第124話 神の寝言
回復魔法師会のテスラ会長と回復魔法師長モーラさん
そしてメンバーのアンジェラさんと美味し過ぎる王牛ステーキをおかわり連続で満足に食べ終わると、俺達は椅子に深くもたれ掛かったまま、呼吸で余韻に浸る
こんな美味い食べ物があるとは思いもしなかったよ
アンジェラさんも俺達と同じく幸せな時間の余韻に浸っていた
『エクシアかぁ、いいなぁ』
『流石のその称号を見せられるとうちのメンバーも張り合う気を起こさないと思いますがねテスラ会長』
アンジェラさんとモーラさんが楽し気に話をしている
テスラ会長は『千年に1人の逸材ですよ?どうにかして来てくれる方法を考えなければいけません』と3人で何やら話し始めた
相当、ティアを引き入れたいらしいけども強引に入れようとはしない人たちだから心配はしていない
そこでティアが少し考えたのち、答えた
『グリンピアから近かったら良いんだけどなぁ』
それがある意味、引き金となる
回復魔法師会の3人は驚いた顔を浮かべると、テスラ会長が話したのだ
『第2支部をウェイザーに設立する予定でした』
《おいおいなんだその偶然、隣街じゃねぇかよ》
テラ・トーヴァでさえ驚く
まぁ今はティアも回復魔法師会のメンバーであり、立派なマリンブルーのピカピカしたカードを持っている
俺は警備会のカード、父さんに返したからただの冒険者だ
『もし家族を持つような時期になれば、ぜひ来ていただきたいものですね』
『そういうタイミングなら大丈夫かな。忙しいんですか?』
『会長はそうですね。協会のトップですから』
『ん~考えときます!』
テスラ会長がティアの返事の微笑むと『ウェイザーの疫病で臨時に使用した施設は回復魔法師会臨時支部で当分いますので何かありましたらそこに来てくださいね』だとさ
こうして俺達は回復魔法師会の会食が終わり、仲間と共に住宅街に歩く
ギルハルドは満腹で動けないのか、リリディの頭にバランスよく乗っている
『そういえば北の森、調査員の話だと解除されるのは明後日予定らしいですね』
『明日までの辛抱か』
リリディとリュウグウが口を開いた
そうとなれば明後日から動き出さないとな
と、言うか明日は別の森に行って稼がないと駄目だ
いやでも待て…今冒険者資金いくら溜まってるんだろうか
ティアに聞いてみると、ニコニコしながらとんでもない額を口にした
それに対してリュウグウは挙動不審になり、辺りをキョロキョロし始めるのがこれまた面白い
『リュウグウさん?トイレでも探してるんですか』
『馬鹿を言うなメガネ。大金だぞ?』
『反応が過剰ですよ』
確かにな
みんながリュウグウの反応に笑っていると、何やら進行方向から冒険者が顔を真っ青にして走ってきた
彼は俺達を見つけると、素早くティアの後ろに隠れたのだ
『えっ!?ちょっ…』
『頼むぅティアちゃん!助けてくれぇ!』
凄い怯えているようだが何が起きたのだろうか
足をガクガク震わせながら彼女に触らないように体を屈めて小さくなる様子は異常すぎる
ギルド内で良く見合わせる顔だ
何かに追われているのだろうか
まるで猛獣に追いかけられているかのような様子に俺は奥から猛獣が来るのが見えた
ティアマトとリリディが体を強張らせ、綺麗に直立立ちをしたまま動かなくなるのが面白い
『おや?アカツキ君達じゃないか…後ろに隠れている冒険者をこちらに差し出してくれないかな?』
シグレさんだ
警備兵の格好をしているから勤務中なのだろうな
両手には短めの鉄鞭を持ち、ティアの後ろに隠れている男を覗こうと顔を動かす
『お兄ちゃん何したの?』
『仕事さ、しつこく女性にナンパしていて困っていた所をヒーローは登場さ』
『意味わかんないけどナンパくらいで怖がらせすぎ。注意だけでいいじゃん』
『いや…注意だけしようと近づいたら俺を見て凄い形相で逃げていったから追いかけたんだ』
『追いかけなきゃいいじゃん…』
『ははは、そうだね』
シグレさんは一息つくと、首を回してから『異常なし』と囁き、去っていく
どうやらティアの後ろに隠れている冒険者はシグレさんが怖いからって逃げたんだ
自然とそれを追いかけたシグレさん、ということか
『た…助かった…』
冒険者は地面に座り込み、溜息を漏らす
汗が凄いな、冬だけども暑そうに見える
『そんなにお兄ちゃん怖い?』
『あれは猛獣だよ、ティアちゃんもあれがキレた時を見ただろ?』
『見たけど…いつも通りかな』
『ああ、そうか…』
何かを諦めた冒険者は苦笑いを浮かべ『助かったよ』と言うと静かに立ち上がり、ヘロヘロになりながらギルド方面に歩いていく
『シグレさんって恐れられ過ぎじゃないか?』
リュウグウが告げるとティアマトはそれを否定する
『お前、ティア泣かせてシグレが追いかけてきたらどうする?』
『死を覚悟する』
《答えが出てるじゃねぇかよ》
リリディが笑うと、リュウグウは彼の脇腹を肘で突く
ゴフッ!といい声を出して屈むリリディだが、頭の上のギルハルドは片足でバランスをとっているのが気になる
皆と別れ、俺はティアと共に歩いている
彼女の家まで直ぐだけども、この時間がなんとなく好きかもしれない
『美味しかったね』
『そ…そうだな』
俺は少し声がぎこちない
別の事を考えているからだ
彼女は俺の事をどう思っているのだろうと考えるときはある
色々あったが、どうだろうな
チキンチキンと言われているが俺は鳥じゃない
決死の覚悟を決め、静かの彼女の手を握る
『あ…』
ティアはこちらを見て目を見開いた
駄目かと冷や汗を流していると、彼女はニコっと笑い、手を握ったままそのまま歩いてくれた
よし!よし!いける!
たかが手を握るだけでここまで心臓がバクバクするとは思いもしなかった
手汗酷くないかなとか考えてしまうよ
しかしだ…
彼女の家の近くでそれをしたのが不味かった
あと100メートルという距離での出来事、後ろから凄い気持ち悪い声が聞こえてきたんだ
『ぬっふふふふ』
『『!?』』
2人で振り返ると、そこにはティアの父親であるルーファズ・ヴァレンタインさんがこっそりついてきていたんだ
慌てて俺達は手を離し、ティアは『ストーカー!』とルーファスさんを怒っていた
彼は笑いながらティアの反応には目もくれず、俺の周りを不気味な笑みで歩き回る
何を言われるのか、ちょっと怖い
ティアのお父さんは俺の背後で立ち止まると、耳元で囁くようにして口を開く
『どこまで頑張った?』
『…その、あの』
『ゲイルさんから聞いているよ』
彼はニコニコしながら離れると、『先に家に戻ってなさい、クローディアさんの様子を見てくる』と言って歩いていってしまう
あまり変な事言われなくて良かったなと安心していると、テラ・トーヴァが喋りだした
《タイミング悪かったな2人共、好感度上昇イベントが台無しになったか》
アカツキ
『なんだよそれ』
《お前だってティアお嬢ちゃんとイチャイチャしたいだろ》
その声は彼女にも聞こえているのかと思いながら顔を向ける
うん…顔赤いから聞こえている筈だ。
ティア
『それは男の人で…その』
アカツキ
『す…すまん』
ティア
『テラちゃんのせいだけどもね』
《まぁいいだろ?》
駄目、とティアに言われていた
俺は彼女を家まで連れていくとドアを開ける前に俺に振り返る
こういう日が続けばいいなと思いながらも俺は少し成長しようと覚悟を決めた
『みんなどんどん強くなってどんどん面白くなってきてるね。狙われているんだけど』
『確かにな、でも生きる為に頑張らないと』
『私たちいるから心配しないで、それに他の人もアカツキ君にきっと協力する』
『良い方向に動いていると思うよ。ありがとう』
俺は彼女の両肩をがっしり掴んだ
足が震える…耐えてくれ足よ
彼女はキョトンとすると、一気に顔を真っ赤にしているのが良く見える
テラ・トーヴァが空気を呼んでいるのか、喋らない
そのまま黙っててくれ頼む
今俺は人生最大の選択を強いられている、どう攻めるか鬼門だ
そのまま突っ込むか、一先ず両手を腰に回すか
順番が違えど、最終地点は彼女の口
ティアも恥じらいながらも目を閉じる
それはある意味、俺に対してのエールに近い
守りを諦め、解放された彼女に自由な選択肢を与えられたに等しい
息を飲みこむ、俺は今しかないと覚悟を決めて彼女の口の近づいていった瞬間
ティアの家のドアが開いた
『…』
ローズ・ヴァレンタイン
それはティアのお母さんであった
『『…』』
言葉にできない
挨拶すればいいのか?これから起きることに関しての許可を貰えばいいのか?
頭が一気にパンクしそうになる
『あ…私ったら、ドジね!いいのよアカツキ君、私は退くからゲッチュしなさい』
パタン、とドアを閉めて中に入るティアのお母さん
しかし、これ以上は無理だと断念した
途端にティアが笑いだすと、俺まで笑いたくなって笑ってしまった
《今日は大人しく帰ろうぜ兄弟、じゃあなティアお嬢ちゃん》
『アカツキ君もテラちゃんもまたね』
帰り道、俺は泣きそうになりながらも家まで戻った
リビングには父さんしかおらず、母さんとシャルトットは寝たとの事
俺の様子が気になるのか、『ティアちゃんにフラれたか?』とか微妙なとこついてくる
《ほにゃらら》
『なるほど、くふふふ』
『テラ、説明するな』
《親は息子の努力を聞きたいもんだぜぇ?兄弟》
『さっきのは努力も糞もあるか…』
《確かにな》
そうして俺は部屋に向かい、寝間着に着替えてからベットで勝手に寝ているシャルロットを壁際に押しのけてベットに入る
起きない妹は寝相が悪く、動かした腕が俺の顔面を叩く
とことん今日はついてない
溜め息が漏れるよ
《ヴィンメイにはお前の巣がバレたな》
『巣って…、また来るか』
《そこまで馬鹿じゃないさ。だがあっちはお前が強くなる前に仕留めたい筈だ、気をつけな兄弟》
『あぁ』
俺はそろそろ寝ようとすると
可笑しな事に頭に誰かの声が響き渡る
『今の世は犠牲だ、次なる時代のために恨み悲しみ叫びをここに集める。情けを貰う気はない、そのためにやってるわけじゃない、理解されようとも思ってもいない。わかってほしくもない、私が悪でなければやった意味はないのだ。』
『!?』
俺は飛び起きた
部屋を見渡しても誰もいない
テラの声でもない、しかしどことなく誰かに似た声なのはわかる
『テラ…』
反応はない、寝たみたいだな
さっきの声はなんなんだ?
疲れているのだろうと思い、再びベッドに横になって寝ようとすると、また聞こえてきた
『力に限界はない!ひ弱な人間どもめ!戦士として恵まれず生まれたその肉体を恨むがいい!』
『!?』
獣王ヴィンメイの声だ
これはテラの仕業か?だが呼んでも起きない
何が起きてる
『この力さえあればなんでも出来る、英雄っていいな…美人を抱けるし好きな物も食える、もっと食わせろ』
ムゲンの声だ
何故聞こえるのかわからん
俺は気になってしまい、寝付けない
また聞こえるかもしれないと思い、その時を待つ
だが眠気の波が来た俺はそのまま眠りに落ちた
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