第253話 グリンピア中央学園 剣舞科説明会
リゲルとクワイエットはロキの案内で新しく新設された剣舞科という学科の説明会に参加するためにグリンピア中央学園へと足を運ぶ
学校を知らぬ彼らには慣れぬ場、しかし面白い場所でもある
すれ違う学生から挨拶をされてもリゲルは『おう』と答えるだけ
クワイエットは『やぁやぁ』と言いながら笑顔を見せるだけ
ロキはいつも通りな2人に苦笑いするしかなかった
時刻は14時、剣舞科専用の教室に向かうと2人は顔に出さずに驚く
そこには40人以上の新一年生が椅子に座って正面で剣舞科に関して説明しているギルド職員の話を真剣に聞いていたからだ
クワイエット
(ふぅん…まぁ何人残るかかな)
みんな最後までいるとは彼は考えていない
生きるか死ぬかの駆け引きが行われる場面が多いのが冒険者だからだ
興味本位で来た者、やりたくて熱心に受けたいと思う者
2択しかないと2人は頭で感じ取る
ギルド職員
『私からの説明は以上ですが。丁度実技の2人が来ましたのでご紹介と実技に関しての説明をしてもらいます。』
ロキに連れられてきたリゲルとクワイエットは正面に移動すると、それまで説明していたギルド職員から耳元で話しかけられた
『楽しい子達です。貴方達にとって』
その意味はまだわからない
しかし、それは今知る事となる
そこには以前、リリディが面倒を見ていたカイルとランダーの姿がいた
ミミリーは魔法科を専攻しているためここにはいないが、後期になると剣舞科と魔法科の共同授業や課外授業もあるため、いずれ一緒になる
『あれがクリジェスタ…』
『グリンピアで一番強い人らしいぞ』
『強いのはティアさんじゃないの?』
『いやどうだろうな。』
そんな声が聞こえる最中、リゲルとクワイエットは互いに顔を見合う
誰が話すのかをまだ決めてなかったのだ
その間、ロキが時間を稼ぐために2人の説明を軽くし始める
『リゲル・ホルンさんとクワイエット・モンタナさんですがここにいる学生ならば大半は知っていると思います。グリンピアで活動する冒険者でありマグナ国でも5パーセント以下しかいないランクAの冒険者チームクリジェスタの2人。2人でAが実は彼らだけであり、それまでは4人が最高です』
途端に静かに湧き上がる学生
そういった声に慣れない2人は少し困惑するが、ロキの話は続いた
『元聖騎士であり、彼らは1番隊の所属していたエリート中のエリート。クワイエットさんは1番隊の副隊長で、リゲルさんは副隊長代理でしたので戦いのプロですので安心して剣舞科の実技は行えると思います。それでは説明をしてもらいますが…』
ロキは見てしまう、リゲルとクワイエットがジャンケンをしているところを
(勘弁してください2人共…)
リゲル
『負けた』
クワイエット
『本当にジャンケン弱いねリゲル』
しかめっ面で教壇の前にいったリゲルは生徒を見回した
まだ過酷な科目とも知らずに来た者、真剣に受ける者、それらを目を見て探る
その中にひと際面倒臭いと思える者も彼は見つけたのだ
(貴族の坊ちゃんか)
我が物顔で椅子に座り、取り巻きを近くに座らせて聞く者
貴族か腕に覚えのあるヤンチャな性格のどちらかだろうと彼は見抜く
それも2組もいたのだ
これが面白い子もいるという意味だと知り、彼は溜息を漏らしてから頭を掻くと口を開いたのだ
『実技の説明の前にだ。わざわざギルドにまで来て講習受けに来た野郎は手を上げろ』
すると11人が手を上げる
リゲルは手を降ろさせ、教壇に両手をつくと再び話し始める
『やることは同じ。基礎だ、先ずは最低限の身体能力を得るために木剣を持ってジョグ程度に走らせて体力づくりに筋力強化の素振り、あとは型作りや走り込み等色々やる。剣士は瞬発力も必要だし体力は命でもある。剣士が疲れたら誰かが死ぬ、魔物はお前らの頭を撫でに来てるんじゃねぇ事はわかってる筈だ。ゴブリンとデートでも期待しているならば死ぬ、いう事聞かねぇ奴も死ぬ。冒険者は欲張れば死ぬ。大事な基礎を怠ったり持つべき知識を面倒くさいという理由ではしょった奴も死ぬ。真剣にならねぇと死ぬ、冒険者は死ぬか生きるかの場面を何度も体験するがそんときにお前らを守るのは培った知識と基礎、そして冷静さだ』
そこにいる学生の全てが真剣な顔となる
話が真剣だからではない、リゲルの目つきが鋭いから学生たちは飲まれてしまったのだ
息を飲む者もいれば少し体を強張らせるものも少なからずリゲルの目に映る
『不安な奴は辞退しても問題ない、変更は今週中は有効らしいからな。一応最初の月はさっき話したやり方の一部をしてもらう、慣れてきたらメニューを増やす…質問はあるか?』
カイル
『課外授業ではどのような実技を予定してますか』
リゲル
『課外授業ではクワイエットがお前らを森まで連れていき、低ランク相手に実践してもらう。俺も勿論いるが…連れていくのは人数を制限する。こっちで森に連れていけると判断した者のみだが内容はゴブリンを相手に動きを見て避けるという動作の実践、そして討伐だがその時期が近づけば詳しく説明していく』
安易に答えていくリゲルだが、そこで面倒臭いと思える学生が手を上げてしまう
リゲル
『なんだ?』
『腕に自信がありますが、鉄鞭を使ってもよろしいですか』
リゲル
『構わん、その代わり俺の決めた内容には従ってもらう…腕に自信があってもそれを十分に活かすために土台を作るから基礎は大事だ。』
『構いません』
リゲル
『学生服来ていても鍛えてるなってのはわかる。お前は喧嘩好きの類か』
『はい』
リゲル
『それは魔物に向けろ。剣舞科になれば戦う事は誰かを守る事ともいえる。はき違えなけりゃ文句は無いが喧嘩でもしたら一応ぶっ飛ばしとく』
質問をした学生は小さく笑う
予想よりも面倒臭い者ではなかったことにリゲルは安心するが
次の学生が鬼門であった
どうみても貴族らしさを見せる清楚な学生であり
周りには取り巻きが多くいるのだ
クワイエットとリゲルは自前に貴族の調査はしている
だから彼が何者かは知っているのだ
ミラゲ・ウル・ウェイザー
隣街の貴族の次男坊である
彼は幼い頃から屋敷で家庭教師を雇い、秀才であった
そして剣の稽古でも貴族騎士の教育もあって剣術に秀でており、優秀そのものだ
しかし問題点がある
貴族騎士が教える前は冒険者が講師をしていたが、気に入らない練習をしたり、注意されたりすると即座に解雇を言い渡すほどの傲慢さも兼ね備えているのだ
『ミラゲ・ウル・ウェイザーです』
リゲル
(オーブ男爵の次男坊か、懐かしいな…)
リゲル
『どうした?』
『私は家で教わっている剣術の稽古をここでもしたいのですが』
リゲル
『駄目だ』
『それは何故でしょう』
リゲル
『ここでは俺とクワイエットが講師だからだ。だからここじゃ俺達の内容に従ってもらう』
『やり慣れたメニューじゃないと気乗りしないんですよ』
ざわつく教室内、ロキは困惑を顔に浮かべるが
クワイエットとリゲルは険しい顔だ
ミラゲという男は自分の思い通りにならないと直ぐにカッとなる性格だということは2人も知っている
それを知っていてもリゲルは自身を貫いたのだ
リゲル
『ならお前にはごっこ遊びしか出来ねぇって事だ』
これにはミラゲの顔も険しくなる
教室の一番後ろには何故か騎士が10人、何故いるのかと言えばこれはミラゲが連れてきた貴族騎士だ
何か癪に障ることがあればミラゲは動かす気でいた、自分のしたい環境で出来なければだ
しかし、騎士達は明らかに気乗りしていなかったのだ
理由は簡単である、リゲルとクワイエットは貴族騎士でも相手にしたくないほど有名だからだ
それはクリジェスタになる前、聖騎士時代から彼らは名の知れた者なのである
リゲル
『学び舎に貴族騎士なんざ邪魔だ。出てかねぇと頭吹っ飛ばすぞこら』
クワイエット
『ほらリゲルすぐそれだ』
クワイエットは少し身を乗り出すリゲルを止める
貴族騎士はリゲルの気迫に驚き、後退るがミラゲは上手く動いてくれない騎士にも苛立ちを覚える
すると今度はクワイエットが口を開いたのだ
『これみんなに言うけどさ。聖騎士でも僕の指示聞かない馬鹿はみんな死んだよ?馬鹿だからしょうがないけどさ…経験積んでる人間のいう事は聞いといたほうが良いよ?自己満足で教えるわけじゃなくて死なないよう立ち回れるように教えるのさ。1年前に金をつぎ込んで8番隊に入った貴族上がりの部下がいたけど。確かに腕はあったけど3回目の遠征で死んだんだよ。大きめのブラッククズリに頭蓋骨噛み砕かれてね』
彼の話に学生は息を飲む
ミラゲでさえ少し驚いた様子だが、クワイエットは関係なしに話し続ける
『稽古してもそれを実践で直ぐに活かせるなんて無理、慣れさせないと駄目なんだよ。だから自分は出来るとか勘違いすると死ぬ。この中に冒険者になる者はいるとは思うけど、そうなら尚更聞かないと良い死に方はしないよ。怖がらせている気は無いんだけどね…僕らは誰よりも人の死に目を見てきてるから言いたかったんだ。食べ残しを土に埋めないで近くに投げた部下が食べ残しの匂いで近づいてきたグランドパンサーの群れに食い散らかされた話でもする?』
全員が必死に首を横に振る
『まぁ嫌だよね。ちゃんとした知識と基礎さえあればそうならないよ…。ミラゲ君も慣れたやり方があるのは手慣れている証拠だと思うけど、その才能を僕らはどう発揮させるかを見なきゃいけないからそこは我慢してほしいなぁ。…あっどっかで見た騎士かと思ったらエリク君だ』
貴族騎士
『ご…ご無沙汰しておりますクワイエット元副隊長…』
クワイエット
『君強いのになんでやめたのさ』
貴族騎士
『親の体が弱くなったもので…近場で働こうかと』
クワイエット
『オーブ男爵にもよろしく言っといてね?』
ミラゲ
(父上の知り合い…)
ミラゲは諦めた
リゲル
『まぁ強くいって悪かった。俺達の授業は聖騎士みたいに地獄じゃねぇ。学生だと考慮しての緩めから始める…そういやミラゲ、お前魔法スキル持ちなのはオーブのおっさんから聞いてるぞ』
ミラゲ
(こ・・・こいつも知り合いか!)
ミラゲ
『は…はい、ショックとサンダーショット、技は連続斬りです』
リゲル
『その歳で上出来だ。お前の活かす場は作るからそれまでは我慢しろ、魔物相手に発散させてやるからよ』
ミラゲ
『わかりました』
こうして説明会は無事に終わる
リゲルとクワイエットはミラゲが気になり、新しく建てられた訓練施設に彼の貴族騎士達を連れてやってきた
クワイエットは元部下であったエリクと談話しているが、リゲルはミラゲと共に訓練場のマトに視線を向ける
リゲル
『お前は努力家だと聞いてるがちゃんとした稽古をしているか見定める、前に走りながらマトにショックを当てろ、あと横に走ってマトが前に来たら撃つのもだ』
ミラゲは返事をすると、先ずは遠くから走ってマトに近づきながらショックを2発撃つ
見事に命中したが、次の横に走った際にはかすりもしない
リゲル
『戦いは足を止める事はない、狙われながらも撃つ状況はある…剣術もそうだが魔法は特に、だ』
ミラゲ
『走り回りながらは流石に…』
リゲル
『魔物は不規則に動くぞ?まぁお前なら練習すりゃ出来そうだが』
ミラゲ
『か…簡単だ!』
リゲル
(単純な野郎だ)
クワイエット
『剣術はエリクが筆頭に教えてるから申し分ないね。魔法の命中制度も上がればランク飛び級できるよ?』
ミラゲ
『飛び級…』
クワイエット
(あ、にやけた)
夕方、ギルド職員のロキが先に帰るが二人はのんびりと学食で唐揚げ定食を夕方に食べに来た
グリンピアでも有名だということもあり、若い学生はキャッキャ言いながら二人に握手を求めたりとしたのでゆっくり食べることができない
だがしかし、無下にできないのも彼らの良いところともいえよう
クワイエット
『鉄鞭君、あれ人間相手に場数踏んでるヤンキーだね!』
リゲル
『リュオウか、シグレみてぇな臭いプンプンだぜありゃ』
クワイエット
『原石だね。てか再来週からかぁ』
リゲル
『武器持っての訓練場外周5周、素振り10回3セット、その後は剣は型作りと太刀筋か』
クワイエット
『模擬戦もそのうち、だね』
リゲル
『そうだな。』
ある意味楽しみにしている2人は唐揚げを食べながら話し込む
まさか自分たちがこのような場で学生を教える事になるとは思いもしなかったからだ
冒険者は油断するか欲張るかで死ぬケースは多い
運が悪い時もあるが、その時は対処によっては無事に生還することができる
それらを踏まえ、そうならないように生きて帰れるような冒険者に出来るよう2人はやる気を徐々に出し始める
すると学食にミミリーがカイルとランダーと共に現れた
直ぐに2人を見つけると、3人は笑顔でリゲルとクワイエットに近づいていく
カイル
『お疲れ様です。貴族相手にも凄いですね』
リゲル
『戦いは平等だ。戦地じゃ階級なんて意味はねぇからな』
クワイエット
『また無理してる?君たち?』
カイル
『あはは…森に行ってませんよ。行きたいなぁと思ってますが』
リゲル
『一応だが剣舞科は安易な冒険者体験学習見てぇなもんだが卒業して冒険者になると正真正銘命を武器にして戦う職業だ。それだけは意識してもらえりゃこっちは相応のこと教えるさ』
ミミリー
『頑張ります。今日は魔法科の説明会もあったんですがシエラさんが体調崩したとかで実技講師の紹介がなかったんですけどシエラさん大丈夫ですか?』
クワイエット
『お家でゆっくり休んでるよ。彼女もかなり経験豊富だから安心して学べばいいさ。何度も死ぬ覚悟してきた盤面に出くわした人だからね』
リゲル
『シエラは魔法使いとして優秀だ。遅れ取らねぇように毎日寝る前でもいいから30分は瞑想訓練すれば魔力量が上がる、イディオットのリリディが良い例だ。あいつの魔力量は桁外れだ』
カイル
『リリディ先生はこないんですね』
リゲル
(先生…)
クワイエット
(先生…)
3人は残念そうにしていると、リゲルが何故彼が採用されなかったかと再度口にする
リゲル
『あいつは本能型だ。言葉で言い表せれない戦いばかりするから仕方ねぇしそもそもあいつの技は危ねぇぞ。たまに自分で吹き飛んでダメージ受けるくらいだしよ』
ランダー
『凄い人なんですよね。黒賢者かぁ』
カイル
『学校でも色々噂になってるんです。ティアさんがカブリエールになって色々凄いことになってからどっちが強いんだろうって』
近くの席に座る3人
クワイエットは気にせずにグラスに入った水を飲む
ここの学園だけじゃなく、徐々にグリンピアという街から別の街にとある疑問が浮かんできたのだ
今まではマスターウィザードが魔法使いとして最高の称号として言われ続けてきた
しかしそれは間違いだという冒険者が増えてきているのだ
ティアの持つカブリエールにリリディが今まさに会得したギール・クルーガー
リリディが完成されたことはリゲルとクワイエットは知っているが、それを公には話していない
内密にということで言われているからだ
エーデルハイド、クリジェスタ、イディオット、そしてクローディアだけが知る事実
まだギール・クルーガーまで達していないという話が国内を歩いているが
それでも人は興味を持つ生き物だ
聖賢者と黒賢者、どちらが強いのか?と
本当の魔法使いとしての最強の名を持つ2つの称号
人は無意識に感じていた、最強は2つではなく1つしかないと
だから知りたいのだ
クワイエット
『どっちだろうね。でも言える事はティアちゃんはマグナ国の現五傑でも手が出せないよ?あれはお飾りだしロイヤルフラッシュ聖騎士長さんくらいが奮戦できると思う』
カイル
『五傑がお飾り、ですか』
クワイエット
『ロイヤルフラッシュさんも言ってるけど、昔の五傑は化け物しかいなかったから何故自分が入れられたのか意味が分からないし地獄だったってさ。そんな化け物連れてこないとティアちゃんには勝てないんじゃない』
ミミリー
『ティアさんにも会いたいなぁ』
リゲル
『会いたきゃ会いに行けばいいだろ?普通に気の優しい女だぞ』
ミミリー
『怒られないですかね』
クワイエット
『彼女は予想よりできた女性だよ。色々話を聞くだけでもミミリーちゃんの今後の為にもなると思う。本当に補助として魔法使いさせると優秀よ?状態異常で仲間に隙作るし魔法の命中精度もシエラちゃんに引けを取らないから』
ランダー
『お供してみたい…』
リゲル
『頼みこんで見たらどうだ?イディオットなら十分お前らのお守は出来ると思うがな』
クワイエット
『あらリゲル珍しく評価してる』
リゲル
『本人たちに言うなよ?馬鹿なりにあいつらも持ってる能力活かして戦ってるからAになったんだからよ、無能が慣れる領域じゃねぇ…あいつらだって生きるのを諦めても可笑しくない戦いをしてきたんだ。お前も見ただろクワイエット…普通は龍相手に突っ込める奴なんざいねぇのにあいつらは達向かった、考えて行動したわけじゃねぇのはわかる、戦って勝って生きるしか道はないって本能的に悟ったからだ』
この時、カイルたちの心を決まってしまう
その矛先がイディオットに向けられたのだ
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