第154話 今年も終わりそうでも魔物は通常営業

現れたのはマグナ国でも最高権力の国王と並ぶ権力者のフルフレア公爵

何故彼は1人でこの森にいるのか、俺達の前に現れたのかわからない


汗が勝手に流れる感覚を覚えた俺は彼から視線を外すことは出来ない


フルフレア公爵

『そちらのイディオットには用事は無い、今回はリゲルとクワイエットの件だ』


『シャハハン!』


ギルハルドが酷く警戒している

リリディはそんな彼を抱きかかえてフルフレア公爵に飛びつかないようにしていると、リゲルは険しい顔つきのまま口を開く


リゲル

『親父だってのは死ぬ寸前で気づいた。んで何の用ですか?俺はもう聖騎士じゃないからあんたの指示に従う義務はない』


フルフレア公爵

『連絡に来ただけだ。聖騎士を脱退したとなると腐るほど溜めていた君たちの貯金を君たちの手に戻さないといけないからね。まぁかなりの大金だ…グリンピアの金融施設に私が責任を持って輸送しておこう。それとリゲルよ…君の父上であるライガーの残す金もだ』


リゲル

『そうかい』


フルフレア公爵

『反応が薄くて残念だ。金貨だけでこれまた3千枚は超えている筈だ…私は金銭的な事に限るがライガーの遺品は来月になればロイヤルフラッシュ聖騎士長が持ってくる手筈になっている。好きに暮らすが良い』


リゲルはルドラの息子だ、ルドラの本当の名はライガーホルン

彼が殉職し、その相続権が実の息子であるリゲルにあるのは確かにそうだ

しかしもの凄い大金だ。元々溜めていた菌か4千枚にルドラの残した金を合わせると7千枚

広めの家を建てるのに必要な経費は2千枚あれば周りより目立つ家が出来る


フルフレア公爵は喜ばないリゲルを見て、何かを悟ったのだろう

俺達はいないものとしてフルフレアは話しているから無駄口を叩くことは出来ない

そもそもこの人は公爵であり、こちらから勝手に話しかけて言い人じゃないんだ


フルフレア公爵

『私とライガーの関係は省く、してだ…あ奴はどんな最後だったか聞かせてほしい』


リゲル

『馬鹿な親父さ、勝手に俺を守って勝手に死んでいった』


言葉使いは最悪だが、邪険にしていないには俺から見てもわかる

フルフレア公爵は話を長くすることを辞め、リゲルに関係のある事だけを口にした


フルフレア公爵

『ルシエラか。今はクリスハートという名で冒険者か』


リゲル

『親父が何か動いたのか、あれ』


フルフレア公爵

『息子の為に勢力結婚の件を何とかしてほしいと言われてな。ルシエラ家は貴族会に参入して血筋を確実な者にして今後も安泰を願っているのならば私の力で勝手に爵位を上げて貴族会に上げればいいだけの事、そうすれば色好き貴族との結婚の話も無くなるだろう?』


リゲル

『まさか!?なんであんたが!?』


フルフレア公爵

『言ったであろう?私の親友はライガーただ1人さ。金で新しい生き方を存分に選択できる。リゲルもクワイエットもルドラという名の男に感謝するんだな…。それと頑張ってアカツキを守る事だ…あの方は止まらない』


彼はそこまで言うと、俺達に背を向けて歩き出す

そのまま去っていく方向は街ではない。明らかに森の奥だ

公爵なのに護衛もついていないのが疑問だが、それは彼が去っていくと同時にティアが小声で予想を口にしたんだ


ティア

『あの人、滅法強いんだと思う…公爵だから戦えないと思っていたけど』


リリディ

『ギルハルドが凄い毛を逆立てて警戒したんですよ?絶対に普通じゃない』


クワイエット

『昔から不気味な人だったよ。普通じゃないのは知ってても口に出すのも億劫だしさ』


《まぁしかし、ビビるよな…》


テラ・トーヴァでも気づかなかった

それはフルフレア公爵が只者じゃないと思わせる証拠にもなろう


アカツキ

『にしてもだ、頑張って俺を守れって…それってあれだよな』


クワイエット

『アカツキ君の正体を知ってる』


《どこから聞いた?ロイヤルフラッシュか》


リゲル

『いや、意外とあの人は口が堅い!』


そこは信じよう

でもティアがフルフレア公爵の言い放った言葉の中にヒントがあったらしく、顔を険しくさせる

あの方は止まらないという言葉の意味、それはきっと俺を狙う者を指す

ゾンネか、イグニスかのどちらかなのだ

そうとなるとフルフレア公爵は敵でも味方でもない、中立的な位置にいる人物だと今は思われる


ティアマト

『ちっと森に入るのが億劫だぜ…』


リゲル

『俺も萎えた。まぁ良い話だったがな』


ティア

『お金持ちだよ?喜ばないの?』


リゲル

『金が増えても家族は戻らねぇよ』


彼は小さく言うと、誰よりも先に歩き出した

余計な事を言ったと感じたティアは少し肩を落とすが、彼女でもそこまで気が回る筈がない

考えすぎだと言ってティアの肩を叩いてフォローするとリュウグウも混ざってくれた

そのおかげで少しは持ち直した彼女だが。完全ではない


クワイエットさんは先頭を歩きながらいつにも増して凄いスキップだ

4千枚!4千枚!と口にしながら歩いているため。幸せ気分を満喫しているようだ


リゲルは隣でクワイエットを見て呆れた顔をしているが、何かを言って止めさせる様子はない


リュウグウ

『お前らどうするんだ?ギルドの安易宿泊施設から脱出できるぞ?』


リゲル

『金の使い方わからねぇよ。いつも親父が奢ってくれてたんだからよ』


クワイエット

『家くらいは欲しいなぁ。僕専用って夢だったんだぁ…』


ティア

『家は無駄遣いじゃないから持っておいても損はないよ、てか無いと困るんじゃないですか』


クワイエット

『家買う!』


森に彼の声が高らかに響いた

こうしてギルドに戻った俺達はかなり早く帰ってきてしまったため、結構な時間が余ってしまった

夕方にもなってないしやることも何も考えてない


丸テーブルを囲むように仲間と共に席に座り、みんなでココアを飲みながら寛いでいる

今回の稼ぎはBランクの魔石があったからかなりのプラスになった

当分の間、困ることはないだろう


俺達よりも困らないのはリゲルとクワイエットだな

彼らは軽食屋のカウンター席に座って何か話をしているようだが、クワイエットさんは笑顔でリゲルは困り顔


何の話をしているのかと気になる

彼らを気にしていると、クリスハートさんらエーデルハイドがギルドに入って来て早々と2人を見つけて歩み寄っていったのだ


なにやらリゲルがクリスハートさんに首を傾げながらも話をしていると、クリスハートさんは頭を抱えている


ティアマト

『来年かぁ』


《今年も終わりさ、色々大変だったが年末ぐらい休んどけ》


リリディ

『そうしますか』


アカツキ

『ゾンネやイグニスが怖いが…堂々と街に入ってくるとは思えない』


《ゾンネは力をある程度取り戻すために時間をかけている筈だ。イグニスはわからないがな》


ティア

『そうだよね』


リュウグウ

『先ずは休もう。トンプソンの爺さんも長期休みに入って屋台閉めているからな』


もう2階のテラスの屋台はお休み中なのでトンプソン爺さんはいない

たまに街を歩く姿を冒険者は見たりしているらしいが、散歩らしい

家ってどこだろう?


リリディやティアマトは家の用事を早めに済ませれると言い、席を立つと彼らは早めにギルドを後にする

残るはリュウグウとティアだが、何故かリュウグウは俺とティアに視線を向けてから立ち上がると『先に帰るぞ変態』と俺にわざわざ言ってからギルドから出ていった


お前、もしかして気を使ったか?


ティア

『アカツキ君はいいの?』


アカツキ

『今日は何もないよ。ティアは?』


何もないらしい

俺はご飯でもどうかなと誘うと、彼女は二つ返事で了解してくれた

割り勘でいいらしい、いい子だ


彼女と仲良く手を繋いで中心街を歩くがブルドンが俺の頭を鼻先でコンコン当ててくる


何を伝えたいのかわからないが、ティアから手を離すとやめるからきっと触るな、とでもいいたいのだろう

オスめ!


『ブルドンちゃん思春期なんだよ』


『何歳だよ』


『あはは』


時間もあることから俺達は1度、家に帰ってから夜食はいらないことを伝えると再び中心街にやって来た


今日はそこまで寒くは無いが吐息は白い、まだマシというレベルでしかない

店に顔を向けると、もう切り餅など売っていて人が賑わっている

俺は餅はあまり好きじゃない、醤油で食べるあれは好きだけど


アカツキ

『食べたいのあるか?』


ティア

『パスタ食べない?』


《いいねぇ!食べようぜ兄弟》


アカツキ

『お前、食わないだろ』


《まぁそこは言いなさんな》




確かにパスタも良いな

そろそろパスタと聞くとカルボナーラを食べたいと今思い始めていた頃だ

ティアはペペロンチーノが食べたい気分というからこそ今日はパスタにするか

だがしかし、入るにしても勇気がいる


理由としては女性の客層が厚く、男はあまり食べに行くことは少ないんだ

カップルとかなら全然いるけども、単独だと勇気がいる

しかし、今の俺なら入れるだろうな


小さく鼻で笑い、俺は彼女と共にパスタ専門店に足を運んだ

店内は野郎が入るにしては眩しい女性らしさのある内装であり、やはりティアがいてくれて俺は助かった

男性客は少ないがその全てはカップルだ

女性だけの客も多くて少し緊張する


ティアに手を引っ張られ、開いているテーブル席に座ると直ぐに若い女性店員がメニューと2人分のグラスに入った水を持ってやってくる


『注文が決まりましたらお呼びください』


反対側の椅子に座るティアにも見やすいようにメニューを広げて2人で眺めるけど食べる料理は決まっている

俺達は直ぐに店員を呼んで注文し、料理が来るのを待つ


ここの匂いも女性っぽさがあって無駄に浄化されそうになる

俺の心が汚れているからだろうか?心が静まっていく


ティア

『ティアマト君も称号が上がったね』


アカツキ

『きっとあの上がある筈だ、あいつもいい感じだな』


ティア

『そうだね。てかアカツキ君も今の称号よりも上があるんだよね』


《あるさ。先ずはそれにならないと期待はできねぇがもうすぐだろ》


アカツキ

『教えろよ』


《黒色斬鉄だ》


珍しく教えてくれたなこいつ

いつなっても可笑しくはないらしいが、待ち遠しいな


話しているうちに気づいたことがある、冒険者の格好は俺達のみ

ちょっと場違いかなと思ったりもしたけども周りが気にしてないからセーフだ

そんなことを考えていると、ほら…冒険者の格好をした…冒険者…が


クリスハートさん率いるエーデルハイドにクリジェスタのリゲルとクワイエットさんだ

きっと連れてこられたのだろう、あの2人も慣れない店の雰囲気に少し動揺している

俺はバレない様にティアと顔を隠して楽しむことにしたよ、


だがそれはエーデルハイドには通じても、この2人にはまったく駄目だ


クワイエット

『そんな顔を隠してもバレバレだよ』


リゲル

『誰だと思ってんだ…』


クリスハート

『あ、アカツキさんにティアさん』


アカツキ

『…はいそうです。』


まぁ向かいのテーブル席に彼らがクリスハートさん達と座ると、周りの女性客はチラチラとエーデルハイドを見ているのがわかる

美人チームだし致し方ないがティアも負けてないぞ


隣の会話はどうやら彼らのお金の使い道であり、リゲルとクワイエットが相談していた


アネット

『結構な額じゃない2人共?1番隊だったんだしさ』


シエラ

『10年ちょっと分、凄い』


クリスハート

『これはルドラさんの賜物と言えば聞こえはいいですが、いったいどのくらい貯まってるんですか』


リゲル

『クワイエットは金貨が4千くらい、俺も同じくらいだが親父の残した金を足すと7千』


シエラさんが飲んでいた水を一気に噴き出し、反対席に座るクワイエットさんにかかる


クリスハート

『あはは…は…なな…せん…』


シエラ

『ゴホッ!ゴホッ!』


アネット

『金持ち…』


ルーミア

『こらとんでもないわ…流石1番隊だぁ』


全員が渇いた笑みを浮かべていた

凄い額を聞けば彼女らでも驚くのも無理はない


リゲル

『家は作ったほうが良いのか、わからん』


クリスハート

『そりゃ必要ですよ。家は財産として必要不可欠ですから』


リゲル

『なら作るか…どんくらいの広さが良いんだ』


クリスハート

『今後の事を考えれば広めに作っても問題ないとは思いますが、今は直ぐ作っても持て余すとは思うし1人じゃ掃除など絶対大変なので様子を見たほうがいいと思います』


リゲル

『ふぅむ』


クワイエット

『リゲルはその点の心配いらないんじゃない?クリスハートちゃんいるでしょ』


クワイエットさんってたまにとんでもない事言いだすよな

聞いていたティアもビックリして目が凄い開いてる

そしてまたシエラさんがタイミング悪く水を飲んでいたのでむせ始めた


クリスハート

『ななななな!』


リゲル

『何を馬鹿言ってんだクワイエット』


クワイエット

『あはは、ごめんごめん』


面白い会話だ

徐々にその話も落ち着きを取り戻し始め、真剣に意見を言い合っている


俺はティアと共に運ばれてきた料理を前に食べ始めた

カルボナーラ美味しい、これを食べれば杏仁豆腐が待っているから更に良し


《そういや兄弟は大金あったらティアちゃんとどうするんだ》


『そこは一緒に住むとか色々…あぁ』


自然に答えてしまった

ティアは冷静を装い、顔を真っ赤にしながらもこちらを見ないようにペペロンチーノを食べている

不味い、テラ・トーヴァの会話は彼女にも聞こえていたのか…恥ずかしすぎる


《きっしっしっし!》


この悪魔め、戦神じゃないな?


少し気まずい雰囲気だが、あえてこれは好機でもあるかもしれない

きっと大丈夫だと思いながら俺はカルボナーラをフォークでくるくるずっと巻きながら小声でティアに聞いてみたんだ


『その…あの、僕はティアがいいならと』


いやまて可笑しい

まるでこれはプロポーズだ。付き合ってくださいという綺麗ごとを殴り倒し、強引に俺は最終目標に向けての言葉を言い放ってしまったのではないのだろうか

そう思うと俺は言葉を間違えたと後悔し、カルボナーラをフォークで高速でグルグル巻きとる


チラチラと彼女を見るが、ティアは顔を赤くさせた状態で顔をうつむき、俺と同じく小声で答える


『私は嫌じゃないから、その別にお父さん達が良いっていうなら』


いいんだ…

ありがとう父さん、俺を生んでくれてと俺は心の中で涙を浮かべた

男になる予定です。胸を張って生きる事が出来ます

今日の夜食はいつにも増して美味しいなぁ…


こうして俺とティアは食べ終わると会計を済ませて家に戻ろうかなと話し始める

丁度エーデルハイドやクリジェスタのリゲルとクワイエットさんも出てくるが、クワイエットさんは満腹感で幸せそうな顔を浮かべていた


リゲル

『また今度話すわ、悪いなルシエラ』


クリスハート

『全然大丈夫です、話を聞くだけですので』


実名をリゲルが口にしてもクリスハートさんは狼狽える様子はない

それにしてもこの2人は結構エーデルハイドと仲が良い、それは俺たち以外から見ても明らかだ

ちょっと羨ましいけども。そこまで欲しがる意味は俺にはないかもな


俺はティアの手を掴み、『帰ろうか』と口を開くと彼女は優しく返事をしてくれるからこれまた良い

でも簡単に家には帰れないようだ


ギルド職員が街を歩いている光景を目にすると、俺達に気づいて走ってきたのだ

その様子はエーデルハイドやリゲル達も気になったようであり、近づいてくる


ギルド職員

『イディオットさん2人だけですか?アカツキさん』


アカツキ

『解散しました』


リゲル

『おいおいどうしたよ?』


ギルド職員

『緊急依頼です。調査団の連絡で先ほど知ったのですがランクBのデュラハンが何故か現れたんです!』


懐かしい魔物だ

俺達はエド国のカタコンペルという大霊園にて奴と遭遇し、逃げた

今なら倒せるだろうが、チームがいない

そうとなれば自然と誰が行くのかは決まっているだろう


リゲルは腕を回し、口元に笑みを浮かべてやる気を出し始めるとクワイエットさんは背伸びをしてから屈伸運動をする


リゲル

『うっし!エーデルハイドが行くなら後ろからついていくぜ?』


アネット

『最後の稼ぎ時!こりゃ引き締めて挑むしかないでしょクリスハートちゃん』


ルーミア

『あたしは問題ないさね』


クリスハート

『では参りますか』


どうやら行くみたいだな

彼らなら全然問題ないから俺はティアと共に身を引こうとしたのだが、クワイエットさんが何故か俺の肩を掴んでそれを良しとしない


クワイエット

『冬の夜はアンデット凄い多いんだよ。よろしくね?』


俺達は逃げれなかった

リゲルは『普通の魔物の魔石は全部やる。デュラハンとなるとアンデット種の数も馬鹿にはならんからそいつら倒す係だ』と彼も逃がす気はない姿勢を見せる


ティア

『なら行こっかアカツキ君』


《スキル無しでの訓練でもしとけ》


アカツキ

『なるほどな、じゃあ俺達2人はサポートにまわる』


リゲル

『大物はやらねぇからな?』


わかってるさ

こうして俺とティアはサポートとしてデュラハン討伐に向かうエーデルハイドとクリジェスタの付き添いをすることとなる


次回、年末前のアンデット祭り







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