部だが角が大きい

奴の周りには火の玉が浮いてやがる

貴族っぽい服装だけど、ボロボロだぜ


『ゴゴゴゴ』


リュウグウ

『エモール…』


どうやらリュウグウは知っているらしいな

槍を降ろしたんだけど、どうやら敵意を向けちゃダメな相手なのだろうか

アカツキ達も武器を降ろしたから俺も降ろしてみた


するとエモールは火の玉の火力を小さくしたんだ


『人間か…』


リュウグウ

『導く高貴な魂霊エモールとは本当か…』


『それはお前ら次第…数百年ぶりにここまで来る人間がいようとは』


アカツキ

『ここはいったいなんですか?』


『お前らが知る理由は無い、今は生きるために奥を目指せばよい…時間は無いぞ』


アカツキ

『時間…』


『数百年前にここを突破したであろう者が…彷徨う魂のようにここに足を踏み入れるとは悲しい事だ』


ティア

『それって追手の事ですか』


『時間は無い、イレギュラーな存在ならばこのように伝えることは無いが…今から向かえば間に合う。直ぐに発て。外に魔物がいるなどどうでもよい…それよりも過酷な者が来ている』


アカツキ

『過酷って…』


『まぁ頑張れ…まだあれは未完だ…』


そこまで言うと、エモールは炎を纏って消えていった

となると俺達は直ぐにここを出なくちゃならねぇな…

そろそろ朝日が昇っても可笑しくねぇ時間、だが日差しはこの森にあまり差し込まない


俺達はみんなを起こし、先ほど起きたことを話すと迷わずにここを出る事にしたんだ

今日で俺達がどうなるか決まるって事だな!燃えるぜ


帰れないかどうかは決まったわけじゃねぇ、死ぬまでそれは決まらねぇ

馬鹿は結果が出るまで諦めたら意味はねぇ

さて、頑張るか

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